誰かが賽銭箱の前に立っています。
腋が露呈している巫女服に身を包んだ誰かが立っています。
もちろん、この神社の巫女さんです。
賽銭箱の中身を窺います。
あまり満足そうではない表情。
予想の範囲を下回ったようです。
おやおや。
いきなり賽銭箱の前でうつ伏せになりました。
どうやら賽銭箱の下にお金が落ちてないか確かめているようです。
もう一度体を起こして、巫女服に付いた汚れを丁寧に落とします。
少しはにかんでいます。
お金があったのでしょうか。
それとも何か嬉しいものが見えたのでしょうか?
おやおや。
何か持ってきましたよ。
バケツですね。
つまり賽銭箱の下にあるのは小銭ですね。
お札だと濡れてしまいますからね。
水が溢れんばかりに入っています。
水が巫女服にかかってしまいました。
そんなにいっぱい入れるからです。
とりあえず賽銭箱の前にバケツを置きます。
こんな重いものいつまでも持ってられません。
まずは準備体操を始めます。
屈伸。
伸脚。
前後屈。
回旋。
アキレス腱。
手首足首。
巫女服で準備体操は少し無理があったようです。
ちょっと辛そうです。
しかし準備体操なんかで疲れてはいけません。
早速バケツを持ちます。
そして勢いよく賽銭箱の下に流し込みました。
ザザァー。
辺りが水浸しになってしまいました。
おまけに小銭は流れてきませんでした。
その代わりにメリットが生まれたようです。
賽銭箱の下は暗くてお金がよく見えませんでしたが、水に光が反射してよく見えるようになったのです。
これには巫女さんもガッツポーズ。
しかしデメリットも生まれました。
余計奥に行ってしまったのです。
巫女さんはガックリ肩を落とします。
しかしここで諦める巫女さんではありません。
次の手段です。
もう一度うつ伏せになって賽銭箱の下を覗き込みます。
そして力の限りに息を吹きかけました。
ふぅー。
この行動は何を意図したのかさっぱり判りませんが、とりあえずお金は表裏が逆転しました。
つまりまた余計奥に行ってしまったのです。
ですがまだまだ諦めません。
スペルカードを取り出しました。
しかしすぐにしまいました。
そんな事したら賽銭箱ごと吹き飛んでしまいます。
次の手段。
磁石を持ってきました。
小銭をその磁石で引き寄せようと試みたのでしょうか。
そうだとしたらこの巫女さんは面白い人です。
小銭は磁石に引き寄せられません。
つまり全く無意味な行動です。
そんなことはつゆ知らず、巫女さんは賽銭箱の下に自分の腕を突っ込んで、なるべくお金と磁石を近づけようとしました。
しかし努力も虚しく目当てのものは引き寄せられませんでした。
まあ当然でしょう。
巫女さんはまだまだ諦めません。
おもむろに賽銭箱に手を掛けました。
そして足を踏ん張って全力で持ち上げようとしました。
腕に血管が浮き出ます。
血色の良い健康的な赤をしています。
けっこう力が入ってるようです。
しかし賽銭箱はビクともしません。
不動の岩のように全く動きません。
仕方なく巫女服の胸ポケットから携帯電話を取り出しました。
幻想郷ではすっかり馴染み深いアイテムです。
見事な手捌きで電話番号を打ちます。
通話ボタンを押そうとした時、その指が止まりました。
そして静かに携帯電話をポケットにしまいました。
援軍に力を借りずに、自分一人の力で頑張ろうとしたのです。
良い心構えです。
立派な巫女さんです。
最終手段。
木の棒で引き寄せる。
どこから取り出したのか、利き手にはしっかりと木の棒が握られています。
細いけど長さは十分。
これで上手く小銭に引っ掛けることができれば、この勝負は巫女さんに軍配が上がります。
大きく深呼吸。
もう一度。
そしてもう一度。
準備完了。
うつ伏せの構えに入ります。
そして慎重に右手を奥に滑らせます。
その手にはしっかりと木の棒が握られています。
地面になるべく着かないように。
もちろんそれは最初に流した水のせいです。
もう少し。
もう少しで届きます。
しかし。
しかし小銭の目の前で棒がつっかえてしまい、気持ち良い音とともに木の棒は折れてしまいました。
もう駄目です。
さすがの巫女さんでもお手上げです。
巫女さんは木の棒をぽいっと投げ捨ててしまいました。
それは虚しく地面に落ちて、気持ち良い音とともに折れました。
手段を尽くしてしまいました。
これはもう諦めるしかありません。
仕方なく賽銭箱の隣の階段を登って、神社内に戻ります。
その時でした。
巫女さんは気づいてしまったのです。
なぜ後ろから取らなかったのか。
すぐに賽銭箱の後ろに周ります。
そこにはどうぞ取って下さいと言わんばかりに、小銭が露わになっていました。
もううつ伏せになる必要なんてありません。
巫女さんは身を屈めて右手でしっかりと水に濡れた銅色の固形物を拾い上げました。
中心に穴が空いているので五円玉でしょう。
これがここに存在するのも何かの御縁です。
「ふぅー。やっと取れましたー」
そう言って緑色の巫女服を纏った早苗は、五円玉をしっかりと右手で握りしめて神社に意気揚々と戻って行きました。
岡谷駅とか下諏訪駅上諏訪駅の自販機でモゾモゾしてるセーラー服姿(notブレザー)の早苗さん……あ、なんだか興奮してきた
途中でヒントがあるあたりがまた憎い
開始6行目でオチが分かってしまったのでこの点数で。
博麗神社だったら賽銭が入ってるわけがないのでw
騙されたから100点つっこみます。
賽銭箱ってそんなに重いんだ。いや、サイズによるのかな。
童話のような語り口がテンポよく、読みやすかったです。
きっと霊夢ならスペカ迷わず使ってましたね。
携帯電話辺りで気が付いてもよかったのに…
手法が上手い(笑)
先入観ってあるんですね。
お見事でした。
見事に騙されました。面白かったです。
話が短いからこそ、叙述トリックが上手く作用しています。お見事。
霊夢か早苗か分からないまま読み進め、途中で早苗と気付く。
最後で早苗の名前が出て、え? 終わり? と思ってしまった。
次回作に期待しています。
なんか二重落ちでも仕掛けてくるかと思いきやそれもなし
過大評価されてる気がするのでこの点で
本当に先入観は怖いです…
今後もこんな語り方のSSが増えても面白いと思います。
次回作も期待しています。
なんで気付かなかったんだろ
とりあえず見終わった後に早苗さんが「私だ」「なんだお前だったのか」っていう一人漫才してる風景が浮かんだのは俺だけでいい。
もちろん騙されたんですがね!
小気味よくて楽しい気分。
だまされましたとも。
しばらく見ていなかったので驚きました。
途中でオチがわかった方々は賢いですね。
恐れ入ります。
これからも皆様を楽しませることができる作品作りに精進します!
上から目線っぽいコメントにワラタw
水で流そうとしても動かないお金が息を吹きかけるだけで
裏返すとか、早苗の肺活量は五大陸に響きわたるでぇ・・・
小説に評価入れてあげようゼ?
俺も貴方と同じことが気になったが、騙されたから大目に見てやろう(作者に対して)。
態度は気を付けようゼ。
肺活量ワロタw
でも騙されたからいいや
携帯電話で「おや?」と思ったけど、幻想郷ですっかりお馴染み~って書いてあるから「そういうもんか」と納得しちゃったよちくしょうべらんめえ。