Coolier - 新生・東方創想話

紅白の巫女を襲う幸せな凶兆

2011/02/10 22:01:22
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人も神も妖怪も天人も、すべての種族が関係無く集まる博麗神社。そこでは寒空の下でも関係なく、いつものように宴会が行われていた。各々がみな好き勝手に飲み、食い、騒ぐ。

そのなかでもいくつかのグループに分かれており、霊夢は特にグループの中をやれ賽銭よこせだの食べ物よこせだののたまいながら渡り歩いていく。そしてたまたま落ち着いた先がレミリア、幽々子、紫、輝夜、翠香、神奈子・諏訪子、さとり、聖と幻想郷の層々たる面子がそろっていた。それぞれの従者たちは別々に飲んでいるものの、紫の従者である藍、そしてその式である橙もまたそばに控えていた。

橙はまだ幼い故か、あまりお酒を飲まない。紫たちの話もあまり分からないので藍の横でずっとみんなの様子を見ていた。彼女が飲んでいるのは紫が藍に作らせた外の世界のお酒、かるあみるく、というものである。苦い味があまり好きでは無い橙にとっても飲むことのできる甘いお酒だ。皆楽しそうに1箇所だけで飲んでいるものがほとんどだが、一人だけ渡り歩いている霊夢。魔理沙もよく同じように多くのものに絡んでいるのだが、今回はアリス、パチュリーの魔女仲間とずっと一緒に飲んでいた。そんな中、橙に霊夢に対してある疑問が浮かんできた。思いついたものの、一人では答えが出そうに無いので、藍の教えどおり、直接霊夢に聞いてみることにしたのである。




――――分からなかったら、人に聞く!



この教えが、霊夢を窮地に追いやることも知らずに――――

















「れいむ、れいむ」

橙が霊夢の元に歩み寄り、すそをつまみながら尋ねる。

「どうしたの?橙?」

普段、橙は藍か紫にくっついていてなかなか話しかけてこない。近づいてきたときに頭を撫でるくらいのものだ。紫の話からすれば、活発なのは知っているが、基本的におとなしい、という印象を持っている霊夢からすれば、少し興味をかきたてられるものがあった。

「れいむは、この中で誰が一番好きなの?」


唐突過ぎるこの質問に、レミリアはワイングラスを落とし、紫の時が止まり、藍は凍りつき、 幽々子・輝夜、さとりは最高の肴を見つけた、といわんばかりの笑みを浮かべ、翠香は酒を噴き出し、聖は「あら、まあ」と微笑ましいばかりの笑顔をたたえていた。さらには離れていたはずのアリスと魔理沙は同時に霊夢の方を向き、椛の尻尾を弄っていた文の手にとてつもない力がこもり、和やかに早苗と談笑していた鈴仙は早苗の突然の黒いオーラに短い悲鳴をあげた。

そんな中、核にも匹敵するかのような質問を投げかけた橙は、自分の質問した周りの反応にも気づかず、ただ、そのくりくりとした大きな眼で霊夢を見上げていた。
















「なっ、な・・・・・・!」

いきなりの橙からのキラーパスに答えられるはずも無い。霊夢は首筋まで真っ赤になりながら橙を見下ろしている。

そんな中、いち早く事態の収拾に努めようとした藍ができる限り穏やかな口調を保ちながら橙に話しかける。しかし彼女の自慢でもある立派な九尾はことごとく丸まっていることに藍自身気づいていない、というより実際はそんな余裕は無い。

「ち、橙。いきなりどうしてそんなことを思いついたんだい?」


問いかけられた黒猫は未だに周りの重たい空気に気づかず、きちんと主のほうを向きかえってさも当然であるかのように返してきた。

「だって、れいむだけずっとひとつの場所にいないでいろんなところにいるんですもん。みんなは好きな人と一緒に楽しんでるじゃないですか、だから気になったんです」

と、いい終わると、再び霊夢のほうに向き直り、さらに顔を近づけ、

「ね、ね、れいむぅ、誰が一番好きなの?」

もう一度飛んできた質問。宴会の場にいる全員が聞き漏らさず確実に聞き取ってしまったので、もうごまかしは聞かない。藍は紫の方を盗み見る。少しうつむいており、表情は前髪で隠れてしまい、ほとんど見えない。しかし、どう考えてもこの状況が良い方向に向かっているとは思えなかった。



「興味ありますね、霊夢さん。それで、一体誰なんです?」

と最初に問いかけてきたのは伝統の幻想ブンヤの射命丸 文である。幻想郷最速は伊達ではない。一瞬のうちにネタ帳とペンを持って霊夢の隣を陣取っていた。後ろの方で椛が涙目になりながらも自身の尻尾をいたわるように撫で付けていた。文は笑顔で聞いているが、どことなくその笑顔には余裕が無く、焦りを隠しきれないのか、必死さがうかがえる。少し遅れてアリス・魔理沙・早苗が近づいてきている。



神奈子・諏訪子は早苗が霊夢のことを気に入っている、いや、はっきり言うと好きなことを知っている。だからこそ、早苗がどす黒いオーラをまといながら近づいてきているのを確認したとき、完全に酔いは醒め、お互い血の気が引いていくのを自覚した。早苗は基本的には素直でいい子なのだが、やるときにはヤる子なのだ。修羅場になるのは避けられない―――もしものことがあった場合、しばらくの間は胃が痛い日々が続くのだろうなあ、と思うと眼に熱いものがこみ上げてくるのだった。

(頑張ろうね、神奈子) (ああ、このくらいの困難、乗り越えてみせるさ)

視線も合わせず、声も出さずに行う2人だけの短い心の会話。それだけで2柱がどれだけのつながり(と苦労)があるのかをうかがい知ることができた。当の早苗は一言も話さないまま、笑顔で霊夢のほうを見続けている。せめて何か喋ってほしい、と2人は願うのだった。




「ふふ、面白いことを聞くじゃないの、八雲の式。私に決まっているが、まあ、本人の話を聞いてみようじゃないの」

自信満々に語るのは夜の王、レミリア・スカーレット。カリスマMAXで語っているのだが、先ほど落としたワイングラスの中身がこぼれて服に大きな染みができていて、カリスマが台無しである。当人はそれに気づかず、無駄にカリスマを浪費しているので、この年末には深刻なカリスマ不足が予想されるだろう。咲夜が幸せな忙しさに見舞われそうだ。




「霊夢、霊夢、私たちは一つ屋根の下に住んでるよね?私といるとお酒に困らないよ?ほら、何でも翠められるし、ね、ね?」

レミリアに反し、言葉に必死さがこもっているのが翠香。霊夢の気紛れというか、何ものにも縛られない奔放さを身近で何度も目にしている。近くにいることもあるし、霧となって霊夢を観察していることも多い。但し、お風呂に入っているときだけは観察ができない。霊夢の勘が、翠香の気配を読み取り針だのお札だのをどこから取り出したのか、翠香の本体に目掛けて的確に投げてくる。いつもぼにゃりとしている霊夢の本心を読み取れないだけあって、少しでもプラスになることをアピールして、自らの勝利を勝ち取ろうとしていた。




「あら、皆、私との付き合いが一番長いのよ?私が一番霊夢のことを知っているわ。それは霊夢も同じ。そうでしょ、霊夢?」

落ち着き払っていうのは都会派魔女、アリス・マーガトロイド。なんといったって旧作からの付き合いなのだ。昔の話をすると魔理沙の口数が極端に少なくなるが、そのあたりを察して話をすることはあまり無い。アリスはよく霊夢に新作のクッキーやケーキなどのお菓子を持って霊夢の元にやってくる。美味しい、と笑顔でいってくれるのが好きで足を運んでいるのだ。その笑顔が嬉しくて、お菓子作りにおいてはもはや誰もが達することのできない領域にまで達している。

大事なことなので言っておこう、レイアリは原点なのである。




「おいおい、皆何勘違いしてんだ。霊夢はいつも私といるだろうがぁ。そんな霊夢が私のこと好きじゃないわけがないんだぜ?」


普段なら言わないようなことを言ってのける魔理沙。既にかなり顔が赤く、アリスと違い相当酔っ払っていることが分かる。ちなみに正確には霊夢が魔理沙と一緒にいるわけではなく、魔理沙が霊夢の元に足繁く通っているのだが。魔理沙も霊夢と長い付き合いで、昔の話をすると極端に口数g(ry なのだが実際のところ、彼女はほとんど毎日といってもいいほど博麗神社に顔を出し、霊夢とお茶を飲んでいる。周りから見ても霊夢のことを気にかけているのは誰の眼にも明らかだった。






周りが勝手な発言を続けて騒然としている間にも、霊夢の混乱が続いていた。紫がまだ何も言葉を発していないが、じきに修羅場へと導く発言をするのは避けられそうに無い。相変わらず顔から火が出そうなほど顔を赤くしている霊夢に、今回の元凶、凶兆の黒猫が追い討ちをかける。

「ねえねえ、れいむぅ、どうしたの?誰がいちばん好きなの?」

3度目の問いかけ。普段は相性が悪いと避けている幽々子と輝夜がこちらを見ながら扇で顔を隠しながらぼそぼそ話している。にやにやと顔に張り付いている笑みは扇だけでは隠せないようだった。もしかしたら隠す気などないのかもしれない。さとりはもちろんというように第三の目を駆使して霊夢の混乱っぷり、周りの感情の渦を心から楽しんでいるようだ。やはり霊夢を見ながら、心を読まずとも楽しんでいる、という様子が見て取れる。霊夢はこの騒動が収束し次第、この3人をぶちのめすことを心に誓ったのだった。

八つ当たりへの心積もりを決めて少し落ち着いたところでどうにかこの窮地を脱出しようと頭を回転させようとしたときにきれいに透き通る声が聞こえてきた。

――空気を読むことで有名な竜宮の遣い、永江衣玖である。

「さあさあ、皆さん、こう騒いでいては霊夢さんの本当の気持ちが聞けないでしょう。ここはひとつ、やはり霊夢さんの気持ちを聞くべきではないでしょうか?」


―――――ええ、やはりあの時は霊夢さんは平静を取り戻しかけていました。ここで皆さんが求めていたのは顔を真っ赤にさせながらあうあうと慌てふためく霊夢さんでしょう。そして誰も聞けなかった彼女の心を聞けるまたとない機会です。あの場では空気を読めることに定評のあるわたくしこと永江衣玖が質問をするのがベストだと確信しました。―――――

後に天狗のインタビューに答えることになる彼女の表情はとても晴れやかだったという。まるで、積年の願いがかなったかのような、本当の自分の存在価値を証明できたかのようなまぶしい笑顔だったと語り継がれるのである。当然霊夢のぶちのめしリストに登録されたのは言うまでも無い。



―――――――

霊夢は再び完全に混乱の最中にいた。衣玖の言葉により当たりは静まり返り、全員がこちらを見ている。次々と発言を行ったものは全員凝視している。怖い。
ちなみにその他大半は突然舞い降りた面白い酒の肴を存分に楽しみ、にやにやと見ている。混迷極まる中、穏やかな笑みを湛えていた聖白蓮が霊夢を促す。



「霊夢さん、なにも恥ずかしがることはありません。人と人、では無く妖怪と人が結ばれることも祝福されるべきです。勿論神でも幽霊でも。種族の違いというものは確かに大きいものでしょう。しかし、貴女とそのパートナーならば、必ずや成し遂げるはずです。愛というものはとてつもない大きな力を生み出すのですから。何があっても私たち命連寺の者たちは貴女を応援しますよ。」


応援かと思えばとどめでした。もはや霊夢には逃げ道は無いことを再確認する。ここで特定の誰かを言ってしまえば、霊夢とその相手、それ以外の者との大戦争、あやふやにした場合、勝手に霊夢を取り合う大戦争へと発展するだろう。異変の原因は私がヘタレだったせい。洒落にならない。ステージの全てが幻想郷の実力者というPhも裸足で逃げ出すレベルである。永夜抄・地霊伝の時みたいにだれか手伝ってくれるかなあ、さっき聖が協力してくれるって言ってたし彼女たちに協力を要請してみよう。聖白蓮・寅丸星・雲居一輪の3名は協力してくれそう。常識人サイドだし。オプションとしてはどんな感じになるだろうか――

最終手段、現実逃避を行っているうちにとても近くから熱い視線を感じていることに気づく。正確には彼女の真下から。そもそもの発端、八雲の式の式、橙である。彼女はずっとこちらを見上げたまま動かないが、2人の距離は最初よりも縮まり、ほとんど橙が霊夢にしがみつくような体勢になっている。その表情からは、素直な性格である彼女らしく、心を読めずともどんなことを考えているのか、混乱している霊夢にも手に取るように分かった。何しろ、眼を輝かせながら、期待するようにこちらを見ているのだから。




――(わたし?わたし?)





実は橙も霊夢のことが好きだった。以前の異変のときはこてんぱんに打ちのめされたものの、異変が絡まないときの霊夢は優しい、ということに気づいたからだ。きっかけは彼女の主たち、紫と藍が霊夢の元へ遊びに行った時に一緒に連れてこられた。そのときは異変のことを少し引きずっており、怖い、という印象が強かった。ふとした時に紫と藍が2人で話し込んでいると、霊夢と橙が残されていた。藍からは失礼の無いように、と言われているので逃げ出したり、威嚇したりすることはできない。したとしてもまたこてんぱんにされるだけなのだが。

(どうしよう、どうしよう)

霊夢と視線が合う。橙は何をしたらよいかも分からず、ただただ霊夢を見上げていた。いつもは元気良く反り返っている自慢の2尾も力なく垂れ下がっている。
霊夢がふと手をかざす。橙はとっさに身をすくませ、目をつぶってしまう。しかし、何も起こらない。

おそるおそる橙が目をあけて見上げてみると霊夢は苦笑いを浮かべながら橙の頭のちょうど上で手を止めていた。不思議に思ってじっと霊夢をみつめているとそのまま手を橙の上に置き、撫で始めたのである。


すこしぎこちない撫で方。しかし、とても優しい撫で方。紫と藍がこちらに戻ってくるまでずっと霊夢は橙を撫で続けていた。


橙は藍や紫にも頑張った時、また何も無い時でもよくよく頭を撫でてもらえる。2人とも優しく撫でてくれるし、撫でられるのは嬉しかった。霊夢のはちょっと違う。ぎこちなく、優しい撫で方だけど、とてもあったかくて気持ちいい。彼女の主たちが戻ってきたとき、撫でるのをやめたが、とてももったいなく感じた。もっと長い間撫でてもらいたかったなあ、と思ったと同時に、また撫でてもらいたいなあ、とぼんやり考えていた。

それからというもの、紫や藍が霊夢の元へ行くとき、決まって橙は一緒についていった。その度に霊夢に頭を撫でてもらっていた。あまり頻繁じゃないし、これまででもあまり回数は多く無いのだが。霊夢も回数を重ねるうちにぎこちなさも抜け、笑顔で撫でてくれるようになった。もっと撫でてもらいたい。話もしたいし、遊んでほしい。一緒に昼寝をしたり、ご飯を食べたい。そんなうちに、霊夢のことが好きになっていた。


――――――
そんな橙の眼差しを見ている内に、霊夢に突然名案が浮かんできた。

(そうよ、橙が聞いてるのは「友達」として誰が一番好きか、ということ!!その他のバカ共は「恋愛の対象」としての好き、という解釈をしている!ここで私もこの化け猫と同じ考えかたと同じだと分かるように言ってしまえば、この修羅場を乗り切ることができる!ここは健全な場所、、全年齢対象、下手なことを言って魔理沙からキノコが生えるわけじゃないし、アリスがキノコが生える魔法を開発するわけじゃないし、早苗が奇跡で触○を操ったりする訳じゃない!ヘタレだといわれようが構わない!橙には悪いけど、この場を生き延びるため、未来に起こりうる異変を未然に防ぐため、この考えを貫かせてもらうわ!!)


永遠とも感じられる長い沈黙の後、ようやく霊夢は口を開いた。

「わ、わたしが好きなのは―――」

「「「「「「「好きなのは?」」」」」」」

「あ、あ、あなたよ、橙」

「「「「「「「っえええええええぇぇぇ~~~~????!!!!」」」」」」

自信をもって霊夢の言葉を待っていた面々は驚いて絶叫する。当の橙はくりくりとした目をしながら同じく驚愕の目で霊夢を見ていた。

「れいむは、わたしが、好きなの?」

期待のこもった、熱っぽい表情で見上げてくる橙。後ろめたさに駆られたが、一度言ってしまった以上、やはり貫きとおすしかない。

「え、ええ。そうよ橙。私は橙が好き」


霊夢がそういうと、橙の表情が見る見るうちに変わっていった。


「れいむーーーーーーーーーー!!」

「うわっ、ちょっと、橙!?ふぐっ」

ぱああああ、と太陽のような笑顔をみせた瞬間、霊夢は一瞬身を引きかけたが橙はそのままおもいっきり霊夢に抱きつき、そのまま胸元で顔を擦り付ける。少女らしからぬうめき声をあげてしまう。この宴会の場にいるだれもが霊夢の胸元に飛び込んだことは無く(飛び込んでもしばかれるだけなのだが)、いとも簡単に誰もが到達したことの無い、いわば聖域に到達した橙に皆が驚愕し、何も言えず固まっていた。そんな中、唯一にやあ、と唇の両端を上げて笑顔を浮かべたのは神隠しの主犯、八雲紫である。



「あらあら、霊夢は私のところの橙が好きなのねえ、なら私たちももっと貴女と仲良くしたほうがいいのかしら。今度うちにいらっしゃい?食事からお風呂、寝るまでうんとサービスしてあげますわ。ふふ、今から楽しみねぇ。」


そう、紫は橙の最初の発言の直後、周りの反応、霊夢の対応についてこれまでに無い速さで頭を回転させていた。妖怪の賢者の名において、この場で失敗することは許されなかった。

(恐らくレミリアや魔理沙が我先にと霊夢にアプローチを仕掛けるはず。ここで私も一緒にアピールしてしまったらその他大勢にまぎれてしまう。一旦ここは話には参加せず、静かに様子を見守っていたほうがよさそうね。更に次々と飛んでくるアプローチに霊夢は混乱する。そして、霊夢が平静を取り戻すまでに誰かが発破をかける。追い込まれた霊夢は特定の誰かを指名するかもしれない、でも明らかに霊夢に好意を抱いている、と判断されるものを指名するのは修羅場を招くという厄介なリスクを負うことになる、これは霊夢も混乱しながらでも理解する。よって、ここは波風が立ちにくいように、争いが起き難い者を指名することになる。つまり、実はこの場で一番の有力候補は質問を投げかけた橙になる。きっと霊夢は皆が連想する「恋人」としてではなく、橙のような幼い子のいう、いわば「友達」という解釈をするはずよ。あの子は周りからも認めざるをえないくらいに素直だからその場しのぎの言葉であったとしても信じてしまうでしょう。そこが危うくもあり、可愛いところでもあるのだけれど。もしも橙に危害を加えたらこの場では霊夢を敵に回すことになるし、同時に私と藍までも敵に回すことになる。そのことを考慮して上手く霊夢はやり過ごそうとするはず。そこからが勝負…!あの子をとっかかりにして今以上に霊夢の関係を発展させて最後には・・・・ふふふふ。)


この間約0.1秒。妖怪の賢者は人間にはとても想像できないほどの頭の良さをみせるのだ。ただし、賢者という単語には複数の意味合いが含まれているようだが。しかし、さすがの紫にも予測できなかったことが起きる事になる。

紫の発言に対し、更なる驚愕の表情を見せるもの、やられた、という感情を抱くもの、中には幻想郷指折りの実力者に対し果敢にも勝負を挑もうとしているものさえ出てくる中、



「れいむぅ~~~」


八雲紫でさえ予測だにしていなかったこと、それはこの黒猫は愛するものに対しては、幼いながらも、いや、幼いゆえにかその愛情表現がストレートすぎる、ということだった。その上、ここは宴会の場。橙でさえも酒を飲んでいた。格別酒に強いわけでも無いが、長いことちびちびと飲んでいる。行動が些か突飛なものになってもおかしくは無い、と言える程度に、彼女は酔っているのだった。










火照ったような熱っぽい表情。

柔らかそうな頬は真っ赤である。

マタタビを嗅いでいるときのようなとろんとした瞳。

だらしなくふにゃふにゃになった2本の尻尾。

いつもはピンと張っている耳でさえへにゃへにゃと垂れ下がっているように見える。

しがみついているその身体はコタツの中に入っていたかのようにいつもよりも体温が高い。














そんな橙が起こした次の行動は、














「「「「「「「「!!!!!!!!????????」」」」」」」」












霊夢の唇を奪ったのだった。






















「~~~~~~~~!!!!!?」

霊夢の混乱が頂点に達し、声にならない叫び声をあげる。そんな中、橙は霊夢に対し満足したかのような表情を浮かべた後、再び霊夢の胸の中にうずくまり、そのまましずかに眠りに落ちてしまった。














―――――――――――

あれだけ賑やかだった宴会の空気は静まり返り、周りのものは、紫までもが今度は本当に時間が止まってしまったかのように固まっている。今目の前で起きた現象に頭がついていかないのだ。ただし、幽々子と輝夜はもはや隠すこともままならないのか、涙目を浮かべながらも必死に笑いを堪えるようにしてこちらを見ている。橙の次の行動を唯一読めていたさとりもまた、涙目になりながら手で口をおさえ、その手で覆いきれない口の端をヒクヒクさせながら、体を痙攣させるようにして大笑いしそうになるのを堪えている。






それゆえか、次に霊夢が起こした行動に誰もが完全に対処できなかったのもしょうがなかったのかもしれない。





胸の中で幸せそうに静かに寝息を立てている橙を起こさないようにするためか、その場で小さく「何か」をつぶやき始める。それが続いていくにつれ、霊夢の周りに霊力が収束していく。いち早く何が起こるか察した文でさえ、そのときには逃げることが不可能になっていた。




















―――今、この場にいるもの、全員をぶちのめす―――

















霊夢が選択した行動はいたってシンプルなものだった。
















そう、八つ当たりである。











文はまず自らの命が最優先、とばかりに自慢の黒い羽を広げ、今までよりももっと速く、何よりも速くここから逃げようとした。しかし、それは虚しい徒労に終わる。霊夢を中心として、誰一人逃げられないように結界が構築されていたのだ。もろに顔面から結界に突撃した文は墜落し、苦悶にのた打ち回っていた。





これまでの間に起こったことに理解が追いつかず、ただ事の経過を見ていた魔理沙は、これから起こることを、誰よりも身近に接していたものとして、ぼんやりと一つだけ理解する。


――ああ、これは助からないな。




ついに霊夢の力(と羞恥心)が極限にまで達したとき、ようやく霊夢が口を開いたのである。








「あんた達、――――」
























「そんな目で、こっち見んなあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」



彼女の出したるスペルカードは、「夢想天生」。
一撃必殺にも等しい圧倒的な力で魔理沙たちを包み込む。























全員が被弾する直前、どこかで世紀末的な音楽が聞こえてきたという。





































宴会の後の博麗神社。



そこにはぼろぼろになった境内と、さらにぼろぼろになり尽く気を失っている幻想郷の実力者が横たわる中、真っ赤になりながら肩で息を切らしている紅白の巫女と、この騒動を引き起こした凶兆の黒猫が世界一幸せそうな顔で巫女の胸の中で夢を見ているのだった。
藍「もう下手に橙にお酒なんか飲ませないよ」



はじめまして。今回ss初投稿になるyanです。

ssを書くのも初めて、というなかで、いろいろ拙い部分もあるでしょうが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

橙と霊夢の絡みがみたい、と思いつつもマイナーカプなのか、あまり無いので自分で作ってみました。
ちぇんれいむ流行れ。


他にも書きたい話はありますが一番書きたいものを最初に持ってきました。
もしも機会があれば書いていきたいなあ、と思います。


ちなみに、今新しく書いているものは、藍と紫のバレンタインネタです。
只今2月10日。間に合う気がしない。

さりげなく他ネタに変更するかもしれませんが、これからもよろしくお願いします~





こっそりとツイッターやってます。

http://twitter.com/ yan003
yan
http://
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コメント



0.1990簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
こういうの好きですわ
4.90奇声を発する程度の能力削除
>翠香
萃香
>翠められるし
萃められる?
>レイアリは原点なのである
大いに同意できます
この組み合わせも良かったです
10.90ワレモノ中尉削除
橙霊夢というよりも、愛さ霊夢といった感じでしょうか。勿論大好物ですとも。
しかし、この橙は罪作りな子だなあ…(笑)
皆に迫られる霊夢の反応が面白かったです。
11.90名前が無い程度の能力削除
良いのだが、途中の萃香の誤字で…徐々に萎えてくる。
まあ、それを差し引いても面白かったですわ
13.70名前が無い程度の能力削除
この作品は、作者さんのちぇん分でできていますね。
そんな罪作りな橙は、猫虐待テンプレートの刑に処されるのがお似合いだ!
もちろん虐待主は霊夢で。

演出の都合とは言え、大規模改行に頼りすぎている……と言うか単純に読み辛かったので、こんな点数で。
15.100名前が無い程度の能力削除
・・・アリだな!
17.80コチドリ削除
無垢な幼子ってやつは時として核レベルの爆弾発言を投下して場を凍りつかせますよね。

「アタチもよるにパパとママがしてたみたいなわんわんごっこすゆの!」──みたいな。

つまり、橙さん良くやった! 感動した! と、言いたかった訳です。

それにしても作家さんの初投稿、しかも処女作の発表に立ち会える幸運。
毎回思うことなのですが、嬉しく且つ光栄であります。そして創想話作家への仲間入り、おめでとうございます。

作品の出来についてはやっぱり文章的な粗が目に付くかな。
『てにをは』の選択ミスや、三人称の地の文としては不自然な言い回し、
同じ言葉又はほぼ同義な表現の繰り返しなんかも目立ちますね。
特に、〝すこしぎこちない撫で方~霊夢のことが好きになっていた〟の文章中で使用された
〝撫でる〟に類する言葉は実に十三個。どんだけ撫でくりまわされたいんだYo! 橙さん!

ま、こういう粗は文章をたくさん書いたり読んだりする過程で自然と解消されていくレベルのものだと思いますし、
私が感じたとてもチャーミングな作品という印象は、最後まで損なわれることはありませんでした。
だらだらとした感想でごめんなさいね。次の作品も期待しています。
19.80名前が無い程度の能力削除
誤字が多いのと行間が多すぎるのがマイナスでした

内容はとても良いもので。
20.90名前が無い程度の能力削除
なんというあいされいむ。

しかして幼子の純真さは妖怪の賢者の計算をも上回るか。
紫も魔理沙もアリスも文もレミリアも早苗さんも萃香も負けるながんばれ!w
個人的にはここに幽香さんがいれば完璧でした
22.100名前が無い程度の能力削除
お話はとても素晴らしいのですが、改行があまりにも多く少々読みづらく感じました。
23.100名前が無い程度の能力削除
ちゅっちゅ
28.70名前が無い程度の能力削除
改行が少し多過ぎて、携帯なんかで見てるとちょっと
読みにくかったかも。
個人的に改行で効果をつけようとするテクニック?が
あまり好きではないのでこの点数で。
32.無評価yan削除
初めての作品、読んでいただいてありがとうございます!!
まさか1000点超えるとは…職場で確認してハイテンションになりました。
愛さ霊夢タグを入れ忘れてましたね、追加しよう。
以下、コメント返信です~長くなりそうなのでちょっと省略気味で。

>>5様、12様、21様、コチドリ様
誤字報告ありがとうございます…やっぱりやっちゃいましたね。
送信する前に神奈子様が加奈子様になっていたのはばれてはいけない…
萃香については完璧にミスでした。ごめんなさい、ですね。


>>14様、24様、30様、再び21様、
ネタの為とはいえ改行を使いすぎた。確かにそうですね。携帯で見る方のことを考えてませんでした。
次回作のための大きな反省点になります…

他にも、叱咤激励のコメント、ありがとうございます。
1つ1つ感謝しながら読ませてもらってます。
34.100名前が無い程度の能力削除
テーレッテー
愛さ霊夢はやっぱり素晴らしい。ちぇんれいむ…新たな属性に目覚めそうです。
すでに言われた方がいますが誤字や改行、表現力などは文章を書いていけば自然と良くなります。これからもがんばってください。
38.80名前が無い程度の能力削除
珍しい組み合わせですが、面白かったです。
それぞれのキャラもちゃんと描かれていて良かった。
40.100名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まりませんでした
52.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
53.100名前が無い程度の能力削除
昔なら一万超えてたかもね!