Coolier - 新生・東方創想話

幽々子と幼夢 幸福の象徴 日常の風景

2013/02/06 12:37:06
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 草原を子犬の様に駆け回る幼子が一人。
 その後を、白くて小さな風船状の物がゆらゆらと追っていく。
 それは幼子の半霊であった。
 それを遠目で眺める少女が一人。
 一陣の風が吹き抜け、少女の淡い桜色の髪を揺らす。


 西行寺幽々子と魂魄妖夢は二人で散歩に出かけていた。
 普段は白玉楼から余り出歩かない幽々子も、妖夢の頼みとあっては断り切る事が出来なかったのだ。
「あんな顔で見上げられちゃあねぇ……」
 その時の妖夢の顔を思い出し、思わず微笑んでしまう。
 妖夢が産まれてから、白玉楼も随分と賑やかになったものだった。


「ゆゆこしゃま!」
 幼子特有の舌足らずな喋り方。それに加え持余した元気を全て声に変換してしまったかの様な大声。
 妖夢が幽々子を様付けで呼ぶようになったのはいつからだろうか。きっと妖忌の影響だろう。
 私個人の希望としては、妖夢には是非とも『幽々子御姉様』や『幽々子お姉ちゃん』と呼んで貰いたかったのだが、それは最早叶わぬ夢だろう。


 慣れぬ者なら思わず顔を顰めてしまいそうな程の声量で名前を呼ばれ、幽々子はそれでも意に介さず応える。
「どうしたの? 妖夢。何か面白い物でも見つけたの?」
「みつけられないの!」
「ん、何かを探しているのかしら?」
「うん! 四つ葉のクローバー!」
 四つ葉のクローバーは幸福のシンボル。
 きっと妖夢はそんな話を誰かから聞いたのだろう。
「でも、私は三つ葉のクローバーの方が好きよ?」
「どーして?」
 妖夢は幽々子の話に興味を持ったようで、その瞳は爛々と輝いている。
「四つ葉のクローバーは幸福の象徴よね?」
「しょーちょー?」
「うーん……『四つ葉のクローバーを見つけたら幸せになれる』。そうよね?」
「はい! よーきおじいしゃまにはそうききました」
 ……誰かと思っていたら、まさか妖忌が妖夢に教えていたとは。
 あの妖忌も、幼い孫娘には甘い部分もあるのかもしれない。
「だとしたら、三つ葉のクローバーは何だと思う?」
「えー?」
「ちょっと難しかったかしら?」
「えとね……、いらないもの?」
 容赦の無い妖夢の答えが妙に子どもらしくて、幽々子は笑ってしまう。
「ゆゆこしゃまは、わたしがまちがったからわらうの?」
「いいえ、違うのよ。妖夢の答えが妖夢らしくて笑ってしまったのよ」
 妖夢は一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、直ぐに自分が笑われたわけでは無いと気づいたのか、妖夢も幽々子に釣られるようにして笑った。
「じゃあ、こたえは?」
「答えじゃなくて、あくまで私はこう考えているってだけなんだけどね。
 四つ葉のクローバーが幸福なのだとしたら、三つ葉のクローバーもまた幸福なんじゃないかなって」
「どーゆーこと?」
「三つ葉はね、日常の、何と無くで流れていってしまう幸福を現してるんじゃないかって思ってるの。
 四つ葉みたいに特別な形をしていないと気付けない人が多いけど。でも、その人の周りにはいつも三つ葉という何気ない幸福が溢れているの」
 ちょっと妖夢に話すには早かったかな、と後悔しかけたが、
「わかった!」
 妖夢がそう答えてくれて安心した。
 会話が終わると直ぐに妖夢は走り出してしまった。


 帰り道の事だった。
「ゆゆこしゃまにね、わたしたいものがあるの」
「何かしら?」
「てをだして!」
「はい」
 幽々子が手を差し出す。すると妖夢はその手の平に、三つ葉のクローバーを手渡した。
 ……幽々子の両手ですら持余しそうそうになってしまう程の量を。
 溢れんばかりの三つ葉のクローバーを渡され、手の平から少しだけ零れ落ちてしまう。
「みつばのくろーばーはたくさんみつけたよ!」
 溌剌と、楽しそうに、満足気に言ってのける妖夢。
 ……妖夢に話すにはやっぱり少し早かったか。
 そう思ったが、妖夢が自分の為にこれだけクローバーを集めてくれたことがただ単純に嬉しかった。
「ありがとう、妖夢」
「いいの! ゆゆこしゃまとおさんぽたのしいから、そのおれい!」
 幽々子は妖夢に、渡されたクローバーの半分を返す。
「どーしたの?」
「幸せは、二人で分け合うと二倍になるんですって」
「にばい? たくさん?」
「そう、沢山」
「たくさんしあわせ! ゆゆこしゃまとならずっとずっとたのしいよ?」
「ありがとう。妖夢」
 妖夢の頬に付いていた泥を指で落とす。妖夢は少しだけこそばゆそうに顔を顰めて、その後また幽々子を見上げて笑った。
 笑顔の二人が手を繋ぎ、またまた取り留めのない話を始めた。
 帰り道でどれくらい妖夢と話ができるだろう?
 幽々子はそんな事を考えていた。
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コメント



0.350簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
ほのぼのよかったです
7.無評価yosei削除
ありゃ、ボタン押しちゃった。

ちょこんと切り取られた風景。パノラマ写真みたいで綺麗ですね。でも惜しいかな、二人以外、なんにも写ってないや
9.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
10.50名前が無い程度の能力削除
もうちっと量が欲しいところ。
13.80非現実世界に棲む者削除
嗚呼、この二人は桜のように美しく、そして可愛らしい。
だけどもっと長くしてほしかったな~。