Coolier - 新生・東方創想話

メンカイシャゼツ

2010/10/01 10:29:13
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※前作「ゴメンナサイ」の続きになります。
 単品でも話として(多分)成立しますが、ご注意ください。






紅魔館には数多くの従者達が住み込みで働いている。
その多くはお世辞にも要領がいいとは言えない妖精達だ。
簡単な仕事ならまだしも、少し複雑な仕事となると安心して任せられるのは一握りとなってしまう。
しかも大部分の者達がサボり癖まであるのだから始末におえない。
そのため紅魔館に住む妖精以外の従者の仕事量や、それに伴う負担は大きくなってしまう傾向がある。
それは妖精でも妖怪でもなく紅魔館で唯一人間をしているメイド長・十六夜咲夜も例外ではない。
いや、例外どころかその役職や能力のために、従者の中で最も忙しい立場にいる。
測定されたことがない、もしくはそれが不可能のために確認されていないが、
労働時間が一日に二十四時間以上という矛盾を大量生産しているとまで噂されている。
この噂について本人はやんわりと否定しているが、噂が絶えないあたり部分的に真実を含んでいるのだろう。
しかし、噂の真実度はこのさい捨てておいても、彼女が多忙であることは紛れもない事実なのだ。


それは門番である紅 美鈴が重傷を負った今でも変わらない。
咲夜は罪悪感に苛まされながらも日々の従事を怠ることを是としなかった。
血塗れの美鈴が医務室に運びこまれ、一週間が経とうとしてもその意思は揺るがない。
約一週間、咲夜は美鈴の顔を見ていない。青白く悲しげな顔を最後にして。
咲夜は何度も見舞いに行こうとした。しかし、それがなされることはなかった。
仕事の合間に医務室の前まで行くことはしても、その扉に掛る札がそれを邪魔するのだ。
『面会謝絶』その木札に書かれた四文字が咲夜の行く手を阻むのだ。


※※※※※





ここ数日、私は思考に隙間ができると同じことばかりを考えるようになった。
それは掃除や洗濯など、もはや完全に無意識でこなせる仕事をしている時に多い。
少なくともお嬢様達と対面もしくは、お側に控えている時は仕事に集中できる。
しかし、ひとたび一人になると私の思考の全ては、美鈴のいる医務室の方へと向いてしまう。


あの日を境に私は美鈴の姿も声も見聞きできなくなってしまった。
半ば自暴自棄になった私を庇い美鈴は腹部に重傷を負ってしまったのだ。
その傷の凄惨たるや、生命力や回復力の勝る美鈴をして危険な域だった。
また治療にあたったパチュリー様の話によると、傷そのものの深刻さに加えて、
異形の爪に付着していた雑菌や毒素が原因で美鈴の回復は大分遅れているらしい。


もし美鈴が庇ってくれなければ私はこの世にはいないだろう。
この世の理として命を救ってもらったのだから、何かしらのお礼をしなければならない。
それは素直な感謝でもいいだろうし、別に懺悔に近いものでもいいと私は思う。人それぞれだ。
私の場合は性格からして後者になるだろうけど、きっと美鈴の性格なら前者の方を望むだろう。

決定的にかみ合わないのだ、私達は。

そう思うと少しおかしくて寸暇だけ微笑んでしまうが、その後には激しい自己嫌悪と罪悪感がくる。
「なんで笑えるのだ、お前のせいで美鈴は死にかけたのだ。
せっかく美鈴が料理を作ってくれたのに、自分勝手な理由でそれを台無しにして、
あまつさえそれを受け入れられずに自暴自棄と化し、その尻拭いの全てを美鈴に押し付けた」
私を責め立てるその声は私自身のものだったり、美鈴や誰か知らない者の声だったりそのつど違う。
しかし誰の声かに関系なく、仕事中だと私は歯を食い縛る必要があり、顎が痛くなってしまう。
その点、就寝前に声が聞こえると嗚咽に耐えるだけで済むので多少は楽だ。寝付けなくなるが。
自分の正確な年齢は知らないけれど、体をくの字にして枕に顔を埋める姿は傍から見て滑稽にちがいない。

私は一刻でも早く美鈴に全てを謝りたい。
それがお嬢様に仕える以外の生きる意味と化してきている。
特に例の噂を聞いてからはそれに拍車がかかってきた。




「さて、今日の分は終了」
辺りには私以外には誰もいない。
それでも声を上げてしまうのは、自己確認に他ならない。
意識的に声を出さなければ孤独に憑き殺されそうな感覚に陥るようになった。
昔は当たり前だったモノが、今では恐くて正視できなくなっている。

立場や役職、そして種族を考えれば私は紅魔館でも孤独であることに気が付いてしまったのだ。
お嬢様達は私によくしてくれる。私の自惚れかも知れないが親愛の情を感じることだってある。
しかしそれは遥か上から下賜されるもので、間違っても対等なものではない。
妖精メイド達は直接の部下だし、図書館で使える小悪魔も間接的な部下に近い関係だ。
そういった意味を含めれば私と対等な者など紅魔館にはいないのだ。

そんな中で美鈴だけは例外的に対等に近い立場でいてくれた。
日常的には部下みたいな扱いをする時もあるが、本来は内勤と外勤の長として対等な役職だ。
どういうわけか、代々慣例的に内勤の長の方が全体をまとめるようになっているらしい。
昔なにかあったのだろうか。


それはともかく一日の仕事が終わった。
少し前までは仕事の後は、お風呂で汗を流して食堂で栄養を補給し就寝するだけの時間だった。
それが一カ月前から数日前までは、美鈴への差し入れを考えたり、作ったりする時間が増えた。
仕事の合間に美鈴と二人きりでお菓子を食べる時間まであった。
今思えば夢みたいな時間だった。しかしそれも今では儚く消え去ってしまった。
その代わり仕事の終わりに医務室の前に向かう時間ができた。
『面会謝絶』の札が無くなっていないか、その確認のためだ。


※※※※※


『面会謝絶』と銘打たれた木札だが実際は完全に室内と室外を絶っているわけではない。
妖精メイド達の間でもかなり噂になっていて、私にすら届いているものがある。
細かな違いの見られる亜種も多くあるが、共通部分を掻い摘み要約すればこうなる。
「医務室に自由に出入りする者がいる」といった噂だ。


――私は選ばれなかった。
これが最初に噂を耳にした時、私の抱いた感想だ。
不思議な事に感想は抱いたけれど感情は湧いてこなかった。
元来、私の性分は淡白だ。だけど一喜一憂するくらいの感受性はあった。
気が付くとそれが見事に枯れてしまっていた。涙も出なかった。

医務室に出入りしているのは、おそらく件の妖精メイドだ。他に思い当たる者はいない。
美鈴のために料理を一から練習したくらいなのだから、毎日健気に見舞っているにちがいない。
そして美鈴もそれを深く望んでいるのだろう。
でなければ『面会謝絶』の木札を特定的に解除するわけがない。



私はあの一件で完全に終わったのだと痛感した。
いや、終わったという意味ならもっと以前から終わってしまっている。
美鈴と初めて会った瞬間からもう終わっていたのだ。
私は始まりすらなく終わりを迎えていたのだ。

もしかしたら、ほんの少しくらいは美鈴に喜んでもらえたかもしれない。
だけど、仮にそうだとしても私が美鈴に与えた悲喜を天秤にかければ、どちらの皿が地面に近づくかは明らか。
秤は一切の情け容赦なく私の犯した罪を教えるだろう。
結局のところ、ここ最近の私の言動など、過去を思えば巨象の前の虚像に過ぎないのだ。
何度も執拗に切り刻み傷つけた後、たった一滴の薬をたらしたところでその刃傷が消えるわけもなく、
むしろ傷口を刺激してまた別の苦痛を与えるだけなのだ。

そして終わりの最後に生命までも脅かす深く大きな傷を与えた。
美鈴のお腹の裂傷は私が切り裂き穿ったのと相違がない。
そんな不倶戴天ともいえる私を美鈴が選んでくれる理由など露一つも無いのだ。


もうどこかに逃げてしまいたい。
害悪を振りまくだけ振りまいて逃げる。
ドブネズミの私に相応しい所業ではないか。

ここ数日だけで何度この誘惑が脳裏をよぎっただろうか。
それでも私は依然として紅魔館に、お嬢様に仕えている。
主人がお嬢様以外の俗物だったなら、私は尻尾を巻いて屋敷から去っていると思う。
私が紅魔館にいるのは、お嬢様への忠誠心を他にすると美鈴への罪悪感だけ。
もし元気になった美鈴に一言赦しを請えて、尚且つお嬢様から必要とされなくなれば私は野に帰り、
そして市井に埋もれるわけでもなく、ドブネズミらしく孤独に野たれ死ぬのを甘受するつもりだ。


※※※※※


幸か不幸か木札は扉にかけられたままだった。
急遽用意されたのだろう拙い字で『面会謝絶』と彫れた木札がランプの明かりを反射している。
私はなんとなしに扉に近づき、その木札を手にとってみた。
医務室が正式な病院ではないためか、その木片は薄く里の子供達でも作れそうなくらいの代物だ。
こんな玩具みたいなもので美鈴に会って謝れないと思うと、ひどく自分が情けなくなってきた。

えっ

誘われるようにドアノブを握る自分に気が付いた。
あともう少し手に力を込めてドアノブを捻ってやれば、おそらくにぶい音をたて扉は開くだろう。
そうすれば美鈴の顔が見られる。メイド長という役職を言い訳に使えば誰にも文句は言われない。
新しいシフト構成など仕事の関係でどうしても会う必要がある。
従者の長として負傷した部下を見舞う義務がある。
次から次へと自らの行いを正当化する禁断の甘い果実が脳内に浮かんでは泡沫(うたかた)のように消えて行く。
そしてそれが浮かべば浮かぶほど、ドアノブを握る手に力は込められていき穢されていく、
力と欲望を得た手はしだいにドアノブを捻りはじめる。カチャと扉を閉める止め具が外れる音がした。
あとは手前にドアノブを引くだけで目の前の扉が開き、室内に入って美鈴に会える。


その段階になって私は脱力してドアノブから手を離した。カチャと止め具が閉まる音がした。
あやうくお嬢様から授かった役職を、うす汚い行為の言い訳に使うところだった。
今更ながらそう思い、羞恥心と背徳心に胸を抉られ動悸が激しくなるのを感じた。
なんて卑しいのだろう、私は。


医務室の扉の前で茫然と立ったまま、どれくらいの時間が経ったのだろう。
ずっと私は木札の見つめたまま、自らが犯そうとした過ちを反芻していた。
思い返せば思い返すほど自分の迂闊さと浅薄さに嫌気がさす。
お嬢様に対しては言わずもがな、美鈴に対しても潔癖であろうとしたのにこの醜態だ。
どんな激務でも平気だったのに汗で背中が冷たくなってくる。
いよいよ私の終焉は近いのかもしれない。
もう今日はこのまま部屋に戻って寝てしまおう。
そう思って私が木札に背を向けた時である。

「さ……さくや……さん?」

医務室から声が聞こえてきた。
少し弱々しいけれど聞き間違えるはずもない声だ。
激しくなっていた動悸が更に激しくなり、頬を冷たいものがつたう。
気配に敏感なのは衰弱していても変わらないらしい。

「そこにいるの。咲夜さん、ですよね……?」

私が何も言えずにいると、医務室からの声は先よりも力強く私の名を呼んできた。
そのほがらかな声で万が一の聞き間違えでも空耳でもなくなった。
美鈴が私の名前を呼んでくれているのだ。それだけで私の体は小刻みに震えはじめる。
返事をしたい。そして出来れば顔を見たい。
そう思っていても、今の自分にその資格がないことは重々承知している。
私は主人すら裏切ろうとした卑怯者なのだ。
温かな陽光は紅の月光と同じくらい、今の私に相応しくない。

だから私は何も返事をしないで、その場から去ることにした。
胸の内に新たな罪悪感を抱きながら。





医務室の扉前をあとにして私は一人廊下を歩く。
少し前まで私の後ろ髪を引いていた医務室からの声はもう聞こえてこない。
とうとう声の主は諦めたか、気のせいかと思ったらしい。
だんだんと小さくなっていった声を餌に、胸の内の罪悪感はどんどん肥大化していった。
胸を掴む様に押さえてその痛みを和らげる。口からも呻きが漏れる。
だけどあまり効果はないみたいだ。痛みは和らぐどころかどんどん大きくなっていく。

自制の限界が近い。
一秒でも早く部屋に戻り、誰にも会わず朝まで引き籠ってしまいたい。
私の足は自然と早くなっていた。
胸に手を当てたままで早歩きで薄暗い廊下をゆく。
能力を使ってもよかったが、それでは部屋に戻る前に自制が途切れてしまう。
時を停止させれば誰にも感知されないが、それでも自室以外で弱さを吐き出したくない。
だからランプに照らされた絨毯に影を落としながら私は部屋へと急ぐ。


医務室は紅魔館の中でも居住区から離れているため、誰かと擦れ違ったりすることは本当に稀なことだ。
実際ここ数日間、医務室の扉前までの行き来で誰かと会ったことは一度もない。
特にここ数日に限らないでも、医務室へと続く廊下が人通りの少ないことは変わらない。
それなのに今晩はその「稀」を引き当ててしまったようだ。
部屋へと逃げ帰る私の前に広がる薄暗がりから誰かが現れた。

お互いが顔を確認しあえる距離になると私も彼女も足を止めた。
その誰かは偶然か必然か件の妖精メイドだった。

私と鉢合わせになったのは偶然だろうが、彼女がここを通るのは必然にちがいない。
彼女は紅魔館の従者の中でただ一人『面会謝絶』の結界をすり抜けられるのだから。
きっと仕事が終わり医務室へ見舞に行くつもりなのだろう。
私なんかとは違って堂々と扉をくぐり、後ろめたさなど感じず美鈴と対面できるのだ。
それは選ばれた者の権利。
選ばれなかった私がどんなに欲しようと、決して得ることのできないものだ。

意外にも先に動いたのは私だった。
私は彼女を路傍の石の如く気にせず擦れ違うことにした。
もし私の方が選ばれていたのなら、勝者の毅然とした態度で風格があるだろうが、
いかんせん私は敗者だ、見ようによっては負け犬の遠吠えにも似た不甲斐なさがある。

私が歩を進めはじめたのに彼女に動きはない。
薄暗いせいで互いの顔は確認できても表情までは判別できないが、
きっと彼女は余裕に満ちた心のままで、私に警戒の目を向けているのだろう。
あれほど美鈴に入れ込んでいるのだから、私が美鈴に何をしてきたのかも知っているはずだ。
虫の居所が悪いと何をするか分からない。そんな認識をされていても文句は言えない。

「なんで、あなたがここにいるのですか……?」

私と彼女の位置関係が反転し、お互いに背を向けあうようになってすぐのことだ。
意を決したような声が背中に届いた。恐怖と怒りを隠し切れていない震えの残る声だった。
私は当てつけとばかりに落ち着いた声を作る。

「医務室まで行ってきたからよ」
「面会謝絶のはずですが」
「それが解かれていないかの確認よ」
「また……美鈴さんを傷つけるおつもりなのですか?」

ここまで露骨に言われたのは初めてのことだ。
彼女は私の役職を忘れるほどの、明確で激しい敵意を私に向けているみたいだ。
真っ直ぐなその姿勢には、少しばかりの羨ましさすら感じる。
それでも言い返せないほど私は卑屈にはなっていない。
闘牛をいなす闘牛士のように、あくまで冷静な声を作る。

「私のせいだからよ。だからこそ見舞いをしないといけない」
「そう言って何度も何度も。どれだけあの人を傷つければ……!」
「犯した罪は、私が一番知っているわ。そしてそれはあなたに関係ない」
「そう思っているのは……あなただけです」
「おかしな事を言うのね。もしかして、あなた閻魔様なの?」
「あなたが犯した罪を一番知っているのは……他でもない美鈴さんです」
「……確かにそうかもしれない。だけどあなたよりは知っているつもりよ?」
「誰もあなたより、あなたの罪を知っているなんて言いませんよ。ただ……」

互いに背をむけ合っているので相手の表情どころか様子すら見えない。
それでも私は彼女がどんな気持ちでいるのか、手を取るように分かる。
彼女の胸中を占めているのは優越でも嘲笑でもない。
彼女は純粋なまでの怒りを持って私と背を向け合って話しているのだ。
恐怖すら忘れたそれには、もはや憎悪に近いものすら感じる。

「ただ……あなたが意識すらせず犯した罪を多々知っているだけです」
「何を言っているの……?」

嫌な予感がした。

「先の冬。美鈴さんが必死になって編み物をしたことを知っていますか?」
「……知らないわ」

そうでしょうね、彼女は一呼吸おいて続ける。

「今でもよく覚えていますよ、秋を感じはじめた頃でした。
前触れもなく美鈴さんが私の部屋に来てくれたんです。
編み物を教えてくれって、同僚の子から私が得意だって聞いたと。
最初は突然の来訪に私は胸が躍りましたよ。
美鈴さんは手袋の編み方を教えて欲しいと言われました。
そこで私は初めてで編むのでは大変だから私が編みますと提言しました。
そうしたら美鈴さんはプレゼント用だから自分で編みたいと言ってきました。
嫌な予感がしましたよ、誰へのプレゼントか聞きたかったです。
だけど嫌な予感が当たると嫌なので我慢して、美鈴さんに編み物を教えました。
料理に関してもなんですが、あの人は基本的に不器用で余裕を持って作り始めたのに
手袋が完成した時にはすでに真冬になっていました。
本当は冬が始まる前に完成させるのが目標だったのに。
それでも美鈴さんの笑顔を見られて私は満足でした。それなのに……」


美鈴がそんなことをしていたのかと驚くばかりの私の背後から、強く歯が軋む音がした。
ただ疑問に思うのは先の冬といえば、すでに美鈴への態度を変えた後のはずだ。
自分で言うのもなんだが、そうそう大きな過ちを見逃すわけがない。


「それなのに、帰ってきた美鈴さんの顔は……渡しに行った時は笑顔だったのに……
何があったのか聞いても、美鈴さんは何も応えてくれなかった。
ただただ大丈夫だからと、無理矢理な笑顔で曖昧にするだけで……
美鈴さんからは何も訊けなかったけど、それから数日後に私は真相を知った。
美鈴さんが落ち込んでから数日後、偶然に会ったあなたが真新しい手袋をしていたんですよ。
当然気になって同僚の子に尋ねたところ、その日の前日に買い出しがてら里で買われたと聞きました。
私は美鈴さんに問い詰めました。何があったんですかと、それこそ自分の立場を忘れて激しく
そうしたら教えてくれました……自分が下手くそだったから……だから悪いのだと」

背後から嗚咽が聞こえてきて、しばらく続いた。
それが終わるとまた背後から彼女の声がした。

「まだ思い出せませんか……? このまま全部話してしまってかまいませんか? メイド長」

確かあの日、私は焼却炉でゴミを処分していて、寒さで手がかじかんで大変だった。
そこに薄着のままの美鈴がやって来て、その手には何かがあって……
てっきり私は……美鈴の手からそれを取って、そのまま炉に……
美鈴の方に向き直ると寒そうに体を震わせていたから、炉で暖まるように言って……
無言のまま二人で炉の中の揺れる火を見つめ続けた……あの時、美鈴は……
それで数日後の買い出しの時に、私は里で新しい手袋を……

「そ、そんなの……。嘘よ……」
「嘘なんかじゃありませんよ」

背後からの声が私の胸を突き破る。
すでに呼吸は乱れ、その不格好な旋律が耳まで届いている。
空気を求めて暴れる胸が苦しい。
過ちを鮮明に再生する頭が痛い。

「まだ終わりじゃありませんよ、あなたの知らないあなたの罪は」

そう言って彼女は、私が無自覚のうちに犯した罪を紡ぎはじめた。

「この屋敷の庭園はずっと昔から美鈴さんが半ば趣味で管理しています。
 そのためかレミリア様もこの庭園に関して言えば美鈴さんに一任されており、
 なんの花をどう植えるかは美鈴さんの自由となっています。もちろんご存知ですよね?」

急にまるで新任のメイドに説明するような口調になった。
そうしないと彼女も感情を抑えきれないのだろう。
それに私は苦し紛れに無言で応える。
美鈴が管理しているのは知っているが、そこまでの権限を持っていたのは知らなかったから。
庭園の花とその色はお嬢様がお決めになられることだと思っていた。

「三つ前の年に美鈴さんはどこからか非常に珍しい種を手に入れてきました。
 美鈴さんはその種を庭園ではなく、はじめは自室で育てはじめました。
 どうやって世話をすればいいのか、わからなかったためです。
 それから美鈴さんは毎日のように図書館に通っては花の資料とにらめっこして
 ついに二輪の花を咲かせました。それは私も見せてもらいましたが青と白の……バラでした」

お嬢様は赤系統の色を好む。それは色が濃ければ濃いほどお気に召される。
庭園にも真紅のバラが一番目立つように植えられていて、バルコニーやお嬢様の部屋の窓からもよく見えるので、
それらを眺めながらお嬢様は日々をお過ごしになられている。

「美鈴さんは残った種を庭園の一角にまかれました。レミリア様の好む真紅のバラの傍らに。
 青と白のバラは順調に育ち蕾をつけ、そのまま順調にいけば美しく咲くはずだった……
だけど、とうとう蕾も開きかけ、あと少しでバラは美しく咲くといったところにきて、
美鈴さんは自らの手でその子達を刈り取るはめになりました……花の色が赤ではないというだけで」

彼女は一度そこで話を切った。
私はふとすぐ側の窓の方に目を向けた。月が明るいので空は青白く雲まで見える。
ランプと月光に照らされる窓に私の姿がうっすらと映る。
窓には青を基調としたメイド服を着た、白とも銀ともとれる髪の私がいた。

「刈り取られたバラ達はそれから数日間は門番の詰め所の近くで乾燥させた後に、
 焼却することになりました。私は移植を提言しましたが美鈴さんは頷いてくれなかった。
 それから数日の間、美鈴さんは自ら植え自ら刈ったバラの亡骸を見ながら門の前に立つようになりました
 美鈴さんは何を思ってそこに立っていたんでしょうか……後悔、憐れみ、それとも花達に対する懺悔?
 刈り取って燃やすまでの終始……美鈴さんは気丈な様子だったので本心はわかりませんでした。
 それでも最後……花達の火葬の途中に一度だけ、ゴメンね……と言葉を漏らされました」

流れる雲が月を隠して夜空が暗くなる。
外が暗くなった分だけ窓に映る私の影が少し鮮明になる。
私が纏う青と白、それらの部分がやけに強調されていく。


「もうご理解頂けましたよね? 誰が美鈴さんにバラ達を殺すよう命じたのかを」





※※※※※





彼女との会話の後、どうやって部屋まで戻ったかは覚えていない。
毅然とした反論が出来たとは到底思えず、おそらく尻尾を巻いて逃げてきたのだと思う。

自室に戻った私は、あっという間に水受けを空にしてしまった。
それでも喉の渇きが潤うことはなく、逆に渇きを強くしていくようだった。
飲めば飲むほど乾く喉は、まるで私の境遇にも似ている。
美鈴について知れば知るほど、私の罪の数は増えていくから。
ベッドに倒れ込みながらふとそう思った。

彼女の口から出るものに紛い物はなかった。
その全てが確かに私の犯した罪の断片だった。
私が無自覚のうちに美鈴に与えた傷すらも彼女は弾劾してきた。

私にとって自らの罪の全てを記憶することで、歪ながら美鈴への懺悔としてきた。
それが根底から覆され否定された。無自覚の罪が多過ぎるのだ。
その数の多さから考えるに、彼女さえも知り得ていない罪も相当な数になるはず。
そしてそれらの罪の遍く全ては美鈴へと向けられ、美鈴を傷つけてきたはずで、
私が思っている以上の、遥かに多くの傷を美鈴はこれまで受けてきたことになる。

もしかしたら今現在も何らかのかたちで、私は美鈴を傷つけて入るのかもしれない。
美鈴だけが私の犯した罪を正確に、その身を削ることで数えられるのだ。
私が懺悔を終えるためには、美鈴にその記憶を分けてもらう他なくなった。
だけどそれは美鈴を再び傷つけることに相違ない。

何もかもが空回りどころか逆効果になってしまう。
私の一挙一動一言が美鈴に害悪をばら撒いているようにすら感じる。
完全に終わり切ってしまった、私はどう足掻いても罪を刻む込むことしかできないのだ。

「うっ……あっ……」

我慢してきた嗚咽が漏れ出しそうになる。
涙はすでに頬を濡らしているが、声だけは出したくない。
それが何の意味も持たず、何の解決にもならないことは重々承知している。
私に残された最後の矜持のつもりなのだ。

「ひぃ……くっ……ぎぃ」

自分の腕に喰い付き漏れ出す声を噛み殺す。痛みで残った矜持を庇う。
感情を抑えるのではなく、別の感情で上書きするために顎に力を込める。
新しく芽生えさせるモノは、情けなく滑稽な自分への怒りと悔しさ。
そうして感情の向かう先を美鈴から、自分自身へと変換していく。

「ぎっ……ぐっ、ぐっ……」

感情変換の過程において、力み過ぎた犬歯が皮を破いて肉に食い込む。
皮膚の上をだらりと血が伝い、口内に鉄と肉の味が広がる。
それでも力を抜かないで逆に、その力をだんだんと強くしていく。
痛ければ痛いほど、傷付けば傷付くほど美鈴に近づける気がする。
これが狂いに狂い歪みに歪んだ私なりの懺悔なのだろうか。

これが生まれて初めての自傷行為なのかもしれない。
間接的に自身を追い込むことは、自覚的にも無自覚的にも何度もやってきた。
だけど、ここまで直接的で肉体的なものは、さすがに初めての経験になる。

「ぐっ……ぐぇ、ぎぎ……」

ついに歯が肉を穿つに至った。腕に感じるモノが鈍く重くなる。
そこから溢れる血が純白のシーツに真赤な円を描いていく。
今でこそ綺麗な赤だが明日の朝には黒くて醜い色に変わっているだろう。
それが無性に悔しく、さらに歯を肉へ刺し入れる。
常に新しい血を流し続ければ、シーツ上の円はずっと赤いままでいられるから。



そんな儚い夢を胸に抱きはじめた時、扉の向こう側に気配を感じた。



初めは気のせいだと思った。
閾値を超えた痛覚に対する自己防衛の一種か幻覚かと思った。
しかし扉の向こうのソレはいくら時間が経っても消えることがなかった。
しばらくしてソレは声を発した。

「咲夜さん……まだ起きていますか……?」

その声は聞こえるはずのないものだ。
だってその声の主は、いまだ出歩けるほど傷が癒えていないはずだから。
そうでないと私を阻んでいた木札の意味がない。
私は気を確かにするため、もう片方の腕に歯を食い込ませた。

「えっと……私です。紅 美鈴です」

力が足りないみたいだ。幻聴は消えてくれない。

「夜分遅くにすみません……もし起きているなら、開けてくれませんか?」

皮が裂け少量ながら血が流れはじめる。

「無礼だとはわきまえております。ですが、どうか……」

歯が肉をとらえた。シーツに新たな円が描かれる。

「どうか、この扉を開けて頂けないでしょうか……」

いくら力んでも感情が変換されなくなっていく。

「……すみません。もう、お休みのようですね」

変換されなくなった感情が腕から歯を抜いていく。

「また明日、出直して来ます。その時は……開けて下さいね」

「美鈴……」

獲物を失った口で、その名を呼んだ。




※※※※※



まず消毒液のきついにおいに鼻を刺された。
次にそれを傷口に塗られ、染み込むような痛さを得た。
最後には両腕に白い包帯を巻かれた。
元々、室内での仕事が多く色素の薄い両腕がさらに白くなった。
それでも多少の血は染み出してきたので、部分的には薄い桜色となる。
その色は美鈴の着ている病人服のものに似ている。


部屋に入ってきた美鈴は私を見るなり、私の腕をとって救急箱を引っ張りだした。
意外な事に美鈴の手際はよく、あっという間に処置を終えてしまった。
重傷者に傷の手当てをされる日が来るとは思ってもみなかった。

美鈴に傷の処置をしてもらっている間、私はずっと沈黙のまま思考を張り巡らせていた。
どうしてこの人がここにいるのか、ということに。



「ご無沙汰しておりました……」
私の傷の処置を終えた美鈴が何故か床に正座している。
絨毯なんて洒落た物はないので、本当にただの床の上に座っている。
ベッド上の私と床の美鈴が相対するかたちになる。
横から見ればきっと犬とその主人のように見えるだろう。
当たり前だが私の命令ではない。そんな趣味は持ち合わせていない。

「この度は私の不注意のせいで、咲夜さんに……」

私の疑問を放置したまま美鈴は話しをすすめていく。
しかもその内容はどう考えても見当違いだ。
謝るべきは私なのに、美鈴はあるはずもない自責を糾弾しようとしている。

「待って。まずはそんな所に座っていないで、どこかに腰をかけてくれない?」

重傷者を床に正座させておいて平気なほど私は嗜虐的でない。
ベッドの側にはティーテーブルと備え付けのチェアがある。
だから床ではなくて、それを使って欲しい。

「ですが……」
「あなたは私なんかとは比べ物にならない怪我をしているのよ?」
「わかりました、お言葉に甘えさせてもらいます」

そう言って美鈴は少し悩む仕草を見せた後、私のすぐ横に腰かけた。
私は美鈴のことだからチェアを使うと思っていた。
だからそれは完全に予想外のことだった。

美鈴のその行動にも驚いたが、その結果の距離にも驚く。
かつてないほど私の近くに美鈴がいる。
手を伸ばすどころか、どちらかが少し身体を揺らせば触れ合える距離だ。

「では改めて……。この度は私の……」

それなのに美鈴の口から出てこようとするものは、いわれのない謝罪の言葉。
必死になって、腕を噛み荒らしてまでも守ろうとしたモノが粉々に砕かれる。
ボロボロと今まで我慢してきたものが崩壊していき、徐々にそれがこぼれていく。
美鈴の顔がこぼれたもので滲んでしまって見えづらい。
それでもその表情が驚きと困惑の色に染まっていくのが、はっきりと見てとれた。




私のすぐそばから規則正しい音が聞こえる。美鈴のものだ。
普段、私は人前で涙を見せるのは恥だと思っているが、今晩ばかりはその恥をかき捨ててしまった。
そんな恥を捨てた私の肩を美鈴は優しく抱いてくれ今に至る。
美鈴の身体はとても温かく、それが心地よく私はまるで赤子のように泣いた。

「落ち着かれました?」

音よりもはっきりとした声が聞こえてきた。
私もぐずりを止めて言葉を作ろうとするが上手くいかない。
どうやってもぐずりが完全に止まらないのだ。

「もう少し、こうしていましょうか」

魅惑的な誘いだけど、これ以上の迷惑はかけたくない。
声が上手に使えないので、代わりに大丈夫の意味をこめて頭を小さく横に振るが、
美鈴の手は私の肩から離れず、むしろ前よりもしっかりと肩を抱かれた。

「聞いた手前で失礼ですが、今は私のわがままに付き合ってくれませんか」

私は小さく、だけど迷いなく首を縦に振る。

「えっと、私の思い違いかもしれませんが……」

前置きをしていながら、美鈴はなかなか切り出してこない。
その躊躇いだけで美鈴が何を言いたいのか、そのおおよその見当はついた。

「今回の件のこと、もしかしたらお気に病んでいませんか……?」

思った通りの言葉がきた。そして私は次に来る言葉も悟る。

「もしそうなら、お気になさらないで下さい。今回の件は全部、私の責任です」

二連続で当てた。いや、前半と後半の部分を分けるなら三連続になる。
ここまでくると美鈴の口から発せられるもの全てを予知できる気すらする。
次に来るのはもはやお約束の「すみません」か「ごめんなさい」など謝罪の言葉だろう。

「いえ、今回の件だけではありません」

私の予知能力は四度目にして初めて外れた。

「これまでの全ては私に非があります」

五度目に至っては予知どころか美鈴が何を言っているのか、それすら理解できない。
今まで止まらなかったぐずりが消えた。

「ですから咲夜さん。私の非の全てを赦して下さい」

いよいよ美鈴が何を言っているのかが分からなくなった。
ただ、やけに凛とした美鈴の声だけが私のなかで響く。

「何を言っているの……?」
「咲夜さんが思い悩んでいるもの。その全ての責任は私にある、そうとらえて下さい」
「そうじゃない、何で美鈴のせいになるのかを訊いているの」
「理由なんてありませんよ。私のわがままです」
「そんなの納得できるわけがないでしょ? 理屈にあわない」
「これはただのわがままです。そもそも理屈なんて関係ありません」
「そんな屁理屈は聞きたくない。本当のことを話してよ……!」

ぐずりは消えたが、まだ湿っぽさの残る声で美鈴に迫る。
肩を抱かれていたはずが、ものの弾みで今は私が美鈴の胸倉に手を当てている。
ほとんど胸倉を掴まれている状態にもかかわらず、美鈴は毅然とした表情を崩さない。
ただ、美鈴とこんな口喧嘩みたいなことはしたことがないから、こんな状況でも新鮮さを感じてしまう。

「ですから本当もなにも、私の単なるわがままです」

どんなに迫っても美鈴は本当のことを教えてくれない。
だけど、その理由もだんだんと分かってきた。
美鈴は私を傷つけたくないのだと、最後の最後まで私を庇う気なのだと。

「ダメよ、それは美鈴のものじゃない。それは私だけのものよ」

咄嗟に出た言葉に自分で驚いた。
美鈴はそれ以上に驚いたらしく、あれだけ毅然としていた表情に動揺が見えた。

「悪いのは全て私なの。あなたのものなんて一つも無い」
「ちがいます、全て私のものです。咲夜さんは何も悪くない」
「なんで、そうなるの? あなたが私に何かした?」
「たくさん迷惑をかけました」
「迷惑ってなに……? そんなの、かけられたことない」
「今回の件を初め、たくさんかけてきました」
「そんなの……あなたのせいじゃない。私の自業自得よ」
「どう言われようと、私は迷惑ばかりかけてきたのです」
「お願いだから……私の罪を取り上げないで。そんな辱め……いらない」

言うだけ言って私は嗚咽をぶり返したが、美鈴からも毅然としたものはなくなっている。
気が付けば美鈴の胸倉を握る手の力が強くなっていた。
それだけでなく、私は身体全体ですがる様に美鈴へ迫っていた。
生地の薄い病人服だから美鈴の体温が握り込んだ布越しに伝わってくる。
自分の嗚咽に混じって美鈴の声が聞こえてきた。

「だって、そうしないと咲夜さん。潰れてしまうじゃないですか……」

惨めにすがりつく私に美鈴はゆっくりと、慰める様に話す。

「もう忘れてもいいのに……咲夜さんはずっと背負い込んでしまうから……。
だったら私がその重荷を肩代わりすれば……咲夜さんは呪縛から解放される。
それで呪われた私を咲夜さんが赦してくれれば、きっと全部忘れられると思ったんです」

それを言う美鈴の声は揺れていて、身体も小刻みに震えている。
そのくせに顔だけは笑っているのだから、どうしようもない感じが出ている。
散々に自分を傷つけた相手にどうしてここまで気を使えるのだろうか。
しかも自分を傷つけおとしめる方法まで取って。

「どうして……どうして、そこまでしてくれるの?」
「だから何度も言っているじゃないですか……私のわがままだって」
「わがままって、普通は利己的なはずよ?」
「ちゃんと私にだって見返りはあります」
「どんな見返り?」
「たとえばこんなのとか?」

そう言って美鈴はすがりつく私を受け止めてくれた。
今まで私が迫った分だけ仰け反り、倒れる身体を支えていた両腕で私を抱いてくれた。
だから支えのなくなった美鈴は私ともどもベッドに倒れ込むことになった。
抱かれてベッドに倒れるまでの間、私は何もできず、ただ美鈴の体温に酔っていた。

「ほら、こんなにも見返りがあるじゃないですか」
「こんなのでいいの……?」
「はい。ですからもうしばらく、こうしていてもいいですか?」

美鈴が私を抱く力を強めた。少しだけ息苦しくなった。
返事はしない、その代わりに目を閉じて美鈴の身体の音を聞く。
呼吸や心拍などいろんな音が聞こえてくる。
私の罪が赦されたわけではない。それでも私は救われた気分になる。
こうしているだけで、犯した罪を忘れてしまいそうになるくらい私は幸せに溺れてしまう。
しかし、そこで思い出した。美鈴は大怪我をしていること、そして面会謝絶の木札のことを。

「そういえば怪我は大丈夫なの?」
「もうほとんど完治しています。触ってみますか?」
「遠慮しておく……。面会謝絶だったわりに、完治まで早いのね」
「丈夫さだけが取り柄ですから。あと、面会謝絶じゃありませんよ」
「え?」
「パチュリー様からは安静にしておけとしか言われていません。部下の子も毎日来てくれています」
「そうなの……だったら、私の誤解みたいね」

少し考えてみたら今回のカラクリはだいたい把握できた。
おそらくあの木札は彼女がこしらえた物なのだろう。
考えてみれば、やけにあの木札はお粗末な作りをしていた。まるで急いで作ったように。
私だけでなく、彼女もなりふり構わず美鈴を欲しているのだ。

「一応聞いてもいい? 私もお見舞いに行ってもいいの?」
「はい、もちろんです。と言っても、明日か明後日には復帰するんですけどね」
「そう。また差し入れ食べてくれる?」
「今から楽しみです」

それからしばらくして美鈴の戻る時間になった。
私も付き添い二人で医務室まで歩いた。
医務室までの道のりの間、私達は肩を貸す名目の下でずっと寄り添って歩いた。

医務室まで辿りつき美鈴と別れてから、私は一人でその木札と対峙した。
タネさえ分かってしまえば『面会謝絶』の文字は何も恐くない。
おもむろにその木札を裏返して私は自室へと戻った。
『面会謝絶』の「謝」の部分の意味が分からない。
『面会絶』とか『絶面会』の方が意味が通るような気がします。

今度は商売上手な魔理沙と守銭奴アリスの話を書きたいです。

フリーレスさん>アドバイスをありがとうございます。

読者の皆様に感謝です。
砥石
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コメント



0.1680簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
続きを待っていました
すれ違いが解消?されて良かった
7.無評価名前が無い程度の能力削除
そもそも謝絶という単語があり相手の申し出を断る事の意味を持ちます
謝るというのは申し出を断った時の非礼を謝る物から来ているものといえますので
面会を絶つというよりは危険な状態または仕事が忙しいから会えないといった意味になります
12.100名前が無い程度の能力削除
ちょっとあっさりと終わった感がありますが、シリーズを通して楽しめました。
次の作品も楽しみにしてます!
15.100名前が無い程度の能力削除
何処となく、甘くない
面白かったです
17.100名前が無い程度の能力削除
全編読ませていただきました もうちょっと二人がイチャイチャしてくれるとスッキリできそうでした
でも距離が縮まって良かったなあ お幸せに!
18.80コチドリ削除
『面会謝絶』の木札。
タネが割れてしまえば怖くない?
簡単に裏返せる?

本当に? 咲夜さん。
20.90名前が無い程度の能力削除
ひとつの心情劇として、とても秀逸な作品だと思います。
ただ、手袋を焼いたあたりは少々わざとらしさを感じてしまいました。咲夜さんの生真面目さが招いたのであろうと納得できる、薔薇の下りだけで十分だったように思えます。
21.無評価名前が無い程度の能力削除
一度点数を入れたのでフリーレスで失礼いたします
「○○シリーズ」などのシリーズ共通タグを入れていただけると、新規の読者の方も読みやすいと思います
タグから飛べばすぐに全作品を一覧で辿れますし、参考までにということで提案させていただきました
次回シリーズも今から楽しみに待っています
23.80名前が無い程度の能力削除
好きすぎるってのは大変なんだねぇ、できればもっとラブラブして欲しかったかも
27.100名前が無い程度の能力削除
絶妙な距離感
甘々じゃないことに大満足しました