※Re:Japanの「明日があるさ」を参考にしてます。
最初はただ、管理された惨めな人間の生活が嫌で自由になりたかっただけで妖怪になった。
後に、それはとんでもない重罪だと知らされ、それなら最初から教えてくれと恨みながら妖怪の生を終えた……はずだった。
しかし、何故か俺は蘇っていた。本は燃やされたはず。俺自身も予想外のことだ。
……が、最近は何となく、理由がわかった。
――恋の力、だということを。
いつもの神社でいつも見る。博麗神社の紅白巫女、博麗霊夢。
声をかけようと鳥居の柱の影に隠れて襖が開くのをじっと待つ。
そろそろ来る頃だ、と胸が弾む。1週間ずーっとこうして彼女の行動を見てきたのだ。と、後ろから。
「――まーた蘇ったか! これで何度目よ!!」
怒声と共に、視界が真ん中から二つに分離する。
――ああ、頭を割られたか。
そう理解し、今日の俺は死んだ。
翌日、朝から俺はとある店で友人達と飲んだくれていた。同じ妖怪仲間の蟒蛇、紅魔館で仲間と一緒に吸血鬼にコキ使われながらも必死に働いているホフゴブリン、そして一部から不気味だと怖がられている人間、通称「抗鬱薬おじさん」こと抗鬱。
幻想郷では何かと男は肩身が狭い、人間妖怪問わずだ。そんな中、俺達は気づかないうちに硬い友情で結ばれていた。巫女に抹殺されたにも関わらずその巫女に恋心を抱く掟破りの元人間の妖怪。ヘタすれば管理する妖怪に粛清されるかもしれないのに、彼らは俺の恋路を応援し、こうして励ましたりしてくれている。人間を辞めなければ彼らのようなかけがえのない友人はできなかった。
「ここはまず、優しさをアピールするところから始めてみたらどうだろう?」
蟒蛇の言葉に抗鬱も続く。
「確かに。例えばどしゃ降りの雨で帰れず悩んでいる所に傘を持って現れるとか……丁度、今日は雨だし?」
「ウンウン」
ゴブリンは生真面目な奴で、図書館に通って一生懸命言葉の勉強をしている。努力の甲斐もあり、少しだけなら会話もできるのでこうして相槌を打つことも可能だ。
「しかしホイホイ都合よく巫女が雨の中ここに来るだろうか?」
などと言っていると、店主がそっと口を開く。
「……確か、本居のお嬢ちゃんの所に行くのを見ましたよ。お客さん達が来る30分くらい前でしたかね」
抗鬱と蟒蛇がそれぞれ左右から肩を叩く。「チャンスだぞ!」とハッパをかけて。おいおいゴブリン、傘まで差しだすなっての。どこまでもお節介で最高の連中に目頭が熱くなるが悟られないように背中を向けながら。
「……ありがとよ」
傘を受け取り、店を出た。
……やはりあの小娘のいる本屋で巫女が雨宿りしている。今のところは一人のようだ、声を掛けるチャンスはそう長くはない。
頭ではそうわかっているものの、物陰から一歩も動けない俺がいる。……しかし、憂鬱そうに雨空を見る巫女の顔も魅力だ。思えば俺の知る顔は、というか俺に彼女が向けてきた表情は冷たいものばかりで、口元が多少変わっていても無感情の動く人形のようだった。見惚れてしまう。が、千載一遇のチャンス、幸い雨のせいか通行人もいない、傘を持つ手が震え、踏み出す足もおぼつかない。そして言い訳ではないが、やはり憂いのある彼女の横顔に見惚れてしまい足元がお留守になっていたのだった。
「霊夢さん、傘持ってきましたよー」
小娘が現れると同時に、俺は足を滑らせて豪快に水たまりの上に転倒した。
「あら、ありがとう小鈴ちゃ……ん?」
傘を受け取った巫女が水の跳ねる音に気付いて、起き上がった俺と丁度目が合う。
憂いを帯びた美しい顔も、小娘にお礼を言うと共に見せた優し気な笑みもなく、やはりいつも通りの無慈悲に屠る顔に瞬時に変わる。
弁解も挨拶もする間はなかった。気づいたらやはり視界が割れていたのだ。
そして、今日の俺は死んだ。
やっぱり、あの巫女に話を聞いてもらうにはこちらから、しかも攻撃に移るという思考に至る前に会話まで持っていけるようにしなければ。後ろから声を掛け、やや強引ではあるが肩に手をかけるか何かをしなければすぐにお祓い棒の餌食になる。というか、何も持っていないように見えて何故か俺を攻撃する時にいつもお祓い棒が握られてるのだがどこに隠し持っているのだろうか?
今日こそは、と。里で声を掛ける作戦はリスクが高いので、巫女の帰り道を狙う作戦に出る。幸い空は飛ばず、歩いて帰路に就くようだ、ついてる。妖怪になったとはいえ、まだ空を飛べるほどの修練は積めていない。草むらに隠れたり、道の端で匍匐(ほふく)前進するなどして必死に巫女の後姿をつけている。あの角まで行ければチャンスが来るか……? そこへ巫女がくるりと振り向いた。
「というか、動きが見え見えすぎるのよ」
声と共に巫女が二つに、いや、俺の視界が二つになる。ああ、角が見える前にやめればよかったのかも。
遅すぎる後悔をしながら、今日も俺は死んだ。
「直接が難しいなら、手紙で伝えてみたらどうだろう?」
抗鬱のアドバイスに従い俺は今、人生で初めての恋文(外の世界ではラブレターと言っただろうか?)を書いていた。ちなみに誰もいなくなった廃屋が今の俺の家のようなもので、ボロボロの床でも比較的形が整っていて紙を置いて物書きしても大丈夫な部分を選んで書いている。筆や紙、インクももちろん彼らから貰ったものだ。人間だった頃から、物を書くのは好きな方なので自分で言うのも何だが達筆だ。ただし、恋文となれば話は別。色んな言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返し。思えば、人間の頃も俺はシャイで好きな人ができても何もできずにいた。そして大体その人はすぐに恋人ができ、結婚。
式に呼ばれると自分が惨めに感じるので行ったことはない。……呼ばれてもいないって? 察してくれ。
そんなわけで一晩かけて書き上げた恋文を俺は大事に胸に抱きしめながら神社に来た。直接渡すのは多分渡す前に手紙ごと叩き割られるだろうからそっと賽銭箱に入れておくことにした。
はやる気持ちを抑え早朝から鳥居の陰に隠れてチャンスを窺う。
巫女が境内の掃除をしている。
途中で巫女と仲の良い魔法使いが現れて二人仲良く神社へ。
しばらくして今度は縁側に座ってお茶を飲んでいる。
今度はゴブリンの館の主人の吸血鬼がメイドを従えてやってきた。
夕方になったのに誰も帰らない。
夜になる。何故かぞくぞくと妖怪や神様とかがなだれ込んできた。
そういえば巫女の神社では妖怪や人間や神様とかがごちゃ混ぜになって宴会をすることがあるというのを今思い出した。
結局、この日は手紙を入れられなかった。
あ、もちろん普通に巫女達にバレて退治されました。
翌日、復活した俺は遂に賽銭箱に恋文を投下することに成功。鳥居の陰で巫女が賽銭箱を覗くのを待つ。
小一時間ほど経過し、巫女が賽銭箱の中を覗き、恋文の入った封を開いた。
……一瞬破り捨てられるかと思ったが、巫女はくるっと背中を向け神社に入っていた。恋文には陳腐な文が書かれているが
最終的には「今夜、二人きりで話をしたいので賽銭箱の前で待っていてください」という旨で締めている。
仮に彼女が聞いてくれるなら、今夜が人生最大の勝負だ。俺は勝負服に着替えるために一度神社を離れた。
「最大の罪は里の人間が妖怪になること」
自分の生き方を完全に否定し、そして屠った相手にどうして好意を持ったのか?
普通ならば誰もがそう思うだろう。究極のドMかと思われるかもしれない。
しかし、気のせいかもしれなかったが退治されお陀仏する寸前に、ほんの一瞬だけ博麗の巫女としての顔が歪んだ気がしたのだ。
その歪みが何なのか、どうしても気になった。それがもしかしたら俺を未練がましく復活させたのかもしれない。
『お前の男気に惚れたんだ』
抗鬱と蟒蛇がかつてそう言い、ゴブリンも頷いていた。この幻想郷では何かと実力者や影響力を持つのは女が多く、男は肩身の狭い思いを多かれ少なかれ抱えている。とはいえ、巫女みたいに強い力は持っていなく、幻想郷を仕切る妖怪達のなすがまま。
そこへ俺のようなイレギュラーが出てきた。彼らはそれが眩しかったと言っていたと思う。そんな俺が幻想郷の管理者の巫女に惚れる。どんな小説よりもぶっ飛んだ話だ。
……。白のタキシードに身を包み、赤い蝶ネクタイ。プチ紅白だ。神社への石段を一段ずつゆっくりと上がる。
彼女はいた。賽銭箱の前に佇み、横を向いているため俺の姿には気づいていない。
――勝負は一瞬だ。巫女に気配を悟られる前に接近すること。頼もしい仲間が協力してくれる。
神社の後ろから大きな爆発音? 巫女が振り返る。違う、花火だ。抗鬱達が必死に打ち上げてくれた援護弾だ。巫女が
花火に意識を移した刹那の隙を見計らい全力で駆ける。妖怪となった体は人間だった頃よりも軽く、巫女の勘を上回った。
「――っ!?」
巫女の両肩に手を置く。流石の彼女も驚いている。俺もビビッてたが言う言葉は決まっていた。巫女が攻撃に移る前に、短く、シンプルに伝わるだろうたった一言の言葉。
「――好きです」
ここまで来て声に出なかったらどうしようと思ったが、巫女と目が合い耳に届いていたことがわかる。
こうしてまっすぐに彼女と見つめ合うのは初めてだ。しばらくお互いに無言だったが、やがて巫女の方がゆっくりと口を開く。
「……生」
「えっ?」
「夢想……天生っ……!!」
ここからの記憶は見事に切れている。ただ、閻魔や死神が呆れ果てるぐらいの回数で昇天したような感じはした。後に聞けば、アレは巫女の持つ究極のスペルだったとか。
だが、俺の心はどこか晴れていた。
スペルを唱える寸前。これだけはしっかりと記憶に残っている。
――彼女の頬がほんの少しだけ赤く染まっていた。そう、彼女だって巫女である前に一人の女の子なのだ。
居酒屋で仲間達が慰労会を開いてくれ、外の世界から流れ込んできたという歌をみんなで歌っている。しかもみんな、俺の服装に合わせた白のタキシードに蝶ネクタイまで。全員ほろ酔いで顔は真っ赤っか、人妖含めた酒臭い野郎共が肩を組んで仲睦まじそうに合唱している。
外の世界から流れこんできた偶然の産物ではあるが、俺達が歌っている歌には何だか不思議な力が籠ってるように思う。どんなに辛くてしんどくても必ず明日はやってくる。前向きな気持ちにさせてくれる不思議な歌だ。
人間は辞めたが妖怪としては俺は若い。そんな若い俺の夢のスケールはどんどん膨らんでいく。
里の人間が妖怪になることが大罪だとしても、蟒蛇や抗鬱、ゴブリンみたいに種族を越えて友達になれる。
今の俺達の友情は例え隙間妖怪にだって曲げることはできない確かなものだ。
いつか巫女もわかってくれるかもしれない、いや、わかってくれるはずだ。なぜなら彼女だって博麗霊夢という名前の一人の少女なのだから。
だからこれからも俺はどんなに惨めだと笑われても巫女に話を聞かせ続ける。
ゴブリンを背負う蟒蛇と抗鬱に左右から腕を組まれつつ、俺は朗らかに歌う。
いつか、巫女の言う大罪が変わり、彼女としっかりと向き合える日まで。
――明日があるさ。
最初はただ、管理された惨めな人間の生活が嫌で自由になりたかっただけで妖怪になった。
後に、それはとんでもない重罪だと知らされ、それなら最初から教えてくれと恨みながら妖怪の生を終えた……はずだった。
しかし、何故か俺は蘇っていた。本は燃やされたはず。俺自身も予想外のことだ。
……が、最近は何となく、理由がわかった。
――恋の力、だということを。
いつもの神社でいつも見る。博麗神社の紅白巫女、博麗霊夢。
声をかけようと鳥居の柱の影に隠れて襖が開くのをじっと待つ。
そろそろ来る頃だ、と胸が弾む。1週間ずーっとこうして彼女の行動を見てきたのだ。と、後ろから。
「――まーた蘇ったか! これで何度目よ!!」
怒声と共に、視界が真ん中から二つに分離する。
――ああ、頭を割られたか。
そう理解し、今日の俺は死んだ。
翌日、朝から俺はとある店で友人達と飲んだくれていた。同じ妖怪仲間の蟒蛇、紅魔館で仲間と一緒に吸血鬼にコキ使われながらも必死に働いているホフゴブリン、そして一部から不気味だと怖がられている人間、通称「抗鬱薬おじさん」こと抗鬱。
幻想郷では何かと男は肩身が狭い、人間妖怪問わずだ。そんな中、俺達は気づかないうちに硬い友情で結ばれていた。巫女に抹殺されたにも関わらずその巫女に恋心を抱く掟破りの元人間の妖怪。ヘタすれば管理する妖怪に粛清されるかもしれないのに、彼らは俺の恋路を応援し、こうして励ましたりしてくれている。人間を辞めなければ彼らのようなかけがえのない友人はできなかった。
「ここはまず、優しさをアピールするところから始めてみたらどうだろう?」
蟒蛇の言葉に抗鬱も続く。
「確かに。例えばどしゃ降りの雨で帰れず悩んでいる所に傘を持って現れるとか……丁度、今日は雨だし?」
「ウンウン」
ゴブリンは生真面目な奴で、図書館に通って一生懸命言葉の勉強をしている。努力の甲斐もあり、少しだけなら会話もできるのでこうして相槌を打つことも可能だ。
「しかしホイホイ都合よく巫女が雨の中ここに来るだろうか?」
などと言っていると、店主がそっと口を開く。
「……確か、本居のお嬢ちゃんの所に行くのを見ましたよ。お客さん達が来る30分くらい前でしたかね」
抗鬱と蟒蛇がそれぞれ左右から肩を叩く。「チャンスだぞ!」とハッパをかけて。おいおいゴブリン、傘まで差しだすなっての。どこまでもお節介で最高の連中に目頭が熱くなるが悟られないように背中を向けながら。
「……ありがとよ」
傘を受け取り、店を出た。
……やはりあの小娘のいる本屋で巫女が雨宿りしている。今のところは一人のようだ、声を掛けるチャンスはそう長くはない。
頭ではそうわかっているものの、物陰から一歩も動けない俺がいる。……しかし、憂鬱そうに雨空を見る巫女の顔も魅力だ。思えば俺の知る顔は、というか俺に彼女が向けてきた表情は冷たいものばかりで、口元が多少変わっていても無感情の動く人形のようだった。見惚れてしまう。が、千載一遇のチャンス、幸い雨のせいか通行人もいない、傘を持つ手が震え、踏み出す足もおぼつかない。そして言い訳ではないが、やはり憂いのある彼女の横顔に見惚れてしまい足元がお留守になっていたのだった。
「霊夢さん、傘持ってきましたよー」
小娘が現れると同時に、俺は足を滑らせて豪快に水たまりの上に転倒した。
「あら、ありがとう小鈴ちゃ……ん?」
傘を受け取った巫女が水の跳ねる音に気付いて、起き上がった俺と丁度目が合う。
憂いを帯びた美しい顔も、小娘にお礼を言うと共に見せた優し気な笑みもなく、やはりいつも通りの無慈悲に屠る顔に瞬時に変わる。
弁解も挨拶もする間はなかった。気づいたらやはり視界が割れていたのだ。
そして、今日の俺は死んだ。
やっぱり、あの巫女に話を聞いてもらうにはこちらから、しかも攻撃に移るという思考に至る前に会話まで持っていけるようにしなければ。後ろから声を掛け、やや強引ではあるが肩に手をかけるか何かをしなければすぐにお祓い棒の餌食になる。というか、何も持っていないように見えて何故か俺を攻撃する時にいつもお祓い棒が握られてるのだがどこに隠し持っているのだろうか?
今日こそは、と。里で声を掛ける作戦はリスクが高いので、巫女の帰り道を狙う作戦に出る。幸い空は飛ばず、歩いて帰路に就くようだ、ついてる。妖怪になったとはいえ、まだ空を飛べるほどの修練は積めていない。草むらに隠れたり、道の端で匍匐(ほふく)前進するなどして必死に巫女の後姿をつけている。あの角まで行ければチャンスが来るか……? そこへ巫女がくるりと振り向いた。
「というか、動きが見え見えすぎるのよ」
声と共に巫女が二つに、いや、俺の視界が二つになる。ああ、角が見える前にやめればよかったのかも。
遅すぎる後悔をしながら、今日も俺は死んだ。
「直接が難しいなら、手紙で伝えてみたらどうだろう?」
抗鬱のアドバイスに従い俺は今、人生で初めての恋文(外の世界ではラブレターと言っただろうか?)を書いていた。ちなみに誰もいなくなった廃屋が今の俺の家のようなもので、ボロボロの床でも比較的形が整っていて紙を置いて物書きしても大丈夫な部分を選んで書いている。筆や紙、インクももちろん彼らから貰ったものだ。人間だった頃から、物を書くのは好きな方なので自分で言うのも何だが達筆だ。ただし、恋文となれば話は別。色んな言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返し。思えば、人間の頃も俺はシャイで好きな人ができても何もできずにいた。そして大体その人はすぐに恋人ができ、結婚。
式に呼ばれると自分が惨めに感じるので行ったことはない。……呼ばれてもいないって? 察してくれ。
そんなわけで一晩かけて書き上げた恋文を俺は大事に胸に抱きしめながら神社に来た。直接渡すのは多分渡す前に手紙ごと叩き割られるだろうからそっと賽銭箱に入れておくことにした。
はやる気持ちを抑え早朝から鳥居の陰に隠れてチャンスを窺う。
巫女が境内の掃除をしている。
途中で巫女と仲の良い魔法使いが現れて二人仲良く神社へ。
しばらくして今度は縁側に座ってお茶を飲んでいる。
今度はゴブリンの館の主人の吸血鬼がメイドを従えてやってきた。
夕方になったのに誰も帰らない。
夜になる。何故かぞくぞくと妖怪や神様とかがなだれ込んできた。
そういえば巫女の神社では妖怪や人間や神様とかがごちゃ混ぜになって宴会をすることがあるというのを今思い出した。
結局、この日は手紙を入れられなかった。
あ、もちろん普通に巫女達にバレて退治されました。
翌日、復活した俺は遂に賽銭箱に恋文を投下することに成功。鳥居の陰で巫女が賽銭箱を覗くのを待つ。
小一時間ほど経過し、巫女が賽銭箱の中を覗き、恋文の入った封を開いた。
……一瞬破り捨てられるかと思ったが、巫女はくるっと背中を向け神社に入っていた。恋文には陳腐な文が書かれているが
最終的には「今夜、二人きりで話をしたいので賽銭箱の前で待っていてください」という旨で締めている。
仮に彼女が聞いてくれるなら、今夜が人生最大の勝負だ。俺は勝負服に着替えるために一度神社を離れた。
「最大の罪は里の人間が妖怪になること」
自分の生き方を完全に否定し、そして屠った相手にどうして好意を持ったのか?
普通ならば誰もがそう思うだろう。究極のドMかと思われるかもしれない。
しかし、気のせいかもしれなかったが退治されお陀仏する寸前に、ほんの一瞬だけ博麗の巫女としての顔が歪んだ気がしたのだ。
その歪みが何なのか、どうしても気になった。それがもしかしたら俺を未練がましく復活させたのかもしれない。
『お前の男気に惚れたんだ』
抗鬱と蟒蛇がかつてそう言い、ゴブリンも頷いていた。この幻想郷では何かと実力者や影響力を持つのは女が多く、男は肩身の狭い思いを多かれ少なかれ抱えている。とはいえ、巫女みたいに強い力は持っていなく、幻想郷を仕切る妖怪達のなすがまま。
そこへ俺のようなイレギュラーが出てきた。彼らはそれが眩しかったと言っていたと思う。そんな俺が幻想郷の管理者の巫女に惚れる。どんな小説よりもぶっ飛んだ話だ。
……。白のタキシードに身を包み、赤い蝶ネクタイ。プチ紅白だ。神社への石段を一段ずつゆっくりと上がる。
彼女はいた。賽銭箱の前に佇み、横を向いているため俺の姿には気づいていない。
――勝負は一瞬だ。巫女に気配を悟られる前に接近すること。頼もしい仲間が協力してくれる。
神社の後ろから大きな爆発音? 巫女が振り返る。違う、花火だ。抗鬱達が必死に打ち上げてくれた援護弾だ。巫女が
花火に意識を移した刹那の隙を見計らい全力で駆ける。妖怪となった体は人間だった頃よりも軽く、巫女の勘を上回った。
「――っ!?」
巫女の両肩に手を置く。流石の彼女も驚いている。俺もビビッてたが言う言葉は決まっていた。巫女が攻撃に移る前に、短く、シンプルに伝わるだろうたった一言の言葉。
「――好きです」
ここまで来て声に出なかったらどうしようと思ったが、巫女と目が合い耳に届いていたことがわかる。
こうしてまっすぐに彼女と見つめ合うのは初めてだ。しばらくお互いに無言だったが、やがて巫女の方がゆっくりと口を開く。
「……生」
「えっ?」
「夢想……天生っ……!!」
ここからの記憶は見事に切れている。ただ、閻魔や死神が呆れ果てるぐらいの回数で昇天したような感じはした。後に聞けば、アレは巫女の持つ究極のスペルだったとか。
だが、俺の心はどこか晴れていた。
スペルを唱える寸前。これだけはしっかりと記憶に残っている。
――彼女の頬がほんの少しだけ赤く染まっていた。そう、彼女だって巫女である前に一人の女の子なのだ。
居酒屋で仲間達が慰労会を開いてくれ、外の世界から流れ込んできたという歌をみんなで歌っている。しかもみんな、俺の服装に合わせた白のタキシードに蝶ネクタイまで。全員ほろ酔いで顔は真っ赤っか、人妖含めた酒臭い野郎共が肩を組んで仲睦まじそうに合唱している。
外の世界から流れこんできた偶然の産物ではあるが、俺達が歌っている歌には何だか不思議な力が籠ってるように思う。どんなに辛くてしんどくても必ず明日はやってくる。前向きな気持ちにさせてくれる不思議な歌だ。
人間は辞めたが妖怪としては俺は若い。そんな若い俺の夢のスケールはどんどん膨らんでいく。
里の人間が妖怪になることが大罪だとしても、蟒蛇や抗鬱、ゴブリンみたいに種族を越えて友達になれる。
今の俺達の友情は例え隙間妖怪にだって曲げることはできない確かなものだ。
いつか巫女もわかってくれるかもしれない、いや、わかってくれるはずだ。なぜなら彼女だって博麗霊夢という名前の一人の少女なのだから。
だからこれからも俺はどんなに惨めだと笑われても巫女に話を聞かせ続ける。
ゴブリンを背負う蟒蛇と抗鬱に左右から腕を組まれつつ、俺は朗らかに歌う。
いつか、巫女の言う大罪が変わり、彼女としっかりと向き合える日まで。
――明日があるさ。
つまりなんだこれ
面白かったです
ジェネリックに載せろ
東方二次創作は、作品として許される範囲なら好きなようにやるべきですわねw