Coolier - 新生・東方創想話

Silent Alice and Suffering Marisa

2011/07/03 22:25:14
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~事の発端~

朝の日差しが窓を照らし、その光がテーブルの上の紅茶に反射して、部屋全体が輝いた。アリスはそのカップを手に取り、目を閉じてじっくりその味を堪能する。どちらかというと甘い紅茶を好むアリスにとって、紅魔館の主から貰った不思議な味の紅茶はどうもしっくりこない。紅茶はアリスを曇った表情にした。
目を開けてアリスが元の場所にカップを戻すと、また部屋が朝の日差しに揺らめく。ただ、さっきより量が少ないので、部屋全体が包まれたわけではなかった。疎らに光って、逆に万華鏡のように綺麗だ。
「アリス。好き嫌いは良くないぜ?」
アリスの目の前にちょこんと座っている魔理沙は、アリスの表情を読み取ってそう指摘した。帽子は脇に置いてある。
光が目に当たっていると言うのに、魔理沙はじっとアリスを見据えている。
「好き嫌いじゃないわ。好みの問題よ。あなたが飲むかしら? 紅魔館の主がくれた乙な紅茶よ」
アリスが例のカップを持って、魔理沙の顔に近づける。色が変だ。さすが紅魔館である。
「いや、やめておこう」
魔理沙は両手の掌をアリスに向けて押し返すような仕草を見せ、アリスから目を離した。受け取り拒否のサインだ。
魔理沙は別な方を向きながら、目だけアリスに向けて言った。
「今日こんなに朝早くお邪魔したのは他でもない。アリスにやってもらいたい事があるんだぜ」
「何? またこの前みたいのは嫌よ」
以前アリスは魔理沙に同じような手口で話に乗せられてしまい、後悔した覚えがあった。
確か、会話の際は絶対に語数を十文字にする、と言うものだった。アリスは三日もしないうちにリタイアした。
「まあ焦るな。今回の遊びは景品付きなんだ」
「へぇ~。景品ねぇ」
アリスは新しい紅茶を注ぎながら、適当に流した。いつもの紅茶の匂いが香る。
「どうせ碌な景品じゃないんでしょ。早苗のいつも持っている棒とか、博麗神社の箒とか、蓬莱の薬とか」
「博麗神社の箒はさすがにない。有り得無い」
「いや冗談よ」
アリスはカップの取っ手に指を絡めて、紅茶の湯加減をチェックした。まだ熱い。
「で、何をやるの?」
「簡単に言おうか。お前、五日間喋んな」
「は?」
五日間喋らない?
そんなことをして魔理沙に何の得があると言うのだろうか? そもそもそんな事をして何の意味があると言うのだろうか?
「でも喋らないだけじゃつまらないな」
魔理沙がまだ何かを提案しようと、頭を捻らせる。
呆れたアリスは良い具合の温度になった紅茶を飲み始めた。やっぱりこれが一番しっくりくる。血なんて飲んでられるものではない。
不憫な少女が閃いた。
「そうだ! 一日一個ずつ掟を作ろう。その中で喋んな。これでどうだ?」
「どうだって言われても........」
「大丈夫大丈夫。易しい掟だから」
何時の間にか中身がなくなっていたカップをテーブルに置いて、アリスはとりあえずOKサインをだした。暇だし景品あるし近くに魔理沙がずっといるし、何だかんだで良い事尽くしだし。
「アリスは話が早くて助かるぜ」
さあ明日からどんな事が待ち受けているのか。アリスは若干楽しみだった。
「上海。紅茶ちょうだい」
「もう一つ宜しく頼むぜ」
アリスは空っぽになったカップにレモンの汁を入れ始めた。入れ損ねた汁がテーブルに降りかかる。すっぱい匂いが漂った。
「アリス、何やってるんだ?」
「レモンティーを作るのよ。レモン汁を空気に予め当てておいたほうが、良い味が出ると聞いたわ。だから汁を最初に入れてるの」
「こだわっているんだな」
「紅茶に関してはね。ところでやっぱり景品が気になるわね。言ってご覧なさいよ」
アリスが極限までレモン汁を搾り出しながら問い詰めた。
結構力をいれて、歯を食いしばりながら必死に搾っている。
「お楽しみは最後までとっておくのが利口だぜ」
「ごめんなさい。私せっかちなの」
「そうか。なら仕方ないか」
魔理沙がポケットに手を入れて何かを取り出した。くしゃくしゃの紙切れ。メモだろうか。
それを魔理沙が凝視する。
「えぇと.......ふむふむなるほどな」
「早く教えてよ」
「私の『鱚』だ」
「えっ!? 魔理沙の『キス』!?」
急にアリスの顔が真っ赤になり、レモンの皮をカップに落とした。
落ちた反動で、カップに溜まっていたレモン汁が音を立てて飛沫をあげた。
アリスは相当な量のレモン汁を搾り出していたらしい。
「そう。私の鱚だぜ。美味いぞ~」
「美味しいの!? 何でわかるの!?」
「食べた事があるからだ」
「食べたの!? 自分のを!?」
「五月蝿いなぁ、アリス。少し落ち着け」
興奮するアリスを魔理沙が宥める。背中を叩いて正気に戻そうとする。
「シャンハーイ」
上海がちょうど紅茶を持ってきた。手慣れた手つきで紅茶をテーブルにのせる。
「アリスはバカだな。上海はカップごと持ってきたぞ。レモンが勿体無い」
「そんな事はどうでも良いのよ。魔理沙のキス.......フフフフ.......」
アリスは不気味な笑い声を発しながら、ウサテイのPVの『俺自重......俺自重しろ.........』のところのような表情で歓喜に耽った。
朝の日差しがアリスの不気味な表情を照らした。
「ア、アリス? 大丈夫か?」
アリスは、絶対に五日間耐えきってやると、紅茶を飲みながら心に誓ったのであった。
とても大きな勘違いをしているのにも気付かずに。





~ルール説明~

ルール説明は私、霧雨魔理沙が担当するぜ。
まず一つ。アリスは五日間喋ったり叫んだり喘いだり笑ったりしてはいけない。もしそんな事をしたらキツイ罰が待っているんだぜ。補足だが、最終日は午後十八時でノルマクリアだぜ。
次にアリスは家から外に出てはいけない。外に出た瞬間にアリスの大好きな紅茶を霊夢にタダであげるつもりだぜ。
次にアリスはリタイアしてもよい。そうしたらつまんないやつだと思われてお終いだから、たぶんプライドにかけてアリスはやり遂げると思うぜ。前回は自主的では無くて、十一文字で喋ったからリタイアだったんだ。
次に魔理沙は喋ったり叫んだり喘いだり触ったりしてもよいが、アリスの監視をし続けなければならない。これは私が頑張らないとな。しっかり役目を果たすぜ。
最後に魔理沙はアリスに毎日一つずつ掟を提示してもよい。アリスには易しいって言ったけど、楽しめるようになかなか手強い掟をぶつけてやるぜ。

以上。アリスには『鱚』目指して頑張って欲しいぜ。
でも何であの時あんなに興奮してたんだろう?





~月曜日~

アリスは一言も喋らずに朝を過ごしていた。いつもは外の小鳥の鳴き声に合わせて鼻歌を歌っているのだが、今日から五日間それが許されない。
今は昼食までの読書タイムだ。これが一番静かに過ごせる最善手段である。
魔理沙はというと..........
「おーいアリス。この薬品とこの薬品を調合させたらどうなるんだ?」
勝手にアリスの大事な実験材料を漁っている。そして勝手に調合させようと目論んでいる。
さっきまでは、小学生三年生のようにバタバタ家の中を走り回っては、壁に体をぶつけて床に倒れ込む。家の中で一人カラオケを始めて、喉が枯れてお茶を飲もうとして、間違えて乙な紅茶を飲んでしまうなど、やりたい放題だった。
アリスはそんな魔理沙を無視し続けた。決まりなので仕方ない。
今回も無視し続けていると、魔理沙が寄ってきた。
「これとこれ。混ぜたらどうなるんだ?」
アリスは予め用意していた武器を魔理沙の顔に突き出した。自らの手である。掌に『集中しているから喋りかけないで』と書いておいたのだ。
「しょうがないやつだなぁ」
寂しそうに魔理沙が戻って行った。
【魔理沙には可哀想だけど喋るなって言ったんだからしょうがないわよね】
アリスは心の何処かで不憫な少女を気にしながら、読書を続けた。


結局、アリスは昼食を食べ終わってからも読書を続け、静かに過ごした。
魔理沙はずっと実験を一人でしていた。
たまに爆発する音が聞こえたが、アリスはそれでも読書を続けていた。


何時の間にか外は暗くなっており、電気一つではあまりにも読書をするには辛い環境になっていた。
ようやく夕食の時間になったので、アリスは立ち上がって台所へ向かおうとした。しかし、少しだけ魔理沙の事が気にかかった。
魔理沙の実験していた場所に行くと、言うまでも無くそこは荒れ果てていた。
棚は倒れ、本は散らかり、薬品は漏れていた。
【こんなに散らかして.........】
アリスは声をだして怒るのを堪え、魔理沙を探した。
予想外にあっさり魔理沙を見つけたアリスは、その体を起こして噴きそうになった。
顔は実験の所為で黒煙を浴びていて、髪は爆風でアフロのようになっており、目が半開き状態で気絶していたのだ。
【ぷっ、くくくく..........】
笑うのを必死に堪えて、とりあえず魔理沙を起こす事に専念した。
魔理沙の黒くなってしまった頬に往復ビンタを食らわしまくる。バチバチバチバチ。日頃の鬱憤晴らしタイム展開。べっ、別にあんたの為にやってるわけじゃないんだからねっ!
軽く五分は引っぱたいてから、魔理沙の顔をもう一回よく見てみる。
【うわっ。これはヒドイ】
さっきまでの黒かった頬は赤く腫れ、半開きだった虚ろな目は白目を剥いていた。アフロヘアーはよりボサボサに荒れていた。
【どうしてこうなったし】
アリスは自分がやったのではないと自己暗示して台所へ向かった。





~火曜日~

アリスは昨日の鬱憤晴らしで非常に気分が良かった。別に魔理沙を叩いて嬉しいのではないのだが。
昨日と同じようにアリスは朝を過ごした。
ただ、昨日と違うのは五月蝿い少女がいないことだ。
アリスよりも後に起きてきた魔理沙は、アリスに『鏡を見てご覧なさい』と書かれた紙を提示され、洗面所に行ったところ、寝込んでしまった。
頬を引っぱたいたことは伏せておいた。


夕食も終え、もう寝ようかと思って寝室に行った。
昨日から一言も喋っていないので、夜遅くまで起きていても仕方がないと学んだのだ。
魔理沙が実験をしていた部屋の前の廊下は、ギシギシと音を立てるようになってしまった。実験の衝撃が大きかったことを物語っている。昨日の魔理沙の顔で既に実感済みだったが。
寝室のドアを開けて、ベッドに顔面からダイブしたら、顔に何かが下敷きになった。
それを拾い上げるとどうやら一枚の紙である。
暗くて読めないので明かりをつけた。仄かな空間がアリスを包む。
紙にはこう書かれていた。
『掟を出すの忘れてたから今出すぜ。一つは読書禁止。もう一つは私と一緒に遊ぶこと。明日から施行。異論は認めないぜ』
あの顔でよく考えていたものだと罵倒してから、アリスは枕に顔をうずめた。





~水曜日~

今日は朝から魔理沙と遊んでいた。とは言っても魔理沙が一方的に話しているだけだが。
昨日がアレだったのでさすがに寂しくなった魔理沙が遊ぶことを提案したのだ。
今日提示された掟は、食事は魔理沙が作るという内容だった。
魔理沙の顔は頬以外すっかり元に戻っていた。頬はお餅のように膨らんだままだ。
「それで崖の寸前で止まった車のナビに『シネバヨカッタノニ』って出たんだ!」
【全っ然怖くない】
今日は魔理沙が一方的に怪談を話していた。怖がって叫ぶアリスを理想して、魔理沙が立てた計画だ。わざと叫ばせるという卑怯極まりない手段にはしった魔理沙の思惑通りにはいってないようだった。
アリスにとっては、目の前で魔理沙がずっと話していたので逆に幸せだった。話している本人が怖がっているので、可愛い。
【こんな話で私が叫ぶとでも思っているのかしら?】
「アリスは怖い話には耐性があるようだな。私が怖くなってきたぜ」
魔理沙は両手でしっかり自らの身体を抱きしめて震えていた。
アリスはそんな少女を見て笑いそうになってしまった。
でも、だんだん可哀想で見てられなくなってきた。
「そろそろ夕食にするか!」
よっこらせと魔理沙が立ち上がって、台所に向かった。
【そう言えば魔理沙が食事を作ることになったんだっけ】
とりあえず魔理沙に作らせてあげようとアリスは思いつつ、読書を始めたのだった。


「出来たぜー夕食!」
魔理沙がお盆に二人分の夕食を乗せてきて、アリスに叫んだ。
アリスは魔理沙が来たので、慌てて読書を中断した。もちろん掟に従って。
『メニューは何?』と書いた紙を魔理沙に見せる。
一瞬バランスを崩した魔理沙が、テーブルに食事を並べながら言った。
「魔理沙特製パンと魔理沙神的秘密味付ミネストローネだぜ!」
アリスはテーブルに置かれた料理をみて、上から目線で評価した。
【パンは明らかに適当に冷蔵庫から見つけたものを解凍したものだわ。ミネストローネの見た目はさほど悪くないわね。でもニンジンが少しだけ大きいかも。あっ! これはもしかして】
アリスは緑色のオクラのような物体を見てしまった。デコボコがついた気持ち悪い食材。
【まさかゴーヤいれた? それに赤く染まってるから、ところ構わずタバスコをぶっかけまくったわね。よし見てなさい。ギャフンと言わせてあげるわ】
時計の八時のお知らせのチャイムが鳴った。誰がどう聴いたって『恋色マスタースパーク』が流れた。
それに少し顔を赤らめながら咳払いを一つして、アリスはまた魔理沙に紙を提示した。
『私、実はマヨネーズがないとパンが食べられないの。冷蔵庫にあるから取って来てちょうだい。あとスプーンも忘れないでね』
「何か足りないと思ったらスプーンか! ちょっと待ってろ」
魔理沙が急いで台所へ戻って行った。途中で壁に体をぶつけたが、よろめいただけだった。
【チャンスなう!】
アリスが一瞬のうちに魔理沙とアリスのミネストローネを入れ替えた。念の為にパンも入れ替えておいた。
どうやら魔理沙のミネストローネにもゴーヤは入っているらしい。ゴーヤが好きなのだろうか?
「持って来たぞ」
魔理沙が喋らないアリスにスプーンを渡した。
「いただきます」
アリスは手を合わせるだけだった。喋れないので仕方がない。
恐る恐るスプーンをミネストローネに入れて、口に運んだ。
【美味。普通に美味しい】
アリス手作りほどではないが、とても美味しく出来上がっている。
さてさて魔理沙はどうしているか。
【こっ、これはっ!】
魔理沙は顔を茹でダコのように真っ赤にして、ミネストローネを頬張っている。何も文句を言わず、水も要求せずにただミネストローネを頬張っている。汗が額に滲んできたのがはっきりと判る。唇が微妙に痙攣しており、目からは涙が迸っている。
【頑張って魔理沙! あと少しよ!】
自業自得なのに何故か叱咤激励したくなる。それほど魔理沙はアリスに頼らずに、激辛スープを飲むのに頑張っている。
「ごちそうさまぁ~」
ようやく魔理沙が解放された。激辛という自らが仕掛けたトラップに。
ちょっと虐めたくなったので『パンが残ってるわよ』と書いた紙を見せる。
因みにアリスはとっくに食べ終わっており、今は読書をしていた。
【掟なんてクソ食らえ】
これがアリスのモットーである。束縛されない自由奔放な世界こそが、アリスの求める理想の世界だ。
今はそれを十分に堪能している。
本の影から魔理沙を一瞥する。
顔がもう、魔理沙ではない。大変な異常事態に直面している。パンを齧る度に「うっ」と声を上げている。まさに拷問である。
魔理沙が皿にパンを戻した。食べかけのパンの中から出てきたのは、尋常ではない量のタバスコだった。まあ予想内である。
恐らくパンに穴がないことから、魔法で中に入れたのだろう。
思考を巡らすうちに、だんだん可哀想になってきたので『もうやめたら?』と紙で促す。
アリスに仕掛けたのに、自分を慰めてくれるアリスに、魔理沙は自然と涙を流す。既に出ていたが。
【まったく。ムリをするからよ】
アリスは心の中で魔理沙に優しくそう囁いた。





~木曜日~

今日も満身創痍の魔理沙が掟を提示する。
手を腰に当て、常人以下の胸を張って叫んだ。
「掟その肆!『アリスは紙に字を書いてはいけない』!」
木曜日、ついに字を書くことさえ制限されてしまった。これではジェスチャーでしか魔理沙に伝えることはできないのだろうか。
ただ、ここはアリスが一枚上手だった。
ゆっくり立ち上がって、引き出しの中に隠しておいた携帯電話を取り出した。
手慣れた手つきで文字を打っていく。
『残念でした。私にはケータイがあるのよ。今日も貴女を優しく嬲ってあげるわ』
魔理沙はその文を見て、キョトンとしていた。
『嬲って』が読めなかったのだ。皆さん御存知の通り、『なぶって』が正解である。
魔理沙はその字を見て、試行錯誤を巡らした。漢字能力に疎い彼女は、漢字の形を見て読み方を判断する。
(男が二人で女を挟んでいるのか。これは女の取り合いか? だとしたら互いに女に親切にして、自分をアピールするのが得策だな。~って、に繋がるそれらしい言葉は........てつだって、か! 今日も、ってのが引っかかるがアリスのやつ、喋らない制限付きなのにアリスは優しいな。流石だぜ)
大きな勘違いをしたのに気付かずに、魔理沙はまた怪談を語り始めた。


『実は部屋の中が赤かったんじゃなくて、目が充血したあの女の人がずっとこっちを覗いていたのよ』
さすがにずっと魔理沙に怪談を話されていてもつまらなくなってきたので、今はアリスが話していた。
さっきまでは落ち着いて聞いていた魔理沙だったが、話のオチが判ると決まってテーブルの下に頭を抱えて潜り込むのだった。怖くて頭を抱えているのではなく、潜り込む際にテーブルに頭をぶつけるので抱えていた。とことん不憫な彼女である。
『もうこんな時間よ。早く夕食の準備をしてちょうだい』
何時の間にか恋色マスタースパークが流れていて、アリスのお腹もSOS信号を鳴らしていた。
「お前も手伝えよ」
ようやくテーブルから出てきた魔理沙は、頭を抑えながらアリスの手を引いて、台所へ向かった。


【魔理沙が料理する掟を作ったのに、なんで私も手伝うのかしら? まあいいわ。これで魔理沙の食事にブツを忍ばせることができるわ】
今日のメニューはビーフシチュー。アリスの十八番料理だ。洋食をこよなく愛するアリスの大好物だ。
ビーフシチューに限っては、咲夜の何倍も美味しいのを作れる自身があった。
加熱時間、材料の分量、愛情、隠し味、どれをとっても一流シェフの度肝を抜く完璧な自信もあった。
それほどアリスはビーフシチューを愛し、極めまくったのだ。
だが今回は特別にいつもの隠し味ではなく、魔理沙だけには『とっておきの薬品』を隠し味にするつもりだ。
それを入れる為には、まず魔理沙をどっかに行かせる必要がある。
今魔理沙は鼻歌をしながら、とても一口では食べきれない大きさに人参を切っている。他の材料は大きさには問題ないのだが、何故か魔理沙の場合は人参だけがサイズが圧倒的にデカイ。
とりあえずアリスは魔理沙をどっかに行かせることを実行しようとした。
携帯電話をポケットから取り出す。新着メール一件。
時間はたくさんあるので、一応読んでおく。
『ちょっと家からキノコ取ってくる』
魔理沙からだった。しっかり絵文字もフル活用して、可愛らしいメールだ。
【何時の間にいなくなったの!? 何で直接言わなかったのかしら? それと魔理沙って私から離れちゃいけないんじゃなかったっけ? まあいいか。チャンスなう!】
魔理沙をどっかに行かせる手間が省けた。今は薬品を忍ばせることに集中しよう。
まずはどっちのビーフシチューに入れるかだ。
アリスも魔理沙もそれぞれ自分でビーフシチューを作っている。つまりここにはビーフシチューが二つ用意されている。
問題は魔理沙がどっちを食べるかだ。
作り始める前に魔理沙は「どっちがより美味しいビーフシチューを作れるか勝負しようぜ」と言っていた。つまり魔理沙は自分もビーフシチューは作るが、アリスが作ったビーフシチューを食べて評価するはずである。アリスは恐らく魔理沙が作ったビーフシチューを食べるハメになるだろう。昨日のミネストローネは普通に美味しかったので、食べる分には魔理沙のビーフシチューに殺傷能力があるブツは入っていないだろう。危険性は皆無だ。多分。
【つまり、私が作っているビーフシチューにブツを入れれば勝つる!!】
早速アリスは自分が作っているビーフシチューに薬品を勢い良くぶち込んだ。勢いあまって飛沫があがる。波紋が薬品を映し、天井のライトで煌めいた。
アリスは丁寧にお玉で薬品を溶け込ませた。
「うぃーっす。戻ったぜ!」
ちょうど魔理沙が戻ってきて、ビーフシチュー作りが再開された。


「いただきまーす」
案の定、アリスには魔理沙が作ったビーフシチューが、魔理沙にはアリスが作ったビーフシチューがテーブルに置かれた。
魔理沙がビーフシチューをスプーンで掬い、まだ赤く腫れている口に運んだ。
次の瞬間、魔理沙がスローモーションで椅子から落ちた。作戦成功だ。
薬品の正体は超強力な睡眠薬。舌に触れる瞬間に眠ってしまう恐ろしい薬品だ。
ただ、それだけでは可哀想なので、唇の腫れが治る薬も調合させてある。
ほんの気持ちである。
【あんな唇でキスされても嬉しくないもの】
勝利の笑みを浮かべながら、アリスはキノコ入りビーフシチューを一口食べた。





~金曜日~

外は激しく雨が降り神は霹靂いていた。
今日は幻想郷では珍しい悪天候だった。
神が檄を飛ばす度に部屋内は青白い光で包まれた。
窓に雨が当たる音が五月蝿い。


アリスは椅子に座ったまま目を覚ました。
テーブルには昨日のビーフシチューが冷めた状態であった。それと不憫な少女の頭も見える。その横にはビーフシチュー。
【何でここで寝ていたのかしら】
アリスにはビーフシチューを口にした後の昨日の記憶がなかった。
アリスを霹靂が煽る。
【まさか眠りキノコだった!?】
考えられなくもない。事実、昨日戻ってきてから魔理沙はずっとニヤニヤしながら料理していたのだ。
もっと警戒しておくべきだった。
【本当は眠った魔理沙を襲う予定だったのに】
折角の鬱憤晴らしタイムが台無しになってしまった。
近くに大きい雷が落ちた。まだ神はアリスを煽っている。アリスには神の笑い声が聞こえた気がした。
「おはよ~アリス~」
超強力な睡眠薬だったにもかかわらず、もう魔理沙は起きてきた。あの睡眠薬は十八時間たっぷり深い眠りに落ちるはずなのだが。昨日は午後二十一時ぐらいに眠らされたはずだから、今は午後十五時なのはずだが。
突然、一時間毎に鳴る『恋色マスタースパーク』が流れた。神の叫びに匹敵する音量で。
反射的にアリスは時計を見る。
【十五時! 私もこんなに長い時間寝ていたっていうの!?】
まったくもってその通りであった。
アリスには日頃の疲れやストレスが溜まりに溜まっていたので、熟睡してしまっていたのだ。
だが得する事もある。
それはあと三時間喋らなければ魔理沙の『鱚』が貰えるのだ。
【あと三時間........あと三時間で.........グフフフ............】
「ア、アリス? 顔がヤバイぜ?」
超高速で携帯電話で文字を打った。
それを魔理沙の目の前に突き出した。
『おはよう魔理沙。そしてお休みなさい』
魔理沙が驚く前に、アリスは強行手段にはしっていた。
スプーン並々に掬った毒キノコ入りビーフシチューを、無理矢理魔理沙の口に捻じ込んだ。
もちろん魔理沙は抵抗策など持ち合わせておらず、敢え無く倒れた。
勝利に耽った顔でアリスは思った。
【これであと三時間すれば..........】
「うふふふ........」
しまった! 歓喜のあまり笑ってしまった。
でも床では魔理沙がお昼寝している。聞かれてはないだろう。
【ふう、危なかった】
安堵の息を漏らし、アリスは魔理沙を弄び始めた。


そして三時間後『恋色マスタースパーク』が大音量で流れた。





~もう一つの金曜日~

「勝った。勝ったわ! 魔理沙との賭けに!」
恋色マスタースパークが終わった瞬間、アリスは叫んだ。
神はもう穏やかになっていた。
そして寝ている魔理沙の頬を引っぱたく。バチバチバチバチ。
今回は以外と素直に起きてくれた。
「おう。おはよ~」
「おはよう魔理沙」
急に魔理沙の顔が赤くなった。
「久しぶりにアリスの声を聞いたからなんか恥ずかしいぜ」
「それは光栄だわ。さあ、約束のものを」
「まあ待て。急ぐな」
そう言って魔理沙はアリスに近づいた。
アリスの心臓の鼓動は魔理沙にも聞こえるほど、高鳴っていた。
魔理沙の右手がアリスの腰に伸びる。
【大丈夫。心の準備は完璧よ】
アリスは静かに目を閉じた。そして魔理沙が仕掛けるのを待った。
魔理沙の右手がアリスの腰に触れた。少し擽ったい。続いて左手も。すると右手が離れた。
【遅いわね魔理沙。早くしないと私から仕掛けちゃうわよ】
アリスはゆっくりと目を開けた。
そこに映ったのは喜色満面の魔理沙。そして後ろに大きく降りかぶられた魔理沙の右手。そこに乗っかっているブツ。ブツ?
「残念だったな。アリス」
魔理沙が右手を振り下ろした。それはアリスの顔面に見事に命中した。目の前が真っ暗になる。何も見えない。ただ、顔に甘い匂いが付いた事は把握できた。
パイだった。
「あと少しだったのにな。何であそこで笑っちゃったんだよ」
両手でパイを拭い、視界を確保する。
辺りにパイがビチャビチャと落ちた。
「何で知ってるのよ!?」
「へへへ。これだぜ」
魔理沙は左手に持っているものを掲げた。
イヤフォンとそれに繋がっているもの。
「何それ?」
「イヤフォンとマイクロ盗聴録音機だぜ。にとりに作らせたんだ」
魔理沙が人差し指で鼻の下をこする。
髪から滴る新たなパイをアリスは退ける。そしてまた床にパイが落ちた。
「録音機? いつそんなの仕掛けたのよ?」
「お前が集中してビーフシチューを作ってる時だぜ。私がキノコをとりに行ったのにも気づかないんだもんな」
しまった。私とした事が。あの時入れられていたのか。それにも気づかないなんて。私って愚か。
「それに録音されたやつをイヤフォンで聞いたって訳ね」
「そーなのだー」
魔理沙に一杯食わされたわね。
へへへっと魔理沙は笑っている。やってやったぜ、とでも言いたげな表情で。
「でもやっぱり景品はあげるのだー」
その時、アリスの中の時間が一瞬止まった。
景品貰えんの? マジで?
そして時は動き出す。
「ホントに?」
「ホントに」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
アリスはガッツポーズで今にも天に駆け上りそうな勢いで叫んだ。
「うっしゃゃゃぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、やめろ! 私の中のアリスのイメージが崩れる! しかも『鱚』如きでそんなに喜ぶな!」
「『キス』如き? いただいたあとは三週間は口を拭かないわ!」
有頂天のアリスは待ちきれなくなり、魔理沙に向かってブラジルのキリストのように両手を差し出した。
「さあ来なさい!」
「はい。鱚」
雑に魔理沙が放った。
それがちょうどアリスの手に乗った。
アリスの手に乗っかったのは、十五センチくらいの一匹の小さな魚だった。
アリスの目が点になる。ボーッと魚を凝視している。
「何これ? キモいんだけど」
「鱚」
アリスは生の魚をぐしゃっと片手で握り潰して、言った。
「こっちの『鱚』かよ!!!」
魔理沙は何かしないと気が済まない子なんだよっていう話。
そんなマリアリ?でした。


【お詫び】
私の投稿した作品が何作品か消えている事が最近判りました。
恐らく編集ボタンと削除ボタンを間違えたのが原因だと思われます。
大変御迷惑をおかけしました。
桶
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コメント



0.520点簡易評価
2.70点奇声を発する程度の能力 削除
所々にあるギャグは面白かったですが、オチが弱かった気がします
4.10点名前が無い程度の能力 削除
全体的に滑ってる
あとがきのお詫びが言い訳臭い
5.90点名前が無い程度の能力 削除
まあ面白かったぜ
6.10点名前が無い程度の能力 削除
風味ってなんですか?普通にマリアリでいいじゃないですか?
サイレントとあるのに魔理沙がしゃべっていてはサイレントではありませんよ
後、楽しい5日間。楽しいですか?私にはわかりません?
ギャグとしてもあまり……

編集ボタンと削除ボタンは間違え様がないんですがねぇ
7.無評価桶 削除
>>6様
風味をつけたのはマリアリと言うと、自分的に百合のイメージが強いのです。
二人が出たのでとりあえず風味かなと。
あとサイレントはアリスだけです。
13.100点名前が無い程度の能力 削除
面白かったです
14.50点愚迂多良童子 削除
初っ端からネタバレするのは良くないんじゃ・・・
キス(何故か変換できない)は海岸付近に居る魚らしいので、幻想郷には居ないんじゃないですか?
手違いで消しちゃったなら上げなおせばOKですよ。
15.70点名前が無い程度の能力 削除
ワロタw
16.100点名前が無い程度の能力 削除
そこは攻めるところだろ!
19.70点薬漬 削除
幻想郷に無いものがいく付くか出てきたり云々……とまぁ突っ込みどころが多々ありますが
アリスに萌えたのでこのを付けさせていただきます!!
20.90点名前が無い程度の能力 削除
いいギャグでした。
21.80点Ash 削除
うん、これはいいアリス。

とりあえずアリスのメアドが知りt(アーティフルサクリファイス
26.80点名前が無い程度の能力 削除
うん。オチの弱さはともかく、こんな二人のやりとりもありかなと。
イタズラっこな魔理沙と一枚上手な、それでも魔理沙が大好きなアリスっていう設定は
自分の中ではガチです。
さぁ今度はこの二人をモデルにラブラブで甘々な作品をだな
28.90点名前が無い程度の能力 削除
いいと思う。
個人的には好きな関係だ。