「う・・・・お・・・・お・・・」
器用にも前習えの姿勢を維持したまま頭から地中へ沈んでいく宮古よしかには眼もくれず、
霊夢は眼前の神霊廟の扉が観音開きに開くのをじっと待っていた。
この巫女にとってもはや3ボスを倒すことなど仕事のほんのさわりであり、
春の例祭が終わって夏祭りを待つ里の鼻息荒い男どものような気持ちで
錫製の扉が開帳するのを待った。突っ張った左足に体重をかけ、右足のつま先を
地面にタッピングして暇を持て余す。
「扉が開くまで凝視してなくてもいいや。」
右上を見上げた。月が綺麗だ。妙蓮寺本殿の獅子の彫刻の凸の部分を月光がかすめ、
昼間は眠っていた彫刻の魂が眼を覚ます。白み始めたばかりの
朝の月が雲に隠れ、再び現れるときなど目玉が
ギョロリと輝き、さながら狩の迫力だ。宮古戦で跋扈していた神霊はゾンビの敗北に
伴い、定時退社してしまった。霊夢の五感をくすぐるのは、今はこの美しい動物の姿と
無音の中にわずかに混じるズズ・・ズズ・・という地面にめり込む音のみであった。
扉が開いた。
~Stage4~
神霊廟のなかはサラリとしてつめたい空気であった。床は一面が花崗岩で、
つるつるに研磨されており時代のくすみを感じさせない。広大な幅を有したフロアーで、
両翼100mはあろうかという代物だ。奥に向かって10m間隔で天窓があけてあり、
そこから月の光が四角く粉状にふってきて、霊夢の膝ほどの高さで消えていた。
この程度の明るさではとても安心して先に進めないが、特に不自由しないのは
道の両脇に街頭のように丸太にくくりつけられた電球がいくつも照らしているからである。
フロアが広大なために、天窓からの光と電球の光には明確に闇で境界が出来ていた。
護衛の妖精たちが現れる。霊夢はザコ妖精が死ぬほどの攻撃はしないし、
敵もしてこない。緊張感に欠ける茶番といえばそれまでだが、生死をかけた争いでの強さに
価値を見出すのなら戦いを避けるのがもっとも強いことになるので戦いを始めた時点で
彼女は気楽なゲームだと思って臨んでいるようだ。霊夢は蝿の止まるような遅い球を捌きながら
頭は別のことを考える。「さっきの丸太にくくられた明かり、電源はなんなのかしら。」
方向キーを左に倒し、画面端まで寄って夢想封印を放ち、無敵時間中にコードのつながった先を
確認する。コードは白い半透明の、上下の板は黒い箱につながっていた。箱の中はいくつかの部屋に仕切られて、
それぞれに水が満たされていた。
ザコ妖精ゾーンが終わると、やおら紫の煙が前方2箇所に立ち込め、それらが薄く拡散すると2頭の象が
現れた。マニーパッキャオのような親父が短パン一丁でまたがり、象を御している。
鼻がゆっくり持ち上がると、レーザーよろしく水をこちらに噴射してきた。
「困ったわねぇ~。私動物好きなのに。ここは撃破はやめて先に進みましょう。」
水レーザーにかする際、霊夢は普段髪に通している竹製の赤い筒を髪からすぽっと抜いた。
片端を手のひらでふさぐと即席の容器ができあがる。それを水レーザーに注意深くかざし、
水で満たした。
「今回の仕事が終わったらこれ全部持って帰って商売始めるからね。駄目になっちゃあ、困るのよ。」
そう言うとまた明かりの元へ向かう。半透明の箱のうちひとつが、中の水の量が減っていた。
霊夢はそこに水を足すと、二度三度腕を波状にふるって竹の水を切り、元の髪型となった。
ヒュン ヒュヒュン ヒュン
敵を倒してもいないのに、すさまじい量の青い神霊があたりに無数に現れた。
「青って何欲を司るものだっけ?まぁいいわ。貰えるものは何でも貰っときましょ。」
ゆっくりと近づき、それらの神霊のうち拾いやすいものだけ取って先に進んだ。
視界から遠くなってゆく博麗の巫女をぼうっと眺めつつ、二人の象使いは象から降りる。
両腕をいったん象の背中にまき付けるように引っ掛け、足を地面に向けて垂らす。その状態で
静止してから、腕を万歳の格好にして象から離し、タンッと軽やかに着地した。
一人が短パンのポケットからタバコの箱を取り出す。あっというまに一本取り出して口にくわえると、
100円ライターを親指でジュッジュッジュッと3度擦って火をつけた。長い間火をつけっぱなしにすると
オイルが速く減るのだ。そのてんライターの火打石が先に駄目になることは、まずないといっていい。
口からボフッと一発景気よく、咥えタバコのまま煙を吐き出す。視線を動かさずに隣の男に
ライターとタバコを投げてよこした。
「おっかねえ姉ちゃんだな。」
「ああ。でも締まったいい腕をしてたな。働き者だ。嫁にするにはああいう女がいい。」
「お前が言うなら説得力あるな。」
口を開くたびにあたりの青白い煙の筋は複雑に絡み合って濃度を増していった。
タバコは時折カチカチッ!とはじける音を立て、クローブの香りを漂わせた。
タバコの長さが半分になると、象が背後から鼻を指のように使ってトントンと肩をせっついて
催促した。男二人は通路脇の樫で出来た小さな扉に入り、手押し台車に木箱を載せて戻ってきた。
ふたを開けて象にりんごを食わせてやる。
「象ってのは賢いからな。俺たちがご褒美のりんご出すの遅いってこないだボンビッツァに告げ口しやがった。」
霊夢はフロアの奥に突き当たった。フロアはそこで行き止まりになっているが、いかにもこの建物の
核となるものが眠る場所へ通じていそうな白い扉があり、その前で少女が筵を敷いて朝の体操のようなもの
に興じていた。扉の周りの壁は白い石が蔦のように絡み合うような珍しい質感だった。
フロアの側面にはかなり高い位置に石の壁に穴を開けただけの簡素な窓があった。
少女は白いシルクのゆったりとした長い布で出来た衣服を身にまとっている。
片足を大きく踏み出して両手を合わせ、腕を頭上に回して上半身をのけぞらせると、
布がすれてサラサラと音がした。
霊夢は少女の真似をして立った状態から腰をヘアピンのようにくの字に折り曲げ、
両手を冷たい花崗岩の床に着けた。霊夢はつめの先を触れるか触れないかがやっとだが、
目の前の少女は楽々と手のひら全体をぴたりと床に着け、ひじまで曲げていた。
少女は霊夢のほうをチラと一瞥すると、右足のかかとを後方に振り上げて高々と天井に向けて掲げた。
霊夢は今の状態ですら顔に血が上って眼にうっすらと涙が浮かんできているが、
ムキになってその動作を真似した。だが、自分の尻より高い位置まで足が上がらない。
「ふんっ!」 意を決して止まった右足をもう一度持ち上げようと霊夢は力む。
「ビキィ!」 支える左足が攣ってしまった。
「あはうんっ・・」 残機が一機減ってしまった。
以上が4ボス第一スペルカード、アーユルヴェーダ「太陽の健康神」の全容である。
へなへなと手足の力が抜け、へたり込んだあと、足の中で肉が切れて縮んでいくような
足をつったとき独特のパニックを伴った痛みで思わず仰向けに体勢を変えた。
白い衣装の少女は霊夢に駆け寄り、左足のかかとをつかんで持ち上げ、左膝の裏を伸ばしてやった。
「慣れないことに、あまり意地になるものではないですよ。私はボンビッツァ。」
「なんだかギクッとする名前ね。」
「はぁ、ギクッとですか・・。」
攣った足が元に戻った。足の痛みに気を取られて気づかなかったが、全身の血の巡りが
よくなり、肌がピンと張っているのに気づく。力が適度に抜け、思ったことが口をついて出そうだった。
「この礼拝を行うと、体の声がよく聞こえるようになります。わかりやすく言えば、欲望を無意識に自制する
筋肉の緊張が解ける、とでもいいましょうか。」
霊夢は無言で次の言葉を待った。
「あなたの欲望はなんですか?」
「セックスがしたいわ。巫女という仕事は処女しかできないのよ。こんな仕事、いつまでもやってらんない。
解放され次第、やってやってやりまくってやるんだから。」 札を撃ち込みつつ霊夢が答える。
「当然の欲求です。社会の循環の為、欲求が押さえつけられる・・誰もが抱えるジレンマです。
・・・話を聞いていたら私もやりたくなってきましたわ。ここで働く男を誰か誘おうかしら。」
弾幕勝負はいよいよ佳境だ。これが神霊廟の空間そのものの持つ力なのか、それともボンビッツァの術中なのかは
定かではないが、霊夢は激しく発汗し、ヴァギナからは愛液が滴って太ももを幾筋にもなって流れた。
「フフフッ!」 霊夢は笑った。最後のフッは甲高かった。
「なんか気持ちよくなってきたわ!仕事中じゃないみたい。そろそろ最後のスペカでしょ?
とっととかかって来なさいよっ!」
華麗「ピリ辛ガラムマサラ」
もともと大きいボンビッツァの瞳がさらに見開かれ、黒目の下部にも白目が確認できるほどになると、
彼女の背後にステンレス製の平皿に盛られた無数のカレーが出現した。
「これはどうかしらバージンの巫女さん? ちょっと刺激が強すぎるかしら?」
「ふん!ちょうどマン汁を分泌してお腹がすいたところなのよ!逃げも隠れもしないんだから!」
迫り来るカレーは、霊夢には静止しているように見えた。むんずと平皿をつかむと、盛られた湯気の立つスパイシーなカレーを
右手で貪り食いつつ、ボンビッツァめがけて地面を走っていった。
「うまい!辛いけどうまい!ひき肉とレンズ豆のカレーね!!ニンニクも効いてて精がついちゃうじゃない!!」
ボンビッツァはそのすがたを見て彫りの深いその目鼻立ちにしわを寄せた。
「食らえーーーーっ!!」そう叫びつつ、胸元をカレーまみれの手でまさぐり、夢想封印の札を霊夢は探した。
だが、脂ぎった手ではうまく札をつまめず、そうこうしている内にボンビッツァとの距離はみるみる縮まってくる。もういいや。
「夢!想!封!印!!!!ッ」
「ビターーーン!!」 結局札の準備が間に合わなかったので、霊夢は思いっきり目の前の少女の顔面に
張り手を食らわした。
「いったぁーーーい!!」 白い壁にカレーの汁が飛び散り、細かい点が等間隔で弧を描いた。
勝負はついた。
巫女は扉のなかに入っていき、フロアは再び静寂に包まれた。
天井を見上げつつ、ボンビッツァは一人想う。
「あれくらい、いい加減なのが重要な仕事をやるべきなのかもね。真面目な人間に正しい力を持たせるとえてして・・・」
奥への扉が設置されている白い蔦のようなものが入り組んだ壁。その一つ一つはよく見ると、人骨であった。
「やりすぎる」
完
他人のなら許可は取ったのか?
その辺明記しといたほうがよくない?
ヴァージナルルブリケーションやバルトリン腺液などの用法が望ましいでしょう。私は常識派なので。
この手の作品を目にした時、私は意識的に思考を放棄してなるべく物語の表層のみを追うことにしています。
変に深読みして、「実はこうなんじゃないの?」などとコメントしたあげく、
『イヤ、風呂で屁ぇこいた時に思いついたネタなんスケド』なんて言われたら立ち直れないじゃありませんか。
なので、そういったことを怖れずに深い考察を為される読者の方には心底憧れの念を抱きます。
話が逸れた。
で、上記のような読み方をしたこの作品についての感想なのですが、
笑った。作者様が頭に浮かべるビジョンは、どうやら私のツボを深く刺激するらしい。
一度ガッツリとした一人称作品を読んでみたいな、キャラクタは問わずに。どんな思考をさせるかとても興味深い。
後書きについてはどうなんでしょうね。
サイトの禁止・注意事項にある、〝当創想話と関係の無い外部サイトの話〟に抵触するか否か。
ルールを守ったほうが、遊びはより楽しい。って考える私はやっぱり常識派。
いつもありがとうございます。深い考察を是非お聞かせください。そういう読者様を
私は待ちわびています。><次回作は一人称作品ですね。了解です。
禁止事項に抵触するのはアフィブログとかだと思います。挿絵を紹介したかったもので。^^;
そして若干うんざりされている!><
hkzさんのような売れっ子に私が頼むのはやはりおこがましかったか・・^^;
綺麗な絵をありがとうございます!