私は最後の石を空いている場所に置いて、はさんだ相手の石を裏返す。盤面全体を眺めてみても際どい勝負だと思うけれど、少しだけ私の石の方が多いようにも見える。
「34対30……天子、あなたの勝ちね」
石を手で数えもせずに見ただけでそう言ったのは八雲紫、私の対戦相手だ。
「…………あ、本当だ。わーい、勝った!」
私は手で石を数えてようやくその事実を実感し、両手を上げて喜んだ。
今まで全く勝てなかった紫への初勝利。これが嬉しくないはずがなかった。
多分私は子供のように無邪気に喜んでいたのだろう。紫はそんな私を見て、優しい顔をして微笑んでいた。
私たちが今やっているのはオセロと呼ばれるボードゲームだ。これは8×8=64マスの盤面と、表裏が白と黒になっている石を使って遊ぶもので、交互に石を置き、相手の色の石を自分の石ではさむと裏返すことが出来る。これを繰り返して自分の石を増やし、最終的に自分の色の石が多い方の勝ちというシンプルなゲーム。
「ねっ、紫。もう一回やろう?」
私は勝利に気を良くして、だからそんなことを言った。
そのあとも私は勝利を重ねて、上機嫌でニコニコと笑っていた。
紫は少し席を外すと言ってスキマで何処かへ行き、私がその帰りを待っていると、通りかかった藍に声をかけられる。
「ああ、天子。来ていたのですか」
「ええ、お邪魔しているわ。紫ならさっきちょっと出かけるって言ってたけど?」
「出かける……ああ、多分結界の点検をサボっている博麗の巫女を叱りに行ったのでしょう。……それなら紫様の代わりに天子、何か夕飯の希望はありますか?」
「夕飯ねぇ……あ、そうだ。藍が前作ってた揚げ物、えっと、パ、パ……」
「パコラですか?」
「そう、それ。それにあのソースみたいなのを付けたのが食べたい」
「パコラとチャツネですか。それだとメインにはなりませんが……まあいいでしょう。それを中心に献立を考えてみます」
「やった。藍の料理は絶品だからねー、今晩が楽しみだわ」
「そう言ってもらえると作り甲斐がありますね。……で、それはオセロですか?」
「そうよ。あ、そうだ。藍、一戦やらない?」
「いいですね、やりましょうか」
そうして藍ともオセロをやってみたのだが、どうにもやりづらいというか、打ちたくない場所に打たざるを得ないように誘導されているみたいに感じられた。盤面が進むにつれて私の打てる場所がどんどんと無くなっていく。不利になると分かっていても、そこに打つ以外の選択肢がそもそも無くなってしまうのだ。
結果として私は惨敗を喫した。
「ちょっと藍、強すぎるわよ」
「そうですか? まあオセロは昔、式を作るための訓練として紫様にみっちり仕込まれたので多少は自信がありますけど……それでも紫様には遠く及びませんね」
「え? 紫ってそんなに強いの?」
「滅法強いですね。というか、さっきまで紫様と対戦していたのでは?」
「あ、うん、そうだけど――」
「まあ、自分が上手くなってみないと、相手の実力がどれくらいかなんて分かりませんからね。天子は勘がいいですけど、やっぱり序盤の定石が曖昧で劣勢からスタートしているのが勿体無いですね……天子?」
「え、あ、いや、そうね。もうちょっと練習しないとダメみたいだわ」
「そうですね。打倒紫様となると、相当の覚悟がいるでしょう。そんな天子のために、少しだけ序盤の定石を教えます。このオセロというゲーム、先攻は黒ということになっていますが、最初の一手はどこに打っても同じなので実質的にゲーム展開の選択権は白にあります。基本的には2パターン、縦に取る形と、ナナメに取る形です。横に3つずつ石が並ぶ形は白側にとって序盤から不利になることが多いので滅多に打たれません。白側が縦に取った場合、黒の選択肢は――――」
藍の熱心な講義を聞いて、私は少しだけオセロの定石を理解した。というかそれまでは定石などというもの自体知らず、ただ感覚的に石を置いていただけなので、そうした意味では藍の話は目から鱗だった。確かに藍との対戦では、自分の石が外側を覆っていて置ける場所が極端に少なかった。オセロは相手の選択肢を奪い合うゲームだと藍は言った。なるほどそう考えれば確かに、外側を自分の石が覆っている状態というのは劣勢であることが分かる。同様に序盤から自分の色の石が多いというのも不利なのだ。
ただそうしたゲームへの理解とは別に、私は当然のように気になることがあった。
――どうして素人同然の私が、紫に勝てたりしたのだろうか。
いや、その理由ははっきりとしている。単に紫が手加減をしたというだけの話に違いない。だから問題があるとすれば、何故、紫が手加減をしたのかという一点だ。
もちろん私は初心者なので、上級者の紫とでは普通にやっても一方的すぎてゲームが成立しないだろう。だから私が楽しめるように手加減をしたと考えるのが自然だ。
――それ自体は、いい。
いや、正直な気持ちでいえばそれもよくはないのだけれど、仕方のないことだと割り切れる。そもそもは私が弱いことに原因があるのだから。
けれど、だったら最初から紫は手加減すると、そう私に言ってくれたら――ああそうか。
そんなことを言われたら、私の性格ではまず間違いなく「いいから本気でやって」と言うに違いない。そうしてコテンパンにやられて、悔しさに身を震わせ涙を堪えながらこの家を飛び出していく自分の姿が見て取れる。
我ながら情けないことだと思うけれど、おそらくはそうなっただろう。
そして紫はそれを避けたかったに違いない。だから手加減をして、初心者の私にもオセロを楽しめるように工夫してくれたのだ。それは紫の優しさである。
けれど今の私はそんな紫の態度に、もやもやとした感情を抱えていた。
全ては私の幼さに原因がある――それは私自身分かりきっている。
だからこれから言うことはそうだと分かりきった上での、単なるわがままだ。
――私はたとえ悔しさに涙する結果になったとしても、それでも紫には全力を出して欲しかったのだ。
藍が夕飯の準備に行くと、すぐに紫が戻ってきたけれど、私はオセロの続きを紫とやろうという気は起きなかった。今は適当に紫の本棚から難しそうな本を取って、適当に開きながらゴロゴロとしている。紫はそんな私に少し不思議そうな目を向けていたが、気付かない振りをした。
そして私は考える。オセロのこと、藍のこと、紫のこと、そして自分のこと。
考えてみても分からないことだらけ。
そうして今までの私はきっと出ない答えにもやもやとした気持ちを抱えたまま、不機嫌な顔を隠そうともせずに拗ねていただろう。そんな私の不満に誰かが気付いてくれることを期待して。救ってくれることを、ただ願って。
かつて私は自身の境遇への不満から暴れまわり、他人に多大な迷惑をかけた。あの頃と比べたら、私は成長しているはずだ。むしろそうでなければならない。
――だったら私のやるべきことなんて、一つではないか。
いつまでも救われるのを待っているだけの少女ではないのだから。
夕飯を終えて、それぞれが思い思いのことをしていた。私は洗い物をしている藍の元へと向かうことにする。
「藍、手伝うわよ」
「え? いえ、客人にそんなことは」
「そんなの、今さら気にすることでもないでしょ?」
「……そうでした。紫様の部屋の掃除やら何やら、すでに何度もさせてしまっていますね」
「そうそう、それに藍にちょっと相談もあるし」
「……? まあ、構いませんが」
そうして少し場所を空けてもらい、分担しながら洗い物を片付けていく。
「今日のご飯も美味しかったわ。さすがは藍ね、また腕をあげたかしら?」
「あはは、ありがとうございます」
少し照れくさそうに藍が笑った。普段は凛としていて真面目で格好良い雰囲気だが、こうしているときはとても可愛らしいと思う。洗い物をしていなければ抱きしめたい。
「藍に料理を教えたのも紫なのよね?」
「そうですね。というよりも、今の私が出来ることは、そのほとんどが紫様に教えていただいたことです」
「なるほどねぇ……」
となると、やはり紫は何でも出来てしまうのだろう。頭が良くて、家事も出来て、オセロも強い。ずるい。
「そういえば天子、私に相談があると言っていましたが?」
「ああ、そうね。オセロのことなんだけどね」
「オセロですか」
「オセロで紫より強いのって誰か心当たりない?」
「紫様より……うーん、私が対戦した中では紫様がやはり最強かと」
「やっぱりそうかぁ……」
「あ、でも紫様が言っていたのですが――」
「そういうわけなのよ」
私が事情を説明すると、目の前の彼女は面倒臭そうに頭をかいた。
「いや、そういうわけと言われてもだな」
「私にオセロを教えてください! 魔理沙師匠!」
「師匠言うな。うーん……オセロか」
魔理沙は腕を組んで少し考える。
「……まあ、暇というわけではないが、急ぎの用があるわけでもないし、ちょっとくらいなら付き合ってもいいぜ」
「本当? わーい、魔理沙ありがとう!」
「ちょ、こら、ひっつくなって」
そうして嫌がる魔理沙に無理矢理スキンシップをした。
「とりあえず、天子の実力を知らないことには教えようがないし、まずは何度か打ってみるか」
「そうね」
「じゃあオセロの準備だが……天子、頼んだぜ?」
「……? それくらい別にいいけど……ん? 魔理沙、もしかしてだけど――」
「多分お前の思っていることが正解だが、言ってみるか?」
「いや、いいわ。で、心当たりはどの辺?」
「そっちの山じゃないかとは思うんだが」
「自信はない、と。はぁ……まあこれも自分のため、か」
私は嘆息しながら、魔理沙が指差したガラクタの山へと向かう。
理由はもちろん、オセロ盤と石の捜索だ。
「ふむ。序盤の定石は意外としっかり形になってるな」
「うん、藍に教わったの」
「なるほど。確かに定石を教えるという意味では適任か」
「で、どう? 私は紫に勝てるようになりそう?」
「あー、正直言って今のままだと無理だな。百回やったら百回負ける」
「そんなにダメ?」
「ダメってわけじゃない。むしろセオリーを良く理解しているし、お前は正しいオセロを打っていると思うぜ」
「……? だったら――」
「だからこそ、だ。正しくセオリー通りに打ち合ったら、勝つのは上手い方だ。こればかりは長い年月をかけた研究と努力がモノを言う。付け焼刃ではどうにもならないんだぜ」
なるほど。確かに魔理沙の言うことは理に適っている。
「紫や藍のオセロは正統派だ。そいつらの土俵で戦ったらさすがに勝てない。私だって無理だぜ」
「じゃあ魔理沙はどうやって――」
藍は言っていた。自分は対戦したことがないけれど、魔理沙は紫と五分か、あるいは少し勝ち越す程度に渡り合っていたと。
「読み合いだよ。そのために機を見てセオリーを崩す。闇雲にセオリーから外れても自分の首を絞めるだけだが、自分がここだと思った場面では、自分を信じて強気に打つんだ」
「強気?」
「あー、失敗を恐れないっていうのかな。定石ではないセオリーから外れた手を恐れるなってことだ。お前が教わった序盤の定石ってのは本当にメジャーな進行だけで、お前が教わってない中には最善手ではないが悪手でもない、あまり打たれないだけの手が無数にある。だがこれを一つ一つ覚えるのはさすがに無理がある。それが人間の、そして妖怪の限界ってわけだ」
「……? つまり?」
「つまり、どちらも進行を覚えていない形なら条件は五分五分ってことだ。勝負はどちらに転ぶか分からない。一つの読み間違えで勝敗が簡単に入れ替わる」
よく打たれるメジャーな進行では知識と経験の差がそのまま有利不利に直結する。だったらあえてこちらからセオリーを外れた手を打てば、少なくとも相手の知識が及ばず、経験も少ないであろう展開に持ち込める。魔理沙が言ったのはそういうことだろう。
「もちろんそれで勝てるという保証はない。セオリーから外れたときにモノを言うのは結局のところは地力――そいつの本来持っている実力だ」
「じゃあやっぱりダメじゃん」
実力勝負となったら今の私が紫に勝てるはずもない。
「それがそうとも限らないんだぜ。全てを読みきるなんてどんなに強い奴だって不可能なんだ。百回やって百回読み勝てる奴なんていない。たとえ紫でも、だから絶対にどこかで隙が生まれる。それに幸いなことに天子、お前は勘が良さそうだしな。相手の隙を見つけて勝負をかける場面は、間違えず見つけられるかも知れないぜ?」
「かもって……」
「そりゃ相手が紫なんだから、絶対に勝てるなんて言えないしな」
そういって魔理沙は笑う。
けど、確かにそうだ。ちょっと勉強したくらいで、今まで一度も本気を出させたことすらない紫に勝てるほうがおかしいのだ。それでも勝ちたいと思ってしまうのなら、運やまぐれを当てにする他ない。
「セオリーを外すタイミングは場合によるから教えようがないし……とりあえずは終盤の詰めの部分からでも教えるとするか。せっかく読み勝って勝てる流れを作ったのに最後にミスをして負けたら勿体無いしな」
「……そうね。じゃあお願いするわ、魔理沙」
元より無理を通そうとしているのだ。勝機という細い糸を手繰り寄せるために、やれることがあるなら私は何だってしよう。そして私は紫に――証明するのだ。
「紫!」
「あら天子……どうしたの?」
普段と違って真剣な雰囲気の私に、紫は少し困惑しているようだった。いや、普段の私がふざけているというわけではないのだけれど。
「私とオセロで勝負して」
「オセロ? それくらい別に、いつでもやるわよ?」
「それは、こないだみたいに?」
「ええ、そうね」
「……でも紫、こないだ手加減してたでしょ?」
「………………」
無言の肯定。
「別に、そのことを咎めているわけじゃないわ。そもそもは私が弱いのが悪いんだから。けどそれも最初みたいに手加減しながらも紫が勝つならの話よ。最後の数戦みたいにわざと勝ちを譲られて、それにも気付かずに無邪気に喜んで……全く、私が馬鹿みたいじゃない!」
「それは……」
「ごめん。本当は分かってるの。別に紫は私を馬鹿にしたかったわけじゃないって。私はあくまで思い上がって勘違いした自分に腹を立てているだけだって。だからこれは紫の優しさに気づけなかった私の単なる八つ当たり」
「………………」
「紫、本気を出してとは言わない。本気を出すかどうかは紫に任せる。その上でもう一回言うわ。……私と勝負して」
「…………わかったわ」
「この勝負、紫が勝ったら紫の言うことを何でも一つだけ聞いてあげるわ。代わりに、私が勝ったら私の質問に正直に答えてもらう。それでいい?」
「それで構わないわ」
紫は真剣な顔でそう答えた。
私の普段とは異なる雰囲気の声を聞いてか、藍と橙が顔を覗かせた。ちょうどいいと思い、勝負のことを伝えて、二人には勝敗を見届けて貰うことにする。
「それでは天子が黒ということで」
その藍の声で試合は幕を開けた。
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一手目は黒がどこに打っても同じ形になる。私は左に黒石を置いた。
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二手目、紫は縦に取ってくる。
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三手目、私は一番よく打たれるとも言われる兎定石を打つ。
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四手目、紫は通常の応手。
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五手目、私は早速仕掛ける。
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「いきなり天子が変化してきたね」
「藍さま、これはダメな手ですか?」
「いや、ダメかどうかはまだ分からない。ただ少し珍しい形になることは確かだ。普通の定石だともう一つ右に打つのだが――」
観戦している二人のそんな声が聞こえる。もちろんそれは私、そして紫も分かっていることだ。
六手目、紫は私が打った場所のすぐ横に打つ。
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七手目、一石取りできる良い手が他にないので私は斜めに取る。
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八手目、紫は一石取りでこちらの出方を窺ってくる。
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九手目、私は横に割っていく。
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十手目、紫は縦に割り返す。
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十一手目、私は無理をせず素直に打つ。
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十二手目、紫はここでも慎重に一石取り。
「藍様、紫様がいつになく真剣な表情で怖いですね?」
「こら、あとで怒られても知らないよ。でも、確かにあそこまで本気な紫様を見るのは珍しいかも知れない。天子の気迫がそうさせたのか――」
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十三手目、やはり定石を外した代償としてなかなか良い形で一石取りが出来ず、徐々に自分の石が増えていき打てる場所が減っていく。
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「これは紫様が有利ですか?」
「いや、石の数では確かにそう言えるけど、紫様も中央に石がなくてあまり楽には打てない状況だね。少し打ち間違えたら外側を白石が覆って形勢が逆転する難しい進行だ」
十四手目、紫は落ち着いてセオリー通りの一石取りを打ってくる。
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十五手目、私は上側に壁が出来ることを承知で打つ。
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十六手目、紫は中割りでこちらの選択肢を増やさない手で進めてくる。
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十七手目、私は少し考えて右辺に打つことにした。
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十八手目、紫も中割りを消すために右辺に付き合ってくる。
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十九手目、私は消された中割りを復活させる一石取りを打つ。
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二十手目、紫は右辺を取り再度中割りを消してくる。
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二十一手目、私は右辺の形を見ながら少し考えて、二石取りになった中割りに打つ。
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二十二手目、紫は右辺に打ち込む。ピュアブロックが出来てしまうが私がそこに中割りを打つ前に打って手数を稼いだ方が得と判断したらしい。
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二十三手目、私は下辺に打つ。
「だんだん上の黒の壁が効いてきて天子の打てる場所が限られてきたね」
「藍様、このままだとどうなりますか?」
「このまま素直に行くと、数手先で黒は左の白石を取るしかなくなって左にも壁が出来てしまう。そうなると打てる選択肢はなくなってしまって勝つのは難しくなるだろうね。一見する限りは、天子には厳しい展開だ」
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二十四手目、紫は右上に打ってくる。これで私は右下に打つ選択肢を消された。
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(このままじゃまずいわね、左に手を付けて本格的に打つ場所がなくなってしまったら逆転の目を探すのは難しい)
紫の打ち間違いには期待できないだろうし、活路を求めるならここが最後のチャンスになる。私はそう考えて、起死回生の一手を探す。
二十五手目、私は考えた末に、右上の隅を取られる覚悟で放り込んだ。
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「これは紫様が隅を取れますか?」
「そうだね、確かに取れる。ただ取ったらすぐ下に入り込まれて、その後の進行次第では右下隅まで含めた右辺が全部黒に変わってしまう恐れがある。紫様としては、右上隅はいつでも取れる余裕手と考えて、少し慎重に手を進めていくだろう」
「あ、スタナーっていうやつですか?」
「それはストーン・コールド・スティーブ・オースチンの必殺技だね。正しくはストナー。だけどこれはストナーでもない。紫様は右辺にC打ちをしていないし、仮にしていても手数を稼げる形ではないからその場合はただのウイングだね。紫様の右辺がウイングだったなら天子のこの手は普通に打たれるセオリー通りの一手になるけれど、この場合は少し複雑な読み合いになるだろう」
藍たちの言っているストナーというのはちょっと複雑な連携技だ。魔理沙に教わりはしたが発動条件が少し厳しく、その状況に相手を追い込むのが私には難しく実戦で狙えたことはない。使えれば相手に隅を一つ渡すことにはなるが手数を稼げる上に反対側の隅も手に入るなかなかに強い手だ。……まあ私には使えないけど。
二十六手目、紫は下辺に打ってくる。紫はいつ右上の隅を取るのか、ここからは読みの勝負になってくる。
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二十七手目、あまり選択肢がなく、私も下辺に打つ。
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二十八手目、紫も警戒しているらしい。少し考えて上側に一石取りを打った。
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二十九手目、私は下辺で手を稼ぐ。上側と左側の白石が、おそらくは私の生死を司ると私は読んでいる。
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三十手目、どうせ右上の隅が取れるのだからと、紫は壁を作るのを承知で上側に打ち込んでくる。これで私は右下の打てる場所が消された。
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三十一手目、私は左に一石取りを打つ。
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三十二手目、紫は下側に中割りを打ってくる。これをされる限り私の打てる場所は増えない。
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三十三手目、私は左下に打ち込むことを嫌い、右上にC打ちをする。
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三十四手目、紫は上辺に打つ。私のC打ちに対してセオリー通りの対応。
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三十五手目、私は左上側の一石取りを打つことであくまでも左下の白石を残し続ける。
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三十六手目、紫は左下に打つ。中割りではあるが、ここは私に打たせたかった場所だろう。私と同じように、きっと紫も苦しいはずだと、私は自分に言い聞かせる。
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三十七手目、私は上辺に打つ。
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三十八手目、紫は左辺に打った。
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三十九手目、私は左辺に打ちたくなかったので上辺に打つ。右上の隅を取られたら全部相手に取り返されるが、それは最初から覚悟していたことだ。私は右上の隅を捨てた時点で上辺も捨てていた。あくまでも私は勝機を右辺、そして下辺と左辺の進行の中に見つけ出そうとしている。
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四十手目、お互い打てる場所が少なくなってきた。紫は左側に打つ。
「これは……気付けば紫様の白石が左側で壁になっていて打てる場所がなくなっている。――天子はずっとここの攻防を睨んで左側の白石を頑なに残し続けていたのか」
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四十一手目、右下に私は打つ。
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四十二手目、紫の打った手は上辺だ。
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四十三手目、私も上辺で手数を稼ぐ。これで上辺は隅から隅へと白が取れる状態になってしまった。しかし上辺は最初から捨てると決めていた以上、ここで無理に他の場所に打って手数で損をしてしまうと他の辺の勝負が危うくなる。左辺は白が壁になっていて一応は私が有利な状況に見える。
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四十四手目、とうとう紫が右上の隅を取った。このタイミングがもっとも私にダメージを与えられると判断したのか、それとも余裕手に打たざるを得ないほどに他の場所で余裕がなくなっているのか。
――私はちゃんと紫を追い込めているだろうか?
不安から、ふとそんなことを考えてしまう。けれど――。
(――自分がここだと思った場面では、自分を信じて強気に打つんだ)
そんな魔理沙の言葉が、私の不安を拭い去る。ここまで来た以上、もうやるしかない。
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四十五手目、私は左上に打つ。右上は相手が打てない余裕手なのでいいタイミングで打ちたい。
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四十六手目、紫は左上の隅を取る。これによって上辺はすべて白石となり、同時に紫の確定石になった。
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四十七手目、私は左上隅のすぐ下に打って入り込む。
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四十八手目、紫は右下に打ってきた。これで私は右下の隅を取ることが出来る。
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四十九手目、私は素直に隅を取る。ここまでくれば私ももう間違えない。紫に打てる場所の選択肢はなく、今はもう打ちたくない場所にしか打てなくなっているのだから。
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五十手目、紫は淡々と石を置く。
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五十一手目、同じく私も石を置く。
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五十二手目、紫に選択肢はない。
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五十三手目、私は最後まで手を抜かない。
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五十四手目。
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五十五手目。
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五十六手目。
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五十七手目。
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五十八手目。
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五十九手目。
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そして最後の六十手目、紫は石をおけないので私が置いて終局。
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「47対17……完敗だわ」
紫が静かにそう呟いた。
「勝った…………?」
その事実を確認すると、私の心には不意に様々な記憶が浮かび上がってくる。紫の部屋を掃除していて、オセロ一式を見つけたときのこと。紫にルールを教わりながら、ただ闇雲に石を置いていたときのこと。紫に質問しながら、一つ一つ手探りに勝ち方を模索していたときのこと。何連敗しても、全く辛くなくて。むしろ楽しいとさえ思っていたこと。
――そこにふと転がり込んできた、紫に対しての初勝利。
それが譲られたものであると気付きもしないで。馬鹿みたいに喜んで。でもきっと、普段の紫ならそんな思い上がりは、すぐにたしなめてくれるはずで。
私が、紫と対等であったなら。私が、紫に優しくされるだけの弱い存在でなければ。
――きっと紫は私に何一つ遠慮することなんてなかったはずなのに。
私が弱いから。私は救われるばかりで、何も紫に返せないから。そんな思いが、私と紫の距離を浮き彫りにしていった。そしてそのことが、どうしようもなく悲しくて。
「…………う……うぅ……」
色々な思いが交錯して、私は気付くと泣いていた。
私は悔しかったのだ。いつまで経っても、心の深い部分では紫と対等になれないことが。
だから証明しようとした。頑張れば私だって紫と対等になれるんだと。その手段がたまたまオセロだった。
今回の一戦は本当に出来すぎだった。百回に一回の偶然を掴んだような勝利だった。もう一回やれと言われてもおそらく出来ない。でも、それでいいと思った。
「天子……ごめんなさい。私のしたことで、貴方をそんなに苦しめてしまって」
「違う……違うの! そうじゃないの」
そうではないのだ。手加減されたこと、勝ちを譲られたこと。オセロはただのきっかけに過ぎない。私の悔しさや不安。その本質はもっと根深いところにある。
「紫……約束」
「……うん」
「私、自分で言うのも何だと思うけど、結構頑張ったんだよ」
「そうね、貴方は強かったわ」
「ねえ紫……私に負けて、悔しい?」
「…………ええ。ついこないだ始めたばかりの貴方に本気でやって負けるなんて、ね。こんな、悔しいなんて気持ち、本当に久々だわ」
「えへへ、やった。……これで少しは、紫と対等に近づけたかしら?」
「……そうね」
紫はなんでも器用にこなせる。頭が良くて、家事も出来て、オセロも強い。だからおそらく、初心者の私とオセロをしても「いつでも勝てる」という余裕があった。それが手加減や勝ちを譲ることに繋がった。負けてもいい、負けても悔しくない――いつでも勝てるのだから。そう思われている時点で私は紫と対等ではなかっただろう。たかがゲームのことと割り切れない、私はやはり子供っぽいのかもしれない。
それでも私は紫の傍にいたいと――対等でありたいと思うのだから、その気持ちには素直でありたいと思う。
「ねえ紫」
「ん?」
「大好き!」
「へ……?」
珍しく困惑した紫を見て、だから私は優しく微笑んだ。
「あの、ご両人。一応まだ我々も」
「いるんですよ?」
「34対30……天子、あなたの勝ちね」
石を手で数えもせずに見ただけでそう言ったのは八雲紫、私の対戦相手だ。
「…………あ、本当だ。わーい、勝った!」
私は手で石を数えてようやくその事実を実感し、両手を上げて喜んだ。
今まで全く勝てなかった紫への初勝利。これが嬉しくないはずがなかった。
多分私は子供のように無邪気に喜んでいたのだろう。紫はそんな私を見て、優しい顔をして微笑んでいた。
私たちが今やっているのはオセロと呼ばれるボードゲームだ。これは8×8=64マスの盤面と、表裏が白と黒になっている石を使って遊ぶもので、交互に石を置き、相手の色の石を自分の石ではさむと裏返すことが出来る。これを繰り返して自分の石を増やし、最終的に自分の色の石が多い方の勝ちというシンプルなゲーム。
「ねっ、紫。もう一回やろう?」
私は勝利に気を良くして、だからそんなことを言った。
そのあとも私は勝利を重ねて、上機嫌でニコニコと笑っていた。
紫は少し席を外すと言ってスキマで何処かへ行き、私がその帰りを待っていると、通りかかった藍に声をかけられる。
「ああ、天子。来ていたのですか」
「ええ、お邪魔しているわ。紫ならさっきちょっと出かけるって言ってたけど?」
「出かける……ああ、多分結界の点検をサボっている博麗の巫女を叱りに行ったのでしょう。……それなら紫様の代わりに天子、何か夕飯の希望はありますか?」
「夕飯ねぇ……あ、そうだ。藍が前作ってた揚げ物、えっと、パ、パ……」
「パコラですか?」
「そう、それ。それにあのソースみたいなのを付けたのが食べたい」
「パコラとチャツネですか。それだとメインにはなりませんが……まあいいでしょう。それを中心に献立を考えてみます」
「やった。藍の料理は絶品だからねー、今晩が楽しみだわ」
「そう言ってもらえると作り甲斐がありますね。……で、それはオセロですか?」
「そうよ。あ、そうだ。藍、一戦やらない?」
「いいですね、やりましょうか」
そうして藍ともオセロをやってみたのだが、どうにもやりづらいというか、打ちたくない場所に打たざるを得ないように誘導されているみたいに感じられた。盤面が進むにつれて私の打てる場所がどんどんと無くなっていく。不利になると分かっていても、そこに打つ以外の選択肢がそもそも無くなってしまうのだ。
結果として私は惨敗を喫した。
「ちょっと藍、強すぎるわよ」
「そうですか? まあオセロは昔、式を作るための訓練として紫様にみっちり仕込まれたので多少は自信がありますけど……それでも紫様には遠く及びませんね」
「え? 紫ってそんなに強いの?」
「滅法強いですね。というか、さっきまで紫様と対戦していたのでは?」
「あ、うん、そうだけど――」
「まあ、自分が上手くなってみないと、相手の実力がどれくらいかなんて分かりませんからね。天子は勘がいいですけど、やっぱり序盤の定石が曖昧で劣勢からスタートしているのが勿体無いですね……天子?」
「え、あ、いや、そうね。もうちょっと練習しないとダメみたいだわ」
「そうですね。打倒紫様となると、相当の覚悟がいるでしょう。そんな天子のために、少しだけ序盤の定石を教えます。このオセロというゲーム、先攻は黒ということになっていますが、最初の一手はどこに打っても同じなので実質的にゲーム展開の選択権は白にあります。基本的には2パターン、縦に取る形と、ナナメに取る形です。横に3つずつ石が並ぶ形は白側にとって序盤から不利になることが多いので滅多に打たれません。白側が縦に取った場合、黒の選択肢は――――」
藍の熱心な講義を聞いて、私は少しだけオセロの定石を理解した。というかそれまでは定石などというもの自体知らず、ただ感覚的に石を置いていただけなので、そうした意味では藍の話は目から鱗だった。確かに藍との対戦では、自分の石が外側を覆っていて置ける場所が極端に少なかった。オセロは相手の選択肢を奪い合うゲームだと藍は言った。なるほどそう考えれば確かに、外側を自分の石が覆っている状態というのは劣勢であることが分かる。同様に序盤から自分の色の石が多いというのも不利なのだ。
ただそうしたゲームへの理解とは別に、私は当然のように気になることがあった。
――どうして素人同然の私が、紫に勝てたりしたのだろうか。
いや、その理由ははっきりとしている。単に紫が手加減をしたというだけの話に違いない。だから問題があるとすれば、何故、紫が手加減をしたのかという一点だ。
もちろん私は初心者なので、上級者の紫とでは普通にやっても一方的すぎてゲームが成立しないだろう。だから私が楽しめるように手加減をしたと考えるのが自然だ。
――それ自体は、いい。
いや、正直な気持ちでいえばそれもよくはないのだけれど、仕方のないことだと割り切れる。そもそもは私が弱いことに原因があるのだから。
けれど、だったら最初から紫は手加減すると、そう私に言ってくれたら――ああそうか。
そんなことを言われたら、私の性格ではまず間違いなく「いいから本気でやって」と言うに違いない。そうしてコテンパンにやられて、悔しさに身を震わせ涙を堪えながらこの家を飛び出していく自分の姿が見て取れる。
我ながら情けないことだと思うけれど、おそらくはそうなっただろう。
そして紫はそれを避けたかったに違いない。だから手加減をして、初心者の私にもオセロを楽しめるように工夫してくれたのだ。それは紫の優しさである。
けれど今の私はそんな紫の態度に、もやもやとした感情を抱えていた。
全ては私の幼さに原因がある――それは私自身分かりきっている。
だからこれから言うことはそうだと分かりきった上での、単なるわがままだ。
――私はたとえ悔しさに涙する結果になったとしても、それでも紫には全力を出して欲しかったのだ。
藍が夕飯の準備に行くと、すぐに紫が戻ってきたけれど、私はオセロの続きを紫とやろうという気は起きなかった。今は適当に紫の本棚から難しそうな本を取って、適当に開きながらゴロゴロとしている。紫はそんな私に少し不思議そうな目を向けていたが、気付かない振りをした。
そして私は考える。オセロのこと、藍のこと、紫のこと、そして自分のこと。
考えてみても分からないことだらけ。
そうして今までの私はきっと出ない答えにもやもやとした気持ちを抱えたまま、不機嫌な顔を隠そうともせずに拗ねていただろう。そんな私の不満に誰かが気付いてくれることを期待して。救ってくれることを、ただ願って。
かつて私は自身の境遇への不満から暴れまわり、他人に多大な迷惑をかけた。あの頃と比べたら、私は成長しているはずだ。むしろそうでなければならない。
――だったら私のやるべきことなんて、一つではないか。
いつまでも救われるのを待っているだけの少女ではないのだから。
夕飯を終えて、それぞれが思い思いのことをしていた。私は洗い物をしている藍の元へと向かうことにする。
「藍、手伝うわよ」
「え? いえ、客人にそんなことは」
「そんなの、今さら気にすることでもないでしょ?」
「……そうでした。紫様の部屋の掃除やら何やら、すでに何度もさせてしまっていますね」
「そうそう、それに藍にちょっと相談もあるし」
「……? まあ、構いませんが」
そうして少し場所を空けてもらい、分担しながら洗い物を片付けていく。
「今日のご飯も美味しかったわ。さすがは藍ね、また腕をあげたかしら?」
「あはは、ありがとうございます」
少し照れくさそうに藍が笑った。普段は凛としていて真面目で格好良い雰囲気だが、こうしているときはとても可愛らしいと思う。洗い物をしていなければ抱きしめたい。
「藍に料理を教えたのも紫なのよね?」
「そうですね。というよりも、今の私が出来ることは、そのほとんどが紫様に教えていただいたことです」
「なるほどねぇ……」
となると、やはり紫は何でも出来てしまうのだろう。頭が良くて、家事も出来て、オセロも強い。ずるい。
「そういえば天子、私に相談があると言っていましたが?」
「ああ、そうね。オセロのことなんだけどね」
「オセロですか」
「オセロで紫より強いのって誰か心当たりない?」
「紫様より……うーん、私が対戦した中では紫様がやはり最強かと」
「やっぱりそうかぁ……」
「あ、でも紫様が言っていたのですが――」
「そういうわけなのよ」
私が事情を説明すると、目の前の彼女は面倒臭そうに頭をかいた。
「いや、そういうわけと言われてもだな」
「私にオセロを教えてください! 魔理沙師匠!」
「師匠言うな。うーん……オセロか」
魔理沙は腕を組んで少し考える。
「……まあ、暇というわけではないが、急ぎの用があるわけでもないし、ちょっとくらいなら付き合ってもいいぜ」
「本当? わーい、魔理沙ありがとう!」
「ちょ、こら、ひっつくなって」
そうして嫌がる魔理沙に無理矢理スキンシップをした。
「とりあえず、天子の実力を知らないことには教えようがないし、まずは何度か打ってみるか」
「そうね」
「じゃあオセロの準備だが……天子、頼んだぜ?」
「……? それくらい別にいいけど……ん? 魔理沙、もしかしてだけど――」
「多分お前の思っていることが正解だが、言ってみるか?」
「いや、いいわ。で、心当たりはどの辺?」
「そっちの山じゃないかとは思うんだが」
「自信はない、と。はぁ……まあこれも自分のため、か」
私は嘆息しながら、魔理沙が指差したガラクタの山へと向かう。
理由はもちろん、オセロ盤と石の捜索だ。
「ふむ。序盤の定石は意外としっかり形になってるな」
「うん、藍に教わったの」
「なるほど。確かに定石を教えるという意味では適任か」
「で、どう? 私は紫に勝てるようになりそう?」
「あー、正直言って今のままだと無理だな。百回やったら百回負ける」
「そんなにダメ?」
「ダメってわけじゃない。むしろセオリーを良く理解しているし、お前は正しいオセロを打っていると思うぜ」
「……? だったら――」
「だからこそ、だ。正しくセオリー通りに打ち合ったら、勝つのは上手い方だ。こればかりは長い年月をかけた研究と努力がモノを言う。付け焼刃ではどうにもならないんだぜ」
なるほど。確かに魔理沙の言うことは理に適っている。
「紫や藍のオセロは正統派だ。そいつらの土俵で戦ったらさすがに勝てない。私だって無理だぜ」
「じゃあ魔理沙はどうやって――」
藍は言っていた。自分は対戦したことがないけれど、魔理沙は紫と五分か、あるいは少し勝ち越す程度に渡り合っていたと。
「読み合いだよ。そのために機を見てセオリーを崩す。闇雲にセオリーから外れても自分の首を絞めるだけだが、自分がここだと思った場面では、自分を信じて強気に打つんだ」
「強気?」
「あー、失敗を恐れないっていうのかな。定石ではないセオリーから外れた手を恐れるなってことだ。お前が教わった序盤の定石ってのは本当にメジャーな進行だけで、お前が教わってない中には最善手ではないが悪手でもない、あまり打たれないだけの手が無数にある。だがこれを一つ一つ覚えるのはさすがに無理がある。それが人間の、そして妖怪の限界ってわけだ」
「……? つまり?」
「つまり、どちらも進行を覚えていない形なら条件は五分五分ってことだ。勝負はどちらに転ぶか分からない。一つの読み間違えで勝敗が簡単に入れ替わる」
よく打たれるメジャーな進行では知識と経験の差がそのまま有利不利に直結する。だったらあえてこちらからセオリーを外れた手を打てば、少なくとも相手の知識が及ばず、経験も少ないであろう展開に持ち込める。魔理沙が言ったのはそういうことだろう。
「もちろんそれで勝てるという保証はない。セオリーから外れたときにモノを言うのは結局のところは地力――そいつの本来持っている実力だ」
「じゃあやっぱりダメじゃん」
実力勝負となったら今の私が紫に勝てるはずもない。
「それがそうとも限らないんだぜ。全てを読みきるなんてどんなに強い奴だって不可能なんだ。百回やって百回読み勝てる奴なんていない。たとえ紫でも、だから絶対にどこかで隙が生まれる。それに幸いなことに天子、お前は勘が良さそうだしな。相手の隙を見つけて勝負をかける場面は、間違えず見つけられるかも知れないぜ?」
「かもって……」
「そりゃ相手が紫なんだから、絶対に勝てるなんて言えないしな」
そういって魔理沙は笑う。
けど、確かにそうだ。ちょっと勉強したくらいで、今まで一度も本気を出させたことすらない紫に勝てるほうがおかしいのだ。それでも勝ちたいと思ってしまうのなら、運やまぐれを当てにする他ない。
「セオリーを外すタイミングは場合によるから教えようがないし……とりあえずは終盤の詰めの部分からでも教えるとするか。せっかく読み勝って勝てる流れを作ったのに最後にミスをして負けたら勿体無いしな」
「……そうね。じゃあお願いするわ、魔理沙」
元より無理を通そうとしているのだ。勝機という細い糸を手繰り寄せるために、やれることがあるなら私は何だってしよう。そして私は紫に――証明するのだ。
「紫!」
「あら天子……どうしたの?」
普段と違って真剣な雰囲気の私に、紫は少し困惑しているようだった。いや、普段の私がふざけているというわけではないのだけれど。
「私とオセロで勝負して」
「オセロ? それくらい別に、いつでもやるわよ?」
「それは、こないだみたいに?」
「ええ、そうね」
「……でも紫、こないだ手加減してたでしょ?」
「………………」
無言の肯定。
「別に、そのことを咎めているわけじゃないわ。そもそもは私が弱いのが悪いんだから。けどそれも最初みたいに手加減しながらも紫が勝つならの話よ。最後の数戦みたいにわざと勝ちを譲られて、それにも気付かずに無邪気に喜んで……全く、私が馬鹿みたいじゃない!」
「それは……」
「ごめん。本当は分かってるの。別に紫は私を馬鹿にしたかったわけじゃないって。私はあくまで思い上がって勘違いした自分に腹を立てているだけだって。だからこれは紫の優しさに気づけなかった私の単なる八つ当たり」
「………………」
「紫、本気を出してとは言わない。本気を出すかどうかは紫に任せる。その上でもう一回言うわ。……私と勝負して」
「…………わかったわ」
「この勝負、紫が勝ったら紫の言うことを何でも一つだけ聞いてあげるわ。代わりに、私が勝ったら私の質問に正直に答えてもらう。それでいい?」
「それで構わないわ」
紫は真剣な顔でそう答えた。
私の普段とは異なる雰囲気の声を聞いてか、藍と橙が顔を覗かせた。ちょうどいいと思い、勝負のことを伝えて、二人には勝敗を見届けて貰うことにする。
「それでは天子が黒ということで」
その藍の声で試合は幕を開けた。
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一手目は黒がどこに打っても同じ形になる。私は左に黒石を置いた。
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二手目、紫は縦に取ってくる。
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三手目、私は一番よく打たれるとも言われる兎定石を打つ。
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四手目、紫は通常の応手。
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五手目、私は早速仕掛ける。
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「いきなり天子が変化してきたね」
「藍さま、これはダメな手ですか?」
「いや、ダメかどうかはまだ分からない。ただ少し珍しい形になることは確かだ。普通の定石だともう一つ右に打つのだが――」
観戦している二人のそんな声が聞こえる。もちろんそれは私、そして紫も分かっていることだ。
六手目、紫は私が打った場所のすぐ横に打つ。
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七手目、一石取りできる良い手が他にないので私は斜めに取る。
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八手目、紫は一石取りでこちらの出方を窺ってくる。
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九手目、私は横に割っていく。
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十手目、紫は縦に割り返す。
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十一手目、私は無理をせず素直に打つ。
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十二手目、紫はここでも慎重に一石取り。
「藍様、紫様がいつになく真剣な表情で怖いですね?」
「こら、あとで怒られても知らないよ。でも、確かにあそこまで本気な紫様を見るのは珍しいかも知れない。天子の気迫がそうさせたのか――」
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十三手目、やはり定石を外した代償としてなかなか良い形で一石取りが出来ず、徐々に自分の石が増えていき打てる場所が減っていく。
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「これは紫様が有利ですか?」
「いや、石の数では確かにそう言えるけど、紫様も中央に石がなくてあまり楽には打てない状況だね。少し打ち間違えたら外側を白石が覆って形勢が逆転する難しい進行だ」
十四手目、紫は落ち着いてセオリー通りの一石取りを打ってくる。
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十五手目、私は上側に壁が出来ることを承知で打つ。
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十六手目、紫は中割りでこちらの選択肢を増やさない手で進めてくる。
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十七手目、私は少し考えて右辺に打つことにした。
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十八手目、紫も中割りを消すために右辺に付き合ってくる。
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十九手目、私は消された中割りを復活させる一石取りを打つ。
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二十手目、紫は右辺を取り再度中割りを消してくる。
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二十一手目、私は右辺の形を見ながら少し考えて、二石取りになった中割りに打つ。
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二十二手目、紫は右辺に打ち込む。ピュアブロックが出来てしまうが私がそこに中割りを打つ前に打って手数を稼いだ方が得と判断したらしい。
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二十三手目、私は下辺に打つ。
「だんだん上の黒の壁が効いてきて天子の打てる場所が限られてきたね」
「藍様、このままだとどうなりますか?」
「このまま素直に行くと、数手先で黒は左の白石を取るしかなくなって左にも壁が出来てしまう。そうなると打てる選択肢はなくなってしまって勝つのは難しくなるだろうね。一見する限りは、天子には厳しい展開だ」
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二十四手目、紫は右上に打ってくる。これで私は右下に打つ選択肢を消された。
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(このままじゃまずいわね、左に手を付けて本格的に打つ場所がなくなってしまったら逆転の目を探すのは難しい)
紫の打ち間違いには期待できないだろうし、活路を求めるならここが最後のチャンスになる。私はそう考えて、起死回生の一手を探す。
二十五手目、私は考えた末に、右上の隅を取られる覚悟で放り込んだ。
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「これは紫様が隅を取れますか?」
「そうだね、確かに取れる。ただ取ったらすぐ下に入り込まれて、その後の進行次第では右下隅まで含めた右辺が全部黒に変わってしまう恐れがある。紫様としては、右上隅はいつでも取れる余裕手と考えて、少し慎重に手を進めていくだろう」
「あ、スタナーっていうやつですか?」
「それはストーン・コールド・スティーブ・オースチンの必殺技だね。正しくはストナー。だけどこれはストナーでもない。紫様は右辺にC打ちをしていないし、仮にしていても手数を稼げる形ではないからその場合はただのウイングだね。紫様の右辺がウイングだったなら天子のこの手は普通に打たれるセオリー通りの一手になるけれど、この場合は少し複雑な読み合いになるだろう」
藍たちの言っているストナーというのはちょっと複雑な連携技だ。魔理沙に教わりはしたが発動条件が少し厳しく、その状況に相手を追い込むのが私には難しく実戦で狙えたことはない。使えれば相手に隅を一つ渡すことにはなるが手数を稼げる上に反対側の隅も手に入るなかなかに強い手だ。……まあ私には使えないけど。
二十六手目、紫は下辺に打ってくる。紫はいつ右上の隅を取るのか、ここからは読みの勝負になってくる。
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二十七手目、あまり選択肢がなく、私も下辺に打つ。
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二十八手目、紫も警戒しているらしい。少し考えて上側に一石取りを打った。
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二十九手目、私は下辺で手を稼ぐ。上側と左側の白石が、おそらくは私の生死を司ると私は読んでいる。
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三十手目、どうせ右上の隅が取れるのだからと、紫は壁を作るのを承知で上側に打ち込んでくる。これで私は右下の打てる場所が消された。
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三十一手目、私は左に一石取りを打つ。
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三十二手目、紫は下側に中割りを打ってくる。これをされる限り私の打てる場所は増えない。
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三十三手目、私は左下に打ち込むことを嫌い、右上にC打ちをする。
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三十四手目、紫は上辺に打つ。私のC打ちに対してセオリー通りの対応。
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三十五手目、私は左上側の一石取りを打つことであくまでも左下の白石を残し続ける。
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三十六手目、紫は左下に打つ。中割りではあるが、ここは私に打たせたかった場所だろう。私と同じように、きっと紫も苦しいはずだと、私は自分に言い聞かせる。
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三十七手目、私は上辺に打つ。
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三十八手目、紫は左辺に打った。
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三十九手目、私は左辺に打ちたくなかったので上辺に打つ。右上の隅を取られたら全部相手に取り返されるが、それは最初から覚悟していたことだ。私は右上の隅を捨てた時点で上辺も捨てていた。あくまでも私は勝機を右辺、そして下辺と左辺の進行の中に見つけ出そうとしている。
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四十手目、お互い打てる場所が少なくなってきた。紫は左側に打つ。
「これは……気付けば紫様の白石が左側で壁になっていて打てる場所がなくなっている。――天子はずっとここの攻防を睨んで左側の白石を頑なに残し続けていたのか」
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四十一手目、右下に私は打つ。
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四十二手目、紫の打った手は上辺だ。
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四十三手目、私も上辺で手数を稼ぐ。これで上辺は隅から隅へと白が取れる状態になってしまった。しかし上辺は最初から捨てると決めていた以上、ここで無理に他の場所に打って手数で損をしてしまうと他の辺の勝負が危うくなる。左辺は白が壁になっていて一応は私が有利な状況に見える。
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四十四手目、とうとう紫が右上の隅を取った。このタイミングがもっとも私にダメージを与えられると判断したのか、それとも余裕手に打たざるを得ないほどに他の場所で余裕がなくなっているのか。
――私はちゃんと紫を追い込めているだろうか?
不安から、ふとそんなことを考えてしまう。けれど――。
(――自分がここだと思った場面では、自分を信じて強気に打つんだ)
そんな魔理沙の言葉が、私の不安を拭い去る。ここまで来た以上、もうやるしかない。
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四十五手目、私は左上に打つ。右上は相手が打てない余裕手なのでいいタイミングで打ちたい。
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四十六手目、紫は左上の隅を取る。これによって上辺はすべて白石となり、同時に紫の確定石になった。
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四十七手目、私は左上隅のすぐ下に打って入り込む。
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四十八手目、紫は右下に打ってきた。これで私は右下の隅を取ることが出来る。
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四十九手目、私は素直に隅を取る。ここまでくれば私ももう間違えない。紫に打てる場所の選択肢はなく、今はもう打ちたくない場所にしか打てなくなっているのだから。
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五十手目、紫は淡々と石を置く。
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五十一手目、同じく私も石を置く。
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五十二手目、紫に選択肢はない。
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五十三手目、私は最後まで手を抜かない。
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五十七手目。
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五十八手目。
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五十九手目。
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そして最後の六十手目、紫は石をおけないので私が置いて終局。
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「47対17……完敗だわ」
紫が静かにそう呟いた。
「勝った…………?」
その事実を確認すると、私の心には不意に様々な記憶が浮かび上がってくる。紫の部屋を掃除していて、オセロ一式を見つけたときのこと。紫にルールを教わりながら、ただ闇雲に石を置いていたときのこと。紫に質問しながら、一つ一つ手探りに勝ち方を模索していたときのこと。何連敗しても、全く辛くなくて。むしろ楽しいとさえ思っていたこと。
――そこにふと転がり込んできた、紫に対しての初勝利。
それが譲られたものであると気付きもしないで。馬鹿みたいに喜んで。でもきっと、普段の紫ならそんな思い上がりは、すぐにたしなめてくれるはずで。
私が、紫と対等であったなら。私が、紫に優しくされるだけの弱い存在でなければ。
――きっと紫は私に何一つ遠慮することなんてなかったはずなのに。
私が弱いから。私は救われるばかりで、何も紫に返せないから。そんな思いが、私と紫の距離を浮き彫りにしていった。そしてそのことが、どうしようもなく悲しくて。
「…………う……うぅ……」
色々な思いが交錯して、私は気付くと泣いていた。
私は悔しかったのだ。いつまで経っても、心の深い部分では紫と対等になれないことが。
だから証明しようとした。頑張れば私だって紫と対等になれるんだと。その手段がたまたまオセロだった。
今回の一戦は本当に出来すぎだった。百回に一回の偶然を掴んだような勝利だった。もう一回やれと言われてもおそらく出来ない。でも、それでいいと思った。
「天子……ごめんなさい。私のしたことで、貴方をそんなに苦しめてしまって」
「違う……違うの! そうじゃないの」
そうではないのだ。手加減されたこと、勝ちを譲られたこと。オセロはただのきっかけに過ぎない。私の悔しさや不安。その本質はもっと根深いところにある。
「紫……約束」
「……うん」
「私、自分で言うのも何だと思うけど、結構頑張ったんだよ」
「そうね、貴方は強かったわ」
「ねえ紫……私に負けて、悔しい?」
「…………ええ。ついこないだ始めたばかりの貴方に本気でやって負けるなんて、ね。こんな、悔しいなんて気持ち、本当に久々だわ」
「えへへ、やった。……これで少しは、紫と対等に近づけたかしら?」
「……そうね」
紫はなんでも器用にこなせる。頭が良くて、家事も出来て、オセロも強い。だからおそらく、初心者の私とオセロをしても「いつでも勝てる」という余裕があった。それが手加減や勝ちを譲ることに繋がった。負けてもいい、負けても悔しくない――いつでも勝てるのだから。そう思われている時点で私は紫と対等ではなかっただろう。たかがゲームのことと割り切れない、私はやはり子供っぽいのかもしれない。
それでも私は紫の傍にいたいと――対等でありたいと思うのだから、その気持ちには素直でありたいと思う。
「ねえ紫」
「ん?」
「大好き!」
「へ……?」
珍しく困惑した紫を見て、だから私は優しく微笑んだ。
「あの、ご両人。一応まだ我々も」
「いるんですよ?」
私のPCではそう表示されるかもしれませんが。
最後の告白には萌えましたね。甘かったですw
主人公が盤面を説明しながら進む話は好きですよ。
いいゆかてん、そしていいオセロSSでした。
魔理沙を出したのは白黒だからかな?
小さいころは姉とよくオセロをやっていたのですが姉が強くていつも負かされてましたw
しかし、コンピューター並の計算能力を持つ紫に勝つとは天子凄すぎる。
ゆかてんも良かったです。
そういえば、囲碁や将棋ならばスパコン藍様にも普通に勝てそうですね
次の作品も期待してます
でも、宇宙の膨張や星が生まれ消える時間ですら一瞬で計算できる演算能力を持つ
紫に対して、パターンの単純なオセロで勝てるものなのかな、という疑問が。
相手に特別な想いを寄せているなら、尚更のことかもしれません
それにしても、オセロがこんなに奥が深いなんて…棋譜を見ていて驚きました
萌えた
ただ、ゆかりんならオセロの全手解析くらい済ませてそうな気がしちゃったので、この点数で。
もっと評価されてもいいと思います。
読んで損がない。
興味深いし、天子はかわいいし。
紫様が負ける可能性があるのかと言われると……冬眠前で眠かったのかも知れません。