××県S市H地区(旧H村)。
豊かな自然環境を持ち、古き良き日本の原風景を色濃く残す山奥の寒村である。
住民の多くは、地元にあるF神社の祭神を篤く信仰し、また、住民同士のつながりも強く、季節の行事や祭り等で古くからの暮らしを守ってきた。
ところが、昭和五十年代に入り、H地区全域を水没させるダム建設計画が動き出すと、移転をめぐる騒動が起こり、人々の生活は一変したのだ。
住民の多くはダム建設の反対運動に参加し、行政側やダム建設業者達等と激しい衝突を繰り返す。
また、ダム建設反対派の住民と賛成派の住民が話し合いの末、取っ組み合いの喧嘩までに発展することも珍しくなく、さらには、ヤクザ達までもがこの不毛な争いに加わり、果ては殺人事件まで起きてしまう。
このような物騒な雰囲気を嫌い、ダム建設計画の決着を待たずにして、H地区を離れた者も少なくない。
三十になったばかりの男、日暮 鳴苦吾郎(ひぐらし なくごろう)もその一人である。
◇
鳴苦吾朗は、両親を早く亡くし、先祖代々から譲り受けた畑を黙々と耕してきた。
しかし、譲り受けた家屋や畑に取り立て愛着が無かったので、早々に家土地を売り払い、H地区から車で一時間程離れた街のアパートに移り住む。
鳴苦吾朗が住んでいた家は古い上にボロボロであったし、H地区の地価はかなり低い。
家土地全てを売り払い得たお金は、鳴苦吾朗にとっては大金だったが、一生遊んで暮すというには程遠い金額であった。
その為、鳴苦吾朗は引っ越した直後、職業安定所に通い仕事を探した。
ところが、職員が仕事を紹介してくれる度に、やれ給料が安い、やれ勤務時間が長い等と、ケチをつけた為、就職出来なかったのである。
また、それまでのド田舎暮らしの反動かのように、高級バーをいくつもハシゴにし、パチンコや競馬、競輪にドップリとはまり、風俗店に通いつめる日々を過ごす。
無職の上、飲む、打つ、買うを続けた為、何もかも売り払い得たお金は、鳴苦吾朗の手元から、ほとんどサヨナラしてしまう。
そのような状態になれば、派手な暮らしを続けられるワケがなく、アパートの部屋でゴロゴロするしかなかった。
鳴苦吾朗は、農業が好きだったワケではないが、そのような何もしない日々を過ごす内に、再び自分の畑を持ち、野良仕事をやりたいという願望を抱く。
だが、まとまった土地を買うお金などすでに手元に無く、その上、担保に出来るような物も無く、保証人になってくれるような親戚や知人もいない為、金融機関からお金を借りることが出来ない鳴苦吾朗。
正にナイナイ尽くしの男である。
真昼間にも関わらず、缶ビールをグイッと飲み横になり、安アパートの天井のシミを数えながら、金策を練っていると、部屋の入り口の方からドアを叩く音が聞こえて来た。
新聞の勧誘かなと起き上がり、ドアを開けると、黒の上下のスーツを着た長い金髪の若い女性が立っていたのだ。
生まれて初めて会う外国人、しかも、とびっきりの美人の女性の姿を見て、口をポカーンと開け、直立不動になる鳴苦吾朗。
金髪の女性は、ニッコリと微笑むと、まるっきり西洋人の外見とは裏腹に、丁寧な日本語で鳴苦吾朗へ挨拶をする。
「初めまして、日暮様。
私、この近辺を営業で回らさして頂いております者で、マエリベリー・ハーンと申します」
突然尋ねてきたセールスウーマンは、自分の氏名と”ココロのスキマ、お埋めします”と書かれた名刺を鳴苦吾朗へ手渡し、矢継ぎ早に切り出す。
「豊かな自然の中で農業をおやりになりませんか?」
鳴苦吾朗はすぐさま部屋に戻ると、散らかったゴミを押入れへ放り込んだ後、マエリベリーを部屋の中へ招き入れた。
部屋に通されたマエリベリーは、部屋に置かれた質素なちゃぶ台の上にパンフレットを置き、テキパキとした口調で説明を始める。
「過疎化が進む東方村が住民を募集しておりまして、私はその村から委託を受け、移住をしてくれる方を探しております。
移住をして頂いた方には、東方村が買い上げた、所有者が高齢や病気等の理由の為、耕作放棄された畑や放置された家屋を格安でお貸し致します。
……もしよろしければ、車がございますので、早速現地へ行ってみませんか?」
マエリベリーの突然の提案に、鳴苦吾朗は少し考え込んだが、彼自身にとって正にタイムリーで魅力的な内容であったし、ゴロゴロしているよりマシかと快諾する。
◇
鳴苦五郎は出かける為の準備を終え、部屋のドアに鍵をかけると、アパートの外へと向かって年季の入った廊下を歩き出す。
そして、数歩歩くと、おもむろに後ろを振り向く。
振り向いた先には、誰もいない。
鳴苦五郎は、故郷を離れてから、度々妙な違和感を覚えることがあった。
誰かが自分の後をつけていると。
しかも、今回のように振り向いても誰もいない為、最初の内はかなり気味悪がったものだ。
だが、このニート男は何回も体験していく内に慣れてしまい、最近では、気にしたら負けかなと思ってる。
鳴苦五郎は、頭を戻すと鼻歌を歌いながらアパートの出入り口へ向かった。
◇
アパートの前に、黒い乗用車が止められており、マエリベリーは車のそばで鳴苦五郎を待っていた。
先に鳴苦吾朗を助手席へ乗せると、マエリベリーは運転席に乗り込み、シートベルトを締める。
「では、東方村へ向かって出発致します。
前方、よ〜し!」
そう気合を入れて言うなり、マエリベリーはシフトレバーを”R"に入れ、アクセルペダルを強く踏み込む。
マジで!?と、鳴苦吾朗が思うやいなや、車は後ろの方へ勢い良く走り出し、マエリベリーは慌ててブレーキーペダルを踏んだ。
幸い後方には人はおらず何も無かったが、下手をすれば大事故になっていただろう。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
マエリベリーは取り乱し何回もごめんなさい!と連呼しながら、鳴苦吾朗へ頭を下げる。
「……大変申し訳ございません。
私、免許取立てで、たま〜に、やってしまうんです」
目的地に着く前に事故ってはシャレにならないと思った鳴苦吾朗は、シートベルトを外して車を出た。
そして、何気なくボンネットの上を見ると、黒い乗用車に似付かわしくない若葉マークがこれでもかと大量に貼られていたのだ。
結局、助手席にナビ役としてマエリベリーが座り、鳴苦吾朗が運転をすることになった。
なお、鳴苦吾朗は酒を飲んだばかりであったが、故郷に住んでいた頃など、もっとベロンベロン状態で軽トラックを運転するのはしょっちゅうのことであったので、飲酒運転することに対し、特に気にしなかったのだ。
今では到底考えられないことだが、昭和五十年代は飲酒運転に対し、現在ほど罰則が厳しくなかったこともあり、彼のように飲酒運転を平気で行うヨッパドライバー達が結構いたものである。
また、鳴苦吾朗が飲んだのが缶ビール一本のみだった為だろうか。
マエリベリーは、彼に酒が入っていることに気が付かなかったようであった。
◇
マエリベリーは、前方の信号を指差し、鳴苦吾朗へ進行方向を指示する。
「次の信号を左折して下さい」
そのような感じで、一時間程走っただろうか。
外の景色に緑が増えてきて、そのうち山道に入ると、交通量も少なくなってくる。
スレ違う車がなくなり、しばらく進むと古ぼけた何とも味わいのあるトンネルが見えてきた。
トンネルは短いようで、入ってすぐに出口の光が黒い乗用車を照らす。
トンネルを抜けると、そこは超ド田舎(東方村)だった。
車が一台やっと通れるかの幅の舗装されていない畦道。
平らな所は、ほとんど畑や田んぼであり、その合間にポツンポツンと建つ合掌造りの家々。
故郷を離れる前までは生粋のドイなかもんであった鳴苦吾朗にとっては、懐かしいと思うぐらいの風景であったが、一つ気になることがあった。
いくら走っても電柱が一本も立っていなかったのだ。
ド田舎とはいえ、戦後三十年以上経っているのに、電気が通っていない点に驚き、マエリベリーに尋ねると、
「ええ、それと水道もございません。
ですが、ランプ等の照明器具や手押しポンプ付きの井戸がございます。
電気や水道が完備している今の”外の世界”の生活に比べれば、多少ご不便でしょうが……、これはこれで結構良いものですよ♪」
営業において、客にネガティブな情報は、先に言わないでおくものだ。
しかし、当の鳴苦吾朗は、まあ多少の不便ぐらいは我慢するかと思っていた。
というのも、鳴苦吾朗が売り払った生家は、ド田舎であるH地区の中でもかなり奥の方にあった為、電気や水道が来たのは、彼が中学生の頃であり、電気水道無し生活は経験済みの為である。
会話を続けていく内に、目的の物件が見えてきた。
鳴苦吾朗は一際大きな合掌造りの家の前に車を止め、外へ出ると、一ヘクタールぐらいの大きさの畑が彼の目の前に広がる。
「こちらの家屋と畑が、日暮様へお貸しする物件となります」
車から降りてきたマエリベリーは、説明を続けて行う。
「なお、本日までに移住の契約を交わして頂いた場合、なんと、無料で家屋と畑を進呈致します!」
どうしようかなと悩んでいた鳴苦吾朗にとって、正に殺し文句であった。
移住すると即答すると、マエリベリーはバインダーに載せた契約書とボールペンを鳴苦吾朗へ手渡す。
「契約内容を十分にご理解の上、サインのご記入を宜しくお願いします」
渡された契約書には、細かい文字でびっしりと契約内容が記載されていた。
だが、大雑把な性格の鳴苦吾朗は、面倒臭がり、契約内容をよく読まずにサインをしてマエリベリーへ渡してしまう。
マエリベリーは契約書を受け取ると、ニッコリと微笑み、鳴苦吾朗へ礼を述べる。
「ご契約頂き、ありがとうございます!
引越しの手配は、私が代行致しますので、本日からこちらで暮らし始めても問題ございません」
鳴苦吾朗の部屋には、貴重な物など何も無かったので、アパートの鍵をマエリベリーへと渡す。
マエリベリーは鍵を受け取ると、鳴苦吾朗へ頭を丁寧に下げてから車に乗り込み、そのまま去って行った。
◇
幻想郷のどこかにある大妖怪、八雲紫の屋敷。
その古めかしく大きな屋敷の入り口の前に、マエリベリーは黒い乗用車を止めた。
マエリベリーは車から降りると、屋敷の入り口の戸を開け、長い廊下の奥へ向かって、式神兼使用人を呼ぶ。
「藍、今帰ったわよー!」
しばらくすると、金色の髪を短く切り揃えた長身の女性が姿を表す。
九尾の妖狐であり、紫の忠実なる式神、八雲藍である。
「お帰りなさいませ、紫様」
「ら〜ん。
私がこの格好をしている時は、メリーって、気軽に呼んでと約束したでしょ?」
いつの頃からか、紫はある夢を見るようになり、その夢の中の自分の名が、マエリベリー・ハーンであり、メリーは愛称だった。
夢の舞台は、どうやら”外の世界”のようであるが、内容がいつも違う上に、モヤがかかったように、いまいちハッキリとしないことが多い。
だが、どうでも良いようなことはハッキリと覚えている場合があり、それは、夢の中のメリーはとある漫画の愛読者ということと、その漫画の内容である。
紫が黒い上下のスーツを着ているのも、その漫画の主人公のことを気に入り、服装を真似た為で、この格好をしている時はメリーと呼ぶようにと藍に言い聞かせていた。
しかし、いくら自分の主の頼みとは言え、敬愛する主を友達感覚で呼ぶことに躊躇っている藍は、なかなか”外の世界”の格好をした紫をメリーと呼ぶことに、慣れることが出来なかったのだ。
「で、では、メリー。 東方村住民からの陳情の件、いかがですか?」
「ばっちぐーよ! 早速、契約を取り付けたわ!」
紫はサイン済みの契約書を取り出して、得意気に藍へ見せつけた。
面倒見が良い紫は、幻想郷の人妖達から相談をよく受けており、先日、東方村の老人から、
「村の若いモン達が一人残らず大きな人里へ移り住んでしまい、困っております」
と、相談を受けたのだ。
幻想郷には、人間が住む里がいくつかあり、東方村はその一つで、山間の僻地にあり、他の人里に比べると生活に不便な土地である為、若者達の村離れが進み、村に残るのは老人達だけという、”外の世界”でいう過疎化が問題となっていた。
この問題に対し、紫がとった行動が、”外の世界”の若者達を幻想入りさせる計画、”ようこそ、東方村へ”である。
紫が”外の世界”でセールスウーマンとして鳴苦吾朗を連れてきたのは、その計画の一環であり、彼の東方村での生活の様子を見てから、順次他の人間も幻想入りさせる予定だ。
なお、やたら無闇に連れて来ても、良くないと紫は考え、”スキマ”の応用であるひみつ能力、通称・goggle(ゴーグル)で、対象となる人間を予めゴグッたのだ。
ちなみに、今回の検索キーワードは、
「"人間" "三十代まで" "農業に興味がある" "田舎暮らしOK" "多少不便な生活でもOK" "親しい身寄りや知人がいない"」
である。
そうして絞り込まれた中から、テスト第一号として選ばれたのが、日暮 鳴苦吾朗(ひぐらし なくごろう)であった。
だが、検索条件に"外の世界にしかないモノに未練がない"、または"症候群に感染していない"というキーワードが加わっていれば、鳴苦吾朗は検索に引っ掛からなかっただろう……。
◇
鳴苦吾朗を幻想入りさせてから数日後、紫はひみつ能力の一つ、”どこでもスキマ”を開き、彼が住んでいた安アパートの部屋にやって来た。
そして、ゴミ以外の物を”四次元スキマ”に放り込んでいく。
そうして、部屋にあったゴミ以外の物を”四次元スキマ”へ入れ終えた後、
「うしろのしょうめん、だ〜れ〜だ!」
と、紫は突然振り返り、ニッコリと微笑んだ。
彼女の目の前には、長髪の小学生ぐらいの少女が、”あぅあぅ〜、ボクの姿が見えてるの!?”というような感じの驚愕の表情を浮かべて硬直していた。
その少女は、腋を露出させた白い小袖に緋袴という、いわゆる巫女装束をまとっており、左右の耳の上辺りから、一本ずつ黒い角が生えているという、人外と言える異様な容姿であったが、大妖怪の紫にとっては、
「はぅ〜、かぁいいよ〜、お持ち帰り〜♪」
と、言わしめ、抱きつかせる程度の能力を持つ存在に過ぎなかった。
◇
二本角の少女を抱擁から解放すると、鳴苦吾朗の故郷であるH地区にあるF神社の祭神であると、自己紹介させた。
また、鳴苦吾朗のようにH地区から離れた者達を定期的に見て回っていることも説明させたのだ。
かぁいい人外少女にすご〜く興味を持ったペド妖怪、紫のひみつ能力の一つ、”スキマ洗脳(神様だって洗脳してみせるver.)”によって。
勝手に出て行った人間を、たまにとはいえ見守ってあげるなんて、なんて思いやりの深いロリ神様なんだろう!と、感動し、このまま幻想郷にお持ち帰りしてしまおうか、と考え込んだが、大妖怪八雲紫は淑女であると同時にマジ紳士である。
また、ロリ神様をた~っぷりとペロペロした紫は、ロリ神様から強い神気を感じ取ったのだ。
信仰心を集めている神ほど神気が強い。
そのことをよく熟知している紫は、ロリ神様を幻想郷へ拉致することを断念した。
”四次元スキマ”からボールペンと紙を一枚取り出すと、”困ったことがあったら、ココへ訪ねてきてネ”という文章と、幻想郷にある自分の屋敷の所在地を書き、その紙をロリ神様の懐へ入れた。
そして、”どこでもスキマ”を開き、ロリ神様へ洗脳解けの投げキッスをして、紫は名残惜しそうに幻想郷へ去って行った。
ちなみに余談ではあるが、紫は、鳴苦吾朗の為に引越し作業は行ったが、彼の転居の手続きは行わなかった。
その為、しばらくすると、”外の世界”では、鳴苦吾朗は行方不明扱いとなる。
世間にとっては、冴えないドクオ('A`)一人の行方が分からなくなっただけのこと。
しかし、とあるいわくつきの伝承がある彼の故郷のH地区にとっては重要度のレベルが違ったのだ。
H地区の住民達は、鳴苦吾朗が行方不明になった事を聞くなり、オ○シロさまの祟りだと大いに騒いだそうな。
◇
鳴苦吾朗が東方村に移住して一ヶ月程たったある日のこと。
彼は、”外の世界”へ帰る為に、村外れのトンネルにやって来た。
移り住んだ家の隣にある蔵の中には、衣服、食料、各種医薬品類、マキやランプの燃料、工具や農具等、生活に必要なモノが十分に用意されており、最初の内は念願の野良仕事に精を出していた。
ところがどっこい、東方村には、バー、パチンコ店、競馬場、競輪場、そして風俗店等といったモノがなかった。
また、電気が来ていない為、テレビを見ることが出来ないのは仕方がないにしろ、携帯ラジオを付けても何も受信しなかったのだ。
そんな娯楽が何もない状況に、鳴苦吾朗は耐えられなくなったのである。
それほど長くないトンネルを全力で走る鳴苦吾朗。
そう、トンネルの出口には、彼が求める娯楽一杯の”外の世界”が待っているのだから。
ところが、トンネルを抜けきった鳴苦吾朗の目の前には、信じられない光景が広がっていたのだ。
トンネルを抜けると、そこはまた超ド田舎(東方村)だった。
そんなバナナ!と驚きながらも、再びトンネルへ入り、出口へ向かって鳴苦吾朗は走り出す。
◇
◇
◇
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
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鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
”東方村”からは逃げられない!!
◇
何回も何回もな〜んかいも変わり映えのない光景を、これでもかこんちくしょうと、しつこいほど見せ付けられ、鳴苦吾朗はガックリと膝をつく。
それでも、もう一度と彼が立ち上がろうとした時、聞き覚えのある声がかけられる。
「この世界……、”幻想郷”、さらに言えば東方村からは、もう貴方は出られませんよ。
では、改めて初めまして。
私、”外の世界”では、マエリベリー・ハーンと名乗っております妖怪、八雲紫と申します」
鳴苦吾朗は、突然現れたマエリベリー、もとい紫を見て、いつの間にと驚きながらも、すぐさま、こいつが自分をココへ連れてこなければと、怒りゲージを瞬時にMAXにした。
そして、こうなったら力づくでねじ伏せて、自分を元のアパートへ戻さしてやる!と、錯乱状態に陥った鳴苦吾朗は即決する。
また、周りに住むのが婆さんばかりで、若い女性が一人もいなかったので夜這いも出来なかった上に、エロ本が一冊も無かった為、強制禁欲状態であったのだ。
もうたまらん状態の男に、超絶美人は劇薬のようなモノである。
そうだ、ついでに犯ってしまおうと、チョー短絡的男は、紫へと襲い掛かる。
コレに対し、
「いや〜ん。
ゆかりん、ぴ〜んち!」
と、腰をくねらせながら言いつつも、慌てるそぶりを一つもしない紫。
襲い掛かって来た鳴苦吾朗の手が、紫を掴もうとしたホンの一瞬の出来事であった。
鳴苦吾朗の腕をヒラリとかわし、ロイヤル・ストレート・クズ男の額へ、紫はカウンター気味に右手の人差し指を押し付ける。
ただ、それだけの行為であったが、彼女は、自分に向かってきた男を指一本で止めてしまう。
そして、紫がそのまま「どーん!!!」と叫ぶと、鳴苦吾朗の体は後ろへと仰向けに倒れ込む。
鳴苦吾朗は、自分自身に何が起こったのか、しばらく理解出来なかった。
いや、力にはそれなりに自信がある自分が、女のか細い指先一つでダウンさせられたことが信じられなかったのだ。
「お触りは厳禁ですよ〜」
紫は、倒れ込んだまま呆然とした鳴苦吾朗に契約書を見せ付ける。
「困りますわ~、日暮様。
契約書に貴方の同意のサインを頂いているのですからね〜」
そして、契約書の”幻想郷の東方村で一生暮らすことに同意します”と書かれた箇所を指差して、とっておきのダメ押しというヤツだをする。
「繰り返し申し上げますが、東方村からは、もう出られませんよ〜。
ああ、それと……、今回は見逃してあげますが、今後オイタが過ぎるようことをしたら、あの世逝きですよ〜」
と、鳴苦吾朗へ告げると、”どこでもスキマ”を開き、その場から消えた。
紫に姿を消す様を見せ付けられ、自分は得体の知れない存在に、二度と出られない場所に連れて来られたということを、鳴苦吾朗はようやく理解する。
絶望に駆られた鳴苦吾朗は、ノドに痒みを感じ、両手でノドを掻き始める。
━━━元の世界に戻れない。
バリッ!
━━━元の世界の遊びがもう出来ない。
バリッ! バリッ! バリッ! バリッ!
━━━ちち、しり、ふとももーーーっ!
バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ!
絶望感が増す度に、ノドの痒みは増し、鳴苦吾朗は指先にさらに力を込めて己のノドを掻き続けて逝った。
◇
< 八雲紫の日記 >
××月××日、”外の世界”の人間、日暮 鳴苦吾朗(ひぐらし なくごろう)を幻想入りさせる。
東方村での彼の生活状況の観察を開始する。
××月××日、日暮鳴苦吾朗が住んでいたアパートへ、彼が残してきた所有物を回収しに行く。
回収作業終了直後、彼の故郷のF神社で祭られている二本角の少女神と遭遇する。
非常に愛らしいボクっ娘であり、腋を露出させた巫女装束がとてもナイスであった。
幻想郷に連れて来たかったが、かなり信仰されている神様のようであった為、断念した。
××月××日、二本角の少女神が着ていた腋を露出させた巫女装束がとてもサイコーだったので、
同じようなデザインの巫女装束を藍に作らせ、博麗神社の巫女へ着るようにと勧めてみた。
しかし、「腋巫女萌えって、どないやねん! きんもーっ☆」と、巫女に罵られ、腋露出巫女装束の着用を拒否されてしまう。
次代の博麗神社の巫女に、腋を露出させた巫女装束を必ず着せてみせる。
そう強く誓う。
:
:
:
××月××日、日暮鳴苦吾朗の死亡を確認。
異常な死に方に何らかの薬物を疑うが、一切検出されなかった。
”外の世界”へ帰ろうとしたが、出来なかった故のストレスによるモノなのか検証中。
検証が終わるまで、”ようこそ、東方村へ”計画は凍結する。
××月××日、マエリベリー・ハーンとなる夢を見る。
これで何度目になるだろうか。
今回は、マエリベリーの友人であろう、白いリボンが巻かれた黒い中折れ帽を被った少女が傍らにいた。
マエリベリーは、どうやらその少女に友人以上の感情を抱いているようだ。
かくいう私も、彼女が夢に出てくるのを非常に楽しみにしている。
豊かな自然環境を持ち、古き良き日本の原風景を色濃く残す山奥の寒村である。
住民の多くは、地元にあるF神社の祭神を篤く信仰し、また、住民同士のつながりも強く、季節の行事や祭り等で古くからの暮らしを守ってきた。
ところが、昭和五十年代に入り、H地区全域を水没させるダム建設計画が動き出すと、移転をめぐる騒動が起こり、人々の生活は一変したのだ。
住民の多くはダム建設の反対運動に参加し、行政側やダム建設業者達等と激しい衝突を繰り返す。
また、ダム建設反対派の住民と賛成派の住民が話し合いの末、取っ組み合いの喧嘩までに発展することも珍しくなく、さらには、ヤクザ達までもがこの不毛な争いに加わり、果ては殺人事件まで起きてしまう。
このような物騒な雰囲気を嫌い、ダム建設計画の決着を待たずにして、H地区を離れた者も少なくない。
三十になったばかりの男、日暮 鳴苦吾郎(ひぐらし なくごろう)もその一人である。
◇
鳴苦吾朗は、両親を早く亡くし、先祖代々から譲り受けた畑を黙々と耕してきた。
しかし、譲り受けた家屋や畑に取り立て愛着が無かったので、早々に家土地を売り払い、H地区から車で一時間程離れた街のアパートに移り住む。
鳴苦吾朗が住んでいた家は古い上にボロボロであったし、H地区の地価はかなり低い。
家土地全てを売り払い得たお金は、鳴苦吾朗にとっては大金だったが、一生遊んで暮すというには程遠い金額であった。
その為、鳴苦吾朗は引っ越した直後、職業安定所に通い仕事を探した。
ところが、職員が仕事を紹介してくれる度に、やれ給料が安い、やれ勤務時間が長い等と、ケチをつけた為、就職出来なかったのである。
また、それまでのド田舎暮らしの反動かのように、高級バーをいくつもハシゴにし、パチンコや競馬、競輪にドップリとはまり、風俗店に通いつめる日々を過ごす。
無職の上、飲む、打つ、買うを続けた為、何もかも売り払い得たお金は、鳴苦吾朗の手元から、ほとんどサヨナラしてしまう。
そのような状態になれば、派手な暮らしを続けられるワケがなく、アパートの部屋でゴロゴロするしかなかった。
鳴苦吾朗は、農業が好きだったワケではないが、そのような何もしない日々を過ごす内に、再び自分の畑を持ち、野良仕事をやりたいという願望を抱く。
だが、まとまった土地を買うお金などすでに手元に無く、その上、担保に出来るような物も無く、保証人になってくれるような親戚や知人もいない為、金融機関からお金を借りることが出来ない鳴苦吾朗。
正にナイナイ尽くしの男である。
真昼間にも関わらず、缶ビールをグイッと飲み横になり、安アパートの天井のシミを数えながら、金策を練っていると、部屋の入り口の方からドアを叩く音が聞こえて来た。
新聞の勧誘かなと起き上がり、ドアを開けると、黒の上下のスーツを着た長い金髪の若い女性が立っていたのだ。
生まれて初めて会う外国人、しかも、とびっきりの美人の女性の姿を見て、口をポカーンと開け、直立不動になる鳴苦吾朗。
金髪の女性は、ニッコリと微笑むと、まるっきり西洋人の外見とは裏腹に、丁寧な日本語で鳴苦吾朗へ挨拶をする。
「初めまして、日暮様。
私、この近辺を営業で回らさして頂いております者で、マエリベリー・ハーンと申します」
突然尋ねてきたセールスウーマンは、自分の氏名と”ココロのスキマ、お埋めします”と書かれた名刺を鳴苦吾朗へ手渡し、矢継ぎ早に切り出す。
「豊かな自然の中で農業をおやりになりませんか?」
鳴苦吾朗はすぐさま部屋に戻ると、散らかったゴミを押入れへ放り込んだ後、マエリベリーを部屋の中へ招き入れた。
部屋に通されたマエリベリーは、部屋に置かれた質素なちゃぶ台の上にパンフレットを置き、テキパキとした口調で説明を始める。
「過疎化が進む東方村が住民を募集しておりまして、私はその村から委託を受け、移住をしてくれる方を探しております。
移住をして頂いた方には、東方村が買い上げた、所有者が高齢や病気等の理由の為、耕作放棄された畑や放置された家屋を格安でお貸し致します。
……もしよろしければ、車がございますので、早速現地へ行ってみませんか?」
マエリベリーの突然の提案に、鳴苦吾朗は少し考え込んだが、彼自身にとって正にタイムリーで魅力的な内容であったし、ゴロゴロしているよりマシかと快諾する。
◇
鳴苦五郎は出かける為の準備を終え、部屋のドアに鍵をかけると、アパートの外へと向かって年季の入った廊下を歩き出す。
そして、数歩歩くと、おもむろに後ろを振り向く。
振り向いた先には、誰もいない。
鳴苦五郎は、故郷を離れてから、度々妙な違和感を覚えることがあった。
誰かが自分の後をつけていると。
しかも、今回のように振り向いても誰もいない為、最初の内はかなり気味悪がったものだ。
だが、このニート男は何回も体験していく内に慣れてしまい、最近では、気にしたら負けかなと思ってる。
鳴苦五郎は、頭を戻すと鼻歌を歌いながらアパートの出入り口へ向かった。
◇
アパートの前に、黒い乗用車が止められており、マエリベリーは車のそばで鳴苦五郎を待っていた。
先に鳴苦吾朗を助手席へ乗せると、マエリベリーは運転席に乗り込み、シートベルトを締める。
「では、東方村へ向かって出発致します。
前方、よ〜し!」
そう気合を入れて言うなり、マエリベリーはシフトレバーを”R"に入れ、アクセルペダルを強く踏み込む。
マジで!?と、鳴苦吾朗が思うやいなや、車は後ろの方へ勢い良く走り出し、マエリベリーは慌ててブレーキーペダルを踏んだ。
幸い後方には人はおらず何も無かったが、下手をすれば大事故になっていただろう。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
マエリベリーは取り乱し何回もごめんなさい!と連呼しながら、鳴苦吾朗へ頭を下げる。
「……大変申し訳ございません。
私、免許取立てで、たま〜に、やってしまうんです」
目的地に着く前に事故ってはシャレにならないと思った鳴苦吾朗は、シートベルトを外して車を出た。
そして、何気なくボンネットの上を見ると、黒い乗用車に似付かわしくない若葉マークがこれでもかと大量に貼られていたのだ。
結局、助手席にナビ役としてマエリベリーが座り、鳴苦吾朗が運転をすることになった。
なお、鳴苦吾朗は酒を飲んだばかりであったが、故郷に住んでいた頃など、もっとベロンベロン状態で軽トラックを運転するのはしょっちゅうのことであったので、飲酒運転することに対し、特に気にしなかったのだ。
今では到底考えられないことだが、昭和五十年代は飲酒運転に対し、現在ほど罰則が厳しくなかったこともあり、彼のように飲酒運転を平気で行うヨッパドライバー達が結構いたものである。
また、鳴苦吾朗が飲んだのが缶ビール一本のみだった為だろうか。
マエリベリーは、彼に酒が入っていることに気が付かなかったようであった。
◇
マエリベリーは、前方の信号を指差し、鳴苦吾朗へ進行方向を指示する。
「次の信号を左折して下さい」
そのような感じで、一時間程走っただろうか。
外の景色に緑が増えてきて、そのうち山道に入ると、交通量も少なくなってくる。
スレ違う車がなくなり、しばらく進むと古ぼけた何とも味わいのあるトンネルが見えてきた。
トンネルは短いようで、入ってすぐに出口の光が黒い乗用車を照らす。
トンネルを抜けると、そこは超ド田舎(東方村)だった。
車が一台やっと通れるかの幅の舗装されていない畦道。
平らな所は、ほとんど畑や田んぼであり、その合間にポツンポツンと建つ合掌造りの家々。
故郷を離れる前までは生粋のドイなかもんであった鳴苦吾朗にとっては、懐かしいと思うぐらいの風景であったが、一つ気になることがあった。
いくら走っても電柱が一本も立っていなかったのだ。
ド田舎とはいえ、戦後三十年以上経っているのに、電気が通っていない点に驚き、マエリベリーに尋ねると、
「ええ、それと水道もございません。
ですが、ランプ等の照明器具や手押しポンプ付きの井戸がございます。
電気や水道が完備している今の”外の世界”の生活に比べれば、多少ご不便でしょうが……、これはこれで結構良いものですよ♪」
営業において、客にネガティブな情報は、先に言わないでおくものだ。
しかし、当の鳴苦吾朗は、まあ多少の不便ぐらいは我慢するかと思っていた。
というのも、鳴苦吾朗が売り払った生家は、ド田舎であるH地区の中でもかなり奥の方にあった為、電気や水道が来たのは、彼が中学生の頃であり、電気水道無し生活は経験済みの為である。
会話を続けていく内に、目的の物件が見えてきた。
鳴苦吾朗は一際大きな合掌造りの家の前に車を止め、外へ出ると、一ヘクタールぐらいの大きさの畑が彼の目の前に広がる。
「こちらの家屋と畑が、日暮様へお貸しする物件となります」
車から降りてきたマエリベリーは、説明を続けて行う。
「なお、本日までに移住の契約を交わして頂いた場合、なんと、無料で家屋と畑を進呈致します!」
どうしようかなと悩んでいた鳴苦吾朗にとって、正に殺し文句であった。
移住すると即答すると、マエリベリーはバインダーに載せた契約書とボールペンを鳴苦吾朗へ手渡す。
「契約内容を十分にご理解の上、サインのご記入を宜しくお願いします」
渡された契約書には、細かい文字でびっしりと契約内容が記載されていた。
だが、大雑把な性格の鳴苦吾朗は、面倒臭がり、契約内容をよく読まずにサインをしてマエリベリーへ渡してしまう。
マエリベリーは契約書を受け取ると、ニッコリと微笑み、鳴苦吾朗へ礼を述べる。
「ご契約頂き、ありがとうございます!
引越しの手配は、私が代行致しますので、本日からこちらで暮らし始めても問題ございません」
鳴苦吾朗の部屋には、貴重な物など何も無かったので、アパートの鍵をマエリベリーへと渡す。
マエリベリーは鍵を受け取ると、鳴苦吾朗へ頭を丁寧に下げてから車に乗り込み、そのまま去って行った。
◇
幻想郷のどこかにある大妖怪、八雲紫の屋敷。
その古めかしく大きな屋敷の入り口の前に、マエリベリーは黒い乗用車を止めた。
マエリベリーは車から降りると、屋敷の入り口の戸を開け、長い廊下の奥へ向かって、式神兼使用人を呼ぶ。
「藍、今帰ったわよー!」
しばらくすると、金色の髪を短く切り揃えた長身の女性が姿を表す。
九尾の妖狐であり、紫の忠実なる式神、八雲藍である。
「お帰りなさいませ、紫様」
「ら〜ん。
私がこの格好をしている時は、メリーって、気軽に呼んでと約束したでしょ?」
いつの頃からか、紫はある夢を見るようになり、その夢の中の自分の名が、マエリベリー・ハーンであり、メリーは愛称だった。
夢の舞台は、どうやら”外の世界”のようであるが、内容がいつも違う上に、モヤがかかったように、いまいちハッキリとしないことが多い。
だが、どうでも良いようなことはハッキリと覚えている場合があり、それは、夢の中のメリーはとある漫画の愛読者ということと、その漫画の内容である。
紫が黒い上下のスーツを着ているのも、その漫画の主人公のことを気に入り、服装を真似た為で、この格好をしている時はメリーと呼ぶようにと藍に言い聞かせていた。
しかし、いくら自分の主の頼みとは言え、敬愛する主を友達感覚で呼ぶことに躊躇っている藍は、なかなか”外の世界”の格好をした紫をメリーと呼ぶことに、慣れることが出来なかったのだ。
「で、では、メリー。 東方村住民からの陳情の件、いかがですか?」
「ばっちぐーよ! 早速、契約を取り付けたわ!」
紫はサイン済みの契約書を取り出して、得意気に藍へ見せつけた。
面倒見が良い紫は、幻想郷の人妖達から相談をよく受けており、先日、東方村の老人から、
「村の若いモン達が一人残らず大きな人里へ移り住んでしまい、困っております」
と、相談を受けたのだ。
幻想郷には、人間が住む里がいくつかあり、東方村はその一つで、山間の僻地にあり、他の人里に比べると生活に不便な土地である為、若者達の村離れが進み、村に残るのは老人達だけという、”外の世界”でいう過疎化が問題となっていた。
この問題に対し、紫がとった行動が、”外の世界”の若者達を幻想入りさせる計画、”ようこそ、東方村へ”である。
紫が”外の世界”でセールスウーマンとして鳴苦吾朗を連れてきたのは、その計画の一環であり、彼の東方村での生活の様子を見てから、順次他の人間も幻想入りさせる予定だ。
なお、やたら無闇に連れて来ても、良くないと紫は考え、”スキマ”の応用であるひみつ能力、通称・goggle(ゴーグル)で、対象となる人間を予めゴグッたのだ。
ちなみに、今回の検索キーワードは、
「"人間" "三十代まで" "農業に興味がある" "田舎暮らしOK" "多少不便な生活でもOK" "親しい身寄りや知人がいない"」
である。
そうして絞り込まれた中から、テスト第一号として選ばれたのが、日暮 鳴苦吾朗(ひぐらし なくごろう)であった。
だが、検索条件に"外の世界にしかないモノに未練がない"、または"症候群に感染していない"というキーワードが加わっていれば、鳴苦吾朗は検索に引っ掛からなかっただろう……。
◇
鳴苦吾朗を幻想入りさせてから数日後、紫はひみつ能力の一つ、”どこでもスキマ”を開き、彼が住んでいた安アパートの部屋にやって来た。
そして、ゴミ以外の物を”四次元スキマ”に放り込んでいく。
そうして、部屋にあったゴミ以外の物を”四次元スキマ”へ入れ終えた後、
「うしろのしょうめん、だ〜れ〜だ!」
と、紫は突然振り返り、ニッコリと微笑んだ。
彼女の目の前には、長髪の小学生ぐらいの少女が、”あぅあぅ〜、ボクの姿が見えてるの!?”というような感じの驚愕の表情を浮かべて硬直していた。
その少女は、腋を露出させた白い小袖に緋袴という、いわゆる巫女装束をまとっており、左右の耳の上辺りから、一本ずつ黒い角が生えているという、人外と言える異様な容姿であったが、大妖怪の紫にとっては、
「はぅ〜、かぁいいよ〜、お持ち帰り〜♪」
と、言わしめ、抱きつかせる程度の能力を持つ存在に過ぎなかった。
◇
二本角の少女を抱擁から解放すると、鳴苦吾朗の故郷であるH地区にあるF神社の祭神であると、自己紹介させた。
また、鳴苦吾朗のようにH地区から離れた者達を定期的に見て回っていることも説明させたのだ。
かぁいい人外少女にすご〜く興味を持ったペド妖怪、紫のひみつ能力の一つ、”スキマ洗脳(神様だって洗脳してみせるver.)”によって。
勝手に出て行った人間を、たまにとはいえ見守ってあげるなんて、なんて思いやりの深いロリ神様なんだろう!と、感動し、このまま幻想郷にお持ち帰りしてしまおうか、と考え込んだが、大妖怪八雲紫は淑女であると同時にマジ紳士である。
また、ロリ神様をた~っぷりとペロペロした紫は、ロリ神様から強い神気を感じ取ったのだ。
信仰心を集めている神ほど神気が強い。
そのことをよく熟知している紫は、ロリ神様を幻想郷へ拉致することを断念した。
”四次元スキマ”からボールペンと紙を一枚取り出すと、”困ったことがあったら、ココへ訪ねてきてネ”という文章と、幻想郷にある自分の屋敷の所在地を書き、その紙をロリ神様の懐へ入れた。
そして、”どこでもスキマ”を開き、ロリ神様へ洗脳解けの投げキッスをして、紫は名残惜しそうに幻想郷へ去って行った。
ちなみに余談ではあるが、紫は、鳴苦吾朗の為に引越し作業は行ったが、彼の転居の手続きは行わなかった。
その為、しばらくすると、”外の世界”では、鳴苦吾朗は行方不明扱いとなる。
世間にとっては、冴えないドクオ('A`)一人の行方が分からなくなっただけのこと。
しかし、とあるいわくつきの伝承がある彼の故郷のH地区にとっては重要度のレベルが違ったのだ。
H地区の住民達は、鳴苦吾朗が行方不明になった事を聞くなり、オ○シロさまの祟りだと大いに騒いだそうな。
◇
鳴苦吾朗が東方村に移住して一ヶ月程たったある日のこと。
彼は、”外の世界”へ帰る為に、村外れのトンネルにやって来た。
移り住んだ家の隣にある蔵の中には、衣服、食料、各種医薬品類、マキやランプの燃料、工具や農具等、生活に必要なモノが十分に用意されており、最初の内は念願の野良仕事に精を出していた。
ところがどっこい、東方村には、バー、パチンコ店、競馬場、競輪場、そして風俗店等といったモノがなかった。
また、電気が来ていない為、テレビを見ることが出来ないのは仕方がないにしろ、携帯ラジオを付けても何も受信しなかったのだ。
そんな娯楽が何もない状況に、鳴苦吾朗は耐えられなくなったのである。
それほど長くないトンネルを全力で走る鳴苦吾朗。
そう、トンネルの出口には、彼が求める娯楽一杯の”外の世界”が待っているのだから。
ところが、トンネルを抜けきった鳴苦吾朗の目の前には、信じられない光景が広がっていたのだ。
トンネルを抜けると、そこはまた超ド田舎(東方村)だった。
そんなバナナ!と驚きながらも、再びトンネルへ入り、出口へ向かって鳴苦吾朗は走り出す。
◇
◇
◇
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
鳴苦吾朗は逃げ出した! しかし、”東方村”にまわりこまれてしまった!
”東方村”からは逃げられない!!
◇
何回も何回もな〜んかいも変わり映えのない光景を、これでもかこんちくしょうと、しつこいほど見せ付けられ、鳴苦吾朗はガックリと膝をつく。
それでも、もう一度と彼が立ち上がろうとした時、聞き覚えのある声がかけられる。
「この世界……、”幻想郷”、さらに言えば東方村からは、もう貴方は出られませんよ。
では、改めて初めまして。
私、”外の世界”では、マエリベリー・ハーンと名乗っております妖怪、八雲紫と申します」
鳴苦吾朗は、突然現れたマエリベリー、もとい紫を見て、いつの間にと驚きながらも、すぐさま、こいつが自分をココへ連れてこなければと、怒りゲージを瞬時にMAXにした。
そして、こうなったら力づくでねじ伏せて、自分を元のアパートへ戻さしてやる!と、錯乱状態に陥った鳴苦吾朗は即決する。
また、周りに住むのが婆さんばかりで、若い女性が一人もいなかったので夜這いも出来なかった上に、エロ本が一冊も無かった為、強制禁欲状態であったのだ。
もうたまらん状態の男に、超絶美人は劇薬のようなモノである。
そうだ、ついでに犯ってしまおうと、チョー短絡的男は、紫へと襲い掛かる。
コレに対し、
「いや〜ん。
ゆかりん、ぴ〜んち!」
と、腰をくねらせながら言いつつも、慌てるそぶりを一つもしない紫。
襲い掛かって来た鳴苦吾朗の手が、紫を掴もうとしたホンの一瞬の出来事であった。
鳴苦吾朗の腕をヒラリとかわし、ロイヤル・ストレート・クズ男の額へ、紫はカウンター気味に右手の人差し指を押し付ける。
ただ、それだけの行為であったが、彼女は、自分に向かってきた男を指一本で止めてしまう。
そして、紫がそのまま「どーん!!!」と叫ぶと、鳴苦吾朗の体は後ろへと仰向けに倒れ込む。
鳴苦吾朗は、自分自身に何が起こったのか、しばらく理解出来なかった。
いや、力にはそれなりに自信がある自分が、女のか細い指先一つでダウンさせられたことが信じられなかったのだ。
「お触りは厳禁ですよ〜」
紫は、倒れ込んだまま呆然とした鳴苦吾朗に契約書を見せ付ける。
「困りますわ~、日暮様。
契約書に貴方の同意のサインを頂いているのですからね〜」
そして、契約書の”幻想郷の東方村で一生暮らすことに同意します”と書かれた箇所を指差して、とっておきのダメ押しというヤツだをする。
「繰り返し申し上げますが、東方村からは、もう出られませんよ〜。
ああ、それと……、今回は見逃してあげますが、今後オイタが過ぎるようことをしたら、あの世逝きですよ〜」
と、鳴苦吾朗へ告げると、”どこでもスキマ”を開き、その場から消えた。
紫に姿を消す様を見せ付けられ、自分は得体の知れない存在に、二度と出られない場所に連れて来られたということを、鳴苦吾朗はようやく理解する。
絶望に駆られた鳴苦吾朗は、ノドに痒みを感じ、両手でノドを掻き始める。
━━━元の世界に戻れない。
バリッ!
━━━元の世界の遊びがもう出来ない。
バリッ! バリッ! バリッ! バリッ!
━━━ちち、しり、ふとももーーーっ!
バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ! バリッ!
絶望感が増す度に、ノドの痒みは増し、鳴苦吾朗は指先にさらに力を込めて己のノドを掻き続けて逝った。
◇
< 八雲紫の日記 >
××月××日、”外の世界”の人間、日暮 鳴苦吾朗(ひぐらし なくごろう)を幻想入りさせる。
東方村での彼の生活状況の観察を開始する。
××月××日、日暮鳴苦吾朗が住んでいたアパートへ、彼が残してきた所有物を回収しに行く。
回収作業終了直後、彼の故郷のF神社で祭られている二本角の少女神と遭遇する。
非常に愛らしいボクっ娘であり、腋を露出させた巫女装束がとてもナイスであった。
幻想郷に連れて来たかったが、かなり信仰されている神様のようであった為、断念した。
××月××日、二本角の少女神が着ていた腋を露出させた巫女装束がとてもサイコーだったので、
同じようなデザインの巫女装束を藍に作らせ、博麗神社の巫女へ着るようにと勧めてみた。
しかし、「腋巫女萌えって、どないやねん! きんもーっ☆」と、巫女に罵られ、腋露出巫女装束の着用を拒否されてしまう。
次代の博麗神社の巫女に、腋を露出させた巫女装束を必ず着せてみせる。
そう強く誓う。
:
:
:
××月××日、日暮鳴苦吾朗の死亡を確認。
異常な死に方に何らかの薬物を疑うが、一切検出されなかった。
”外の世界”へ帰ろうとしたが、出来なかった故のストレスによるモノなのか検証中。
検証が終わるまで、”ようこそ、東方村へ”計画は凍結する。
××月××日、マエリベリー・ハーンとなる夢を見る。
これで何度目になるだろうか。
今回は、マエリベリーの友人であろう、白いリボンが巻かれた黒い中折れ帽を被った少女が傍らにいた。
マエリベリーは、どうやらその少女に友人以上の感情を抱いているようだ。
かくいう私も、彼女が夢に出てくるのを非常に楽しみにしている。
色々と書き込んでいて面白いかもと思わないでもないんですが、如何せん読み終わって感想があまり出てこないです。とりあえず、ストレスで死ぬなら、ゆかりんにいたずらして殺されるほうがいいのに日暮鳴苦吾朗は馬鹿ですね。
たいして前と変わってませんけど?
>>加筆修正したところで全くレベルに変化なし。こういう人って何故か「誤って」削除することが多いのは何なんでしょうね?
今後誤って削除しないように気を付けるように致します。(汗)
別の作品を投稿させて頂く予定ですので、またご指摘等を頂ければ幸いです。
>>二本角の少女神て何なんでしょう。
二本角の少女神は、羽○(は○ゅう)という、ひ○らしのキャラです。
日暮鳴苦吾朗が、己の首を掻き毟って死んでしまったのは、雛○沢症候群が発症した為です。
元々、この作品は、東方がメインでひ○らしの方はネタ程度にしようと思っていたのですが、出来上がってみると……。(汗)
>>たいして前と変わってませんけど?
本当に申し訳ございませんでした。(汗)
正しくは、「加筆修正」→「ちょとだけ加筆修正」となります。
次回は、東方 × 某アクションゲーム の作品を投稿させて頂く予定ですので、宜しくお願いします。