Coolier - 新生・東方創想話

星の鯰

2020/12/06 22:23:49
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 現世、幻想郷、地獄、冥界、魔界、天界、仙界、月、そのどれにも属さない世界、夢の世界。場所も曖昧なれば存在そのものも模糊なるこの世界、しかし、その中心と呼べる様なところに、二人は居た。
 綿の様な夢魂が浮かび、メルヘンなパステルカラーを描く夢の世界の中、月の高官にして、運命の車輪を逆転させられる最終兵器、天探女・希神サグメは、温かみのある木の椅子に座った全ての夢の支配者たる幻獣、ドレミ―・スイートの膝に、うつ伏せに体を預けていた。ドレミ―は、サグメのトレードマークである白鷺の片翼を、只々ゆっくりと愛撫する。時々ばさりと翼が動き、サグメは実に気持ち良さそうに、ドレミ―に愛撫されるがままにされている。ドレミーの手が羽毛を撫でる場所は段々と根本に近付き、サグメは次第に息遣いが荒くなり、体をぞくりと蠢かせる。そしてその愛撫は白い翼と同じく純白の肌にまで及び、服の穴から覗く背中をまさぐられると、サグメはとうとう身を狂おしくよじらせて嬌声を上げ、仰向けになって、ドレミ―の方を向いた。
 その顔は普段の彼女からは想像も付かない程に蕩け、紅潮し、ハアハアと煽情的な、加虐心をそそられる息遣いであった。サグメとドレミ―はそのまま口付けをした。とても甘く、長く、熱い口付けであった。
 サグメはドレミ―の胸元に顔を埋める様にして、舌禍の口を開いた。「このまま永遠にこれが続けば好いものを。」勿論この時が永久に続く訳では無い。しかし、だからこその舌禍、だからこその発言であった。ドレミ―は甘く言葉を返した。「ええ、続きますとも。貴女が望む限り、永遠にでも。此処は夢の世界なのですから。」どうやら、サグメが口を開くまでも無く、この時間は永遠のものだったらしい。そしてドレミ―はサグメを抱き寄せて、野獣の如し激しさで押しドゴ―――――――――――――――ン!!!!!

 突如として轟音が鳴り、上から何かが落下し、そのまま二人を押し潰した。




 
━━━わしこそは最凶の妖怪、大歳星君が影。夢の支配者に月の天探女、どのような者かと思えば、顔を見るまでも無く、拍子抜けする程簡単に下で二人揃って伸びておるわ。所詮夢の支配者などと謳っていても、夢は夢。高天原の月と言えども、大歳星に比べれば、千分の一程度の石ころ同然。此処を滅ぼすなど、極めて容易いものだ。だが、目的はあくまで幻想郷、精々幻想郷までの足掛かりとして利用されるが良いわ。

━夢の世界が震撼した。地球でも月でも無い、大歳星の名を冠す太陽系最大の惑星より来たる、異星の鯰の襲来に。





━━━夢の支配者を打倒した後の夢の世界に、わしを止める者など居ない。淡水の平穏なる池を進むが如く、何の障害も無く目的の場所へたどり着いた。大地震を引き起こす、わしと似た気質を持つ天人崩れ。夢の世界で欲望が増幅された彼奴を口先八丁で篭絡し、意のままに操る事など容易い。彼奴の要石とわしの一撃、わしのみでも地上を滅ぼすには十分に過ぎるが、要石が有れば、その威力は更に増す。生物の一つも残りはしない、未曽有の大地震が幻想郷を襲うじゃろう。

―――待っておれ、憎き妖怪よ。ただの一妖怪の分際で、この伝説の大ナマズ様に楯突いた報いとして、大地震で全てを瓦礫に変えてやろう。

 


 比那名居天子が夢の世界から目覚めると同時、夢の世界の天子が大鯰と共に出現した。天子は、大ナマズに唆されて天界から要石と緋想の剣を盗み出した。天界の管理や警備は余り為されておらず、それは非常に簡単な事であった。

 大ナマズは夢世界の天子と共に、天界より幻想郷に突進した。要石が司るは地、緋想の剣が司るは天、鯰が大歳星が司るは、この後に起こる災厄か。

――――あっはっはっはっは。恐れ戦け、妖怪共よ。大歳星君の怒りを買った事、地獄で後悔するが良いわ。

 大ナマズは、目下に広がる幻想郷を見下ろして、嗤う。しかし、自らの落下点直下、何者かの存在を発見した。しかし、降臨する大災厄は意にも介さず、寧ろ落下速度を上げた。

―――小娘共が。わしらを見て尚絶望も、恐怖も無いか。余程の馬鹿か、若しくは蛮勇か。まあ逃げるも受け止めるも、どちらにせよ待つ運命は変わらぬのだ。くたばれぇぇぇぇぃ!

 鯰は、角の生えた妖怪二人に衝突する直前まで迫っていたが、相も変わらず下の妖怪は毫も動揺する事無く鯰を暢気に見上げ、そして一馬身も無く密着した所で、二人の妖怪は同期した動きで獣の様な獰猛な笑みを浮かべると、拳を突き出した。

 ドゴ――――――――――――――――――――――ン……

 絶大なる衝撃と轟音、そして遥かに見える雲の空を最後に、大ナマズの意識は唐突に刈り取られた。その意識の最後の瞬間に、自分が喧嘩を売ってはいけない相手に売ってしまった、と言う事を悟る事は追い付けなかった。

 

 命までは奪われねど、意識無き大歳星の骸は、全妖怪中でも指折りの知名度と力を持つ鬼の一撃により、高く、高く跳ね上げられた。要石と夢の天子は何時の間にか居なくなり、空を飛ぶのはただ鯰一匹となった。あっという間に音速の壁を打ち破り、第三宇宙速度をも突破し、何重もの大気層を突き抜けた。それでも燃え尽きないのは、流石の大歳星の影と言ったところか。

 地球の重力圏を脱し、火星の眼にも止まらず、巨大なる大歳星こと木星にさえ帰りそびれ、土星の擁する大いなる輪も吹き飛ぶ鯰を閉じ込める事能わず、天にも見えぬ、天王星、海王星、冥王星すらも驚愕せらるが如し神速で太陽系を離れ、遂に母なる太陽の抱擁の手の内たるヘリオポーズからも脱し、外に広がるオールトの雲もぶち抜いて、鯰はとうとう完全に太陽系外に浮かぶ星の一つとなった。



 その夜。霊夢は困惑した。鬼が珍しく地底の一本角の鬼も連れて、何時もの様に、浴びる様に酒を口に流し込み乍ら神社から勝手に持ち出したつまみをカッ喰らったまではいいのだが、いや、霊夢にしてみれば全く良くは無いのだが、その後に鬼は徐に縁側から境内に降り立ち、空を見上げて指を指すと、だしぬけに、あそこには鯰が居る、と頓智気な事を云ったためである。

 「鬼でも嘘をつくのね。珍しいわ。」縁側で番茶を啜りながら、当然ながら、霊夢は全く以って支離滅裂で荒唐無稽で滅茶苦茶な酒呑童子の発言を、全く事実無根の虚言妄言だと断じた。
 「いや、それが嘘じゃあ無いんだよ。あすこには鯰が飛んでるのさ。」酒呑童子こと伊吹萃香は、自分の所業を世の理の如く語った。「そうさな。今でも飛んでいる事だろうよ。」一本角で鯰が居ると言う天を衝き乍ら、星熊童子こと星熊勇儀も首肯した。
 「あら、鬼が二人揃って嘘をつくなんて。明日は礫の雨でも降るのかしら。」霊夢はにべも無く、再び信ずる心を厳重に封じ込め、追い打ちを掛ける様に虚構のベールを掛けた。
 「おや、そこは嘘をつかない鬼が二人揃って言っているのだから、普通は信じる所だろうに。」
 「信じさせたいのなら、もっと道理の通った話をする事ね。」霊夢は境内に降り立ち、ただ墨を垂らした中光の点がぺかぺかしている夜空を確認しながら言った。霊夢は何としても、天地が引っ繰り返ろうとも、何度正直者に定評のある鬼が言おうとも、宇宙から鯰の存在を抹殺する次第である様だ。しかし事実なる鯰は謂われなく誅殺される訳には行かない。その意思の現れであろうか。明日など待つまでも無かった。
 ドゴ――――――――――――――――――――――――――――――ン!!!!!!!
 
 霊夢は耳を疑った。と言うより、信じたくなかった。しかし髪の毛はぶわりと風圧に押され、埃が飛んで、木片が転がったのを確認すれば、最早それ以上霊夢は五感を遮断する事は出来なかった。油の切れた機械の様なぎこちなさで、霊夢が振り向くと、数秒前まで神社だったその場所は、巨大な要石と、それのクッションと言う想定せざる役割を果たして犠牲となった神社の残骸と化していた。

 その後、無辜の天界に赤き旋風が吹き荒れ、行く先の全てを薙ぎ倒して行ったのはまた別の話である。
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コメント



0.200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
面白かったけど何だこの……
4.100名前が無い程度の能力削除
ハイスピードで天に昇っていくナマズに滅茶苦茶笑いました。
6.100南条削除
面白かったです
いい雰囲気のところをぶち壊していった鯰がよかったです
7.100めそふらん削除
ドゴーーーーン!
意味分からなくて面白かったです。
最初のエロ小説読んでるのかなって思ったらこれは一体…
8.90にしらめ削除
よかった
9.80KoCyan64削除
最初のドレサグををぶち壊す展開が面白かったです。
10.100Actadust削除
曲天道地の急展開に多いに笑わせて頂きました