Coolier - 新生・東方創想話

始り

2020/09/18 21:02:01
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 空が青かった。八雲紫は顔は上げて見てる。
 雲一つない空。

「何もないな」

 紫は空をを見るのを止め顔を降ろす。
 顔を降ろす目の向こうには原野が広がり、その奥に高くそびえた立つ山脈が見える。

「本当に何もない」

 紫は苦笑いをする。

「ならお前の好きな色に染めればいいだろ」

 男の声が聞こえた。

「好きな色?」

 紫は後ろを向く。そこには直垂姿をした男性がいる。

「そうだ。紫。この地はすべてお前の物だ。この地を好きな色に染めればいい」

 男は足を進め紫の横に止まる。

「この地は私の物......」

 紫は前を見る。この原野とそびえたつ山脈が私の物。
 頭では理解できるが実感がわかない。

「そう、言っても実感はできんだろう。ゆっくりやればいいと思うぞ。儂ら人間と違って、物の怪は時間が雄大だ」
「......時間か」

 紫は男を見る。男は紫を見ていた風景見ている。

 この男は私が見ていた風景を見えてるだろうか?

 紫は考える。

「清盛」

 紫は男の名を言う。男は答えずに風景を見続ける。
 そびえ立つ山脈から風が吹いた。
 原野の草々が激しく風に揺れる。
 
「冷たい」

 紫は言う。そびえ立つ山脈に残っている雪が風を冷たくしてると紫は思った。

「いい風だ」

 清盛と呼ばれた男は腕を組み大きく笑う。

 男の名は平清盛

 この男は地方で悪さをしていた物の怪の八雲紫の討伐するために京から派遣された者だった。

 紫と清盛の戦いは半日にも及んだが、

「やめだ やめだ」

 清盛は突然に持っていた太刀を捨てた。
 紫は清盛の行動に唖然とした。

「どーせー。儂ら人間側がお前らの物の怪の領域に入って悪さをしたからその仕返しに悪さしてるんだろう」

 清盛はドカと地面に座りいつの間にか瓢箪と二つの木椀を持っていた。

「飲め飲め」

 清盛の誘いに紫は警戒したが、清盛は勝手に酒盛りを始めたため、自然に混ざっていた。

「小さい。小さい。こんな小さい日ノ本の地で争いとは小さい」

 清盛は酒を飲みながら言う。

「小さい?」
「そうだ。儂はガキの頃に海を渡り大陸に行った」
「大陸?」
「そうだ。唐土という場所だ。その地は広い。いろんな人々が集まり、いろんな言葉が飛び交っていた」

 紫は清盛の言葉は酔っ払いのホラ吹きに見えたが、何か引き込まれるような話でもあった。

「それで思った。人間と物の怪は一緒にいる国は作れないのかとな」
「一緒に?」
「そうだ。人間は物の怪を恐れ、物の怪を人間を恐れ、互いに戦い傷つけ合う。なぜだと思う?」
「なぜって?」

 物の怪と人間がなぜ争うのか?

 紫は考えたこともなかった。争うこと事態が当たり前だった。

「儂は寝る」
「え?」

 そのまま清盛は地面に横になり寝てしまった。

「この男は」

 紫は横になった清盛を見た。
 無粋な人間である。しかし、何かを変えると思った。
 その何かは分からない。
 紫は空を見る。すでは夜になり満点の星々だった。
 
 なぜ争うのか

 紫は満点の星々を見ながら木椀に入ってる酒を飲んだ。
 いままで、警戒して飲んでなく、これが初めて口にしたことに気づいた。

 この男は

 紫はイビキを立てて寝ている清盛を見ながら、クスと笑い酒を飲んだ。

「一歩だ」

 冷たい風は通り抜け、また静寂が戻る。

「紫の夢。儂の野望の一歩」

 清盛は言う。
 
 私の夢

 その後、紫は考えた。なぜ争うのかと、

「紫、お前の思うどりの夢を描いてみろ!!」

 清盛の言葉で紫は行動を始めた。物の怪と人間が一緒に住める国を造ることに、

「銭なら心配するな銭なら腐るほど産める」

 清盛の一族は大陸の唐土との貿易で大量の利益を得ている。

「儂の野心」

 清盛は紫を見る。

「儂はなこの日ノ本から土地にしがみついてる武士共をなくすのが一番の争いをなくす方法だと思う」
「武士を?」

 紫も清盛を見る。

「そうだ。土地に執着してるからそれを巡り争う。なら銭をこの日ノ本に広げれば人々はその銭で物を売買して皆が裕福になり土地への執着もなくなる」
「銭の力か」
 
 紫はあまりいい顔をしない。銭は不浄の物だと考えてしまう。

「銭は不浄なものだ。しかしその銭で人々が裕福になれるのも事実。そして紫の夢を完成させる部品である」
「分かってる」

 紫は言う。この原野に国を建てるのには銭は必要だと。

「ま、物の怪の寿命は長い。ゆっくり慣れればいい」

 清盛は原野の方を向く。

「清盛。しかしなんでここまで私に協力するんだ」

 紫が疑問に思っていた。

「紫に惚れた」
「え?」
「紫に惚れた。惚れた女に協力するのは普通だと思うが」
「お前!!」

 紫は赤面して、

「よくも、そんな茶番が言える」
「やはり、物の怪もそんな感情があるんだな」

 清盛は笑い、『清盛!!からかうな』と紫は怒る。

 二人の後ろから馬蹄が響いた。

「清盛、紫」

 馬蹄の音と共に男の声が響いた。

「義清め。いいところで」

 清盛は舌を打ち、紫は怒りを収めた。

「ドウドウ」

 男は馬を止める。

「紫。ここが紫の新しい家なの?」

 馬には男以外に少女が乗っていた。

「幽々子。ここはたくさんの人が住む場所」
「でも紫も住むんでしょ。なら私も住む」

 幽々子と呼ばれた少女・藤原幽々子(後の西行寺幽々子)は言う。

「住むのはいいけど」
「紫、久しぶりにこの馬に乗ってみないか?」
「義清、私はあまり馬は得意では」

 紫の言葉に義清・藤原義清(後の西行)

「どうせ、嫌でもこの地を駆け回ることになる。馬に乗りなれても損はしない」

 義清は馬から降りた。

「紫、のってよ」

 幽々子は紫に手を伸ばす。

「あー、分かった」

 紫は幽々子の手を叩くと馬に乗る。

「まあ、駆けてこい」

 清盛は言う。紫は馬の手綱を手にする。

「進めーーー」

 紫の前に乗っている幽々子が大声で言う。
 紫は馬に手綱を打つ。馬がゆっくりと進む。
 数度打つ。徐々に馬の速度が早くなる。原野の荒れ果て無造作に生えてる草々に馬を進める。

「紫。ここに住むんでしょ」
「そうなるわね」
「名前が必要だね」

 名前か

 紫はそのあたりは無頓着だった。

「幻想郷という名前はどう?」

 幽々子は言う。

「幻想郷......」

 幽々子が言った名前。なぜその名前にしたのか聞いても、いい加減な性格の幽々子は『なんとなく』と答えるだろう。

「悪くわない」

 幻想郷。ただの名前だが自分の働き次第ではすばらしい名前になるだろう。

「は!!」

 紫は手綱を馬に打つ。馬は速度を上げる。『速い!!』と幽々
子は叫ぶ。

 風が吹く。そびえ立つ山脈からの風である。相変わらず冷たい風だが、紫は気持ちよく感じた。
 この風の向こうには何がある?
 急に知りたくなった。
 
 自分がやる向こうの答え
 清盛が見た風景の先にあるもの
 人間と物の怪が住む国を造る先にあるもの
 幻想郷という名前の先にあるもの
 
 知りたいことがたくさんある。その先にあるものを。
 その答えを求めるように、風が吹く原野を紫は馬で走る。


 
 



 





 
ありがとうございます。
 内容は幻想郷の始まりと平家物語をクロスしてみた短編になります。
 ゆゆ様の父親と想定される西行は元は武士であり当時の朝廷の軍隊である『北面武士(ほくめんのぶし)』に所属してました。
 同期として平家物語のラスボスの平清盛もいます。
 今回は同期で知り合いという設定で出しました。
 西行に関しましては本名は藤原義清といい、代々、朝廷に使える軍人の家系になります(藤原妹紅の兄弟が起こした藤原北家の家系になります)
 この場合は自動的にゆゆ様も藤原幽々子になります。

 平清盛は祖父の時代から神戸辺りで中国との貿易で莫大な財産を築いてます。
 調べて北面武士に入ってる入ってないかいろいろありましたがここでは入ってることにしました。
三河魂
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100終身削除
幽々子父は歌よんでる普通の坊さんなのかと思ったらすごい家系の人だったんですね いろいろと背負うものや苦労が増えていく前のこれからの期待で胸がいっぱいになっているような紫が印象に残りました