「フフフ、アハハハハ!どうした?コレだけ雁首揃えながら、この地底の鬼を討つ者はいないのか!?」
そう言い放つのは、碧き光を纏う金髪緑眼の少女。
その足元には、私達の仲間が死屍累々状態でぶっ倒れている。
「ぬーぅ。うちの若い鬼達がまるで歯が立たない。だらしない、なう。」
私は呟いた。地上を追い出され、地底に降りようとした道中、あの少女に道を阻まれてからかれこれ3時間、もう100名ほど注ぎ込んでいるのに倒せなんだとは。。。
しかしあの少女、かなりの手練だ。事実、束になって掛かってもあの少女に触れることすら出来ていない。攻め手に回ろうとも、あの碧の光がすぐさま弾幕となり、簡単に壁まで押し込まれてしまう。それに戦い方が上手いのだ。この暗く狭い洞穴をテレポートや眩い光の弾幕を駆使し、あっという間に死角に回りこむ。この場所の戦い方を完全に熟知している。
「勇儀は若くない、なう」
「ちょ、萃香、私まだ若いよ!ピチピチだよ!?」
「ピチピチとか死語でしょ。やーん勇儀さんまじ○○○○♪」
「萃香ェ!言っていいことと悪いことがあるです!勇儀お姉さんマジ許さんです!覚悟するですこのロリータ!」
「ふふふ、みせてやろう、この鬼のエリート、ロリータ様の実力をな…!」
萃香は中腰になり脇を締め、気合を入れるとグングン妖力が膨れ上がっていった。バカなぁ…一体どこにそんなパゥワーが……!
「姉さん達、バカトークしてないで何とかしてくださいよ!」
「ふぁ?」
気が付くと、やられた若鬼が私のスカートにしがみついていた。
「えー、だってアンタ達が『あれくらい自分達で訳ないッス!見ててください!』って言うからぁ・・・。」
「だ、だってあれほど強いだなんて思わなくって・・・。」
情けない、なう。
「もうちょっと頑張ってみなよー、私ら別に、急ぎじゃないし、ねぇ勇儀♪」
「ねぇ萃香♪」
見てる方が楽しいし、どうやってこの状況を打破するのかワクワクするし!やはり戦いは結果じゃない、過程だよね!
「無理ですよ姉さん~。お願いしますよ~。。。」
……まぁ、この様子じゃホントに進めないかもね…。
「しかたない、一丁、若いもんに手本を見せるかね!」
「勇儀は若くない、なう」
「ヤメテ!」
私は腕を廻しながら、少女の元へと向かう。
「―――お前が総大将か?」
「いや、別にそういうわけでもないけど。」
「けれど、お前と、あの2本角は別格だ。」
へー。
「見ただけで判るのかい?」
「余裕がある。お前達2人には。他の者は焦りを感じているのに。」
「読心術でも持ってるのかねぇ?」
屈伸運動をする。正直、赤の他人とのケンカは久方ぶりだ。入念にストレッチしないと筋が違えちゃう。それよりも―――。
「私は、角の無い鬼なんて初めて見たよ。」
鬼というのは牙長かったり耳が尖がってたり爪長かったりトラのパンツ穿いてたりと、様々な奴がいるんだけど、共通してあるのが『角』。人間でも、鬼を表現する時は人差し指を頭に付けるくらいだから、鬼はみんな生えてるものだと思ってたんだけどなぁ。
「私はお前達の様な存在とは違う。永く地底に取り憑く、心を嫉妬で塗りつぶす狂気の鬼。」
「難しい言葉知ってるねぇ。」
軽く深呼吸して、準備運動終わり!
「そこまで饒舌なら、まずは話し合いからかな?私は星熊勇儀。アンタは?」
「……。」
いきなり目の前が、碧い光でいっぱいになる。あそこまで話しといて問答無用!?
「ちょっと!??」
光が収束し、重さのある弾幕が私に向かってくる。
咄嗟に後ろに飛んだ直後、炸裂音が洞窟内に響いた。立っていた場所が見事なクレーターとなる。中々の威力。受けようかとも思ったけど、避けて正解かも。
「全く、会話の一方通行ってキライなんだよねぇ。」
私は身構え、勝利への最短ルートを頭の中でイメージしながら、壁に背を向ける。
「そういう礼儀知らずはお仕置きだよ!!」
そう叫んだ私は、壁を目いっぱい蹴り、高速で少女の懐へ向かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、地底って暗くてジメジメしてて陰気だねぇ!」
地底に来て、先ず私達が行ったのは宴会。イベントの節目節目に宴会挟むのが鬼の常識、これ覚えておくように。
……実のところ、結構みんな気が滅入ってる訳で・・・。私達、人間やら天狗やらに、地上のあちこちから放っぽり出されちゃって。でも私らって結構大所帯で、土地確保するのも大変で、そんな受け入れ先が地底だった訳で、まぁ、めげずにみんな頑張っていきましょうって訳で。。。
まぁ、無理だよね。すぐには開き直れないよね!私もちょっと半泣きでした!まる!
遠まわしであってもさ、『貴方達とは共存できません』って言われて泣かない奴いないだろぉぉぉ!
だから気付けの宴会!明日から地底で頑張っていこうって事で!
「いやー、でも姉さんの戦う姿、感動したッス!私らが束になっても叶わない妖怪をたったの一撃で倒しちゃうなんて!マジ痺れるッス!」
「ハーッ!実力実力ぅ♪」
私が力こぶを作るしぐさをみると、若鬼の何人かが感極まって涙流しとる。頼りない。
まだまだ楽できそうに無いねぇ。裏方暮らしは当分先かなぁ。。。
「勇儀ー勇儀ー。」
「なんだい萃香。先住民様達への酒の振る舞いは終わったのかい?」
これは私達、鬼が開いた宴会だが、今、萃香の能力を使って地底の先駆者達を萃めて招いてもらっている。
宴会というのは交流の場だ。ましてやここは知らぬ土地。出来るだけの情報が欲しいので、なるだけ地底の先輩方にお話伺いたいのだ。……大体、今の身内のメンタル状態は最低なんで愚痴大会になるの、目に見えてるし。ネガティブ思考に目覚めても困るので。。。
初めて地底に降りた時の第一印象は『荒野』だった。建物らしいものは殆どなく、岩肌ばかり。
しかも明かりは、旧地獄時代の名残か、灯篭がポツポツと立っているだけ。遠くがほとんど見えないのだ。
けれど、目を凝らしてみるとかなりの数の妖怪がいた。けれど、その全ては生気が無く目が虚ろ。これでは話を聞くどころでは無い。
まぁ、いくらやる気の無い奴でも、酒飲ませれば何かしら話が聞けるんじゃないかな?
「それはまだ継続中。それよか、あれよ。アレ。」
「あれアレいうな。代名詞じゃ分からん。」
「仕方ないじゃない、名前知らないんだから。あれよアレ。」
萃香の指を指す方向には、あの洞穴で道を阻んでいた少女が立っていた。
遠巻きではあるが、碧い光を纏っているので特定は簡単だった。
「あぁ、アレか・・・。」
「アレが先住民様達に何かやってるみたいなんだよね。アレが出てから震え出しちゃって話にならないんだよ。」
「ふむ。。。」
そういや、小難しい事言ってたな。イフがなんとかかんとか。
……仕方ないなぁ。
「……星熊勇儀。」
凄まじい気迫だ。先刻やり合った時とは段違い。
「……アンタ、地底のヤツらに何かしていたのかい?」
私は、何食わぬ顔で質問をする。物怖じしない私の態度が気に食わないのか、歯をむき出しにしだした。
「……言ったはず。私は地底に取り憑く、心を嫉妬で塗りつぶす狂気の鬼だと。地底の妖怪は私を恐れている。姿など見たくもないのだろう。」
そう言い終わると、少女は封筒を投げつけてきた。
……封筒?
「お前を倒し、お前達の仲間は全てこの地底から叩き出す。地底の鬼という存在は、二つも要らない。」
「あぁ、コレ果たし状?」
「けれど、私とて野暮ではない。あの宴が終わり次第そこに書かれている場所へ来い。そこで―――。」
グシャ!
私は少女が言い終わる前に、もらった封筒を握りつぶした。だって意味無いもん、こんなの。
「お前……!」
「勘違いしなさんな、勝負したいんだろう?」
3度の酒よりケンカの好きな勇儀お姉さんに勝負挑むとは。ましてや一度、完敗した相手に再び挑む気概のある奴を待たせるなんて、それこそ野暮さ。そうだろ?
「いつだっていいさ、呼べば受けて立ってやるよ!!」
「吠え面を掻かす…後悔させてやる!」
「さぁ来な、地上で鬼の四天王と呼ばれ、『怪力乱心』と謳われた私を楽しませてみなよ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「水橋、パルスィ?」
「そう、アレの名前。」
地底の交流を兼ねた宴会も問題なく終わり、萃香が報告に来た。見知らぬ土地で宴会盛り上げれるとか、ホントこいつ人付き合いうまいよなぁと関心せざるを得ない。
私はというと、ようやくパルスィという少女を撃退し、ようやく一息ついた所だ。…全然お酒飲んでない、しゃべってない。
なにコレ寂しい。
「古くから、地上と地底の道の途中に住み着いてて、通る奴にちょっかい掛けるらしいんだ。でも、地底には普段降りてこないらしいよ?」
「へぇ?しかし、変わった名前だねぇ。」
「まぁ、名前の由来は分からんけどね。それより種族なんだけど―――どうも橋姫みたいだね。」
「橋姫?」
なんか聞いたことかある。人間が、恨みで化ける妖怪変化とか。
「あの道は、地上と地底を結ぶ橋みたいなもんだからね、住み着くのも納得かな?」
「ふうん・・・。」
普段降りてこない……か。
けど、わざわざ降りてきた。それにあの気迫。あの台詞。。。
『お前を倒し、お前達の仲間は全てこの地底から叩き出す。地底の鬼という存在は、二つも要らない。』
また、鬼不要論ですか……泣きそう。。。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず私達は、地上の様に暮らせる生活を目指して動いた。
無論、地上を目指すといっても、日の光が無く、湿気の多い地底は劣悪な環境だ。ハードルは非常に高い。
とにかく、暗いのが問題という事であちこちに提灯つけてみたり。
地上から持ってきた種を撒いてみたり。
住まいが必要だと家を建てたり。
私達は試行錯誤した。どうすれば地底が住み易くなるかを。
ほとんど、失敗を前提に成功を目指す作業を繰り返す毎日。
心が折れそうになる日もあったけど、そんな時は宴会で気を取り戻した。
やがて、だんだんと、地底の住民達は私達に協力するようになってくれた。
やがて集落が点在していただけ地底は、街と呼ばれるものにまでなっていったんだ。
苦楽を共にするっていいことだなぁとつくづく思う。
まぁ、、、パルスィは相も変わらず、ちょっかいかけてきてたけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ~~・・・。」
私は朝早く…といっても、終始同じ暗さの地底だから実感わかないが、急いで旧地獄街道の工事現場に向かった。
当面は拡張工事を続け、街道を地霊殿付近までくっつける予定だ。
地底の開発事業をしているわけなので、土地の管轄である地霊殿には工事の報告をしなくちゃいけないんだけど、正直真っ暗で怖い。しかも開発してないから荒野。マジ怖い。
いや、力自慢でも、やっぱ怖いものは怖いのよ?
だから、地霊殿まで道をつくれば行きやすいだろうし、地霊殿の主も、外出しようとか思ってくれるだろうし。
話を聞くと、全然外に出てないらしい地霊殿の主。インドアは不健康だからね!きっかけ作ってあげなくちゃ!
……しかし。
「風邪かなこりゃ…。」
身体がだるい。健康優良児の勇儀お姉さんが病気とか何たる不覚ー。最近、突貫工事してばっかだからし。と言いながら三日前から風邪の症状はあったんだけど。
萃香が「働きすぎだよォ!」とか言っていたなぁ。よし、今日は早めに切り上げて、萃香にご飯作ってもらおうそうしよう。
「……星熊勇儀。」
……出ちゃった。橋姫様出ちゃったよ。。。
今日はちょっちヤバイかも。しかし、勝負はいつでも受けるって言っちゃったしなぁ。。。
「パルスィ。今日は時間が惜しいから、長くは構ってあげられないよ?」
「……。」
相変わらずの気迫。パルスィの身体から光が奔る。
私は抱えていた大工道具を道端に置き、構える。
パルスィの戦い方は決まっている。
弾幕で威嚇し、テレポートで不意打ちを仕掛けてくるのがパターンだ。それがあの子の持ってる戦いの方程式なのだろう。
確かに力の強い相手には、この方法が有効ではあるのだろうけど。
威嚇が雑すぎるのだ。勝負を焦るあまり、注意を引き付けきれずに奇襲を掛けてしまうようだ。
今回は、追尾する光の弾幕で私の動きを縛ろうとするのだが、弾幕の制御に必死で奇襲のタイミングが掴めずにいるようだ。
やがて集中力が途切れたのか、弾幕の動きに粗が生じ始めた。いつもなら、痺れを切らしてテレポートで攻撃を仕掛けてくる。
その前に、私は弾幕の合間を縫い、パルスィに急接近を試みる。
右手に力を込める。私の角の様な、紅い光が収束する。時間は掛けない。ここで一気に畳み掛ける。
「―――!」
突然視界がぐらついた!マズイ、こんな時に風邪がぶり返してきたってのかぃ!?
「!?」
間一髪でパルスィは身を捻り、私の一撃を避ける。やるようになったッ!パルスィーー!
……感心している場合じゃない。一旦地上で体勢を立て直さないと……。
なんとか地上に降りたものの、なんかフラフラしてまともに立ってられない。ヤバイ。
見上げるとパルスィが大玉の弾幕を周囲に纏いながら私目掛けて特攻している!
おそらくチャンスと見たのだろう。良い判断だパルスィ!今の私の状態で正直捌き切れるか!?ええい、なるようになーれ!
腹を据えた直後―――突如、空中で爆発が起きた。
「ッあ゙ぅッッ!??」
パルスィが突然、私の左手側に大きく跳ね飛ばされ、展開していた大玉は霧散した。
―――なにが、起こった?
理解するよりも先に、パルスィは地面に大きく打ち付けられた。
「パルスィ!!」
私は大声で呼びかけた。
肘を突き、起き上がろうとしているが、力が入らないようで藻掻いている。かなりのダメージの様だ……。
「勇儀!!」
「!―――萃香か!?」
遅れて、私の前に萃香が降りてきた。萃香の…仕業か……!!
「どうして手を出した!コレは私とパルスィの勝負だ!!いくら萃香でも許せる事と許せない事が―――」
「体調悪いくせに勝負を受けて、何考えてるの!?」
私の言葉を遮って、萃香が叫んだ。
「勇儀はどういうつもりか知らないけど、あいつは本気で私等を仕留めに来てんだよ!私は、勇儀がやられたら困るのよ!」
「す、萃香…。」
「私だけじゃない!地底の奴らは勇儀を頼りにしてるの!今、勇儀がいなくなっからこの地底は、また最初に逆戻りだよ!?それを分かって勝負を受けてるの!?」
珍しく萃香がいきり立っている…。
「―――嫌な言い方かもしんないけど、私は勇儀がパルスィに負けるなんて思ってない。。。けどね、そんな状態で勝負受けて勝てると思ってるなら、相手に対する侮辱だよ!!」
「私は……。」
言い返せない。。。確かに…パルスィを見下してた。
萃香の言うとおりだった。私は、鬼の四天王が一人、力の勇儀。
常に勝負は正々堂々。驕る事無かれ。鬼としての見本を見せなきゃならないのに、無様な事をしたと、言われて後悔した。シュン。
鬼にとって、勝負事は興の一つだ。共に腕を競い、心を通じ合う為の手段だ。
私はパルスィと多く勝負してきた。だからパルスィの攻め手は分かるし、パルスィもそれを抗う為の手段をいつも練ってきている。
正直、パルスィと勝負をする事が楽しみになっている。最初は決まった攻め手で力押しだけなかったが、今は攻撃の読みあい、避けあうところまできた。数ヶ月の間だが、その勝利への貪欲さと勤勉さは、非力でありながらも抗おうとする人間を彷彿とさせてくれた。好きだった人間を思い出させてくれる。。。
「星熊……勇儀……。」
頭の中でアレコレ考えていたらパルスィは立ち上がり、こちらを睨んでいた…。
……右腕がボロボロだ。地上に落ちる衝撃を庇ったのだろう、黒ずみ、血が滴っている。
「水橋パルスィ。」
萃香がパルスィに歩み寄る。
「鬼の勝負に横槍を入れるのは禁忌。私はその禁忌を犯した。罰を受ける責務がある。」
「伊吹……萃香……。」
「けれど、旧地獄街道が出来上がるまで、私と勇儀は欠ける事は許されない。私等の命は、私等を信じ、地底の未来を開く者たちの神輿なんだ。」
「…………。」
「じきに旧地獄街道は完成する。それが終わったら、私の命を好きにしなよ。」
「萃香!?何を言ってる!??」
「勇儀を倒したら、次は私の番なんでしょ?追い出したい者の順番が繰り上がっただけだよ勇儀。―――工事が終わり次第アンタに会いに行く。その時は、煮るなり焼くなり好きにしなよ?」
「萃香!」
「私だって鬼の四天王の一人だよ!他者の勝負を無効にする事がどれだけ重いかって、分かって攻撃したさ!けどね、今この地底には勇儀が―――」
「黙れェ!!」
パルスィが突如叫んだ。目の前にいた萃香が驚いて飛び跳ねた。
「パ、パルスィ?」
「この勝負は無効だ……。情けなんていらない。必要ない。私は、私の実力でお前達を倒す……。」
「そういうわけにはいかないよ、私等にもプライドってもんが……。」
「私は言った。お前達鬼を、一人残らず地底から追い出すと。
私が、甘えてしまっただけだ。勝負と言い、1対1だと思い込んでしまった……。お前達全てが……敵だという事を……忘れてしまっていたんだ。。。」
そう呟くと、パルスィは地上に繋がる穴を目指し、フラフラと飛んでいってしまった。
「あぁ、ちょ、ちょっと待ちなよパルスィ!!」
慌てて萃香がパルスィの後を追って行く。
私は、錯覚していた。パルスィとずっと勝負していて、もう仲良くって、友達だと思い込んでた。でも、パルスィは本気で私達鬼を憎んでいる。ずっと、ずっと会っているのに分からない。分からない。。。
あ、萃香が殴られてる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「星熊勇儀……。」
三日後、パルスィは再び私の前に現れた。
いつも通りの気迫。だが、見れば、いつと明らかに違っていた。
「パルスィ……。」
右腕を包帯でグルグル巻きにしている。それに、身体のあちこちも痣が残っていた。
明らかに、前回のダメージが残っている。
ちなみに私はあの後、萃香に付きっきりの看病を受けて、元気満タン。萃香はボコボコだったが。
……なんか凄く後ろめたい気分になる……。
「私が言うのもなんだけど、そんな状態で大丈夫か?」
「問題ない……!」
言い放つとパルスィは無数の光を放ち、それを私の方へ向かわせる。
いつもと比べて、輝度が低い。威嚇だ。目くらましには丁度いいだろうけど避けるまでも無い威力―――
「!?」
突如パルスィがテレポートで私の正面へ出てきた!私が避けないと踏んだのか!?
「くっ!」
パルスィが左手に込めた光弾を、なんとか右手で払い、逸らす。
隙だらけになったパルスィを残った左腕に力を込め、仕留めに掛かった。
―――そうすれば、終わりのはずだが、あっけなさ過ぎる。
不気味な感覚だ。相手は何か狙っていると、私の戦闘で培った感が警鐘を鳴らしている。
私はパルスィを平手で目いっぱい突き飛ばす。
その直後、パルスィの身体が白く輝き、大玉の弾幕が展開した!
「分身!?」
私は大きく後退し、大玉を避ける。
ただの分身じゃない、攻撃を仕掛ければ自爆するのか……!?
思わず、私は身体を右に捻り旋回する。上から本物のパルスィが弾幕を撃ち下ろす。
―――妙だ。いつもの戦い方じゃない。
パルスィの取る戦術はいつも堅実、言い換えれば無難な戦い方だ。初めて会った時から今まで、この戦い方を変えたことは無い。
けれど、今の戦い方は、まるで博打だ。分身の機雷をぶつけるのは良いアイデアだと思うけど、間違いなく消費が激しすぎる。それを戦闘開始直後に行うなんて。。。
「ハァッ、ハァッ、―――」
息が荒い。弾幕を撃ちながらでは追いつけないと思ったか、頭を私の方へ向け、突っ込んでくる。……左手で右腕を身体に目いっぱい押し付けて。
右腕を明らかに庇っている。痛みが残っているんだ。
―――どうしてだよ。どうしてそこまで勝ちに拘る?どうして私達が憎い?
私達は地底に来るまでパルスィとは全く面識など無かった。
恨まれる理由が分からない。そこまで勝負に負けることが悔しいの?
―――そういえば人間もそうだった。敗北することを良しとせず、勝つ事を至上とした者は詐欺紛いの卑怯な手段を使う者もいた。
―――天狗も、強欲に溺れた修験僧が妖怪になったものだと聞く。純粋な力で勝てない私達をやっかみ、不満の気質を出していた。
―――橋姫も……パルスィもそうなのだろうか。地底の鬼は自分だと言い張った。鬼の名を自分だけの物にしたかったのか?鬼の呼び名があれば、パルスィは満足なのか?もし、私達が鬼では無いと言えば、パルスィは満足するのかな…?
パルスィは前回と同じく、自分の周囲に大玉を纏わせ、左手からなけなしの妖力で練った弾幕を放つ。
―――ダメだパルスィ。それじゃあ、私に届かない。
必死に歯を食いしばり、私を追う。
―――無理だよ、そんな速さじゃ私に届かない。
辛い。勝負がこんなに辛いものだなんて思っていなかった。
勝負は興。勝った負けたは二の次。過程を楽しめればそれでいいって、ずっと思ってたのに。
こんなの、私の望んでる勝負じゃない。ただの弱い者いじめだ。
もう終わらせよう。私は右手をパルスィにかざし、特大の光弾を放ち―――
ドゥン!!
轟音と共に爆ぜた。
―――私は目を疑った
真正面を捉えていたパルスィが突然上に跳ね上がったのだ。
あんな器用な飛び方が出来るものなの?
あっけに取られた私だったけど、その答えはすぐに分かった。
パルスィが纏っている大玉が、連続して破裂していく。
ドドドドン、と、さながら太鼓の乱れ打ちの様なリズムで爆ぜる大玉。その衝撃をパルスィは自分に障壁を張り、上手く推進力にしているのだ。
私を軸に大きく弧を描き、尚も加速を続ける。精度はともかく、速度だけなら幻想郷最速を謳った鴉天狗に迫る勢いだ。
間違いなく突撃を仕掛けてくる……けれど、あの速さ。避けれるだろうか。。。
そして、残った大玉を全て破裂させ、私の元へ向かってくる。
―――あまりの美しさに目を奪われた。
パルスィが最後の妖力を振り絞り、前面に張ったバリアは碧白い光を放ち、軌跡を描く。
それは、勝ちたいという願いが籠められた、空を駆ける流星だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アンタの勝ちだよ、パルスィ。」
「……。」
パルスィの体当たりは見事に私の身体を捕らえた。
地面に激突し、何百メートルも転がったもんだから身体の節々が痛い。立ったり歩いたりして身体の調子を見ている。動くことに不自由してないみたいだけど、この痛み、絶対明日に響くよ……。
「アンタが勝ったら、私はこの地底から出て行くって約束だったね。」
「……。」
正直、感服した。ここまで予想外の攻撃をしてくるなんて。心が晴れ渡るくらい、スカッとする負けっぷりだ。
パルスィは岩に腰掛けて、私を見上げている。なにか物言いたげな感じ。
「けどさ、もうちょっと待ってくれないかな、萃香も言ってただろ、あの街道、もうすぐできるんだ。だからそれまで待ってくれないか?そしたら、萃香と一緒にここから消えるからさ。」
パルスィが目の敵にしているのは、ぶっちゃけ私と萃香だ。理由は簡単、戦っても敵わないから。そうすれば、パルスィは満足なはずだ。……私は地底を離れるのはちょっと寂しいなぁ。萃香は勝手に犠牲になってもらう。承諾してくれると思うけど。
パルスィが立ち上がり、私の目を睨みながら無言で私に近寄ってくる。怖い。
―――気持ちの良い乾いた音が地底に木霊した。
私の頬を、パルスィは目いっぱい平手で引っ叩いた。超痛い。
「パルスィ、何すんの、すっごい痛いんだけど―――」
私は、言葉を失った。だって、目から大粒の涙を流していたんだ。そして、子供の様な顔で、ボロボロ泣き叫んだ。
「私を、憐れだと思ったのか、星熊勇儀!!」
―――え?
「私の知ってる星熊勇儀は!!あのくらいで倒れる星熊勇儀じゃない!!」
―――なんで、泣いてるの?
「私の知ってる星熊勇儀は!!雄大で強くて、私が敵わない星熊勇儀だ!!」
―――言ってる意味が分からない。助けて萃香。
「私が弱いと情けを掛けたのか!?私が、惨めだと、同情の念をくれたのかぁぁ!!???」
―――そんな事ないよ?私はそんな風にアンタを見てないよ?
「ワ、私は、かつて地底で恐れられた、、オ、鬼なんだ!!ソ、そんな私、を弱いと、思っテ、、、私を、、、ワザと勝たセて……!」
「パルスィ、違うよ!!私は!!」
「あああアあ、アアアアああアァァァァァァァァァァァ!!!!」
パルスィは叫びながら地上に繋がる穴へ走っていった。
「勇儀ー、マズったねぇ~~~。」
「……萃香。」
気がつくと、萃香がパルスィの腰掛けていた岩に座っていた。
私は何時間、ここに佇んでいたんだろう。擦り傷から出た血がカチカチに乾いている。
「萃香。私は間違ってたのかい?」
「勇儀?」
「私達が、ここに来ることは、間違いだったのかい?」
「私に分かると思う?」
「……そうだね、ごめんね。」
何かに責任転嫁しようとしてた。自分が起こした現状を仕方ないことだと、誰かに言って欲しかった。逃げに走ろうとしてたなぁ、私。こんな気持ち、初めてだ…。
「勇儀ぃ、アンタ。ホントにパルスィに負けちゃったんだねぇ。」
「ん?あぁ、パルスィは強いよ?戦ってるの、見てたんだろ?」
「見てたけど、ちょっと違うなぁ、私の言いたい事とは。」
「えぇ?」
私は首を傾げた。萃香めぇ、ちょっと私より知的派だからバカにしおってからにぃ。
「あれだけ痛い目あっても頑張って向かってきてさ、勇儀はもう、『パルスィに負けちゃってもいいかなぁ?』って思ったんでしょ?」
「ちょっと頭に過ぎっただけだよ!?別にワザと負けたつもりはないよ。」
「ンフフー、そういうの、なんていうというか知ってる。」
あ、あぁ。そういう事。。。なるほどね。。。
「私、パルスィに会いたい。」
「会ってどうするのさ?」
「聞くのさ。どうして私達が憎いのかって。」
「そーかそーか。」
「何よその投げやりな返事は。。。」
私はプゥっと、頬を膨らませる。バカにしてんのか!?
「怒んないでよ勇儀。―――パルスィは、私等が最初に出くわした洞穴付近の、小さい横穴に隠れてるよ。」
「横穴って、モグラじゃないんだから。そんなとこで生活できるわけないでしょ。」
「鬼ウソつかないよ!ホントだよ!先日、しこたま殴られて追い返されたんだけどさ、やっぱ気になって。。。霧になって後つけたんだよ。そしたら、穴ん中で包帯巻いてた。」
う~む、まぁ、そんなウソついても仕方ないもんねぇ……行ってみようかな。
「……ねぇ、勇儀?」
「なんだよー。」
「パルスィなんだけどさ、弱くなってない?」
「んなことないよ。見てただろ?強くなってるよ?」
「いやぁ、戦い方は上手くなってるんだろうけどさ。。。最初会った時ってさ、もっとパワーがあった気がするんだけど。なんか力任せな感じでさ。」
「う~ん。無駄弾撃たなくなったからじゃないの?」
「そうなのかなぁ……?まぁ、いいや。いってらっしゃい!」
ドーンと!私の気付けに萃香が背中に平手をくれた。
……あまりの痛さに逆に失神しそうになった。
満身創痍の私にそんなの必要ねぇぇぇ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっては来たものの、横穴だらけなんですけど、ココ。
あの時は大勢で来たから思わなかったけど、ここは暗くて静かで怖いなぁ。
ここ一人で通っていきなりパルスィに襲われたら確かにビビるわ。昔怯えてた地底の先輩方の気持ちが解った気がするー。
くそぅ、どこだ、どこの穴にいるんだパルスィ~~~。
ここか!ここだろ!ここがええのか!ここに違いない!
―――この作業を50回ほどやってるとなんか心が寒くなってきた。クシュン。
ふと地面を見ると足跡がある。最近の足跡みたいだけど……。
そういや、パルスィ、今日は走って帰ったな…。
空を飛ぶ妖力を節約するためだろうか。足跡は転々と、地表の方へと向かっていって―――地面に近い横穴に続いていた。
「……ここか。」
私はなんとなく、抜き足差し足忍び足で入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらく進むと、ガサガサと音が聞こえる。
パルスィでありますよーに。―――もし萃香がドッキリで待ち伏せしてたらアックスボンバーの刑な!
視認できるとこまで来ました。パルスィでした。当たりキタわぁ。物音の正体は、どうやら包帯を巻き変えてる音のようだ。
さて早速話を聞かなくっちゃ―――
「……グスッ……ウゥ……」
―――泣いてる、超入りづらい、なう。
ヤバイよーヤバイよー。こんなの絶対話できる状態じゃないじゃん。絶対喚き散らされて大泣きしちゃうよー。無理よ勇儀お姉さんでもあんな泣き方されたら私も泣いちゃうよーそこまでタフじゃないよーぅぅぅぅ。
「急がないと……早くしないと……私……」
……ん、何だ?なんか重要なKeywordを聞いた気がしたぞ。
急ぐ?早く?
時間制限でもあるのか???
けど、パルスィの姿を見ていたら、何も考えられなくなった。
―――泣きながら、右腕に包帯を巻いている。左手と口を使って不器用に撒いて……口から包帯を落としては咥えなおし、すすり泣きながら巻いていく―――
ずっと、独りだったんだろうか。
この暗い洞穴の中、独りで生きていたんだろうか。
とてもじゃないが、私には耐えられない。そういう性格だといえば終わりなんだろうけど。
いやいや、どんな性格しててもこんなとこ一人で暮らしてたら寂しくて死んじゃうだろ!うさぎとかそんなの関係なしで!!
まぁまぁとりあえず、包帯巻くの終わってから声掛けようかな、ハハハ…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「パルスィ。」
できるだけ、低く優しい声で呼び掛けた。自分でこんな声出せるなんて、ちょっとビックリ。やだ私、こどもをあやす、お母さんみたい。
「星熊勇儀……。」
パルスィはこちらを睨んでいる。
でも、いつもの気迫が感じられない。目が虚ろだ。疲れているんだろうなぁ。
……でも、なんだこれ、、、この顔の表情、見覚えがある。
「横、座っていいかな?話がしたいんだ、パルスィとさ。」
これって……初めて地底にいた妖怪たちと……同じ表情……。
生気の無い、虚ろな目。。。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私さ、アンタが好きなんだよねぇ。」
開閉一番、大好き宣言行きましたー!もうコレっきゃないよ!当たって砕け……貫く、貫き通す!
「昔、地上で人間と勝負事で明け暮れてた時があってさ。やっぱ鬼ってどの勝負やっても有利になっちゃうんだ。でも、人間っていろんな事考えてくるんだよ。例えば相撲とかでさ、力の差があるから、やる気のある奴は束になってもいいから掛かって来なって言ったら、三人重なっておんぶして圧し掛かろうって奴がいてさ!でも、ろくに動けないもんだから、土俵に上がる前にこけちゃって!あの時は腹を抱えて笑ったよ。そしたら今度は私が笑いすぎて動けなくなって、結局負けちゃったんだ。ハハハ。」
……お、パルスィの表情が緩んだ気がする。いけるか?
「人間ってさ、勝ちたいっていう思いで、想像もつかない手段を考えて私を楽しませてくれたんだ。―――あの大好きだった人間の姿勢と、パルスィの思いがダブったんだ。」
そうなんだろうなぁ。きっと、パルスィを人間に重ね合わせちゃったんだ。だから、ほっとけないんだろうねぇ。もう、大切な友達を失いたくないから。
「毎回毎回、パルスィには驚かされる。私の裏をかこうと頑張ってさ。私はアンタと勝負するのがいつも楽しみだったんだ。そして今日、ついにアンタは私に勝った。」
「…………。」
「萃香が言ったんだよ。勇儀はパルスィに『根負け』しましたって。」
「…………。」
「だから今日の白星は正真正銘アンタのもんさ。胸張ってよ?四天王に黒星付けるなんて、並大抵じゃないんだから。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私はお前がキライだ。」
開閉一番、キライ宣言入りましたー!ちょっとウルってくる。
けっこう勇儀お姉さんってハートがおセンチなんだぞ!見た目とは裏腹に!
「私は人間を捨てた。人間にすぐ裏切り、陥れる。私はそんな人間であることが嫌だった。そんな人間と同等に見られていただなんて、最低の貶し言葉だ。」
…………
「でもお前は、弱い私を構って、ずっと勝負して。こうやって私のところに様子を見に来る。まるで慈悲のように。お前は私の思っている鬼じゃない。まるで心の優しい人間だ。」
……えぇー、私が、優しい人間みたいって……?
「はは、それって最高の褒め言葉だね。」
「……人間は様々だ。お前の様に優しい人間がいれば、私の様な卑屈な人間もいる。私が人であった時は、周りには悪鬼の様な者しかいなかった。」
「でもさ、それってどんな種族にでもいえることだと思うよ。勇儀お姉さんみたいに頼りになる鬼がいれば、パルスィみたいな頑張り屋さんの鬼もいるんだしさ。」
……あ、ちょっと照れてる。
「聞きたいことがある、星熊勇儀」
「何だい?」
「地底のみんなはどうしてる?」
「え、ああ。みんな楽しくやってるよ。毎日萃香の奴が宴会開いててさ。毎日ドンチャン騒ぎ!」
「そうか……。」
「最初来た時は、覇気の無いしみったれた場所に来たもんだなぁって思ったけどなぁ。
ほら、降りてきた私らも住まいが必要だろ。地上でやってた大工の技術で家を拵えたら、先に地底に来てた奴らが群がってきてさ。家の建て方教えてほしいって頼むんだ。理由を聞いてみると、ずーっと、その辺りに藁を敷いて寝てたんだと。家の建て方を教えてやったら、今や『私の方が豪勢な家に住むんだ!』とか言って、みんな張り切って家建ててるんだ!」
「そうかぁ……。」
「でもさ、一日終わったら元の藁を敷いた場所へわざわざ寝に行くんだ。デカイ家作ろうとしてる上に、作り慣れしてないから、まだ骨組みのままでさ、雨風凌げないからどこで寝ても一緒なんだって。先に小さな家を作って、そこを寝床にすればいいのに、滑稽な話だろう!?」
「星熊勇儀。」
「ん?何?」
パルスィは真っ直ぐ、私を見据えている。目を逸らせぬ程、綺麗で優しい翠の瞳で。
「地底に降りたら伝えなさい。地上と地下を繋ぐ橋に取り憑いた地底の悪鬼は、地上の鬼・星熊勇儀が祓った、と。」
「おぉ、ついにこの辛気臭いとこを離れて、みんなと一緒に地底に住む決心が付いたんだね。それじゃあ私と一緒に―――」
「私は、地底を去る事にする。」
「―――え?」
「地底の鬼は私だけだった。鬼は畏怖の象徴。近寄りがたき存在。
けれど、お前達が来てしまった。お前達が、地底の鬼という象徴を変えてしまった。鬼は楽しく、頼れる者だと。
私は橋姫、所詮恨みを帯びた人間の成れの果て。鬼と呼ばれる事があれど、鬼という存在に成り得ない紛い者だ。」
「……パルスィ?」
「私は奪われたくなかった。地底の鬼の名を。恐怖され、畏怖される狂気の嫉妬心。その呼び名こそが、私の大切な誇りだった。」
「……。」
「でもそれは、お前達がここに降りた時から、地底に通した時点で失われつつあった。
解るのよ。地底が幸せに満ちていく事が。もう、地底は、地底の世界だけで完結しつつあるんだと。」
「どういう意味……?」
私は聞き返したけど、答えはもう解ってしまった。なぜパルスィがここに住み着いているのか。そして、なぜここを通る者達を襲うのか。なぜ、私達を地底から追い出そうとしているのか。。。
「私の妖力の源は嫉妬。地底の者達は地上を排他されども、その羨望は地上へと向けられていた。けれど、今その想いはほとんど地上へ向けられなくなった。お前達が、地底での生き方を皆に示したことで。地底での活き方を皆と歩むことで。」
「……。」
「もう、私には、ここにいる意味が無い。私の糧はもうここには無いから。」
「……私達は、アンタの居場所を奪ってしまったんだな…。」
地底だけで幸せと希望で見出せる世界になってしまえば、地上へ向かう嫉妬心は激減してしまう。だから、一刻も早く、私達を追い出す必要があったんだ。
「私が、ここを通る奴を襲うのは、絶望の念と地上への未練を以って地底へ降りてもらいたいから。そうすれば、地上へ還りたい念が強まり、それが嫉妬となり私の糧となる。
……けれど。……いつかは、こういう日が来ることは解っていた。地上の未練を捨て、地底で新たな生き方をするだろうと。そのきっかけを与えたのが、お前達に過ぎない。」
「……ゴメンね。」
私は、謝るしかなかった。私は、私達を地上から追いやった奴らと同じ事をパルスィにしてしまったんだ。知らずに、一方的に、パルスィをこの地底から追い出す努力をしていたんだ。
パルスィはただ、必死に自分の居場所を守ろうとしていただけだったんだ。なのに私は、遊び半分でからかっていただけなんだ。。。
「謝る必要なんて無い。橋姫として生きている以上、どのような道を辿っても、私は強き者に淘汰される運命だって解っていた。」
「……本当に、ゴメンね…。」
私は、パルスィを仲間に入れたかった。友達に、なりたかっただけなんだ。。。勝負して、ずっと勝負して仲良くなりたかっただけなのに。。。
「……だからもう、お前は私の事で気を揉む必要は無い。」
「パルスィ、私は…。」
「さようなら、星熊勇儀。強く気高く―――優しい鬼。」
「!―――パルスィ!!?」
パルスィの身体が碧白く輝き、そして目の前から消えてしまった。
「―――ぅ、うあああああああああ!」
私は雄叫びを上げた。壁が振動し、崩れんばかりの大声を張った。
鬼の慟哭。世間では、こう呼ばれているものなのかもしれない。私は知らんが。
「こんな一方的な別れ話があるかぁぁぁぁ!勇儀お姉さんは許しませぇぇぇん!!」
思い立ったら即行動!私は自分の家へ向かうべく、地底へフリーフォールしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま私!お帰り私ー!」
誰もいない自分の家で挨拶!さびしぃー!
「ん、あぁ、おかえり勇儀~。いつもそんな寂しい入退場してんの?」
萃香がいたー!はずかしぃー!
「萃香、なんで私の家で寝てるの?」
「いや~、私ん家さ、宴会した後で散らかってる訳よ。酔っ払いながら後片付けとか上がったテンション台無しだからね、酔いが醒めるまで綺麗所で転寝でもと…。」
「綺麗所とか嬉しい事言ってくれちゃって……いやいやまぁまぁ構わないけどね!」
一目散に箪笥に向かう。一刻も早く荷物まとめないと。
「ところで、どうしたの勇儀?箪笥から体操着たくさん放り出して。学校でも開く気?」
「体操着ちがうコレ私の服! OK!??」
「OK姉妹。で、どこかに行くの?」
「えぇっと、ゴメン、早くしないと私もうガマンできなくなっちゃって…!」
「エロ台詞ではぐらかすんじゃないよ!さぁ吐け、吐くんだジョォォォ!」
「パルスィが地底から出てくからついて行くことにした!そんじゃ!」
必要最低限の物だけ風呂敷に丸め込み、向かうは地上への道!
待っていろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
「うぇぇ!?ちょ、待て、待つんだジョォォォ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
地上。誰にも等しく日の光が降り注ぐ世界。
パルスィが地表に出ると、丁度日が昇るところだったらしく、山の狭間から覗く御来光は天に真っ直ぐ伸び、空を二分にしていた。
久方ぶりの地表。長い洞窟生活が続いたせいか、若干立ちくらみを覚える。
「………………。」
光により、黒から緑へと本来の色を取り戻す木々。胸を熱くするほどの朝焼けの空。
照らせば、全てのものが有るがままに見せる光。これこそが万物の神秘の源だろう。
けれど、パルスィは怖かった。日の光が。自分が隠している心の弱さが暴かれてしまいそうで―――。
パルスィにも、人生を謳歌していた時があった。優しく暖かい光とともに生きていた。喜びも幸せもこの世界が与えてくれた。だが、裏切りも絶望も同等に与えられ、容赦なくパルスィを傷つけた。
世界を心の底から失望したパルスィがこの世界から決別したのは、橋姫となった丑の刻の闇。だから闇こそが、自分を救ってくれるものだと信じ込んでいた。
事実、終始闇夜であった地底は心地良く、糧となる嫉妬心も集めやすい事から、ここを永住の地にしたいと思っていた。
だから地上の鬼達に奪われたくなかった。勝ち目が無くとも挑まなければならなかった。
―――だが、叶わなかった。弱肉強食という世の常は、どの世界でも共通だ。敗れてしまっては食われるか逃げ出すしかない。
地底から、出て行くしかないのだが―――。
「………………。」
踏み出せない。足が震えている。
覚えているのだ。身体の芯から、心の奥底から、日の照らす世界から受けたトラウマが蘇る。
「……怖いよ…。」
果たして自分はこの世界で居場所を見つけられるのだろうか。
「……怖いよ…。」
身体の回復が追い付かない程、妖力が残っていない今の状態。
途中で退魔師や妖怪に遭えば、瞬く間にやられてしまうだろう。
でも、もう引き返すことも出来ない。道はもう、前にしか残されていないのだから―――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「パルスィィィィ!!良かった追いついたぁ!」
音速の壁を越えんばかりのスピードで飛び続け、なんとか地底の入り口でパルスィを見つけた。
というか、パルスィはなぜか入り口で暫く佇んでいたみたい。
あれだ、暗い洞窟暮らしに慣れすぎたから、日の光が眩しかったんだろう。多分目を馴らしていたんだ。間違いなし!
「ほ、星熊勇儀?どうしてここに……って何、その風呂敷?」
「あぁ、私の着替えが入ってるんだ。」
「……中身を聞いてるわけではないんだけど、どこか行くのか?」
「えぇ?やぁ、どこって言われても?」
「……要領の得ない奴…。」
……なんという呆れ顔。
「悪かったね!どうせ私は不器用な生き方しか出来ないさ!さぁ、パルスィはどこへ行くんだい!」
「……聞いた質問を答えずに聞き返すその図々しさが妬ましい…。」
「そりゃそうさ、私はアンタについて行くんだから、目的地なんて分かるわけないだろ?」
「…………ふぇ?」
パルスィが目を丸くして私を見つめる。
あぁ、そういや、ついて行くって言ってなかったっけ。叫んだりしてたから言った気になってた。
「私はアンタが気になってね。興味がある!だから一緒に行くよ!ね!」
「来るな。」
……バッサリだー!
「私は今までも、これからも一人でいい。お前達、鬼は地底という楽園を手にしたのだろう?それでいいじゃない。もう、あそこには紛い者の鬼に入る余地なんてない。
帰りなさい星熊勇儀。お前を必要としている世界へ。」
「うんにゃ、私はアンタについて行く。アンタのその生き方、その考えに惹かれたんだ。私はアンタが好きになったんだ。だから知りたい、もっと知りたいんだよ。全然解らないまんまお別れなんて私はゴメンさ。そんなアンタが地底を出てくっていうなら私も出てくしかないじゃないか?」
……お、なんか顔が真っ赤になって照れてるぞ。…カワイイ!
「…わ、私はお前がキライだ!その自分本位な考えが!なぜ私の居場所を奪ったお前が、どうして私と来ようとする!嫌がらせか!?」
「そういう事じゃないって、私は―――」
「弱者を虐げる事が強者の生き方か!お前はどこまで私を―――ッ!?」
威きりたち叫ぶパルスィが突然、私に倒れこんできた。
「……フラフラじゃないか。こんな状態じゃ、そこらの野良妖怪にやられちゃうぞ?」
「うるさい!―――私は……独りでいい!」
「強がらない強がらない。震えてるよ、足。」
パルスィの身体を抱きしめる。…傷が治ってないばかりか、妖力もほとんど無い様だ。こんな状態で馴れない土地へ旅しようとしてたのか。
「………………。」
「私は別に自分が強者だなんて思ってないよ。…ま、腕っぷしには自信はあるけどね!
―――でもさ、私のこの力は仲間のみんなが育んでくれたもんなんだ。一緒に飲んで遊んでバカやってケンカして―――。そうやって身に付いた力なんだ。もし私がずっと独りきりで生きてきたらって考えても、アンタほど強くなっちゃいないよ。だから興味がある。知りたいんだよパルスィの事を。どうやって独りだけでそこまで強くなれたのかってね?」
「私は、強くなんかない…。」
「強いさ。そう卑屈にならないで、もっと胸を張って歩いてみな。」
「星熊勇儀……」
「困ったら私に頼ればいい。なぁに、松葉杖くらいの代わりにはなるよ?」
「………………。」
お、パルスィが抱き返してきた。いい感じいい感じ♪
…………
「にしても、オマエさん軽いなぁ。そんな華奢な身体で私と張り合おうとしてたのかい。」
「……着膨れデブだとでも思っていたのか…?」
「や!そ、そういう意味じゃなくってさ!?ほら、筋肉的な意味で!」
「……カチカチマッチョだと思っていたのか…?」
「だから違うって、そういうんじゃなくてええっと・・・。」
ヤベェ、いいとこまでいったのに怒らせちゃった!?良い言葉が浮かんでこない!ええぇぇ、どう言やいいんだ!
不意にドン!っと、パルスィは私の身体を突き飛ばした。何をする!風呂敷を地底の穴へ落としそうになったぞ!
「言ったはず。私は独りでいいって!」
あ、コラ!こいつ空飛んで、私を振り切る体制に入ってる!
「ちょっと、待ちなって!コラぁ!」
「待たない!待ってなんてやらない!」
「それと、名前で呼びなよ!いちいちフルネームで呼ぶんじゃない!」
「呼ばない!呼んでなんてあげないわ、星熊勇儀!」
くそぅ、日を背にして飛ぶとは!眩しくてパルスィが見え辛い!
でも、その時のパルスィは、溢れんばかりの笑顔をしている様に見えたんだ―――。
そう言い放つのは、碧き光を纏う金髪緑眼の少女。
その足元には、私達の仲間が死屍累々状態でぶっ倒れている。
「ぬーぅ。うちの若い鬼達がまるで歯が立たない。だらしない、なう。」
私は呟いた。地上を追い出され、地底に降りようとした道中、あの少女に道を阻まれてからかれこれ3時間、もう100名ほど注ぎ込んでいるのに倒せなんだとは。。。
しかしあの少女、かなりの手練だ。事実、束になって掛かってもあの少女に触れることすら出来ていない。攻め手に回ろうとも、あの碧の光がすぐさま弾幕となり、簡単に壁まで押し込まれてしまう。それに戦い方が上手いのだ。この暗く狭い洞穴をテレポートや眩い光の弾幕を駆使し、あっという間に死角に回りこむ。この場所の戦い方を完全に熟知している。
「勇儀は若くない、なう」
「ちょ、萃香、私まだ若いよ!ピチピチだよ!?」
「ピチピチとか死語でしょ。やーん勇儀さんまじ○○○○♪」
「萃香ェ!言っていいことと悪いことがあるです!勇儀お姉さんマジ許さんです!覚悟するですこのロリータ!」
「ふふふ、みせてやろう、この鬼のエリート、ロリータ様の実力をな…!」
萃香は中腰になり脇を締め、気合を入れるとグングン妖力が膨れ上がっていった。バカなぁ…一体どこにそんなパゥワーが……!
「姉さん達、バカトークしてないで何とかしてくださいよ!」
「ふぁ?」
気が付くと、やられた若鬼が私のスカートにしがみついていた。
「えー、だってアンタ達が『あれくらい自分達で訳ないッス!見ててください!』って言うからぁ・・・。」
「だ、だってあれほど強いだなんて思わなくって・・・。」
情けない、なう。
「もうちょっと頑張ってみなよー、私ら別に、急ぎじゃないし、ねぇ勇儀♪」
「ねぇ萃香♪」
見てる方が楽しいし、どうやってこの状況を打破するのかワクワクするし!やはり戦いは結果じゃない、過程だよね!
「無理ですよ姉さん~。お願いしますよ~。。。」
……まぁ、この様子じゃホントに進めないかもね…。
「しかたない、一丁、若いもんに手本を見せるかね!」
「勇儀は若くない、なう」
「ヤメテ!」
私は腕を廻しながら、少女の元へと向かう。
「―――お前が総大将か?」
「いや、別にそういうわけでもないけど。」
「けれど、お前と、あの2本角は別格だ。」
へー。
「見ただけで判るのかい?」
「余裕がある。お前達2人には。他の者は焦りを感じているのに。」
「読心術でも持ってるのかねぇ?」
屈伸運動をする。正直、赤の他人とのケンカは久方ぶりだ。入念にストレッチしないと筋が違えちゃう。それよりも―――。
「私は、角の無い鬼なんて初めて見たよ。」
鬼というのは牙長かったり耳が尖がってたり爪長かったりトラのパンツ穿いてたりと、様々な奴がいるんだけど、共通してあるのが『角』。人間でも、鬼を表現する時は人差し指を頭に付けるくらいだから、鬼はみんな生えてるものだと思ってたんだけどなぁ。
「私はお前達の様な存在とは違う。永く地底に取り憑く、心を嫉妬で塗りつぶす狂気の鬼。」
「難しい言葉知ってるねぇ。」
軽く深呼吸して、準備運動終わり!
「そこまで饒舌なら、まずは話し合いからかな?私は星熊勇儀。アンタは?」
「……。」
いきなり目の前が、碧い光でいっぱいになる。あそこまで話しといて問答無用!?
「ちょっと!??」
光が収束し、重さのある弾幕が私に向かってくる。
咄嗟に後ろに飛んだ直後、炸裂音が洞窟内に響いた。立っていた場所が見事なクレーターとなる。中々の威力。受けようかとも思ったけど、避けて正解かも。
「全く、会話の一方通行ってキライなんだよねぇ。」
私は身構え、勝利への最短ルートを頭の中でイメージしながら、壁に背を向ける。
「そういう礼儀知らずはお仕置きだよ!!」
そう叫んだ私は、壁を目いっぱい蹴り、高速で少女の懐へ向かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、地底って暗くてジメジメしてて陰気だねぇ!」
地底に来て、先ず私達が行ったのは宴会。イベントの節目節目に宴会挟むのが鬼の常識、これ覚えておくように。
……実のところ、結構みんな気が滅入ってる訳で・・・。私達、人間やら天狗やらに、地上のあちこちから放っぽり出されちゃって。でも私らって結構大所帯で、土地確保するのも大変で、そんな受け入れ先が地底だった訳で、まぁ、めげずにみんな頑張っていきましょうって訳で。。。
まぁ、無理だよね。すぐには開き直れないよね!私もちょっと半泣きでした!まる!
遠まわしであってもさ、『貴方達とは共存できません』って言われて泣かない奴いないだろぉぉぉ!
だから気付けの宴会!明日から地底で頑張っていこうって事で!
「いやー、でも姉さんの戦う姿、感動したッス!私らが束になっても叶わない妖怪をたったの一撃で倒しちゃうなんて!マジ痺れるッス!」
「ハーッ!実力実力ぅ♪」
私が力こぶを作るしぐさをみると、若鬼の何人かが感極まって涙流しとる。頼りない。
まだまだ楽できそうに無いねぇ。裏方暮らしは当分先かなぁ。。。
「勇儀ー勇儀ー。」
「なんだい萃香。先住民様達への酒の振る舞いは終わったのかい?」
これは私達、鬼が開いた宴会だが、今、萃香の能力を使って地底の先駆者達を萃めて招いてもらっている。
宴会というのは交流の場だ。ましてやここは知らぬ土地。出来るだけの情報が欲しいので、なるだけ地底の先輩方にお話伺いたいのだ。……大体、今の身内のメンタル状態は最低なんで愚痴大会になるの、目に見えてるし。ネガティブ思考に目覚めても困るので。。。
初めて地底に降りた時の第一印象は『荒野』だった。建物らしいものは殆どなく、岩肌ばかり。
しかも明かりは、旧地獄時代の名残か、灯篭がポツポツと立っているだけ。遠くがほとんど見えないのだ。
けれど、目を凝らしてみるとかなりの数の妖怪がいた。けれど、その全ては生気が無く目が虚ろ。これでは話を聞くどころでは無い。
まぁ、いくらやる気の無い奴でも、酒飲ませれば何かしら話が聞けるんじゃないかな?
「それはまだ継続中。それよか、あれよ。アレ。」
「あれアレいうな。代名詞じゃ分からん。」
「仕方ないじゃない、名前知らないんだから。あれよアレ。」
萃香の指を指す方向には、あの洞穴で道を阻んでいた少女が立っていた。
遠巻きではあるが、碧い光を纏っているので特定は簡単だった。
「あぁ、アレか・・・。」
「アレが先住民様達に何かやってるみたいなんだよね。アレが出てから震え出しちゃって話にならないんだよ。」
「ふむ。。。」
そういや、小難しい事言ってたな。イフがなんとかかんとか。
……仕方ないなぁ。
「……星熊勇儀。」
凄まじい気迫だ。先刻やり合った時とは段違い。
「……アンタ、地底のヤツらに何かしていたのかい?」
私は、何食わぬ顔で質問をする。物怖じしない私の態度が気に食わないのか、歯をむき出しにしだした。
「……言ったはず。私は地底に取り憑く、心を嫉妬で塗りつぶす狂気の鬼だと。地底の妖怪は私を恐れている。姿など見たくもないのだろう。」
そう言い終わると、少女は封筒を投げつけてきた。
……封筒?
「お前を倒し、お前達の仲間は全てこの地底から叩き出す。地底の鬼という存在は、二つも要らない。」
「あぁ、コレ果たし状?」
「けれど、私とて野暮ではない。あの宴が終わり次第そこに書かれている場所へ来い。そこで―――。」
グシャ!
私は少女が言い終わる前に、もらった封筒を握りつぶした。だって意味無いもん、こんなの。
「お前……!」
「勘違いしなさんな、勝負したいんだろう?」
3度の酒よりケンカの好きな勇儀お姉さんに勝負挑むとは。ましてや一度、完敗した相手に再び挑む気概のある奴を待たせるなんて、それこそ野暮さ。そうだろ?
「いつだっていいさ、呼べば受けて立ってやるよ!!」
「吠え面を掻かす…後悔させてやる!」
「さぁ来な、地上で鬼の四天王と呼ばれ、『怪力乱心』と謳われた私を楽しませてみなよ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「水橋、パルスィ?」
「そう、アレの名前。」
地底の交流を兼ねた宴会も問題なく終わり、萃香が報告に来た。見知らぬ土地で宴会盛り上げれるとか、ホントこいつ人付き合いうまいよなぁと関心せざるを得ない。
私はというと、ようやくパルスィという少女を撃退し、ようやく一息ついた所だ。…全然お酒飲んでない、しゃべってない。
なにコレ寂しい。
「古くから、地上と地底の道の途中に住み着いてて、通る奴にちょっかい掛けるらしいんだ。でも、地底には普段降りてこないらしいよ?」
「へぇ?しかし、変わった名前だねぇ。」
「まぁ、名前の由来は分からんけどね。それより種族なんだけど―――どうも橋姫みたいだね。」
「橋姫?」
なんか聞いたことかある。人間が、恨みで化ける妖怪変化とか。
「あの道は、地上と地底を結ぶ橋みたいなもんだからね、住み着くのも納得かな?」
「ふうん・・・。」
普段降りてこない……か。
けど、わざわざ降りてきた。それにあの気迫。あの台詞。。。
『お前を倒し、お前達の仲間は全てこの地底から叩き出す。地底の鬼という存在は、二つも要らない。』
また、鬼不要論ですか……泣きそう。。。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえず私達は、地上の様に暮らせる生活を目指して動いた。
無論、地上を目指すといっても、日の光が無く、湿気の多い地底は劣悪な環境だ。ハードルは非常に高い。
とにかく、暗いのが問題という事であちこちに提灯つけてみたり。
地上から持ってきた種を撒いてみたり。
住まいが必要だと家を建てたり。
私達は試行錯誤した。どうすれば地底が住み易くなるかを。
ほとんど、失敗を前提に成功を目指す作業を繰り返す毎日。
心が折れそうになる日もあったけど、そんな時は宴会で気を取り戻した。
やがて、だんだんと、地底の住民達は私達に協力するようになってくれた。
やがて集落が点在していただけ地底は、街と呼ばれるものにまでなっていったんだ。
苦楽を共にするっていいことだなぁとつくづく思う。
まぁ、、、パルスィは相も変わらず、ちょっかいかけてきてたけど。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ~~・・・。」
私は朝早く…といっても、終始同じ暗さの地底だから実感わかないが、急いで旧地獄街道の工事現場に向かった。
当面は拡張工事を続け、街道を地霊殿付近までくっつける予定だ。
地底の開発事業をしているわけなので、土地の管轄である地霊殿には工事の報告をしなくちゃいけないんだけど、正直真っ暗で怖い。しかも開発してないから荒野。マジ怖い。
いや、力自慢でも、やっぱ怖いものは怖いのよ?
だから、地霊殿まで道をつくれば行きやすいだろうし、地霊殿の主も、外出しようとか思ってくれるだろうし。
話を聞くと、全然外に出てないらしい地霊殿の主。インドアは不健康だからね!きっかけ作ってあげなくちゃ!
……しかし。
「風邪かなこりゃ…。」
身体がだるい。健康優良児の勇儀お姉さんが病気とか何たる不覚ー。最近、突貫工事してばっかだからし。と言いながら三日前から風邪の症状はあったんだけど。
萃香が「働きすぎだよォ!」とか言っていたなぁ。よし、今日は早めに切り上げて、萃香にご飯作ってもらおうそうしよう。
「……星熊勇儀。」
……出ちゃった。橋姫様出ちゃったよ。。。
今日はちょっちヤバイかも。しかし、勝負はいつでも受けるって言っちゃったしなぁ。。。
「パルスィ。今日は時間が惜しいから、長くは構ってあげられないよ?」
「……。」
相変わらずの気迫。パルスィの身体から光が奔る。
私は抱えていた大工道具を道端に置き、構える。
パルスィの戦い方は決まっている。
弾幕で威嚇し、テレポートで不意打ちを仕掛けてくるのがパターンだ。それがあの子の持ってる戦いの方程式なのだろう。
確かに力の強い相手には、この方法が有効ではあるのだろうけど。
威嚇が雑すぎるのだ。勝負を焦るあまり、注意を引き付けきれずに奇襲を掛けてしまうようだ。
今回は、追尾する光の弾幕で私の動きを縛ろうとするのだが、弾幕の制御に必死で奇襲のタイミングが掴めずにいるようだ。
やがて集中力が途切れたのか、弾幕の動きに粗が生じ始めた。いつもなら、痺れを切らしてテレポートで攻撃を仕掛けてくる。
その前に、私は弾幕の合間を縫い、パルスィに急接近を試みる。
右手に力を込める。私の角の様な、紅い光が収束する。時間は掛けない。ここで一気に畳み掛ける。
「―――!」
突然視界がぐらついた!マズイ、こんな時に風邪がぶり返してきたってのかぃ!?
「!?」
間一髪でパルスィは身を捻り、私の一撃を避ける。やるようになったッ!パルスィーー!
……感心している場合じゃない。一旦地上で体勢を立て直さないと……。
なんとか地上に降りたものの、なんかフラフラしてまともに立ってられない。ヤバイ。
見上げるとパルスィが大玉の弾幕を周囲に纏いながら私目掛けて特攻している!
おそらくチャンスと見たのだろう。良い判断だパルスィ!今の私の状態で正直捌き切れるか!?ええい、なるようになーれ!
腹を据えた直後―――突如、空中で爆発が起きた。
「ッあ゙ぅッッ!??」
パルスィが突然、私の左手側に大きく跳ね飛ばされ、展開していた大玉は霧散した。
―――なにが、起こった?
理解するよりも先に、パルスィは地面に大きく打ち付けられた。
「パルスィ!!」
私は大声で呼びかけた。
肘を突き、起き上がろうとしているが、力が入らないようで藻掻いている。かなりのダメージの様だ……。
「勇儀!!」
「!―――萃香か!?」
遅れて、私の前に萃香が降りてきた。萃香の…仕業か……!!
「どうして手を出した!コレは私とパルスィの勝負だ!!いくら萃香でも許せる事と許せない事が―――」
「体調悪いくせに勝負を受けて、何考えてるの!?」
私の言葉を遮って、萃香が叫んだ。
「勇儀はどういうつもりか知らないけど、あいつは本気で私等を仕留めに来てんだよ!私は、勇儀がやられたら困るのよ!」
「す、萃香…。」
「私だけじゃない!地底の奴らは勇儀を頼りにしてるの!今、勇儀がいなくなっからこの地底は、また最初に逆戻りだよ!?それを分かって勝負を受けてるの!?」
珍しく萃香がいきり立っている…。
「―――嫌な言い方かもしんないけど、私は勇儀がパルスィに負けるなんて思ってない。。。けどね、そんな状態で勝負受けて勝てると思ってるなら、相手に対する侮辱だよ!!」
「私は……。」
言い返せない。。。確かに…パルスィを見下してた。
萃香の言うとおりだった。私は、鬼の四天王が一人、力の勇儀。
常に勝負は正々堂々。驕る事無かれ。鬼としての見本を見せなきゃならないのに、無様な事をしたと、言われて後悔した。シュン。
鬼にとって、勝負事は興の一つだ。共に腕を競い、心を通じ合う為の手段だ。
私はパルスィと多く勝負してきた。だからパルスィの攻め手は分かるし、パルスィもそれを抗う為の手段をいつも練ってきている。
正直、パルスィと勝負をする事が楽しみになっている。最初は決まった攻め手で力押しだけなかったが、今は攻撃の読みあい、避けあうところまできた。数ヶ月の間だが、その勝利への貪欲さと勤勉さは、非力でありながらも抗おうとする人間を彷彿とさせてくれた。好きだった人間を思い出させてくれる。。。
「星熊……勇儀……。」
頭の中でアレコレ考えていたらパルスィは立ち上がり、こちらを睨んでいた…。
……右腕がボロボロだ。地上に落ちる衝撃を庇ったのだろう、黒ずみ、血が滴っている。
「水橋パルスィ。」
萃香がパルスィに歩み寄る。
「鬼の勝負に横槍を入れるのは禁忌。私はその禁忌を犯した。罰を受ける責務がある。」
「伊吹……萃香……。」
「けれど、旧地獄街道が出来上がるまで、私と勇儀は欠ける事は許されない。私等の命は、私等を信じ、地底の未来を開く者たちの神輿なんだ。」
「…………。」
「じきに旧地獄街道は完成する。それが終わったら、私の命を好きにしなよ。」
「萃香!?何を言ってる!??」
「勇儀を倒したら、次は私の番なんでしょ?追い出したい者の順番が繰り上がっただけだよ勇儀。―――工事が終わり次第アンタに会いに行く。その時は、煮るなり焼くなり好きにしなよ?」
「萃香!」
「私だって鬼の四天王の一人だよ!他者の勝負を無効にする事がどれだけ重いかって、分かって攻撃したさ!けどね、今この地底には勇儀が―――」
「黙れェ!!」
パルスィが突如叫んだ。目の前にいた萃香が驚いて飛び跳ねた。
「パ、パルスィ?」
「この勝負は無効だ……。情けなんていらない。必要ない。私は、私の実力でお前達を倒す……。」
「そういうわけにはいかないよ、私等にもプライドってもんが……。」
「私は言った。お前達鬼を、一人残らず地底から追い出すと。
私が、甘えてしまっただけだ。勝負と言い、1対1だと思い込んでしまった……。お前達全てが……敵だという事を……忘れてしまっていたんだ。。。」
そう呟くと、パルスィは地上に繋がる穴を目指し、フラフラと飛んでいってしまった。
「あぁ、ちょ、ちょっと待ちなよパルスィ!!」
慌てて萃香がパルスィの後を追って行く。
私は、錯覚していた。パルスィとずっと勝負していて、もう仲良くって、友達だと思い込んでた。でも、パルスィは本気で私達鬼を憎んでいる。ずっと、ずっと会っているのに分からない。分からない。。。
あ、萃香が殴られてる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「星熊勇儀……。」
三日後、パルスィは再び私の前に現れた。
いつも通りの気迫。だが、見れば、いつと明らかに違っていた。
「パルスィ……。」
右腕を包帯でグルグル巻きにしている。それに、身体のあちこちも痣が残っていた。
明らかに、前回のダメージが残っている。
ちなみに私はあの後、萃香に付きっきりの看病を受けて、元気満タン。萃香はボコボコだったが。
……なんか凄く後ろめたい気分になる……。
「私が言うのもなんだけど、そんな状態で大丈夫か?」
「問題ない……!」
言い放つとパルスィは無数の光を放ち、それを私の方へ向かわせる。
いつもと比べて、輝度が低い。威嚇だ。目くらましには丁度いいだろうけど避けるまでも無い威力―――
「!?」
突如パルスィがテレポートで私の正面へ出てきた!私が避けないと踏んだのか!?
「くっ!」
パルスィが左手に込めた光弾を、なんとか右手で払い、逸らす。
隙だらけになったパルスィを残った左腕に力を込め、仕留めに掛かった。
―――そうすれば、終わりのはずだが、あっけなさ過ぎる。
不気味な感覚だ。相手は何か狙っていると、私の戦闘で培った感が警鐘を鳴らしている。
私はパルスィを平手で目いっぱい突き飛ばす。
その直後、パルスィの身体が白く輝き、大玉の弾幕が展開した!
「分身!?」
私は大きく後退し、大玉を避ける。
ただの分身じゃない、攻撃を仕掛ければ自爆するのか……!?
思わず、私は身体を右に捻り旋回する。上から本物のパルスィが弾幕を撃ち下ろす。
―――妙だ。いつもの戦い方じゃない。
パルスィの取る戦術はいつも堅実、言い換えれば無難な戦い方だ。初めて会った時から今まで、この戦い方を変えたことは無い。
けれど、今の戦い方は、まるで博打だ。分身の機雷をぶつけるのは良いアイデアだと思うけど、間違いなく消費が激しすぎる。それを戦闘開始直後に行うなんて。。。
「ハァッ、ハァッ、―――」
息が荒い。弾幕を撃ちながらでは追いつけないと思ったか、頭を私の方へ向け、突っ込んでくる。……左手で右腕を身体に目いっぱい押し付けて。
右腕を明らかに庇っている。痛みが残っているんだ。
―――どうしてだよ。どうしてそこまで勝ちに拘る?どうして私達が憎い?
私達は地底に来るまでパルスィとは全く面識など無かった。
恨まれる理由が分からない。そこまで勝負に負けることが悔しいの?
―――そういえば人間もそうだった。敗北することを良しとせず、勝つ事を至上とした者は詐欺紛いの卑怯な手段を使う者もいた。
―――天狗も、強欲に溺れた修験僧が妖怪になったものだと聞く。純粋な力で勝てない私達をやっかみ、不満の気質を出していた。
―――橋姫も……パルスィもそうなのだろうか。地底の鬼は自分だと言い張った。鬼の名を自分だけの物にしたかったのか?鬼の呼び名があれば、パルスィは満足なのか?もし、私達が鬼では無いと言えば、パルスィは満足するのかな…?
パルスィは前回と同じく、自分の周囲に大玉を纏わせ、左手からなけなしの妖力で練った弾幕を放つ。
―――ダメだパルスィ。それじゃあ、私に届かない。
必死に歯を食いしばり、私を追う。
―――無理だよ、そんな速さじゃ私に届かない。
辛い。勝負がこんなに辛いものだなんて思っていなかった。
勝負は興。勝った負けたは二の次。過程を楽しめればそれでいいって、ずっと思ってたのに。
こんなの、私の望んでる勝負じゃない。ただの弱い者いじめだ。
もう終わらせよう。私は右手をパルスィにかざし、特大の光弾を放ち―――
ドゥン!!
轟音と共に爆ぜた。
―――私は目を疑った
真正面を捉えていたパルスィが突然上に跳ね上がったのだ。
あんな器用な飛び方が出来るものなの?
あっけに取られた私だったけど、その答えはすぐに分かった。
パルスィが纏っている大玉が、連続して破裂していく。
ドドドドン、と、さながら太鼓の乱れ打ちの様なリズムで爆ぜる大玉。その衝撃をパルスィは自分に障壁を張り、上手く推進力にしているのだ。
私を軸に大きく弧を描き、尚も加速を続ける。精度はともかく、速度だけなら幻想郷最速を謳った鴉天狗に迫る勢いだ。
間違いなく突撃を仕掛けてくる……けれど、あの速さ。避けれるだろうか。。。
そして、残った大玉を全て破裂させ、私の元へ向かってくる。
―――あまりの美しさに目を奪われた。
パルスィが最後の妖力を振り絞り、前面に張ったバリアは碧白い光を放ち、軌跡を描く。
それは、勝ちたいという願いが籠められた、空を駆ける流星だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アンタの勝ちだよ、パルスィ。」
「……。」
パルスィの体当たりは見事に私の身体を捕らえた。
地面に激突し、何百メートルも転がったもんだから身体の節々が痛い。立ったり歩いたりして身体の調子を見ている。動くことに不自由してないみたいだけど、この痛み、絶対明日に響くよ……。
「アンタが勝ったら、私はこの地底から出て行くって約束だったね。」
「……。」
正直、感服した。ここまで予想外の攻撃をしてくるなんて。心が晴れ渡るくらい、スカッとする負けっぷりだ。
パルスィは岩に腰掛けて、私を見上げている。なにか物言いたげな感じ。
「けどさ、もうちょっと待ってくれないかな、萃香も言ってただろ、あの街道、もうすぐできるんだ。だからそれまで待ってくれないか?そしたら、萃香と一緒にここから消えるからさ。」
パルスィが目の敵にしているのは、ぶっちゃけ私と萃香だ。理由は簡単、戦っても敵わないから。そうすれば、パルスィは満足なはずだ。……私は地底を離れるのはちょっと寂しいなぁ。萃香は勝手に犠牲になってもらう。承諾してくれると思うけど。
パルスィが立ち上がり、私の目を睨みながら無言で私に近寄ってくる。怖い。
―――気持ちの良い乾いた音が地底に木霊した。
私の頬を、パルスィは目いっぱい平手で引っ叩いた。超痛い。
「パルスィ、何すんの、すっごい痛いんだけど―――」
私は、言葉を失った。だって、目から大粒の涙を流していたんだ。そして、子供の様な顔で、ボロボロ泣き叫んだ。
「私を、憐れだと思ったのか、星熊勇儀!!」
―――え?
「私の知ってる星熊勇儀は!!あのくらいで倒れる星熊勇儀じゃない!!」
―――なんで、泣いてるの?
「私の知ってる星熊勇儀は!!雄大で強くて、私が敵わない星熊勇儀だ!!」
―――言ってる意味が分からない。助けて萃香。
「私が弱いと情けを掛けたのか!?私が、惨めだと、同情の念をくれたのかぁぁ!!???」
―――そんな事ないよ?私はそんな風にアンタを見てないよ?
「ワ、私は、かつて地底で恐れられた、、オ、鬼なんだ!!ソ、そんな私、を弱いと、思っテ、、、私を、、、ワザと勝たセて……!」
「パルスィ、違うよ!!私は!!」
「あああアあ、アアアアああアァァァァァァァァァァァ!!!!」
パルスィは叫びながら地上に繋がる穴へ走っていった。
「勇儀ー、マズったねぇ~~~。」
「……萃香。」
気がつくと、萃香がパルスィの腰掛けていた岩に座っていた。
私は何時間、ここに佇んでいたんだろう。擦り傷から出た血がカチカチに乾いている。
「萃香。私は間違ってたのかい?」
「勇儀?」
「私達が、ここに来ることは、間違いだったのかい?」
「私に分かると思う?」
「……そうだね、ごめんね。」
何かに責任転嫁しようとしてた。自分が起こした現状を仕方ないことだと、誰かに言って欲しかった。逃げに走ろうとしてたなぁ、私。こんな気持ち、初めてだ…。
「勇儀ぃ、アンタ。ホントにパルスィに負けちゃったんだねぇ。」
「ん?あぁ、パルスィは強いよ?戦ってるの、見てたんだろ?」
「見てたけど、ちょっと違うなぁ、私の言いたい事とは。」
「えぇ?」
私は首を傾げた。萃香めぇ、ちょっと私より知的派だからバカにしおってからにぃ。
「あれだけ痛い目あっても頑張って向かってきてさ、勇儀はもう、『パルスィに負けちゃってもいいかなぁ?』って思ったんでしょ?」
「ちょっと頭に過ぎっただけだよ!?別にワザと負けたつもりはないよ。」
「ンフフー、そういうの、なんていうというか知ってる。」
あ、あぁ。そういう事。。。なるほどね。。。
「私、パルスィに会いたい。」
「会ってどうするのさ?」
「聞くのさ。どうして私達が憎いのかって。」
「そーかそーか。」
「何よその投げやりな返事は。。。」
私はプゥっと、頬を膨らませる。バカにしてんのか!?
「怒んないでよ勇儀。―――パルスィは、私等が最初に出くわした洞穴付近の、小さい横穴に隠れてるよ。」
「横穴って、モグラじゃないんだから。そんなとこで生活できるわけないでしょ。」
「鬼ウソつかないよ!ホントだよ!先日、しこたま殴られて追い返されたんだけどさ、やっぱ気になって。。。霧になって後つけたんだよ。そしたら、穴ん中で包帯巻いてた。」
う~む、まぁ、そんなウソついても仕方ないもんねぇ……行ってみようかな。
「……ねぇ、勇儀?」
「なんだよー。」
「パルスィなんだけどさ、弱くなってない?」
「んなことないよ。見てただろ?強くなってるよ?」
「いやぁ、戦い方は上手くなってるんだろうけどさ。。。最初会った時ってさ、もっとパワーがあった気がするんだけど。なんか力任せな感じでさ。」
「う~ん。無駄弾撃たなくなったからじゃないの?」
「そうなのかなぁ……?まぁ、いいや。いってらっしゃい!」
ドーンと!私の気付けに萃香が背中に平手をくれた。
……あまりの痛さに逆に失神しそうになった。
満身創痍の私にそんなの必要ねぇぇぇ!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっては来たものの、横穴だらけなんですけど、ココ。
あの時は大勢で来たから思わなかったけど、ここは暗くて静かで怖いなぁ。
ここ一人で通っていきなりパルスィに襲われたら確かにビビるわ。昔怯えてた地底の先輩方の気持ちが解った気がするー。
くそぅ、どこだ、どこの穴にいるんだパルスィ~~~。
ここか!ここだろ!ここがええのか!ここに違いない!
―――この作業を50回ほどやってるとなんか心が寒くなってきた。クシュン。
ふと地面を見ると足跡がある。最近の足跡みたいだけど……。
そういや、パルスィ、今日は走って帰ったな…。
空を飛ぶ妖力を節約するためだろうか。足跡は転々と、地表の方へと向かっていって―――地面に近い横穴に続いていた。
「……ここか。」
私はなんとなく、抜き足差し足忍び足で入っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらく進むと、ガサガサと音が聞こえる。
パルスィでありますよーに。―――もし萃香がドッキリで待ち伏せしてたらアックスボンバーの刑な!
視認できるとこまで来ました。パルスィでした。当たりキタわぁ。物音の正体は、どうやら包帯を巻き変えてる音のようだ。
さて早速話を聞かなくっちゃ―――
「……グスッ……ウゥ……」
―――泣いてる、超入りづらい、なう。
ヤバイよーヤバイよー。こんなの絶対話できる状態じゃないじゃん。絶対喚き散らされて大泣きしちゃうよー。無理よ勇儀お姉さんでもあんな泣き方されたら私も泣いちゃうよーそこまでタフじゃないよーぅぅぅぅ。
「急がないと……早くしないと……私……」
……ん、何だ?なんか重要なKeywordを聞いた気がしたぞ。
急ぐ?早く?
時間制限でもあるのか???
けど、パルスィの姿を見ていたら、何も考えられなくなった。
―――泣きながら、右腕に包帯を巻いている。左手と口を使って不器用に撒いて……口から包帯を落としては咥えなおし、すすり泣きながら巻いていく―――
ずっと、独りだったんだろうか。
この暗い洞穴の中、独りで生きていたんだろうか。
とてもじゃないが、私には耐えられない。そういう性格だといえば終わりなんだろうけど。
いやいや、どんな性格しててもこんなとこ一人で暮らしてたら寂しくて死んじゃうだろ!うさぎとかそんなの関係なしで!!
まぁまぁとりあえず、包帯巻くの終わってから声掛けようかな、ハハハ…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「パルスィ。」
できるだけ、低く優しい声で呼び掛けた。自分でこんな声出せるなんて、ちょっとビックリ。やだ私、こどもをあやす、お母さんみたい。
「星熊勇儀……。」
パルスィはこちらを睨んでいる。
でも、いつもの気迫が感じられない。目が虚ろだ。疲れているんだろうなぁ。
……でも、なんだこれ、、、この顔の表情、見覚えがある。
「横、座っていいかな?話がしたいんだ、パルスィとさ。」
これって……初めて地底にいた妖怪たちと……同じ表情……。
生気の無い、虚ろな目。。。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私さ、アンタが好きなんだよねぇ。」
開閉一番、大好き宣言行きましたー!もうコレっきゃないよ!当たって砕け……貫く、貫き通す!
「昔、地上で人間と勝負事で明け暮れてた時があってさ。やっぱ鬼ってどの勝負やっても有利になっちゃうんだ。でも、人間っていろんな事考えてくるんだよ。例えば相撲とかでさ、力の差があるから、やる気のある奴は束になってもいいから掛かって来なって言ったら、三人重なっておんぶして圧し掛かろうって奴がいてさ!でも、ろくに動けないもんだから、土俵に上がる前にこけちゃって!あの時は腹を抱えて笑ったよ。そしたら今度は私が笑いすぎて動けなくなって、結局負けちゃったんだ。ハハハ。」
……お、パルスィの表情が緩んだ気がする。いけるか?
「人間ってさ、勝ちたいっていう思いで、想像もつかない手段を考えて私を楽しませてくれたんだ。―――あの大好きだった人間の姿勢と、パルスィの思いがダブったんだ。」
そうなんだろうなぁ。きっと、パルスィを人間に重ね合わせちゃったんだ。だから、ほっとけないんだろうねぇ。もう、大切な友達を失いたくないから。
「毎回毎回、パルスィには驚かされる。私の裏をかこうと頑張ってさ。私はアンタと勝負するのがいつも楽しみだったんだ。そして今日、ついにアンタは私に勝った。」
「…………。」
「萃香が言ったんだよ。勇儀はパルスィに『根負け』しましたって。」
「…………。」
「だから今日の白星は正真正銘アンタのもんさ。胸張ってよ?四天王に黒星付けるなんて、並大抵じゃないんだから。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私はお前がキライだ。」
開閉一番、キライ宣言入りましたー!ちょっとウルってくる。
けっこう勇儀お姉さんってハートがおセンチなんだぞ!見た目とは裏腹に!
「私は人間を捨てた。人間にすぐ裏切り、陥れる。私はそんな人間であることが嫌だった。そんな人間と同等に見られていただなんて、最低の貶し言葉だ。」
…………
「でもお前は、弱い私を構って、ずっと勝負して。こうやって私のところに様子を見に来る。まるで慈悲のように。お前は私の思っている鬼じゃない。まるで心の優しい人間だ。」
……えぇー、私が、優しい人間みたいって……?
「はは、それって最高の褒め言葉だね。」
「……人間は様々だ。お前の様に優しい人間がいれば、私の様な卑屈な人間もいる。私が人であった時は、周りには悪鬼の様な者しかいなかった。」
「でもさ、それってどんな種族にでもいえることだと思うよ。勇儀お姉さんみたいに頼りになる鬼がいれば、パルスィみたいな頑張り屋さんの鬼もいるんだしさ。」
……あ、ちょっと照れてる。
「聞きたいことがある、星熊勇儀」
「何だい?」
「地底のみんなはどうしてる?」
「え、ああ。みんな楽しくやってるよ。毎日萃香の奴が宴会開いててさ。毎日ドンチャン騒ぎ!」
「そうか……。」
「最初来た時は、覇気の無いしみったれた場所に来たもんだなぁって思ったけどなぁ。
ほら、降りてきた私らも住まいが必要だろ。地上でやってた大工の技術で家を拵えたら、先に地底に来てた奴らが群がってきてさ。家の建て方教えてほしいって頼むんだ。理由を聞いてみると、ずーっと、その辺りに藁を敷いて寝てたんだと。家の建て方を教えてやったら、今や『私の方が豪勢な家に住むんだ!』とか言って、みんな張り切って家建ててるんだ!」
「そうかぁ……。」
「でもさ、一日終わったら元の藁を敷いた場所へわざわざ寝に行くんだ。デカイ家作ろうとしてる上に、作り慣れしてないから、まだ骨組みのままでさ、雨風凌げないからどこで寝ても一緒なんだって。先に小さな家を作って、そこを寝床にすればいいのに、滑稽な話だろう!?」
「星熊勇儀。」
「ん?何?」
パルスィは真っ直ぐ、私を見据えている。目を逸らせぬ程、綺麗で優しい翠の瞳で。
「地底に降りたら伝えなさい。地上と地下を繋ぐ橋に取り憑いた地底の悪鬼は、地上の鬼・星熊勇儀が祓った、と。」
「おぉ、ついにこの辛気臭いとこを離れて、みんなと一緒に地底に住む決心が付いたんだね。それじゃあ私と一緒に―――」
「私は、地底を去る事にする。」
「―――え?」
「地底の鬼は私だけだった。鬼は畏怖の象徴。近寄りがたき存在。
けれど、お前達が来てしまった。お前達が、地底の鬼という象徴を変えてしまった。鬼は楽しく、頼れる者だと。
私は橋姫、所詮恨みを帯びた人間の成れの果て。鬼と呼ばれる事があれど、鬼という存在に成り得ない紛い者だ。」
「……パルスィ?」
「私は奪われたくなかった。地底の鬼の名を。恐怖され、畏怖される狂気の嫉妬心。その呼び名こそが、私の大切な誇りだった。」
「……。」
「でもそれは、お前達がここに降りた時から、地底に通した時点で失われつつあった。
解るのよ。地底が幸せに満ちていく事が。もう、地底は、地底の世界だけで完結しつつあるんだと。」
「どういう意味……?」
私は聞き返したけど、答えはもう解ってしまった。なぜパルスィがここに住み着いているのか。そして、なぜここを通る者達を襲うのか。なぜ、私達を地底から追い出そうとしているのか。。。
「私の妖力の源は嫉妬。地底の者達は地上を排他されども、その羨望は地上へと向けられていた。けれど、今その想いはほとんど地上へ向けられなくなった。お前達が、地底での生き方を皆に示したことで。地底での活き方を皆と歩むことで。」
「……。」
「もう、私には、ここにいる意味が無い。私の糧はもうここには無いから。」
「……私達は、アンタの居場所を奪ってしまったんだな…。」
地底だけで幸せと希望で見出せる世界になってしまえば、地上へ向かう嫉妬心は激減してしまう。だから、一刻も早く、私達を追い出す必要があったんだ。
「私が、ここを通る奴を襲うのは、絶望の念と地上への未練を以って地底へ降りてもらいたいから。そうすれば、地上へ還りたい念が強まり、それが嫉妬となり私の糧となる。
……けれど。……いつかは、こういう日が来ることは解っていた。地上の未練を捨て、地底で新たな生き方をするだろうと。そのきっかけを与えたのが、お前達に過ぎない。」
「……ゴメンね。」
私は、謝るしかなかった。私は、私達を地上から追いやった奴らと同じ事をパルスィにしてしまったんだ。知らずに、一方的に、パルスィをこの地底から追い出す努力をしていたんだ。
パルスィはただ、必死に自分の居場所を守ろうとしていただけだったんだ。なのに私は、遊び半分でからかっていただけなんだ。。。
「謝る必要なんて無い。橋姫として生きている以上、どのような道を辿っても、私は強き者に淘汰される運命だって解っていた。」
「……本当に、ゴメンね…。」
私は、パルスィを仲間に入れたかった。友達に、なりたかっただけなんだ。。。勝負して、ずっと勝負して仲良くなりたかっただけなのに。。。
「……だからもう、お前は私の事で気を揉む必要は無い。」
「パルスィ、私は…。」
「さようなら、星熊勇儀。強く気高く―――優しい鬼。」
「!―――パルスィ!!?」
パルスィの身体が碧白く輝き、そして目の前から消えてしまった。
「―――ぅ、うあああああああああ!」
私は雄叫びを上げた。壁が振動し、崩れんばかりの大声を張った。
鬼の慟哭。世間では、こう呼ばれているものなのかもしれない。私は知らんが。
「こんな一方的な別れ話があるかぁぁぁぁ!勇儀お姉さんは許しませぇぇぇん!!」
思い立ったら即行動!私は自分の家へ向かうべく、地底へフリーフォールしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま私!お帰り私ー!」
誰もいない自分の家で挨拶!さびしぃー!
「ん、あぁ、おかえり勇儀~。いつもそんな寂しい入退場してんの?」
萃香がいたー!はずかしぃー!
「萃香、なんで私の家で寝てるの?」
「いや~、私ん家さ、宴会した後で散らかってる訳よ。酔っ払いながら後片付けとか上がったテンション台無しだからね、酔いが醒めるまで綺麗所で転寝でもと…。」
「綺麗所とか嬉しい事言ってくれちゃって……いやいやまぁまぁ構わないけどね!」
一目散に箪笥に向かう。一刻も早く荷物まとめないと。
「ところで、どうしたの勇儀?箪笥から体操着たくさん放り出して。学校でも開く気?」
「体操着ちがうコレ私の服! OK!??」
「OK姉妹。で、どこかに行くの?」
「えぇっと、ゴメン、早くしないと私もうガマンできなくなっちゃって…!」
「エロ台詞ではぐらかすんじゃないよ!さぁ吐け、吐くんだジョォォォ!」
「パルスィが地底から出てくからついて行くことにした!そんじゃ!」
必要最低限の物だけ風呂敷に丸め込み、向かうは地上への道!
待っていろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
「うぇぇ!?ちょ、待て、待つんだジョォォォ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
地上。誰にも等しく日の光が降り注ぐ世界。
パルスィが地表に出ると、丁度日が昇るところだったらしく、山の狭間から覗く御来光は天に真っ直ぐ伸び、空を二分にしていた。
久方ぶりの地表。長い洞窟生活が続いたせいか、若干立ちくらみを覚える。
「………………。」
光により、黒から緑へと本来の色を取り戻す木々。胸を熱くするほどの朝焼けの空。
照らせば、全てのものが有るがままに見せる光。これこそが万物の神秘の源だろう。
けれど、パルスィは怖かった。日の光が。自分が隠している心の弱さが暴かれてしまいそうで―――。
パルスィにも、人生を謳歌していた時があった。優しく暖かい光とともに生きていた。喜びも幸せもこの世界が与えてくれた。だが、裏切りも絶望も同等に与えられ、容赦なくパルスィを傷つけた。
世界を心の底から失望したパルスィがこの世界から決別したのは、橋姫となった丑の刻の闇。だから闇こそが、自分を救ってくれるものだと信じ込んでいた。
事実、終始闇夜であった地底は心地良く、糧となる嫉妬心も集めやすい事から、ここを永住の地にしたいと思っていた。
だから地上の鬼達に奪われたくなかった。勝ち目が無くとも挑まなければならなかった。
―――だが、叶わなかった。弱肉強食という世の常は、どの世界でも共通だ。敗れてしまっては食われるか逃げ出すしかない。
地底から、出て行くしかないのだが―――。
「………………。」
踏み出せない。足が震えている。
覚えているのだ。身体の芯から、心の奥底から、日の照らす世界から受けたトラウマが蘇る。
「……怖いよ…。」
果たして自分はこの世界で居場所を見つけられるのだろうか。
「……怖いよ…。」
身体の回復が追い付かない程、妖力が残っていない今の状態。
途中で退魔師や妖怪に遭えば、瞬く間にやられてしまうだろう。
でも、もう引き返すことも出来ない。道はもう、前にしか残されていないのだから―――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「パルスィィィィ!!良かった追いついたぁ!」
音速の壁を越えんばかりのスピードで飛び続け、なんとか地底の入り口でパルスィを見つけた。
というか、パルスィはなぜか入り口で暫く佇んでいたみたい。
あれだ、暗い洞窟暮らしに慣れすぎたから、日の光が眩しかったんだろう。多分目を馴らしていたんだ。間違いなし!
「ほ、星熊勇儀?どうしてここに……って何、その風呂敷?」
「あぁ、私の着替えが入ってるんだ。」
「……中身を聞いてるわけではないんだけど、どこか行くのか?」
「えぇ?やぁ、どこって言われても?」
「……要領の得ない奴…。」
……なんという呆れ顔。
「悪かったね!どうせ私は不器用な生き方しか出来ないさ!さぁ、パルスィはどこへ行くんだい!」
「……聞いた質問を答えずに聞き返すその図々しさが妬ましい…。」
「そりゃそうさ、私はアンタについて行くんだから、目的地なんて分かるわけないだろ?」
「…………ふぇ?」
パルスィが目を丸くして私を見つめる。
あぁ、そういや、ついて行くって言ってなかったっけ。叫んだりしてたから言った気になってた。
「私はアンタが気になってね。興味がある!だから一緒に行くよ!ね!」
「来るな。」
……バッサリだー!
「私は今までも、これからも一人でいい。お前達、鬼は地底という楽園を手にしたのだろう?それでいいじゃない。もう、あそこには紛い者の鬼に入る余地なんてない。
帰りなさい星熊勇儀。お前を必要としている世界へ。」
「うんにゃ、私はアンタについて行く。アンタのその生き方、その考えに惹かれたんだ。私はアンタが好きになったんだ。だから知りたい、もっと知りたいんだよ。全然解らないまんまお別れなんて私はゴメンさ。そんなアンタが地底を出てくっていうなら私も出てくしかないじゃないか?」
……お、なんか顔が真っ赤になって照れてるぞ。…カワイイ!
「…わ、私はお前がキライだ!その自分本位な考えが!なぜ私の居場所を奪ったお前が、どうして私と来ようとする!嫌がらせか!?」
「そういう事じゃないって、私は―――」
「弱者を虐げる事が強者の生き方か!お前はどこまで私を―――ッ!?」
威きりたち叫ぶパルスィが突然、私に倒れこんできた。
「……フラフラじゃないか。こんな状態じゃ、そこらの野良妖怪にやられちゃうぞ?」
「うるさい!―――私は……独りでいい!」
「強がらない強がらない。震えてるよ、足。」
パルスィの身体を抱きしめる。…傷が治ってないばかりか、妖力もほとんど無い様だ。こんな状態で馴れない土地へ旅しようとしてたのか。
「………………。」
「私は別に自分が強者だなんて思ってないよ。…ま、腕っぷしには自信はあるけどね!
―――でもさ、私のこの力は仲間のみんなが育んでくれたもんなんだ。一緒に飲んで遊んでバカやってケンカして―――。そうやって身に付いた力なんだ。もし私がずっと独りきりで生きてきたらって考えても、アンタほど強くなっちゃいないよ。だから興味がある。知りたいんだよパルスィの事を。どうやって独りだけでそこまで強くなれたのかってね?」
「私は、強くなんかない…。」
「強いさ。そう卑屈にならないで、もっと胸を張って歩いてみな。」
「星熊勇儀……」
「困ったら私に頼ればいい。なぁに、松葉杖くらいの代わりにはなるよ?」
「………………。」
お、パルスィが抱き返してきた。いい感じいい感じ♪
…………
「にしても、オマエさん軽いなぁ。そんな華奢な身体で私と張り合おうとしてたのかい。」
「……着膨れデブだとでも思っていたのか…?」
「や!そ、そういう意味じゃなくってさ!?ほら、筋肉的な意味で!」
「……カチカチマッチョだと思っていたのか…?」
「だから違うって、そういうんじゃなくてええっと・・・。」
ヤベェ、いいとこまでいったのに怒らせちゃった!?良い言葉が浮かんでこない!ええぇぇ、どう言やいいんだ!
不意にドン!っと、パルスィは私の身体を突き飛ばした。何をする!風呂敷を地底の穴へ落としそうになったぞ!
「言ったはず。私は独りでいいって!」
あ、コラ!こいつ空飛んで、私を振り切る体制に入ってる!
「ちょっと、待ちなって!コラぁ!」
「待たない!待ってなんてやらない!」
「それと、名前で呼びなよ!いちいちフルネームで呼ぶんじゃない!」
「呼ばない!呼んでなんてあげないわ、星熊勇儀!」
くそぅ、日を背にして飛ぶとは!眩しくてパルスィが見え辛い!
でも、その時のパルスィは、溢れんばかりの笑顔をしている様に見えたんだ―――。
勇儀と萃香がギャグなノリすぎるのはどーかとは思う
それと錯覚と言われればそれまでなのですが、文章から作者様が抱くある種の照れを感じるのです。
それがこちらにも伝染してきて所々でモジモジしてしまうというか。
物語自体はストレートでとても好きですよ。
この作品が処女作なのだとすれば拍手ものの出来だと思います。
ともかく初投稿、お疲れ様でした。
>『怪力乱心』と謳われた私を楽しませてみなよ→怪力乱神、ギャグだったらごめんなさい
>ホントこいつ人付き合いうまいよなぁと関心せざるを得ない→感心せざるを
>突然視界がぐらついた!マズイ、こんな時に風邪がぶり返してきたってのかぃ!?
→前の文脈から考えると、ぶり返すというより風邪の症状が本格的にあらわれ始めた印象なんですが
>今、勇儀がいなくなっからこの地底は→いなくなったら?
>最初は決まった攻め手で力押しだけなかったが→力押しだけしかなかったがor力押しだけだったが?
>立ったり歩いたりして身体の調子を見ている。動くことに不自由してないみたいだけど
→これは勇儀の行動ですよね? なら、調子を見てみる。動くことに不自由はないけど、などの方が良いかと
>「私達が、ここに来ることは、間違いだったのかい?」→ここに来たことは、かな?
>萃香めぇ、ちょっと私より知的派だからバカにしおってからにぃ→知性派だからってバカに、かな?
>左手と口を使って不器用に撒いて→不器用に巻いて
>開閉一番、大好き宣言行きましたー→開口一番、キライ宣言の時も同じく
>私は人間を捨てた。人間にすぐ裏切り、陥れる→人間はすぐ裏切り
>地底の者達は地上を排他されども→動詞として用いるなら〝排斥〟の方が自然かも
>威きりたち叫ぶパルスィが突然→いきりたち、あえて漢字にするなら〝熱り立ち〟ですかね
>私を振り切る体制に入ってる→振り切る体勢
勇儀達より先にパルスィが地底に下りていたらどんな感じになるのかなぁ~、という事を想像しながら書いてたら、どんどん殺伐としてしまったぃ……。
1様>話が重くなり過ぎるんじゃないかと思い、合間に軽いノリを入れてしまいました。妥協してしまったのかも…。
3様>1様にも指摘されてしまいました。軽すぎたのか……!
私は勇儀と萃香の団欒な雰囲気の鬼と、パルスィの孤高な雰囲気の鬼とで、いままでいた地底の鬼と新しく下りてきた鬼のイメージの差別化を図りたかったんです。正反対くらいにしないと、パルスィが勇儀達と一緒に地底で暮らしてしまいそうで。(原作はパルスィと地底の鬼は、離れて暮らしてる感じだし)……でも、読み返すと疲れますね、これ。勉強不足でした。
コチドリ様>細やかなご指摘ありがとうございます。誤字の指摘を読むたびに、モニターの前で悶絶してしまいます…。
たぶん勇儀や萃香の思考に、幾分私の照れ隠しが入ってるのかもしれません。真面目なとこでもすぐに、はぐらかしてる感じになってるし。。。
でも勇儀や萃香はフランクな関係にしたかったんです。気兼ねなく接しあい、無意識にお互い支えあってる感じに。それが地上から排斥された鬼たちを引っ張ってきた秘訣みたいなとか……いい言葉が出てきません。スイマセン。
繰り返しになりますが、皆様のご指摘とても勉強になりました。ありがとうございました~。
(パスワード間違えて、誤字直せない。ウワーン;;)
ですが、他の方々も仰っているとおり、ちょっとパルスィの事情の深刻さと比較して勇儀のノリが軽すぎる。こと終盤。
せめてパルスィが消えるあたりはもうちょい勇儀おねーちゃんが真面目であって欲しかった。
勇儀の一人称で語られる話なのに、終盤の勇儀にまったく感情移入できないのは結構辛い。
ここまで書いて気付いたのですが、初投稿の方なのですね。お疲れ様です。
勇儀お姉さん軽すぎましたか・・・。地底に追いやられるという辛い時も、明るく振舞う勇儀お姉さんだったので、最後まであのテンションで貫いていくと思ってしまいました。想像力と演出不足ですスイマセン。
でも、新鮮でかなり好きと言ってもらえただけでも良かったです。感謝!