Coolier - 新生・東方創想話

霊知の花

2011/05/14 15:05:27
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春、それは何か得体の知れないパワーを抱く時期である。
冬という眠りの季節から目覚めたエネルギーは生物にもそのエネルギーを分け与える。
だが、それも束の間。所詮は他者からの力である。浪費も早く……


「で、結局引きこもり卒業できず、と」
「しょうがないじゃない……自分の家に惹きつけられるのよ。外出とかメンドイし」
「でも一週間も持たないっていうのは流石にないわ……最初から引きこもり止める気なかったでしょ」
脱・引きこもりを心に決めた少女姫海棠はたて。しかし、一週間も持たないというのはもはやエネルギー切れという次元ではない。
文は内心、コイツの方がよほど“メンドイ”と思った。

「ところで、何で文はうちに来たのよ」
「いやー、今日なんか天気いいし、取材も一段落着いてるから昼食でも一緒にどうかなって」
「河童の宅飯でよくない?」

河童という種族の開発する技術は発展する一方であり、ついにははたての持つ「ケイタイ」という種類の「カメラ」を利用し料理を注文出来るようになったのだ。
もちろんこのような便利すぎるサービスははたてのような引きこもりを生み出すようになった一因でもある。

「あのねぇ、一緒にお店に食べに行くからいいんでしょ。一緒にご飯食べるのって」
「えー、メンドイー」

はたてはふぁぁ、と欠伸をしながら言った。
一週間前に引きこもりを辞めると言ったやつが良くぞここまで手のひらを返せるものだ。
しかし、ここでそういう手の返し方も取材では使えると思ってしまう文も文だった。

「まぁ、無理にでも連れて行くからね。この私がはたてに交渉術で負けると思って?」
「って、引きずっていくなー! 交渉術関係ないじゃない!」




ところで、飲食店というものは妖怪の山には少なく、人間の里の方がはるかに多い。そして味ももちろん競争店が多いほうがレベルが高くなるため、人間の里の方が良い。
本来、天狗は人間と距離をとっており、文のように積極的に人間に近づくものはほとんど居なかった。しかし人間との距離が近づいた今、人間の里を頻繁に訪れる天狗は少なからず存在している。
人間側も天狗に評判が広まれば、結果的に情報が広がることになり得になる、ということで来るものを拒まずに居るのだ。

「しかし、やっぱり春の陽気はいいわねぇ。はたてもそう思わない?」

人間の里に向かう為に妖怪の山上空を飛ぶ文とはたて。木々にはいつの間にか新緑が芽生えており、何かこの間の寒い時期までとは違った空気が流れているようだ。目を地面に向ければ紫の花が見える。あれはスミレの群集だろうか。

「まあ暖かいのは同意だけど……引きこもる以上の魅力は感じないわね」
「私からしたら引きこもりの何処がそんなに魅力的なのか分からないけどねえ。逆に退屈な気がするけど」

暇こそが天敵であると考える文には引きこもりなどは考えられないのである。

「寝てれば?」
「寝るぐらいだったらネタを探して飛び回りますよ!」

興奮気味にまくし立てた文だったが、

「ふーん」

と軽くかわされてしまった。
コイツは仮にも新聞記者なのだろうかという疑念を抱きつつも、コレは引きこもり卒業は遠そうだ、と文は近づきつつある家々の屋根を目にしながら思うのだった。





今の時代、数多の妖怪が人間の里も訪れる。妖怪は空を飛んでくるのだから、人の目にはつきそうである。しかし、人間側からすると何時の間にか妖怪が道を歩いていると気づく程度なのだ。妖怪も目立つのは嫌うものが多いため、近場で降り立ってから歩いて里に入るようにしているからだ。これはもはや、妖怪の間での暗黙上の了解となりつつある。

「さて、じゃあこの蕎麦屋に行こうか? 私は春といったら山菜の天麩羅が思い浮かぶんだけど、あれを蕎麦と食べるんだったらこのお店が最高なのよ」

タラノメ、ふきのとう、雁足、行者ニンニクの芽、こごみ……思い浮かべるだけで涎が出てきてしまいそうになる。

「うーん。私は春といったら炊き込みご飯が思い浮かぶけれど、さっぱりした蕎麦もいいわね。しかし文はさっぱり物が好きねぇ」

店に着くと店内は混雑しているようで席が空くまで少し待たされることになった。確かに時間的にはちょうどお昼時である。おいしい蕎麦が食べられるならば短い時間だ、と文は考えていたところ、

「おや、射命丸さんではないか。お久しぶりです」
「あら、慧音さん。お久しぶりです。慧音さんもやっぱり蕎麦ですか?」
「いやー、最近いきなり暖かくなりましたからね。こういうときは冷たい蕎麦が一番ですよ」
「わかりますよ。初夏みたいに暑くはないですけど、寒い時期から一気に暖かくなると食べたくなりますよね」
「あ、あの……」

蕎麦ネタで盛り上がる文と慧音だったが、哀れにも忘れられた人が居た。もちろんはたてのことである。こういうときは引きこもりのコミュニケーション力のなさをはたては恨みたかった。

「ああ、ごめんごめん。はたてのこと忘れてたわ。慧音さん、こちらは私の友人の姫海棠はたて」
「上白沢慧音です。普段は寺小屋で教師をしています。よろしくお願いします」
「あ、ひ、姫海棠はたてです。よろしくお願いします」
「ところで射命丸さん、今人里で話題になっている花があるのはご存知かな?」
「花……ですか。いえ、私のところには入ってきていない情報ですが」

突然花の話題になるとはどうしたのだろうか。慧音さんはそんなに特別に花が好き、という事はない。事件だろうか。花の事件といえば彼岸花の異常開花があったことが記憶に新しいが……と射命丸は考えた。

「ええ、春になりましたから様々な花が咲き始めているというのは当たり前のことなんですが、最近、見たこともない花が咲いていたんです」
「それは、偶然に山に生えている花の種がどこかから飛んできたのでは?」
「いえ、それがいろんな所に咲いているんです。寺子屋の花壇にも咲いていましたし」
「それは――興味深いですね」
「もしよろしければ、このあと咲いているところにご案内しますよ」



「ところで文。何で私まで連れてこられるのよ」
「別にいいじゃないの。面白そうな気がするでしょ」
「それはそうだけどさ……」

慧音が案内する場所になぜかはたてまでつれてこられることになったのである。慧音と文が話している間放置され続け戸惑っていたはたてだったが、慧音に姫海棠さんもいかがと言われ、断るに断れなくなってしまったのだ。
再度はたては自分のコミュニケーション力のなさに嘆くのだった。

「こちらです」
「これは……」

丸葉に赤紫の花をつけたマメのような低木がそこにはあった。花の咲き乱れに映る緑と紫のコントラストは――まさに何かを伝えようとしているかのようだった。

「なるほど……一応写真に収めておきましょうかね」
「なんか、パッと見はただの花なのに、普通の花とは雰囲気が違う感じがするわね……この違和感はなんというか、上手く言葉では説明できないけど」

はたての言ったことそのままだった。何か記憶に引っかかっている気がするが、その情景が今見ているものとミスマッチするような――違和感なのか未知の感覚なのか、そのような何かしっくり来ない不快感が感じられるような気する、というのが文の感じた感覚だった。

「そうですよね。それで私も花には詳しくないですが、何か気になっていたんです。ほかの方にも聞いてみると、皆さんやはり気になる人が多いようで……」
「確かに興味深いです。ありがとうございました」

面白くはありそうだけれど、記事にできるほどのことではないなあ。まだ不明なところが多いし。はたての感じているような違和感を……抱くけれど、気のせいということにしておこう。文は何か引っかかりを覚えながらもそう思い込むことに決めた。
でも、気になるものは気になるもので。文は先ほどまで居た場所を振り返った。――空間の歪みと金色の髪のようなものが映った……様な気がした。





「あああああ……新聞のネタがないわ……」
「なんで新聞のネタがないとうちに来るのよ! 私だってあんたにあげるネタはないわよ!」
「あんたに聞くこと自体私のプライドが傷つくし、第一新鮮さがないネタなんていらないわよ」

ここのところ春が来た結果起こった話題を次々に新聞のネタにしてきたが、それもひと段落着いてしまった今、特に変化が起こっていることはない。文はいつものようにネタ不足に悩まされていた。面白そうな噂も聞かない。だから取材に行くアテもなく、暇なのだ。起こった変化といえば、新しいことに手を出しては挫折する人々が居たということぐらいだ。そんなものは今も目の前にいるようによくあることなので、ネタになるわけがない。

「そういえば、あの霊夢さんがなんか最近忙しそうにしていたみたいなんだけど……イライラするからはたてでも拉致って取材しに行こうかしら」
「なんで毎回私が巻き込まれるの……」
「いや、はたてが引きこもり脱却して、取材の難しさを体感して新聞作るのあきらめたら、ライバルが減るなぁって」
「……あんた、性格悪すぎるわ」




「んで、あんたはうちに何しに来たのよ」
「どうも霊夢さんこんにちは。最近、霊夢さんが忙しそうにしていた、との情報を得たので取材に来ました。」
「ところであんたは?」

霊夢ははたてを珍しげに眺めながら言った。

「あ、その、文の友人の姫海棠はたて……です」
「文が友人を連れてくるなんて珍しいわねぇ」
「気まぐれですよ。ところで取材の方よろしいでしょうか? 忙しかったそうですが」
「あー、あれね。なんか外の世界で何かあったみたいで、結界の保持が大変だったのよ。何とか今は一段落ついてきたみたいだけど、またいつ異常が起こるかわからないわ」
「なるほど、結界ってそんな簡単に外の世界の影響を受けるんですか?」

博麗大結界はなかなか頑丈なはずである。外の世界からの影響をそんなに簡単に受けるわけが無い。しかし実際に霊夢さんは影響を受けていると言っている。これは一体どうしたことだというのか。

「なんか、大規模な自然災害……だと思うんだけど、そういうのがあったみたいよ。流石にそういうのが起こっちゃうと結界だって手直しをせざるを得なくなるって訳」

自然災害――確かに天狗が外の世界に居た頃もそういうものは頻繁に起こっていた。特に秋にくる嵐――台風と呼ばれていたものの被害は天狗の社会の中でも大きな影響を及ぼしていた。しかし今は春、外の世界の季節も同じはずだから台風は無いだろう、などと文は考えていた。

「外の自然災害って、どういうのがあるんですか?」
「あれ、はたてって……そっか、あんたは幻想郷に来てから生まれたんだっけ」
「あら、そうなの。私ももちろん生まれたのは幻想郷だし、詳しいことは分からないけれど、雨とか風とかによって山が崩れたり、突然地面が揺れて建物が壊れたりとか、あるみたいよ」

ああいう自然災害はもう二度と体験したくないなぁ、と文は思っていたところ

「そういえばあんたたち、こないだまで里で話題になってた花の話知ってる? また異変かと思って私も準備してたんだけど、あれ、いつの間にかなくなっちゃったのよ」
「なくなった?」
「え? あの赤紫色の花がですか」
「そうそう、あれって低い木っぽい感じだったでしょ? 花だけじゃなくてあの木ごと全部なくなっちゃったらしいのよ。それも生えていたところ全部で」

一体どういうことだろう。文たちが見に行った時は確かに植物は存在していた。それがいきなり消滅するなんてありえない。

「そっちの方が異変じゃないんですか」
「私は何か被害をもたらす異変以外は動かないわよ。面倒だもん。もちろんさっき言ってた災害みたいな時は真っ先に動くけどね」
「霊夢さんって案外面倒くさがりなんですね」
「あんたには言われたくないと思うわよ。はたて」
「面倒くさがりなのは否定しないけれど、まぁ、何か理由がわかっているなら面白そうだからあんたたちに聞いたけど……そっちもわかんないか」

これは事件だ。明らかに新聞のネタになりそうなものである。ネタが多い分には困ることではない。これは調べてみる必要がある、と文は思った。
はたても同じように思ったようで、

「はい、少し調べてみようと思います。何かわかったら今度報告しに来ますね」

というのを見て、文は少し驚いた。





「はたて、あんた引きこもり止める気になったの?」
「いやまぁ、そういうわけじゃないんだけど、なんか気になるじゃない。こういう自分が突っ込んだ事で異変が起きるのって」
「まぁそうだけどね。ところで、何処に情報収集に行こうか……花の事と言ったら幽香さんだけど……」
「じゃあ、そこに行くわよ」

はたてはどうやら取材に行くのに乗り気なようで、目を輝かせている。

「幽香さんこわいんだけどなぁ……」

一方の文は花の異変の時にコテンパンにされた経験からあまり乗り気ではなかった。また何か理不尽な理由でやられるのではないかと、身構えてしまうオーラがあのひとにはあるから嫌いなのだ。文は溜息をつきながら、取材に向かうことにした




太陽の畑。ここにはいつもその季節ごとに合った旬の花々が咲き乱れている。どうやらここの主の風見幽香によるとその季節の花でなくとも咲かせることは可能なようだが、植物がかわいそうだ、ということでしないようだ。
しかし、この地を訪れる人妖は少ない。ここは幽香のテリトリーであり、そこに踏み入れるとどうなるか、皆知っているからである。

「というわけで、私、あんまり太陽の畑には行きたくないんだけどなぁ」
「でも行かないとこの謎は分からないわよ。行くしかないじゃない」

花を踏まないように出来ている、この先にある小屋への道をと歩いていく。その途中、畑に咲いている花々に目を凝らしてみる。見たことのある花から、見たことはないが綺麗な花まで様々あるが、やはりあの謎の消えてしまった花はない。

「貴女達、何しに来たの。荒らしに来たなら帰っていただけるかしら」

有無を言わせないような声が、小屋から響いてきた。
もうこの時点で文は帰りたいと思ったが、はたては、

「すみません。荒らしに来たんではないんです。ただ、私には見たことない花を見つけたので、何かご存知な事は無いかと聞きに来たんです」
「私は図鑑ではないし、貴女に教える義務は無いわ。第一、貴女誰?」

明らかに機嫌が悪そうな声で幽香ははたてに言った。いかにも追い払いたそうである。

「姫海棠はたてといいます。どうか見てくださるだけでいいですから」
「……しょうがないわね。怖気づいてすぐには帰らなかった褒美に少しだけ見てあげるから、終わったら早く帰りなさい」

どうやら根負けしたようで、幽香はあきらめたような声で二人を小屋の中に引き入れた。

「それで、その見てもらいたいものって何かしら」
「この写真の花なんですけど……」

はたては慧音に案内されて謎の花を見に行った時の写真を取り出し、幽香に渡した。

「これは……紫花のハギね。もう少し薄い色とか、白い色の花なら妖怪の山にも生えているんじゃないかしら。これ、何処でいつ撮ったの?」
「この間一週間ぐらい前に人間の里で撮ったんですが……」
「一週間前? おかしいわね。ハギって花が咲くのは夏よ。今の季節じゃないわ」

そういうことか! 文はついに花を見たときに抱いていた違和感の正体が解った。つまり、見たことのあるような植物であったが、花が咲く時期がおかしかったのだ。長い間、見たことがあるものだと感覚として季節と花が結びついていたが、今回、それがおかしかったから違和感を抱いたのだ。

「それで、実はこの花、このあと跡形もなく消えてしまったんです」
「うーん、多分それは何かこのハギのエネルギーを支えていたものがなくなったんでしょうね。私の力だとそういう植物にずっとエネルギーを供給することが出来るけれど、普通は無理なの。だから偶然にも花が咲くまでのエネルギーがあったんだけれど、すぐになくなっちゃったんじゃないかしらね」
「そういうエネルギーって、そこら辺に散らばっているものなんですか?」
「いえ、エネルギーは少しぐらいだったら散らばってはいるだろうけれど、意図的にしない限りそんなに集まりはしないわ。例えば、植物を育てる際には肥やしを与える。こういうのはエネルギーが足りないから意図的にエネルギーを植物に集めて与えているのよ」

最近あったことでエネルギーが供給されること、冬から一気に暖かくなり春になったことだろうか。もしくはまだそれ以外の要因があるのだろうか。はたては頭がこんがらがってきそうだった。

「うーん。じゃあ花の色が元々の色から変化する、という事はあるんですか?」
「ええ、実際にはありえるわ。ただし詳しいことは解らないのよ。エネルギーを与えても、変化することはあるし、与えなくても変化することはあるんだけど……」

幽香は珍しく少し考え込むような表情をしていた。幽香にも植物のことで良くわからないこともあるようだ。

「なるほど……ありがとうございました。少し解ったような気がします」

「ええ。それにしても、貴女、好感が持てるわね。私に怖気づいてこないしね。そこの天狗と違って。もしまた何か植物のことでわからないことがあったら来なさい」




「うーん、花が突然なくなったことの原因はわかったけれど、何でそうなったのかは色々と解らないわねぇ」
「あ、そう? はたてが取材しているのを聞いていて、大体は予想がついたわよ? それにしても、あんた、ちゃんと取材できるじゃないの。霊夢さんのときにもちゃんと会話できてたし」

文からしたらそれが一番驚いたことだった。いつの間にかはたてはしっかりと取材が出来ていたのだ。

「え? あ、確かにちゃんと取材できてたわね。でもなんか夢中で取材してたっていう感覚はなかったわ」
「まぁ、取材なんてそういうもんだって。自分の好奇心に突き動かされてやるものよ」
「ところで、解ったってどういうこと? その予想、教えてよ」

はたてからしたらそれが一番知りたいことだったのだ。取材をしていて自分は気がつかなかったというのに文だけわかったというのは悔しい。

「まぁ、はたてと一緒って事よ」
「何よそれ。私と一緒って――」

文はやれやれと溜息をつきながらこちらを振り向く。どこかあきれながら苦笑しているようだった。

「まぁ、1週間でエネルギー切れになったってとこがね」
「ぐ……違うわよ! 私は別にエネルギー切れになった訳じゃ――」

はたての怒った様子を見ながら文は愉快そうに笑い、

「冗談冗談。まぁ、ヒントをあげるからついてきなさいよ」




無縁塚。再思の道を含め、このあたりは秋になると彼岸花が咲き乱れるらしい。しかし、春の今、彼岸花が咲いていることは当然無く、殺風景だった。
「ここはね、無縁塚っていう所。数年前にも似たような季節外れの花が咲き乱れる異変があったのよ」

文は紫の花をつける妖怪桜に触れ、桜を見上げながら呟いた。

「このあたりに咲く花って、人間の幽霊が宿るのよ。逆に幽香さんの言い方からすると、幽霊が宿ったことで幽霊を通してエネルギーを得るのね」
「じゃあ、それがあの花が咲いた原因って訳? その幽霊は何処から来たのよ」

少なくとも幻想郷でそんなにたくさん人が死んだという話は聞いていない。聞いていたらまず文が黙っていないだろう。

「まぁまぁ、落ち着いて。でね、霊夢さんの話を思い出して欲しいのよ」

霊夢の話。それは最近結界が緩んだという話と、花が消えたという話。それ以外に何かあっただろうか。

「実はね、数年前の花の事件のときも、結界、緩んだのよ。つまり外の世界で異変が起きてそれに影響されたってこと。まぁ、外の世界に何も無くても60年に一度は緩むって閻魔様が言ってた気がするけどね。あの結界」
「でも、外の世界で一体何が起こったのかしらね……」
「これは私の予想に過ぎないんだけどね。百年位前、幻想郷でも被害があったことがあったの知ってる? 地震って言うやつよ」

地震――百年位前に幻想郷でも起こり、外の世界が壊滅した、と騒がれた地震の事だ。幻想郷でもがけ崩れが起こり人間が数人生き埋めになったらしいが、そんなことは嵐によっても引き起こされることだから話題にはならなかった。なったのは、地面が揺れるという驚きと恐怖を心に植えつけられたことだけだった。

「でもなんで地震って特定できるのよ。嵐かもしれないじゃない」
「それは簡単よ。だって……嵐がよく来るのって秋じゃない。春はそんなに来ないわ」
「そっか……じゃあ、外の世界で地震が起こってその犠牲者の幽霊が結界の緩みに乗じて入ってきたって事?」

納得がいく話にはたては感心するしかないと同時に、あの花に対して切ない思いを抱かずにはいられなかった。

「そういうことよ。ハギに宿ったのは、多分彼らの故郷をあらわす花だったんでしょう。だから私たち、あの花にが目立っているように見えたのよ。想いが詰まっていたから」

災害に見舞われなくなった人たちが結界を越えてまで来た幻想郷に、最後に残した想い。それはどんなものだったのだろうか。今となってはわからないが、想いがあった、という事はあの花の写真を見れば記憶に残る。
はたてと文に出来たことは彼らの想いを胸に抱き、三途の川の方向に黙祷をささげることぐらいだった。





「でもあれね。結局新聞のネタにはなりそうにないわね」
「いやいや、新聞のネタにはならなかったけど、新聞に書けることはあるわよ」

いつものように澄ました顔ではたてのほうを向いた。

「編集後記。この話のネタにはなるわよ」
「……なるほどね。でも私は別のメインとなるネタ集めないとだなぁ」
「しかし、はたては完全に社会復帰したわねぇ」
「って何であんたがそんなにうれしそうな顔してるのよ。まぁ、面白そうな出来事がそこにはたくさんある、ってことがわかったから、ちょっとぐらいだったら外に出てもいいかなって思っただけよ」

はたてが顔を背ける瞬間、顔が赤くなっていたのを文は見逃さなかった。

「まぁまぁ、照れない照れない。それじゃあはたての社会復帰を祝って飲みにいきましょうか」
「だから引っ張っていくなっつーの!」

といいつつも、文のうれしそうな顔を見てしまうとまぁいいかという気になってしまうはたてだった。
妖怪の山はいつの間にか、春が来たということは過去の話になり、もはや今は冬があったことを微塵も感じさせない陽気となっていた。
青々と繁った木々の中にもう初夏はすぐにまで迫ってきているようだった。
初投稿どころか、お話なんて初めて書きました。皆さん、はじめまして。

文はたかと思わせておいて、今回の新作秘封ネタでした。
あ、題名は「みちのはな」です。どうやら広辞苑によると「霊」を「み」と読むらしく。

実は私、あの地震の時、東北に大学受験に行ってまして……あの時に家に帰れるまでの時間はしんどかったですね。
そういう時間をずっと過ごしている方々には頑張って欲しいものです。

私たちも、この話みたいにあの地震がきっかけで何かをやるようになった、という事は結構あると思います。

しかし本当に書いていて自分の語彙力、記述力のなさを実感しました。大学も記述力の無さが原因で落ちましたし。
記述力向上のために練習していきたいと思いますね。小説も、答案も。
アドルフィネ@磁石
http://twitter.com/#!/adolphinae
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コメント



0.240簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
>料理を注もう
注文?
>頑丈ははずである
頑丈な?
2.60名前が無い程度の能力削除
話の切なさより、作者のあとがきが他人事でなくて胸が痛いです・・・、私も答案と小説にきをくばろう

次回も期待しています。
6.無評価アドルフィネ@磁石削除
>>1さん
ご指摘ありがとうございます。早速訂正いたしました。
投稿前に確認したつもりでしたが……まだまだですね。

>>2さん
ありがとうございます。次回も頑張ろうと思います。
あとがきは……まぁ、来年頑張ります。
7.70名前が無い程度の能力削除
イイハナシダナ-


>情報が広がることになり特になる
得?
8.無評価アドルフィネ@磁石削除
>>7さん
ありがとうございます。
結構間違いありますね……早速訂正いたしました。
10.70dainamaito@蒼天削除
なかなか面白かったです


最近、スランプ気味で思うようにストーリーが浮かんでこないので、いいインスピレーションを得られました

次回も期待してます^^