「お嬢様、今夜、あと2時間で流星群が降るそうです」
「あぁ、そうなのね」
メイドの咲夜が入れてくれた紅茶を一口飲んで、そばに立つ昨夜の顔を見上げる。
「今回も皆で見ましょう。フランとパチェ、美鈴にも伝えてきて。いつもの場所ね」
「かしこまりました」
シュンっと音を立て、超高速で昨夜は去っていった。
今日の昨夜は上機嫌だとは感じていたので、なるほどと紅茶をまた一口飲み込んだ。
私たち長命種にとって何百回目の流星群でも、咲夜が晴れで、しかも記憶に残っている流星群なんて、10回にも満たないだろうから。
誰しも少ない回数しか見たことのない綺麗な景色など、何回も見たいに決まっている。
いつもは主の前だからとか言って格好をつけ、感情を隠すあの子のこういうところを見つけられるのが嬉しくて、フフ、と笑いが漏れる。
2時間後が楽しみだ。
その2時間後、予定通りの時間に私はパチュリー様、美鈴、妹様といつもの場所ーーー紅魔館の屋根へ上がってきていた。
「いつ来るかな〜」
妹様が足をぷらぷらとさせ、つまらなそうに口を尖らせた。
妹様やお嬢様は私なんかよりもはるかに永い時を生きている。それなのにーーーこういう無邪気なところをみると、愛らしい幼子に見えてしまう。
「きっともう少しで来るわ。フランは願い事でも考えておきなさいな」
「ん〜どうしよ……」
先ほどより足の動きが遅くなる。考えている証拠だ。可愛い。
空を見上げていると、真っ黒な空に一筋の光が流れた。
「あ」
流れ星…!
「いっぱい来たわよ」
パチュリー様の言葉を皮切りとするように一気にたくさん…数え切れないほどの星が流れては消えていく。
「わ〜…あ、お願いごとお願いごと」
「咲夜さん?しないんですか、お願いごと」
妹様と美鈴の言葉にハッとする。
皆で手を胸の前で組んで目を瞑る。3度言い終わる前に星は消えてしまった。
そして、私はお嬢様たちに呼びかける。
「お嬢様、妹様。少し席を外させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ」「いーよ」
お二人の寛大な心に一礼すると、私の能力“時間を操る程度の能力”で時を止める。
流れ星は、空に線を描いたまま、ピタリと凍りつく。
いや、動いてはいるのだ。ただ、私の動きや感じ方が速すぎるだけで。
そっと屋根に腰掛けて筋の入った空を眺める。
この世界でこの“止まった夜空”を見ることができるのは、私だけ。そう、この瞬間は、私だけのものなのだ。
あの未来を見ることができるお嬢様も、すべてを破壊することのできる妹様も、人の心を覗くことのできる悟り妖怪も、幾千幾万を生きる月人も、最強と言われる博麗の巫女にも、世界中の全てを探し当て、見つけることのできるスキマ妖怪にさえ見ることのできない景色。
私はこの夜空が好きだ。
この世で見たことのあるどの空よりも、今この瞬間の空が好きだ。
その時、能力を無視するように、一瞬空に白いインクで描くように光の線が伸びていく。思わず目を見張るものの、不思議、よりも美しい、という気持ちのほうが強いように感じた。
時間にすれば、1秒。いや、それ未満かもしれない。けれど、それが私には10秒にも10分にも思えた。
まだ、時間は止まっている。
立ち上がって、お嬢様のところへ戻ろうとしてーーーふと、足を止める。
最後だろうか。1つの流れ星を見つける。先ほどは言えなかったけれど、停止してくれるならば言うことができる。
そっと目を閉じて、小声で願いを3回唱える。
そして能力を解除しながらお嬢様の下へまた歩き出した。
「さくや〜」
「はい」
「ここ座って〜」
「はい」
お嬢様の横に座ると、お嬢様はだらしなく寝そべり、両手を広げた。気付くと、私とお嬢様以外はいなかった。それならいいか、と私も横で寝そべった。
紅魔館の屋根は高い。星空に近くて、星がよく見えた。
「星……綺麗ね」
「はい」
「なんて唱えた?」
「願いって……言葉で言ってしまったら、ちょっと効果半減する気がしません?」
「それもそうね。……ねぇ、咲夜」
「なんでしょう、お嬢様」
「この前読んだ漫画にこんなセリフがあったの。“流れ星に3回願いを唱えたら叶うっていうのは、流れ星が見えてから消えるまでっていう一瞬の間にも願いのことを考えている人だから叶えられるという意味”って」
「…いいセリフですね」
「でしょ?」
視界の端で、流星の尾が静かに夜に溶けていく。
私はそっと胸に手を当てた。
唱えた願いは、ずっとずっと、毎日のように抱きしめ願っていたもの。だから、きっと大丈夫。
流れ星が消えても、その一瞬というのが私にとっての1分でも。きっと、叶えて見せる。
流星が全て消え、燃え尽きても、私の心の中で願いは途切れず、その思いは光り続けた。
「あぁ、そうなのね」
メイドの咲夜が入れてくれた紅茶を一口飲んで、そばに立つ昨夜の顔を見上げる。
「今回も皆で見ましょう。フランとパチェ、美鈴にも伝えてきて。いつもの場所ね」
「かしこまりました」
シュンっと音を立て、超高速で昨夜は去っていった。
今日の昨夜は上機嫌だとは感じていたので、なるほどと紅茶をまた一口飲み込んだ。
私たち長命種にとって何百回目の流星群でも、咲夜が晴れで、しかも記憶に残っている流星群なんて、10回にも満たないだろうから。
誰しも少ない回数しか見たことのない綺麗な景色など、何回も見たいに決まっている。
いつもは主の前だからとか言って格好をつけ、感情を隠すあの子のこういうところを見つけられるのが嬉しくて、フフ、と笑いが漏れる。
2時間後が楽しみだ。
その2時間後、予定通りの時間に私はパチュリー様、美鈴、妹様といつもの場所ーーー紅魔館の屋根へ上がってきていた。
「いつ来るかな〜」
妹様が足をぷらぷらとさせ、つまらなそうに口を尖らせた。
妹様やお嬢様は私なんかよりもはるかに永い時を生きている。それなのにーーーこういう無邪気なところをみると、愛らしい幼子に見えてしまう。
「きっともう少しで来るわ。フランは願い事でも考えておきなさいな」
「ん〜どうしよ……」
先ほどより足の動きが遅くなる。考えている証拠だ。可愛い。
空を見上げていると、真っ黒な空に一筋の光が流れた。
「あ」
流れ星…!
「いっぱい来たわよ」
パチュリー様の言葉を皮切りとするように一気にたくさん…数え切れないほどの星が流れては消えていく。
「わ〜…あ、お願いごとお願いごと」
「咲夜さん?しないんですか、お願いごと」
妹様と美鈴の言葉にハッとする。
皆で手を胸の前で組んで目を瞑る。3度言い終わる前に星は消えてしまった。
そして、私はお嬢様たちに呼びかける。
「お嬢様、妹様。少し席を外させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ」「いーよ」
お二人の寛大な心に一礼すると、私の能力“時間を操る程度の能力”で時を止める。
流れ星は、空に線を描いたまま、ピタリと凍りつく。
いや、動いてはいるのだ。ただ、私の動きや感じ方が速すぎるだけで。
そっと屋根に腰掛けて筋の入った空を眺める。
この世界でこの“止まった夜空”を見ることができるのは、私だけ。そう、この瞬間は、私だけのものなのだ。
あの未来を見ることができるお嬢様も、すべてを破壊することのできる妹様も、人の心を覗くことのできる悟り妖怪も、幾千幾万を生きる月人も、最強と言われる博麗の巫女にも、世界中の全てを探し当て、見つけることのできるスキマ妖怪にさえ見ることのできない景色。
私はこの夜空が好きだ。
この世で見たことのあるどの空よりも、今この瞬間の空が好きだ。
その時、能力を無視するように、一瞬空に白いインクで描くように光の線が伸びていく。思わず目を見張るものの、不思議、よりも美しい、という気持ちのほうが強いように感じた。
時間にすれば、1秒。いや、それ未満かもしれない。けれど、それが私には10秒にも10分にも思えた。
まだ、時間は止まっている。
立ち上がって、お嬢様のところへ戻ろうとしてーーーふと、足を止める。
最後だろうか。1つの流れ星を見つける。先ほどは言えなかったけれど、停止してくれるならば言うことができる。
そっと目を閉じて、小声で願いを3回唱える。
そして能力を解除しながらお嬢様の下へまた歩き出した。
「さくや〜」
「はい」
「ここ座って〜」
「はい」
お嬢様の横に座ると、お嬢様はだらしなく寝そべり、両手を広げた。気付くと、私とお嬢様以外はいなかった。それならいいか、と私も横で寝そべった。
紅魔館の屋根は高い。星空に近くて、星がよく見えた。
「星……綺麗ね」
「はい」
「なんて唱えた?」
「願いって……言葉で言ってしまったら、ちょっと効果半減する気がしません?」
「それもそうね。……ねぇ、咲夜」
「なんでしょう、お嬢様」
「この前読んだ漫画にこんなセリフがあったの。“流れ星に3回願いを唱えたら叶うっていうのは、流れ星が見えてから消えるまでっていう一瞬の間にも願いのことを考えている人だから叶えられるという意味”って」
「…いいセリフですね」
「でしょ?」
視界の端で、流星の尾が静かに夜に溶けていく。
私はそっと胸に手を当てた。
唱えた願いは、ずっとずっと、毎日のように抱きしめ願っていたもの。だから、きっと大丈夫。
流れ星が消えても、その一瞬というのが私にとっての1分でも。きっと、叶えて見せる。
流星が全て消え、燃え尽きても、私の心の中で願いは途切れず、その思いは光り続けた。
一瞬一瞬を大切に生きている咲夜さんが素敵でした