春。永い眠りから解き放たれた植物、動物達がいっせいに活動を初め、新たな日々に
心躍らせる季節である。それは、人間や妖怪も例外ではい。寒い季節に体をだるまのように
丸めていなくてはならないことに比べれば、この暖かい季節はありがたく、心も軽い。
子供や妖精の走り回る姿や春の陽気に浮かれた人間も多く目にすることができる。
近々、人妖交えた宴会が開かれるそうだ。
春。幻想郷。異変はもう始まっていた。
『みんなを思い出させる程度の叫び』
八雲邸
八雲紫の住まう家である。紫はとても心地の良い目覚めができた。それは、空気いっぱいの春の香りかそれとも紫の式である藍の作る朝食の香りか、いずれにせよ心地の良い香りにやられて目覚めの良い朝であった。
「ふあぁぁ・・・藍~起きたわよ~」
おそらく台所から、廊下を駆けてくる音が聞こえ部屋の前まで来て襖を勢いよく開けられた。
まぶしい日の光が入ってきて紫は思わず手で光を遮る。
「まさかご自分で起きられるなんて・・・・・・い、いえ、おはようございます紫様」
藍は信じられないといた様子で紫を見ていたが、すぐにいつも通りの顔に戻った。
「おはよう」
「朝食の準備は整ってます。すぐに食べられますか?」
「そうね、頂きましょう」
朝食はいたって普通のものだった。紫の朝の心地の良い目覚めはどうやら春のものだったらしい。
「藍、あなたもう少し精進なさい。春に負けないくらいに」
藍はよくわからないといった表情で朝食を食べ続けた。
「さて目も覚めたことだし霊夢に挨拶でもしてこようかしら?」
「そんなことしても霊夢に好かれはしませんよ?」
藍にからかわれ、紫は少しムッとした
「いいのよ別に・・・・・・まぁ様子見も兼ねて行ってくるわね」
「はいお気をつけて」
紫はスキマの中へと消えていった。
博麗神社
博麗霊夢が巫女を務める神社である。このとき霊夢は既に境内の掃除を終え
いつものように縁側で茶を啜っていた。
「おはよう~霊夢。良い朝ね。幻想郷もすっかり春だわ。あら?桜もきれいに咲きそうね、宴会の準備もしなくてはね。
そうそう、これお土産ね。お饅頭。藍が搗いたものよ。はぁ~やっぱり神社は落ち着くわ~家にいると藍の小言がうるさくて・・・・・・」
スキマからいきなり現れては間髪いれずに話しかけてくる紫に霊夢は無視を続けた。
「ふぅ、少ししゃべり過ぎたわね。のどが渇いたわ。霊夢、お茶を入れて頂戴」
「・・・・・・」
「霊夢?」
だんまりを続ける霊夢に紫は不安を感じた。何か霊夢を怒らせるような行いをしたか思索するも思い当たることはなかった。
(おかしいわ。これじゃまるで・・・・・・)
「ねぇ霊・・・・・・」
「よっこいしょっと」
霊夢は立ち上がり、台所へと消えていこうとする。
紫の全身を不安が駆け巡る。紫はスキマを使い霊夢の眼前へ移動すると、少し声を荒げて言った。
「いい加減にしなさい霊夢。さすがの私も・・・・・・」
霊夢と目が合う。しかし霊夢は紫を見ている様ではなかった。霊夢は紫の向こう、食器棚を見ていた。
紫は息が荒くなり、体中が熱くなるのを感じた。
(こんな馬鹿なことが・・・・・・!)
紫はスキマに飛び入り、幻想郷中を見て回った。
「うらめしや~・・・・・・ちょっと!驚かなくてもせめて反応ぐらいしていったらどうなんだー!・・・・・・はぁ」
「だめだー今日の人間はちっとも悪戯に引っかからない・・・・・・つまんないー!」
(妖精までも・・・・・・これは異変だわ!)
紫は最悪の可能性を感じた。
(このままでは外の世界の二の舞に・・・・・・妖怪たちの居場所が・・・・・・)
外の世界でも居場所を失い、幻想郷でも居場所を失う。それを恐れた紫は幻想郷で名の通った妖怪たちを集め異変解決へと乗り出た。
「なんど咲夜を呼びつけても返事のひとつすらなかったのは、時間の止めすぎでボケたのではなく異変の所為だったのね」
紅魔館の主。夜の王。レミリア・スカーレットは納得したように言った。
「うちの妖夢も働かせすぎでボケちゃったのかと思ったわ。朝ごはんも自分のしか作らないし・・・・・・」
「うちの早苗も弾幕ごっこのしすぎでボケたのかと・・・・・・」
亡霊の姫、西行寺幽々子。山の神、八坂神奈子も今回の不可思議な出来事が異変によるものだと納得していく。
「あなた達の家の子はそんなにボケやすいの?一回うちに診察に来なさい」
竹林の医師、八意永琳が話に見事な落ちをつける。
「自体はそんなに甘くないわよ。ある意味幻想郷始まって以来の危機とも言える」
紫はやけに落ち着いていた。紫は経験上落ち着くことの大切さを知っていたのだ。
「でも一体どうすればいい?人間達は私たちの声も姿も、触れてることにも気づかない。」
「おそらくだけど・・・・・・外の人間達と同じ現象が幻想郷内でも起こってるわ。つまり、忘れてしまったのよ。妖怪たちのことを」
紫はひどく悲しそうに言った。
「ある意味これも定めかも知れないわね・・・・・・」
永琳の発言にレミリアが突っかかった
「定めだって?そんなもの・・・・・・誰が決めた定めだ!昨日まで普通に話せていたんだぞ!咲夜は私を忘れたりはしないはずだ!定めなんてあるものか!」
「だったら元通りにして御覧なさい。あなたのその運命を操る程度の能力で」
「貴様ぁ!!」
「いい加減にしなさい!!」
紫の怒声がその場に静寂をもたらす。
「落ち着いて・・・・・・考えるしかないの・・・・・・幻想郷を救うためには」
とっさにレミリアが反論しようとするが目の前の光景に、その言葉を飲み込んだ。
紫は震えていた。恐怖していた。人間に恐怖を与えるはずの妖怪が、人間の忘れるという行為に恐怖していた。
見たことのない彼女の姿にレミリアは前にもこんなことがあったのかと彼女の過去が少し気になった。
「悪かった・・・・・・私も考えるよ」
「私も考えさせてもらうわ」
永琳もレミリアに続いて言う。
そう。今は考えることが大切だ。妖怪たちの存在が消滅してしまう前
に・・・・・・
紫が目覚めてから三日後
異変の存在など知らないただの巫女、霊夢は早々に境内の掃除を終えて、日課である縁側でのお茶を楽しんでいた。
この数日、霊夢は大変楽な思いをしていた。以前はこんなに生活がスムーズに進まなかったはずだ。何かしらの
邪魔が入り、ゆっくりお茶を楽しむこともできなかったのだ。
霊夢は以前のことを特になんとも思わず、お茶を啜っていた。
このまま昼寝にでも移行しようか。などと考えていると
「久しぶりだな~霊夢。すっかり春になっちまったな。お?桜もきれいに咲いてるし、こりゃ早めに宴会の準備をしなくちゃな。
そうだ、これお土産な。饅頭。いつのか分からないけどまぁ気にするな。ふ~やっぱ神社は落ち着くな~うちの中めちゃくちゃでさ~・・・・・・
霊夢の友人。霧雨魔理沙がやってきた。
「饅頭?」
「ああ、饅頭」
「あんたも饅頭なのね」
「? 珍しいな。誰か来たのか?」
「ええ。三日ぐらい前に饅頭だけ置いていったみたいで」
「ほ~そりゃ異変だな」
「ちゃんと饅頭は退治したわ」
「そうかそうか」
魔理沙は霊夢の横にどかっと座ると、霊夢にお茶の催促をした。
彼女の家は霊夢の家から遠い森に住んでいる。今ではただの湿気の多い森となってしまったが彼女の住居はそこにある。
歩いて通うのは不便なため、彼女が来るのは珍しかった。
以前はもっと頻繁に通っていた気もするが、彼女はとくに気にしていなかった。
「・・・・・・とまぁこんなことがあったんだ」
魔理沙はこの数日で起こった出来事を霊夢に話していた。これは神社を訪れた魔理沙のお約束となっていた。
「終わり?」
「終わりだぜ」
「ずいぶん少ないじゃない?」
「もっといっぱいあったと思ったがな~・・・・・・今日はこれで終わりだ」
それっきり二人とも黙ってしまった。どことなく気まずくなってしまったのだ。
「・・・ん?」
しばらくして、魔理沙が声を発した。
「どうしたの?」
「あれ・・・・・・咲夜じゃないか?」
「あーそうね。あれは咲夜ね」
「目の前にいるじゃないのよ・・・・・・二人して春の陽気にでもやられたの?」
紅魔館という廃墟に住むメイド姿の彼女こそが十六夜咲夜である。
「珍しいな、暇なのか?」
「まぁ暇かしらね。仕事は全部午前のうちに仕上げてしまったから」
「あんな薄気味悪いところで仕事なんかあるの?」
「掃除・・・・・・かしらね」
咲夜が来たことによって一度は萎みかけた会話の花が再び膨らみ始めた。
「ねぇ今度宴会でしょ?」
宴会好きの幻想郷の人々。その中でも春の宴会は桜の下で行われる一大イベントである。
「今度、今度、って結局いつやるのか聞いてなかったから・・・・・・」
咲夜が神社に来た目的のひとつ。宴会の期日を聞くことであった。
「それなら満月の日だ。満月。桜が綺麗に見えるからな」
「もうすぐじゃない!何も用意してないわ。いつ決めたの?」
「今だぜ」
正直、霊夢は早く宴会がしたくてしょうがなかった。ただ単にたくさん呑めるというのもあるが、あの喧しくも、一体となった感じが
なんとなく好きだったからだ。それにしても今回は参加者がやけに少ない気がする。このもやもやとした気持ちを霊夢は忘れなかった。
「聞いた幽々子。満月の夜に宴会ですって」
「ええ。しっかりと。三日間張り込んだかいがあったわね」
妖怪たちである。忘れてはならない、忘れられた妖怪たちである。
彼女達は話し合いの末、答えがまとまらず仕方なく紫と幽々子がチャンスが来るのを待つため張り込みをしていた。
「その宴会が最後のチャンスね・・・それ以上は人間達が完全に妖怪を忘れてしまうわ。
今はまだ引っかかる程度に残っているようだけど」
「幻想郷をかけた大勝負ね・・・・・・さ、早く作戦を練りましょう。」
全妖怪の未来をかけた大勝負は満月の夜、桜の下の小さな宴会で・・・・・・。
宴会開始の一時間前
「結局、何も決まらなかったな。」
「決めたのは覚悟ぐらいよ。すべては定めってね。」
博麗神社の縁側で桜を眺める神奈子と紫。
あの後徹夜で話し合ったものの、これといった作戦が思い浮かばないまま本番の日を迎えてしまった。
「幻想郷にいる全ての妖怪、神に妖精、天人に地下の者達・・・・・・全部に声はかけたけどさ」
「それはそれは賑やかで・・・・・・というかもはや喧しいわね」
自分達の存在の最後と聞かされて集まった幻想郷の者達。あるものは泣き、あるものは酒を飲み、わかってなさそうな者達まで。
そんな魑魅魍魎が博麗神社の周りにわんさか集まった。
(もはや考えることすら無駄なのかしらね)
紫はただただそのときを待っているかのようだった。
宴会開始
「少な!」
「少ないわね」
「少ないですね」
「少なすぎでしょう、いくらなんでも」
「5人って・・・・・・おい!」
宴会に集まったのは5人。霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢に早苗のたったの5人。
「いつもこんな感じでしたっけ?」
「だったような気が・・・・・・する」
「気がしますね」
「気がするわね」
「しないわよ。前はもっと多かった」
霊夢の言葉にあたりが静けさに包まれる。
「じゃあ誰がいたんです?」
「それは・・・・・・」
「そんなことよりせっかくの宴会だ。盛り上げていこうぜ!」
桜の下で5人だけの宴会が始まった。
とても小規模な宴会だ。たったの5人。しかし5人でも盛り上がろうとするのが彼女達であった。
自慢の業、自慢の歌、自慢の手品。みな退屈しないような芸を持っていた。というか退屈させないために各々が必死になっていた。
しかし彼女達が知らないだけで、彼女達を囲むように半径100mほどが魑魅魍魎で埋め尽くされていた。
人間達から見れば今までで一番小さな宴会。だが、妖怪達から見れば今までで一番大きな大宴会となっていた。
「いいぞー霊夢!もっと踊れ踊れ!!」
「魔理沙歌うまいなー!もっと歌えー!!」
「さっすが私の咲夜!手品の腕も瀟洒なもんね!」
「妖夢ったら半霊を失ったからますます半人前になったわね~」
人間達に届かぬ声が幻想郷に響きる。
「一番!早苗!!霊夢さんのモノマネします!!!」
「ははは・・・はは・・・」
何かがいつもと違う。5人はそれにとっくに気づいていた。でも、何が違うのか、それが分からない
(私は博麗霊夢。博麗神社の巫女で、それ以上でも以下でもない・・・・・・そんなんじゃなかったはずよ私は)
それぞれが気づき始めていた。
(私はもっと頻繁に霊夢の家に行っていたはずだ。それに私はもっと何か・・・・・・大きな力を探していたはずだ)
だが、まだ・・・・・・
(私はあの屋敷で誰かを待ってるんだわ。私の主。私はその主のことを大切に思っていたのかしら?)
まだ、足りなかった。決定的なものが
(綺麗な桜だ。この桜を見ていると、なんだか・・・・・・何かを・・・・・・)
妖怪たちとの繋がりが
「次!魔理沙さんのモノマネします!!」
縁側に腰掛け最後の花見を楽しんでいた紫の前に、チルノが現れた。
「ねぇ紫?」
「あら、チルノじゃない。どうかした?」
「みんな消えちゃうの?」
「ええ。消えてしまうわ」
「消えたら・・・・・・どうなるの?」
「人間がいる限り、私たちはまた生まれるわ。ずっと昔からそうだったんですもの」
「次生まれたとき・・・・・・そこに霊夢はいるの?」
「・・・・・・いないわ」
「だったら・・・・・・あたい、そんなのッ!!」
チルノは紫の前から、霊夢たちのほうへと飛んでいった。
紫はただチルノがこれから何をするのかを見ていた。
「思い出せ!思い出せ!っこの!」
チルノにできることは、ひたすら霊夢たちに向かって叫ぶだけだった。
(やっぱり、妖精は妖精ね)
紫はひょっとしたらチルノは何かやってくれるのかもしれないと思った自分を恥じた。
所詮こんなものなのだ。幻想なんて。
こみ上げてくるものは、怒りや悲しみを超えて幻想への呆れとなっていた。
「がんばって・・・霊夢、がんばれ!」
チルノは叫び続けていた。
周りの妖怪たちがチルノに注目し始め、静けさが支配していく中でもチルノは叫び続けた。
やがて神社にはチルノ一人の声がこだましていた。
「思い出せ!がんばれ!思い出せ!」
馬鹿なことを。誰かあいつを止めないのか。誰しもがそう考えていたであろう。
しかし、そこにもうひとつの声が響いた。
「そーだ!がんばれ霊夢!」
この声の主は、鬼の伊吹萃香である。
「ほらっ!お前らももっと声上げろ!」
酔っ払いの戯言か、迷えるものを導く声か
萃香の声につられてか、妖怪達からも霊夢たちを応援する声が響き始めた
「霊夢ー!がんばれー!」
「魔理沙ー!思い出しなさーい!」
「がんばれ!咲夜!思い出すんだ!」
「がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!」
その声は次第に広がっていき
「コラー!なに忘れてんだ人間どもー!しっかり思い出せー!」
「がんばれー♪がんばれー♪がんばれー♪」
いつしか全ての妖怪たちが霊夢たちを応援していた。
「これが幻想郷をかけた大勝負ってわけね・・・・・・ふふっ」
「ほんとに・・・・・・幻想郷らしいといえばらしいわね」
紫と幽々子はその光景を愉快そうに見ていた。
(これじゃ私たちはまるで人間みたいね。小さな力をみんなで出し合うなんて。)
やがて二人も大気を揺らす応援の輪の中に入っていった。
「続いて~妖夢さんのモノマネをします!」
「いやさすがに飽きたぜ。次は私の一発芸10連発だ!」
一方人間達の小さな宴会は空気的な意味でそろそろ限界だった。
そして霊夢が感じる違和感もピークに達していた。
(そもそも5人なんかで宴会ってのがおかしいのよ。どこかで間違えたんだわ。あのお饅頭だって魔理沙じゃなきゃ
誰が持ってきたってのよ。・・・・・・ああもうさっきから耳元がむず痒い。そうだわ。いつもの私を思い出せばいいんじゃない。)
「霊夢・・・・・・さっきからだまってて、気持ち悪いの?」
違和感について考えていた霊夢を気分が悪いと勘違いした咲夜が心配して背中をさすってきた。
「大丈夫。ちょっと考え事をね・・・・・・」
(私はいつも・・・・・・境内の掃除をして、それから縁側でお茶を飲む。だいたいはその流れだわ。・・・・・・ああもうさっきから
何かしらこの・・・・・・耳元が痒いような感覚は。いつもいつも誰かがうちにやってきてはお茶を催促していたような。魔理沙じゃ
なかったら一体誰だってのよ。・・・・・・痛っ!)
そのとき、霊夢の脳裏に金髪の女性が浮かんだ。
「霊夢どうしたんだよ?耳なんか押さえて。そんなに聞きたくないか?私の一発芸。」
「違うわよ・・・・・・なんか、耳元で叫ばれてるような・・・・・・」
(私・・・・・・この人を知ってる。いっつも神社に来ては私の邪魔ばっかして)
「な・・・・・・なんだ?轟音が聞こえるぞ?イテテテテテッ!」
(ちょっかい出してくる奴。どこからともなく現れる奴。)
「なんか・・・・・・声のように聞こえるわ。」
(はは。しかもそいつ人間じゃなくて妖怪じゃない。そいつの名前は・・・・・・)
「応援・・・・・・されてるのかしら?」
霊夢はスッと立ち上がり満月に向かって大声で言った
「八雲紫!大妖怪八雲紫!!私の大嫌いな奴よ!!!」
次の瞬間、5人の眼前には5人を囲むようにしてできた妖怪の群れ。群れ。群れ。
そして耳にはいずれも5人を応援する幻想郷中に響き渡るような声。声。声。
「がんばれがんばれ霊夢!がんばれがんばれ魔理沙!」
「思い出せー咲夜!思い出せー妖夢!」
結局霊夢たちがいくら思い出したといっても、妖怪たちはその宴を続けた。
幻想郷始まって以来の大宴会。妖怪たちの叫びは一晩中、幻想郷を揺らし続けた。
大団円
「うー・・・がんばれー・・・霊夢ー・・・・・・」
「こいつ、寝ながら応援してるし」
夜が明け、数時間前までの大騒ぎがうそだったかのように、ここ博麗神社は静けさに包まれていた。
「うそだったらよかったのに・・・・・・」
あたり一面ボロボロ。境内もボロボロ。神社も、神社の外もボロボロである。
今回の異変、その原因は霊夢にあったようだ。
冬の間ろくな蓄えもなく、訪れるものも少なく、霊夢は心身ともにまいっていたらしい。
そしてそのまま春を向かえ、結界の力が極限まで弱まったため外の世界と完全に混同し幻想郷住民は一晩にして
幻想を忘れてしまったのである。
なので霊夢が思い出したことにより結界の力が元に戻り、異変解決へと繋がったのである。
紫は、外の世界が与える影響力がこれほどにまで強くなっていることに驚き、霊夢に今後の結界の更なる強化を依頼した。
それに対し霊夢は
「人里から神社までの安全な参道の用意。まずこれをしなさい。参拝客を増やして信仰力をアップさせるから」
と、反論した。
「こら萃香起きなさい。そして片付け手伝いなさい。」
明後日からは人里から参道を延ばす工事が始まる。山の妖怪たちが着手してくれるらしい。もちろん壊れた神社の建て直しも。
「よっこいしょっと」
霊夢は立ち上がり、日課である境内の掃除から始めることにした。
しばらくお茶にはありつけないな、と霊夢は思った。
八雲邸
「ただいま~藍~?」
「はいはいお帰りなさいませ紫様」
「朝食の準備が整ってますが・・・・・・って紫様?」
「ん?・・・・・・うーん眠いわぁ」
「お休みになるのですね」
「そうするわ。お布団。お願いね。」
紫はふらふらと自室に向かい、藍がすばやく敷いてくれた布団に倒れこんだ。
「お休みなさいませ」
藍はそういうと襖を閉め慌しく駆けていった。おそらく台所だろう。
(いい匂いだわぁ・・・・・・藍のご飯の香り・・・・・・私が目覚めたとき、もう異変が始まっていたのね。だって朝起きたら狐がご飯を作っていてくれるなんて、それこそ幻想じゃない。藍は春に勝っていたのね・・・・・・ふふ。)
紫は幸せな空気に包まれながら深い眠りに付いた。
終わり
心躍らせる季節である。それは、人間や妖怪も例外ではい。寒い季節に体をだるまのように
丸めていなくてはならないことに比べれば、この暖かい季節はありがたく、心も軽い。
子供や妖精の走り回る姿や春の陽気に浮かれた人間も多く目にすることができる。
近々、人妖交えた宴会が開かれるそうだ。
春。幻想郷。異変はもう始まっていた。
『みんなを思い出させる程度の叫び』
八雲邸
八雲紫の住まう家である。紫はとても心地の良い目覚めができた。それは、空気いっぱいの春の香りかそれとも紫の式である藍の作る朝食の香りか、いずれにせよ心地の良い香りにやられて目覚めの良い朝であった。
「ふあぁぁ・・・藍~起きたわよ~」
おそらく台所から、廊下を駆けてくる音が聞こえ部屋の前まで来て襖を勢いよく開けられた。
まぶしい日の光が入ってきて紫は思わず手で光を遮る。
「まさかご自分で起きられるなんて・・・・・・い、いえ、おはようございます紫様」
藍は信じられないといた様子で紫を見ていたが、すぐにいつも通りの顔に戻った。
「おはよう」
「朝食の準備は整ってます。すぐに食べられますか?」
「そうね、頂きましょう」
朝食はいたって普通のものだった。紫の朝の心地の良い目覚めはどうやら春のものだったらしい。
「藍、あなたもう少し精進なさい。春に負けないくらいに」
藍はよくわからないといった表情で朝食を食べ続けた。
「さて目も覚めたことだし霊夢に挨拶でもしてこようかしら?」
「そんなことしても霊夢に好かれはしませんよ?」
藍にからかわれ、紫は少しムッとした
「いいのよ別に・・・・・・まぁ様子見も兼ねて行ってくるわね」
「はいお気をつけて」
紫はスキマの中へと消えていった。
博麗神社
博麗霊夢が巫女を務める神社である。このとき霊夢は既に境内の掃除を終え
いつものように縁側で茶を啜っていた。
「おはよう~霊夢。良い朝ね。幻想郷もすっかり春だわ。あら?桜もきれいに咲きそうね、宴会の準備もしなくてはね。
そうそう、これお土産ね。お饅頭。藍が搗いたものよ。はぁ~やっぱり神社は落ち着くわ~家にいると藍の小言がうるさくて・・・・・・」
スキマからいきなり現れては間髪いれずに話しかけてくる紫に霊夢は無視を続けた。
「ふぅ、少ししゃべり過ぎたわね。のどが渇いたわ。霊夢、お茶を入れて頂戴」
「・・・・・・」
「霊夢?」
だんまりを続ける霊夢に紫は不安を感じた。何か霊夢を怒らせるような行いをしたか思索するも思い当たることはなかった。
(おかしいわ。これじゃまるで・・・・・・)
「ねぇ霊・・・・・・」
「よっこいしょっと」
霊夢は立ち上がり、台所へと消えていこうとする。
紫の全身を不安が駆け巡る。紫はスキマを使い霊夢の眼前へ移動すると、少し声を荒げて言った。
「いい加減にしなさい霊夢。さすがの私も・・・・・・」
霊夢と目が合う。しかし霊夢は紫を見ている様ではなかった。霊夢は紫の向こう、食器棚を見ていた。
紫は息が荒くなり、体中が熱くなるのを感じた。
(こんな馬鹿なことが・・・・・・!)
紫はスキマに飛び入り、幻想郷中を見て回った。
「うらめしや~・・・・・・ちょっと!驚かなくてもせめて反応ぐらいしていったらどうなんだー!・・・・・・はぁ」
「だめだー今日の人間はちっとも悪戯に引っかからない・・・・・・つまんないー!」
(妖精までも・・・・・・これは異変だわ!)
紫は最悪の可能性を感じた。
(このままでは外の世界の二の舞に・・・・・・妖怪たちの居場所が・・・・・・)
外の世界でも居場所を失い、幻想郷でも居場所を失う。それを恐れた紫は幻想郷で名の通った妖怪たちを集め異変解決へと乗り出た。
「なんど咲夜を呼びつけても返事のひとつすらなかったのは、時間の止めすぎでボケたのではなく異変の所為だったのね」
紅魔館の主。夜の王。レミリア・スカーレットは納得したように言った。
「うちの妖夢も働かせすぎでボケちゃったのかと思ったわ。朝ごはんも自分のしか作らないし・・・・・・」
「うちの早苗も弾幕ごっこのしすぎでボケたのかと・・・・・・」
亡霊の姫、西行寺幽々子。山の神、八坂神奈子も今回の不可思議な出来事が異変によるものだと納得していく。
「あなた達の家の子はそんなにボケやすいの?一回うちに診察に来なさい」
竹林の医師、八意永琳が話に見事な落ちをつける。
「自体はそんなに甘くないわよ。ある意味幻想郷始まって以来の危機とも言える」
紫はやけに落ち着いていた。紫は経験上落ち着くことの大切さを知っていたのだ。
「でも一体どうすればいい?人間達は私たちの声も姿も、触れてることにも気づかない。」
「おそらくだけど・・・・・・外の人間達と同じ現象が幻想郷内でも起こってるわ。つまり、忘れてしまったのよ。妖怪たちのことを」
紫はひどく悲しそうに言った。
「ある意味これも定めかも知れないわね・・・・・・」
永琳の発言にレミリアが突っかかった
「定めだって?そんなもの・・・・・・誰が決めた定めだ!昨日まで普通に話せていたんだぞ!咲夜は私を忘れたりはしないはずだ!定めなんてあるものか!」
「だったら元通りにして御覧なさい。あなたのその運命を操る程度の能力で」
「貴様ぁ!!」
「いい加減にしなさい!!」
紫の怒声がその場に静寂をもたらす。
「落ち着いて・・・・・・考えるしかないの・・・・・・幻想郷を救うためには」
とっさにレミリアが反論しようとするが目の前の光景に、その言葉を飲み込んだ。
紫は震えていた。恐怖していた。人間に恐怖を与えるはずの妖怪が、人間の忘れるという行為に恐怖していた。
見たことのない彼女の姿にレミリアは前にもこんなことがあったのかと彼女の過去が少し気になった。
「悪かった・・・・・・私も考えるよ」
「私も考えさせてもらうわ」
永琳もレミリアに続いて言う。
そう。今は考えることが大切だ。妖怪たちの存在が消滅してしまう前
に・・・・・・
紫が目覚めてから三日後
異変の存在など知らないただの巫女、霊夢は早々に境内の掃除を終えて、日課である縁側でのお茶を楽しんでいた。
この数日、霊夢は大変楽な思いをしていた。以前はこんなに生活がスムーズに進まなかったはずだ。何かしらの
邪魔が入り、ゆっくりお茶を楽しむこともできなかったのだ。
霊夢は以前のことを特になんとも思わず、お茶を啜っていた。
このまま昼寝にでも移行しようか。などと考えていると
「久しぶりだな~霊夢。すっかり春になっちまったな。お?桜もきれいに咲いてるし、こりゃ早めに宴会の準備をしなくちゃな。
そうだ、これお土産な。饅頭。いつのか分からないけどまぁ気にするな。ふ~やっぱ神社は落ち着くな~うちの中めちゃくちゃでさ~・・・・・・
霊夢の友人。霧雨魔理沙がやってきた。
「饅頭?」
「ああ、饅頭」
「あんたも饅頭なのね」
「? 珍しいな。誰か来たのか?」
「ええ。三日ぐらい前に饅頭だけ置いていったみたいで」
「ほ~そりゃ異変だな」
「ちゃんと饅頭は退治したわ」
「そうかそうか」
魔理沙は霊夢の横にどかっと座ると、霊夢にお茶の催促をした。
彼女の家は霊夢の家から遠い森に住んでいる。今ではただの湿気の多い森となってしまったが彼女の住居はそこにある。
歩いて通うのは不便なため、彼女が来るのは珍しかった。
以前はもっと頻繁に通っていた気もするが、彼女はとくに気にしていなかった。
「・・・・・・とまぁこんなことがあったんだ」
魔理沙はこの数日で起こった出来事を霊夢に話していた。これは神社を訪れた魔理沙のお約束となっていた。
「終わり?」
「終わりだぜ」
「ずいぶん少ないじゃない?」
「もっといっぱいあったと思ったがな~・・・・・・今日はこれで終わりだ」
それっきり二人とも黙ってしまった。どことなく気まずくなってしまったのだ。
「・・・ん?」
しばらくして、魔理沙が声を発した。
「どうしたの?」
「あれ・・・・・・咲夜じゃないか?」
「あーそうね。あれは咲夜ね」
「目の前にいるじゃないのよ・・・・・・二人して春の陽気にでもやられたの?」
紅魔館という廃墟に住むメイド姿の彼女こそが十六夜咲夜である。
「珍しいな、暇なのか?」
「まぁ暇かしらね。仕事は全部午前のうちに仕上げてしまったから」
「あんな薄気味悪いところで仕事なんかあるの?」
「掃除・・・・・・かしらね」
咲夜が来たことによって一度は萎みかけた会話の花が再び膨らみ始めた。
「ねぇ今度宴会でしょ?」
宴会好きの幻想郷の人々。その中でも春の宴会は桜の下で行われる一大イベントである。
「今度、今度、って結局いつやるのか聞いてなかったから・・・・・・」
咲夜が神社に来た目的のひとつ。宴会の期日を聞くことであった。
「それなら満月の日だ。満月。桜が綺麗に見えるからな」
「もうすぐじゃない!何も用意してないわ。いつ決めたの?」
「今だぜ」
正直、霊夢は早く宴会がしたくてしょうがなかった。ただ単にたくさん呑めるというのもあるが、あの喧しくも、一体となった感じが
なんとなく好きだったからだ。それにしても今回は参加者がやけに少ない気がする。このもやもやとした気持ちを霊夢は忘れなかった。
「聞いた幽々子。満月の夜に宴会ですって」
「ええ。しっかりと。三日間張り込んだかいがあったわね」
妖怪たちである。忘れてはならない、忘れられた妖怪たちである。
彼女達は話し合いの末、答えがまとまらず仕方なく紫と幽々子がチャンスが来るのを待つため張り込みをしていた。
「その宴会が最後のチャンスね・・・それ以上は人間達が完全に妖怪を忘れてしまうわ。
今はまだ引っかかる程度に残っているようだけど」
「幻想郷をかけた大勝負ね・・・・・・さ、早く作戦を練りましょう。」
全妖怪の未来をかけた大勝負は満月の夜、桜の下の小さな宴会で・・・・・・。
宴会開始の一時間前
「結局、何も決まらなかったな。」
「決めたのは覚悟ぐらいよ。すべては定めってね。」
博麗神社の縁側で桜を眺める神奈子と紫。
あの後徹夜で話し合ったものの、これといった作戦が思い浮かばないまま本番の日を迎えてしまった。
「幻想郷にいる全ての妖怪、神に妖精、天人に地下の者達・・・・・・全部に声はかけたけどさ」
「それはそれは賑やかで・・・・・・というかもはや喧しいわね」
自分達の存在の最後と聞かされて集まった幻想郷の者達。あるものは泣き、あるものは酒を飲み、わかってなさそうな者達まで。
そんな魑魅魍魎が博麗神社の周りにわんさか集まった。
(もはや考えることすら無駄なのかしらね)
紫はただただそのときを待っているかのようだった。
宴会開始
「少な!」
「少ないわね」
「少ないですね」
「少なすぎでしょう、いくらなんでも」
「5人って・・・・・・おい!」
宴会に集まったのは5人。霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢に早苗のたったの5人。
「いつもこんな感じでしたっけ?」
「だったような気が・・・・・・する」
「気がしますね」
「気がするわね」
「しないわよ。前はもっと多かった」
霊夢の言葉にあたりが静けさに包まれる。
「じゃあ誰がいたんです?」
「それは・・・・・・」
「そんなことよりせっかくの宴会だ。盛り上げていこうぜ!」
桜の下で5人だけの宴会が始まった。
とても小規模な宴会だ。たったの5人。しかし5人でも盛り上がろうとするのが彼女達であった。
自慢の業、自慢の歌、自慢の手品。みな退屈しないような芸を持っていた。というか退屈させないために各々が必死になっていた。
しかし彼女達が知らないだけで、彼女達を囲むように半径100mほどが魑魅魍魎で埋め尽くされていた。
人間達から見れば今までで一番小さな宴会。だが、妖怪達から見れば今までで一番大きな大宴会となっていた。
「いいぞー霊夢!もっと踊れ踊れ!!」
「魔理沙歌うまいなー!もっと歌えー!!」
「さっすが私の咲夜!手品の腕も瀟洒なもんね!」
「妖夢ったら半霊を失ったからますます半人前になったわね~」
人間達に届かぬ声が幻想郷に響きる。
「一番!早苗!!霊夢さんのモノマネします!!!」
「ははは・・・はは・・・」
何かがいつもと違う。5人はそれにとっくに気づいていた。でも、何が違うのか、それが分からない
(私は博麗霊夢。博麗神社の巫女で、それ以上でも以下でもない・・・・・・そんなんじゃなかったはずよ私は)
それぞれが気づき始めていた。
(私はもっと頻繁に霊夢の家に行っていたはずだ。それに私はもっと何か・・・・・・大きな力を探していたはずだ)
だが、まだ・・・・・・
(私はあの屋敷で誰かを待ってるんだわ。私の主。私はその主のことを大切に思っていたのかしら?)
まだ、足りなかった。決定的なものが
(綺麗な桜だ。この桜を見ていると、なんだか・・・・・・何かを・・・・・・)
妖怪たちとの繋がりが
「次!魔理沙さんのモノマネします!!」
縁側に腰掛け最後の花見を楽しんでいた紫の前に、チルノが現れた。
「ねぇ紫?」
「あら、チルノじゃない。どうかした?」
「みんな消えちゃうの?」
「ええ。消えてしまうわ」
「消えたら・・・・・・どうなるの?」
「人間がいる限り、私たちはまた生まれるわ。ずっと昔からそうだったんですもの」
「次生まれたとき・・・・・・そこに霊夢はいるの?」
「・・・・・・いないわ」
「だったら・・・・・・あたい、そんなのッ!!」
チルノは紫の前から、霊夢たちのほうへと飛んでいった。
紫はただチルノがこれから何をするのかを見ていた。
「思い出せ!思い出せ!っこの!」
チルノにできることは、ひたすら霊夢たちに向かって叫ぶだけだった。
(やっぱり、妖精は妖精ね)
紫はひょっとしたらチルノは何かやってくれるのかもしれないと思った自分を恥じた。
所詮こんなものなのだ。幻想なんて。
こみ上げてくるものは、怒りや悲しみを超えて幻想への呆れとなっていた。
「がんばって・・・霊夢、がんばれ!」
チルノは叫び続けていた。
周りの妖怪たちがチルノに注目し始め、静けさが支配していく中でもチルノは叫び続けた。
やがて神社にはチルノ一人の声がこだましていた。
「思い出せ!がんばれ!思い出せ!」
馬鹿なことを。誰かあいつを止めないのか。誰しもがそう考えていたであろう。
しかし、そこにもうひとつの声が響いた。
「そーだ!がんばれ霊夢!」
この声の主は、鬼の伊吹萃香である。
「ほらっ!お前らももっと声上げろ!」
酔っ払いの戯言か、迷えるものを導く声か
萃香の声につられてか、妖怪達からも霊夢たちを応援する声が響き始めた
「霊夢ー!がんばれー!」
「魔理沙ー!思い出しなさーい!」
「がんばれ!咲夜!思い出すんだ!」
「がんばれ!がんばれ!がんばれ!がんばれ!」
その声は次第に広がっていき
「コラー!なに忘れてんだ人間どもー!しっかり思い出せー!」
「がんばれー♪がんばれー♪がんばれー♪」
いつしか全ての妖怪たちが霊夢たちを応援していた。
「これが幻想郷をかけた大勝負ってわけね・・・・・・ふふっ」
「ほんとに・・・・・・幻想郷らしいといえばらしいわね」
紫と幽々子はその光景を愉快そうに見ていた。
(これじゃ私たちはまるで人間みたいね。小さな力をみんなで出し合うなんて。)
やがて二人も大気を揺らす応援の輪の中に入っていった。
「続いて~妖夢さんのモノマネをします!」
「いやさすがに飽きたぜ。次は私の一発芸10連発だ!」
一方人間達の小さな宴会は空気的な意味でそろそろ限界だった。
そして霊夢が感じる違和感もピークに達していた。
(そもそも5人なんかで宴会ってのがおかしいのよ。どこかで間違えたんだわ。あのお饅頭だって魔理沙じゃなきゃ
誰が持ってきたってのよ。・・・・・・ああもうさっきから耳元がむず痒い。そうだわ。いつもの私を思い出せばいいんじゃない。)
「霊夢・・・・・・さっきからだまってて、気持ち悪いの?」
違和感について考えていた霊夢を気分が悪いと勘違いした咲夜が心配して背中をさすってきた。
「大丈夫。ちょっと考え事をね・・・・・・」
(私はいつも・・・・・・境内の掃除をして、それから縁側でお茶を飲む。だいたいはその流れだわ。・・・・・・ああもうさっきから
何かしらこの・・・・・・耳元が痒いような感覚は。いつもいつも誰かがうちにやってきてはお茶を催促していたような。魔理沙じゃ
なかったら一体誰だってのよ。・・・・・・痛っ!)
そのとき、霊夢の脳裏に金髪の女性が浮かんだ。
「霊夢どうしたんだよ?耳なんか押さえて。そんなに聞きたくないか?私の一発芸。」
「違うわよ・・・・・・なんか、耳元で叫ばれてるような・・・・・・」
(私・・・・・・この人を知ってる。いっつも神社に来ては私の邪魔ばっかして)
「な・・・・・・なんだ?轟音が聞こえるぞ?イテテテテテッ!」
(ちょっかい出してくる奴。どこからともなく現れる奴。)
「なんか・・・・・・声のように聞こえるわ。」
(はは。しかもそいつ人間じゃなくて妖怪じゃない。そいつの名前は・・・・・・)
「応援・・・・・・されてるのかしら?」
霊夢はスッと立ち上がり満月に向かって大声で言った
「八雲紫!大妖怪八雲紫!!私の大嫌いな奴よ!!!」
次の瞬間、5人の眼前には5人を囲むようにしてできた妖怪の群れ。群れ。群れ。
そして耳にはいずれも5人を応援する幻想郷中に響き渡るような声。声。声。
「がんばれがんばれ霊夢!がんばれがんばれ魔理沙!」
「思い出せー咲夜!思い出せー妖夢!」
結局霊夢たちがいくら思い出したといっても、妖怪たちはその宴を続けた。
幻想郷始まって以来の大宴会。妖怪たちの叫びは一晩中、幻想郷を揺らし続けた。
大団円
「うー・・・がんばれー・・・霊夢ー・・・・・・」
「こいつ、寝ながら応援してるし」
夜が明け、数時間前までの大騒ぎがうそだったかのように、ここ博麗神社は静けさに包まれていた。
「うそだったらよかったのに・・・・・・」
あたり一面ボロボロ。境内もボロボロ。神社も、神社の外もボロボロである。
今回の異変、その原因は霊夢にあったようだ。
冬の間ろくな蓄えもなく、訪れるものも少なく、霊夢は心身ともにまいっていたらしい。
そしてそのまま春を向かえ、結界の力が極限まで弱まったため外の世界と完全に混同し幻想郷住民は一晩にして
幻想を忘れてしまったのである。
なので霊夢が思い出したことにより結界の力が元に戻り、異変解決へと繋がったのである。
紫は、外の世界が与える影響力がこれほどにまで強くなっていることに驚き、霊夢に今後の結界の更なる強化を依頼した。
それに対し霊夢は
「人里から神社までの安全な参道の用意。まずこれをしなさい。参拝客を増やして信仰力をアップさせるから」
と、反論した。
「こら萃香起きなさい。そして片付け手伝いなさい。」
明後日からは人里から参道を延ばす工事が始まる。山の妖怪たちが着手してくれるらしい。もちろん壊れた神社の建て直しも。
「よっこいしょっと」
霊夢は立ち上がり、日課である境内の掃除から始めることにした。
しばらくお茶にはありつけないな、と霊夢は思った。
八雲邸
「ただいま~藍~?」
「はいはいお帰りなさいませ紫様」
「朝食の準備が整ってますが・・・・・・って紫様?」
「ん?・・・・・・うーん眠いわぁ」
「お休みになるのですね」
「そうするわ。お布団。お願いね。」
紫はふらふらと自室に向かい、藍がすばやく敷いてくれた布団に倒れこんだ。
「お休みなさいませ」
藍はそういうと襖を閉め慌しく駆けていった。おそらく台所だろう。
(いい匂いだわぁ・・・・・・藍のご飯の香り・・・・・・私が目覚めたとき、もう異変が始まっていたのね。だって朝起きたら狐がご飯を作っていてくれるなんて、それこそ幻想じゃない。藍は春に勝っていたのね・・・・・・ふふ。)
紫は幸せな空気に包まれながら深い眠りに付いた。
終わり
妖怪の叫びに感動しました...
自分達も妖怪の存在を信じればいつか見えるようになるかもしれませんね♪
個人的にアリスみたいな妖怪が見えるようになったら嬉しい(何
けどそういったのを無視できるくらい
見えない妖怪達の騒ぎとポツンとした人間の景色
滑稽だけど読み手も応援したくなるような幻想達の応援の景色
幻想郷の幻想的な景色でした。
なんか久しぶりに読んでてハマるものがありました。
それ程恐ろしい物はない
だからそれに立ち向かう皆の姿は
とても美しかったです
作者が真に書きたいと思ったものに読者は引きつけられるのだなぁと。
楽しませていただきました。ありがとうございました。
二次創作としては超一流
そのような言葉がぴったりかと。
途中で読むのを止めようとした自分を恥じます。
「二次創作とはかくあるべき」を教えていただけた気がします。愛がこもってました。
是非あなたの次の作品、期待しております。
こういった文章作法はネット等で調べたらいろいろ出てくるので参考になさってみてください。
……と無粋な指摘をしてみましたが、お話のほうは面白かったです。これはいい幻想郷。
小細工もへったくれもない直球。上手く決まればこれ以上のものはない。
久しぶりにこんな感覚を覚えました。ありがとうございました。
面白かっただけにとても勿体なくも感じた
これで文章さえ上手くあったならば……くそーもったいねえ
でも、話の展開や、理由付けが最低。
それと、大妖が何人も集まって考えた解決策がコレ?
結局は自力で思い出させただけでしょ?
気合いと根性で何とかなるのは、昔の少年漫画だけで充分ですよ。
文章が……という声も聞こえるけど、最後には引き込んだ奴の勝ちだ。
「楽しい(愉快という意味だけで無く)」物というのは、技術や効率を重視する現実でも商品でも、値段を超越出来るものなんだぜ。
そういう意味でも幻想郷的で、良かったよ。
それと、永遠亭のお医者さんは里人にとってみたらちょっと出自が怪しい人間ぐらいの感覚じゃなかったですっけ?
普通に忘れられる側に入っていることに違和感が。
地底の妖怪達なんて、とっくに忘れ去られていただろうに元気でしたしね。忘れられる=即消滅って訳ではないでしょうし。
ちなみに結界の維持に必要なのは博麗神社そのものであって、巫女は神社が神社足り得る状態を維持するのに必要な存在。つまり霊夢の力で結界が維持されている訳ではないので、霊夢に元気が無くなったからと言って結界が直ぐに弱まるというのもおかしい理屈です。霊夢の死や弱体化が幻想郷結界の消滅とイコールなら、異変解決の矢面に立てる訳がありませんし。スペカルールで異変の危険性が薄くなる以前から、博麗の巫女は戦い続けてきたのですよー。
アンタは良い作家になるよ。
ネタはとても面白かったです、がもう少し構成を練り上げ、長編でこの物語をみてみたかったです
これからの期待や敬意を込めて80点にしたいと思います
いろいろと偉そうな事を失礼しました
頑張れ
でも熱は感じる。
これからも書き続けて下さい。
文章については他の人に既に言われているので、私からはとりあえずこちらを、
>>「人里から神社までの安全な参道の用意。まずこれをしなさい。参拝客を増やして信仰力をアップさせるから」
>>と、反論した。
いわゆる原作でも「こうすればいいじゃん」と思われるようなツッコミ所については言及は避けたほうが賢明です。
正論であるがゆえに作品を白けさせたものにしてしまいます。
自体→事態