リグルのこの宣言は、その場の時を一瞬だけ止めた。体感時間でいうと十秒ほどだろうか。
時が止まっているのに十秒というのもおかしいが、それは野暮な突っ込みというものだし
そもそもこれは比喩表現に過ぎない。
何にせよ、先程の宣言にはそれくらいの威力とインパクトがあったということだ。
「リグル……水分不足が悪化して……」
「してないから。毎朝欠かさず砂糖水なめてるから。そしてその哀れむような視線はやめてくれる?」
ほろり…といかにもな嘆きポーズを決めているミスティアにリグルの冷静な反論が飛ぶ。
わざとなのか素なのか判別しづらいが、少なくとも心配するより呆れている割合の方が多いのは確かだろう。
「リグルー。後で骨は拾ってあげるよー」
「生憎ですが私は虫だから骨なんてありません。それとどうして私が死ぬこと前提なのよ」
わははーと、いつもどおりの笑みを浮かべているルーミアは楽観的だが、それが逆に腹立たしい。
本人に悪意はまったく無いのだろうが、それがかえってたちが悪い。無論心配の気配など欠片も感じ取れない。
「だ、駄目だよリグル、早まらないで! 自殺なんかしたら、閻魔様に長くお説教されて地獄に落とされちゃうよ!」
「うん、真面目に心配してくれて、折角だからありがとう」
対して真面目にこちらの身を案じてくれる大妖精こと大ちゃんの優しさが、リグルには逆に辛かった。
ここにいるメンバーの中では比較的良心的でありまともな思考を持っている大妖精だが
思考回路そのものは割と単純だったりする。
それに関してはリグルを含むこの場全員にほぼ共通しているが。
「あっはっは、リグルったら大馬鹿ね!」
「あんたにだけは言われたくないよこの⑨」
先程の発言内容がある意味命知らずの大馬鹿者のすることだと考えれば、全く以てチルノは正論だ。正論なのだが。
世の中どんなに筋が通っている正論であっても、こいつにだけは言われたくないということは結構あるものだ。
某白黒魔法使いに『盗みは良くないぜ。犯罪行為だ』と注意されたり
某烏天狗に『新聞の押し売りはいけませんな』と言われたら誰だって嫌だろう。
「で? なんでまたそんな突拍子も無いこと言い出したわけ? ちゃんと説明してよ」
「あー、一応話は聞いてくれるのね。てっきり笑い飛ばされて終了の流れかと思ってた」
「んー。どうせ取るに足らない理由だろうけど、面白そうだし?」
「そーなのかー」
「よし分かった、勇者の光魔法で浄化されろこの宵闇妖怪コンビめ」
ニ○ラム程度でやられるルーミアやミスティアではないと思うが、光魔法自体はそこそこ通用しそうである。
ここは幻想郷。探せば使い手もそこそこいそうなのがなんともいえない話だ。妙蓮寺のドジッ虎とか超人魔法使いとか。
「そうかわかった! リグルは幽香を倒して最強になるつもりね!」
「いやまだちゃんと説明してないしそもそもどういう解釈をすればそうなるのさ……」
「だって幽香って、あたいほどじゃないけどすんごく強いよーかいでしょ?
つまり幽香をシメればリグルは最強って証明できるじゃない! まああたいには敵わないけどね!」
「…………」
チルノのどこか抜け落ちているというレベルじゃない突飛かつ強引な、それでいてどこか間違っていなくもないような
屁理屈にリグルは軽い頭痛を覚え頭を抱えた。そもそもシメるってなんだ。幽香は鶏か。
ちらりと隣を見やるとチルノの側には困り顔の大妖精が。どうやら彼女もこちらと似たような心境らしい。
「……もういいよ。私は行くからね」
「あれれ、説明はー?」
「説明したって理解してもらえないだろうし、してもらいたいとも思ってないもの。これは、私の勝手な我侭だから」
最後の言葉を小さく、呟くように言い残し。ひらりと背中のマントを翻し、友人達に背を向けてリグルは歩き出した。
その後姿からは何ともいえない哀愁と、謎の覚悟が溢れていた。
そんなリグルに、残されたバカルテット+αの一人が最後に呼びかける――
「リグルの鎮魂歌は任せろー! ちn」
『やめて!』
総ツッコミ、そして見事なハモりだった。色々と台無しである。
リグルは駆ける。ひたすら駆ける。
木々の間をすり抜け、小川を飛び越え、坂道を下り、ひたすら駆ける。
目指す場所はただ一つ。会いたい存在はただ一人。
幻想郷の中で誰よりも花を愛し。
幻想郷の中で誰よりも花が似合い。
そして―――愛しいあの人……否、妖怪。
「―――幽香……」
説明する気は無い、と先程告げたリグルだが、それは正確には間違いだった。
本当は『説明しようにもうまく出来なかった』だけである。
正直リグル自身、何故こんな発想に至りそしてそれを欲求として行動する羽目になったのか
さっぱり分かっていなかったりする。
全く理由を考察しなかったわけではないのだが、悲しいかな元々弱い部類に入るリグルの頭では
自身が納得出来る回答を導き出せなかった。
かといって、ただなんとなくそうしたくなったからというわけでもない……ような気もする。
いや、そこは間違いない。断言できる。
小難しい理屈や理論を飛び越えたところに理由があり、目的がある。
それこそ、何がなんでもやらずにはいられなくなる程に、重要なものが。
頭が弱いリグルにも本能はある。蟲としての本能、妖怪としての本能。その両方が内側から、リグルを突き動かしている。
それが今の彼女にはっきりと分かることであり、疑いようのない事実であった。
故に、リグルは迷わず駆ける。己の目的を果たすために。
いつもと変わらない午後だった。特に目立つ生き物の姿は無く、花畑は精悍としている。
地面に咲き誇る草花を踏まないように避けつつ、ゆっくりゆったりと幽香は歩を進めていた。
これといって急ぐ用事も無いし、あったとしても慌てて行動するつもりなどない。
狭い幻想郷、急いで駆け抜けてどこへ行く。流石にそこまで達観しているわけではないが
生き急ぐのが幽香の性分に合わないのは確かだ。
最近訪ねてきたツインテールの烏天狗にそう話したら
『流石、結構お年を召されているだけあってずんぐりどっしりとしていらっしゃるのですね』と気さくな笑顔で返された。
その後、花畑に真っ赤な案山子が一本生えたそうな。今はもう無いらしいが。
「退屈ね」
ぽつりと呟くも、反応する者はいない。幽香の周りにあるのは無数の花ばかりなのだから当然だ。
花には感情があるし、勿論幽香もそれを知っているがだからどうということはない。
花の感情は人妖のそれとは違い、実に淡々としているもので知的かつ哲学的な問答に適応はしていない。
もっともそれは一般的な植物の話であり、ある程度長寿で半ば妖怪化してきた植物はその類ではないが。
「何も、起こらない。それは普通。それは幸せ」
くるくると日傘を回す。少し傾き始めた陽の光が遮られ、幽香の顔に影を落とす。
ふと歩みを止めると、いつの間にか花畑の外れに到達していた。温い微風が吹き、全てを揺らしていく。
そろそろ夕の刻だというのに風が涼しくないとは、いかにも夏の夕時らしい。
「温風だろうと冷風だろうと、草花は同じように揺れ動き囁く……と。
当たり前だけど、どこかおかしく感じてしまうのは何故かしらね」
じわりと滲んできた額の汗を軽く拭い、幽香はふぅと息を吐いた。
疲れはさほどないが、どこかしら気怠さがある。きっと暑さのせいだろう。
何しろ今日という日は雲ひとつ無い晴天で、その分昼間の気温上昇の幅も半端ではなかった。
夏は好きな幽香だが、暑さそのものが好きなわけではない。何事も程々が一番なのだ。
「近くに氷精でも落ちてないかしら……っと。あら?」
何気なく辺りを見渡した幽香の目に止まったのは、泉だった。
こんこんと水が湧き上がり、端から小さな流れとなっている。どうやら湧き水らしい。
「何とも都合がいい話だこと。さて、どうしようかな」
しゃがみこみそっと手を差し込んでみると、ひんやりとした感覚が全身に走った。
割と冷たいが、冷えすぎているようでもなさそうだ。ついでに泉の広さもそこそこある。
「そうね。折角いいものを見つけたわけだし、利用しない手はないわよね」
日傘をたたみ、幽香が指を鳴らした途端、しゅるしゅると蔓が伸び広がり泉の周辺を覆い尽くした。
花を操る程度の能力の有効活用(?)である。
リグルは焦っていた。
尋常ならざるスピードでいつもの向日葵畑に駆けつけたものの、そこに求めていた存在はいなかった。
気分屋の幽香のことだからきっとどこぞをぶらぶらと散歩しているのだろうが
今のリグルに彼女の帰還を待つ余裕は無い。
冷静に考えればここで大人しく待つのが利口な選択だが、そのような選択は端からリグルの脳内には存在しなかった。
とにかく会いたい。早く会いたい。そして抱きしめたい。
最早理由や目的を考察することすら完全に放棄したリグルの脳内は、明らかに熱暴走していた。
夏の暑さのせいだとすれば末恐ろしい話である。
「幽香、幽香、幽香……っ!」
気力体力の限界を超え、我武者羅に花畑を駆け抜けるその姿は、とても虫の王とは思えないほどに滑稽で。
悲しいくらいに真摯だった。
すっかり日は暮れ、薄暗い空には星の光が少しずつ増え始めていた。
気温は夕刻の頃とほぼ変わらず、今では風すら凪いでいる。
「だからこそ、この冷たさが心地良いんだけどね」
ぷかり、と水面に浮きあがり、幽香は呟く。
自由気ままに手足を動かし、水の中で踊るその姿は美しいという他にふさわしい表現が見つからない。
それこそ新聞記者の烏天狗達が泣いて喜びそうな被写体だが、もしこの場に彼女達が居合わせたら
ここが鮮血に染まるのは火を見るより明らかだろう。
先程泉の周囲を草の蔓で覆い隠した理由の一つである。見られて困るものではないが、撮られると困るのだ。
「んっ…と。汗も流せたし、そろそろあがりましょうかね」
髪の水気を払いつつ、ざぶりと幽香が水中から身を起こしたその瞬間。がさがさっと近くの蔓茂みが揺れ動いた。
「っ!」
咄嗟に日傘を掴み身構えた幽香。さては烏天狗が嗅ぎつけたか。しかしその警戒は無意味に終わることになる。
茂みの中から勢い良く飛び出してきたのは、言わずと知れたリグルだった。
そのままの勢いでしばし地面の上を滑ったかと思うと、近くの大岩に衝突、停止した。
「…………。は?」
思いがけないこの状況にしばし唖然とした幽香だが、すぐに気を取り直し、傷だらけの闖入者に近寄った。
幸い(?)、他の闖入者はいないらしい。いたら即殺確定だが。
「リグル……よね。どうみてもこれは」
うつ伏せに倒れこみ、気絶している傷だらけの蟲娘は紛れもないリグル。
しかしそんな事は今の幽香にとって問題ではない。気になることは、他にある。
「こら、起きなさいリグル」
「……………」
返事は無い。どうやら完全に気を失っているようだ。
「ああもう、面倒臭いわね、もうっ」
痺れを切らした幽香は、日傘の先端を力一杯リグルの脳天に振り下ろした。ばきっと鈍い音が響いた。
「あいだっ!? ……って、あ、あれ、ここはどこ――」
「……………」
「あ゛」
威勢よく飛び起きて、周りを見渡すリグルだがその眼はある地点でぴたりと止まった。
その視線の先にあるのは、一糸纏わぬ花の大妖怪の姿。しかも目に狂いがなければ、静かに怒りつつあるようにみえる。
「あ、あの、幽香、さ」
「交尾は済ませた? 苔の上に産卵は? モウセンゴケの上でジタバタ足掻いて、命乞いをする準備はOK?」
「ご、ごめ――」
「取り敢えず、お仕置きよ」
日傘の先端からぶっぱなされた極太の光線が直撃する寸前、リグルが最後に目にしたのは。
憤怒の化身となった幽香の極上の笑顔だった。
「ひぇぇぇぇぇぇっ!?」
夏の夜。哀れな虫の王の断末魔が小さな泉の岸辺に木霊した。
「で? 事情を説明してもらいましょうか?」
「んん、んんんーっ!」
「なぁに? よく聞き取れないわよ? 舌でも抜かれたの?」
「んんんんーっ!」
数刻後、笑顔の幽香にネックハンキングツリーをかけられているリグルの姿がそこにあった。
ちなみに幽香はもう服を着ているので目のやり場に困ることはない。もっとも今のリグルはそれどころではないが。
「ん…んぐぅ……」
「そろそろ頃合いかしらね。ほれっと」
「ぐはっ!」
リグルの五分の魂が消えるというまさに寸前のところで幽香が飽き、ぽいっと軽く放り投げた。
べちゃあ、と情けない体勢で地面に墜落するリグル。猫ならきっと華麗な回転着地を決めたことだろう。橙とかお燐とか。
「し、死ぬかと思った……」
「冗談は程々にしなさい。殺すならとっくにそうしてるわ。自分の死ぬ瞬間ぐらい見定められるようになりなさいよ」
「そんな無茶な……」
冷ややかな視線を投げつけられ、萎縮するリグル。
特にこれといって非はないはずだが、それを幽香相手に堂々と主張できるほどの肝がリグルにあろうはずもない。
この辺りは珍しくもなんともない、普段どおりの力関係である。
「さて、そろそろ説明してもらうわよ。一体何の目的があって、人様のいい気分を台無しにしてくれたのか。
もしくだらない理由だったら……」
「あわわわ、ちゃ、ちゃんと説明する、説明するからその殺気を抑えて、抑えてくださいっ!」
今度幽香の逆鱗に触れようものならきっとマスパ一本では済まないだろう。
分身からダブルマスパが飛んできても不思議ではない。もしくは発狂弾幕とか。勿論旧作仕様で。
ただでさえボロボロの身体でそんなもの食らったら今度こそ命は無い。助かっても当分再起不能になるのは確定だ。
「まあ、いいわ。出来る限り抑えてあげるから、さっさと説明しなさい」
「は、はいっ! えーっと……」
此処へ来て、リグルは言葉に詰まった。
それもそのはず、元々説明できるような理由などどこにも無いのだから当然だ。
どうする。何から語ればいい。まさか素直に『幽香を抱きしめたくなったから』と言えと?
いやいやいや、それはない。そんな事すれば即死亡フラグ成立だ。
だったら誤魔化すか? それも駄目だ。こういう時の幽香は妙に感が鋭い。
下手に取り繕ったりしたら逆に苛立たせてしまう。そして死亡フラグ成立だ。
………あれ、これって詰んでない?
「…………(びきびき)」
「ひぃっ!」
幽香の腕に力が込められ、血走り始めた。やばい。誰でも分かる危険信号だ。
考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
頭の歯車をフル回転させろ。無い知恵を振り絞れ。そして捻り出せ。最適解を。
「リグル…?」
かちり、と。何かがはまる音がした。
「………抱きしめたかったから」
「えっ」
予想だにしない言葉に、幽香は思わず耳を疑った。
何? 今この子は、なんと言ったの?
「何、それ? ふざけて言ってるの?」
「あ、いや、そんなこと無いよ! これは正真正銘、私の本音。嘘も誤魔化しも全く無いから!」
「はあ」
そんな事、わざわざ必死になって弁解されるまでもなく分かりきっているのに、と幽香は内心呆れた。
いい意味でも悪い意味でもリグルは嘘が下手だ。元々の頭の良さについては言うに及ばず
妖怪として生きてきた経験値がそもそも違う。
そんじょそこらの連中に言い負けることなど幽香は考えてもいないし、まずあり得ないだろう。
だからこそ、尚更今のリグルが滑稽に見えるのだ。
「で、肝心の理由は? そこをちゃんと説明してもらいたいんだけど」
「えっ? あー、えーっと、それがね…。何というか、上手く説明できない……んだよね。
わわ、お願いだから怒らないでっ!」
「まだ怒ってないわよ。怒らせたくなかったら、さっさと続けなさい。まだこっちはちっとも理解できてないんだから」
呆れ口調のまま説明を促す幽香。正直、もう色々と馬鹿馬鹿しくなってきた。
普段ならここで怒り狂っていてもおかしくないのだが、今日はそんな気分になれない。
あまりのくだらなさに毒気を抜かれてしまったせいだろうか。
「う、うん。それでね…えーっと……うん、そうそう。幽香って、何だか抱きしめたくなる魅力があるっていうか」
「ふーん……って、へぁっ!?」
うっかり聞き流してしまいかけた爆弾発言の威力が、時間差で襲いかかってきた。
完全に虚を突かれた幽香に反応できるはずもない。仰天するあまり、声が裏返ってしまった。
そんな幽香の心境を知ってか知らずか、リグルは言葉を続ける。
「幽香は綺麗だし、強いし、見ていて憧れるし、それでいて花が大好きでいつも笑顔だし
たまに怖い時もあるけど変なことしなければ優しいし、いい匂いがするし、それに」
「ちょ、ちょっと待ちなさいリグル。お願いだから、それ以上何も言わないで」
「え? でもまだ説明し終わって」
「い、い、か、ら! これ以上何か喋ってみなさい、その舌を引っこ抜いてやるわよ!」
「ひ、ひぇぇぇっ! ご、ごめんなさいっ!」
「ふ、ふんっ、分かればいいのよ分かれば」
ぷいっと顔を背けた幽香だが、内心穏やかではなかった。
正直今のは凄んで脅したというより無理やり誤魔化した感が強い。
この花の大妖怪、風見幽香ともあろう者が、何という醜態。自分で今の行為を省みて、軽い自己嫌悪に陥る幽香。
不愉快だ。全くもって不愉快極まりない。何よりも不愉快なのは―――
「ううう、やっぱり幽香怒ってる……。腹を括って本音を告げたけど、間違いだったのかなぁ……。みすちー、ルーミア、チルノ、大ちゃん。ごめんね、もう皆とは会えないかも……」
当の本人に、まったく他心が見受けられないということ。
これがあの胡散臭い隙間ババァとかなら問答無用でぶん殴ってやるし、そうした方がすっきりするだろう。
でも、純粋にこっちの長所をずばずばと。それも悪意も害意もなくすっとぼけた調子で語られるとどうしようもない。
イライラはしているし、やり場のない感情を何かにぶつけたい欲求はあるけど
目の前にいるこいつを今その対象にしようとはどうしても思えないのだ。
根っからのいじめっこ気質な風見幽香。しかし意外にもど真ん中の直球に弱かったりする。
「あ、あのー幽香?」
「っ! な、何よいきなり話しかけないで!」
「ご、ごめんなさいっ! えっと、私の勝手な都合で嫌な思いさせちゃって本当にごめんね?
謝って許してもらえるとは思ってないけど、でも、今の私にはそれくらいしか出来ないから…」
「…………」
心の底から申し訳ないといった表情でひたすら陳謝してくるリグルを、幽香はぽかんと眺めざるを得なかった。
すぅ…と、心に立ち込めていたもやもやする感情が消えていく。その代わりに、別の感情が大量に沸き上がってきた。
「――ぷっ」
「あれ、幽香?」
あまりにも間抜けで、単純で。それでいて真っ直ぐだけどどこかズレている、一見すると男の子と見間違えかねない蟲娘。
実力じゃ自分に遠く及ばないくせに。ちょいといぢめただけで過剰に怯えておどおどするくせに、積極的に関わってくる馬鹿な虫の王。
――ああ、私は何をこ難しく考えていたのやら。始めから、もっと単純に捉えればよかったのだ。
相手が単純な奴だと分かりきっているなら、こちらも単純な反応だけすればいい。要するに、いつもどおりでいいのだ。
「ぷはははは! リグル、貴女って馬鹿。本当に馬鹿だわ」
「む! いくら幽香でもその言い方はちょっと許せないなぁ。それじゃまるで私がチルノと同レベルみたいじゃん」
「同じようなものよ。私から見ればね。くっくっく…。あー面白い」
「ぐむむ、なーんか納得いかない…」
渋面のリグルを横目で見つつ、幽香は笑い続ける。
心の底から愉快だった。ここ最近で一番笑ったかもしれない。
くだらなさや馬鹿馬鹿しさをとことんまで突き詰めると、むしろ面白おかしくなってくる。
まあ、目の前の蟲娘はこれっぽっちも理解してないだろうが。そう考えると、また可笑しさがこみ上げてきた。
さっきまでどこかしてやられたような敗北感があったが、これで帳消しだ。むしろお釣りが出てもいい。
その位、今の幽香は最高に気分が良かった。
「あー笑った笑った。折角汗流したのに、また汗まみれになっちゃったわ。家に帰ったらすぐに風呂ね、これは」
「うーん、うーん」
「ほら、いつまでもそんな似合わない、難しい顔なんかしてないで、さっさと来なさい。
貴女のおかげで今日は気分がいいから、特別に招待してあげるわ」
幽香の言葉を聞いても、しばらく頭を捻って考え込んでいたリグルだったが、やがてポンと手を叩いた。
「……うん、そっか。ようやく分かったかもしれない」
「? 何が?」
何の気なしに尋ねる幽香だが、ここで気づくべきだった。
これと同じような流れが今しがたこの場で合ったということ。そしてその結果を。
当然リグルもそんな事に気づくはずもなく、再び口にすることになる。爆弾発言を。
「私が、幽香を抱きしめたくなった理由。多分私は、幽香の屈託のない笑顔を見たかったんだと思う。
ううん、多分じゃなくて、きっとそう。だって幽香の笑顔を見てると、とても幸せな気持ちになるから」
「……………」
「うん、やっぱりそうだ。幽香っていつも笑ってるけど、中々心の底から笑ってないように思えるんだよね。勿体無いよ。折角素敵な笑顔が出来るのに、滅多に出せないなんて。だから私は……ってあれ幽香、どうして傘を握りしめているの? それに何だか雰囲気が――」
「は、恥ずかしいセリフ禁止っ、この馬鹿―――っっ!!」
「あひゃらぶ――っ!?」
トマトもかくやというほど赤面した幽香のパラソルフルスイングをもろに食らったリグルの身体は
弾丸の如き勢いで木々の合間をすり抜け宙を駆け雲を突き抜け。
その飛行距離は幻想郷縁起に特別記録として記されるほど長距離になったというのは別の話。
その弱点ど真ん中をリグルがクリーンヒットして突き抜けてて。
これ以上の凸凹カップルは知りませんわ。
>>おまけ
魔理沙が、吸った揉んだした……だと……
リグ幽も大好物ですよ、ええ。
・・・そして鴉天狗×2、イ㌔
いいねぇ、イメージ通りだねぇ
あややが溶けてはたてが案山子になるところが
あと2点ほど
>>合い挽き
挽肉ですか!?
>>柵のない笑顔
「屈託のない」ですかね?
>1様
そうですね、確かに凹凸ですね。胸的な意味d(リグルキック直撃
幽香りんって怖くて綺麗で可愛いと三拍子揃っているからこそ魅力的だと思うのですよ。
そしてすったもんだのその発送は無かった。ブラヴォー、おお、ブラヴォー!
>6様
リバありは基本です(ぁ
同じようなイメージをもつ方がいると知って嬉しい限り。作者冥利につきますですはい。
ほた…はたては文よりもぢらいを自然と踏み抜きそうなタイプだと解釈してます。
でも嫌いじゃないよ! むしろツインテール大好きだよ!!
>14様
藪をつついてみたら蛇ではなく幽香りんが出てきたでござるの巻。
これでも懲りそうにないのが烏天狗記者達だと思うから困らない。
はたては案山子になったのだ……。
>15様
もっとカリスマというか、威厳をバリバリ出したかったのですが、殺伐とした雰囲気がどうにも展開に合わなそうだったので今回は純情少女っぽく反応してもらいましt(ダブルマスパ直撃
指摘された二つはどちらも誤字です。誤字ですが、前者は別の意味で間違っていないような気も(ry
後で修正しておきますね。報告ありがとうございました。
>17様
このリグルには打算的な要素が一切見当たらないのがまた厄介ですよね。幽香りんも大変だ。
まあそれでも普段は幽香>>リグルなんですけどね(ごく普通の日常光景)
>18様
ええ、幽リグはいいものです。自分ももっともっと素晴らしい幽リグを書けるようにならないと!
精進あるのみっ!!
異常です。感想、ご私的ありがとうございました。また次の作品があったらお会いしましょう。
よかったです。