Coolier - 新生・東方創想話

私の名を呼びなさい-fragment-

2009/06/21 12:37:58
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 珍しい花が欲しかった

 季節毎に色んな場所に足を運んだ

 もう探してない場所なんてないと思い始めて数十年

 地の底への道が拓いたと耳にした

 期待などせずに地底へ向かう

 陽の射さぬ暗闇に花など咲いてないと知っているから

 それでも何故地底に降りたのかといえば――

 気紛れ、としか言いようがなかった

 諦めと退屈を紛らわす散歩だ

 いっそ地底の住人と戦ってみるのも面白いなどと考えた

 遥か昔に地上を追いやられたふるつわもの

 どれだけ遊べるかわからないが楽しめそうだと思った

 生殺与奪は私が握る

 強者にのみ許された傲慢

 理由などなく強い者に与えられる権利

 花よりもそれを行使するのが楽しみになった

 なのに

 見つけた

 見つけて、しまった

 探し求めていたものかはわからない

 そもそも何を探していたかも覚束ない

 ただ漠然と、なにかを探していただけ

 それでも見つけたと確信した

 

 それは


 陽の光も届かぬ地の底で……


 孤高に咲き誇る、一輪の花――――――……





















 地の底に通ずる孔を下りていく。

 目的を得た足は軽く、淀みない。

 迷うこともない一本道。程なくしてそれは見えてくる。

 渡る者の居ない橋に腰掛ける、一人の少女。

 水橋パルスィ。

 橋の先に見える鬼の町から届く灯りがその横顔を照らしている。

 鈍い彼女はまだ気付かない。私が来てると気付かない。

 ここでは意味を成さない日傘をくるりと回して近づく。

「お元気かしら、お姫様?」

 すっと彼女の顔が上げられる。

 眉間に皺が刻まれた。

「……また来たの?」

 そう。私は日を置かずにここに来ている。通い詰めている。

「質問に質問で返すなんてお行儀が悪いわよ」

「挨拶じゃなかったの」

 相変わらず愛想のない。

 弱いくせに。徹底して弱いくせに。

 媚び諂うどころか社交辞令の一つもない。

 この風見幽香を路傍の石ころと等価に扱う。

 この風見幽香を軽視する。

「まぁどっちにしろ答える気はないわよ。さっさと帰って」

 故に楽しい。

 私を恐れずに、それどころか挑発するような弱者は少ないのだから。

「なぁに? ツンデレって奴かしら」

 からかい甲斐があるというものだ。

「なによそれ」

 無視されるものと覚悟していたら意外にも食いつかれた。

 どうやら自分の知らない知識が気に食わないらしい。

 弱者のくせによく足掻く。

「今地上で流行ってるのよ。『好きなのに、素直になれない』って奴」

 説明してあげる。なんにせよ反応があるというのは楽しいものだ。

 無視し続けてる横で一方的に話しかけイラつかせるのもあれはあれで楽しかったのだが。

「あなたにぴったりじゃない? ツンケンしてて、自分を見せないお姫様?」

「……見せてるじゃない。そのツンケンしてるのが私の全てよ」

 まっすぐに、緑の目が私を睨む。感情の乗らぬ、冷たい緑眼。

 非生物だと錯覚してしまうその目が私のことなぞなんとも思ってないと告げている。

 弱いくせに――この私を前にしても強がりを。

 初めて会った時から変わらない。

 挨拶代わりに私の力を見せつけ脅した時もこの目だった。

 怯えるでもなく、逃げ出すでもなく、その緑の目で。


――強いのね、妬ましい――


 宝石の硬質さでただ私を睨んだ。

「……本当に綺麗な目。刳り抜いて飾っておきたいわ」

「悪趣味」

 これが私の本音と気づいていないのか強気な言葉は変わらない。

 否、彼女なら本音と知っていても悪態を吐く。挑発する。

 弱いくせに。私に抗うことも出来ないくせに。

 本当は私が怖いくせに。

 ――わからない。

 何故妥協もしない。何故私を受け入れない。

 折れてしまえば、隷属してしまえば私に怯えなくても済むというのに。

 なんで……無駄な抵抗を続けるのだろう。

 私が諦める筈ないのに。私に敵う筈ないのに。

 わからない……

 彼女はあまりに遠かった。

 私は彼女の弱さが理解できず、彼女は私の強さを理解できなかった。

 永遠に交わらぬ平行線。

 不可能やら無理やら数多の言葉が私と彼女の間に積み上げられている。

 髪に触れる。

 心の溝を埋めようと物理的に近付く。

 そんなことで近づけないとわかっているけれど、触れる。

「……やめてよ。馴れ馴れしい」

 案の定毒を吐かれる。

 でもそんなことはわかってた。怯まない。

「猫みたいに柔らかね。撫でていて気持ちいいわ」

「私は気持ち悪い」

 徹底した拒絶。私の心を折りにくる。

 口の端が吊り上がる。

 つくづく――愉快だ。心折るのは私。心折られるのは貴女なのに。

 無駄な足掻き。弱者に相応しくないプライドの高さ。

 ……ゾクゾクする。

 心折れた時、私に屈した時、この強気に吊り上がった緑眼がどう歪むのか。

 それともその敗北をすら妬み、私を睨みつけるのだろうか。

 楽しみで、愉快で、たまらない。

「――――」

 自身の顔が凶相を浮かべるのを自覚する。慌てて手で口元を隠す。

 今から怯えさせるのは得策ではない。もっと、もっともっと愉しんでからでも遅くない。

 ――表情を作る。優しい笑顔。

 本当に面白い子だわ。この私に、表情を作るなんて雑魚染みた真似をさせるなんて。

 私に、媚を売らせるなんて。

 嗚呼……楽しみで、愉しみで、しょうがない。

 ゆっくりじっくり愉しみ尽くしたその時は――

 思う存分、壊してあげる。

 髪を指に絡ませる。

 長さの足りない髪はそれだけでぴんと張って微かな痛みを彼女に与える。

 痛みに、僅かに目が細められるのが見えた。

 でも彼女はなにも言わない。痛みを訴えない。耐えている。

 抱き締めたいほどに……可愛いわ、パルスィ。

「しつこいわね。嫌がってるのがわからない?」

「ごめんなさいね。私、鈍いの」

「強い奴は皆そうなのかしらね。星熊もいやにべたべたしてくるし」

 ほし、ぐま?

 唐突に出た名に、戸惑う。貼りつかせた笑みが、剥がれ落ちる。

 表情を、浮かべられない。

「それは誰?」

「誰って、あぁ、地上の妖怪は知らないか。旧都の、地下の町の偉い奴よ。

鬼の四天王だとか――つまりは、桁外れに強い奴」

 ……古い記憶にその名はあった。

 擦り切れ色の失われた遥か過去の記憶。

 見上げるほどに背の高い、金の髪を持った一本角の鬼。

 あいつ、あいつが、彼女に触れている。

 あの女が、パルスィに触れている。

 パルスィが、あの女の名を呼んでいる。

 ――酷く、気分が悪い。

「パルスィ」

 自分の声に驚く。

「一度も、私の名を呼んでくれないわね」

 なんで、こんな押し殺したような声が出る。

 どうしてこんな、震えるような声が。

「なんで――私の名を呼んでくれないの?」

 いつもの余裕はどこに?

 誰を相手にしても浮かべられた笑顔は?

 なんで私が、怯えているのよ。

「何を急に」

 怪訝な顔。しかしそれはすぐに塗り替えられる。

「あぁ。私に名前を呼んでほしいんだ?」

 勝気な、挑発する顔。

「意外とロマンチストなのね――絶対に嫌」

 酷く――憎らしい。

 そんな顔、今は望んでない。

 なんで私の望むことをしない。

 そんなに挑発して、そんなに私に壊されたいのか。

 腕を掴む。

 袖が捲れて、白い物が見えた。

 一瞬で激情が凍りつく。

 予想だにしなかったそれに、思考が奪われる。

「――……どうしたの、その、包帯」

 腕を掴んだまま問い質す。

 私の声は、より無機質になっていた。

 答える彼女の声は軽やかで、私の正反対だった。

「あぁ、これは星熊に弾幕ごっこでね。私が弱いの知ってるくせに絡んでくるんだから」

 あいつの名前は呼ぶのね。

「そんなに自分が強いと誇示したいのかしら、妬ましい」

 私の名は呼ばないのに。

 また、あの女か。

 掴んだ腕を引き寄せる。座ったままだった彼女は転げるように立ち上がった。

「……っ、やめなさ」

 袖ごと包帯を引き千切る。

 白い肌に刻まれた紅い痕。

 じくりと血が滲んでいた。

「まだ、傷口は開いたままね」

 引き寄せた腕を引っ張り上げ、傷口に舌を這わせる。

 血。

 彼女の、パルスィの味が舌に広がる。

 脳髄が麻痺しそうになる。舌も指先も止まってしまいそう。

 でも、それ以上に、熱が身体を突き動かす。

「なに、を――痛っ」

ガリッ



 ――乾いた音が響く。



「……なにするのよ」

 口の中が切れている。

 鉄の味が、混じる。

 彼女と私の血が――混じっている。

「――初めて」

 頬も口の中も、熱い。

「初めて、貴女から触れてくれた」

 青ざめる彼女の貌が見える。

 私のへの恐怖を隠し切れていない。

 ようやく、この目で彼女の本音が見れた。

 ガチガチに固めた鎧の底の――彼女の姿。

 熱さに、熱に浮かされて、両の手で彼女を捕まえる。

「やめて……っ」

 逃がさない。

「許さない」

 離さない。

「え、なに」

「私のものを傷つけていいのは私だけなの」

 腕から零れる血を舌で掬い上げる。

「あいつのつけた傷なんて、私が塗り潰してあげる」

 私のつけた傷から流れる血を味わう。

「貴女は私のものよ」

 私がつけた証に舌を這わせる。

「パルスィ、だから」

 熱に浮かされるままに



 震える声で命じる



「私の名を呼びなさい。貴女の口で。貴女の声で。貴女の唇で」



 縋るように



「私の名を――呼びなさい」



 掴む指に力を籠めた







 ――恋に堕ちたのだと、自覚した
二十二度目まして猫井です

今回は勇パルから離れて幽パルを書いてみました

幽香の愛は重くて深い気がします



以前紫×パルスィを書いたときに質問をいただいたのですが、

パルスィが出ていますがこれらは「星熊勇儀の鬼退治」とは一切関係ありません

完全に独立したお話とお思いください

ここまでお読みくださりありがとうございました

※6/23 改題
猫井はかま
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コメント



0.2230簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
・・・そうして皆その緑の眼に吸い寄せられ、惑わされ、独占欲にかられ、己を無くしてゆく・・・
5.100名前が無い程度の能力削除
タイトルを見て、つい
「じゃっジャギ様ですっ!」
と、言いそうになりました。
むしろ話を繋げてくださっても結構です。私はいっこうに構わん!!
修羅場こそがパルスィSSの華!
ヤンデレこそが「ゆうパル(両共通)・ゆかパル」の太陽!
力こそパワー!
貴方様の書くパルスィは素晴らしい!
8.100名前が無い程度の能力削除
また新しいカップリングか
激しく続編期待
10.100名前が無い程度の能力削除
幽パルには狂気的な関係がよくあう。
続き、期待してます。
11.100あか。削除
一言一言に込められる言葉の意味を、パルスィが理解する日が来るのでしょうか。
続き期待してます。
21.100薬漬削除
これはこれでイイ!

最近知ったんですけど猫井さんって東方以外の他のところでもSS書いてるんですね~
23.90名前が無い程度の能力削除
もうこのパルスィ、嫉妬を操る程度の能力じゃなくて、
大妖に絡まれ――もとい、惚れられる程度の能力でいいよw
24.100名前が無い程度の能力削除
幽パルに乾杯w
29.100名前が無い程度の能力削除
貴方のパルスィ大好き!
32.90名前が無い程度の能力削除
こんなに迷惑な恋もそうあるまい
34.100名前が無い程度の能力削除
凄い。なんか凄く良いです。
狂気じみた執着心(?)がたまらねぇ。
37.90名前が無い程度の能力削除
嫉妬に取り込まれてしまったのね
39.90名前が無い程度の能力削除
あいかわらずよいパルスィですねw
できるなら続きが見てみたい!
45.100名前が無い程度の能力削除
本当にパルスィちゃんはちょっとある意味並外れた人を惹きつけますね!!
しかし幽香さんの気持ちわかるわかります!!
51.80名前が無い程度の能力削除
狂気ばんざい\(^o^)/大好物!