レミリアと咲夜の吐く息は今、微妙に酒臭い。
先ほどまで博麗神社の宴会に参加していたからだ。
帰りがずいぶん遅くなったおかげで、空にはすっかり月が浮かんでいる。付きをしていた咲夜としては、傘を持たずに済むので楽である。
そうしてようやく紅魔館に戻ってきたわけだが、レミリアは、ふっと、間違い探しの絵を見ているような違和感を感じた。二秒くらい考えて、そして彼女はその原因に気づいた。
門番が、彼女の勤務場所――つまり門前に居ない。
二秒くらい考えないと出てこないあたりが、悲しいところである。
「ん、美鈴が居ないわね」
「あら――多分どこかで寝ているのでしょう。あれのことですしッわぁ! ぶッ!?」
主人を瀟洒に先導しようとした咲夜は、地面に落ちていたなにかにつまづいて、顔面から盛大に地面へとダイヴを決めた。せっかくの瀟洒が台無しである。
とはいえ、そもそも普段そんな所に物が落ちていることがないのだから、仕方が無いのかもしれない。
自分が咲夜だったとしても多分転んでいただろうと思い、レミリアは同情しつつホッとした。咲夜のおかげで自分は障害物に気づき、転ばずに済んだ、という訳だ。
やはり咲夜は優秀なメイドだと吸血鬼は感心し、そのメイドへの評価を今よりさらに高めたが、何とも間抜けな話である。
「――えぇと、とりあえず大丈夫? 咲夜」
鼻を擦り立ち上がる咲夜に、スルーしてやるべきか触れてやるべきか少し迷った後、結局レミリアは声をかけた。こういうときは、どうフォローしたものか困るものである。
彼女にとって、咲夜が鼻血を出していないのが幸いである。出ていたら本当にフォローに困っていた。
咲夜は、大丈夫ですわと瀟洒に――今更遅い――返す。レミリアは咲夜の足元に眼をやる。こけ方を見るに、咲夜がつまづいたものは、結構大きそうだった。
「ねぇ咲夜、これは?」
「さぁ……」
落ちていたのは筒だった。大きめ――具体的には、人が一人ぐらいは入れそうなほどに大きな筒である。それが横倒しになっていた。
両端には穴が開いている。触れると、石のようで微妙に違う硬い素材で出来ていた。
パチェにでも訊けばわかるかしらねと、幼い悪魔はそれに触りながら呟く。
さらに、レミリアはその筒の中身を覗いてみた。好奇心は猫を殺すとかいうが、彼女は猫でなく吸血鬼なので平気である。
さて何が出てくるかと少しわくわくしながら、レミリアは筒の中に眼を凝らした。
門番が入っている。
レミリアは咲夜を手招きした。
咲夜も筒を覗き込む。
門番が入っている。
「もう食べられませんよ咲夜さん」
しかも寝ている。幸せそうに鼻ちょうちんである。
「咲夜」
「はい」
「湖に捨ててこようかしら、これ」
「生き残りそうな気がしますわ、とても」
「それもそうね。やめときましょうか」
仮にやってみたとして、美鈴なら本当に生き残りそうだなと、レミリアは思った。
それにしても、こんな硬そうな寝袋で寝れるのかと、彼女はつくづく感心した。
のんきなもので、このときはまだ、運命を操るレミリアとて、何にも気付いていなかったのだ。
「――いったいどういうことよ、これは」
「私にもわかりません」
紅魔館へと戻ったレミリアが見たのは、先ほど美鈴が包まっていた(?)筒である。それが、そこら中に転がっていた。
メイドたちの姿がまるで見えない。いくらヘッドをつとめる咲夜が居なくても、これほど大きくて邪魔なもの放ったままにはしないだろうと、レミリアは不審に思った。
咲夜もそう考えているのは、しきりにあたりを見回している。
「メイドたちはどこへ行ったのかしら」
「うぅ」
咲夜のものではないその小さなうめき声を、レミリアの耳は確かに聴いた。
すぐ傍に転がっている筒からだ。嫌な予感がぷんぷんしたが、彼女はそれを覗き込む。咲夜も遅れて覗き込んだ。
中には、妖精メイドが入っていた。
「咲夜、この子に見覚えは?」
そう言われて、咲夜は暗い筒の中に眼を凝らす。
レミリアには、相手が暗い筒の中にいてもその顔がありありとわかるのだが、人の身である咲夜にはそれは難しかった。
「――メアリー、炊事場担当のメイドです。仕事が丁寧で速いので班長を任せています」
それでも何とか顔を判別した咲夜は、レミリアにそう告げた。
「そう。……聞こえるかしら、メアリー?」
「……あ、お嬢、様」
小さな声が返ってきた。
明らかに、元気の無い声だった。
「お嬢様、他の筒にも全てメイドが」
時を止めて確認したのか、咲夜が報告をした。
レミリアはそれを聞いて、事態が容易でないことを知る。
「メアリー、何があったのかわかる?」
「い、妹様と、パチュリー様が」
レミリアの顔色が変わった。声を大にし、虫の息なメイドに問い詰める。
「フランとパチェがどうしたの! メアリー!?」
返事が帰ってこない。
「お嬢様――もう意識が無いようです。他のメイドも、全て」
咲夜のその声で、激昂しかけた吸血鬼は冷静さを取り戻す。
今一刻も早くするべきことは一つだった。
「咲夜、そこら中のメイドたちを頼むわ」
「お嬢様は?」
「これが外部の者の犯行だとしたら、――まぁ、パチェとフランだから大丈夫な気もしなくはないけど、あの二人も犯人は狙うでしょうよ。それに」
背中から伸びる悪魔の翼を怒らせ、レミリアは吐き捨てる。
「ここまで舐めた真似されたら、主としては黙っていられないのよ」
「舐めた真似――?」
「皆、死んでいないのよ。気を失っているだけ。だれがやったのか知らないけれど、完全に遊ばれてるわ。」
吸血鬼をコケにしたらどうなるか、犯人を八つ裂きにして教えてやろうと、怒る吸血鬼は地下へと進む。友人と妹の安否を確かめに。
二人に傷でもつけていたら、彼女は、犯人を八つ裂きで済ます自信がなかった。
ようやく見えた。
紅魔館の外見はかなり大きい。まして中は空間が歪められ、とんでもなく広い。それがかえって仇となるとは、なんとも皮肉な話である。急ごう、急ごうと焦るほど、レミリアは自分の速度に苛立ち、ブン屋がうらやましく感じた。
ようやく図書館の扉が見えたころには、数分の移動も、数十分ぐらいあったのではないかと思うほどだった。
このあたりにも、そこら中に筒が転がっている。おそらく、図書館勤務のメイドだろう。
レミリアは急ぎ進み、ドアの前に立つ。そしてドアノブを握る、そのときだった。
「――っ!?」
中から爆音が聞こえた。
この音をレミリアは聴いたことがある。
十中八九、友人のセントエルモピラーが炸裂する音だ。
となれば、彼女は今交戦中ということになる。誰と? 十中八九、犯人だろう。
彼女の喘息という持病を考えると、長期の戦いは不利でしかない。
だが、相手は、紅魔館の面々で遊んでみせるような奴だ。いかな七曜の魔女とて、短期決戦で済ませるのは難しそうだった。
「パチェ!」
一も二もなく、レミリアは扉を開け、図書館の奥、音がした場所へと急ぐ。
埃っぽい空気を切り裂いて、幼い吸血鬼は飛んでいく。
奥へ進めば進むほど、図書館は荒れている。
整然と並べられていた本はところどころ床に落ちていたし、中には本棚を弾幕が貫通しているものもあった。
やがて、レミリアは奥にたどり着く。
「……パチェ?」
筒が落ちていた。
「パチェ!?」
急ぎ覗く。
レミリアの友人が詰まっていた。
「――パチェっ!?」
レミリアは愕然とした。
自分の友人が犠牲となった。――あの実力者ですら、この有様となった。
そんなショックに晒されながらも、彼女は我を取り戻して周りを見渡した。
犯人はまだ近くに居るはずだった。なら、レミリアとて不意打ちをかけられかねない。
「お姉さま」
聴きなれた声だった。それは真後ろから届いた。
「フラン?」
振り向けば、そこにはレミリアの妹――フランドールが立っていた。
かわいらしい笑みが、その顔に張り付いていた。
「お姉さま、聞いて。私、能力、コントロールできるようになったよ」
「フラン、あのね、今このあたりにとんでもない奴がいるの。パチェもこの有様なのよ」
フランはキョトンとした。レミリアの焦りは、彼女の妹に通じていないようだった。
レミリアからしても、この妹は何を考えているのかさっぱり分からないところがある。
状況を飲み込めていないのかと、レミリアはわずかに苛立った。
「ねえお姉さま、能力コントロールできるようになったんだから、私もお姉さまと一緒にお出かけできるよね」
「だから、それどころじゃあ」
「聞いてよ」
なんなんだ。今はそれどころではないというのに。
レミリアの苛立ちが高まる。
彼女は今全力で、周囲の気配を察知している。
しかし、どう探しても虫一匹居ない。居るのは彼女と、フランと、そして筒に包まれてしまったパチュリーだけだった。
そんなレミリアの様子が眼に入っているのかいないのか、フランは語り続ける。
「さっき美鈴に試したの。ふふ、うまくいったよ」
「何度も言っているでしょう、いまそんな場合じゃ――試した?」
レミリアは一瞬思い出せなかった。フランの能力はなんだったか。
フランの能力が、「試す」という行為から、かけ離れていたからだ。彼女の能力は、実際に使うには、凶暴すぎるのだ。
フランが美鈴に能力を試す。それはつまり、フランは美鈴を。
「フラン――あなたまさか」
嫌な予感しかしなかったが、レミリアは彼女に問うた。
本当に嫌な予感しかしない。
「美鈴、『きゅっ』てしたら、返事しなくなっちゃった」
レミリアは確信した。フランは美鈴を殺害している。
いつの間にそれをしたのかは知らないが――少なくとも、レミリアが門を通過した後になるわけだが――、気持ちよさそうに寝ていた美鈴を、フランは殺した。
「――貴女ッ!!」
「パチュリーも、凄く暴れたから大変だったけど、さっき『きゅっ』てしたんだよ?」
その台詞を聞いて、レミリアはパチュリーを見る。
筒に入って見えないが、まさかこの中身は、もう死んでいるというのか。
筒の犯人も分からないし、目の前の妹は明らかに不安定な状態にある。
レミリアは、先ほどまでとは違う焦燥にかられた。
いくら妹とはいえ、流石に逃げないと危険だ。
「あはは、はは」
「フラン、貴女って子は」
「ねぇ、私がんばったよね? だから――お姉さまと外にいけるよね?」
レミリアは思う。妹は妹なりにつらかったのだろう。きっと、自分などよりずっと。
お姉さまと外にいけるよね。そう言ったフランドールの目からこぼれた涙の粒を見れば、それはよく分かった。
だが、だからといって――紅魔館の主として、レミリアは、妹の行いを許すことはできない。
「フラン。悪いけどあなたを外に連れて行くわけには行かない。……いや、あの部屋から出すわけにもいかなくなったわ。貴女には、数百年ほど幽閉されてもらう」
レミリアは言い放った。相当に辛かった。なにせ相手は血の繋がった姉妹である。
肉親を自分の手で、再び数百年幽閉しなくてはならない。なんとタチの悪い運命。
まさにミゼラブルフェイトだった。
「……どうして?」
フランの目の色が、変わった気がした。少なくとも、レミリアにはそう思えた。
「ねぇお姉さま、私頑張ったんだよ? ねぇ、出てもいいでしょ?」
「貴女がしたことを思えば、……残念だけど無理ね」
レミリアの返事を聞いて、フランは黙り込んだ。
その間も、レミリアは警戒を崩さない。
危険な状態にあるフランだけでなく、筒のほうの犯人も、まだこのあたりに居るかもしれないのだ。
姉妹での会話に気を取られすぎれば、下手をするとレミリアだけでなく、フランまでやられてしまう。
「……わかった」
「そう」
「お姉さまの馬鹿。嫌い」
「そう」
何と罵られても仕方がないと、紅魔館の主は耐える。
馬鹿、嫌い。そんな簡単な言葉だが、少なくとも咲夜のナイフよりも痛かった。
「お姉さま、嫌い。だから、」
レミリアは、正直油断していた。フランが「わかった」と答えたことで、彼女への警戒を緩めてしまっていたのだ。
フランの聞きわけがあまりによすぎるという疑問を抱かなかったのが、彼女の失敗だった。
「――嫌い。だから『きゅっ』てする」
その台詞を聞いて、レミリアは動いた。しかしそれはあまりにも遅かった。
その時にはすでに、フランの指は開かれ、握られていた。
「きゅっ」
彼女の能力が発動する。コントロールに成功した、驚異的な能力。
そうして、レミリアは筒に包まれた。
薄れ行く意識の中で、レミリアは真実を悟る。
犯人が見つからないのも当たり前だった。彼女の目の前に居たのだから。
そして、この筒に包まれた者たちが、ことごとく意識を失っていた理由も、今の彼女にはよく分かった。
この筒は、とても、寝心地がよかったのだ――。
「きゅっとして
土管」
しかもフランが力の制御が出来るようになったのが皆が土管に入っている理由だったんですね。
話や「ぎゅっとして土管」と言うフランなど面白かったです。
さては最後の一行が書きたいがためにやったな!?
いいぞ!もっとやれ!www
負けだあ。
最後にドカンとw
いいオチでしたww
わらちまったからまけだよこのやろう!
こいつは一本とられましたなwww
オチで『あぁ、喚さんだ』と安心した私はどうしましょ。
やられたwwwww
読んで・・・・・・
こwwwれwwwwwかwwwよwwwww
負けました。これ以外に言葉がありません。
この主犯とオチは予想外だったwww
オフィスの事務机の下も結構眠れますよね、ダンボール必須ですが。
ラスト一行に負けたwwwwww
笑ってしまった以上素通りは出来んですw
最後書きたかっただけだろwwwwwwwwwwwwwwww
にしても全身を筒でぴっちりと挟まれたら気持ち良さそうだ、マジで
や、そこは書籍文花帖の方を見直すべきだろう
あの静かな薄暗さと涼しさ、そして微妙な弧の湾曲が体にフィットする感覚が素晴らしい。
最近は平坦で無粋なU字やカルバートばかりで困る。
わからされました。
しかし、あれですね
目の前の土管につまづくのは、ちょっとムリがあるwwww
これは制御できてるとは言えねえw・・・のか?w
でも評価しちゃうよ!
笑っちゃったからなチクショーめ!
でも評価しちゃうよ!
笑っちゃったからなチクショーめ!w
夜釣りでお世話になった河原に並べられたコンクリ管は良かったなぁ
直径が2メートルほどもあって、テント張る手間省けたw
しかし、これはあの赤と緑のオジサンが活躍するゲームの方なのかと思いました。
フランが「きゅっとして」といったとこで目が覚めました。
そして気づいたら土管の中。ちょっと寝てきますね。
能力コントロールできてないです妹様
コメ ただの温い馴れ合いじゃん
気持ち悪いだけの 温い温い馴れ合いだよね
気持ち悪いよ 本当