全ての追っ手から逃げ切った指名手配犯は、再び博麗と対峙する。
「正邪。あなたはどうして、異変を起こしたの?」
「決まってる。強者を弱者に、弱者を強者に。リバースヒエラルキーが私の目的だ。」
「あなたはどうして、少名針妙丸を巻き込んで異変を起こさせた?」
「あいつの持つ打ち出の小槌を使えばより下克上の成功確率が上がると思ったからだ。」
「そう。それよ。あなた、打ち出の小槌のこといつどこで知ったの? 副作用も最初から知っていたんでしょう?」
「知ってちゃおかしいかぁ?」
「そりゃおかしいわ。鬼は幻想郷では忘れ去られた存在。その鬼の使っていた道具の副作用まで知る方法は少ない。長らく封印されていたせいで、小人族の針妙丸でも小槌のことすら知らなかったのに部外者のあなたがどうして知っていた?」
「鬼から聞いたのかもしれないぜ?」
「冗談。陽気で豪放磊落、正直者で嘘が嫌いな鬼なんて、あんたが一番嫌ってる人種でしょう。関わることすら拒絶するレベルの。」
「部外者じゃあ知ることすら難しい打ち出の小槌の副作用。知っていたなら理由は絞られる。」
「鬼人正邪。あんたは、”打ち出の小槌”の関係者だった。」
「......」
「打ち出の小槌」
「持ち主の願いを何でも叶え、その後代償として持ち主に災厄をもたらす魔具。」
「背丈を願った者は、魔力がつきた後、元より小さくなった。」
「豪華な城と民の支配を願った者は、輝針城を作った後、民のいない鬼の世界に幽閉された。」
「力を手に入れて、下克上した者はその後すぐに下克上される。」
「そんな、”天邪鬼”な魔力で象られた小槌。」
「小槌に込められた鬼の魔力。あなたの物でしょう?」
「わたしは鬼じゃないぜ?嘘だって大好きだし」
「鬼なんて概念、受け取る者のさじ加減で範囲が決まる。”鬼門”という言葉があるように、災いをひっくるめて鬼と呼ぶこともある。」
「極論、妖怪はみんな鬼とも呼べる。萃香が聞いたら怒るでしょうけど。」
「しかし、自分じゃ使えない状態で道具に魔力を移すなんて、普通じゃあり得ない。」
「あなた。小槌に魔力を封印されたんでしょう?」
「...んなわけないだろ。 私が人間なんぞに封印されたら舌噛み切って死んじゃうね。」
「舌噛み切っても2枚舌だから大丈夫。って?
何か聞かれたらとりあえず否定するのをやめなさい。」
「...さてな。 そんなこと覚えてない。」
「惚けても無駄よ。あんたの魔力とあの小槌の魔力はとても似通ってるもの。」
「......いいだろう。ちょっと長いホラ話をしてやる。
私は元々神だったんだ。
封印される前、私は神として崇められ、天逆毎と呼ばれていた。
由緒正しきスサノヲの血統だ。 鬼神として多くの者たちから恐れられていたさ。
しかし、私の天下はそう長くもなかった。
そいつは天探女とか名乗っていたっけな。気にくわない顔をした巫女だったよ。
その巫女は私を封印するために、私の力を別々に分けた。
鬼神の”鬼”を小槌に。
鬼神の”神”を巫女自身の体に。
神降ろしの応用だ。そんな事が出来るなんて思いもよらなかった。
その結果、巫女は神とも精霊とも判別のつかないモノに成り果てた。
降ろした力も十全には使えなくなっていたようだが。
無理矢理切り離した力だから当然だろうな。
そして、絞りかすのようになった私もまた、鬼とも神とも呼べぬ弱小妖怪に成り下がった。
大きな力を持った暴れものは神になる。
だが、力を持たなければ、ただの悪だ。
力を奪われた私は、そうやって長い間虐げられてきた。
だから私は力を取り戻さなくてはならない。
リバースヒエラルキー。上下を元に。
それが私の目的だ。」
「だから異変を起こしたのね。小槌に封印された魔力を取り戻すために。」
「そうだ。魔力を回収するには一度小槌の力を解放しなければならなかった。」
「自分のためだけに針妙丸を巻き込んで。」
「そうだ。私じゃあの小槌は使えないからな。」
「下克上なんてのはただのお題目にすぎなかった。」
「私の真の目的は使った魔力が小槌に戻る前に少しでもかき集める事だ。
下克上なんてくそくらえだ。 ほかの弱者のため? 反吐が出る。
私は自分のためにしか行動しないし、したくもない。
平穏ではなく不穏を欲しがり、温和ではなく不和を望み、平等よりも不平等を好み、安定よりも不安定を願い、希望よりも絶望を求め、満足よりも不満を待ち、安心よりも不安を促し、通常よりも非常を探し、平和よりも混乱を期待する。
それが私、唯一無二の純粋なる生まれ持っての天邪鬼だ。
愛も同情も尊敬も友情も信頼も感謝も必要ない。
怒りや憎しみや嫉妬や恨みがあればいい。」
「寂しい生き方をしてるのね。」
「愉快な生き方さ。」
「利己的にしか生きられない。」
「利他的行動しか出来ない奴がよく言う。」
「他との対比でしか自分の存在を認められない。」
「自分が無い奴に言われたくないな。」
「他人の言葉に耳を傾けられない。」
「おまえは主体性がないだろう。」
「お前は私のことを知らないかもしれないが、私はお前のことをたくさん知っているぞ。」
「どうして、お金集めをしようと思った? 貧乏なことを苦にも思っていないのに。」
「どうして、信仰を集めようと思った? 祭神が誰かも知らないのに。」
「どうして、妖怪退治をする? 妖怪が嫌いなわけじゃないんだろう?」
「全部全部他人に言われたからだろう? 妖精に、魔法使いに、緑巫女に、賢者に。」
「おまえは空だ。だから周りの影響を受けやすく誰にも触れられない。」
「違うわ。私は空よ。だから懐が広く、誰もが見ることができる。」
「おまえは空を飛んで一歩上から俯瞰している。だが、故に周りから浮いている。」
「だから知り合いはみんな空が飛べるのかもね。」
「私とおまえは似たもの同士だ。」
「私とあんたは正反対だよ。」
「私はおまえが大嫌いだ。」
「私はそうでも無いけれど。」
「弾幕勝負だ。博麗霊夢。」
「反逆者には不可能弾幕で相手しましょう。」
------------------------------------------------------------------------------------
「絶符『反則結界』」
構えた正邪に不可能弾幕が押し寄せる。
「ふん。今の私にその程度、効きやしねぇ!」
ジャリンジャリンジャリン!
正邪に当たるかと思われた弾幕は、腕を一振りした瞬間、すべて小判へと変わる。
その手にもつは、10番目の反則アイテム、打ち出の小槌。
「小槌……! 針妙丸が持ってるはずじゃ……」
「言っただろ?私は小槌の魔力を回収してた。本家より魔力は劣るが、こいつも私の力が込められた正真正銘本物の打ち出の小槌だ。」
「……だったら、魔力が尽きるまで、あんたが飽きるまで相手してあげるよ。」
弾が煌めき、小判が輝く。
ゴールドラッシュは始まったばかりだ。
「正邪。あなたはどうして、異変を起こしたの?」
「決まってる。強者を弱者に、弱者を強者に。リバースヒエラルキーが私の目的だ。」
「あなたはどうして、少名針妙丸を巻き込んで異変を起こさせた?」
「あいつの持つ打ち出の小槌を使えばより下克上の成功確率が上がると思ったからだ。」
「そう。それよ。あなた、打ち出の小槌のこといつどこで知ったの? 副作用も最初から知っていたんでしょう?」
「知ってちゃおかしいかぁ?」
「そりゃおかしいわ。鬼は幻想郷では忘れ去られた存在。その鬼の使っていた道具の副作用まで知る方法は少ない。長らく封印されていたせいで、小人族の針妙丸でも小槌のことすら知らなかったのに部外者のあなたがどうして知っていた?」
「鬼から聞いたのかもしれないぜ?」
「冗談。陽気で豪放磊落、正直者で嘘が嫌いな鬼なんて、あんたが一番嫌ってる人種でしょう。関わることすら拒絶するレベルの。」
「部外者じゃあ知ることすら難しい打ち出の小槌の副作用。知っていたなら理由は絞られる。」
「鬼人正邪。あんたは、”打ち出の小槌”の関係者だった。」
「......」
「打ち出の小槌」
「持ち主の願いを何でも叶え、その後代償として持ち主に災厄をもたらす魔具。」
「背丈を願った者は、魔力がつきた後、元より小さくなった。」
「豪華な城と民の支配を願った者は、輝針城を作った後、民のいない鬼の世界に幽閉された。」
「力を手に入れて、下克上した者はその後すぐに下克上される。」
「そんな、”天邪鬼”な魔力で象られた小槌。」
「小槌に込められた鬼の魔力。あなたの物でしょう?」
「わたしは鬼じゃないぜ?嘘だって大好きだし」
「鬼なんて概念、受け取る者のさじ加減で範囲が決まる。”鬼門”という言葉があるように、災いをひっくるめて鬼と呼ぶこともある。」
「極論、妖怪はみんな鬼とも呼べる。萃香が聞いたら怒るでしょうけど。」
「しかし、自分じゃ使えない状態で道具に魔力を移すなんて、普通じゃあり得ない。」
「あなた。小槌に魔力を封印されたんでしょう?」
「...んなわけないだろ。 私が人間なんぞに封印されたら舌噛み切って死んじゃうね。」
「舌噛み切っても2枚舌だから大丈夫。って?
何か聞かれたらとりあえず否定するのをやめなさい。」
「...さてな。 そんなこと覚えてない。」
「惚けても無駄よ。あんたの魔力とあの小槌の魔力はとても似通ってるもの。」
「......いいだろう。ちょっと長いホラ話をしてやる。
私は元々神だったんだ。
封印される前、私は神として崇められ、天逆毎と呼ばれていた。
由緒正しきスサノヲの血統だ。 鬼神として多くの者たちから恐れられていたさ。
しかし、私の天下はそう長くもなかった。
そいつは天探女とか名乗っていたっけな。気にくわない顔をした巫女だったよ。
その巫女は私を封印するために、私の力を別々に分けた。
鬼神の”鬼”を小槌に。
鬼神の”神”を巫女自身の体に。
神降ろしの応用だ。そんな事が出来るなんて思いもよらなかった。
その結果、巫女は神とも精霊とも判別のつかないモノに成り果てた。
降ろした力も十全には使えなくなっていたようだが。
無理矢理切り離した力だから当然だろうな。
そして、絞りかすのようになった私もまた、鬼とも神とも呼べぬ弱小妖怪に成り下がった。
大きな力を持った暴れものは神になる。
だが、力を持たなければ、ただの悪だ。
力を奪われた私は、そうやって長い間虐げられてきた。
だから私は力を取り戻さなくてはならない。
リバースヒエラルキー。上下を元に。
それが私の目的だ。」
「だから異変を起こしたのね。小槌に封印された魔力を取り戻すために。」
「そうだ。魔力を回収するには一度小槌の力を解放しなければならなかった。」
「自分のためだけに針妙丸を巻き込んで。」
「そうだ。私じゃあの小槌は使えないからな。」
「下克上なんてのはただのお題目にすぎなかった。」
「私の真の目的は使った魔力が小槌に戻る前に少しでもかき集める事だ。
下克上なんてくそくらえだ。 ほかの弱者のため? 反吐が出る。
私は自分のためにしか行動しないし、したくもない。
平穏ではなく不穏を欲しがり、温和ではなく不和を望み、平等よりも不平等を好み、安定よりも不安定を願い、希望よりも絶望を求め、満足よりも不満を待ち、安心よりも不安を促し、通常よりも非常を探し、平和よりも混乱を期待する。
それが私、唯一無二の純粋なる生まれ持っての天邪鬼だ。
愛も同情も尊敬も友情も信頼も感謝も必要ない。
怒りや憎しみや嫉妬や恨みがあればいい。」
「寂しい生き方をしてるのね。」
「愉快な生き方さ。」
「利己的にしか生きられない。」
「利他的行動しか出来ない奴がよく言う。」
「他との対比でしか自分の存在を認められない。」
「自分が無い奴に言われたくないな。」
「他人の言葉に耳を傾けられない。」
「おまえは主体性がないだろう。」
「お前は私のことを知らないかもしれないが、私はお前のことをたくさん知っているぞ。」
「どうして、お金集めをしようと思った? 貧乏なことを苦にも思っていないのに。」
「どうして、信仰を集めようと思った? 祭神が誰かも知らないのに。」
「どうして、妖怪退治をする? 妖怪が嫌いなわけじゃないんだろう?」
「全部全部他人に言われたからだろう? 妖精に、魔法使いに、緑巫女に、賢者に。」
「おまえは空だ。だから周りの影響を受けやすく誰にも触れられない。」
「違うわ。私は空よ。だから懐が広く、誰もが見ることができる。」
「おまえは空を飛んで一歩上から俯瞰している。だが、故に周りから浮いている。」
「だから知り合いはみんな空が飛べるのかもね。」
「私とおまえは似たもの同士だ。」
「私とあんたは正反対だよ。」
「私はおまえが大嫌いだ。」
「私はそうでも無いけれど。」
「弾幕勝負だ。博麗霊夢。」
「反逆者には不可能弾幕で相手しましょう。」
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「絶符『反則結界』」
構えた正邪に不可能弾幕が押し寄せる。
「ふん。今の私にその程度、効きやしねぇ!」
ジャリンジャリンジャリン!
正邪に当たるかと思われた弾幕は、腕を一振りした瞬間、すべて小判へと変わる。
その手にもつは、10番目の反則アイテム、打ち出の小槌。
「小槌……! 針妙丸が持ってるはずじゃ……」
「言っただろ?私は小槌の魔力を回収してた。本家より魔力は劣るが、こいつも私の力が込められた正真正銘本物の打ち出の小槌だ。」
「……だったら、魔力が尽きるまで、あんたが飽きるまで相手してあげるよ。」
弾が煌めき、小判が輝く。
ゴールドラッシュは始まったばかりだ。
それと正霊は美味しい組み合わせだと思います。
小槌の魔力が正邪の物というのは斬新でした
なんだかんだ霊夢のことをよく知っているのも用意周到な天邪鬼っぽくてよかったです
でもこういう設定考察はとても面白かったので楽しく読ませていただきました、ごちそうさまです。
針妙丸の反応が見たい
あと萃香の反応も見たい(親の仇が禊をしたら出てきた猛気)