01.
冬が、終わってくれない。
はぁ、と悴んだ自らの両手に吐いた息は白く、虚空にかき消されていった。
箒で掃いた境内は季節も伴って酷く閑散としていて、なぜだか胸がチクリと痛む。
(きっと、冬の所為よ)
鳥居に風がぶつかり、やるせない寒さが私に吹きつける。
振り返り、縁側を見る。そこには誰も居ないと分かっているのに、見てしまう。
(だって、冬の所為よ)
春も夏も秋も、いつだって私の傍にいてくれるあいつは、何故だか冬だけは私の傍からいなくなってしまう。だから、この季節だけは縁側は空っぽだ。
人間だって妖怪だって、様々な奴がこの神社に来るけれど、それでも、あの縁側と私のお茶の相手はあいつじゃなければ駄目なような気がした。だから、今はあそこは空いたまま。いつか来るはずの春まで空っぽのままにしておこう、だなんて勝手に決めてみたりもして。
気難しいとか何だとか色んな事を言われるけれど、私だって女の子だ。恋だってするんだ。なのに冬の間だけ会えないなんて、私の気持ちをどうしてくれるんだろうか。幻想郷の大賢者のはずなのに、変なところで気も思考も使えないんだから、困った奴だ。
でも、と思う。空っぽなだけならまだ良い。きっとこれは空っぽとは少しだけ違う気がするんだ。どちらかと言うと、さらさらと両手から砂が流れ落ちる様な。何だか、そんな感じ。
春に久々に会えて抱き締めても、
夏の日差し以上に抱き締めても、
秋は恋しくなって抱き締めても、
いくら一緒にいたいと思っても。
結局あいつは冬に私の前から消えてしまう。
だから、もしかしてあいつは私の事が嫌いなのかなぁ、だなんて。
地霊殿にすむ主じゃあるまいし、ましてや相手はあの隙間妖怪なんだから、そんな考えは無駄だって分かってるけれど。
それでもだって、そう思わずにはいられないじゃないか。
寝てても頭はあいつの事だけ。
覚めても心はあいつの事だけ。
ぽっかりと、誰もいない縁側が寂しく私に語りかけてきている気がして、そっと、縁側に指を滑らせる。ひんやりと冷たい感触だけが伝わって、それはつまり本当にここにあいつが居ないんだなぁって嫌でも思ってしまって、辛くなって指を話す。
握り締めていた箒をそこらへんに放り投げて、きっと空を睨み付ける。数ヶ月前の様に紅い霧が空をおおっている、なんて事はないけれど、その代わり、凍て付く空気がまるで私を責める刃の様に肌を刺す。
(寒いなぁ。こんな時こそ、会いたいのに)
声に出したって、今のあいつには届かないから。
だからせめて、この異変を解決しにゆこう。この終わらない冬を、融かしにゆこう。
きっとあいつはそこに居る。私の気持ちなんて分かってくれやしない奴だけれど、それでも本当に何もせずに眠っているような奴じゃないことだけは、知っているから。
会ったらひとしきり文句を言ってやろう。ついでに、私の想いを言ってやろう。
きっとあいつは困った顔をするだろうけれど、きっとそれだけだ。寂しい想いをさせるあいつが悪い。少しだけ我侭になってやる。
だから、数ヶ月前と同じ様に。けれど今度は誰にも見送られる事もなく。
私は博麗神社を飛び出した。この忌まわしい冬を終わらせるために。
そして八雲紫に想いを伝えるために。
「待ってなさいよ紫。冬眠する前に、そのおっぱいを溶けるまで揉んでやるからぁぁぁ!」
空は白く、いつ雪が降ってもおかしくない。どうせなら降って欲しい、とも思った。
だって、雪の降る中抱きあって。別れの際にあいつのおっぱいを揉みし抱く光景はきっと、この幻想郷に相応しいほど奇跡的で儚い情景なんだろうから。
02.
苛々が頂点を突き抜けて、月まで届きそうだった。
冬が終わらないって事は、この寒さからも逃げられないって事でもあるし、逆に紫が逃げて帰ってきてくれない。腋も手も懐も寒さで震えてしまう。
にも関わらず冬は私をおちょくるかのように本来の春まで出てきやがって自己主張してやがる。くたばれ粉雪、帰って来い花弁。
今や二日にいっぺんはボディランゲージを重ねる我が親友・レミリアと出会う切っ掛けになった紅霧異変。あの時は気がつけば異変は終わっていて、あまり異変を解決したと言う実感は沸かなかった。
でも紫は経過を知らなかったらしく、それはもう頬擦りしたくなるほど可愛らしい笑顔でもって祝福してくれた。おかげであの晩は良い所までいけたから、今度異変を解決すればきっと念願のおっぱいタッチも許されるんじゃなかろうか。いや、しかし本当に良い所まではいったんだけどなぁ。一緒にお酒を飲んで、膝枕までして貰ったところまでは完璧だった筈。ちょっとお風呂への誘いが早かったか。くそ、次こそは。この異変を解決した暁には、今度こそ一線を越えてやる!
「くろまく~」
「お前かぁぁぁ!」
突然目の前に現れた白い女を蹴り飛ばす。私は悪くない、ゆく道に飛び出してきたこいつが悪いんだ。
「へぶっ」
空中で蹴りを喰らったあわれ異変の主は地面へと撃墜していたものの、幸い降り積もった雪がそのダメージを緩和してくれていたらしい。それで良い、ここで死なれても困る。
顔面を押さえてのた打ち回るそいつのおっぱいを掴み、無理矢理立ち上がらせる。
「アンタが黒幕ね。ようし、さっさとこのふざけた異変を終わらせなさい」
「いや、ごめ、私じゃないわ。唯の口癖。あと、普通こういう時ってもっと別の場所掴むんじゃ」
「あー?」
「へぅぅ」
だったらコイツに用はない。というよりも、私は今回の異変の黒幕を知っている。でも、突然目の前にそんな事を言って現れたらつい手が出ちゃうじゃないか。目の前におっぱいがあれば誰だって揉む。たとえ服の上からでも、そのおっぱいがどの程度の標高を持っているかくらいは私の力を駆使すれば把握できるんだから仕方ない。これは血の滲むような努力を紫と重ねた結果身に付けたものなので、決して手放すつもりはない。
ついでに言えば、紫とは努力の他に肌も重ねたいんだけども、いつも直前で逃げられる。小悪魔系っていうのはああいうのを言うのね。
とにかく、今の私は冗談を見逃していられるほど余裕がない。目の前に現れた奴は容赦なく揉みしだいて吐き捨てるくらいのつもりだ。
それなりに付き合いはあるけど、思えば紫の家がどこにあるかは分からない。いつも向こうからきてくれるので気付かなかったけど、これは友人のステップを越えようとしている二人にとっては問題があるんじゃなかろうか。この異変で紫の家を訪ねられるかは分からないが、ヒント位は得られるはず。
とりあえず、この不愉快な桜の舞う大元へと向かおうか。
03.
果たして吸血鬼である私の主は、どれほど寒さに強いのかは分からないけれど。少なくとも唯の人間でしかない私にとっては、真冬の空中散歩は辛い外になかった。普段はセクハラばかりするくせに、こちらの考えをすぐに察知する辺りが憎い。おかげで私はわざわざ主自らが編んでくれたマフラーで首元を包み、こうして寒さの中を飛んでいた。
「咲夜、寒くはないか?」
「いいえ、寒くありませんわ」
「そうか。辛くなったらいつでもこの胸に飛び込んでくると良いよ。幸い今夜は空いてるからね」
にやにやといつもの笑みを浮かべながら、お嬢様が私の前を飛ぶ。私の方をむいているので、必然、進行方向には背を向けていると言う事になる。それはつまり、これから道の危険が現れた場合、対応が遅れると言う事に他ならない。私としては、館の主にその様な行為をしてほしくはない。殺しても死なない様な方だとは思うけれど、それでも一応私が前を飛ぶべきだとは思うのだ。
ところがお嬢様と来たらにべもなくその申し出を断ってくださった。好色家であるお嬢様は自信家でもあるのだ。
「いや結構。お前の顔を見ながら空を飛ぶならこれがベストだろう」
「ならせめて場所を変わります」
「馬鹿言うな。もしお前の背後から敵が来たらどうする」
「私は私よりもお嬢様の身の安全を第一に考えております」
「私もそうだよ。お前の肌に傷一つでもつけられちゃたまらない」
一体その様な人を口説く類の言葉は、どこから得ているのだろうか。息を吸っては吐く様に甘ったるい言葉を人に向けるのはやめて欲しい。あとついでに言えば、話しながら不必要に人の下を飛ぼうとするのもどうかと思う。
「お嬢様。従者である私より下を飛ばれるのはいかがなものかと」
「いや何、そこに理想郷があったからね」
「お嬢様」
「今日は金曜日だから、白か青だよな」
「お嬢様」
「ケチだな」
何故これで私が悪いと言う事になるのだろうか。いやまぁ、確かに初めて紅魔館に来た時から短いスカートだなとは思っていたけれど。
あの紅白の変態巫女は人の上半身にしか興味がないらしいが、よもやお嬢様はその逆か。紅夢異変の際、お嬢様と巫女の間でやりとりがあったらしいが、私は知らない。その為、その場に居たパチュリー様と妹様(他にも小悪魔とその友人の妖精が居たらしいけれど、気を失っていたので覚えてなかったらしい)に話を聞こうとしたのだけれど、どうもこの紅魔館には変わった人しか居ないようだった。
パチュリー様はそのときの話になると、普段変えない表情を珍しく曇らせ、「私のレミィが……」とうわ言の様に呟くし、妹様は妹様で顔を真っ赤にして怒りだしてしまう。きっと想像するによっぽど凄惨な内容だったのだろう、掘り返しても誰も得をしない気がするので、以来その話はしていない。
寒い空の下、空を飛び続けると下方に誰かを見つけた。はてさて目的の人物だろうか。
「誰か下に居る。霊夢かな」
この終わらない冬に対して、異変だと仰ったのはお嬢様だった。お嬢様が言うのならばそうだろう。普段はふざけるかセクハラをするかのどちらかだけれど、少なくとも嘘はつかない。
正直に言うならば、これが異変だとしたら、だとしても、あまり私には関係が無かった。せいぜい洗濯物が乾きにくいか、暖炉にくべる薪を外に取りに行く日にちが増えるか、それくらいである。異変解決は巫女の専業だと聞くし、妖精メイドは住みこみだけれど例え欠けたとしてもハナから役に立っては居ない。ちょくちょく時を止めながら私が頑張れば何とかなっている。
だからお嬢様が自ら異変を解決すると立ち上がった時は、多少驚きはしたものだ。ましてや私を連れていくなんて。とは言え、きっとお嬢様には意味がある行動なのだろう。或いは気まぐれなお嬢様の真意を汲もうなど、私には出来ないとも言える。
「おい、そこのお前」
「ん。誰」
猫っぽい。まず、そう思った。
実際に、猫の類の妖怪なのだろう。見ない顔だけれど、向こうも同じ事を思っているに違いない。茶色い髪に猫の耳、そして濃い緑の帽子。
くりくりと丸い目でお嬢様を、次に私を見た。地上に降りると同時に私はお嬢様より数歩後ろに控えるつもりでいたから、今目の前の猫の子を相手しているのはお嬢様だ。
「丸くて可愛い目だ。まぁそれはともかく、この異変について何か教えろ」
「……教えない」
「ほう。《知らない》じゃなくて《教えない》のか。何を隠してるんだろうねぇ、悪い子だ」
ぐっとお嬢様が足に力を入れるのが分かった。人間の私が分かったのだから目の前の妖怪も分かっているのだろうと思ったら、私の方が早く気付いていたらしい。次の瞬間には猫の子の背後にお嬢様が回りこんでいた。左腕を首に回し、余った右手で頬をつついている。……やはりそうなるか。
「な、なんだお前! やめなさいよ!」
「止める? こんなに柔らかいのに? 嫌だね」
ぷにぷにと頬を突くお嬢様。猫は肉球以外にも柔らかいらしい。
とはいえ、話が先に進まないのは困る。
「お嬢様」
「分かったよ。以外にせっかちなんだねぇ、咲夜は」
お嬢様よりは短命ですから、とは言えなかった。言おうにもお嬢様がこちらを真っ直ぐに見据えているからだ。不真面目なのに大事な所は押さえているのだから恐れ入る。
と、私の鼻に何かがのる。最初は雪かと思ったが、手にとって見るとそれは花弁の様だ。恐らくは桜なのだろう、淡いピンク色をしたそれはちらちらと降る雪に混じって、割りかし綺麗に見えた。そう言えば、雪が降っていては出来ないけれど、いずれお花見をしましょうとお嬢様が言っていたのを思い出す。パチュリー様は一瞬だけ悩んだものの、やはりお嬢様の提案を断るはずもなく、賛成していた。とは言え、妹様はやはり嫌がっていたから、どうにか説得しなくちゃ、と張り切っていた気がする。誰がって、お嬢様が。
まぁ、場所を確保したり食事を作るのは私の仕事なので、仕事が減ってくれるのは嬉しいが、だからと言ってお嬢様の手を煩わせていい物なのか、悩みどころではある。やはり従者の私がやるべきだろう。妹様は引きこもりがちで鬱屈しているけれど、お嬢様よりは健全な性格をしているのだ、きっと話は通じるはずだ。日中に外に出る様にお願いするのは気が進まないが、お花見は限られた時間しか出来ない。
……いやいや。
いや待とう。
結論がおかしい。
そうじゃない。
そうじゃなくて。
「お嬢様」
「何だい、まだほっぺを触ってるだけだよ」
「いえ、そうではなく。ああ、いえ、それもほどほどにしてください。知れたら妹様の機嫌がまた悪くなります」
「何でそこでフランが出てくるのさ」
鋭いのか鈍いのか、ハレンチなのか純真なのか。どれかにして欲しい。
ともかく、話を軌道に戻す。
「桜の花びらです」
「日本語教室でも開きたいのかい? 間に合ってるよ」
「いえ、私が申したいのはそうではなく。
冬のこの時期に、桜の花びらが舞っている事自体が不自然なんですが」
「知ってるよ」
知ってるのかよ。
ああ、いや。違う違う。
知っていらっしゃたようだ。
「流石はお嬢様です」
「うん、お前が怒ってるのはわかった。文句は後でベッドの中で聞くよ」
「ベベベッ!?」
私は動揺などしない。この程度で同様をしていたら紅魔館のメイドは務まらない。
私は瀟洒。私は瀟洒。
しかし猫の子は慣れてなかったらしい。くりくりの目を見開いて頬を赤くしていた。そんな反応をしたらいけないと思ったが、まぁ、手遅れだろう。
「初いねぇ、初ぃねぇ。ますます可愛いじゃないか。ああ見えて咲夜はすれてるから、そう言う反応されると興奮するったらありゃしない」
「やだー! やめろー!」
ジタバタと暴れるも、力づくで押さえつけるお嬢様に敵わないらしい。必死に抵抗するもむなしく、耳をはむはむと甘噛みされていた。
しかし種族的な問題なのか、あるいは猫の子自身の問題なのか。とにかくそれはまずかったらしい。今まで以上に暴れ出し、ついにお嬢様から逃れる事に成功していた。
「耳はかまないでよぉ! 馬鹿ぁ!」
「なっ……!」
そしてそのまま猫の子は何処かへ行ってしまった。正直に言うと、いつでもその子を捕まえる準備は出来ていた。お嬢様が一つ顎を動かせば動くつもりで居たが……どうやらお嬢様はそれどころじゃないらしい。がくりと両膝と両膝をついて、うわ言の様に呟く。
「私が……女性を……泣かす、だと……?」
何故泣かないと思ったのだろうか。
上空を見上げる。果たして霊夢は今どの辺りだろうか。お嬢様には絶対言えないが、寒くてたまらない。肉体的にも精神的にも。
(霊夢お願い、早く異変を解決して頂戴)
お嬢様には聞こえないように、そう私は溜息を吐いた。
04.
ところで私はおっぱいが好きだけど、何も大きければ良いってもんじゃない。
まだ成長途中の芽をそっと愛でるのも好きだし、お手ごろサイズをそっと包むも良し。
大きなサイズは言わずもがなだし、紫は別腹。
要は目の前のおっぱいをいかに愛する事が出来るのかだと思う。今まではおっぱいを一つの視点でしか見る事が出来なかったけど、レミリアのおかげでまた一つレベルが上がった気がする。そう言う意味ではレミリアに会う事が出来た紅霧異変は非常に意味のある物だった。
じゃあ、今回の異変は何があるのだろうか。
「げ。霊夢じゃない」
「あら、アリスじゃない」
思うに、今回の異変は知りあいが多い。この先を行き続ければ間違いなく紫に会えるだろう。上空から紫の匂いがするから間違いない。
そして目の前にはかつての知りあいであるアリス。
昔は小さくて可愛らしかったのに、今は綺麗になっちゃって。抱えた本で見づらいけど、どうやらそっちもちゃんと成長してくれたらしい。
「ああ、用事を思い出したわ。それじゃあ」
「待ちなさいよ。久々に会えたんだからもうちょっと何かあるでしょ」
「ないわよ」
「あってよ」
にべもない。冷たい視線が私に突き刺さるのは何でだろうか。
腕を組んで考える。そう言えば昔は頼めば一緒にお風呂に入ってくれたなぁ。あの頃はまだスベスベだったなぁ。今頼めば一緒に入ってくれるかなぁ。
「なんか、寒くない?」
「そりゃ、冬だからね」
「こう言う時は熱い風呂に入って身も心も暖まりたいと思わない?」
「そうね」
「じゃ、じゃあ!」
「いや、ありえないから」
ああ、アリスは駄目な子になってしまった。誰だアリスに間違った知識を教えたのは。お風呂は二人以上で入るもんだろう。一人で入って何が楽しいんだ。
このやるせない気持ちをどこにぶつければいいか分からず、地団駄を踏む。
「へっぷし!」
寒い。寒さには強い方だと思ってたけど、さすがに年中同じ格好は無謀だった。この巫女服は素晴らしいデザインだけど寒いのが難点ね。それを除けば完璧なのに。この間レミリアが遊びに来た時に着せてみたけど、正直やばかった。腋から覗くのは反則よ。あの小さな空間に一瞬理想郷を見たわ。許されるならあの小さな空間で暮らしたい。
ちらりとアリスの方を見る。あいつは昔から情に弱いから、きっと寒さに震える私を見かねて、抱き付かせてくれるに違いない。そうなれば後はこっちのもんだ、幾ら嫌がろうとも揉むなりなんなりしてみせる。
「……」
ところがアリスは全く反応してくれない。おかしいな、そんなはずはない。さてはあれはアリスに良く似た別人なのだろうか。だとしたら早急に確かめなくっちゃ。おっぱいを。
「ああもう、分かったから。そんな目で見るのはやめて」
やっぱりこいつはアリスだった。
とは言え年齢の成長と共にガードも固くなったのか、なかなか触らせて貰えない。はてじゃあ何を分かったんだろうか。私はアリスに体温以外は求めていない。
「何にしても、アンタは巫女なんだから、まずは異変を解決してらっしゃい。そしたら話くらいは聞いてやるから」
「えー。話だけ」
「紅茶くらい出すわよ」
「もう一声」
「我侭言わない」
「もう一揉み」
「しばくわよ」
しょうがない。確かに異変を解決するのは重要だ。まぁ、アリスは約束を反故にするような奴じゃない。ちゃっちゃと異変を解決して神社に着替えと寝泊りセットを持ってこいつの家に行こう。そう考えないと気が持たない。
「じゃあ、さっさと行ってきなさい」
しっしっ、と虫を追い払うかのような手つき。私は責められるのは好きじゃない。レミリアは器用に両方こなせるが、正直羨ましい。私も早くレベルアップしたいわ。
とにもかくにも、アリスに見送られて寒い中再び私は空を飛んだ。
「……しまった。触るのを忘れてた」
シット、苛々するわ。
05.
上空を登るにつれて、何故だか温度が上がっているような気がしたのは、果たして本当に気のせいなのだろうか。私としてみれば目の前で楽しげにしているお嬢様が幻想郷の温度を上げているんじゃないのかと一瞬本気で考えたくらいである。
「おいおい、幾ら私でも三人同時に愛するのは……まぁ余裕だけどね」
先程までの落ち込みようはどこへやら、どうやら目の前に女性が現れればどうにでもなるらしい。知ってはいけない生態というか、性癖を覚えてしまった。
果てさて花弁の元を追って上空を目指すと、そこには見知った顔があった。
まかりなりにも館の主であるお嬢様は、意外な事に多趣味らしい。音楽もその内の一つで、時折騒霊三姉妹として知られる目の前の彼女達を招く事も度々あった。紅茶を嗜みながら音楽に耳を傾ける瞬間だけを切り取れば、なるほど館の主に相応しい姿であると言えよう。
余談になるけれど、普段は専ら鑑賞するだけのお嬢様は、実は演奏も非常に上手である。あまり普段から演奏する事はなく、何かお嬢様の中で節目に当たる時にテラスでバイオリンの弦をひくのだ。何故テラスなのかはお嬢様は言わない。けれど、図書館にいるパチュリー様と地下にいる妹様、両方に聞こえる様に演奏するのであれば、テラスは数少ない選択肢の内の一つであるのは確かだ。まぁ、だからと言ってそれが正解と言うわけではないけれど。
これは試験ではないし、質問でも無い。
なので解答は出ないし、回答出来ない。
ただ、そう思っただけ。
そんな訳で、目の前のプリズムリバー三姉妹はお嬢様の知り合いと言う事になる。
だからお嬢様のこの言葉にも大袈裟に反応する者はいない。黒い服の長女、ルナサはいつもの様に困ったような表情を浮かべ、三女のリリカは苦笑と言うか、半笑いと言うべきか、難しい表情をしていた。
いつもならば長女のルナサが突っ込みを入れるのだが、今日はメルランらしい。ルナサは三姉妹の中では一番暗いので、まぁ、そう言う時もある。
「相変わらずと言いますか、元気ですね」
「当たり前じゃないか。可愛い子が咲夜も入れて四人も居るんだぞ」
「それは、どうも」
律儀にお礼まで言うとは。
しかしお嬢様は妙に上機嫌である。確かに女性は大好きだけれども、いやしかし。
「咲夜。お前も少しは見習いなさい」
「どの部分をでしょうか」
「お前は気真面目すぎるんだよ。もっと捻りを入れなさい」
「例えばどの様な」
「そうだなぁ」
そしてすっと指を三姉妹の方にむける。はて、まさか幽霊になれと言う意味ではあるまい。だとすると音楽の才でも身に付けろと言う事なのか。確かに毎回三姉妹にきてもらうよりは、私が覚えてしまえば手っ取り早いのかもしれない。
しかしお嬢様はそんな事とは全く違うことを言ってのける。
「入れ替わって私を試す位の事をしてみなさい。あの三姉妹みたいに」
「は?」
「……」
「あれ?」
「へ?」
空気が止まる。お嬢様が何を言っているのか分からなかった私と、きょとんとする三姉妹。そして同じく疑問顔のお嬢様。合わせて計五つのクエスチョンマークが空に漂う。
「おいおい咲夜、まさか気づいてなかったのか?」
「申し訳ございません。しかし何故お気づきに?」
「そうだよ、何でわかったの?」
そう口を挟まれて初めて気付く。そんな口調で長女が話すはずがない。彼女は確かに三人の意見を纏める事が多いが、そんな明るい口調では話さない。恐らくはルナサの格好をしたリリカだろう。
三姉妹の所まで歩き、人差し指をくるくると空へ向ける。この方に仕えてきてどの位かは分からないが、これからお嬢様が何をしようとしているかは分かる。恐らくはまた口説こうとするのだろう。目の前に女性がいたら口説かずにはいられないのだ。
だから私は驚かない。
「お前がルナサでお前がメルラン、それでお前がリリカ。だろう?」
どうやらお嬢様曰く、最初にお礼を言ったのはメルランではなく長女のルナサらしい。だとすると、先ほど口を挟んだのはルナサではなくリリカと言う事になり、残る本物のメルランは三女の赤い服を着ていると言う事になる。この際なぜお嬢様が分かったのは良いとしよう。尋ねた所で話がややこしくなるだけだ。
「何故分かったんですか?」
「簡単なことだよ」
私としては、主として品格を持った行動をして欲しい。例えば堂々と外で女性を口説く事や、あるいは今の様に相手に指を向ける事も。
「幾ら外見を入れ替えても、チャームポイントまでは変えられないさ。
ルナサ、お前のしっとりした声は一度聞けばすぐ分かる。
メルラン、三姉妹の中で笑顔にえくぼが出来るのはお前だけだ。
リリカ、お前の一番良い所はその丸い目だ。
お前達全員可愛いなぁ、そんな入れ替わりで私を騙せると思ったのかい?」
そのままルナサとメルラン―見た目ではなく、正確な表現である―の頭を撫でながら、リリカの頭の上に顎を乗せる。やりたい放題とはこの事を言うのではなかろうか。しかし哀しいかな、褒められて嫌な顔をするものなど滅多には居ない。ましてや(従者の私が言うのもおかしな話だが)、お嬢様は美しい。気まぐれだけれど割と器量と言うか心が広いと言うべきか、館の主としては間違った性格をしていない。若干性癖に難があるとは思うけれど、これくらいはと思う女性の方が幻想郷には多いらしい。その証拠にお嬢様に良い様にされている三姉妹は誰一人として嫌がらない。
「さて、本当はもっとこうしていたいんだけど、生憎今は急いでるのよねぇ。
それに咲夜が寂しがっちゃう」
「え、理由は聞かないんですか?」
「ああ、良いよ」
二人の頭から手を離し、ついでに顎も離した。お嬢様ではなく三姉妹の方が名残惜しそうな表情を浮かべているのに気付き、思わず溜息を吐きそうになったけれど、咄嗟にごまかす。
「お前達がどんな格好としていようと、ちゃんと見抜いて愛でてあげるよ。今みたいにね」
やがてお嬢様がこちらに戻ってくる。唯一方的に口説くだけならまだしも、相手を全員その気にさせるのはいかがなものかと思わざるを得ないけれど、主の行為に文句など言わない。
ひらひらとお嬢様が手を振ると、三人揃って手を振り返す光景が見えた。
まったく、やれやれである。
06.
先の紅霧異変において、紅白の巫女・博麗霊夢の毒牙に初めてかかったのは宵闇の妖怪ルーミアと言う子だった。その際に彼女を救ったチルノは妖精の中では一番力が強く、チルノの言う事ならば大抵の妖精は受け入れるらしいわ。ちょっと短気なところが珠に疵だけれど、持ち前の明るい性格は皆に評判と言う事なの。
そのチルノ曰く、またあの巫女が異変を解決すべく出歩いていると言う。おかげで毎年春を告げる為だけに幻想郷を飛び回るリリーホワイトも姿を隠していて、このままでは霊夢の評判が悪くなってしまうんじゃないかと不安になってしまう。
「心配しすぎよ、紫」
「幽々子」
ここは友人である幽々子の自宅である白玉楼。その縁側でのんびりとお茶をすする彼女に、一瞬だけ霊夢の姿を重ねてしまって、頭を左右に振る。
「ああ、お茶がなくなっちゃったわ。やっぱり妖夢をお使いに行かせたのは失敗だったわねぇ」
分かってたくせに。全てを理解しながら惚けたふりをするのは幽々子の得意技だ。
「はいはい、私が淹れてきます。ところで、妖夢をお使いに行かせたのは何でなの?」
「ありがとう。ちょっと思うところがあるのよ」
「まぁ、良いけど」
彼女お抱えの庭師である妖夢は今居ない。幽々子はお使いと言っているけれど、唯の口実だろう。問題なのは、彼女とて異変を解決するべく霊夢がここに来ることくらいは分かっているはずなのに。何故妖夢に席を外して貰ったのだろうか。良く一緒にお茶をしたり相談にのってもらったりはしているけれど、幽々子の真意を計りかねる事は度々ある。
とは言え、言葉も表情も惚けるのに長けている幽々子だけれども。何となく今の幽々子の心持が分からないでも無い。
幽々子が他人に分かる様に笑顔を浮かべている時は、大半が楽しくない時だ。本当に楽しんでいる時は、扇子で表情を隠してしまう。
さて、そうするとどうして幽々子は不機嫌なのだろうか。それも庭師の妖夢に席を外させてまでの立腹とは一体なんだろう。幽々子が不機嫌なのは分かったけれど、その理由までは分からなかった。
「ねぇ、幽々子」
だから私が幽々子に話しかけようとした時。
突然幽々子が立ち上がった。目線は地上への下り階段へ向けられていて、つまり誰かがここにきて居ると言う事になる。そしてこの状況で白玉楼を訪れる者など限られていて、幽々子の表情や仕草からして、庭師の妖夢ではないだろう。
だとすると。
「探したわよ」
「来たわね……貴女が巫女の」
果たしてそこには、見慣れた紅白の巫女服があった。普段の不真面目な様子はそこには無い。いや、決して霊夢は不真面目じゃない。唯、真面目な表情で変な事をしたり言ったりするのが困るだけだ。黙っていれば綺麗なのに、どうしてああなったのだろうか。何年考えても分からない問題が身近に出来るなんて、賢者も名折れしてしまいそうだった。
普段と違う様子を見せているのは霊夢だけではなく、見ると幽々子もまたすっと目を細めていた。口許に扇子をやるのは癖なのだろう。ピリピリと肌が震える。そこでなんとなく思う。
(もしかして幽々子は、霊夢に怒っているのかしら?)
私よりも早く霊夢の気配を察知したり、今の目つきを見るにそう感じられるけれど。
「聞きなさい、紅白の巫女。貴女さんざん紫に破廉恥な事をしているらしいわね」
「……」
珍しく霊夢が黙って話を聞いている。と同時に、ようやく合点が行った。
なるほど確かに、私が幽々子に相談する多くは霊夢の事だった気がする。
私があまりそう言う方向の話が好きではない事も幽々子は分かってくれているのだろう。
つまり幽々子は、親友として私を困らせている霊夢を懲らしめるつもりなのだ。
(幽々子……)
思わず胸が熱くなる。ほぼ家族と言って良いだろう私の式やその式に、まさかそんな相談も出来ず、こう言った恥ずかしい話は幽々子の前でしか出来なかったので、幽々子が真剣に考えていてくれたからだ。
「随分とやりたい放題やる巫女ね。でも貴女は分かっていないわ」
霊夢に私が何を言おうとあまり聞いてくれない。だからこの際、幽々子に一言厳しく言って貰おう。霊夢だってもっとしゃんとしてくれれば、魅力的な女の子なのだから。
「それはね……紫は、私の恋人なのよ!」
「な、なんですって!?」
あれ、おかしいわね。
「だから紫に手を出すのは止めて頂戴、いい迷惑だわ」
「突然そんな事を言われてはいそーですかなんて言える訳ないでしょ」
危ない危ない。一瞬だけ霊夢に賛成しそうになったわ。
珍しく幽々子も怒っているから、きっと言葉回しが微妙におかしくなっているに違いない。そうでなければ、幽々子が何を言っているのか全く理解出来なくなってしまう。いや、むしろ今まで信頼して幽々子に全てを相談してきたのに、まさか、そんな。
「なら争奪戦といきましょう。来なさい紅白の蝶!」
「良いわ、ついでに揉みしだいてやるわ春の亡霊!」
何故語尾を格好良くしたのよ。そこだけ聞けば凄く真面目な二人じゃない。
まさか数少ない理解者である幽々子まで霊夢側だったなんて。あ、いけない、泣きそう。
「藍」
「なんでしょうか、紫様」
こうなったらもう自らの式しか頼れる人材は居ない。争いを始めた二人を視界に入れないように、藍だけを見据えて指示を出す。
「あと二人ほど此処にやってきます。迎え撃つわよ」
「御意」
「そ、そんな……今まで揉んできた中で一番良いおっぱいじゃない。やるわね、アンタ」
「なるほど貴女は私と逆で揉む側が好きなのね。なかなか良い揉み方をするじゃない」
何も聞こえない。私は何も聞いていない。
少しでも気を抜いたらもう挫けて泣きそうだったから、二人の事は考えないことにした。
先程は幽々子に後れを取ったけれど、今度はそうはいかない。あと二人ほどこの白玉楼に来ているのがはっきりと分かる。霊夢の話によると、前回の紅霧異変を切欠に、異変の主である吸血鬼と仲良くなったと言う。あまり霊夢の口から特定の人名を聞く事は少ないので、もしかしたならばその吸血鬼、レミリアがこちらに来ているのかもしれない。霊夢と仲良くなっていると言う時点で、そこはかとなく嫌な予感がするけれど、杞憂の可能性だってある。旧知の仲である魔理沙は普通だし、アリスに至ってはむしろ霊夢に会うのを避けている節があるのだ。だからレミリアもあって実際に話をしない限りは分からない。
「紫様。他に何かご命令はありますか?」
「いいえ、無いわ。そこに居なさい」
「かしこまりました」
ああ、やっぱり頼れるは身内よね。霊夢も幽々子も見習いなさい、この藍の態度を。
「随分賑わってるねぇ」
「招待状を出した記憶は無いわよ」
「そこに良い女がいれば呼ばれてなくても駆けつけるさ」
もうやだこの世界。皆してそんなに私を泣かせたいの?
紅い吸血鬼も霊夢側だった。横に控えているメイドは一言も発していないので分からないけれど、止めずに仕えている時点でどうせ似たような性格だろう。
レミリアは辺りを見回したかと思うと、やがて霊夢と幽々子を見つけたらしく、満面の笑みを広げる。
「霊夢、私も混ぜてよ」
「レミリア。どうしたのこんなところまで」
「お前が居るからに決まってるじゃないか」
「もう……」
息を切らしながらの攻防をしている霊夢と幽々子の間に割って入るレミリア。弾幕も張っていないのになぜ息を切らしているのかは分からないし、ついでに言えば触られる側の幽々子が平然としていて触っている側の霊夢が押され気味なのも謎だった。先程までは不機嫌だった幽々子は、何があったのかすっかり上機嫌だ。謎だったけれど、深く突っ込んではいけない気がしたので、残されたメイドに目をやる。
「紫様、ここは私にお任せ下さい」
正直今の状況に頭が追いついていないので、藍の言葉は渡りに船だった。私の最後の心の拠り所なのだから、ここは精一杯頼ろう。
藍の言葉に頷くと、私の前に藍が立ち塞がる。
「私は八雲藍。この紫様の式だ」
「十六夜咲夜です。レミリアお嬢様のメイドですわ」
「メイドが主を放ってはいけないな」
藍の言葉に咲夜と名乗ったメイドが一瞬だけ目を逸らした。はてどこかで見た事がある目だなと思い、ああ鏡に映った自分の目と一緒だと気付く。なるほどレミリアが霊夢側なので、彼女は私と一緒で振り回される側なのだろう。もしそうだとしたら、彼女とは話が合いそうな気がする。一番の親友である幽々子までがああだった以上、一人でも境遇を理解しあえる仲間が欲しい。ついでに言うと、私友達少ないし。以前は幽々子に相談していたけれど、今度からは相手を選ぼう。
「お嬢様は実力者ですから」
「単に混ざりたくないようにも見えるけれど?」
「さあ。どうでしょうか」
何だか私自身が問いただされているみたい。いや、決して藍はそんな子じゃないけれど。
「む、確かに良い乳だな」
「でしょ? いや、本当」
「ふふ、紫だって私にゾッコンよ。貴女、紫に触られた事ある?」
「く、私だってちっさい時一緒にお風呂に入った事あるもん!」
「おい霊夢、そいつは初耳だぞ。私以外の誰と入ったんだ?」
「私は紫に耳掃除してもらった事もあるのよ」
「わ、私だって……!」
実に不健康な会話だわ。もし咲夜が藍の言う通りの理由で主から離れているなら、相当の共感を覚える。加えて言うと、本当に幽々子の事は信じていたのに。お風呂も耳掃除も頼まれたからやっただけなのに。何だってこんな仕打ちを受けなくちゃいけないのよ。
「良いかい、主あっての従者よ」
「そうですか」
「貴女は愛想が無いわね。忠誠心もないんじゃなくて?」
「いいえ。毎日それはそれは多くの命令をこなしていますわ」
「へぇ。ちょっと羨ましいわ」
「はい?」
「紫様はあまり私に命令をする事が無いのよ。
朝は私より早く起きられて朝食をお作りになってしまうし、
掃除や洗濯もなさろうとする。お風呂を沸かしても一番風呂に入って頂けない。
だからもっと私に命令して欲しいものだよ。なんと言うか、足蹴にして欲しいわ。道具みたいに使われるとぞくぞくするもの!」
「……一日交換してみますか?」
「魅力的な提案だけれど、出来ないわ。あくまで私は紫様に色々されたいのよ」
「紫、私と幽々子どっちを選ぶの!?」
「当然、私よね?」
「紫様、さぁ私に命令を!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
幽々子も藍ももう知らない。
白玉楼で未だ言い争っている面子を放って、私は一人自宅へ戻った。
そして一人、机に突っ伏して泣き明かした。
幻想郷に春は来たけれど、
私の周りには春が来ない。
誰か助けて頂戴。
07.
「咲夜」
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「先日異変を解決した時の事なんだけどさ」
「はい」
「九尾の狐の従者が言ってたんだけど、もしかして無理してないかい?」
「……いいえ。私は従者としてしかるべき事をしているだけですわ」
「言いなよ。それともお前の主は、お前の小言も許さない程度の器量しかないのか?」
「……では、一つだけ」
「一つで良いのか?」
「誰が何を言おうと、お嬢様に家事をさせる訳にはいきませんわ」
「意地っ張りだねぇ。で、その一つだけの言いたい事は?」
「毎朝六時五十分に起きてください」
「随分具体的だねぇ」
「私の朝食の時間です」
「……は」
「いつも朝食は一人なんですわ」
「OK! 五時に起きるよ!」
冬が、終わってくれない。
はぁ、と悴んだ自らの両手に吐いた息は白く、虚空にかき消されていった。
箒で掃いた境内は季節も伴って酷く閑散としていて、なぜだか胸がチクリと痛む。
(きっと、冬の所為よ)
鳥居に風がぶつかり、やるせない寒さが私に吹きつける。
振り返り、縁側を見る。そこには誰も居ないと分かっているのに、見てしまう。
(だって、冬の所為よ)
春も夏も秋も、いつだって私の傍にいてくれるあいつは、何故だか冬だけは私の傍からいなくなってしまう。だから、この季節だけは縁側は空っぽだ。
人間だって妖怪だって、様々な奴がこの神社に来るけれど、それでも、あの縁側と私のお茶の相手はあいつじゃなければ駄目なような気がした。だから、今はあそこは空いたまま。いつか来るはずの春まで空っぽのままにしておこう、だなんて勝手に決めてみたりもして。
気難しいとか何だとか色んな事を言われるけれど、私だって女の子だ。恋だってするんだ。なのに冬の間だけ会えないなんて、私の気持ちをどうしてくれるんだろうか。幻想郷の大賢者のはずなのに、変なところで気も思考も使えないんだから、困った奴だ。
でも、と思う。空っぽなだけならまだ良い。きっとこれは空っぽとは少しだけ違う気がするんだ。どちらかと言うと、さらさらと両手から砂が流れ落ちる様な。何だか、そんな感じ。
春に久々に会えて抱き締めても、
夏の日差し以上に抱き締めても、
秋は恋しくなって抱き締めても、
いくら一緒にいたいと思っても。
結局あいつは冬に私の前から消えてしまう。
だから、もしかしてあいつは私の事が嫌いなのかなぁ、だなんて。
地霊殿にすむ主じゃあるまいし、ましてや相手はあの隙間妖怪なんだから、そんな考えは無駄だって分かってるけれど。
それでもだって、そう思わずにはいられないじゃないか。
寝てても頭はあいつの事だけ。
覚めても心はあいつの事だけ。
ぽっかりと、誰もいない縁側が寂しく私に語りかけてきている気がして、そっと、縁側に指を滑らせる。ひんやりと冷たい感触だけが伝わって、それはつまり本当にここにあいつが居ないんだなぁって嫌でも思ってしまって、辛くなって指を話す。
握り締めていた箒をそこらへんに放り投げて、きっと空を睨み付ける。数ヶ月前の様に紅い霧が空をおおっている、なんて事はないけれど、その代わり、凍て付く空気がまるで私を責める刃の様に肌を刺す。
(寒いなぁ。こんな時こそ、会いたいのに)
声に出したって、今のあいつには届かないから。
だからせめて、この異変を解決しにゆこう。この終わらない冬を、融かしにゆこう。
きっとあいつはそこに居る。私の気持ちなんて分かってくれやしない奴だけれど、それでも本当に何もせずに眠っているような奴じゃないことだけは、知っているから。
会ったらひとしきり文句を言ってやろう。ついでに、私の想いを言ってやろう。
きっとあいつは困った顔をするだろうけれど、きっとそれだけだ。寂しい想いをさせるあいつが悪い。少しだけ我侭になってやる。
だから、数ヶ月前と同じ様に。けれど今度は誰にも見送られる事もなく。
私は博麗神社を飛び出した。この忌まわしい冬を終わらせるために。
そして八雲紫に想いを伝えるために。
「待ってなさいよ紫。冬眠する前に、そのおっぱいを溶けるまで揉んでやるからぁぁぁ!」
空は白く、いつ雪が降ってもおかしくない。どうせなら降って欲しい、とも思った。
だって、雪の降る中抱きあって。別れの際にあいつのおっぱいを揉みし抱く光景はきっと、この幻想郷に相応しいほど奇跡的で儚い情景なんだろうから。
02.
苛々が頂点を突き抜けて、月まで届きそうだった。
冬が終わらないって事は、この寒さからも逃げられないって事でもあるし、逆に紫が逃げて帰ってきてくれない。腋も手も懐も寒さで震えてしまう。
にも関わらず冬は私をおちょくるかのように本来の春まで出てきやがって自己主張してやがる。くたばれ粉雪、帰って来い花弁。
今や二日にいっぺんはボディランゲージを重ねる我が親友・レミリアと出会う切っ掛けになった紅霧異変。あの時は気がつけば異変は終わっていて、あまり異変を解決したと言う実感は沸かなかった。
でも紫は経過を知らなかったらしく、それはもう頬擦りしたくなるほど可愛らしい笑顔でもって祝福してくれた。おかげであの晩は良い所までいけたから、今度異変を解決すればきっと念願のおっぱいタッチも許されるんじゃなかろうか。いや、しかし本当に良い所まではいったんだけどなぁ。一緒にお酒を飲んで、膝枕までして貰ったところまでは完璧だった筈。ちょっとお風呂への誘いが早かったか。くそ、次こそは。この異変を解決した暁には、今度こそ一線を越えてやる!
「くろまく~」
「お前かぁぁぁ!」
突然目の前に現れた白い女を蹴り飛ばす。私は悪くない、ゆく道に飛び出してきたこいつが悪いんだ。
「へぶっ」
空中で蹴りを喰らったあわれ異変の主は地面へと撃墜していたものの、幸い降り積もった雪がそのダメージを緩和してくれていたらしい。それで良い、ここで死なれても困る。
顔面を押さえてのた打ち回るそいつのおっぱいを掴み、無理矢理立ち上がらせる。
「アンタが黒幕ね。ようし、さっさとこのふざけた異変を終わらせなさい」
「いや、ごめ、私じゃないわ。唯の口癖。あと、普通こういう時ってもっと別の場所掴むんじゃ」
「あー?」
「へぅぅ」
だったらコイツに用はない。というよりも、私は今回の異変の黒幕を知っている。でも、突然目の前にそんな事を言って現れたらつい手が出ちゃうじゃないか。目の前におっぱいがあれば誰だって揉む。たとえ服の上からでも、そのおっぱいがどの程度の標高を持っているかくらいは私の力を駆使すれば把握できるんだから仕方ない。これは血の滲むような努力を紫と重ねた結果身に付けたものなので、決して手放すつもりはない。
ついでに言えば、紫とは努力の他に肌も重ねたいんだけども、いつも直前で逃げられる。小悪魔系っていうのはああいうのを言うのね。
とにかく、今の私は冗談を見逃していられるほど余裕がない。目の前に現れた奴は容赦なく揉みしだいて吐き捨てるくらいのつもりだ。
それなりに付き合いはあるけど、思えば紫の家がどこにあるかは分からない。いつも向こうからきてくれるので気付かなかったけど、これは友人のステップを越えようとしている二人にとっては問題があるんじゃなかろうか。この異変で紫の家を訪ねられるかは分からないが、ヒント位は得られるはず。
とりあえず、この不愉快な桜の舞う大元へと向かおうか。
03.
果たして吸血鬼である私の主は、どれほど寒さに強いのかは分からないけれど。少なくとも唯の人間でしかない私にとっては、真冬の空中散歩は辛い外になかった。普段はセクハラばかりするくせに、こちらの考えをすぐに察知する辺りが憎い。おかげで私はわざわざ主自らが編んでくれたマフラーで首元を包み、こうして寒さの中を飛んでいた。
「咲夜、寒くはないか?」
「いいえ、寒くありませんわ」
「そうか。辛くなったらいつでもこの胸に飛び込んでくると良いよ。幸い今夜は空いてるからね」
にやにやといつもの笑みを浮かべながら、お嬢様が私の前を飛ぶ。私の方をむいているので、必然、進行方向には背を向けていると言う事になる。それはつまり、これから道の危険が現れた場合、対応が遅れると言う事に他ならない。私としては、館の主にその様な行為をしてほしくはない。殺しても死なない様な方だとは思うけれど、それでも一応私が前を飛ぶべきだとは思うのだ。
ところがお嬢様と来たらにべもなくその申し出を断ってくださった。好色家であるお嬢様は自信家でもあるのだ。
「いや結構。お前の顔を見ながら空を飛ぶならこれがベストだろう」
「ならせめて場所を変わります」
「馬鹿言うな。もしお前の背後から敵が来たらどうする」
「私は私よりもお嬢様の身の安全を第一に考えております」
「私もそうだよ。お前の肌に傷一つでもつけられちゃたまらない」
一体その様な人を口説く類の言葉は、どこから得ているのだろうか。息を吸っては吐く様に甘ったるい言葉を人に向けるのはやめて欲しい。あとついでに言えば、話しながら不必要に人の下を飛ぼうとするのもどうかと思う。
「お嬢様。従者である私より下を飛ばれるのはいかがなものかと」
「いや何、そこに理想郷があったからね」
「お嬢様」
「今日は金曜日だから、白か青だよな」
「お嬢様」
「ケチだな」
何故これで私が悪いと言う事になるのだろうか。いやまぁ、確かに初めて紅魔館に来た時から短いスカートだなとは思っていたけれど。
あの紅白の変態巫女は人の上半身にしか興味がないらしいが、よもやお嬢様はその逆か。紅夢異変の際、お嬢様と巫女の間でやりとりがあったらしいが、私は知らない。その為、その場に居たパチュリー様と妹様(他にも小悪魔とその友人の妖精が居たらしいけれど、気を失っていたので覚えてなかったらしい)に話を聞こうとしたのだけれど、どうもこの紅魔館には変わった人しか居ないようだった。
パチュリー様はそのときの話になると、普段変えない表情を珍しく曇らせ、「私のレミィが……」とうわ言の様に呟くし、妹様は妹様で顔を真っ赤にして怒りだしてしまう。きっと想像するによっぽど凄惨な内容だったのだろう、掘り返しても誰も得をしない気がするので、以来その話はしていない。
寒い空の下、空を飛び続けると下方に誰かを見つけた。はてさて目的の人物だろうか。
「誰か下に居る。霊夢かな」
この終わらない冬に対して、異変だと仰ったのはお嬢様だった。お嬢様が言うのならばそうだろう。普段はふざけるかセクハラをするかのどちらかだけれど、少なくとも嘘はつかない。
正直に言うならば、これが異変だとしたら、だとしても、あまり私には関係が無かった。せいぜい洗濯物が乾きにくいか、暖炉にくべる薪を外に取りに行く日にちが増えるか、それくらいである。異変解決は巫女の専業だと聞くし、妖精メイドは住みこみだけれど例え欠けたとしてもハナから役に立っては居ない。ちょくちょく時を止めながら私が頑張れば何とかなっている。
だからお嬢様が自ら異変を解決すると立ち上がった時は、多少驚きはしたものだ。ましてや私を連れていくなんて。とは言え、きっとお嬢様には意味がある行動なのだろう。或いは気まぐれなお嬢様の真意を汲もうなど、私には出来ないとも言える。
「おい、そこのお前」
「ん。誰」
猫っぽい。まず、そう思った。
実際に、猫の類の妖怪なのだろう。見ない顔だけれど、向こうも同じ事を思っているに違いない。茶色い髪に猫の耳、そして濃い緑の帽子。
くりくりと丸い目でお嬢様を、次に私を見た。地上に降りると同時に私はお嬢様より数歩後ろに控えるつもりでいたから、今目の前の猫の子を相手しているのはお嬢様だ。
「丸くて可愛い目だ。まぁそれはともかく、この異変について何か教えろ」
「……教えない」
「ほう。《知らない》じゃなくて《教えない》のか。何を隠してるんだろうねぇ、悪い子だ」
ぐっとお嬢様が足に力を入れるのが分かった。人間の私が分かったのだから目の前の妖怪も分かっているのだろうと思ったら、私の方が早く気付いていたらしい。次の瞬間には猫の子の背後にお嬢様が回りこんでいた。左腕を首に回し、余った右手で頬をつついている。……やはりそうなるか。
「な、なんだお前! やめなさいよ!」
「止める? こんなに柔らかいのに? 嫌だね」
ぷにぷにと頬を突くお嬢様。猫は肉球以外にも柔らかいらしい。
とはいえ、話が先に進まないのは困る。
「お嬢様」
「分かったよ。以外にせっかちなんだねぇ、咲夜は」
お嬢様よりは短命ですから、とは言えなかった。言おうにもお嬢様がこちらを真っ直ぐに見据えているからだ。不真面目なのに大事な所は押さえているのだから恐れ入る。
と、私の鼻に何かがのる。最初は雪かと思ったが、手にとって見るとそれは花弁の様だ。恐らくは桜なのだろう、淡いピンク色をしたそれはちらちらと降る雪に混じって、割りかし綺麗に見えた。そう言えば、雪が降っていては出来ないけれど、いずれお花見をしましょうとお嬢様が言っていたのを思い出す。パチュリー様は一瞬だけ悩んだものの、やはりお嬢様の提案を断るはずもなく、賛成していた。とは言え、妹様はやはり嫌がっていたから、どうにか説得しなくちゃ、と張り切っていた気がする。誰がって、お嬢様が。
まぁ、場所を確保したり食事を作るのは私の仕事なので、仕事が減ってくれるのは嬉しいが、だからと言ってお嬢様の手を煩わせていい物なのか、悩みどころではある。やはり従者の私がやるべきだろう。妹様は引きこもりがちで鬱屈しているけれど、お嬢様よりは健全な性格をしているのだ、きっと話は通じるはずだ。日中に外に出る様にお願いするのは気が進まないが、お花見は限られた時間しか出来ない。
……いやいや。
いや待とう。
結論がおかしい。
そうじゃない。
そうじゃなくて。
「お嬢様」
「何だい、まだほっぺを触ってるだけだよ」
「いえ、そうではなく。ああ、いえ、それもほどほどにしてください。知れたら妹様の機嫌がまた悪くなります」
「何でそこでフランが出てくるのさ」
鋭いのか鈍いのか、ハレンチなのか純真なのか。どれかにして欲しい。
ともかく、話を軌道に戻す。
「桜の花びらです」
「日本語教室でも開きたいのかい? 間に合ってるよ」
「いえ、私が申したいのはそうではなく。
冬のこの時期に、桜の花びらが舞っている事自体が不自然なんですが」
「知ってるよ」
知ってるのかよ。
ああ、いや。違う違う。
知っていらっしゃたようだ。
「流石はお嬢様です」
「うん、お前が怒ってるのはわかった。文句は後でベッドの中で聞くよ」
「ベベベッ!?」
私は動揺などしない。この程度で同様をしていたら紅魔館のメイドは務まらない。
私は瀟洒。私は瀟洒。
しかし猫の子は慣れてなかったらしい。くりくりの目を見開いて頬を赤くしていた。そんな反応をしたらいけないと思ったが、まぁ、手遅れだろう。
「初いねぇ、初ぃねぇ。ますます可愛いじゃないか。ああ見えて咲夜はすれてるから、そう言う反応されると興奮するったらありゃしない」
「やだー! やめろー!」
ジタバタと暴れるも、力づくで押さえつけるお嬢様に敵わないらしい。必死に抵抗するもむなしく、耳をはむはむと甘噛みされていた。
しかし種族的な問題なのか、あるいは猫の子自身の問題なのか。とにかくそれはまずかったらしい。今まで以上に暴れ出し、ついにお嬢様から逃れる事に成功していた。
「耳はかまないでよぉ! 馬鹿ぁ!」
「なっ……!」
そしてそのまま猫の子は何処かへ行ってしまった。正直に言うと、いつでもその子を捕まえる準備は出来ていた。お嬢様が一つ顎を動かせば動くつもりで居たが……どうやらお嬢様はそれどころじゃないらしい。がくりと両膝と両膝をついて、うわ言の様に呟く。
「私が……女性を……泣かす、だと……?」
何故泣かないと思ったのだろうか。
上空を見上げる。果たして霊夢は今どの辺りだろうか。お嬢様には絶対言えないが、寒くてたまらない。肉体的にも精神的にも。
(霊夢お願い、早く異変を解決して頂戴)
お嬢様には聞こえないように、そう私は溜息を吐いた。
04.
ところで私はおっぱいが好きだけど、何も大きければ良いってもんじゃない。
まだ成長途中の芽をそっと愛でるのも好きだし、お手ごろサイズをそっと包むも良し。
大きなサイズは言わずもがなだし、紫は別腹。
要は目の前のおっぱいをいかに愛する事が出来るのかだと思う。今まではおっぱいを一つの視点でしか見る事が出来なかったけど、レミリアのおかげでまた一つレベルが上がった気がする。そう言う意味ではレミリアに会う事が出来た紅霧異変は非常に意味のある物だった。
じゃあ、今回の異変は何があるのだろうか。
「げ。霊夢じゃない」
「あら、アリスじゃない」
思うに、今回の異変は知りあいが多い。この先を行き続ければ間違いなく紫に会えるだろう。上空から紫の匂いがするから間違いない。
そして目の前にはかつての知りあいであるアリス。
昔は小さくて可愛らしかったのに、今は綺麗になっちゃって。抱えた本で見づらいけど、どうやらそっちもちゃんと成長してくれたらしい。
「ああ、用事を思い出したわ。それじゃあ」
「待ちなさいよ。久々に会えたんだからもうちょっと何かあるでしょ」
「ないわよ」
「あってよ」
にべもない。冷たい視線が私に突き刺さるのは何でだろうか。
腕を組んで考える。そう言えば昔は頼めば一緒にお風呂に入ってくれたなぁ。あの頃はまだスベスベだったなぁ。今頼めば一緒に入ってくれるかなぁ。
「なんか、寒くない?」
「そりゃ、冬だからね」
「こう言う時は熱い風呂に入って身も心も暖まりたいと思わない?」
「そうね」
「じゃ、じゃあ!」
「いや、ありえないから」
ああ、アリスは駄目な子になってしまった。誰だアリスに間違った知識を教えたのは。お風呂は二人以上で入るもんだろう。一人で入って何が楽しいんだ。
このやるせない気持ちをどこにぶつければいいか分からず、地団駄を踏む。
「へっぷし!」
寒い。寒さには強い方だと思ってたけど、さすがに年中同じ格好は無謀だった。この巫女服は素晴らしいデザインだけど寒いのが難点ね。それを除けば完璧なのに。この間レミリアが遊びに来た時に着せてみたけど、正直やばかった。腋から覗くのは反則よ。あの小さな空間に一瞬理想郷を見たわ。許されるならあの小さな空間で暮らしたい。
ちらりとアリスの方を見る。あいつは昔から情に弱いから、きっと寒さに震える私を見かねて、抱き付かせてくれるに違いない。そうなれば後はこっちのもんだ、幾ら嫌がろうとも揉むなりなんなりしてみせる。
「……」
ところがアリスは全く反応してくれない。おかしいな、そんなはずはない。さてはあれはアリスに良く似た別人なのだろうか。だとしたら早急に確かめなくっちゃ。おっぱいを。
「ああもう、分かったから。そんな目で見るのはやめて」
やっぱりこいつはアリスだった。
とは言え年齢の成長と共にガードも固くなったのか、なかなか触らせて貰えない。はてじゃあ何を分かったんだろうか。私はアリスに体温以外は求めていない。
「何にしても、アンタは巫女なんだから、まずは異変を解決してらっしゃい。そしたら話くらいは聞いてやるから」
「えー。話だけ」
「紅茶くらい出すわよ」
「もう一声」
「我侭言わない」
「もう一揉み」
「しばくわよ」
しょうがない。確かに異変を解決するのは重要だ。まぁ、アリスは約束を反故にするような奴じゃない。ちゃっちゃと異変を解決して神社に着替えと寝泊りセットを持ってこいつの家に行こう。そう考えないと気が持たない。
「じゃあ、さっさと行ってきなさい」
しっしっ、と虫を追い払うかのような手つき。私は責められるのは好きじゃない。レミリアは器用に両方こなせるが、正直羨ましい。私も早くレベルアップしたいわ。
とにもかくにも、アリスに見送られて寒い中再び私は空を飛んだ。
「……しまった。触るのを忘れてた」
シット、苛々するわ。
05.
上空を登るにつれて、何故だか温度が上がっているような気がしたのは、果たして本当に気のせいなのだろうか。私としてみれば目の前で楽しげにしているお嬢様が幻想郷の温度を上げているんじゃないのかと一瞬本気で考えたくらいである。
「おいおい、幾ら私でも三人同時に愛するのは……まぁ余裕だけどね」
先程までの落ち込みようはどこへやら、どうやら目の前に女性が現れればどうにでもなるらしい。知ってはいけない生態というか、性癖を覚えてしまった。
果てさて花弁の元を追って上空を目指すと、そこには見知った顔があった。
まかりなりにも館の主であるお嬢様は、意外な事に多趣味らしい。音楽もその内の一つで、時折騒霊三姉妹として知られる目の前の彼女達を招く事も度々あった。紅茶を嗜みながら音楽に耳を傾ける瞬間だけを切り取れば、なるほど館の主に相応しい姿であると言えよう。
余談になるけれど、普段は専ら鑑賞するだけのお嬢様は、実は演奏も非常に上手である。あまり普段から演奏する事はなく、何かお嬢様の中で節目に当たる時にテラスでバイオリンの弦をひくのだ。何故テラスなのかはお嬢様は言わない。けれど、図書館にいるパチュリー様と地下にいる妹様、両方に聞こえる様に演奏するのであれば、テラスは数少ない選択肢の内の一つであるのは確かだ。まぁ、だからと言ってそれが正解と言うわけではないけれど。
これは試験ではないし、質問でも無い。
なので解答は出ないし、回答出来ない。
ただ、そう思っただけ。
そんな訳で、目の前のプリズムリバー三姉妹はお嬢様の知り合いと言う事になる。
だからお嬢様のこの言葉にも大袈裟に反応する者はいない。黒い服の長女、ルナサはいつもの様に困ったような表情を浮かべ、三女のリリカは苦笑と言うか、半笑いと言うべきか、難しい表情をしていた。
いつもならば長女のルナサが突っ込みを入れるのだが、今日はメルランらしい。ルナサは三姉妹の中では一番暗いので、まぁ、そう言う時もある。
「相変わらずと言いますか、元気ですね」
「当たり前じゃないか。可愛い子が咲夜も入れて四人も居るんだぞ」
「それは、どうも」
律儀にお礼まで言うとは。
しかしお嬢様は妙に上機嫌である。確かに女性は大好きだけれども、いやしかし。
「咲夜。お前も少しは見習いなさい」
「どの部分をでしょうか」
「お前は気真面目すぎるんだよ。もっと捻りを入れなさい」
「例えばどの様な」
「そうだなぁ」
そしてすっと指を三姉妹の方にむける。はて、まさか幽霊になれと言う意味ではあるまい。だとすると音楽の才でも身に付けろと言う事なのか。確かに毎回三姉妹にきてもらうよりは、私が覚えてしまえば手っ取り早いのかもしれない。
しかしお嬢様はそんな事とは全く違うことを言ってのける。
「入れ替わって私を試す位の事をしてみなさい。あの三姉妹みたいに」
「は?」
「……」
「あれ?」
「へ?」
空気が止まる。お嬢様が何を言っているのか分からなかった私と、きょとんとする三姉妹。そして同じく疑問顔のお嬢様。合わせて計五つのクエスチョンマークが空に漂う。
「おいおい咲夜、まさか気づいてなかったのか?」
「申し訳ございません。しかし何故お気づきに?」
「そうだよ、何でわかったの?」
そう口を挟まれて初めて気付く。そんな口調で長女が話すはずがない。彼女は確かに三人の意見を纏める事が多いが、そんな明るい口調では話さない。恐らくはルナサの格好をしたリリカだろう。
三姉妹の所まで歩き、人差し指をくるくると空へ向ける。この方に仕えてきてどの位かは分からないが、これからお嬢様が何をしようとしているかは分かる。恐らくはまた口説こうとするのだろう。目の前に女性がいたら口説かずにはいられないのだ。
だから私は驚かない。
「お前がルナサでお前がメルラン、それでお前がリリカ。だろう?」
どうやらお嬢様曰く、最初にお礼を言ったのはメルランではなく長女のルナサらしい。だとすると、先ほど口を挟んだのはルナサではなくリリカと言う事になり、残る本物のメルランは三女の赤い服を着ていると言う事になる。この際なぜお嬢様が分かったのは良いとしよう。尋ねた所で話がややこしくなるだけだ。
「何故分かったんですか?」
「簡単なことだよ」
私としては、主として品格を持った行動をして欲しい。例えば堂々と外で女性を口説く事や、あるいは今の様に相手に指を向ける事も。
「幾ら外見を入れ替えても、チャームポイントまでは変えられないさ。
ルナサ、お前のしっとりした声は一度聞けばすぐ分かる。
メルラン、三姉妹の中で笑顔にえくぼが出来るのはお前だけだ。
リリカ、お前の一番良い所はその丸い目だ。
お前達全員可愛いなぁ、そんな入れ替わりで私を騙せると思ったのかい?」
そのままルナサとメルラン―見た目ではなく、正確な表現である―の頭を撫でながら、リリカの頭の上に顎を乗せる。やりたい放題とはこの事を言うのではなかろうか。しかし哀しいかな、褒められて嫌な顔をするものなど滅多には居ない。ましてや(従者の私が言うのもおかしな話だが)、お嬢様は美しい。気まぐれだけれど割と器量と言うか心が広いと言うべきか、館の主としては間違った性格をしていない。若干性癖に難があるとは思うけれど、これくらいはと思う女性の方が幻想郷には多いらしい。その証拠にお嬢様に良い様にされている三姉妹は誰一人として嫌がらない。
「さて、本当はもっとこうしていたいんだけど、生憎今は急いでるのよねぇ。
それに咲夜が寂しがっちゃう」
「え、理由は聞かないんですか?」
「ああ、良いよ」
二人の頭から手を離し、ついでに顎も離した。お嬢様ではなく三姉妹の方が名残惜しそうな表情を浮かべているのに気付き、思わず溜息を吐きそうになったけれど、咄嗟にごまかす。
「お前達がどんな格好としていようと、ちゃんと見抜いて愛でてあげるよ。今みたいにね」
やがてお嬢様がこちらに戻ってくる。唯一方的に口説くだけならまだしも、相手を全員その気にさせるのはいかがなものかと思わざるを得ないけれど、主の行為に文句など言わない。
ひらひらとお嬢様が手を振ると、三人揃って手を振り返す光景が見えた。
まったく、やれやれである。
06.
先の紅霧異変において、紅白の巫女・博麗霊夢の毒牙に初めてかかったのは宵闇の妖怪ルーミアと言う子だった。その際に彼女を救ったチルノは妖精の中では一番力が強く、チルノの言う事ならば大抵の妖精は受け入れるらしいわ。ちょっと短気なところが珠に疵だけれど、持ち前の明るい性格は皆に評判と言う事なの。
そのチルノ曰く、またあの巫女が異変を解決すべく出歩いていると言う。おかげで毎年春を告げる為だけに幻想郷を飛び回るリリーホワイトも姿を隠していて、このままでは霊夢の評判が悪くなってしまうんじゃないかと不安になってしまう。
「心配しすぎよ、紫」
「幽々子」
ここは友人である幽々子の自宅である白玉楼。その縁側でのんびりとお茶をすする彼女に、一瞬だけ霊夢の姿を重ねてしまって、頭を左右に振る。
「ああ、お茶がなくなっちゃったわ。やっぱり妖夢をお使いに行かせたのは失敗だったわねぇ」
分かってたくせに。全てを理解しながら惚けたふりをするのは幽々子の得意技だ。
「はいはい、私が淹れてきます。ところで、妖夢をお使いに行かせたのは何でなの?」
「ありがとう。ちょっと思うところがあるのよ」
「まぁ、良いけど」
彼女お抱えの庭師である妖夢は今居ない。幽々子はお使いと言っているけれど、唯の口実だろう。問題なのは、彼女とて異変を解決するべく霊夢がここに来ることくらいは分かっているはずなのに。何故妖夢に席を外して貰ったのだろうか。良く一緒にお茶をしたり相談にのってもらったりはしているけれど、幽々子の真意を計りかねる事は度々ある。
とは言え、言葉も表情も惚けるのに長けている幽々子だけれども。何となく今の幽々子の心持が分からないでも無い。
幽々子が他人に分かる様に笑顔を浮かべている時は、大半が楽しくない時だ。本当に楽しんでいる時は、扇子で表情を隠してしまう。
さて、そうするとどうして幽々子は不機嫌なのだろうか。それも庭師の妖夢に席を外させてまでの立腹とは一体なんだろう。幽々子が不機嫌なのは分かったけれど、その理由までは分からなかった。
「ねぇ、幽々子」
だから私が幽々子に話しかけようとした時。
突然幽々子が立ち上がった。目線は地上への下り階段へ向けられていて、つまり誰かがここにきて居ると言う事になる。そしてこの状況で白玉楼を訪れる者など限られていて、幽々子の表情や仕草からして、庭師の妖夢ではないだろう。
だとすると。
「探したわよ」
「来たわね……貴女が巫女の」
果たしてそこには、見慣れた紅白の巫女服があった。普段の不真面目な様子はそこには無い。いや、決して霊夢は不真面目じゃない。唯、真面目な表情で変な事をしたり言ったりするのが困るだけだ。黙っていれば綺麗なのに、どうしてああなったのだろうか。何年考えても分からない問題が身近に出来るなんて、賢者も名折れしてしまいそうだった。
普段と違う様子を見せているのは霊夢だけではなく、見ると幽々子もまたすっと目を細めていた。口許に扇子をやるのは癖なのだろう。ピリピリと肌が震える。そこでなんとなく思う。
(もしかして幽々子は、霊夢に怒っているのかしら?)
私よりも早く霊夢の気配を察知したり、今の目つきを見るにそう感じられるけれど。
「聞きなさい、紅白の巫女。貴女さんざん紫に破廉恥な事をしているらしいわね」
「……」
珍しく霊夢が黙って話を聞いている。と同時に、ようやく合点が行った。
なるほど確かに、私が幽々子に相談する多くは霊夢の事だった気がする。
私があまりそう言う方向の話が好きではない事も幽々子は分かってくれているのだろう。
つまり幽々子は、親友として私を困らせている霊夢を懲らしめるつもりなのだ。
(幽々子……)
思わず胸が熱くなる。ほぼ家族と言って良いだろう私の式やその式に、まさかそんな相談も出来ず、こう言った恥ずかしい話は幽々子の前でしか出来なかったので、幽々子が真剣に考えていてくれたからだ。
「随分とやりたい放題やる巫女ね。でも貴女は分かっていないわ」
霊夢に私が何を言おうとあまり聞いてくれない。だからこの際、幽々子に一言厳しく言って貰おう。霊夢だってもっとしゃんとしてくれれば、魅力的な女の子なのだから。
「それはね……紫は、私の恋人なのよ!」
「な、なんですって!?」
あれ、おかしいわね。
「だから紫に手を出すのは止めて頂戴、いい迷惑だわ」
「突然そんな事を言われてはいそーですかなんて言える訳ないでしょ」
危ない危ない。一瞬だけ霊夢に賛成しそうになったわ。
珍しく幽々子も怒っているから、きっと言葉回しが微妙におかしくなっているに違いない。そうでなければ、幽々子が何を言っているのか全く理解出来なくなってしまう。いや、むしろ今まで信頼して幽々子に全てを相談してきたのに、まさか、そんな。
「なら争奪戦といきましょう。来なさい紅白の蝶!」
「良いわ、ついでに揉みしだいてやるわ春の亡霊!」
何故語尾を格好良くしたのよ。そこだけ聞けば凄く真面目な二人じゃない。
まさか数少ない理解者である幽々子まで霊夢側だったなんて。あ、いけない、泣きそう。
「藍」
「なんでしょうか、紫様」
こうなったらもう自らの式しか頼れる人材は居ない。争いを始めた二人を視界に入れないように、藍だけを見据えて指示を出す。
「あと二人ほど此処にやってきます。迎え撃つわよ」
「御意」
「そ、そんな……今まで揉んできた中で一番良いおっぱいじゃない。やるわね、アンタ」
「なるほど貴女は私と逆で揉む側が好きなのね。なかなか良い揉み方をするじゃない」
何も聞こえない。私は何も聞いていない。
少しでも気を抜いたらもう挫けて泣きそうだったから、二人の事は考えないことにした。
先程は幽々子に後れを取ったけれど、今度はそうはいかない。あと二人ほどこの白玉楼に来ているのがはっきりと分かる。霊夢の話によると、前回の紅霧異変を切欠に、異変の主である吸血鬼と仲良くなったと言う。あまり霊夢の口から特定の人名を聞く事は少ないので、もしかしたならばその吸血鬼、レミリアがこちらに来ているのかもしれない。霊夢と仲良くなっていると言う時点で、そこはかとなく嫌な予感がするけれど、杞憂の可能性だってある。旧知の仲である魔理沙は普通だし、アリスに至ってはむしろ霊夢に会うのを避けている節があるのだ。だからレミリアもあって実際に話をしない限りは分からない。
「紫様。他に何かご命令はありますか?」
「いいえ、無いわ。そこに居なさい」
「かしこまりました」
ああ、やっぱり頼れるは身内よね。霊夢も幽々子も見習いなさい、この藍の態度を。
「随分賑わってるねぇ」
「招待状を出した記憶は無いわよ」
「そこに良い女がいれば呼ばれてなくても駆けつけるさ」
もうやだこの世界。皆してそんなに私を泣かせたいの?
紅い吸血鬼も霊夢側だった。横に控えているメイドは一言も発していないので分からないけれど、止めずに仕えている時点でどうせ似たような性格だろう。
レミリアは辺りを見回したかと思うと、やがて霊夢と幽々子を見つけたらしく、満面の笑みを広げる。
「霊夢、私も混ぜてよ」
「レミリア。どうしたのこんなところまで」
「お前が居るからに決まってるじゃないか」
「もう……」
息を切らしながらの攻防をしている霊夢と幽々子の間に割って入るレミリア。弾幕も張っていないのになぜ息を切らしているのかは分からないし、ついでに言えば触られる側の幽々子が平然としていて触っている側の霊夢が押され気味なのも謎だった。先程までは不機嫌だった幽々子は、何があったのかすっかり上機嫌だ。謎だったけれど、深く突っ込んではいけない気がしたので、残されたメイドに目をやる。
「紫様、ここは私にお任せ下さい」
正直今の状況に頭が追いついていないので、藍の言葉は渡りに船だった。私の最後の心の拠り所なのだから、ここは精一杯頼ろう。
藍の言葉に頷くと、私の前に藍が立ち塞がる。
「私は八雲藍。この紫様の式だ」
「十六夜咲夜です。レミリアお嬢様のメイドですわ」
「メイドが主を放ってはいけないな」
藍の言葉に咲夜と名乗ったメイドが一瞬だけ目を逸らした。はてどこかで見た事がある目だなと思い、ああ鏡に映った自分の目と一緒だと気付く。なるほどレミリアが霊夢側なので、彼女は私と一緒で振り回される側なのだろう。もしそうだとしたら、彼女とは話が合いそうな気がする。一番の親友である幽々子までがああだった以上、一人でも境遇を理解しあえる仲間が欲しい。ついでに言うと、私友達少ないし。以前は幽々子に相談していたけれど、今度からは相手を選ぼう。
「お嬢様は実力者ですから」
「単に混ざりたくないようにも見えるけれど?」
「さあ。どうでしょうか」
何だか私自身が問いただされているみたい。いや、決して藍はそんな子じゃないけれど。
「む、確かに良い乳だな」
「でしょ? いや、本当」
「ふふ、紫だって私にゾッコンよ。貴女、紫に触られた事ある?」
「く、私だってちっさい時一緒にお風呂に入った事あるもん!」
「おい霊夢、そいつは初耳だぞ。私以外の誰と入ったんだ?」
「私は紫に耳掃除してもらった事もあるのよ」
「わ、私だって……!」
実に不健康な会話だわ。もし咲夜が藍の言う通りの理由で主から離れているなら、相当の共感を覚える。加えて言うと、本当に幽々子の事は信じていたのに。お風呂も耳掃除も頼まれたからやっただけなのに。何だってこんな仕打ちを受けなくちゃいけないのよ。
「良いかい、主あっての従者よ」
「そうですか」
「貴女は愛想が無いわね。忠誠心もないんじゃなくて?」
「いいえ。毎日それはそれは多くの命令をこなしていますわ」
「へぇ。ちょっと羨ましいわ」
「はい?」
「紫様はあまり私に命令をする事が無いのよ。
朝は私より早く起きられて朝食をお作りになってしまうし、
掃除や洗濯もなさろうとする。お風呂を沸かしても一番風呂に入って頂けない。
だからもっと私に命令して欲しいものだよ。なんと言うか、足蹴にして欲しいわ。道具みたいに使われるとぞくぞくするもの!」
「……一日交換してみますか?」
「魅力的な提案だけれど、出来ないわ。あくまで私は紫様に色々されたいのよ」
「紫、私と幽々子どっちを選ぶの!?」
「当然、私よね?」
「紫様、さぁ私に命令を!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
幽々子も藍ももう知らない。
白玉楼で未だ言い争っている面子を放って、私は一人自宅へ戻った。
そして一人、机に突っ伏して泣き明かした。
幻想郷に春は来たけれど、
私の周りには春が来ない。
誰か助けて頂戴。
07.
「咲夜」
「どうかなさいましたか、お嬢様」
「先日異変を解決した時の事なんだけどさ」
「はい」
「九尾の狐の従者が言ってたんだけど、もしかして無理してないかい?」
「……いいえ。私は従者としてしかるべき事をしているだけですわ」
「言いなよ。それともお前の主は、お前の小言も許さない程度の器量しかないのか?」
「……では、一つだけ」
「一つで良いのか?」
「誰が何を言おうと、お嬢様に家事をさせる訳にはいきませんわ」
「意地っ張りだねぇ。で、その一つだけの言いたい事は?」
「毎朝六時五十分に起きてください」
「随分具体的だねぇ」
「私の朝食の時間です」
「……は」
「いつも朝食は一人なんですわ」
「OK! 五時に起きるよ!」
周りに振り回されるゆかりんというのは最近の本家でもそれっぽくなってますが、ここのゆかりんは別の意味で振り回されてますね。ご愁傷様です。
さて、妖夢がどんな性癖なのか楽しみだ。
たがいいぞ、もっとやれ
ぜひ第三者視点で観察したいものだ。
…しかしこのままだと緑巫女も餌食に…w
このレミリアならハーレム作ってても許せるwww
「んーゆかりんエエ手つきしとるのー…どら、おいちゃんももみもみしちゃるけぇ、こっち来んしゃいや」
てな事になっているに100ガバス
ゆかりんよ、朱に交われば赤くなると言うてな…ククク
なぁにこのステキな世界
続きを猛烈に期待せざるを得ない。
相変わらずのゆかりん☆ファンタジア!
永夜抄編楽しみにしてます!
霊夢さんパネェっす!
しかしこの作品が風神録までいってしまえば、いくら霊夢やレミリアでも許しちゃおけねぇぜ、マジで
どことなく爽やかなジメジメした変態が素敵です
霊夢にレミリア、揉まれたがりの自称恋人ゆゆ様とゆかりん専用ドM藍も追加されて…さらなるカオスですねw
相変わらずゆかりんは愛されてるなあwwww
流石です!お嬢様!
それにしても紫を応援せざるを得ない。こんな世界でも幻想郷を嫌になっちゃだめえええ
以下、気になった点をば。
辛くなって指を話す。 -> 辛くなって指を放す。
揉みし抱く光景は -> 揉み拉く(しだく)光景は
実感は沸かなかった。 -> 実感は湧かなかった。
紅夢異変の際、 -> 紅霧異変の際、
隠れ変態が二人も見つかったのにこんな状態で永夜抄とか紫様は覚悟決めるしかないなw
相変わらず紫様が純情可愛い、そしてレミリアがイケメン可愛い