※少しだけ自己解釈が入っているかもしれませんので、よろしくお願いします
「…………」
ここは三途の川。
そしてあたいはここで船頭をしている小野塚小町。
要は、死んだ魂を彼岸に渡す仕事をしているわけだが―――。
「…………」
あたいは、今出たばかりの此岸を首の動作だけで振り返る。
今までとは違い、広く見ればチラホラと見えた霊の姿はもう見られない。
と言っても、数百年ほどこの光景なのだが…………。
「…………」
なんだか良く分からない感慨深さをを覚えて、再び彼岸の方へを舟を漕ぎ始める。
さっきからずっと沈黙。
あたいはどちらかと言うと話すのが大好きで、どんな罪人でも舟に乗せたら会話に興じる。
しかし、沈黙。
今舟に乗っているのはあたいだけではない。しっかりと同上している者がいる。
もっとも、者と言っても魂だけの存在なのであるが。
その魂は綺麗な女性の形を取っており、長身で細身で白い肌が晒されている。
彼女の表情をこちらからは伺えないが、なにやら考え込んでいるようにも見ることが出来た。
「…………」
それでも尚沈黙している。正直耐えられない。
しかし、それと同時に舟の上に乗っているものが有る。
それはあたいの……長い間世話になった衣服類や生活必需品である。
これは普段は此岸の小屋に置いてあるのだが、これを見るとどうしても話したくなくなるのが現実である。
なぜかと言うと、これがこの舟に乗っているということは、もう「戻らない」ということを意味しているのだから。
要は、今乗っている彼女があたいにとっての最後の「客」なのである。
「…………」
しかし、お互い無言。
でも、このまま無言のままだと一生悔やむ気がした。
ここで話さないということは、死んだ霊に対しての裏切りだと思っているからである。
だからどんな重罪人とも話してきたし、思いを理解しようとしてきた。
サボってたけど……。
そうして悩んでいると、驚いたことに向こうからあたいへと話しかけてきたのである。
「……私は」
思わず驚いて体勢を崩しかけてしまう。
少し舟が揺れたが、霊は特に気にした風も無く、微笑をながらこちらを振り返った。
「私は、やはり幻想郷の母にはなれませんでした」
落ち着いた声。
しかし、その目はしっかりとあたいを見据えていた。
その視線に居心地の悪さを感じながらも、しっかりと体勢を整えてから再び舟を漕ぎ始めた。
そして、あたいは彼女に言葉を投げかけてみる。
「どうしてだい? お前さんほど幻想郷を大切に思っていた奴もいないだろうに」
「いえ、そんなことはありません……だって、一番身近な人達がそうでしたから」
ため息を一つ。
彼女は視線をまだ見えぬ彼岸へと向けて語りだした。
「私は……私は、あの方々に追いつくことが出来なかったのかもしれません。いえ、追いつくどころか、同じ場所に立つことすら」
そして彼女は下を向いて、少し間を置いて語りだした。
「あの方々私の元からいなくなってしまった時、本当に悲しかったけれども……私にとってはスーパーマンみたいな存在でした。いつでも私の前で、皆を守り続ける強い人」
「…………」
「あの方々は、正しく幻想郷の母でした。幻想郷を愛し、本当に子のように愛で、そこに住む生き物、土地、自然、その全ての母でした」
「ああ……そうだったね。懐かしい話だ」
あたいは昔を思い出して、思わず苦笑してしまう。
あの頃は本当に、いろいろと迷惑をかけられたものだ。
突然襲ってくる魔法使いもいれば、血の気の多い脇丸出しの巫女、胡散臭い笑みを浮かべたスキマ妖怪までいた。
「でもさ」
だから、あたいは言ってやった。
「お前さんだって、母のように接してきたじゃないか。最後まで幻想郷を守ろうと―――」
「そんなことはありません」
突然彼女は、鋭い目をあたいに向けて来て―――でもその奥には悲しそうな気持ちを込めて―――搾り出すように言い放った。
「だって…………私が……幻想郷の最後の住人だったのですから。何も守れず、誰からも忘れ去られた結果なのですから」
あたいは、何もいうことが出来なかった。
「だから……私が背負った責任は小さくはない。こんな私が幻想郷の母だなんて言えるはずが無い」
彼女は肩を震わせて、その身を自ら守るようにして抱きしめた。
もしかしたら泣いているのかもしれないと思ったが、霊は涙を流さない。
でも、あたいは何だから声を掛けることが出きず、しばらくは舟がゆっくりと進むだけの時間が流れ続けた。
その間、あたいは思い出していた。
誰もいなくなった人里、妖怪のいなくなった大きな山、誰もいない神社、そして―――全くいなくなってしまった霊達。
そう、幻想郷は滅んだのだ。
だからこそ、あたいと四季様は幻想郷の配属が終わり、別の場所へと移ることになったのである。
もうここで渡し、裁く霊は無いのだから――――。
そして、その最後の渡す霊が目の前にいる。
これが最後の、幻想郷の死者を運ぶ船旅なんだなと思うと、居た堪れない気持ちになってしまう。
そう、物思いにふけている時だった。
「…………」
いつのまにか、何の違和感も無くあたいとは逆の場所に彼女が立っていた。
そして、あたいのことをじっと見つめて―――もしかすると、遠くにある此岸を見つめているのかもしれない。
彼女が最後まで守れなかった幻想郷がそこにあるから。
あたいがそんなことを考えていると、彼女は悲しそうな笑顔を今度はしっかりとあたいの目を見据えて言い放った。
「……最後まで、幻想郷の住人の最期を見てくれて有難うございました」
そして彼女は、自ら三途の川へと飛び込んだ。
「…………は?」
気づくと、彼女は舟の数メートル後ろのほうの水面に浮かんでいた。
「……ちょ、お前!?」
「良いんです」
その時、彼女の近くに大きな古代魚がやってくるのが見えた。
これでは、あたいの舟で近づくには危険すぎる。
かと言って、距離を操るにも対象の距離だけをこちらに近づけるなんて事は出来はしない。
あたいは、目の前で本当の意味で『死』にかけている彼女を見ていることしか出来ない。
そんな慌てるあたいを見て微笑みながら、彼女は優しく言葉を紡いだ。
「小町さん、有難うございました。最後に貴方と会えて本当に嬉しかった…………」
「バカいうんじゃない! 早くこっちに来い!!」
「無理ですよ。貴方なら知っているじゃないですか……ここに落ちたら、もう沈むか食われるしか無いんだって…………」
「おい!?」
「皆」
彼女は目を閉じて、誰に向けるでも無い言葉を発していた。
もう、ずいぶんと離れてしまっている。
あたいが出来ることといえば、彼女の最期を見ることだけだ。
それがどんなに悲惨な結末でも…………。
その瞬間、彼女の後ろに大きな古代魚が出てきて、その大きな口を開けて彼女を飲み込もうとしていた。
そして、彼女が飲み込まれるその刹那――――。
「―――ごめんなさい」
そう聞こえたような気がした瞬間、彼女はそのまま飲み込まれて、初めからそこには何も無かったかのように―――消えた。
「…………それがお前さんの最期かい。全く誰に似たんだか」
あたいは、そのまま舟を漕ぎ続ける。
何故なら、これが最後の仕事では無いからだ。
これから新しい配属先で、又違う霊を渡さないといけない。
「でも、まあ…………」
だから、あたいは最期に一言だけ残してやることにした。
「それでもお前さんは、幻想郷の母だったよ。スキマ妖怪やお前の主人だってそう思ってるさ」
そして、あたいは彼岸へと付いた。
四季様は複雑な表情をしていたけど、すぐに気を取り直して元の場所へと歩いていった。
最後に振り返り、そこにはいない彼女に向けて……名残惜しいから、もう一言だけ言う事にした。
「最後までお疲れさん、八雲橙。今度は楽しい話をして飲み明かそうな」
―――そして、二度と幻想郷が元に戻ることは無かった。
「…………」
ここは三途の川。
そしてあたいはここで船頭をしている小野塚小町。
要は、死んだ魂を彼岸に渡す仕事をしているわけだが―――。
「…………」
あたいは、今出たばかりの此岸を首の動作だけで振り返る。
今までとは違い、広く見ればチラホラと見えた霊の姿はもう見られない。
と言っても、数百年ほどこの光景なのだが…………。
「…………」
なんだか良く分からない感慨深さをを覚えて、再び彼岸の方へを舟を漕ぎ始める。
さっきからずっと沈黙。
あたいはどちらかと言うと話すのが大好きで、どんな罪人でも舟に乗せたら会話に興じる。
しかし、沈黙。
今舟に乗っているのはあたいだけではない。しっかりと同上している者がいる。
もっとも、者と言っても魂だけの存在なのであるが。
その魂は綺麗な女性の形を取っており、長身で細身で白い肌が晒されている。
彼女の表情をこちらからは伺えないが、なにやら考え込んでいるようにも見ることが出来た。
「…………」
それでも尚沈黙している。正直耐えられない。
しかし、それと同時に舟の上に乗っているものが有る。
それはあたいの……長い間世話になった衣服類や生活必需品である。
これは普段は此岸の小屋に置いてあるのだが、これを見るとどうしても話したくなくなるのが現実である。
なぜかと言うと、これがこの舟に乗っているということは、もう「戻らない」ということを意味しているのだから。
要は、今乗っている彼女があたいにとっての最後の「客」なのである。
「…………」
しかし、お互い無言。
でも、このまま無言のままだと一生悔やむ気がした。
ここで話さないということは、死んだ霊に対しての裏切りだと思っているからである。
だからどんな重罪人とも話してきたし、思いを理解しようとしてきた。
サボってたけど……。
そうして悩んでいると、驚いたことに向こうからあたいへと話しかけてきたのである。
「……私は」
思わず驚いて体勢を崩しかけてしまう。
少し舟が揺れたが、霊は特に気にした風も無く、微笑をながらこちらを振り返った。
「私は、やはり幻想郷の母にはなれませんでした」
落ち着いた声。
しかし、その目はしっかりとあたいを見据えていた。
その視線に居心地の悪さを感じながらも、しっかりと体勢を整えてから再び舟を漕ぎ始めた。
そして、あたいは彼女に言葉を投げかけてみる。
「どうしてだい? お前さんほど幻想郷を大切に思っていた奴もいないだろうに」
「いえ、そんなことはありません……だって、一番身近な人達がそうでしたから」
ため息を一つ。
彼女は視線をまだ見えぬ彼岸へと向けて語りだした。
「私は……私は、あの方々に追いつくことが出来なかったのかもしれません。いえ、追いつくどころか、同じ場所に立つことすら」
そして彼女は下を向いて、少し間を置いて語りだした。
「あの方々私の元からいなくなってしまった時、本当に悲しかったけれども……私にとってはスーパーマンみたいな存在でした。いつでも私の前で、皆を守り続ける強い人」
「…………」
「あの方々は、正しく幻想郷の母でした。幻想郷を愛し、本当に子のように愛で、そこに住む生き物、土地、自然、その全ての母でした」
「ああ……そうだったね。懐かしい話だ」
あたいは昔を思い出して、思わず苦笑してしまう。
あの頃は本当に、いろいろと迷惑をかけられたものだ。
突然襲ってくる魔法使いもいれば、血の気の多い脇丸出しの巫女、胡散臭い笑みを浮かべたスキマ妖怪までいた。
「でもさ」
だから、あたいは言ってやった。
「お前さんだって、母のように接してきたじゃないか。最後まで幻想郷を守ろうと―――」
「そんなことはありません」
突然彼女は、鋭い目をあたいに向けて来て―――でもその奥には悲しそうな気持ちを込めて―――搾り出すように言い放った。
「だって…………私が……幻想郷の最後の住人だったのですから。何も守れず、誰からも忘れ去られた結果なのですから」
あたいは、何もいうことが出来なかった。
「だから……私が背負った責任は小さくはない。こんな私が幻想郷の母だなんて言えるはずが無い」
彼女は肩を震わせて、その身を自ら守るようにして抱きしめた。
もしかしたら泣いているのかもしれないと思ったが、霊は涙を流さない。
でも、あたいは何だから声を掛けることが出きず、しばらくは舟がゆっくりと進むだけの時間が流れ続けた。
その間、あたいは思い出していた。
誰もいなくなった人里、妖怪のいなくなった大きな山、誰もいない神社、そして―――全くいなくなってしまった霊達。
そう、幻想郷は滅んだのだ。
だからこそ、あたいと四季様は幻想郷の配属が終わり、別の場所へと移ることになったのである。
もうここで渡し、裁く霊は無いのだから――――。
そして、その最後の渡す霊が目の前にいる。
これが最後の、幻想郷の死者を運ぶ船旅なんだなと思うと、居た堪れない気持ちになってしまう。
そう、物思いにふけている時だった。
「…………」
いつのまにか、何の違和感も無くあたいとは逆の場所に彼女が立っていた。
そして、あたいのことをじっと見つめて―――もしかすると、遠くにある此岸を見つめているのかもしれない。
彼女が最後まで守れなかった幻想郷がそこにあるから。
あたいがそんなことを考えていると、彼女は悲しそうな笑顔を今度はしっかりとあたいの目を見据えて言い放った。
「……最後まで、幻想郷の住人の最期を見てくれて有難うございました」
そして彼女は、自ら三途の川へと飛び込んだ。
「…………は?」
気づくと、彼女は舟の数メートル後ろのほうの水面に浮かんでいた。
「……ちょ、お前!?」
「良いんです」
その時、彼女の近くに大きな古代魚がやってくるのが見えた。
これでは、あたいの舟で近づくには危険すぎる。
かと言って、距離を操るにも対象の距離だけをこちらに近づけるなんて事は出来はしない。
あたいは、目の前で本当の意味で『死』にかけている彼女を見ていることしか出来ない。
そんな慌てるあたいを見て微笑みながら、彼女は優しく言葉を紡いだ。
「小町さん、有難うございました。最後に貴方と会えて本当に嬉しかった…………」
「バカいうんじゃない! 早くこっちに来い!!」
「無理ですよ。貴方なら知っているじゃないですか……ここに落ちたら、もう沈むか食われるしか無いんだって…………」
「おい!?」
「皆」
彼女は目を閉じて、誰に向けるでも無い言葉を発していた。
もう、ずいぶんと離れてしまっている。
あたいが出来ることといえば、彼女の最期を見ることだけだ。
それがどんなに悲惨な結末でも…………。
その瞬間、彼女の後ろに大きな古代魚が出てきて、その大きな口を開けて彼女を飲み込もうとしていた。
そして、彼女が飲み込まれるその刹那――――。
「―――ごめんなさい」
そう聞こえたような気がした瞬間、彼女はそのまま飲み込まれて、初めからそこには何も無かったかのように―――消えた。
「…………それがお前さんの最期かい。全く誰に似たんだか」
あたいは、そのまま舟を漕ぎ続ける。
何故なら、これが最後の仕事では無いからだ。
これから新しい配属先で、又違う霊を渡さないといけない。
「でも、まあ…………」
だから、あたいは最期に一言だけ残してやることにした。
「それでもお前さんは、幻想郷の母だったよ。スキマ妖怪やお前の主人だってそう思ってるさ」
そして、あたいは彼岸へと付いた。
四季様は複雑な表情をしていたけど、すぐに気を取り直して元の場所へと歩いていった。
最後に振り返り、そこにはいない彼女に向けて……名残惜しいから、もう一言だけ言う事にした。
「最後までお疲れさん、八雲橙。今度は楽しい話をして飲み明かそうな」
―――そして、二度と幻想郷が元に戻ることは無かった。
蓬莱人は、とも思ったけど幻想郷の消滅だから死ぬ死なないは関係ないのか
こういうのもありだと思います、楽しませてもらいました
不粋かもしれないけど、蓬莱人とか他のキャラのこと知りたかったり
でも、きっと、いつか、また、どこかで
滅亡へと至る詳しい経緯を読んでみたいな、と思いました。
橙はきっと紫や藍に恥ずかしくないよう精一杯努力したのでしょうが、
それでも覆す事ができなかった滅亡とは何なのだろうか、と。
ただ、ちょっと後味悪かったかなぁと。
いろいろ考えることが出来る話でした
でも何故かこういう話は結構読んじゃうんですよねぇ。この何とも言えない読後感がねぇ。
人間ってわからない。妖怪も……わかりませんねぇ。