※諸注意
1、この作品には一部キャラ崩壊(口調とか性格とか)的な要素が含まれている可能性があります。苦手な方はご注意ください。
2、タイトルから分かるとおり、そういうネタや流血描写が含まれています。『某はすくたれ者にござる』という方はご注意ください。
3、鬼巫女は出ません。鬼巫女は出ません。大切なことなので二回書きました。
4、一部独自の解釈による設定に沿った展開があります。これも苦手な方はご注意ください。
5、以上注意書きでした。それでは本編をお楽しみください。
「幽々子様。しばしの間、暇を頂きます」
冥界、白玉楼。ぽかぽか陽気が心地よいある春の午後。
妖夢の唐突な発言は、三時のおやつと先日人里の菓子屋で購入した銘菓をいざ食さんとした西行寺幽々子の指を止め……る事はなかった。
「ええ、いいわよ」
幸せそうな笑顔で口内の菓子をたっぷりと二十秒は咀嚼してから、普段とまったく変わらぬ調子で幽々子はあっさり許可した。
あまり真剣に返してもらえなかった…と多少妖夢の心は乱れたが、これが己の使えている主なのだと理解しているので特に文句を言おうとは思わなかった。
そもそも幽々子様はいつもこうなのだ。
ふわふわ、ゆらゆらと曖昧な言動で妖夢を惑わせ、いつも真意を表に出さない。
かと思えば、時にカリスマ溢れる発言で周りを驚かせたりもする。そしていつもその内容を汲み取れない妖夢は『未熟者ねぇ』と評されるのだ。
勿論妖夢とて馬鹿ではない。主に言われるまでも無く、己が未熟でまだまだ青いという事は重々承知の上である。
なればこそ、一刻も早く幽々子の従者、そして白玉楼の庭師として一人前になろうと日々精進しているのだが。
「それにしても面白いわねぇ。妖夢が自分からお暇をくださいって言い出すなんて。今日はとても素晴らしい小春日和だけれど、明日は雪かしら」
二つ目の菓子をたっぷりと堪能してから、幽々子は小さく笑う。
一体どこに面白い要素があるというのか、そして今のあなたなら雪などいつでも降らせられるじゃないですか、それから右頬にお菓子の欠片がついていますよ…などといった思考が妖夢の心に湧く。
普段ならばすぐさまそれを口に出すところだが、生憎今の妖夢はそれどころではなかった。
正座のまま真剣な表情で、妖夢は主の顔を正面から見据える。
対する幽々子は先ほどと変わらぬ笑顔のまま。まだ右頬の菓子くずには気付いていない。
「……お訪ねにならないのですね」
「あら、訪ねれば答えてくれるのかしら。あっさりと他者に打ち明けられるような些事なら、わざわざ私に暇を頂戴する必要はないでしょう?」
「………」
まったく無関心のまま流されるというのもすっきりしないので、少しでも主の興味を引き出そうと含みのある言い方をしてみたが、見事なカウンターで返されてしまった。
矢張りこと話術に関しては、幽々子の方が何枚も上手らしい。
――いや、他にも負けてるところはあるか。主に胸とか、胸とか。…げふんごふん。
気を取り直し、出発前の一礼をと妖夢は平伏し……。
「それでは幽々子様――」
「ではいってらっしゃい。あぁ私ね、お土産は外郎が食べたいわ。お願いね」
がくり、と内心でズッコけた。
ほんの少し涙が出た(ような気がする)が、これしきでくじけてたまるものか。
ともあれ許可は頂けたのだ。後はそれを活かすのみ。
小さな決意を胸に抱き、妖夢は白玉楼を後にした。
私、魂魄妖夢は未熟者だ。何度もくどいようだが、事実なのだから仕方ない。
春雪異変の際には紅白巫女と黒白魔法使い、そして銀髪メイドの三人にあっさり倒され、その直後の宴会騒動の際は犯人探しに躍起になりすぎて半ば辻斬りめいた行為に走ってしまったし(一応反省はしているが後悔はしていない)、永夜騒動の際にはあっさりと敵の術中に陥ってしまった。
他にも挙げだすとそれこそ際限がない…というか、私が悲しくなるので止めておく。
とにかく、私は未熟者なのだ。幽々子様の従者としても、白玉楼の庭師としてでも。
―――そして、『剣士』としてでも。
祖父であり、私の尊敬する偉大な剣の師匠でもある魂魄妖忌の言葉が頭に浮かぶ。
『剣の道とは、一つに非ず。殺人剣、活人剣、剣舞……。どれ一つとして同じ道は無い。――だが』
「――全ての剣の道は、やがて一つに通ず、か」
ぽつり、と呟き空を仰ぐ。千切れ雲がいくつか浮かんでいるがその数は少なく、僅かに西へと傾き始めた太陽は今尚麗らかな陽光を放ち、地上を照らしている。
時折聞こえてくる鳥の声の中に『ちん(ry』という耳慣れた鳴き声が含まれていたような気がしたが、妖夢は無視した。
それはさておき。
厳格で中々の頑固者だった祖父の剣術指導(?)は、まさに祖父の人物像そのものだったと言ってもいい。
直接手解きをされたのは刀剣に関する基本的な知識ぐらいで後はひたすら祖父との立ち合い稽古、それも一切加減も遠慮もない情け無用の鬼指導という今でも思い出すだけで身震いがするような内容だ。
今思えば、幼き頃の自分はよくもあんな地獄のような日々を耐えてきたものだと感心するぐらいである。
だが、私はそれでも祖父を尊敬している。
確かに私とてまだ年端もいかぬ頃から半ば無理やりに課せられた苦行に閉口した時もあるし、幼子らしく恨んだりもした時もある。
しかしそれら全てを差し引いてもなお、はっきりと断言できるのだ。私の祖父は、尊敬するに値する人物であると。
もし今の私に、祖父に対して感じているしこりがあるとすれば、それは――
「お祖父…いえ、お師匠様。何故ですか…何故一言も告げずに、行ってしまわれたのですか。私には、妖夢には分かりません。お師匠様の御心が、いまだに掴めません…」
ある日突然、祖父はこの魂魄家に代々伝わる名刀『楼観剣』と『白楼剣』を残し行方を眩ました。
当時の私は訳がわからず、ただ取り乱し泣き喚いた記憶がある。
幽々子様はというとほんの少しだけ寂しげな顔を見せ、『しょうがないわ、妖忌だもの』と呟くのみ。
思えば、幽々子様はなんとなく察しておられたのかもしれない。祖父がいずれ白玉楼を去られる事を。
長い時が経った今でも、祖父の消息は掴めていない。
「お師匠様。あなたがいなくなってから、私は自分なりに考えました。様々な出来事から多くを学び、その度に己の未熟を知り、世界の広さを知りました。それでもまだ、お師匠様の境地には届きそうもありません。…しかし」
歩を止めて瞼を閉じる。
轟と春風が妖夢の銀髪を揺らし、木々の木の葉をざわつかせ吹き抜けてゆく。
「一つ。ようやく一つ、辿り着いた答えがあります。お師匠様が、白玉楼を去られた理由。そして、私がいつまでたっても『剣士』として未熟な理由に」
ぎゅっと口を横一文字に引き結び、妖夢は再び空を見上げた。
腰に差した刀の柄頭に手を沿え、心にある思いを言葉にする。
その瞳と口調には、一つの確信が込もっていた。
「冥界には『剣士』がいない。お師匠様はおろか、私のまともな相手が務まるような『剣士』は一人もいない。だからお師匠様は冥界を去られた。より『剣士』として高みを目指すために、より強き『剣士』を求めて。だから私も探そうと決めました。お師匠様に少しでも近づくために。そして一人前の『剣士』となるために」
一介の少女剣士が悩み抜いた末に導き出したそれは、確かに一つの真実であった。そして浅薄であった。
この場に彼女を諌められる者がいなかったのは、果たして不幸か幸いか。
まさかこの先に、まったく思いもつかぬ酷な展開が待ち受けていようなどと、今の妖夢に気付けるはずもない。
ああ、悲しきかな妖夢よ。その性根が真っ直ぐすぎるが故に、やがて恐怖と出遭うのだ。
「私は、私より強い『剣士』に会いに行く!!」
力強く、しかしどこかで聞いたような科白を天に叫ぶ妖夢の姿は、贔屓目に見ても滑稽であった。
「成程、話は理解した。だがそこで何故私のところに来るのか。それを説明してくれ」
妖夢にみょんな話を聞かされた半人半獣の知識人、上白沢慧音は半ば辟易気味な顔で説明を求めた。
今日は寺子屋も休みで妹紅も竹林案内の仕事でいないため、絶好の歴史編纂日和だと喜びいさみ机についたところへ、突然の来客である。
少し機嫌が悪いようにみえるのは錯覚ではないだろう。
それをおくびにも出さず、わざわざお茶まで出している慧音は流石人が出来ているといわざるを得ない。
妖夢もその辺りは察したのか、すみませんと申し訳無さそうに謝った。
「あぁ、いや、そこまで気にしなくてもいい。わざわざ協力を請いに来た者を撥ね付けるほど私も偏屈ではないさ。それより説明を頼む。今の話だけでは、察するに難しいからな」
「はい、分かりました。私はこの幻想郷で剣士を探すにあたり、どこで情報を得るべきかと考えました。そこで最初に思いついたのがこの人里です。そして人望と人脈があり、この幻想郷の歴史にも詳しい慧音さんならきっと高名な剣士の情報も知っていると思ったので」
最初に思いついたとは言ったものの、他に当てがなかったというのが本当のところだったりする。この幻想郷で、まともな知識と信頼のある人物がいかに希少な存在であるかといういい証明であろう。
何しろ他に情報面で浮かんでくる候補といったらパパラッチもどきの天狗か胡散臭いスキマ妖怪か変人変態の香霖堂店主(妖夢の主観です)ぐらいで、そのどれもが信憑性や信頼性に大きく欠けているのだから仕方がない。
「ふむ…そういうわけか。よし分かった。この私でよければ、いくらでも力になろう…と、言いたいのは山々なんだが……生憎それは無理だ」
「え。ええええええっ!? ど、どうしてですか!」
予想外の返答に慌てふためく妖夢。
そんな彼女にすまないなと残念そうな顔で謝り、慧音は説明を続ける。
「いや、協力したくないから断っているわけじゃないぞ? 協力したくても、私では役に立てないんだ。私にはお前のお眼鏡に適うような剣士の知り合いはいないし、情報も無い。意外かも知れないが事実なんだ」
「そ、そんな……ほ、本当にっ、本当にいないんですかっ? なんでもいいんです、なにか、なにか心当たりはないんですか!」
「縋るように言われてもな……本当に何もないんだ。というより、これは非常に言いにくい事なのだが……」
さらに表情を曇らせ、言葉を渋る慧音。
しばしの沈黙の後に慧音の口から出た言葉は、妖夢に衝撃を与えることになる。
「この人里……もとい幻想郷には、お前と妖忌殿…だったか?…以外に名のある剣士は一人も『いない』んだ。これは何度も歴史を読み返してきたから断言できる。……つまり、そういう事だ」
一瞬、何を言われたのか理解できず、妖夢は完全に硬直した。
わなわなと震えながら、恐る恐る確認を取る。
「…………。いない?」
「あぁ、そうだ。よく考えてみろ。そもそもだ、スペルカードルールが制定され、人間と妖怪の争いも極端に減ったこのご時勢に、命のやり取りを含む剣術を磨く輩がそうそういると思うか?」
スペルカードルールとは、人間と妖怪の殺伐とした敵対関係を改善し、幻想郷の治安を保つ目的で生み出されたものである。
もしこのルールが存在しなければ、今頃幻想郷は魑魅魍魎が跋扈し、弱い人間達が蹂躙される世にも恐ろしい場所となっていたかもしれない。
スペルカードルールがあるからこそ、幻想郷はどこか暢気でうららかな平和を保っているのだ。
だがそんな奇跡の妙案にも、当然穴が存在する。
どれだけ真剣に弾幕勝負しようとも、結局は弾幕ごっこという『遊び』の範疇でしかない。
そのため、純粋な意味で敵から身を護る術(すべ)……言うなれば柔術だの剣術だのといった護身術とは兼ね合いが難しくなってしまう。
分かりやすくいえば、『幻想郷の住人は弾幕ごっこという遊びのせいで平和ボケしてしまった』というわけだ。
体術なら幻想郷でもトップレベルなのに、肝心の弾幕が弱いため実力を発揮できる機会に中々恵まれない某門番を例に挙げれば、非常に分かりやすいだろう。
「でででででも! 剣術とは単なる殺し合いではなく、互いに鍛え磨き上げた剣の技と心をぶつけ合いより高みを目指すというもので、そういった信念を抱いている方がまったくいないなんてことは!」
「まあ、世が世ならそんな人間も多かったろうな。だが生憎今となっては、平和な世の中が長く続いたせいでそういった武の精神を養おうという気概そのものが失われつつある」
「そ、そんな……」
妖夢の必死の反論も、慧音の冷静かつ現実感のある言葉にあえなく散った。
さらに慧音の言葉による容赦のない(慧音は無意識だが)追撃が妖夢を打ちのめす。
「一応この人里にも、汚い仕事を依頼として受ける人斬りや要人の護衛をする用心棒がいるにはいる。だがそういった連中はけして表には出てこないし、剣士というよりはむしろ忍びや暗殺者の類だからな…。お前の求める剣士には当てはまらないだろう」
「う、うう…」
「それに本来剣術とは、人対人を想定して編み出され培われてきた武術らしいな。スペルカードルールの件が無かったとしても、幻想郷での需要があったかと言われれば疑問だ。そもそも幻想郷には刀剣の類がほとんど流通していない。うちの里にいる鍛冶屋などは刀など一度も打った事がないそうだしな」
「うう…ううう、うぐぅ…」
「…ショックなのは分かるが、とりあえず落ち着け。口調がおかしくなってるぞ」
「……あ」
「?」
「あんまりだァァァァァァ――ッ!」
あぁ、何という事でしょう。この幻想郷には、名のある剣士が一人もいないそうです。こんな事一体誰が予想できたでしょうか、いやできない。
お師匠様、あなたは今どこで何をしているのでしょうか。昔のように笑顔で岩を斬っていますか。私はとても元気です。だけど心は折れそうです。
『剣士は希少価値だ! すていたすだ!』とでも主張しろと? あぁそれも悪くないかもしれませんねそれも所謂一つの萌え要素ですし私から剣術取ったら残るものなんて半霊とみょんぐらいですしねアハハのハ。
「あー…そのなんだ、先ほどはああいったが、まったく何もないというわけでもないぞ。私にもそれなりに矜持というものがあるからな」
パーフェクトフリーズ、完全思考停止状態から現実逃避思考に陥った妖夢を見て流石に哀れと思ったのか、慧音が救い船を出した。
本当に慧音様は良識のあるお方である。ちなみに妖夢が壊れた原因は慧音のような気がしないでもないが、気にしたら負けだ。
「うう…本当ですかぁ……」
「本当だ。といっても、私も確証があるわけじゃないんだが……何も無いよりはましだろう。妖夢、博麗神社に行ってみるといい」
「え、博麗神社…ですか?」
思いがけない場所が告げられ、妖夢は驚きを隠せなかった。
あそこのどこに剣士と結びつくものがあるのだろうか。あの神社にあるものといえば、空っぽ同然の賽銭箱に怠惰とお茶が生きがいの腋巫女ぐらいのはずだが。
「まあ聞け。霊夢はああみえてもれっきとした巫女だ。それなりに神事もこなせる。少し前の話になるが、神を身体に降ろしてその力を扱う訓練もしていたらしいな」
神おろしの術を霊夢が練習していた件なら妖夢も知っている。少し前に一部で話題になった『第二次月面戦争(?)騒動』の時の話だ。
もっともあの時は幽々子に、『あまり深入りしないこと』と釘を刺されたので詳しい結末などはほとんど分からずじまいであり、妖夢自身すっかり忘却の彼方だったのだが。
「……あの、それと私の目的とに、どのような関係があるのでしょうか。私にはさっぱり分からないのですが…」
「そう急くな。いいか、神と一口にいっても、その性質は様々だ。豊穣の神も居れば厄神もいる。当然、武に長けた神もいるだろう。後は分かるな?」
「! なるほど、つまり霊夢に高名な剣の神様を降ろしてもらえれば、仮初とはいえ『剣士』として剣を交える事が可能というわけですね」
「そのとおり。まあ、さっきも言ったが確証は持てんし、そもそも霊夢が引き受けてくれるかどうかが難しいのだg」
「早速博麗神社に行ってきます! 慧音さん、色々とありがとうございました。それではっ!」
言うが早いか、妖夢は天狗顔負けのスピードで慧音宅を飛び出していった。
その後姿をしばしぽかんと眺めていた慧音だが、私は適確な助言が出来たのだと自らを納得させ、歴史の編纂作業に移るのであった。
「嫌」
弾丸の如きスピードで博麗神社に飛び込み、先程の用件を縁側でお茶を飲んでいた霊夢に伝えた返事がこれである。
いきなりにべもなく断られてしまったが、そんな事でくじける妖夢ではない。
今の妖夢はいわば、あの過ぎ去りし辻斬りの頃の気性が戻ってきたと妖夢自身錯覚している程の押せ押せ全開モードなのだ。
無論、本当にあの頃の妖夢に戻ったりしたら物騒極まりないのは言うまでもないが。
「うう、大体予想通りの反応……。だけど、そこをなんとかお願いできない?」
「嫌ったら嫌。なんでそんなめんどくさい事しなくちゃならないのよ。私に何のメリットもないし。それに神様をおろすのって結構疲れるのよ? ただ疲れるだけの面倒ごとなんて御免だわ」
時々思うのだが、この腋巫女のすっぱりと切り捨てる言動に一流剣士の一閃にも似た美しさがある気がするのは自分だけだろうか。
ちらりとそんな事を考えた妖夢だが、とりあえず今はどうでもいい事なので放っておく。それよりなにより、今はどうにかして霊夢を説得しなければ。
「何でも言う事聞いてあげるから! 私に出来る範囲でだけど……」
「あんたに出来る範囲でっていう時点で対した事じゃないからいらない」
牽制のジャブは軽くあしらわれた。
だがこれは予想の範囲内、すかさず次の攻撃に移る!
「ほら、ここの掃除とかは? 結構落ち葉とか溜まってるし、掃除大変でしょ?」
「いいわよ別にほっといても。どうせ掃除したってすぐに元の木阿弥だし」
仮にも自分の住居である神社の掃除すら面倒くさがるとは、どこまでこの巫女はやる気がないんだ。
こちとら白玉楼の庭の手入れは毎日細心の注意を払い、隅々まで徹底的に行っているというのに。
仕方ない、安易に取りたくはなかったが、最後の選択だ!
「お賽銭入れるから!」
「……………………………いらない。ほしくない」
「あっ今目が泳いだ! 結構間が空いた!」
「……だからなんだってのよ。そんなエサで私が釣られ――」
「今私が持ってるなけなしの小遣い全部入れるから! それでどう!?」
「よーしさっさと神おろしの準備するわよ手伝いなさい」
…………………。
勢いに任せ畳み掛けてしまった身で言うのもアレですが、無性に情けなくなってきました。
『お・さ・い・せ・ん(はぁと)』と目を輝かせながら準備を始める霊夢を見て、何故か目頭が熱くなる妖夢であった。
と、ここまではよかったのだが。
ここへきて新たなトラブルが発生した。
「このままじゃ無理?」
「そうよ。ここにあるものだけじゃ足りない。あんたが望むような神様をおろすために絶対必要なものがここにはないのよ」
霊夢によると、呼び出せる神の中には特殊な媒介を必要とするものが存在するらしい。
今回がまさにそれで、刀剣のような武器を扱う所謂『武神』のような神をおろす場合はそれなりの神格を持つ神器が必要なのだとか。
「ねぇ、だったら私の楼観剣と白楼剣で代用できないの? 二本とも霊格なら自信のある刀だけど」
妖夢の提案に霊夢は無理無理と首を横に振る。
「駄目よ。確かにあんたの刀はそれなりの代物だけど、本物の神器には程遠い。いい、神器って言うのはね、文字通り神の力を宿した器なの。無茶すればあんたの刀でも出来なくはないかもだけど、そしたらおろした神様の力が極端に制限されるか暴走するかの二択になる。あんたはそれでも構わないかもしれないけど、私はそうもいかないのよ。分かるでしょ」
「うーん…」
「大体その二本を使っちゃったら、あんた丸腰でおろした神様と立ち合う羽目になるわよ。まさか無手(武器なし)で挑むつもりじゃないでしょうに」
「あ、それもそうか。はぁ…せっかくここまできたのに…」
がっくりと肩を落とす妖夢。
東奔西走し、なけなしの小遣いまで全て失ったというのに、こんな形で終わってしまうとは。情けないにも程がある。
そんな妖夢の心中を知ってか知らずか、霊夢は急に踵を返し、神社の入り口に向かって歩き出した。
「え、あれ、霊夢?」
「何ぼーっとしてるのよ。『ここにはない』って言っただけで、『出来ない』とは一言も言ってないでしょ。さっさと行くわよ」
「行くって、一体どこに? 何をしに?」
何が何やらさっぱり分からず疑問符を浮かべる妖夢に対し、霊夢はニヤリと笑った。
「神器でもなんでも、ある所にはちゃーんとあるの。だから『借り』に行くのよ。大丈夫、私が頼めば嫌とはいえないはずだから」
『ある所にはある』『借りに行く』『私が頼めば嫌とはいえない』
この三つから妖夢の頭に、嫌な予感がひしひしと湧いてきた。
どうかあの場所ではありませんように、と儚い期待を抱き霊夢に恐る恐る確認する。
「それって……ひょっとして、あの『香霖堂』……じゃ、ないよね……?」
「その『香霖堂』だけど何か?」
終わった。何かもう、色々な意味で終わった。
どんよりとした空気を纏い始めた妖夢を気にも留めず、ついでに新しいお茶も貰ってこようかしらなどと霊夢は呟いていた。
「いらっしゃ……。……なんだ、君達か」
幻想郷唯一の雑貨店(?)香霖堂の店主、森近霖之助は店内に入ってきた二人の少女を見るなりため息をついた。
カウンターに本が置いてあるところをみると、どうやら彼は読書の最中だったらしい。
「それ、お客様に取る態度じゃないと思うわ、霖之助さん」
「正論ではあるが、それはあくまでも正しいお客様だったらの話だろう。少なくとも君と魔理沙には当てはまらない」
「失礼ね。魔理沙はともかく、私までそんな扱いされるなんて傷つくわ」
「…といいながら、何故君の手はそこに置いてある新品のお茶の葉に伸びているんだ」
「これは本能よ。博麗の巫女はお茶を切らすと死んじゃうの。もし私がお茶を切らして死んだら霖之助さんの責任だからね」
「ううむ、それは困るな。だがだからといって、君が代金を払わなくてもいいという理由はどこにもないと思うんだが」
「払わないなんて言ってないでしょ。ツケよ、ツケ」
「結局それか。やれやれ、毎度の事とはいえ少しは遠慮してほしいものだね。…ところで、今日は珍しい顔がいるね」
「みょ、みょんっ!? な、なんですかいきなり! 斬りますよ!?」
ぼんやりと二人のやりとりを聞いていた妖夢だったが、いきなり霖之助に視線を向けられ、思わず身構えてしまった。
妖夢にとって彼はある種の天敵である。そのため出来るならあまり関わりたくないというのが本音なのだ。
一方霖之助はというと、特にこれといって動じた様子は無い。相手が霊夢や魔理沙ではないので、ある程度心理的余裕が出来ているのだろう。
「ふむ、相変わらず君には落ち着きがないな。何をそんなに動揺しているのかは知らないが、思いつめたあまり突飛な行動はしないでくれよ」
「ど、動揺なんかしてませんよ! 変な事言わないでください!」
「そうかい? それならいいんだが、もしここで暴れられて品物が台無しにされたりしたら流石に僕も黙っていられない。君だって余計な手間を増やしたくは無いだろう?」
「う…そ、それは」
妖夢の脳裏に、かつてこの変態店主(くどいようですが、あくまでも妖夢の主観です)に味合わされた苦い思い出が鮮明に再生される。
またあんな失態を晒すのは確かに妖夢にとっても本意ではないが、この店主に言われると釈然としないのは何故だろう。
複雑な表情を浮かべ黙り込んだ妖夢を見て、霖之助の無愛想な表情が少しだけ緩む。
誤解を招かないように一応述べておくが、彼に他者をいじって楽しむような趣味があるわけではない。
それでも普段何かと手玉に取られ、振り回される事が多い霖之助なので、たまには有利な立場に立ってみたくなるのだ。
流石にあの紫や幽々子には劣るものの、霖之助もそれなりに口がまわるタイプである。
肉体言語的な対決では間違いなく妖夢にほぼ9:1のダイヤをつけられるだろうが、話術に持ち込めば霖之助のもの、逆に1:9をつけられるだろう。
「それで、今日は一体何の用件だい。まさかただお茶を補充するためだけに来たわけじゃないだろう」
「そうそう、うっかり忘れるところだったわ。実はね霖之助さん、折り入って頼みがあるのよ」
「……悪い予感しかしないんだが、一応聞いておこうか」
「霖之助さん、確か持ってたわよね。『草薙の剣』」
「あれかい? 確かに現在所有しているのは僕のはずだね。誰かが勝手に持ち出していなければ、だけど」
「! 草薙の剣ですって? 霊夢、こんな店にそんな凄い代物があるの!?」
「…こんな店とはご挨拶だね。これでも一応それなりの誇りと愛着を持って経営しているつもりなんだが」
妖夢が驚くのも無理のない話である。
『草薙の剣』といえば日本神話に登場する三種の神器の一つであり、様々な伝承や逸話が残されている伝説の神剣。
そんな国宝級の神器が使い道も分からないようなガラクタ(少なくとも今の幻想郷にとっては)と一緒くたにされているなど、妖夢でなくとも信じられない話だ。
もっとも霖之助に言わせれば、それは穿った偏見であり彼自身は草薙の剣をそれなりに(貴重品として)気に入っているし、この店に存在しても違和感はないとの事。
いまだ草薙の剣を購入しようとする者が居らず(霖之助自身売るつもりもないが)、あの魔理沙ですら持ち出そうとしないのがその証拠だそうだが、単に物の価値を正しく理解した上で欲しがる輩がほとんどいないだけだったりする。
「そんな事はどうでもいいわ。とりあえずそれ、貸して頂戴」
「………。すまないが、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか」
「だから貸してほしいのよ。その草薙の剣を」
訳がわからない。それが霖之助の率直な感想だった。
物の価値を理解していない…というか、特定の対象に深い興味や関心を抱かないのが博麗の巫女であり、霊夢だったはずだ。
そんな彼女が何故草薙の剣を求めるのか?
神社に祀り参拝客の客寄せに……いや、それはない。面倒臭がりな霊夢がそんな催しを自ら進んで行うとは思えない。
ならばこれはどうだ。借りるというのは偽りで、どこぞの骨董商に高く売りつける。
……これもないな。そもそもこれが本物だと証明する術を霊夢は持っていない。胡散臭がられ、あえなく断られるのがオチだろう。
しかしだとすると一体何故……。
「あー、なんか余計な憶測されてるみたいだから説明しとくけど、神おろしに必要だから借りたいだけよ」
「何? 神おろしだって?」
「そうそう。少なくとも霖之助さんが考えてたような賽銭稼ぎや臨時収入に当てようなんて事はしないわ。とりあえず今はね」
妖夢は思った。『もう賽銭面で得してるじゃない……』と。
霖之助は思った。『とりあえず今は、なのか……』と。
二人とも口に出さないのは、霊夢に言ったところで無意味だからである。
「で、どうなの? 当然貸してくれるわよね?」
「どうせ嫌だといっても無理やり持っていくだろうに。仕方ない、あまり気は進まないが、持ち主として一応の許可は出しておくよ」
「流石は霖之助さん、話が早くて助かるわ」
「それはどうも。とはいえ、流石にアレはそんじょそこらの物とは違う代物だ。一つだけ条件をつけさせてもらおうか」
「条件? 言っとくけどお金はないわよ」
「それは重々承知しているよ。何、対した事じゃない。僕もその神おろしの場に立ち合わせてほしいのさ。下手な扱いをされてアレが壊れたりしたら大損だからね」
「ふーん、それくらいならまあいいわ。あんたも別にいいわよね、妖夢」
「えっ? 私は別に構わないけど……って、あれ?」
「なら決まりね。んじゃ、さっさと用意するから神社に戻るわよ」
店主への反論を必死に捻り出そうと考え込んでいたら、いつの間にか話が進んでいた。
今も霊夢に確認を取られなければ思考の真っ最中だっただろう。
ちらりと隣の店主の様子を伺ってみると、普段どおりの無愛想な表情で『さて、どこにしまったかな』とごそごそしている。
霊夢、よくこんな店主とまともに会話が出来るなぁ…と、しみじみ思う妖夢であった。
「……で、何でこんな事になってるの?」
「私が知るわけ無いでしょ」
神社に戻った三人が目にした光景は、宴会だった。
神おろしの儀式をする中央のスペースを取り巻くように結界が設置され、その外側では霊夢達の知人と知妖怪(?)が楽しく騒いでいる。
「今日、宴会の予定あったっけ?」
「少なくとも私の記憶には無いわ。これはきっとあいつの仕業ね……。出てきなさい萃香!」
「にゃはは、大正解。流石は霊夢だねぇ」
霊夢達の目の前にもやもやした煙のようなものが萃まったかと思うと、小さな鬼の姿となった。
でかい瓢箪と二本角が目立つこの鬼の名は伊吹萃香。正真正銘の『鬼』であり、かつての宴会騒動の黒幕でもある。
今回もその時と同様に己の能力を使い、人妖を『萃めた』のだろう。
「で? これは一体どういう事なのか説明してもらえるわよね?」
萃香を問い詰める霊夢。その表情は笑っているが笑っていない。
「まあまあ、そんな怖い顔しなさんなって。これから神おろしするんでしょ? 折角の珍しい催しなんだ、それを酒の肴に出来ないのは不幸の極みってもんだよ」
「あのねぇ、だからってこんなに大勢萃めて宴会にする必要はないでしょうが! 大体誰が後片付けすると思ってるのよ!」
「霊夢」
「分かってるなら少しは手伝いなさい!」
「いいじゃんかそんな細かいことは。ほらほら、早く始めなよ。皆待ちくたびれてるぞー」
まったく悪びれた様子も無く笑う萃香に霊夢は呆れ、妖夢は戸惑い、霖之助はやれやれと呟いた。
暢気で平和ボケしているが故に、幻想郷の住民は刺激を求める。少しでも変わった出来事が起これば誰も彼もが飛びつき大げさに盛り上げ、最後は宴会で締めるのが恒例なのだ。
ふと宴会の席を見やれば、見知った顔ぶれが勢ぞろいしている。
「おいこら霊夢に妖夢。この魔理沙さんをのけ者にして面白そうな事をしようなど絶対に許さんぞー!」
「魔理沙、あなた少し呑みすぎよ。上海、そこの水を取ってちょうだい」
「シャンハーイ」
「今日神社に行けば面白いものが見られるって運命を視たから来たわ」
「運命なら仕方ないですね、お嬢様」
「強者達の手に汗握る仕合が観られると聞いて地底からやってきたよ。久しぶりに萃香と呑み比べもしたいしね」
「もしかしたら死体が出るかもしれないと期待を抱き、同じく地底から車を押してやってきたよー」
「お燐が行くっていうから面白そうだなと思って私も」
「妖夢、妖夢。外郎はまだかしら。早く食べたいわ」
「これは間違いなくスクープになるぞと記者の勘がつげたのではせ参じましたよ」
「神様をおろすと聞いて歩いてきました」
『歩いてお帰り』
何名かは既に出来上がっており、中にはさらりととんでもない目的を口にしている者もいる。
霊夢としては、後片付けを考えるとここで勝手に宴会をされるのは嫌なのだが、こうなっては今更追い払う事も出来ない。
はあ…とため息をついてから、宴会の中に自分の主を発見して呆然としていた妖夢を促し、霊夢は神おろしの準備を始めた。
霖之助はというと、無理やり魔理沙によって宴会の中へと連れ込まれていた。今日は彼にとって厄日なのかもしれない。
「よいしょ、と。これでよし。こっちの準備は整ったわ。そっちはどう?」
「う、うん。こっちも大丈夫。いつでもいいわ」
離れたところで楼観剣を抜き構えた妖夢の姿を確認し、霊夢は草薙の剣を手に取る。
そして何を思ったのか、くるりと咲夜の方へ向いた。
「あ、そうそう。咲夜、ちょっと頼まれてくれる?」
「?」
「私が神様をおろした瞬間から、あんたの時計できっちり三分計って頂戴。それ以上やると疲れるし、危険だから」
「危険、ねぇ。ここにいる面子ならそんな心配いらないと思うけど。いいわ、完璧で瀟洒なメイドとしてきっちり計測してあげる」
「ありがと。それから妖夢」
「? 何?」
「予め断っておくけど、これから私がおろす神様はどんな奴か分からないの。だから、大怪我しても恨まないでよね。あんたが望んだ事なんだから」
「………はい?」
呼び出す神がどんな存在か分からないなどそんな話があっていいのかと妖夢は思ったが、そもそも剣の神について詳しいわけでもないのでどんな神であろうと同じ事だと思い直した。
それが浅い見立てであったと、すぐに妖夢は後悔する事になる。
霊夢が右手に握り締めた草薙の剣を恭しく掲げ、静かに腰を下ろした。そして両目を瞑り、小さく何かの呪文を唱え始めた。これからいよいよ神おろしが始まるのだ。
果たして我が前に現れるはいかなる武神か。タケミカヅチか、フツヌシノカミか。それともまったく知らない異国の神なのか。妖夢の全身に緊張が走る。
変化は突然だった。
「―――え?」
妖夢の口から毀れたのは疑問符。それは当然の反応。相対していた巫女の右手に握られていた草薙の剣が忽然と姿を消したのだ。
代わりに握られていたのは、一振りの日本刀。
一見何の変哲も無い唯の刀だが、その鈍く輝く刀身を眼(まなこ)に捉えた時、妖夢は怖気だった。
美しい。この一言で言い表せるなら、どれだけ易しいことだろう。
だが剣士である妖夢の感覚は、その刀身に宿るおぞましき怨念を具に感じ取った。
間違いない。アレは妖刀の類だ。直接手に取らずとも理解(わか)る。相当の命を斬り捨て、血を吸っているのだろう。
しかし刀にのみ注がれていた妖夢の意識は、すぐにその持ち主へと移る。
――霊夢が、妖刀を片手にて、背後に担いだのだ。
今まで見た事のない霊夢の構えに、観客である宴会参加者は揃って驚愕した。
そんな中、冷静かつ無駄に騒がしい反応を示した者が一人。
「あ、あの構えはもしや、『流れ』!?」
「な、なにーっ! 知っているのかこーりん!」
「ああ。あの構えはとある剣術の技の一つ、『流れ』に繋がるものだ。前に外の世界から流れ着いた文献に載っていたんだが……まさか実際にこの目で見る事になるとは……」
お約束ともいえる魔理沙からのネタ振りだったが、返す霖之助の様相は到って真剣そのものである。
ずり落ちかけた眼鏡を押し上げ、さらに霖之助は解説する。
「その文献であの技が使われた時、こう記されていた。『虎眼流が担いだら用心せい』と。そして―――」
霖之助の言葉は最後まで続かなかった。否、既に誰の耳にも届いていなかった。
瞬間、その場にいた全ての者の視線が一点に集束したのだ。
――霊夢が、担いだ刀を振るったのである。
その所作を目視した妖夢が最初に思ったのは、『正気か?』であった。
相手が握る刀の長さは、精々が刃渡り二尺余り。対して自分が構える楼観剣は三尺以上の刀身を誇る大太刀。間合いの差など語るまでもない。
しかもこちらの構えは基本にして尤も忠実な正眼。相手が迂闊な飛び込みをすれば即座に受けて斬り返す自信がある。
ましてや片手、しかもろくに鍛錬もしていない少女の腕力に振るわれた刀では、骨どころか肉も斬れな―――
「――――――っ!?」
瓢、と白刃が通り抜けた直後、妖夢の服の胸元がぴりぃと裂け、はらりと落ちた。
その隙間から僅かに覗く白肌に一筋の糸が疾り、それに添ってじわりと鮮血が滲み出す。
「う……うそ……でしょ……?」
巫女の放った一閃が、まさに妖夢の胸元へ届くというその刹那。
ほんの少し、後方に歩をずらしていなければ。今頃私は大量の血を胸板から垂れ流し、地べたに崩れ落ちていただろう。
思い込みや早とちりなどでは断じてない。今の剣閃を紙一重で避け得たのは幸運。そう妖夢に確信させるほど、今しがた巫女が放った斬撃は精妙であった。
動揺の色を隠せぬ妖夢を前に、再び巫女が刀を担いだ。その表情に一切の情念は無く、まるで無機質。
人はこのような顔を作れるのだと、生まれて初めて妖夢は知った。
「くぅ」
楼観剣をしっかと握り直し、妖夢はそれを正面から右に寄せ立て、左足を前に出して構えた。上段の亜種、『八双の構え』だ。
元来この構えは威嚇に用いられるものだが、妖夢がこれを選んだのはまったく別の意図からである。
「………(今の斬撃、視て返すには疾すぎる。ならば後の先を取り、こちらが先に斬るしかない)」
先程の一閃、非常に疾く、よく伸びていた。恐らく刀の握りに種があるのだろう。
確かに恐るべき疾さ、間合いだが、それは初見なればこその強み。二度目は効かない。
狙うはただ一点、刀が握られし右の拳。
「先程は不覚を取ったが、この魂魄妖夢、同じ轍を二度踏むつもりは毛頭無い。いざ」
妖夢の言葉から敬語が消えたのは、相手を見下したわけでもなければ挑発するためでもない。むしろ逆である。
まさしく紙一重で避け得た先程の一閃は、どこか緩んでいた妖夢の精神を見事断ち切り、剣士としての本懐を思い起こさせたのだ。
強き剣士と刀を交える。これこそまさしく妖夢が望み、欲していた絶好の機会。
余計な概念は全て投げ捨て、純粋に技と技にて存分に仕合おうではないか。
だがしかし。
巫女が『さよか』と呟き、新たな構えを見せた時、それが己の空回りであったと妖夢は悟る。
「虎眼流、『星流れ』」
まるで猫科動物が爪を立てるが如き握りに、刃の先端を左手の指にて挟み込む構え。
今まで見た事もない、奇妙奇天烈な構えであった。
「――――――――っ!」
その手を見た妖夢の顔に死相が浮かんだ。魂魄流を修める剣士の全身全細胞が戦闘を拒否していた。
ぞわりと背筋に悪寒が走り、つうと脂汗が額から滲み、頬を伝い地に落ちる。この瀬戸際にてようやく妖夢は理解したのだ。
私の前に立っているのは、巫女ではない。剣の神でもない。虎、鬼、魔神……。否、そのどれにも当てはまらない。
こいつは、私が相対している奴は、もっとおぞましい何かだ。
火焔猫燐が徐々に火照りを覚え、全身の興奮を抑えられぬようになっていたのは、目の前の試合に興奮したからではない。
いずれ彼女の前に新鮮な死体が出来るという予感、それが燐が持つ火車としての本能を掻きたてていたのだ。
最早彼女にとっては、この異常な仕合の展開や周囲の反応など視野の外。
果たしてどんな死体が出来るのか。唯それのみに、燐の意識は集中していた。
そんな親友の心境などまったく気にも留めず、というより、欠片も理解できない霊烏路空も仕合の顛末にまるで興味を示していなかった。
彼女にとって目下重要なのは、大好物である温泉卵を一刻も早く食べつくす事。
現在他に取ろうとする者などいないというのに、奪われてなるものかと必死の表情で卵を頬張るその姿は、ある意味この場に相応しくないものであった。
「う……うぇっ……」
突如魔理沙が口元を押さえ、その場に沈んだ。巫女の身体を借りたものが放つ異様な剣氣に当てられ、なお平常心を保てるほどこの少女の肝は据わっていなかったのだ。
無論この異様な空気の影響を受けたのは魔理沙だけではない。霖之助もまた剣氣に当てられ、言葉を失い腰を抜かしている。
それでも男かと叱咤されてもおかしくない醜態だが、果たして今の彼を誰が責められようか。
大凡(おおよそ)戦いというものとは無縁の生を送ってきた霖之助である。耐性が無いのが普通であろう。
そんな中、アリスが動いた。崩れた二人の介抱を人形に指示し、戦闘用の人形を展開する。
彼女もこのおぞましい剣氣の影響を受けていたが、持ち前の精神力で持ち直したのだ。
「…もう限界だわ。これ以上放っておけない」
なんとしても仕合を止める。
決意を胸に飛び出そうとしたアリスだったが、星熊勇儀に遮られた。
「おっと、そこまでだ。余計な手出しは無用だよ」
「何のつもり? まさかこのまま黙ってみてろっていうの? 冗談じゃない。こんなくだらない事で死人が出るなんて御免だわ。そこをどいて」
「ところがそうはいかないのさ。やっと面白くなってきたんだ、ここで水を差されたら台無しになる」
「本気で言ってるの? …いや、そうか。あなた達は鬼だったわね。でもそんな事関係ない。このままだと確実に手遅れになる。その前に誰かが止めないといけないのよ」
「成程成程、流石頭脳派らしい物の見方と解釈だ。だが生憎と、こっちもそちらの都合なんてどうでもいいんだよ。それに見てご覧。他の奴も止める気なんてさらさらないようだよ?」
「っ!」
まさしく勇儀の言うとおりだった。
レミリア、咲夜、文、萃香、幽々子。五者それぞれ様子は異なれど、誰一人として動きを見せていない。
「ちょ、ちょっとあなた達、今の状況が分かってるの!? このままだと―――」
「黙れ」
「――!」
有無を言わせぬ威圧感。レミリアの言葉にはそれがあった。
ちらりとアリスの方を見やり、ふんと鼻を鳴らしてレミリアは視線を戻す。
その瞳が捉えているのは仕合の光景か、はたまたこれから起こる運命なのか。
「おう吸血鬼、あんたは話が分かるようだね。どうだい、鬼の杯を受けないか?」
「断るわ。別に私はこの詰まらない茶番を楽しんでいるわけじゃないもの」
「あやや、これは意外でしたね。てっきり新鮮な血が毀れる瞬間を目の当たりにし、身体が疼いているものと思っていましたよ」
「冗談。この程度の流血を見ただけで興奮するほど私は愚かじゃない。それに私は今『視る』のに忙しいのよ。気安く話しかけるな」
「つれないねぇ。折角いい肴が目の前にあるってのに呑まないとは、あんた人生損してるよ」
「お前などに心配される謂れはないよ、小鬼が。私には私の楽しみ方がある。邪魔をするなら殺すわよ。烏天狗、お前もだ。隅の方で駄文でも書いてろ」
「おお、怖い怖い。カリスマ全開の紅魔館主は刺激せぬが華のようで。ならばお言葉通りこの矮小な烏天狗めは隅に引っ込みます故」
「ちょいと待った。お前さんは逃がさないよ。さぁ呑めそれ呑めどんと呑め」
「むむむ、これは困りましたね。他ならぬ萃香様の頼みとあっては断れません。ですがどうかご容赦を。私には事の顛末を全て書き残す使命があるのです」
「口八丁手八丁で誤魔化そうたってそうはいかないよ。無理やりでも付き合ってもらうからね。ほれほれ、観念しな」
「いやはや、これは手厳しい」
いつもと変わらぬ調子の萃香と文に、迷惑そうな言動とは裏腹に不敵な笑みを浮かべているレミリア。
こいつらにまともな対応を求めるのがそもそも間違いだった。アリスは内心で己を恥じる。となれば、この場で頼りになるのは後一人。
「咲夜!」
「止めないわよ、私は」
「あ、あんたまでそんな事を……!」
「生憎私には、きっちり三分を計る仕事があるの。それにお嬢様が何も仰らないなら、私が何かする必要は無い。どの道するつもりもないけど」
「だから! そんな悠長な事を言ってる場合じゃ――」
「少し落ち着きなさい。今のあなた、感情が昂ぶって判断力が落ちてるわ。そんな状態で飛び込んで、アレをどうにかできるとでも?」
「う……」
咲夜の適確な指摘に、アリスはようやく我に返った。確かに自分らしくも無い言動だった。どうやらあの剣氣のせいで冷静さを失っていたらしい。
情けない。クールにブレインで情報処理し、行動するのがアリス・マーガトロイドではなかったのか。
軽く自己嫌悪に陥るアリスだが、普通に考えればこの状況で落ち着き払っている他の連中がおかしいわけで、彼女の反応と行動は至極まっとうなものだ。
常識があり、頭が切れるというのが必ずしも幸運ではないという事だろうか。
「それにしても。アリスではないけど、あなたはもうちょっと慌てた方がいいのでは? そこの亡霊さん」
「はむ? むぐむぐ、むぐぅ」
「………」
話を振られた幽々子が何に勤しんでいるか、敢えて書く必要もないだろう。
仮にも自分の従者が危機に瀕しているとは思えないその行動に、流石の咲夜も少々呆れざるを得ない。
「まったく、同じ従者の立場として妖夢には同情するわ。少しは心配してあげてもバチは当たらないでしょうに」
「あらあら、悪魔の狗に過ぎないあなたが言える事かしら。特に主の振る舞い云々に関しては、むしろあなたに同情してあげたいくらいなのに」
「一本取られたか。でもお嬢様はいいのよ。天上天下唯我独尊にして傍若無人な振る舞い。それこそが私の敬愛してやまないレミリアお嬢様なのだから。それと人の主をさりげなく貶して話題を逸らさないで」
「嫌だわぁ、そんなつもりじゃなかったのに。とりあえずあなたの意見は却下。あぁ忙しいわ忙しいわ。もぐもぐ」
「あぁ、本当に同情したくなってきたわ。それともここは逆に考えて、あなたは妖夢を信頼していると見るべきなのかしら」
「そうであればいい話なのだけど、残念、それは外れよ。信頼するにはまだ妖夢は未熟すぎるもの。その点はあなたが羨ましいわ。完全で瀟洒な従者さん」
「お褒め預かり恐悦至極。でもだとするとますます分からない。信頼ではない、かといって唯の無関心でもない。あなたの真意が掴めないわ」
「掴めたら困るわね、亡霊なのに」
「またそうやってはぐらかす。お嬢様との言葉遊びは好きだけど、あなたとは無理そうね。あーあ、完璧で瀟洒の名が泣いちゃうわ」
「うふふ、それでもあなたは対したものよ。あの子ではここまで会話が持たないもの。だから少しだけヒントをあげましょう」
「おやまぁ、これは意外な役得。でも折角だからありがたく頂きますわ」
「素直でよろしい。んー…そうねぇ。あなた、アレが何か分かるかしら」
幽々子がアレと差したのは、妖夢と対峙しているものである。
ふむと少し考える咲夜。アレがまともな存在ではない事は誰が見ても明らかだが、幽々子の問いの真意はそこではない。
とすると、あくまでも私の主観による答えを求めているのか。
「少なくとも、巫女でも神様でもないというぐらいしか分かりませんわ」
「そう、そうね。アレは巫女でも神様でもない、もっと別の何か。でもそれが何なのかは分からない。分からないもの、曖昧なものが『ある』って、どういう事かしらね」
「……つまり?」
「アレは、曖昧なもの。だから問題ないの。それがヒントよ。あぁ忙しいわ忙しいわ」
妖艶な笑みを見せ、最後の最後であやふやに締めくくる。まさに幽々子らしい言動である。
どう返せばよいか分からなくなった咲夜の目の前で、幽々子が皿の上にあった最後の温泉卵をパクリと飲み込んだ。
その際に『うにゅーっ!?』という哀れな地獄烏の叫び声が響いたのは別の話。
「あの神社が崩れたは天人が仕業。はかった喃。はかってくれた喃」
ぎりりと歯を噛み締め血涙を流し、巫女の姿を借りた何かが呟く。深い怨恨と怨念が滲み出るその語気もまた狂気。
しかしその内容は、何故か媒介と成り果てた霊夢の愚痴に他ならない。
果たして霊夢は正常なのだろうか。倒した相手におう吐をもよおすようなこの執念は、どこから来ているのか。
そのような事など、今の妖夢にとっては些事に過ぎない。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ……!」
妖夢の心拍数はかつて無いほど上昇し、五里を全力で駆け抜けた直後の如く呼吸は荒く乱れていた。
迫る白刃の一閃を受けようと立てた楼観剣が虚しく弾き飛ばされ、次の瞬間ごとりと己の首が地面に落ちる。そんな幻ばかりが妖夢の頭に繰り返し浮かぶ。
ガタガタと体が震え、全身の汗が止まらない。逃げたくとも足が竦み動かない。全てが負の要素となり、妖夢の心身を蝕んでいく。
「はぁ――っ……はぁ――っ!」
もう駄目だ。とても私などが敵う相手ではない。あの凶刃を防ぐ術も、避ける力も無い。
どうしてこうなった? 高名な剣士を探し手合わせをするはずが、何故このようなおぞましい何かと仕合う羽目になった?
いや、もうそんな事はどうでもいい。私はこいつに斬られ、死ぬ。それだけの話だ。
あぁ、なんと情けない話だろう。こんなところで、こんな形で、命を落とすなど愚の骨頂だ。ただの阿呆じゃないか。
元よりこの身は半死ゆえ、死を嫌うつもりは無い。だが何も為せず、残せず、未熟なまま死を迎えるのは耐えられない。
…嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
死にたくない。私はまだ、死にたくない。死にたく、ない―――
『妖夢よ』
「―――…え」
まさか、いやそんな。だが、今の声は。
妖夢は、己の耳を疑った。恐怖のあまり、私の耳はついに幻聴を捉え始めたのか。
『什麼生。己の力量では遠く及ばぬ敵と相対し、刃を交えるが避け得ぬ時。剣士とは如何様にすべきか』
否。幻聴ではない。これは紛れもない我が祖父の声だ。
遠き昔日に祖父と交わした会話の中で問われた事だが、何故それが今脳裏に蘇った?
『勝てぬ勝負と知り尚挑むか? すごすごと尻尾を巻き逃走するか? お前ならばどうするか、さぁ、答えよ』
問いかける祖父がどのような顔をしていたのかは覚えていない。
縁側に二人して並び座りながらの会話であったが、今より幼く背丈も低かった私には、居丈高である祖父の顔は窺えなかったのだ。
それはともかくとして。
その時私の返した答えは、確か――
『説破。私は逃げませぬ。如何様な時であろうとこの魂魄妖夢、敵に背を向け逃げるような醜態は晒しません』
『その選択故に、己の命を失ってもか』
『はい。魂魄家は代々西行寺家に仕え、その身と剣術をもってお守りするが使命。それを為せるならこの命を散らすも本望です』
『………』
私は一切臆することなく、堂々と答えた。己の心のうちを。それが最善の選択であると信じて疑わなかった。
だが、それを聞いた祖父の反応は意外なものだった。
『足りぬ』
『は? 今、なんと?』
『足りぬと言った。魂魄家の使命を第一にと貫くその心構えは善し。だがそれでは足りぬ、足りぬのだ』
『足りない…』
足りない、という言葉自体は理解できた。当時から私は己が未熟であると痛感していたし、そんな私が出す答えが満点であろうはずもないからだ。
だから私は祖父に訊ねた。一体何が足りないのかと。どうすればそれを補えるのかと。
しかし返ってきたのは『愚か者』という厳しい叱咤の声。思わず身が竦んだ私に祖父は告げた。
『それを問うて何とする。他者が信ずる答えを聞くは易し。然しそれはけして己の答えに非ず。悩まずして答えを得ようなど許されるものか』
『も、申し訳ありません。この妖夢めが迂闊でした』
『分かればよい。これでまた一つ利口になったと思え。安易に問うは愚かだが、問わぬ気にせぬはさらに愚かよ』
祖父は、けして私に妥協しなかった。苦を知らず求めてはならぬ、まず己から動くべしと、言葉ではなく日々の態度から教わった。
あの時もそうだったはずだ。だが待てよ。確かこれには続きがある。
私の記憶が確かであるなら、突如祖父はすっくと立ち上がり、こう呟かれたはず……。
『妖夢よ。これから儂が口にするは独り言。聞き流すもよし。だが他言は一切無用ぞ』
『お師匠…?』
『剣士とは、貪欲であらねばならぬ。欲を禁じ、己を戒め、果てに道を見つけるなどは仙人の類がする事。剣士は斬らねばならぬ。常に求めねばならぬ。守らねばならぬ。いつ、どこで、何をという事は問題ではない。技を磨き、物を斬り、命を絶ち、己を活かし、他を護る。その内一つでも為せばよいと思うなら、それもまたよし。然しそれでは足りぬのだ。その全てを求め、全てを為さんと欲す。でなくば一つの山頂にて終えるのみよ。より高みを目指すのであれば、多くを求めねばならんのだ。多くを為さねばならんのだ。己の今の立ち位置に、満足してはならぬのだ。故に剣士とは、常に貪欲であらねばならぬ。使命を果たす事、そして生き残る事、双方共に為す。それがこの剣士、『魂魄妖忌』の信念よ』
語り終えたその直後。僅かに見えた(ような気がする)祖父の表情は、どこまでも荘厳で。しかし笑っていた。
「―――!」
巫女の姿をしたものの顔に、一瞬戸惑いの色が浮かんだ。目の前に立つ少女が、突如八双の構えを崩したのだ。だがそれだけではない。
だらりと両腕をたらし、若干顔は伏せている。その目にはまるで光が宿っていない。例えるならまな板の上に置かれた川魚のような目か。
そのあまりに奇妙な所作に僅かな違和感を感じ取ったが、巫女の姿をした何かはすぐに表情を戻した。
あれは構えではない。一切の抵抗を放棄したに過ぎない。完全に戦意が喪失し、どうしようもない諦観の念が形となって現れただけ。そう判断したのだ。
故に、巫女の姿をした何かは、妖夢の後ろにあるべきものの姿が無い事にもまるで疑問を抱かなかった。
「狂ほしく
血のごとき
月はのぼれり
秘めおきし
魔剣
いずこぞや」
巫女の姿をした何かの口から漏れた歌の韻が消えた瞬間、恐るべき超神速の横薙ぎが呆然と立ち尽くす少女の首元目掛けて放たれた。妖夢に避ける術など無い。
これにて終局なれば―――
がぅん、と鈍い音が響いた。
なんだこの音は、と巫女の姿をした何かが思ったかどうかは定かではない。重要なのはそこではない。
何故首が落ちる音がしない。何故斬った感触が無い。何故―――
―――こちらの腹が、斬られておるのだ。
宴会の場にて、その刹那を見極められた者は数えるほどしかいない。それほどまでに今の攻防は凄まじく、壮絶であった。
巫女の姿をした何かが恐るべき速度と威力を持たせ放った一閃は、寸分の狂いもなく妖夢の首元へと伸びていた。
そして凶刃が、まさに妖夢の首を捉えるというその際。迫る刃の横腹目掛けて、妖夢が思い切り右腕を振り上げ、右手に握るものを叩きつけたのだ。
だがその手には刀など握られていない。八双の構えを崩した時、妖夢は握っていた楼観剣を事もあろうか地面に落としている。
勿論それは白楼剣でなければ、楼観剣の鞘でもない。当然素手のはずもない。ならば妖夢は一体何を振り上げたのか?
その答えは半霊。常に妖夢の傍にあり文字通り妖夢の分身でもある半霊を、なんと妖夢は乱暴にも右手で掴み、斬り上げるが如き勢いで下から力一杯振りぬいたのである。
斬る事に特化している日本刀だが、横腹への打撃には存外弱い。いかに超神速の一閃といえど届く前に横腹を衝かれれば、その軌道が狂うのは自明の理だ。
当然そのような真似をして妖夢に何も無いはずがない。刃に半霊がぶつかった瞬間、まるで鈍器を振り下ろされたような衝撃が妖夢の右肩から全身に走り、がくりと姿勢を崩させた。
しかしそれが逆に妖夢の幸運となった。姿勢を崩した妖夢の体躯は下に動き、迫り来る刃の軌道から僅かながらだが逸れたのだ。
妖夢の渾身の一撃と、そこから生まれた思わぬ幸運が見事に合わさり、死の流星から妖夢を救ったのである。
そして痛みからいち早く立ち直った妖夢は空いた左手にて腰の白楼剣を逆手に抜き払い、腹を斬りつけながらすり抜けた。
これが、特定の者のみが見届けるに到れた、あの刹那の攻防の全てである。
最後まで見届けた者は、一人の例外も無くふうと息を吐き、星熊勇儀は杯を持ち上げ、感嘆の言を漏らした。
「お美事!」
「はぁー…はぁー……」
渾身の力を出し切った攻防は、妖夢の体力を悉く削ぎ落としていた。がくりと片膝をついてしまったが、辛うじて意識は保てているのが幸いか。
とにかく終わった。これでようやく――
「ぐあっ!?」
いきなり首根っこを鷲掴みにされ、妖夢の体躯が強引に持ち上げられた。万力のような力で喉が圧迫され、呼吸が出来ない。
「あ……ぐ……ぅ……ぅ……!」
次第に薄れていく意識を何とか奮い立たせ、薄目を開けてみれば。そこにあるのは巫女のうつろな表情。
その視線は焦点がまったく合っていない。意識が曖昧なのは相手も同じようだ。
「い……いくぅ……いくぅ」
「く……ぅ……ぐっ……」
何とか逃れようと必死にもがく妖夢だが、一向に首を締め付ける力が弱まる気配は無い。ここまでなのか。
数秒の後に、彼女は意識を手放した。
「う、うわぁっ! ………。あれ?」
「おっ、気がついたのか。残念だなぁ。折角この『鬼殺し』で起こしてやろうと思ったのに」
「そんなもの気付けに使わないでください……って、うっ…お酒臭っ!」
残念そうに酒を呷る萃香。
自力で目覚める事が出来て本当によかった。妖夢はほっと胸を撫で下ろす。
途端に激痛が全身を駆け抜けたが、おかげで意識はよりはっきりした。
周りを見渡すと、完全に日は落ち、宵闇が神社の境内を包み込んでいた。離れた場所が騒がしいところを見ると、まだ宴会は継続中らしい。
どうやら自分はかなり長い時間、気を失っていたようだ。
しばしぼんやりとしていた妖夢だったが、ふとある事が気になり訊ねてみた。
「あの、霊夢は? 霊夢は大丈夫ですか?」
「私なら問題ないわよ。すんごく疲れてるのを除けば、だけど」
いつの間にか背後に立っていた霊夢が返事をした。だがその表情はどう見ても機嫌がよさそうには見えない。
やっぱりどこか怪我しているんじゃあ……と、不安になる妖夢。
「にゃはは、だいじょぶだいじょーぶ。霊夢はどこも怪我なんてしてないよ。単に疲れてるだけさ」
「そ、そうなの?」
「まぁね。あー疲れた。もうこんな事はこりごり。頼まれたってやるもんですか」
「すこぶる機嫌が悪いねぇ。そんな時は呑むに限る! 呑めば疲れも吹っ飛ぶよ」
「あんたと一緒にしないで。まったく、後で宴会の片付けもしなくちゃいけないって思うと鬱だわ……」
心底憂鬱そうな霊夢だが、確かに萃香の言うとおり大きな怪我をしている様子はなさそうだ。
思わぬ事態が連続した結果とはいえ、責任の一端は自分にあると妖夢は考えていた。そのうえ霊夢に怪我までさせたとあっては立つ瀬がなくなってしまう。
最後に使ったのが物理的に斬る楼観剣ではなく、霊的な対象や抽象的な概念を斬る白楼剣だったので霊夢が傷つく事などまずありえないのだが、妖夢はその辺りをすっかり忘れているらしい。
「そうそう、一応お礼は言っとくわね。あんたのおかげで助かったわ。ありがと」
「えっ?」
唐突な感謝の言葉に、妖夢は驚いた。
自分は何もお礼を言われるような事などしていないはず。むしろ罵倒されて然るべきだと思っていたぐらいなのだから無理もない。
「あの、どういう事? さっぱり分からないんだけど」
「やっぱり理解してないのね。面倒だけど、一応説明してあげるわ」
霊夢の説明によると、実は先程の儀式でおろしたのは神様ではなく、ある魂の怨念だったらしい。
自分の中に降りてきたのが神様ではない事に気付いた霊夢はすぐ追い出そうとしたのだが、妙に波長があってしまったようであっさり精神を乗っ取られてしまった。
しかし妖夢が白楼剣で霊夢の身体を斬ったあの時、一瞬怨念の力が弱まった。そのおかげでぎりぎり三分経った瞬間、身体から追い出せたのだとか。
「…というわけよ。ま、あっさり身体を乗っ取られちゃった私にも落ち度があるし、結果として何とかなったわけだし。別に気にする必要ないからね」
「は、はあ」
事情は飲み込めたが、無我夢中…というか、文字通り必死で対処していただけの妖夢としては、やはりお礼に違和感を感じてしまう。
正直者で根は真っ直ぐなのに、変なところで融通が利かないのが妖夢なのでこれは仕方ない。
「お取り込み中で悪いけど、ちょっといいかしら」
「あ、咲夜さん」
「構わないわよ。特に取り込んでるわけでもないし。で、何か用?」
「幾つか報告やら伝言やらが。本当はお嬢様からだけだったのに、ついでだからって他にも頼まれちゃったのよ」
やれやれと肩を竦める咲夜。妖夢とは違い非常に優秀な従者の彼女だが、矢張りそれなりに苦労が絶えないらしい。
幻想郷の従者は苦労人でなければ勤まらないという法則でもあるのでは…などとたまに妖夢は考えたりする。
もっともその苦労の質と量は当然各人によって異なるため、どうしても大雑把な見立てにならざるを得ないのだが。
「伝言…ですか」
「そ。でもまずは報告から済ませましょう。霊夢、宴会はそろそろお開きみたいで、ほとんどの奴が帰りつつあります。以上、報告終わり」
「つまり私に後片付けしろって事ね。おーけーわかった、後で覚えてろ」
「安心して頂戴。紅魔館の分は私が済ませておいたから。流石に全部は手伝えないけど、うちの後始末ぐらいはしないとね」
「ありがとう咲夜。あんたの爪の垢を煎じて他の連中に飲ませてやりたいわ。いやほんと」
「毒にも薬にもなりそうにないわね、それ。んじゃ次は伝言を。まずは妖夢、あなたの主から預かってるわ」
「え、幽々子様から? ………」
『妖夢、外郎はまだかしら』 真っ先に思いついた伝言がこれなのはどうなのか。
いや、流石にそれはない…とは言い切れないのが幽々子様だし……うーん……。
「えーおほん。『やっぱりちゃんと斬れたわね、妖夢』ですって」
「!!」
今日という日で、一番の驚きだった。まさか幽々子様から、このように言ってもらえるとは。
褒められたわけではない。一人前と認められたわけでもない。だが、見てもらえた。私が斬った瞬間を、ちゃんと見てもらえた。
それが妖夢には嬉しかった。主として、幽々子が自分の行動を見てくれていたという事が、嬉しかった。
「追伸。『でも最後は駄目駄目ね。残心を欠くは剣士の恥よ。それから妖夢、外郎はまだかしら』ですって」
「………」
持ち上げて落とす。お約束といえばそうなのだが、これはあまりに酷すぎる。
がっくりと落ち込む妖夢の肩を、ポンポンと叩き慰める咲夜の顔は、とても優しかった。
他にも伝言はあるのだが、数が多い(咲夜が面倒くさい)ので以下に列挙する。
『あぁ、血糊がべったりと…。早く帰って手入れをしないと錆びてしまうな…。矢張りこれは持ち出し禁止にするべきらしい』
『面白い事件なら大歓迎だが、あんなおぞましいのはもう御免だぜ』
『猛省しないと…猛省しないと…。私はクール、私はクール…』
『わたしゃまだここにいるよ…』
『あーあ、死体手に入れ損なっちゃったねぇ。ほらお空、うじうじしてないで帰るよ』
『うにゅぅ……さいごの……さいごのおんせんたまご……うにゅぅ……』
『いいもの見せてもらったよ。気が向いたら地底に来るといい。一度手合わせしたくなった』
『うーむ、明日の一面を飾れる記事になると思ったんですがねー。生憎文々。新聞は全年齢対象ですので、残念ながら今回はボツとさせていただきます』
「あのー…明らかに伝言じゃないものも混じっている気がするのですが…」
「気にしない方がいいわよ。どうせたいした事でもないし」
「はあ、そうなのでしょうか…?」
この適当に流し、済ませてしまう暢気さも必要なのだろうか。それを考える妖夢はどこまでも真面目である。
「では最後に我が主、レミリアお嬢様からの伝言をば。『強い剣士と戦いたいなら、紅魔館に来なさい。歓迎するわよ』との事」
「え……」
あまりにも突然な内容だったので、妖夢はさっぱり理解できずにいた。
あのレミリアがわざわざ自分を招待するとは、一体どういう事だろうか。
いや、そもそも紅魔館に剣士がいるのか? 紅美鈴さん…は剣士というより拳士だし、咲夜さんはナイフ使いでパチュリーさんは魔法使い、レミリア…さんは槍を使うらしいけど、やっぱり剣士じゃないし…。
「思考中のところ悪いけど、お嬢様はこうもおっしゃったの。『あなたがうちを訪ねるのは運命よ』ってね。じゃ、そういうわけだから」
「はい?」
妖夢が疑問符を浮かべたと思ったら、そこに従者二人の姿はなかった。恐らく咲夜が時を止めて妖夢を連れ去ったのだろう。
「ありゃりゃ、いいのかねぇ。本人の意思も確認しないで拉致したりして」
「人攫いの専門家がそれを言うか。別にいいんじゃない? 悪い予感はしないし」
「ならいいけどねー。あの館で剣を使う奴なんて、私は一人しか知らないよ?」
萃香に言われ、霊夢もようやく気がついた。
確かに紅魔館には剣を使う奴がいる。それも、かなり規格外の強さを持つ奴がだ。
いや、規格外というより、本当の意味で『狂った』強さというべきか。
「あーそういえばそうだっけ。ま、大丈夫でしょ。死にゃしないだろうし。半分死んでるけど」
「霊夢らしいねぇ。じゃあ、哀れな半人半霊の少女を悼んで乾杯といこう」
「勝手に殺すな。後ここで呑むな」
今宵の月は三日月だった。
星屑が散りばめられた漆黒の空に浮かぶ月の船を眺めながら、レミリアはワインを口に含む。
その顔から察せられる感情は、愉悦。自分が『視た』運命どおりの面白い展開になった。レミリアにはそれが楽しくて仕方がないのだ。
そんな紅魔館の主の気分を台無しにするような、無粋な言動を取るものがもしこの場にいたとしたら。間違いなく傍らの従者による制裁を受ける事になるだろう。
「随分と楽しそうね、レミィ。あなたのそんな顔久しぶりに見たわ」
「そういうあなたはいつもと変わりないのね、パチェ。ずっと図書館に引きこもってるから楽しい事も起こらないのよ」
「…別にいいわよ。図書館で静かに本を読む時間こそ、私には必要不可欠なもの。それを犠牲にしてまで騒ぎたいとは思わない」
会話こそしているものの、視線を読んでいる魔法書から一向に離そうとしない親友の態度だが、この程度でいちいち腹を立てるレミリアではない。
パチュリーがこういう性格だという事は長年の付き合いから理解しているし、何より今夜はとても気分がいいのだ。
「ところでレミィ。さっき妹様のいる地下の方から悲鳴が聞こえたけど」
「ええ、聞こえたわね」
「『みょーん!?』だなんて、奇特な叫び声もあったものね。普通なら『コンナハズワー』とか『う わ ら ば』とかなのに」
「『むきゅー』がやられ台詞の魔女が言うと説得力があるわね」
「『うー、うー☆』でカリスマブレイクした吸血鬼に言われたくはないわね」
「……まあいいわ。今夜は気分もいいし、お互いの事は言いっこなしよ」
「そうね。こんな事で口論するなんて時間と体力の無駄遣い」
「まったくもって同感だわ。流石は私の親友といったところかしら」
「それはどうも。…でもレミィ、わざわざあんな半人前の剣士の願いを叶えてあげるなんて、何を考えているのかしら。それが私には理解出来ない」
「ふふ…パチェは知らないのね。『正気にては大業ならず』という格言を。あの剣士は真面目すぎる。正気すぎる。だから狂気に当ててあげたの。この紅魔館で、狂気と剣の扱いを同時に満たしているのはフランだけ。あの子も退屈していたし、いい暇潰しになるでしょう。まさに一石二鳥だと思わない?」
要するに、レミリアは妖夢の『強い剣士と手合わせしたい』という欲求を叶えてやったと言っているわけだが、どう見ても死刑執行にしか思えない所業である。
しかもレミリア自身が、それを理解した上でわざとやっているので尚更たちが悪い。まあレミリアらしいといえばらしいのだが。
「…成程、流石はレミィ、まるで悪魔だわ」
「悪魔ですもの。当然でしょ」
「まあいいわ。…それよりさっきの格言なら知ってるわ。前に読んだ書物に載っていたから」
「へぇ、そうなの。じゃあこれは知ってる? 『武士道は死狂ひなり。一人の殺害を数十人して仕かぬるもの』」
「勿論。それの意味するところは、『武士道という道は死に狂うものであり、一人殺すために数十人が死なないと駄目』だったかしら」
「そうそう、そんな感じ。今の幻想郷ではありえないわね、そんな愉しい話は」
「無いなら無いに越した事はないわ。レミィには悪いけど、今の幻想郷には相応しくないと思うし」
「分かってるわよそんな事。でも憧れたり、想像して楽しむくらいなら問題ないでしょう?」
「…程々にね。レミィなら、そのうち空想具現する魔法を作れとか言い出しそうだから」
「ふふ…さて、どうかしらね」
会話が一段落し、満足そうな笑みを浮かべたままレミリアは再びワインを口に含む。
そんな主に、おずおずと咲夜が申し出た。
「あの、お嬢様。少しよろしいでしょうか」
「何かしら」
「差し出がましいようで恐縮なのですが……先程の格言の意味するところについて、どうしても申し上げたい事がありまして」
「ほう、言ってごらん」
「ありがとうございます。その…パチュリー様の解釈は少し間違っておられます。正しい意味は『武士道は死に狂いである。一人を殺すのに数十人がかりでかなわないこともある』です。その書物なら愛読書ですので」
『…………』
完全で瀟洒。故に記憶力も完璧。しかしそれが必ずしもいい事とは限らない。
微妙な空気になってしまった紅魔館のテラスを、静かに三日月の光が照らしていた。
後日、満身創痍の妖夢が永遠亭に急患として運び込まれ、一週間悪夢に魘され続けたのは別の話。
負けるな妖夢。頑張れ妖夢。剣士としてのお前はこれからだ!
続くかも?
魂魄以外の純粋な剣士となると旧作でも良いなら明羅がいますねえ。霊夢とはぷよぷよのシェゾ(明羅)とアルルゥ(霊夢)と言った感じでしょうか。後はWIKIやニコ動で検索して封魔録を参照すればわかるかと。
次回作を楽しみに待ってますねえ。
神おろしで魅魔様背負って戦ってくれないかなww
>三尺以上の刀身を誇る大太刀
私見でスミマセンが、以前妖々夢のみょん絵から楼観剣の長さを測った事がありますが
白楼剣の鍔(常寸と仮定)を元に計算し、楼観剣の全長が妖夢の身長の8割である事から
拵え全体で3尺6~7寸、刀身2尺6寸5分と出ました。
…意外と短いです
でも、身長が5尺無い女の子が振るうには十分長すぎますがね。
あくまで私見ですので、参考までに・・・
死狂い也、と言っても死に狂うほどの理由がないと人間がんばれないものでして
…とか根性なしの元道場通いの人間が言ってみる
ちなみに『流れ』は無理、できない!
ほのぼのじゃない妖夢は誰より思いは強いのに誰よりやり方が不器用だから
すーぐ間違った方向に突っ走って結局泣き喚いてくたばっちゃうから見ててつらくなるんだよなぁ…悲劇がよく似合う
とはいえ面白かったですよーこの作品
もし霊夢が戻ってこなかったら「た、種ぇぇ~」的な展開になるのかと少し期待してしまった自分が憎い
慧音は?
夢子は?(ナイフか剣かよく分からんけど)
ではでは返信をば。
>1様
明羅さんの事は一応知ってはいます。
某人形劇に登場していたので、それがきっかけでしたね。
しかし悲しきは旧作のキャラなのか、中々資料が見つからずキャラ像が掴めずじまいになってしまいました。
Wikiは覗いた事がまだないので、参考にさせていただきますね。
>2様
わざわざ神おろしをせずとも、魅魔様はちゃんといるのです。
そう、博霊神社のどこかに……。
とまあ、それだけでは流石に悲しすぎますよね。
なのでこの作品の中にちらっと魅魔様が登場(?)しています。
さて、どこにいるでしょう?
>8様
楽しんでいただけて何よりです。そして綿密にして素晴らしい考察、御見それしました。
自分が楼観剣を大太刀と判断したのは萃と緋のドット絵からなのですが、やはり三尺は少し長かったみたいですね。
小柄な少女が大きな刀を扱うのは確かに無理があると自分も思います…が、某灼眼炎髪の少女みたいなのもいますs(ry
>9様
あちこちにネタを挟んだのは、ちょっとした息抜きと重苦しい仕合の空気を緩和したかったからです。
でもやっぱり少し強引なところもあったみたいですね……。もっと精進しないと。
>10様
はい、自分もゆゆ様はそんな感じのお方だと思います。
食べることが大好きというところは否定しませんが、そんなお茶目(?)な一面を除外したとしても、結構食えないお方なんですよねぇ……ゆゆ様は。
『流れ』は……まあ、数多の剣術漫画に出た技の中ではまだ現実的かなぁ…と思っていたり。
いや勿論実際に出来るとは思えませんけどね。握力と刀の重さ的に考えて(笑)
自分の中の妖夢は、とても真面目で頑張りやさんですが、こう思い込んだら突っ走る傾向がある可愛い未熟者です。
指導者や保護者の立場から見れば危なっかしいことこの上ないのですが、同時に最後まで成長を見守ってやりたいと思えるタイプだと思います。
妖忌やゆゆ様がそこまで考えているのかは分かりませんが、単に厳しく接したりからかったりだけではないと信じたいですね。
「た、種ぇぇ~」……。それがあったか!(オイ)
>11様
椛は確かに剣士……だと個人的には思っていますが、今回の妖夢の目的は『高名な剣士』と手合わせする事にあったので、椛は選考から外しました。
椛もまた、妖夢のように未熟な面が強い剣士だというイメージがあるので……。
慧音は……確かにスペルの中には剣が入ってますが、やっぱり剣士という印象はないのでボツに。
長生きしている慧音だから、寺子屋で竹刀剣道の稽古をつけていても違和感はなさそうですけどね。
夢子さんは完全に失念していました。申し訳ない。
それにどうしても咲夜さんと同じような投擲スタイルなイメージが……。
直接斬りかかる描写がどこかにあればいいのですけどねー。
初投稿の作品なので色々と不安でしたが、ちゃんと楽しんでいただけた方もいらっしゃったようで嬉しい限りです。
感想もご意見もご指摘も、全て自分の糧として、次の作品に活かせるよう頑張ります。
ありがとうございました~。
ただ妖夢の そんなのってないよー 的なオチ部分はもう少し文章を短くしてもよかったかも
今までほとんど話に絡んで来なかったレミとぱっちぇさんが登場して長く会話してるのだけ少し違和感があった
……ような、気がする
それに「いくぅ~」と叫んでも不思議じゃない
あと×博霊 ○博麗
面白かったけどねw