Coolier - 新生・東方創想話

猫と鼠

2016/03/04 22:50:10
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その日、私は森を歩いていた。
大きな真円の月に照らされた明るい夜道。身を切るような冷たい空気が頬を撫でていった。
は、と小さく口を開け、体内に張り詰めていた空気を吐き出した。
ご主人からの情報収集の依頼。敵対勢力の現状戦力の偵察。
私のような比較的弱者に類するものには、強者と対峙することすらも負荷となるのであった。
「全く、どうして彼奴等はこうも高圧的なんだ。」
そう一人ごちて、ふと足に当たった小石を蹴り飛ばした。
小石は緩やかな放物線を描いて森の暗い部分へと消えていったが、それと同時に妙な音を聞いた。
ぬちゃという粘性のある音。耳を澄ますと小さな吐息も聞こえる。
今にも止まってしまいそうな、微かに細く不安定な音を、その時確かに大きな二つの耳が捉えたのだ。
その瞬間私はぴたと立ち止まり、辺りの気配を探った。
強い気配はない。攻撃的なものもない。ただ有るのは消えそうな命の気配であった。
どうせ野良の動物か何かだろうと予想立て、がさりがさりと草を踏み踏み気配の元を辿ってみると。

「…嘘だろ?」

血に濡れたボロ雑巾のような塊が人の形に横たわっていた。今にも消えそうな蝋燭の炎を、必死に消えぬよう守りながら。

「おい、大丈夫か!おい…!」

爽やかさを感じさせる短めの、元は明るい茶色であったであろう髪は、黒い猫の耳との境目が分からぬ程に濁り、
そこから滴る黒い筋が白い肌にハッキリと浮かび上がっていた。
私は戦慄した。それはボロ雑巾であっただけではなく、彼女に刻まれた傷があまりにも異質であったためだろう。
その傷は深く、汚く、まるで引き裂かれたようであり、とても刃物で付けられたとは思えないものであったのだ。
その瞬間、私の体は考える前に動いていた。血塗れの彼女の体を壊れぬように抱きかかえ、全力で隠れ家に向かった。
任務中滞在していた、小屋のような小さな隠れ家に。



隠れ家につくと、私は布団が血に濡れるのも厭わず彼女を横にした。
そして部屋の隅に転がっていた木製の小箱を引っ張りだし、中身を乱雑に取り出し始めた。
幸い私には僅かばかりの知識があった。加えて針や糸、包帯に消毒液と、一通り揃っていたのだ。
まるで最前線の野戦病院のような治療ではあるが、命を繋ぎ止めることは出来る。
私は「ちゃんとした」治療を部下を通じて竹林の医者に要請すると、上着を脱いで「手術」を開始した。
その最中に、幾つか奇妙な事柄を発見した。
傷の形状から引き裂かれたものらしい事は分かったのだが、それにしては木の棘や鉄のサビなどが全くと言っていい程見つからなかったのだ。
余程切れ味の悪い、例えばなまくらの刀か何かで切れつけられたか。将又術式か何かにやられたか。
そう一度は結論づけたが、術式にしては全くそのような気配を感じないのであった。
一度博麗の巫女と対峙したものなら分かる。傷つけられた箇所から嫌というほど感じる神聖な気配。それが、無い。
ならば聖職者で無い者が刀でということになる。
一体誰の仕業なのかと考えを巡らせつつ、私は滴り落ちようとする汗を拭いながら大きく口を開けている傷口をすべて縫合した。
そしてその瞬間を狙っていたかのように、竹林の医者、永琳が登場した。
私は残りの手当を彼女に任せ、体中に付着した黒いものを洗い流すためその場を離れた。




手当は一時間程で終わった。私の最前線的治療がある程度役に立ったらしい。
彼女は私に数本の痛み止めの瓶を渡すと、その場を後にした。回復するまで私に面倒を見ろと言うことらしい。
まぁ仕方ないと一つ納得し、今回の件を報告書にまとめ部下に伝達を命じると布団の横に腰を下ろした。
改めて見ると酷い有様であった。
明るい茶色を取り戻した髪からひょこりと飛び出た猫耳の片方に千切られたような跡が見え、その断面はまだ生々しさを残していた。
少女特有の華奢な体は包帯と鼻につく匂いを纏い、時折爪を失った指先がぴくりと動いているのであった。
見た目は典型的で何処にでも居そうな猫又だが、微かに感じられる気配から彼女に何か憑いているのであろう事が分かった。
そんな特徴からこのボロボロの猫又少女は八雲の式の式、凶兆の黒猫、橙で有ることに間違いなかった。

「…何故こんな目に。」

術師に討伐対象にされた、にしては手口が荒い。少なくともちゃんとした術師なら封印を最優先とし、動きを封じる以上の攻撃を加える事は無い筈。
だが彼女に刻まれた傷は、明らかに深すぎ、息の根を止めようとする下手人の思いが強く伝わってくるようでもあった。
そんな惨状から目を逸らすと、ふと辺りが闇に包まれつつ有ることに気づいた。月は既に低木の影に身を隠す程に傾いていた。
私はその瞬間、体が鉛のように重くなっている事に気がついた。今まで蓄積された心労と疲労が現実に質量を持って私を押しつぶそうとしているように思われた。

「もう寝てしまおうか。」

誰に届くでもない宙吊りの声を虚空に吐き、深くゆっくりと息を続ける彼女の隣に横になり、目を閉じた。
畳がちくちくと頭を刺したが、それすらも呑み込む闇に私は意識を溶かしていった。


だが、その微睡みは長くは続かなかった。耳を劈く様な怪音波が私を叩き起こしたのだ。
その音は隣で寝ている彼女の口から発せられていた。
跳ね起きて彼女の顔を覗き込むと、未開かれた目と額に浮いた血管と汗のせいで鬼神のような凄まじさを放っていた。
私は永琳に渡された小瓶を卓の上から引ったくると、痛い痛いと壊れた機械のように叫び続ける彼女の口を塞いだ。
がぼがぼと声にならない音を上げる彼女が薬で溺れないか少々心配であったが、すぐにその音は止んだ。
彼女の口を解放して袖で汗を拭ってやると、頬に手を当てて揺らめく瞳を覗き込んだ。
揺れる黒い玉は私を捉えると、少しばかり小さくなったようだった。

「橙、で良いんだよな。大丈夫か。」

そう問いかけると彼女は多少落ち着きを取り戻し、死ぬかと思ったと呟いた。
麻酔が切れたせいで襲ってきた痛みに叩き起こされたと見える彼女は、起き上がろうとして、また布団に沈んだ。

「無理をするな。千切れた腹では起き上がれまい。」
「…そう、なの。」
「大人しくしてたのに。酷い奴ら。」

彼女は包帯の上から腹を擦り擦り、苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた。
何にやられた、と私が問いかけると、露骨に嫌な顔になって「似非術師」と答えた。

「似非とはどういうことだ。」
「あんなの本物の訳が無いわ。封印する気が微塵もないもの。札で動きを封じたら寄ってたかって殴る蹴るで。後何度か斬られたわ。殺すことしか考えてないみたいにね。」
「…酷いな。」

そういえば博麗って文字が見えたわね、と彼女は付け加えた。
どうやら博麗の巫女から卸してきた護符を使って妖怪を殺し回っている奴が居るらしい事がわかったが、

「目的がわからんな。」

本当にさっぱりであった。

「慧音なら何か知ってるかもね。」

考えを巡らす姿勢に入ろうとした時、何時の間にか仰向けに戻っていた彼女がそう呟いた。






「食事だ。食えるか?」
「えぇ、ありがとう。」

翌日、目を覚ました彼女の為に軽い朝食を作った。食料の蓄えがあってよかったと思う反面、買い出しが必須である現実も突き付けられ胃が痛くなった。

「…あちち。」
「猫舌には熱かったか?」
「少し、ね。大丈夫よ。」

熱さと格闘しながら食事を続ける彼女を見ていると、少しばかりの怒りが湧き上がってきた。
妖怪とはいえ罪無き者をこんな目に合わせるなど、許されるわけがない。幾ら冷血な博麗の巫女も見逃さないであろう。いや、良くも悪くも公平な彼女が見逃す訳がない。
この件、深入りするには少々危険な気もしないでは無いが、調査程度なら許されるだろうか。

「ここに居る内は私が守る。安心してくれ。」
「頼もしいわね。鼠の癖に。」
「飼猫よりは逞しいつもりだがね。」
「ふふ…そうね。」

貴方は信頼できそうだわ、と彼女は笑った。

「貴女、名前は?」

そう言われ、彼女に名前を名乗っていなかったことを思い出した私は少し戯けて。

「私は通りすがりの飼鼠、ナズーリンさ。」





「貴方、いい顔してるわね。」
「…は?」

唐突にその言葉を受け取った私の頭は瞬く間に思考を停止した。

「美味そうってことか?」
「可愛いってことよ。こんな可愛い王子様に助けられて、私は幸せね。」

込み上げてくる恥ずかしさを押し込めようとしていた私は、頬を染めてそんな風に呟く彼女の視線に囚われてしまった。

「あ、ありがと、う?」
「ふふ、照れた顔も可愛いわね。」

この女、苦手やもしれぬ、そう思いつつ私は身支度を整え始めた。

「何処へ行くの?」
「人里へ。少々買い出しをだな。」

慧音に話を聞くついでなのだが、伏せて伝えた。
準備を終えさて出発、という時に不意に袖を引かれる気配がした。
振り返ってみると、早く帰ってきてと言いたげな彼女が上目遣いでこちらを見ていた。

「なぁに、直ぐに帰るさ。」
「…気をつけてね。」

私は玄関へと歩き出しながら、あぁ、と返した。



視線が多く飛び交う所である人里へ向かう足取りは重かった。一歩一歩進むごとに、私の足を見えない何者かが地面へ引きこもうとしている様に感じられた。
だがこれは情報を集めるためであると自分に言い聞かせ粘着く足を進めていると、気づかぬうちに里の真ん中に居た。
里人たちが好奇の目で私を見つめている。その視線に串刺しにされた私は顔を伏せ慧音の元へと急いだ。
小柄な妖怪がやたらと大股で歩く様はさぞ滑稽だったろう。しかし其れすら気にする余裕が無かった私は寺子屋の扉を乱暴に開け、体を差し込むや否や後ろ手に閉めた。
私が長い息を吐き脱力していると、奥の方から低い女の声が響いてきた。誰だという問いかけに客だと一言だけ答えると、少しして奥から青い姿が現れた。

「お前が来るなんて。珍しいことも有るものだ。」

少しばかり驚いたような童顔の青い瞳に私の姿が写り込んでいた。

「突然訪ねて済まないな慧音。少しばかり聞きたいことがあってな。」

私は彼女に案内されるまま、奥にある仕事場と思しき部屋へと通された。散らかっていて済まないなという彼女に、単刀直入に問う。

「お前、橙の事知ってるか。」

お茶を淹れようとしていたらしい彼女は、その急な問いに驚いたような顔でこちらを向いた。

「突然どうした。まぁ知っているが。」
「昨晩、殺られかけた。」
「何!」

姿勢を崩そうと胡座になりかけていた私の肩をがしりと掴みながら、素晴らしい迫力で彼女は叫んだ。

「落ち着け。今は私の隠れ家で安静にしている。命に別条はないはずだ。」

そう言うと、安堵の表情を浮かべ対面の座布団に膝を収めた。
私は改めて胡座をかき、彼女に一連の出来事を説明した。するとどういう訳か、何か考え込んでいるような暗い表情で下を向いてしまった。
何事かと聞き正すと、心当たりがあると彼女は零した。

「この里には一つ、術師の集まりが有る。」
「…詳しく聞かせてくれ。」

彼女が言うには、里を守るという名目で博麗と繋がり強力な護符を得ている集団があるという。
里の人間からの信頼は厚いらしいのだが、どうも妖怪側からは悪い噂が聞こえてくるらしかった。

「…よく里に降りてくるミスティアという夜雀が居るんだがな、そいつがやられかけたことがあるんだと。」
「何。」
「彼女は、暗黙の了解と言えば良いのだろうか、里の人間を襲わないという締結を結んでいてな。」

夜中、一人で出歩き道を踏み外した者や流れ者を獲物にしているということで、八雲が定めた規定には触れていないにも関わらず襲われたのだという。
更に、拘束された後強姦されかけたということだった。

「下衆が。」
「…不意をついて逃げ出せたらしく、その後は襲ってこないらしいんだがな。」

ならば何故捕らえぬのだと問うと、ただ一人の妖怪の意見だけでは動けぬ立場にあるのだと彼女は答えた。
里の守護者という立場上、神獣の血が流れる半人半獣であろうが妖怪の肩を持つわけにはいかないのだろう。

「なら、協力という形ならどうだ。」
「…というと。」
「情報が欲しい。私はその情報を元に行動する。お前としても、里に危険因子が有るのは見逃せまい。どうだろうか。」

そういうと彼女は少しばかり渋い顔をしながら、ただ一言短く分かったと答えた。

「恩に着る。」

そう言って立ち上がると、ただし、と彼女が念を押してきた。

「なるべく手を出すな。騒ぎにされると色々と面倒なんでな。」
「わかっている。手を出せるほど私は強くないさ。」

博麗の息が掛かった連中なら、いくら只の人間とはいえ苦戦するだろう。私はそう呟きながら彼女の横をすり抜け外へと出た。
再び肌に感じる好奇の視線を掻い潜りながら食料と衣類を購入し、隠れ家へと飛び立った。二人分の物資が、両の手にずしりと重みを感じさせる。
だが心は少しばかり軽くなっていた。慧音の力添えはさぞ強力であろう。その期待感からか、気づけば私の体は風を切るほどに速度をあげていた。




「おかえりなさい。」
「…ただいま。」

久しく交わすことの無かった他愛のないやり取りにこそばゆさを感じながら、私は彼女の無事を確認し一人安堵した。

「それ下着?」

私が置いた袋の中をのぞき見ながら彼女はそう聞いた。お前の為に買ってきたと答えると、案外と可愛らしい趣味をしてるのねと負けず可愛らしい赤面で呟いた。




「…お前の主人の名は?」
「…藍様。八雲藍、よ。」

八雲藍。この幻想郷の創生主で賢者の名を冠する大妖である八雲紫の直属の式。
改めて考えると奇妙な関係である。式の式が居るという話は今まで聞いたこともない。白面金毛九尾の狐である藍の力量が成せる技か。

「この件を文面で報告する。心配されると困るんでな。」
「報告したって心配されるわよ。親馬鹿なんだから。」

主との事を思い起こしながら困り顔でそう答える辺り、よほど甘いか、それとも心配性なのか。

「いいことじゃないか。大事にされてる証拠だろう。」
「私これでも長生きなのよ?」

頬を膨らませながらそう答える彼女は、やはり子供のようであった。
そんな様子を横目に見ながら軽く報告をまとめ、八雲亭への伝達を部下に命じ走らせた。

「信頼されてるのね。」
「子供のようなものさ。」
「…へぇ。」

誤解を産んだのか妙な目で見られた気がしたが、気にしないことにした。





「「ごちそうさまでした。」」

二人で取る食事というものは人を安心させるという。彼女はすっかり私とこの環境に馴染んだようであった。
私も彼女が居る状況に馴染んだようで、よそよそしさは何処へやら、そこには古くからの友人同士のような空気が流れていた。

「何から何まで本当にありがとう。いい人ね、貴女。」
「…ありがとう。」

あぁなんて心地よい、温かい。こんな関係を結べる相手を私は無意識に求めていたのであろうか。
こんな状況でもこんな想像をしてしまう私の心に気づき、一人赤面した。

「…っ。」

ふと呻き声が聞こえた。顔を上げると、彼女が腹を抑えながら顔をしかめていた。
痛むのかと問いかけると彼女はこちらを向いて、ちょっとだけと答えた。
薬を飲ませたのは朝方、流石に夜になり効果が切れたのだろうと思い私は戸棚から痛み止めの小瓶を取り出して彼女に飲ませた。

「…にぎゃい。」

涙目でそう答える辺り、本当に苦いのであろう。少し心苦しいが、我慢してもらうしか無い。
そう思いながらふと目線を下に下げると、肌蹴た寝間着から覗く包帯に血が滲んでいた。

「包帯、変えようか。」
「そうね、助かるわ。」

今日買い足した包帯と脱脂綿を開封し消毒の準備を済ませタオルを用意すると、服を脱がせ包帯を解き始めた。
腕、胴、太腿、足先。上から順番に、なるべく肌に触れすぎぬように慎重に。彼女と触れ合う度に感じる温もりが私の心を乱すが、なんとか平静を保ち包帯を解ききる。
さて消毒だ、と体から離れた途端、私の視線は彼女の体に釘付けになってしまった。
少女の白い肌を縦横無尽に走る傷跡。それらはまだ赤みを残しており見るからに痛々しい。
だが月の光に照らされた傷跡は彫刻に刻まれた紋様を思い起こさせ、まだ未発達ながらも女としての魅力を十二分に放つその四肢を、美しく飾り立てているのであった。
その視線に気づいたのか、彼女は頬を赤らめ目を逸らし体をくねらせる。その様がまた目を奪われるほどに妖艶なのであった。
暫くの後、私は彼女の制止の声に引き戻され我に返ると、大慌てで体を拭きにかかった。

「痛くないか。」
「えぇ。むしろこそばゆいわ。」

濡らしたタオルでゆっくりと拭いていく。壊れ物を扱うように細心の注意を払いながら。
タオルが肌の上を滑る度に、彼女は少しばかり身を捩る。その度に彼女の肌は眩さと痛々しさを増しているようにも思えた。

「…全く酷い傷だ。」
「情けないわ本当。油断なんかしなかったら返り討ちにしてやったのに。」

一通り体を拭き終わると、消毒液に浸した脱脂綿をピンセットで摘み上げ消毒を始めた。
ぴとりと脱脂綿が傷に触れた途端、彼女が小さく声を上げた。
痛かったか問いかけに、彼女は頷いた。我慢してくれと語りかけながら手当を続けると、次第に慣れてきたようで置物のように動かなくなった。
私はその手当の最中に彼女の背中の大きな傷が既に塞ぎ始めている事に気づき、強い生命力を感じて一人何とも言えぬ感覚を覚えていた。

「終わったぞ。」

包帯をきつすぎぬよう巻き直してやると、新しい寝間着と新調した下着を渡し着替えるよう勧めた。
すると彼女は暫く固まった後、心なし申し訳無さそうな顔でこちらを向いた。

「…まだ、上手く動けないの。」

私はその意味を直に理解すると共に、落ち着けたはずの荒波がまた勢いを増しているのを感じていた。
それに揉まれながらも何とか感情を押し殺し、あぁ、と一言返事をすると彼女の白い下着に手をかけた。
目線を下に落とし、気づかぬ内に荒くなっていた呼吸を悟られまいと空の頭で下着を彼女の足から抜き取る。

「大丈夫?」

彼女は赤い顔に不思議そうな目をしてこちらを見ていた。それ程までに私は動揺していたのだろうか。

「私は、気にしないわよ。貴女そういう人じゃないって思うもの。」
「…窮鼠猫を噛むって言葉知ってるか。」
「私、食べられちゃうのかしら?」

目を細め口角を上げてそう囁く彼女に当てられそうになりながらも、やんわりと否定した。

「一方的なのは好きじゃないんでね。」
「あら、優しいのね。」

私は食べられても良かったのに、という声が聞こえた気もするが、私の理性がそれを横へ受け流した。
手早く新しい下着と寝間着を着せ、彼女の体を布団に横たえてそっと掛け布団をかけてやった。

「良い夜ね。」

彼女が布団の上で外を眺めながらそういった。それはまるで死に際の重病人の台詞のようであったが、柔らかな笑顔の浮かぶ顔には若々しさが輝いていた。
さて私も寝てしまおうと思い隣に布団を敷こうとすると、彼女が不安そうな顔をこちらに向けて引き止めてきた。

「一緒に寝てくれないの?」
「…私は食べられてしまうのか?」
「いいえ…ただ怖いのよ。」

そう呟く彼女の目はゆらゆらと揺れていた。あれ程の事をされたのだ、仕方がないだろう。
私は敷きかけた布団を戻し、覚悟を決めて彼女の横に滑り込んだ。

途端、彼女に抱きしめられた。やわらかな温もりが私を包む。

「…橙?」
「暫くこうしていて、良いかしら。」

私があぁとだけ返すと、ほんの少しだけ背中に感じる力が強くなった。
私は彼女の腕に体重をかけぬよう体を浮かせながら、ぐるりと彼女の方に向き直った。

「大丈夫か。」
「えぇ。こうしている間は。」

何時の間にか絞り出すような声になっていた彼女をそっと抱き返すと、胸元に暖かくふわふわとしたものが入り込んできた。
私はそれに軽く腕を回して包み込む。なるべく彼女を安心させるように。その様は子を抱き締める母のようであったかもしれない。

「優しいわね。本当に。」

もぞもぞと、胸元で蠢く気配がする。

「…本当、残酷なぐらい、やさし、いわ、ね。」

耳に流れ込んでいた音に少しばかりの嗚咽が混ざり始め、その直後静寂を啜り泣きが支配した。

「…私は夜に起きだしたりするタチじゃない。朝まで安心して眠ると良い。」

残酷、という言葉に少々引っ掛かりを覚えたが、私は彼女を落ち着かせることに専念した。
私の腕の中で啜り泣く、小さな体を余りにも大きな恐怖に支配された、彼女。





私が目を覚ました時、そこには神妙な顔で目を閉じている彼女が居た。
唇に当たる湿り気を帯びたやわらかな気配。その瞬間全てを理解した。
口を塞がれている故に必然的に荒くなる鼻息を上唇に受け止めながら、瞬時に冷静になった思考で彼女を見つめる。
彼女が私に口付けている。上気した赤い輪郭に月光を広げながら。
その淡い光の中に、人によっては純粋な好意と勘違いしてしまうような柔らかな表情を浮かべ、ただ静かに、ただひたすらに私に口付けていた。
暫しの間、私はその顔を穴が空く程に見つめていたが、程無くして我に返ったらしい明るい光と目があった。
直後短くソプラノの悲鳴を上げ飛びのいた彼女であったが、その途端下腹を押さえてうずくまってしまった。

「大丈夫か!」
「…少し、無理しちゃっただけ、大丈夫。」

私は彼女の体を支えつつ立ち上がると、そのままゆっくりと布団の上に戻った。




白と黒のコントラストに彩られた静寂の部屋の中、私達はその黒の部分と同化してしまったかのようにぴったりと動かなかった。
つい先程まで鼻先数寸の場所にあった可愛らしい林檎は闇に沈み、それを覆うように茶色のカーテンが垂れていた。
私は正座を横に崩した、所謂横座のまま読み取れない表情から砂粒のようでもいい、何かしらの感情を読み取れないかと試行したが、
そこには只々深く冷たく沈んだ空気と外から流れ込むさわさわという音だけがあるだけであった。
それはまるで結界のようであった。私達を閉じ込める静寂の結界。私はそれを打破すべく、静かに話を切り出した。

「…どうして。」

こんな事を、と続けようとして言葉に詰まった。次の瞬間には彼女が口を開いていた。

「ごめんなさい。」

未だ表情は読み取れないままではあったが、その声から感じられる震えから彼女がどんな顔をしているのかはおおよそ見当が付いた。
その後も彼女は何かぼそぼそと続けていたようであったが、その内聞き取れたのは、我慢できなかった、という部分だけであった。

「どういう理由かは知らないが、気にしちゃいないさ。さぁ、しっかり寝ないと傷が治らんぞ。」

暫くして、もぞもぞと背後から音がした。心なしか、少しばかり背中の風通りが良くなったようであった。
私が微睡み始めた丁度その頃、後ろから独白の様な語りが聞こえてきた。

「貴女が…貴女が優しすぎるから…抱きしめられて…暖かくて…凄く…。」

私は黙ったまま、背中で彼女の話を受け止める。

「命の恩人に…こんな…こんな感情を…そんな事…っ。」

成程。そうだったか。私は一人目を閉じたまま納得しつつ、この事にはまだ口を出さぬほうが良いであろうと判断していた。
彼女とは深い関わりがない。その上私は彼女を助けただけなのである。まだ自分の心というものは無かった。まだ付き合いが足りなさすぎる。
考え込んでいる内に、何時の間にか彼女の独白は止んでいた。代わりに聞こえてくるのは静かな寝息だけであった。

「…すまない。」

私は彼女が嫌いな訳ではない。だが私は、よく分からぬまま返事を返すのが、堪らなく嫌だったのであった。





「おはよう。」

鈴を転がすような声で目が覚める。体を起こすと、縁側に座っている彼女が見えた。

「もう大丈夫なのか。」
「ええ、激しく動かなければね。歩く程度はもう平気よ。」

私は一先ず安心した旨を告げ、一応飲んでおけと彼女に薬を渡すと、朝食の用意をしようと台所へ向かった。
冬が近いために少しばかり冷え込んできた空気を肌に感じながら手を動かしていると、ふと頭に昨晩の出来事がよぎった。
はぐらかすようでも、返事をしたほうが良かっただろうか。彼女を傷つけてしまっただろうか。
だが今朝の彼女は昨日と変わらない様子である。夢だったのか、いや夢であるはずはない。
瞬間、私の手元からガツリという音が聞こえた。握っていた包丁が石造りの流し台に刺さらんばかりの角度で突き立てられていた。
私は冷や汗が流れるのを感じながらもなんとか心を落ち着け、朝食の支度に集中しようと大きく深呼吸をした。




「「ごちそうさまでした。」」

静かな朝に響く二人分の声。昨日と変わらぬように見える朝。
だがどこか、恐らく私の心の問題であろうが、ぼんやりとした黒い空気、重苦しい何かが充満しているように思われた。
顔を上げると、不思議そうな顔をして此方を見ている彼女と目があった。

「どうかしたの。」
「…いや、なんでもない。」

私がそう答えると、彼女は短く返事を返した後に顔を伏せ、もう一度上げた。その瞬間、空気の流れが止まったような気がした。

「こんな事、言って良いのかは分からないけど。」

腹を決めたような様子で、静かに彼女が口を開く。そして次の一言が、私の心臓を止めんばかりに刺さってきた。

「お返事、待ってるわ。」








すうすうと寝息を立てる彼女の横に座りながら、凹凸が分かるほどにハッキリと輝く月を眺めていた。
相も変わらずいい夜である。天は私の気持ちも知らないで居るのだろうか。
返事。要するにあれは彼女の告白なのだろう。事を急ぐ性格なのか、それとも猫特有の悪戯心というものか。
いいや、悪戯などではない。あの伏せられた、平素の明るい光を奥に隠した目。そこから伝わってきたのは只々真っ直ぐな感情であった。
私は障子戸を開き縁側に腰掛けると、澄み切った外気に内のもやもやを吐き出すように大きく溜息を吐いた。
だが気が晴れることは無かった。どれだけ溜息を夜に溶かそうとも、それはハッキリと奥底に居座っているのであった。

「…はぁ。」

私はもう一度溜息を付き、空へと飛び立った。気晴らしに空中散歩と洒落込もうかと考えたのだ。
そのついでに里に寄ろうかとも考えていた。慧音に依頼していた調査。慧音ならなにかしら成果を上げているだろう。
風を切る音が耳に響き、頬を切り裂かんばかりの鋭い冷気が頬をなでてゆく。
私は環状に輪を閉じた思考の軌道から脱出しようと、可能な限り速く飛ぶことだけに集中した。




深夜の人里というものはとても静かなものだ。昼間はあれほど人が溢れ活気づいている大通りにも、人はおろか獣の類すら居ない。
闇と、静寂と、そして私が発する音の響きがすべてであった。
その中でただ一軒だけ明かりが漏れている建物、慧音の仕事場へと足を進める。すると、私の自慢の耳が異変を頭へと伝えてきた。
慧音は独り身のはずだ。同居人は居ない。だが、明らかに二人分の音が聞こえる。揉み合うような、乱暴な音。
私は息を殺しながら壁に張り付き、中の様子を知るべく聞き耳を立てる。すると慧音と思しき女の声の他に、初老の男らしいドスの効いた声が聞こえてきた。
その声はどうやら慧音と言い争っているようで、苛立ちが此方まで伝わってくるようであった。

「お前…余計な事を…ッ。」
「さっきから何の事だ。私はただ知り合いの頼みを聞いただけなんだがね。」

その知り合いはどうやら私の事らしかった。そうなると相手は恐らく犯人、詰まるところ橙を殺しかけた似非術師なのだろう。

「惚けるなよ化物めがオイ…お前、俺達の事嗅ぎまわってやがるなァ…?」
「だったらなんだ。此処で私を殺すか?最後の抵抗にお前の名を歴史に刻んで見せようか?」

慧音の声。続けて突然何かが倒れこむような音。そして小さな呻き声。
私が驚いて窓から中を覗き込むと、そこには頬を抑え倒れこむ慧音と、何か赤い文字が書かれた札が大量に撒かれていた。
もがもがと慧音が何か言っているようであったが、掠れ細くなった声は聞き取るには不明瞭すぎた。
よくよく目を凝らすと、その札に書いてある文様に見覚えが有ることに気がついた。
私の奥底に眠る小さな恐怖の種。この身に、異変に加担する事の意味を叩き込んだ者。紛れも無く其れは博麗の巫女、霊夢が作った御札であった。

「体が…。」
「ひひ、そうだろうそうだろう…流石は博麗の巫女様の札だな…お前みたいな神獣の名を騙る化物でもこのとォり…だッ。」

六尺豊かな男の体が大きく跳ね、鈍い音が遅れて響く。

「…ぁ…はっ。」
「アハ…良い気味だなァ神獣様よォ…。」
「…下衆がっ。」

そう慧音が吐き捨てると、男はもう一度横っ腹を蹴り飛ばした。それを見て思わず飛び出しそうになった体を震えながら抑える。
いくら只の人間とはいえ、博麗の札を持つものに勝てるかは怪しい。私はもう一度窓から中を覗き込み、静かに隙を窺う。
迂闊に飛び出して共倒れなんて結末だけはなんとしても避けなくては。

「オイ…言葉は選べよォ…ナァ…。」
「…下衆に選ぶ言葉は…生憎持ち合わせてないんでね…はは。」
「…思った通り気の強えェ女だな…オイ…どォして殺さないか教えてやろうかァ…。」

もし此処で手を出すようで合ったなら仕方ない、後先考えず飛び出すつもりでいたのだが、語りだした男の様子から急ぐ必要はそれほど無いようであった。
私は連れてきた部下の内の数匹に霊夢と永琳への連絡を任せると、背負っていたロッドを取り出し有事に備える。

「俺はナァ、お前を気に入ってんだよ…。」
「…は?」
「一目見て気に入っちまってなァ…どォにかして手に入れられんかって考えてたのよ…。」
「…巫山戯るな…お前のような下衆にくれてやるほど…私は安くないぞ…。」
「まァ可愛げのねェ…こりゃ捻じ伏せんのが今から楽しみだなァ…。」

歪められた男の顔が慧音の眼前に迫っている。
普段の慧音であったなら次の瞬間には幻想郷最強の頭突きが披露されていただろうが、今は只々憎悪をむき出しにしながら藻掻くだけであった。
私は男がこちらに背を向けたのを確認すると、扉を光の筋が漏れ見える程度に開け飛び出す準備をした。

「だがなァ…この事を知った奴がおんなじ里に居るのはちィと邪魔になるんでなァ…お前には静かにしててもらうぞ…。」
「…殺す気は…無いんじゃ無かったのか?」
「なァに…ちょいと俺と一緒に来てもらうだけよ…だが、その前に…ッ!」
「…!!!」

唐突に男が慧音の服を強引に破り捨てる、部屋の中に声にならない悲鳴が響く。
瞬間私は扉の隙間に体を滑り込ませ、一発楽しませてもらおうかという男の言葉を待たずロッドを振りかぶる。
がつりという音の後、暫く鈍い金属音が響いていたが、それは男の倒れこむ音と蛙が潰れるような声にかき消され止んだ。
私は直ぐ様ロッドを使い、慧音から札を引き剥がし助け起こす。

「大丈夫か…ッ。」
「…あぁ…何故此処に?」
「丁度そこで倒れてる男の事を聞きに来たのさ。」
「…そのことだが、どうやら此奴が主犯格で間違いないようだ。規模は数十人、術式に関しては全員ズブの素人だ。」

だが何故橙は、と私が聞き返し掛けた所で、ゆらりと男が立ち上がる気配がした。
私が開いた片手でロッドを構えると、男は怯んだ様子で捨て台詞を吐いて逃げ出した。力任せに殴りつけた為か、入り口まで血が点々と赤い斑点を散らしていた。

「あんな奴に橙がやられるとは思わん。」
「…それなんだがな。お前も見たろう、あの札を。」

慧音が指差す先には先程の博麗の御札。先程までびったりと慧音に張り付いていたそれは、今は只紙切れのようにひらひらとしていた。

「博麗の巫女…まさかな。霊夢がそういう輩だとは思えん。」
「それは私も同感だ…恐らくだが、協力という形ではなく、里を守るという建前で手配してもらったものだろう。」

成る程、それなら納得がいく。そう一人頷きながらこの新たな情報を霊夢の元へと飛ばすべく部下に指示をしていると。

「それよりも、あいつを追わなくていいのか。」

不意に慧音がそう言った。その瞬間、私の脳裏に嫌な考えが過ぎった。
そうだ、あいつは、彼奴等は橙を一度狙ったのだ。今彼女は一人。たった一人森の中に。

「…まずい。あぁ非常にまずい。」

私が顔を上げると、慧音が不安そうな目で此方を見ていた。そして、彼女の目が窓の外に向くのが見えた。
どうしたと私が問うと、お前の部下じゃないのかと窓の外に指を指す。その先に目を向けてみれば、必死な様子で窓を開けようとする私の部下が居た。

「…どうしたんだそんなに慌てて。」

私は自らの思考を支配する不安感を押し殺しながら普段と変わらぬ様子で話しかける。
だが、彼の口から出た言葉は、私に告げられた事実は。









ひたすらに速く、速く、ただ速く私は飛んだ。頬に何かが当たって切れる気配も無視しながら。
部下からの断片的な報告。白い服の男、集団、松明。そしてそれらは隠れ家へと向かっているらしい。
恐らくあの男、私が慧音を助けたことから依頼主を私だと断定したのだろう。だがどうして分かった。あんな森の奥だ、隠れ家の位置なんて分かるわけがない。
まさか監視されていたのか。私が彼女を保護した時から全て知られていたのか。私の思考を怒りと焦りが支配する。
肩の辺りで服が千切れる気配がしたが飛び続ける。一刻も早く橙の元へ。もし今襲撃を受けたら、間違いなく彼女は死んでしまう。
いくら下手人がズブの素人でも、博麗の力を借りている。あの札。忌々しい封印の札。あんなもの使わせない。手を出そうものなら全員殺してやる。
遠くに明かりが見える。隠れ家の直ぐ近く。ちらちらと揺れる光が赤へ黄色へと変化しながら森を照らしている。
それらは列を成して、ゆっくり、ゆっくりと隠れ家の方へと移動していた。それは、間違いなく、部下からの報告にあった男達、似非術師達だろう。
私はその集団に追いつくと、ロッドを逆手に構え隠れ家を背にして立ちはだかった。先程の無理から乱れる呼吸を整えながら叫ぶ。

「止まれ…ッ。」
「お前は…ハァ、しつこい奴だ全く…。」

ざわざわとする集団の先頭、頭一つ抜けた大男が苛立ちを顔に貼り付け進み出てきた。間違いなく、先程私が殴り倒した、あの男。

「…どうせ止めに来たんだろう…エェ?」
「そうだと言ったらどうする…ッ。」
「…分かってんじゃねェのかァ?」

そう言うと男は黒ずんだ刀…いや、どちらかと言えば西洋剣の様な鉄の塊を構える。
後ろから聞こえるおぉという声。それに呼応するように歪み釣り上がる男の口端。それに続くように森に響く金属のカチャカチャという音。

「これは俺のとっておきでなァ…刃はナマクラなのに何でかよォく切れるんだ…面白ェだろォ?」

私は汗ばんだ手に力を込めつつ集団を観察する。数は十数人、全員が何かしら得物を構えては居るが、何処か腰が引けていて苦戦するような相手には見えない。
だが慧音の動きを止めたあの札。目の前の大男以外に誰が持っているか分からない今、不用意に近づくことは死を意味するだろう。
遠距離で戦うか、いや、ただの人間相手に弾幕を張れば最悪致命傷だ。幻想郷の規定から外れることは、それこそ死を意味する。
ならば道は一つ。私はロッドの先端同士を引っ掛け繋げると、変則的な二節棍の様な見栄えになったそれを背面に構えて。

「…体術は得意では無いんだがな。」

素早く夜の闇が支配する森へと姿を隠した。すると男達は、どういう訳かてんでバラバラの方向に動き出した。

「何処に行きやがった…見つけろ…見つけ次第殺しちまえ…ッ。」

目が悪いのか馬鹿なのか、まるで逃げ出した猫か何かを探すように各々が木の上を見上げたり、茂みに得物を突き入れたりしている。
札に頼った戦闘しかしてこなかった故に戦いを知らぬのかもしれない。私は得物を木枝に引っ掛け跳躍しながら、一人目の首を狩るように殴りつける。
アッという悲鳴の後バタリと倒れこんだそれは周りの注意を引いたらしく、そちらを向いた男達の死角から二人、三人と立て続けに眠らせる。

「チィ…ちょこまかとうるせェ野郎だ…。」

あの男は仲間が倒れていくのを先程と同じ所で眺めていた。戦えぬのか、それとも恐怖で動けないのか。
私は徐々に機嫌が良くなりつつ有る体を跳ねさせながら次々に打倒していった。ある者は悲鳴を上げて地に伏し、ある者は背中を向け逃げ出していった。
残る輩はあと三人。あの大男と、何処か頼りない顔をした中年の男二人。

「…今引き返せば手は出さんぞ?」

笑顔を浮かべながら威圧する。この時、私は湧き上がる高揚感に支配されていた。妖怪の本能。人の恐怖に住まう者としての本能が、私の思考を鈍らせていた。
今思い返すと不用心すぎた。あの札の事を、何故かその瞬間すっかりと忘れていたのだ。鈍った頭が男を捉える。懐に手を突っ込んだ姿が静止画のように―――。





―――次の瞬間、私は地べたに這いつくばっていた。
痛みにも似た痺れが全身を走っていた。腕はおろか、指先すら動かせないほどに。先程まで握っていたロッドの感覚は無く、何処か遠くに飛んでいってしまったようだった。
ざくりざくりと、頭の方から土を踏む音が聞こえる。微かに動く視線をそちらへ向けると、汚らしい顔で此方を見下すあの男が居た。

「アハ…油断したなァ溝鼠さんよォ…。」

その顔が私の目の前まで近づいてきたと思ったら、急に腹に激痛を感じた。震える呼吸を抑えながらそちらに目を向けると、何かが突き立っているのが見えた。
内蔵をやられたようで、がぽと口から赤いものが噴き出す。そこで私はようやく、私自身が殺されかけているという状況を理解した。
回らなくなりつつある頭を何とか動かして男に厭味の一つでも言ってやろうとしたが、声が出ない。その代わりに漏れたのは、血が泡立つような音と、微かな空気の音。
目の前のひび割れた唇が何か言っていたようだったが、過度の失血から気を失いかけていた私には届かなかった。
目の前が暗く霞んでゆく。痛みが麻痺し、続いて全身の感覚が消えてゆく。何人かが立ち上がるような気配。瞬間体が大きく反った。誰かが私の体を蹴飛ばしたようだった。
私は闇へと帰りつつある思考の中で、橙の事を思った。あの男達はきっと、隠れ家へ、そして橙は、まだ傷が、守れない、きっと彼奴は、あぁ、だめだ、そんなこと。
何が守ってやるだ、自分の身も守れないような、こんな、こんなざまで。意識だけが男達を追って行く。冷たい体を取り残して。
最後に見たものは、ゆらゆらと揺らめく黄色い炎。そして、何かが吹き飛んでいくような影であった。






ぼんやりとする意識の中、何処か遠く、暗く深い闇の底から、聞き覚えのある、そして悲しそうな叫びが、聞こえたような気がする。







目を開けると、見覚えのある天井が見えた。私を支配していた痺れは、すっかり消えてなくなってしまったようであった。
昨日も見た情景。月夜に照らされた小さな小屋の中。そこは紛れも無く私の隠れ家の寝床であった。
まさか死後の世界なのかなどという馬鹿な考えが頭を過ぎったが、それは微かに感じる腹部の痛みによってかき消された。
何時の間にか着替えさせられていたらしい寝間着をたくし上げると、腹に巻かれた包帯と、それに滲む赤黒い染みが見えた。
どうやら私は死んだわけでは無いらしい。未だジンジンと疼く傷が、それを教えていた。
そして少し立ってから、私の頭は一気に覚醒した。

「…橙。」

先程まで気づかなかったが、直ぐ隣に橙が居た。最後に見た時と全く変わらぬ様子で、すうすうと寝息を立てながら眠っていた。
だが、明らかに違う点が一つ。彼女の頬に走る一筋の傷跡。保護した時にはこんな傷は無かったはずだ。
まさか。

「…助けてくれたのか?」

あぁ、何という事だろう。私は彼女を守ろうとして死にかけただけでは無く、その守ろうとした彼女に助けられたとは。私は頭を抱えながら涙した。
己の無力さを思い知った。何が逞しいだ、まだ傷も治りかけな彼女に助けられるなんて。彼女の方が余程逞しいではないか。
しかもあんな奴らだ、普段なら相手にもしないような。ただ私が油断しただけ、己の慢心に殺されかけて、その上橙にまで迷惑を。

「…ナズーリン?」

唐突に声が聞こえた。あの日、私を困惑させたあの声。心地の良い、軽やかで、可愛らしい声。
ゆっくりと、声の方向へ振り向く。涙で滲んだ視界に、不安そうな顔をした彼女が映った。

「…橙…ッ。」

私の体は考えるより前に動いていた。貫かれた腹に激痛が走るのも厭わず彼女に抱きつき、泣き顔を見られぬように顔を埋める。温かく、柔らかな感覚。

「馬鹿…っ。」
「…ごめん…ごめ…。」

もう普段のナズーリンはそこには居なかった。代わりに居たのは、小さく、臆病な私。遠い昔のいつかの記憶。

「守るって…約束したのに…こんな…君を危険に…晒して…。」

言葉が途切れ途切れにしか出てこない。まるで喉の奥に張り付いたように、それらは私の口から発せられることに抵抗していた。
私は只々泣いた。それがどれほどの時間だったのかは分からないが、その時の私には永遠にも等しく感じられた。深い後悔と、無力感に苛まれて。
そこから私を引き戻したのは、彼女の小さな手。それは優しく、ゆっくりと私の頭を撫でていた。

「君が…助けてくれたのか…まだ傷が残っているのに…?」
「貴女の声が聞こえたような気がしたの。そしたら彼奴等が居てね…。なんであんな、危険な事したの…。」
「…ごめん…守ろうとしたんだ…君を…奴等から―――。」
「貴女が死んでしまったら何の意味もないわよッ…一方的かもしれないけど…愛する人を見捨てるなんて私は出来ない…っ。」

彼女が強い力で私を揺さぶりながら叫ぶ。初めて聞く荒げられた声。ただただ真っ直ぐな感情の叫び。

「…ごめん。」

それから暫しの間、沈黙が空間を支配していた。そしてそれを破ったのは、またしても彼女の言葉であった。

「どうして…そこまでして私を守ろうとするの…。」

どうして、どうしてだろう。私は何故か彼女を保護した時から、絶対に守ってやると、そう決めていた。

「…それは。」

そこまで言って言葉に詰まる。何故か、その理由が分からない。ただ流れで、なんとなしに、そう決めたような気もする。
だがそれだけではない。私が今までに命を張ったのは御主人の為だけであった。それなのに、そんな私が、何故か彼女をこうまでして守ろうとした。
これでも狡猾な方なのだ。関わりが無いものならば、容赦なく利用して、都合が悪くなれば切り捨てる。
そんな私が、だ。こうまでして、彼女を、この命を掛けてでも。






命を掛けて。


















あぁ、そうか。




簡単なことだったんだ。




あの時返事をしなかったのは、自分の気持が分からなかったから。




でも、今ならば分かる。私の本音。無意識の奥底に潜んだこの心。




そうだ、私は。





















「…君のことを、命を掛けてでも守りたい、そんな、そんな女の子だって、思ったんだ。」
「え…っ。」

抱きつく力を緩め、改めて彼女と向かい合う。困惑したような顔が、大きく目を見開いて此方を見ていた。

「それって…それって…っ。」

その目がうるうると光る。涙が頬を伝っていく。あぁ、やっぱり私は馬鹿だな…こんな簡単なことにも気づけなくて、こんなにも心配させて。

「…あの時、返事しなかった事、謝るよ。」

彼女は黙って、私が口を開くのを待っている。あの朝の返事を待っている。
付き合ったわけでもない。昔から交流が合ったわけでもない。ハッキリとした理由は無いのかもしれないし、今でもそれは分からないが。
この気持ちだけは。今私の心が叫ぶこの言葉だけは。本当に、絶対に変わらない真実なのであった。

「何故だか私は、何時の間にか、自分でも気が付かない内に、こうして、君に惹かれていた。でも、私は分からなかったんだ。君の何に惹かれたか。私は一方的に君の好意を受けるだけだ

った…のだろう。」

私の独白にも似た響きの言葉に、彼女は泣きながらも真剣な面持ちで聞き入っていた。

「…君は、私を助けてくれた。まだ傷も治りかけなのに、また傷を負うかもしれないのに。」

真っ直ぐに此方を見つめる明るい、茶色のゆらめく光。本当は真っ直ぐに好きだと言いたかった。
だが、何処か私の中の私、というよりも、弱い所を見せたくない、という羞恥心が、邪魔していた。

「…その瞬間に自分の気持ちが固まった…なんて言えばいいのか、まぁ、惚れた、と言えば良いのかね。」

私はまぁ、そういうことさ、と続けようとしたが、それは彼女の抱擁によって遮られた。
先程、起き上がりざまにした時のように力強く、だが包み込むような優しさを持って、私の小さな体を、その小さな体で抱きしめていた。
それに応えるように、そっと、抱き返す。そうだ、無理に言葉にするよりも、こうした方が伝わるじゃないか。私はぼんやりとそのようなことを考えていた。



「…ねぇ、キス、していいかしら。」

暫くの静寂の後、彼女が上気した頬に涙の跡を残したままそう言った。あの夜の続きかいと少し意地悪に聞き返すと、無言のまま微笑み首を縦に振った。

「…本当に私で後悔しないかい…こんな弱い私で。」

最後に、それが本当の気持ちなのか、という確認の意味合いを含ませたそんな台詞を吐くと、彼女は私をゆっくりと布団へと押し倒した。

「…貴女が良いのよ。他の誰でもない貴女が。」

それに強いばっかりじゃつまらないわと、彼女は悪戯っぽさに色気を滲ませた笑みで答えた。
私はそれに応えるように、彼女を抱き寄せて密着する。彼女は少し恥ずかしそうにしながらも、期待を滲ませた瞳で見つめ返してきた。
ゆっくりと、彼女の顔が近づいてくる。吐息をすぐ近くに感じる。どちらからともなく目を瞑り、そしてそっと、触れるように口付けた。
初めは遠慮がちに触れ合うようであったそれは、次第に深く、お互いを求め合うように激しくなっていった。
私が彼女の中へと舌を差し入れると彼女はそれを絡めとるように受け入れ、また彼女の行為に応えるかのように私は愛撫を激しくしてゆくのであった。
白く冷たい光に照らされた静かな部屋にぴちゃぴちゃと水音が響く。その反響が、彼女としている行為を現実からほんの少し遅れさせて伝えてきた。
音が持つ力というものはやはり強いようで、それがまた、なんとも形容しがたいような、そんな感覚で、私を、私達を、更なる高みへと昂ぶらせていた。
その時、私の中に加虐心にも似た小さな悪戯心が芽生えた。そして私は、目の前の惚けたような表情の彼女の耳を、そっと両手で塞いでみた。
瞬間、彼女の目が驚きに見開かれた。先程よりも荒くなった息を感じながら、僅かに抵抗する彼女の唇を捕まえる。
私がわざと大きく音を立てて彼女の口内を愛撫するようにすると、彼女の眼の焦点が妖しくゆらめきだした。
その目は私を捉えているようでも、何処か遠くを見ているようでもあった。私はそんな彼女の初めて見る表情に、堪らなく興奮していた。
ぴちゃり、ぴちゃ、じゅる、という音に反応するかのように、彼女の体が小さく跳ねる。上気していた頬は更に赤く、荒い息はテンポを失い不規則に乱れていた。
力なくだらりとして、私の為すがままになった体を支えながら上下を入れ替えると、口の端から銀の線を喉元へと描いた彼女と目があった。
ゆらゆらと揺れる光が、燃え上がる焔のように、妖しく、魅了するように、此方を見つめていた。まるで私を誘いこむように。









目が覚めると、いつもの景色が飛び込んできた。隣に目を向けると、橙が可愛らしい寝息を立てながら寝ていた。
昨晩、私達は行為の後に半ば気を失うように寝てしまったらしい。素肌に染みる澄んだ空気と、愛液に濡れて乱れに乱れた布団がそれを物語っていた。
一先ず体を洗おうかと起き上がると、ぬちゃり、という音が聞こえた。瞬間昨日の出来事がフラッシュバックし、たまらず私は赤面した。
なるべく彼女を起こさぬように静かに布団から這い出て風呂場を目指そうと立ち上がったその時であった。視界の端で、何か黒いものが横切ったように見えた。
私ははっとなってそちらへ目を向けた。まさか奴等がまた来たのか。今度こそ息の根を止めようと。慌ててロッドを引っ掴み、裸体を隠すのも忘れて戦闘態勢を取る。
だが感じられたのは、もっと落ち着いた、人間ではない何かの。しかも何処かで感じたことの有るような、強力な妖気。
それは、黒い影となって縁側に立っていた。ゆっくり、ゆっくりと障子扉を開けて、姿を表していく。
そして私は、その影の正体を視認した途端。私は無意識の内にロッドを投げ捨てて正座に座っていた。

「やぁ。こうして面と向かって会うのは、初めてかな?」

息が苦しい。押し潰されるような圧迫感を感じる。目の前の大きなシルエットの姿が、仁王立ちで私を見下ろしていた。
白面金毛九尾の狐、幻想郷大賢者の直属の式。橙の主人。八雲藍。

「…ぁ。」

しまった、と思った。こんな所を藍に見られたら、きっと私は。私の命は。
事前に報告した状況とはレベルが違う。私は保護したと、それだけを報告した。それなのにこんな、しかも純潔まで奪って。
覚悟を決めてしっかりと目を見据え、謝罪の言葉を口にしようとした、その時。

「全部見ていたよ。」

そんな言葉に、私は耳を疑った。
私は思わず声を荒げて聞き返した。何故知っていたなら橙を助けなかった、何故彼女を引き取りに来なかった、と。
すると目の前の大妖は少しばかり困り顔になって、紫様のせいさ、と答えた。

「あの子が襲われた事を知った時点で飛び出したかったさ。だが紫様が面白いから見てろって引き留めてね。」

その大賢者様は私と橙のことを見透していたのだろうか。こうなる事は予想済みか。そう納得したところで、一つ頭に浮かんだ事。

「…じゃあ昨晩のも。」
「あぁ、ばっちりと。君、見た目によらず肉食系なんだね…ははは。」

穴があったら入りたいと言うのは、こんな時に使うのだろうか。私は恥ずかしさに殺されそうであった。

「…あぁそうだ、橙の事は気にしないでくれ。あの子が望んだことだ。今更とやかく言う気は無いよ。」

それに君なら大丈夫そうだ、と藍は笑いながら言った。そして彼女は、お幸せに、とだけ言い残して消えてしまった。
そこで私は、改めて全て見られていたことを思い出す。助けたところから、一緒に住んで、守ろうとして返り討ちにあって、挙句の果てに一夜を共にして。
だが、藍は応援してくれるような雰囲気をしていた。その表情からも、声色からも、偽りの気配は感じられなかった。

「…公認の、仲、でいいのだろうか。」

そう思うと、少しばかり気が楽になった。




「…おはよう。」
「おはよう…っ!?」

起き上がったと思ったら、次の瞬間には布団に包まって蓑虫のようになってしまった。
昨晩のことを思い出したか、暫くの間小さな声で何か良く分からぬことをつぶやいていたが、やがて平静を取り戻したか蓑の中からひょこりと顔を出した。
何時か見た、可愛らしく赤面した彼女が、こちらを見上げていた。

「昨日は、えっと、その、は、激しかった、わ、ね…。」

そうしどろもどろに言うものだから、思わず吹き出してしまった。途端ふくれっ面になって文句を飛ばしてきたが、その様すらも愛おしくてぎゅっと抱き締める。

「一緒に、風呂でも入ろうか。」
「…そうね。色々べたべただし。」
「それで、上がったら朝食をとって、着替えて、何処かに出かけようか。」
「良いわね。でも突然どうしたの。」
「…もっと君と、色んな事をして、もっと君のことを知りたい…なんて言ったら、笑うかい。」
「ふふ…笑うなんて。私も同じ気持ちよ…それで、何処に行くの?」
「里に甘味処が出来たらしいからな。」
「あら…。」

そう言って柔らかく笑った彼女。優しく、勇敢な彼女。私はもう、彼女から逃れられない。逃れる気もない。そうして、ずっと、ずっと、こんな時間が流れたのなら。

「それじゃあ、風呂の用意をしてくる。」
「…今から沸かして、間に合うの?」
「それが直に沸いてしまうんだ。全く河童の技術というものは素晴らしいよ。」



これほど、幸せなことはないだろう。
処女作です。下書きというものをしなかったために色々と可笑しいかもしれませんが、少しでも面白かったと思っていただければ幸いです。

橙ちゃんの性格はこのぐらい落ち着いてたほうが好きです。
Megalith
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コメント



0.70簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
処女作と言う事を考慮するなら、中編と言って良い長さの作品を完成させたのは称賛に値します
(大抵の人は完成しないか、途中まで書いた奴を続き物として投稿し、失踪がパターン)
妖怪として落ち着いた雰囲気の橙を書きたい、と言う目標も達成されてますが、やはり説得力に欠ける描写も結構あります
物語と言うのは、
「論理」「ノリと勢い」
どちらかで、読者を「納得」させないと「なんか変だな?」と感じられてしまい、結果として物語に疑問を持たれ、つまらない或いは読みすすめる気が起きない、と言う事になってしまいます
これは自分が説得力に欠けると判断したシーンなのですが、
>彼女は私に数本の痛み止めの瓶を渡すと、その場を後にした。回復するまで私に面倒を見ろと言うことらしい。
>まぁ仕方ないと一つ納得し
何故納得した!?
と思いました
思わず「入院だよウッッッ」とツッコミを入れてました
そのまま永遠亭に連れて行って貰えれば医療技術者もいて容態の急変とかに対応できるし、襲撃も容易ではありません
ナズが納得した理由に納得できないのはもちろん、冒頭で事件の導入部だったので、もしかしたら面倒な事に関わらずに済ませられるって選択もあったんじゃないかと思ってしまったが最後、後の展開も「こんな事にならずに済んだのに」と言うのが頭の端にちらつき、どうも物語に没入できませんでした
後は橙とナズは命を助けた助けられたの関係で、お互いそういう感情を持っても不思議では無いように思えますが、気持ちが固まるのが早過ぎると思いました
何しろ二人は橙が目覚めた後に数える程しか言葉を交わしておらず、その会話の中で突然ナズが「こんな関係を望んでいたのかも」などと思い始め、一つしかないベッドで寝ていたら橙がキスをしてきた、と
早過ぎです
もちろん一目惚れと言う事も有り得るのでしょう
しかし文章の中では二人がお互いに好感を持った理由が端折られており、唐突なカップル成立にしか見えなかったのです
説得力に欠けていると言うのはそういう描写を怠っている為だと思います
他にも人間の方から危害を加えに来ているのに、反撃して死んだらルール違反だからまともに戦えないとか、ルールが説明されていない事を考慮に入れても「ルール以前に自分の命がヤバいのにそれで良いのか」とか、「正当防衛って事で何とかなるんじゃね?」のような疑問が溢れて止まりません

正直に言えば作品としてはいま一つかなと思いましたが、落ち着いた妖怪の橙、人間の妖怪狩りなどと言うバイオレンスな事件など、ストーリーやキャラには面白い要素があります(だから読み切れた)
説得力さえあれば、と言うのが自分の感想です
長い感想ですみません
2.10名前が無い程度の能力削除
オリキャラに汚いものを全て押し付けてるだけ。腐肉に絵の具を塗って誤魔化してるだけなので匂いが酷くて吐き気がする。
とにかく自分さえよければいいという作品でした。
4.無評価名前が無い程度の能力削除
報告すべきかどうかを迷ったので、指摘だけ。
処女作とありますが、本作が最初に投稿されたのは他所と記憶しております。作品覧にあるのを目にしただけなので、失礼にあたりますが、内容までは読めてはいません。
ざっと流して見比べたところ、一部の場面を削っただけの印象を受けました。創想話の規約では、投稿される作品の条件のひとつに初出とあります。
文章そのものが大幅に変化(手直し)していればこれにはあたらないと記憶しておりますが、わたくしは読めていないのでその辺の判断が出来ません、ですが、ここでは非難される可能性が高いと思われます。
たとえそれが一部場面の削除をしていたとしても、です。これにつきましてはわたくしがコメントにてそれを知らさなければ発覚はしないかもしれませんが、今後同じようなことがないとは言い切れないと感じましたので、作者様が今後も創想話にて活動する可能性を踏まえて、指摘させていただきました。
無評価コメントになってしまいましたが、機会があればその時にでもまた感想を落としたいと思います。
5.50名前が無い程度の能力削除
読み比べてきましたので感想のほうを落としたいと思います(規約違反うんぬんは前回コメントどおりで)。
違和感を覚えるところが多く目立ったというのが、読了後の思いです。まず橙の怪我ですが、死にかけに近い重体患者を妖怪(または式)だからといって永琳がナズーリンに任せるのか、という疑問。
ナズーリンも任務中に面倒事を抱えることとなるのに、文句を言うどころか引き止めもしないのが、(私にとって)聡明な印象が強い彼女らしからぬ感じでした。
また、ルールについても妖怪は人間を襲いますし、人間も妖怪側を退治する関係が幻想郷にはあったと記憶してたので、それが本作の世界観であっても説明不足な印象があり、説得力にかけました。これについては私のわがままに近い好みなので、物語のテンポ上仕方ないのでしょう。
橙、ナズーリンともに怪我を負っていたのにいい雰囲気に流されるまま……というのも「えっ」となりました。ナズーリンの気持ちが橙に傾くのも唐突で、置いてけぼりを食らったのも残念でした。これは橙にも言えることなので、そのあたりの描写をしっかりとなされていればもった楽しめたかなと。
霊夢も名前と間接的に力だけを使われる形となっていたり、やはり消化不良感が否めなかったです。
処女作になのにやたらと辛辣になってしまいましたが、あくまでも創想話での処女作、と私は見なしています。
再三になりますが、他所に投稿したものをここに投げる場合は大部分の加筆修正をしてからのほうが好ましいので、次回はそのようにならないよう願うばかりです。
7.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりひどい

しかし博麗の札といい一連の件は管理側の工作な気がする
血の茶番って感じだ
吊り橋効果マックスだからふたりが短期間で恋人になるのはよくわかるんだけど
チェンもナズーリンも組織に属するんだから妙に軽率な気がする
野暮だけど

9.100名前が無い程度の能力削除
わしは好き
ちょっと時間がよく分からなくなることがあったかも