「ここが幻の男子弾幕の聖地と呼ばれる森……」
天狗のパパラ……ジャーナリストこと私、射命丸文は、妖怪の山から遠く離れた鬱蒼とした森の前に佇んでいた。
その手には愛用のカメラとメモ帳。
清く正しいその瞳はこれから目にする物への期待でキラキラと輝いている。
男子弾幕―――――
弾幕ごっこは女子ばかりが行っている印象だが、そうではない。
知名度こそ低いが、男達の中にも弾幕は広がっている。
その中でも最もレベルが高いと言われる幻の男子弾幕。
一般人は愚か、妖怪や神もついて来れないと評される弾幕戦がここで行われていると言う。
「ジャーナリストとして、これを取材しない手はありませんよね」
こみ上げてくる笑みを隠さずに、るんたったーと森の中へと侵入していく。
鬱蒼とした森は人に不安と恐怖を煽るが、今の浮かれ気分の私にとっては何も関係ない。
ZUNZUNと奥深く奥深くへとその歩を進めている。
そうしてひたすら半刻ほど歩いただろうか。
何せ暗い森の中だ、時間の感覚も鈍ってくる。
体内時計と体内方位磁石が狂ってきていた―――――決して迷った訳ではないので念のため―――――私の歩く前方から、聞きなれた音が聞こえて来た。
この音はまごう事なき……
「スペルカード!」
こんな森の中でスペカの音がしたと言う事即ち、幻の男子弾幕以外にあるえるだろうか、否、ない。
弾かれたように自慢のスピードで音源との距離を一気に詰める。
音源のすぐ側の木陰に隠れ、首から上だけでその様子を覗くと―――――
「農符『稲と大豆の二毛作』!」
「安売『火曜特売の野菜類』!」
そこには弾幕を撃ち合う屈強な男達がいた。
宣言と同時に二人の男の間に激しい弾幕が展開される。
それは一介の人間達とは思えないほどの非常にハイレベルな攻防の押収であった。
これこそが幻の男子弾幕……!
我々が普段行っている弾幕勝負のような華やかさこそ少ないが、
力強い……まさに男らしい弾幕の撃ち合いに私は見入っていた。
ジャーナリストの性と言うべきか。
無意識のうちに、身を乗り出してシャッターを切ってしまう。
……数合に渡る撃ち合いの末、二人の男は距離をとる。
するとギャラリーだろうか、周囲を囲んでいた男達からパチパチと拍手が上がった。
「いやぁ、流石に田吾作は強いっぺな」
「本当、八百屋辞めて妖怪退治でも始めた方がいい稼ぎになるんじゃないか?」
「妖怪退治に博麗の八百屋ってか。それは傑作だ」
健闘を称え合う筋骨隆々な男達。
と言うかその容貌で八百屋なんですか、田吾作さん……確かに妖怪でも狩ってた方が似合ってますよ。
私もギャラリーと同じ感想を抱いてしまうが、どうやら本人は乗り気ではないらしい。
周囲の男性陣からの黄色い声に、どこぞのガテン系にしか見えない田吾作さんはやれやれといった具合に首を振った。
「やめてくれ。オラ達の弾幕は人に知られていい物じゃねぇ」
「確かに、こんな所他人に見られたら怖がられちまうからな」
そう口にして彼らは下を向く。
どうやら幻の男子弾幕を、幻のまま腐らせておくつもりらしい。
彼らの弱気に、私は苛立たしげに爪を噛む。
この素晴らしい事実を隠す……? 何故! 何故隠す必要がありますか!
素晴らしい物ならばこそ。もっと多くの方に広めるべき。
そしてそれを手助けする事こそがジャーナリストであるこの射命丸文の役目なのである。
正義の炎に燃えた清く正しい私。
自分を鼓舞するが如くうんと頷くと、まずは詳しい話を聞こうと彼らの前に出ようとして……
「さて、そろそろ身体も暖まったな」
「だべ。そろそろ本番いくべさ」
「オラ、わくわくしてきたぞ!」
その言葉にぴたりと足を止められた。
「ほ、本番……?」
何と、この方達未だ真の力を出していないと言うではないか。
先程までの弾幕でも十分驚嘆に値すると言うのに、まだまだ本番はこれからだと言う。
これは最早話を聞くなどと言っている場合ではない。
是非とも彼らの……男の持つ可能性を目に焼き付け、幻想郷中に知らしめなければ。
私はその瞬間を逃すまいとカメラを構え、全体を最もよく見渡せる場所に陣取った。
さぁ、真の力、見せてみよ……!
「抱擁『霊夢抱き枕』!」
「……は?」
ぽくぽくぽくぽく……ちーん。
事態を呑みこめず完全に固まってしまう私。
屈強なおっさんがいきなり『霊夢抱き枕』とかスペカ宣言し出したのだからそれも無理も無いだろう。
兎にも角にも私を置いてけぼりに、スペルカードにより『霊夢抱き枕』が弾幕として具現化する。
それを見ていた他の男達もニッと口の端を歪めると、次々にスペルカードを宣言した。
「禁忌『18禁にされた遊び』!」
「擬態『ロリと妖艶の境界』!」
「被虐『ゆうかりんのマスタースパンキング』!」
「手負『レイマリが俺のジャスティス』!」
「馬鹿『アイシテルフォール』!」
「禁恋『田吾作オンバシラ』!」
な、な、な、な、な―――――――
物凄い勢いで男達の能力(もうそう)が具現化していく。
鬱蒼とした森は一転、男達のブレインワールドへと早変わりした。
それがどのような光景であるか、描写する事すら憚られる。
恐怖した。
天狗である筈の私は、その時確かに人間に恐怖した。
余りの恐怖に身体だけではなく、脳までが事態の理解を拒絶しようとする。
「こ、これは何と恐ろしい。いや、おぞましい……」
ようやく私は理解した。
確かにこれは人に見せていい弾幕では無い。
彼らの言う通り、間違いなく他人に怖がられてしまう。
数々の修羅場をくぐってきたこの私でさえ、震えが止まらないのだから。
……私はどうすればいい。
このまま何も見なかった事にして引き返せばいいのか。
しかしそれは私のジャーナリスト魂に反する行為だ。
ならばこの光景をありのままに世間に伝えればすればいいのか。
そんな事をすれば彼らの社会的地位は勿論、私の新聞も発行停止処分を―――――
「……見たな」
「!?」
冷静さを欠き、周囲を警戒する事を怠っていた。
気付けば私の後ろには一つの大きい影。
それは先程まで見事な弾幕を見せていた、八百屋の田吾作さんであった。
「オラ達の弾幕。知ったからではタダで返す訳には行かないな」
その野太い腕が懐へと伸び、一つのカードを取り出した。
そこに描かれていたのは――――間違う筈がない。
この私、射命丸文であった。
「あ、あ……あ……!」
「俺嫁『はいてない天狗』」
「いやああああああああああああっ!?」
私はフィルムを投げ捨てて脱兎のごとくその場から逃げだした。
男子弾幕。それは幻想郷の中でも知られざる幻の遊び。
否、幻にしておくべき遊び。
込み毛生けなくてむしゃくしゃしてやった。反省は全くしていない。
咲夜さんがたくさんいるって意味で
ジャスティスW
じつにだめだwww
レイマリ愛でましょうw
男子弾幕なんて馬鹿な発想はもう間違いなく100点ですww
これで幻想郷も安泰ですねーww
想像できんwww
そして手負いさんがいることにコメを見るまで全く気づかなかったwww
と思ったけど、人目を憚るマナー等から皆様(手負い様含む)真の紳士ですな
悪夢……これは悪夢よ……
柔術「くんずほぐれつ百万鬼夜行」