Coolier - 新生・東方創想話

庭師とヴァレンチヌス命日

2007/02/26 07:03:23
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「よ~お~む~♪」

ここは冥界の白玉楼。そしてこの声の主は白玉楼の主人である西行寺幽々子である。
彼女には抱きつき癖があり、よくその従者の魂魄妖夢に抱きつく。

「なんですか、幽々子様?」

妖夢も慣れたもので、いきなり抱きつかれたことにはツッコミなしだ。

「今日は、何の日?」
「…え~と、2月14日…って、何の日でしたっけ?」
「いやいや妖夢、2月14日っていったら決まってるじゃない」
「…う~ん…わかりません」
「あらあら、今日はぁ、バレンタインデーよ」

バレンタインデーとは、皆も知ってるとおり、男達の希望と絶望が渦巻く一日だ。
…まあ、作者の音速が遅いせいでこれを読んでる人はすでにそれらを味わっているはずだが。
もっとも、幻想郷に名前と顔のある男性はこーりん以外にいないし、しかもこの幻想郷には百合カップルが多い。
もちろん幽々子にも全く関係ない日のはずだ。…まあ、それでも幻想郷ではチョコを渡す姿が多く見られるが。もちろん、女同士で。

「…ああ、そんな日もありましたね…」
「何をいまさら思い出してるのよ?」
「だって…私達には関係ない日では?確か、女性が好きな殿方に『チョコレート』なるものを贈る日では?」
「あら?妖夢は私のこと嫌い?」
「え!?いやなんでそうなるんですか!?」
「じゃあ、好き?」
「えぅ、あ、はい、好きです…」
「ふふ、妖夢ったら表情がころころ変わって面白いわね~
 ま、それはともかく、妖夢からのチョコ、ほしいな~♪」

幽々子は妖夢に可愛らしい微笑みを投げかける。妖夢は、この笑顔に弱いのだ。

「え、でも幽々子様は女性…」
「いやいや妖夢、ちゃんと紫に男女の境界を弄ってもらってきたわよ?なんなら、証拠を…」
「わ、わかりました!わかりましたから脱がないでください!例の式や店主じゃあるまいし!」
「あらそう?じゃ、今日中によろしくね~」



そんなわけで、妖夢はチョコレートを手に入れる旅に出たのであった。

「はぁ…幽々子様にも困ったものです…
 でも、やっぱり幽々子様のあの笑顔には勝てません…
 まあ幸い心当たりはいくつかあるし、そこをあたってみよっと」

  ★★★

「ごめんくださ~い」

妖夢はまず、魔理沙のところへ行った。
彼女は恋の魔法使いだから、恋する乙女の一大イベントであるバレンタインの必須アイテムチョコレートにも詳しいと思ったからだ。

「鍵なら開いてるぜ…おっ、お前が一人で来るのは珍しいな…何の用だ?」
「実は、幽々子様にチョコレートを探してこいと…」
「ん?またなんでだ?」
「バレンタインデー、だからだそうです」
「ああ、バレンタインデーっつーとあれだろ?女の子が好きな男に」
「うんうん」
「頭にリボンを結んで『私がプレゼント♪』っていってスクランブル顔面で飛び込んでいってサマソで迎撃される日だろ?」
「スクランブル顔面って…バレンタインは一人で想いを伝えるものです!」

微妙に突っ込むところがおかしいぞ妖夢。

「とりあえずそんな冗談は置いといて、それで私にどうしろと?」
「ああ、そうでした…私は、チョコレートの作り方を教えてもらいに来たんです」
「ああ、残念だが他をあたってくれ」
「ええ!?」
「私は和食派だし、当然チョコも作ったこと無いんだ。
 アリスと仲良くなるまでは、今まで食べたパンの枚数を覚えていられるほどだったんだぜ?」
「あなた、恋の魔法使いですよね?」
「ああ、私霧雨魔理沙は間違いなく恋の魔法使いだぜ」
「じゃあ何でバレンタインの必須アイテムなチョコレートを作ったこと無いんですか?」
「いやいや妖夢、想いを伝えるのは別にバレンタインじゃなくてもいいんだぜ?」
「うっ…」

確かにその通りだ。バレンタインに告白しなければいけないなんてルールは存在しない。

「ということは、バレンタインに誰かにチョコを渡したりはしないんですか?」
「ああ、どっちかっつーと私は貰うほうに回りたいな」
「って、あなたは女じゃ…確かに口調男みたいだけど…」
「まだまだ青いな妖夢…あと口調は大きなお世話だ。
 いまさらそんなことを気にする奴なんて、幻想郷にはほとんどいないぜ?
 大体、そんなこといったら何で女であるお前が女である幽々子にあげるチョコを探してるんだ?」
「うぅっ…」
「ほらみろ、お前だってそうじゃないか。安心しろ、幻想郷ではよくあることだ」

主に作者の趣味の所為で。

「…今何か変なこといいました?」
「言ってないぜ」

「うーん、じゃあ次は…」
「アリスのところへ行ってみたらどうだ?あいつなら洋菓子とか作れるし、多分チョコの作り方も知ってるだろ」
「ああ、なるほど」

妖夢も以前、アリスのケーキを食べたことがある。
とても気に入って、幽々子にも食べてもらおうと思ったが、
もし幽々子が気に入ればアリスの家や紅魔館から強奪しないとも限らないので、思いとどまったのだ。

「アリスさんなら、きっとおいしいチョコレートの作り方を教えてくれるに違いありませんね」
「だろ?なら善は急げだ、早く行ってこい…あ、ちょっと待て。」
「はい?」
「えーと、確かこの辺に…あったあった。これ持ってけ。」

魔理沙が差し出したのは、プレゼント用のリボンだった

「さすがにチョコをそのまま…ってのは味気ないだろ?これでラッピングしたらどうだ?
 …生憎、いま箱のほうはないんだがな…まあそれはどっか適当なところで調達して来い」
「あ、ありがとうございます!!」


  ★★★

「ごめんくださ~い」

魔理沙に教えてもらった方向に進んでいき、妖夢は無事アリスの家へたどり着いた。

「あら?あなたが一人で来るなんて珍しいわね?」
「はい、実はチョコレートの作り方を教えていただきたくて…」
「あら、そうなの?あなたにも好きな人がいたんだ?」
「うーん…あたらずとも遠からず、ですね…
 幽々子様に、チョコレートを探してくるように言われまして」

妖夢は苦笑する。

「なるほどね…う~ん、教えてあげたいのは山々なんだけど、私も今忙しいのよね…」
「そうですか…なら無理にとはいいません」
「ごめんなさいね~」

仕方ないので、妖夢はアリスの家を後にした。

「ふぅ、ここもダメか…そうだな、他に…神社かな」




妖夢が出て行くと、すぐにアリスはドアに耳を当て、妖夢が去ったのを確かめた。

「…よし、行ったわね…」

アリスの家の台所には、茶色の液体。そして、ハート型の金属。

「あとは、これを型に入れて…これが固まれば完成ね…」

そう、アリスはチョコレートを作っていたのだ。

「ふう…チョコができたのはいいけど…どうしよう…」

アリスの背後の机には、霊夢と魔理沙の人形が。

「…結局、どっちに告白するか決められなかった…」

アリスは、霊夢と魔理沙、二人ともが好きなのだった。

「…こんなの、ダメよね。どっちかに決めないと…」

アリスの目には隈ができている。
そして、机には、『霊夢』と『魔理沙』の字が大量に書かれたノート、霊夢と魔理沙の絵、人形用の巫女と魔法使いの衣装。
さまざまな占い、まじない、呪術の道具や、藁人形、五間釘。
…なんだかよく分からないが、ともかくアリスは一晩中悩んだ後であるということは理解できた。

  ★★★

「ふぅ…やっとあがってこれた…低空だけど空飛べるからいいけどやたら時間がかかるなぁ…
 …まあ、白玉楼もそうなんだけど」

博麗神社は参拝客が年中無休で来ないことで有名だが、階段が長いことも原因のひとつだ。
だが、やはり主な原因はさまざまな妖怪やら幽霊やら変態やらが訪れてくることだろう。
…ほら、そこにも。

「いくわよ、咲夜!」
「はい、お嬢様!」

咲夜は地面に背中をつけ、足を上げる。無論、ドロワーズ着用でだが。
リボンをつけたレミリアがその足に飛び乗ると、咲夜は全力でレミリアを打ち上げる。

「霊夢ううううぅぅぅぅぅ!!!!私がプレゼントよおぉぉぉぉ!!!!」「夢想封印」「はぅっ!?」

レミリアくんふっとんだ!



「あいたたた…ちょっと、ひどいじゃない!ちゃんとサマソで打ち落としてくれないと!」
「…はぁ?」

「…うわ、本当にやってる人いたんだ…」

さっきのは、魔理沙の冗談じゃなかったのか。

「いったい何なのよ?」
「『バレンタインは頭にリボンを結んで『私がプレゼント♪』っていってスクランブル顔面で飛び込んでいってサマソで迎撃される日』
 ってパチェが言ってた。」
「「……」」

 あの紫モヤシ、今度会ったら刺しておこう。

霊夢と妖夢は、心からそう思った。

「あなた…完璧にだまされてるわよ」
「バレンタインは、好きな異性にチョコレートを贈る日ですよ」
「なにィ!!…じゃあ、私達の三日三晩の血と汗と涙は無駄だったってこと!?」
「「そんなことで血と汗と涙を流すな!!」」

妖夢と霊夢の見事にハモった突っ込み。

「息が合ってるわね、あなた達の接点なんて名前の『夢』ぐらいしかないのに」
「いやいや、そんなことないわよ」
「…お互い、普段から突っ込みに徹しているもの同士ですから…」

はぁ、と同時にため息をつく。

「へぇ…たいしたものね」
「あんたみたいなのが周囲にいっぱいいるから、いやでも突っ込みが鍛えられるのよ…」
 …って、そういえば妖夢いつ来てたの?」
「そこの変態吸血鬼が、スクランブル顔面の体勢に入った辺りからです」
「んなっ、変態とは失礼ね!?」

だがレミリアの日ごろの行いを見ていると、変態呼ばわりされないほうが不思議だ。

「で?何の用事で来たの?」

霊夢くんうまいスルー!

「ちょっと、無視しないでよ!」
「本当のこと言われて怒っちゃダメよ」
「人は本当のこと言われるほうが辛いのよ!?」
「あなた吸血鬼じゃない」
「ってか、本当のことって認めるんだ…」

再び『夢のツッコミコンビ(仮)』によるツッコミが入った。

「…今、すごくセンスの悪いコンビ名をつけられたような…」
「とりあえず、埒が明かないから変態は黙ってなさい、封魔陣!」
「はうあ!?」

レミリアくんふっとんだ!
咲夜さんレミリアくんをキャッチ!

「…お嬢様が迷惑をかけたわね」
「咲夜さん、こんなことに付き合わされて…あなたも大変ですね…」
「とりあえず、悪いけどとっとと連れて帰って頂戴」
「言われなくてもそうするつもりよ、私も暇じゃないの」

咲夜はレミリアを抱えて去っていった。

「あらあら霊夢、相変わらずね」

次にやってきたのは、スキマ妖怪八雲紫であった。

「…一変態去ってまた一変態、ってとこかしら」
「否定しないわ」
「否定しないんですか紫様!?」
「いやいや妖夢、変態的行為に走ってしまうのはそれだけその人が好きってことなのよ?
 だから、むしろ褒め言葉をどうもって感じなのよ?」

まあいわれてみればそんな気もするが。レミリアとかが変態なのもそれだけ霊夢が好きだからだし。
…こーりんの変態はまた別の要因だが。

「って紫様、今の時期は冬眠してるんじゃ…?」
「暖冬だからもう目が覚めちゃったのよ…ふわ、まだ少し眠いわ~」
「…まあ、そんなことはどうでもいいわ、いったい何の用?」
「今日はバレンタインデーだから、チョコを持ってきたのよ
 せっかく珍しく起きて来れたんだから、今日は外の世界のチョコよ~」

そういって紫が取り出したものは、細い棒状のビスケットにチョコレートをコーティングしたお菓子だった。

「へぇ…なかなか美味しそうじゃない」
「でしょう?」

霊夢がそのうちのひとつを取り、口に入れる。

「かかったな!?アホが!!」

紫はすばやく霊夢のくわえたチョコ菓子の反対側に口を近づける。

「甘いっ!」

霊夢はすばやく反応して紫の口にチョコ菓子を入れた。

「くっ…」
「あんたの行動なんか、お見通しよ」
「霊夢とのポッキーゲームが…」
「ん?何ポッキーゲームって?もしかして…」

霊夢は、紫にくわえさせたチョコ菓子の反対側を口に入れた。

「…こういうことがしたかったの?」
「ひょ、へいふはん?(ちょ、霊夢さん?)」

妖夢の口だけどな!(まさに 外 道 )

「………」

紫はしばらく無言だった。

「………」



ポリポリポリポリ

「「食べるのかよ!!」」

突っ込み人間1.5人と半霊の鋭い突っ込みが、神社の境内にこだました。

  ★★★

「はぁ、神社でも何も収穫なしか…
 あのチョコレートも結局紫様と霊夢さんで食べてしまうし…」

ちなみにあの後妖夢は口を離して紫とのキスは回避した。

「湖には…何もないだろうな、多分…
 ここに住んでるのは、あの氷精ぐらい…ん?」

噂をすれば、そこには氷の妖精、チルノがいた。
だが、なんだか暗い顔をしている。

「どうしたんです、いったい…」

もうすでに昼時で、妖夢も先を急がないといけないのだが、
そんな暗い顔をしているチルノを見捨ててはおけなかった。

「あ…アンタはしらたまろーの…」
「『はくぎょくろう』です」
「どっちだっていいわよ、そんなの…それより、レティを見なかった?」
「レティ?」
「冬の妖怪よ、胸が大きくて、着膨れしてる…」
「…ああ、あの…ちょっと待ってください、着膨れって、冬の妖怪なのに?」
「そうなのよ、レティは寒さに弱いのに春には春眠しないといけないのよ…」
「それはまたえらく難儀な妖怪で…」

レティは、気温が高いほど力を失っていくらしい。
よって、夏は生きることができないため、冬まで姿を消すのだ。

「…それはともかく、そのレティが突然いなくなっちゃったのよ」
「…って、春眠したんじゃないんですか?」
「たぶん…でも、いつもバレンタインにはあたいにチョコを作ってくれたのよ…」
「つまり、春眠の時期はバレンタインより後、と…」
「うん…それに、消えるときも必ずあたいのところへ来てくれる…」
「…なのに、何も言わずに消えてしまったと…」
「うん…」

チルノの目には、涙がたまっていた。
チルノにとってレティは母親のようなものだ。
そんなレティと、冬にしか会えないというのは、まだ幼いチルノにはつらいことだろう。
…ましてや、何の挨拶もなしに消えてしまったとなると…

「…一緒に探しましょう。まだ春眠に入ってないかもしれませんし」
「…うん!」



「…とりあえず、闇雲に探しても見つかりそうにありませんし、聞き込みから始めてみましょうか」

証言1『ああ、レティね…三日ほど前はチルノと遊んでたのを見たけど…
    その後は見てないわよ、私は森でふらふらしたり歌の練習をしてただけだし…
    あと、夜は屋台をやってたけど、いずれにせよレティは見なかったわね…
    そんなに広い森じゃないし、少なくとも森にはいないんじゃないかしら?』
証言2『れてぃ~?そういえば見ないよね~?いつもだったらまだ元気にチルノと遊んでるはずなのに…
    あんまり参考にはならないかもしれないけど、少なくとも神社の境内裏では見なかったよ~?』
証言3『え?レティ?さあ…私は見てな『あ!ゴキブリのお姉t『わーっ!わーっ!』
   『どうしたんですか藍さん?』『いや、なんでもない!なんでもないぞホタルの坊ちゃん!!』
   『私は女だー!!』
証言4『春ですよ~…あれ!?な、何で泣いてるんですか!?
    え?何も言わずに離れてあげて?わ、分かりました…』


「う~ん…あんまり参考にならないですね…」

……ノ……

「まったくね、聞く相手を間違えてたわ…ん?」

…チ……ノ……

「これはもう歩いて探すしか…」

……チルノ……

「レティ!!」
「え?」

チルノの声で振り向くと、そこにはレティがいた。

「レティ、レティ!会いたかったよ!!」

チルノは駆け寄り、レティに抱きついた。

「ごめんね…チルノ、今年はチョコ用意できなかった…」
「ううん、そんなこと…あたいはレティがちゃんと来てくれただけで嬉しいよ…」

妖夢はその姿に言葉を発せなかったが、やがて口を開いた。

「…あの、感動の再開に水をさすようで悪いんですが…
 …腕、どうしたんですか」

レティの左腕は、根元を残してほとんど消失していた。

「あらいけない、もうここまで消耗しちゃってたなんて…」

レティは『あらいけない、お醤油切らしてた』ぐらいの軽い感じで言うが、
左腕を失ったその姿はとても異様なものであった。

「あのね…今年はいつもより暖かくて過ごしやすかったんだけど、
 その反面やっぱり冬の妖怪である私は平年以上に力を奪われていくみたいなの」
「もしかして、そのせいでいなくなってたんですか?」
「そうなのよ、三日ほど前に急に倒れちゃって…なんとかここまでこれるぐらいに回復するのに、今までかかってたのよ…
 私が力を失うと、本来なら全身がどんどん薄くなっていくんだけど…今回はエネルギーの消失を左腕に集中したの。
 でも…まさかここまで早く無くなっていくなんて…」
「レティ…そんなになってまであたいのところに?」
「うん…きっと、チルノが寂しがってると思って…」
「…ありがとう…でも、もう無理しないで…
 そんな姿のレティを見てるのも辛いから…」

レティのわずかに残った左腕は、さらに消失の勢いが早まったのか、今は目視確認できる勢いで消えていっている。

「そうね…」
「…でも、レティがちゃんとお別れを言いに来てくれたの、とっても嬉しかったよ…」
「ありがとう…私、もう行くね…」

レティの姿はどんどん薄くなっていき、ついには虚空へと消えた。

「……」

チルノは、とても悲しそうな表情を浮かべていた。
やはり、母親代わりのレティと別れなければならないのは辛いのだろう。
だが、妖夢はどう声をかけていいかわからなかった。
そんなとき、チルノは妖夢のほうに向き直った。

「…ありがと、妖夢。レティさがすの手伝ってくれて…」
「…でも、私は何の助けにもなれなかった…
 まだまだ、修行不足ですね…」
「ううん、妖夢はあたいのために頑張ってくれた。それだけであたいは嬉しいよ。
 それに、こうしてちゃんとレティに会えたんだから、あたいはもう平気だよ」

平気、とチルノは笑顔で言うが、その表情はやはり寂しそうだ。

「本当にありがとう、妖夢。…じゃあ、またね。」

そう言うとチルノはどこかへ去っていった。

「はい、さようなら…」

こういうとき、一人にしておいてあげるべきなのか、そばにいてあげるべきなのか、妖夢には分からなかった。
でも、この子なら大丈夫だろうと妖夢は思った。

  ★★★

「もしかしたら、香霖堂ならチョコレートが売っているかも…」

そうと決まれば、善は急げだ。売り切れる可能性もある。
妖夢は駆け足で香霖堂を目指した。




「こんにちは~…」

妖夢は、香霖堂のドアを開け、中に入る。

「やあ、いらっしゃいふんどし」

そこには、香霖堂の店主こーりんこと森近霖之助が笑顔で立っていた。
褌一丁で。

「…現世斬!!」
「ぐあぁっふんどし!!」

妖夢は有無を言わさず霖之助を斬りつけた。

「い…いきなり何をするんだいふんどし!?」
「なんて格好してるんですか!?」
「ああ、これは褌といってだねふんどし…」
「そんなことは知ってます!」
「知ってるなら話が早いふんどし、では早速着けてもらお「未来永劫斬!」「ぐほぁっふんどし!!!」

そのとき、誰かが店に入ってきた。

「あら、妖夢じゃない。ここに一人で来るなんて珍しいわね。とりあえず、そいつは殺しちゃだめよ」
「や、やあ、いらっしゃいふんどし」
「あ…ゆ、幽香さん!?」

現れたのは四季のフラワーマスター、幽香であった。

「殺しちゃうと買い物ができなくなっちゃうでしょ?」
「殺したならその後に勝手にもって行けばいいんじゃないんですか?」
「あ、それもそうね」
「…君達、そんな物騒な冗談はやめてくれないかいふんどし?」
「あら、私は本気よ?」
「私も、あなたがその格好をやめないのなら全力で斬ります」
「やめるわけにはいかないよふんどし、幻想郷に褌が広まるまではふんどし」
「…妖夢、やれ」
「はい(二百由旬の一閃」
「うぐあぁっふんどし!!!!」

霖之助はもうすでに虫の息だ。

「…ところで、さっきから気になってたけどその口調はいったい何?」
「…ああ…これは幻想郷に褌を広める活動の一環でねふんどし…」
「幽香さん、次はこのスペルカードで行きましょうか」
「いや、こっちのほうがいいと思うわ」
「そんな殺生なふんどし!」
「黙らせなさい」
「はい(待宵反射衛星斬」
「ぐぉあぁぁぁあぁぁふんどしぃぃぃぃぃ!!!!!!」

霖之助は完全に力尽きた。
…だが、さっきから妖夢の攻撃を受けて霖之助自身はボロボロなのに、褌は傷ひとつついていない。
この褌はいったい何でできているのだろうか。…まあ、破れられてもそれはそれで困るが。

「…ところで、幽香さんは何の用事でここに?」
「今日はバレンタインだからね、チョコを買いに来たのよ。
 ほんとはもっと早く来たかったんだけど」
「え、やっぱりここで売ってるんですか?」
「それはまだわからないわ。今から探してみる」
「私も手伝います、私もチョコレートを買いに来たので」

妖夢と幽香は、店内をあちこち漁った。
だが、チョコを見つけることはできなかった。

「ふぅ…まったく、こんなときにも役に立たないのねこの店主は」
「ところで幽香さん、いったい誰にあげるつもりだったんですか?」
「ああ、あの蟲の男の子よ」
「蟲の…男の子?」

幻想郷で『蟲』といえば、そのひとことでほぼ限定される。
が、それに『男の子』が加わると、今のところ該当するものはいない。

「…えっと、リグルのことを言ってるなら、その子は女の子ですよ?」
「そう かんけいないね  私には性別なんてどうでもいいことよ。」
「…はぁ」

幻想郷の恋愛なんてそんなもんだ。

「そしてチョコに危ないお薬を入れる予定よ」
「…いったいどんな薬を入れる気なんですか?」
「飲むとね、たちどころに(禁則事項)になっちゃってすぐに(禁則事項)しちゃうような
 ものすごく(禁則事項)なお薬なのよ。ちなみに永遠亭の薬師特製よ」
「うわぁ…まあ、止めはしませんが」
「まあ、私は他を当たってみるわ。妖夢も頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」

  ★★★

「えっと、他にあてになりそうなのは…紅魔館かな」

紅魔館はもともと幻想郷の外――それも、おそらく日本国外――にあったもの。
そんな紅魔館の住人なら、チョコレートの作り方を知っているかもしれない。

「よし、行ってみよう」








ここは紅魔館の門。いつも美鈴が守っている場所だ。
美鈴は顔を赤く染めている。それに対して咲夜は普段通りの表情だ。

「あの、咲夜さん?」
「何かしら美鈴?(今日はバレンタイン…美鈴はいったい誰にチョコを渡すつもりなのかしら…)」
「…目が、怖いですよ…」
「あら、そう?(あっ、顔に出てたみたいね…)」
「そ、それはともかく…その…」
「一体どうしたのよ?(え、ちょっと、まさかこの雰囲気って…)」
「……きょ、今日の晩御飯なんですか?」
「あ、えーと、今日は確か…(あ、うん、そうよね…はは…)」
「…じゃなくて!さ、咲夜さん!」
「え?何よどうしたの?(ああ~もう本当は何なの!?はっきりして頂戴!)」
「こ、これ…バレンタインのチョコです…」
「あ、あら、ありがとう…(チョ、チョコ…!?でも、義理?本命?)」
「えっと…も、もちろん、本命の…」
「(そうなの?うれしいわ、ありがとう美鈴。)や、やった!やったわ!本命ですって!!」

「………」
「…あら?」

咲夜は何か違和感を感じ、今口にした言葉を思い返してみる。

「……っ!!(声にならない叫び」

咲夜は一気に赤面する。

「そ、そこまで喜んでもらえるなんて…」

さくやはにげだした!

「さ、咲夜さん!?待ってください!」

美鈴もその後を追う。
さすが妖怪だけあって相当足は速いがそれでも咲夜に追いつくにはいたらなかった。

「ま、まって…」

美鈴は階段を上った咲夜を追いかけようとした。






「あ…ありのまま 今 起こった事を話すわ!
 『私は咲夜さんの前で階段を登っていたと思ったらいつのまにか降りていた』
 な… 何を言ってるのかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…
 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてない
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ…」

「って!時とめられただけじゃない!
 うぅ…自分のギャグキャラ根性が憎いぃ…」

サッカー大会のときなど、完全にギャグキャラ扱いだったため、
美鈴には自然とギャグキャラとしての能力が身についていた。

「こんな事言ってる場合じゃない、早く咲夜さんを追わないと!」


その後美鈴は咲夜の行方を追っていたが、結局見つけられず、
もしかしたら部屋へ戻ってるのかもと思い、咲夜の部屋へ向かった。




「はぁ…何やってるのかしら私…」

咲夜は自室で落ち込んでいた。
その手にはきれいに包装されたプレゼントボックスが。

「あんなことで取り乱して逃げてしまうなんて…これで完璧に美鈴に嫌われ…」

コンコン

「あの…咲夜さん?」
「め…美鈴!?」

咲夜がドアを開けると、そこには美鈴が立っていた。
目に涙を溜めているが、笑顔だった。

「よかった…ちゃんと出てきてくれた…
 私、咲夜さんに嫌われちゃったのかと…」
「………」

咲夜は何も言葉を発することができなかった。

「…やっぱり、嫌い…ですか?」

その様子を見て、美鈴の表情が再び曇る。

「――っ!!」

咲夜は、それでも何も言葉が出てこなかった。
だから、美鈴を、強く抱きしめた。

「!?」
「……嫌いだったら、さっきチョコを渡されたとき、
 あんなふうに叫んだりしないわよ…」

そう耳元でささやくと、手に持っていたプレゼントボックスを美鈴に渡す。

「…これは…?」
「私も、美鈴のためにチョコを作ったの…受け取ってくれるかしら?」
「…はい!」

一件落着、のようである。




「…うわぁ」

紅魔館に来た妖夢は、一部始終を覗き見…もとい、見守っていた。
(危ない危ない、俺まで斬られるところだった)

「これは、チョコレートの作り方を聞くどころじゃないですね…」

妖夢は、チョコの作り方を調べるために図書館へ行こうとした。



「あ~ら、こんなところでいったい何を覗いていたのかしら…?」

振り向くとそこには咲夜がいた。

「げぇっ、妖夢!」
「……?」
「…あ、いや、ちょっと並行世界の記憶が…
 そ、それはともかく、いったい何をしているのかしら?」

「い、いや、あのチョコの作り方を…」

トスッ

「ひっ!」

妖夢はぎりぎりのところで投げナイフをかわす。

「ちっ…外したわ…美鈴、そいつを抑えてなさい。
 …大丈夫、愛する人に傷をつけたりはしないわ」
「…はい!咲夜さん」
「ひいぃぃぃ!!」

  ★★★

「…はぁ、危ないところだった…」

妖夢は絶対誰にも言わない約束で、なんとか許してもらえた。

「こんにちは~…」
「あら、あなたが一人で来るなんて珍しいわね」
「…そのセリフ、今までに何回も言われました」

図書館の主、パチュリーはいつも通り本を読んでいた。
妖夢は先ほどの神社での出来事について問いただそうかと思ったが、あまり時間も無いのでやめておいた。

「とりあえず、本を貸してください」
「いいわよ、ちゃんと返すならね…とりあえず、これなんかいいんじゃない?」

パチュリーは一冊の本を差し出す。それにはなぜかブックカバーがかかっている。

「へ?…ああ、ありがとうございます…」

妖夢は首を傾げた。まだ自分は何の本を借りるか言ってないのに。
とりあえず、パチュリーに渡された本を開いてみた。


『よかったのかホイホイついてきて…俺はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ』


妖夢は全力で本を閉じた。

「あら、気に入らなかった…?じゃあ、こっちの方がいいかしら」

パチュリーは別の本を差し出す。カバーがかかっていて表紙はわからないがたぶんこれもそういう本だろう。
 …というか、ホモ漫画はあれぐらいしか知らないので、どんな本か書けません。

「な…なんて物を見せるんですか!?」
「あなたならこういうのが好きかと思ったの…ホモが嫌いな女子なんていないからね。
 でも、あなたにはもう少しショタっ気のあるほうがいいのかしら?」
「何を根拠に!?なんでそんなにホモが好きなんですか
 あなたはこういうの見て『ピ━━━』ってるんでしょう!!!!」
「なっ…失礼な…
 私が『ピ━━━』なのはこうゆうのよ!!!!
 とりあえず読みなさい!!読んでるうちに良さがわかるわ!!」
「わからないです!というかわかりたくないです!!」

パチュリーは、妖夢に本を押し付ける。
妖夢は抵抗するが、どういうわけかパチュリーの力が半端ではない。

「くっ…はぁぁ!!」
「きゃっ!!」
「って…わあぁ!!」

妖夢が気合を入れてパチュリーを跳ね除けると、その拍子に妖夢がパチュリーを押し倒した体勢になってしまった。

「うぃーっす、WAWAWA忘れ物~♪おうあ!」

俺参上。もとい、魔理沙参上。
どうやら図書館に忘れ物をしたらしい。

「すまん」

聞いたこともない真面目な声で魔理沙は言うとザリガニのように後ろへ下がり、

「…ごゆっくり!!」

戸も閉めないで走り去った。追うヒマもなかった。

「ああっ!?ちょっと!!」
「面白い人」

妖夢は盛大なため息をついた。

「どうしよっかなー」
「…あなた…よくみたらけっこう…かわいいのね」
「へ!?」
「うふふ、私はこっちの同性愛にも強いのよ…」
「え…?いや、ちょ…」
「さあ、魔理沙の許可も出たことだし、ごゆっくりしましょうか!!
 ちょうど、この前(禁則事項)なお薬を手に入れたところだし」
「いやああぁぁぁ!!」


  ★★★


「はぁ、危ないところだった…」

妖夢は何とかパチュリーを振り払い、白楼剣でぶん殴って気絶させ、逃げてきた。

「うーん…あとは永遠亭ぐらいしか思いつかないけど…あてにはならなさそうだな…」

それでも、他に行くところもないので、永遠亭に行くことにした。



「えっと…こっちだったかな…ん?」

迷いの竹林を歩いていくと、二つの人影が。




「…ねぇ、妹紅…
 今日はバレンタインデーだから、チョコを作ってみたの。食べてみてよ」

そこにいたのは、輝夜と妹紅だった

「へぇ、お前がそんなこというとは…雨でも降るんじゃないか?
 …ああ、そうか。毒が入ってるとか?」
「入ってないからとっとと食べなさい」
「はいはい」

妹紅はチョコを口に入れた。

「あ…うまい」
「当然よ、ちゃんと本で調べたりえーりんに教わったりしたんだもの」
「へぇ…輝夜にしては上出来…うっ!!」
「かかったな!?アホが!!
 そのチョコには、えーりん特製のむぐぅっ!?」

輝夜の言葉は、妹紅の口付けによって遮られた。
そして、口移しでチョコを輝夜の口の中に送り込む。
輝夜は抵抗したが、それでもどんどんチョコは口の中で溶けていった。

「…ぷはぁっ!!」
「…お前、アホだろ。まだ半分しか飲み込んでいないうちに種明かしするなんて。
 つーか嘘はよくないぞ、やっぱり何か入ってたんじゃないか」
「いやいや…妹紅…毒っていうのは…体に害を及ぼすものなのよ…?
 これに入ってたのは…ちょっと(禁則事項)になったりしちゃうお薬よ…?」

薬を仕込んだ側の輝夜のほうが苦しそうである。

「…で、その(禁則事項)な薬入りチョコを、お前が半分食べてしまったというわけだ」
「…な、なんであなたは…そんなに平気そうなのよ…」
「そりゃ、日頃からいろいろ盛られてればな…耐性も付くってもんだ」
「くぅっ…これでずっと私のターンだと思ったのに…」
「…何勘違いしてるんだ?まだ私のバトルフェイズは終了してないぞ」




「うわー、相変わらずお熱いなあの二人…」

やっぱり妖夢は覗き見していた。

「あの二人…殺しあう仲だったはずなのに、いつの間にかあんなふうになって…」

今でも殺し合い―ーというか、殺し愛――は続いてるようだが。

「って…ええ!?」

いつの間にか輝夜と妹紅にはなぜかモザイクがかかっていた。声にも(ピーー)音が入っている。
このままではこのSSが創想話に載せられなくなりそうな気がするので、妖夢はその場から走り去った。


  ★★★

「…まったく、乳繰り合うなら部屋の中でしてほしいものです…」

妖夢は、何とか迷わず永遠亭に到着した。

「でも、うどんげさんとか永琳さんならもしかしたら知ってるかも…
 …妖しい薬とか仕込まれそうだけど…」

しかし、もう他に行くところはない。とにかく、行くしかない。





「ねぇねぇ、鈴仙ちゃん。今日バレンタインだから、チョコを作ってみたの。食べて♪」

永遠亭のウサギの一人、因幡てゐが、うどんげにチョコを渡す。
きれいなハート型のチョコだ。

「ああ…ありがとう」

てゐは詐欺を働くことで有名だ。なので、うどんげも最初から疑ってかかっているようだ。

「でも…私だけじゃ食べきれなさそうだし、てゐも食べてよ」
「え…い、いや、それは鈴仙ちゃんへの…」

てゐの顔色があからさまに変わる。

「いいから…食べる!!」

やっぱりか、と思ったうどんげは、狂気の瞳を使っててゐに命令した。

「……はい……」




「…思った通りね。詰めが甘いのよてゐは」

チョコには予想通り(禁則事項)な薬が入っていた。流行ってるのか。
その薬によっててゐはすっかり(禁則事項)になってしまっていた。

「あら、うどんげ。てゐはいったいどうしちゃったの?」

そこにやってきたのは、うどんげの師匠である八意永琳だった。

「てゐが私にくれたチョコを食べさせたら、こうなったんです」
「あらあら…まあ、詰めが甘かったてゐが悪いってことね。自業自得。しばらくそうしてなさい」
「………」

てゐはもはや言葉を発することができない状態だった。

「まあ、それはともかくうどんげ、チョコはいかが?」

永琳の手には、やっぱりハート型のチョコが。

「…それはいいですが、まず師匠が一口食べてください」
「あらあら、私まで疑うのね。まあ、この状況じゃ仕方ないわね…」

永琳はチョコを一口食べる。だが、特に変化は見られない。

「大丈夫みたいですね、疑ってすみませんでした…」
「いいのよ、気にしなくて」

うどんげも、永琳のチョコを食べる。

「あ、いっとくけどそれ本命だから、ちゃんと味わってよね?」
「えっ!?」
「…で?その本命チョコに対する返事は?」
「え、えと…わ、私も…師匠のことが、好きです」
「ふふふ、ありがと。…ところで、そろそろ効いてくるころね」
「…へ?」

気が付くと、うどんげは体を動かせなくなっていた。

「うどんげもまだまだ甘いわね…あのチョコには私のかじった側にだけ薬を仕込んでなかったのよ。
 …さて、お持ち帰りお持ち帰り…♪」

こうして、うどんげは見事に永琳の自室にお持ち帰られた。





「…うどんげさん…あなたとはよい友達になれそうです…」 

と心からそう思う妖夢であった。

  ★★★


「はぁ、結局チョコレートは手に入らなかった…」

すべての当てが外れた妖夢は、白玉楼に帰ってきた。

「妖夢、おかえりなさ~い!」
「遅かったのね」

庭では幽々子と紫が妖夢の帰りを待っていた。

「あ…ただいま帰りました…
 って、紫様?どうなさったんですそのこぶ…」
「ああ…こ、これは…」
「紫はね、人のものを取ろうとしたのよ。そんな人はお仕置きよ」
「はぁ…」

妖夢はあんたら人じゃないじゃんと突っ込みたい気持ちでいっぱいだったが、とりあえず今は我慢することにした。

「…その気になれば、人も殺せるかがみもち、ってね」

だから人じゃないじゃんかあんたらはという言葉を、妖夢は喉まで出掛かってなんとか飲み込んだ。

「(ということは、来年用の鏡餅の隠し場所がばれたのか、隠しなおさなきゃ…
  …って、紫様は何を取ろうとしたんだろう…食べ物?あの鏡餅かな?)」

「まあ、そんなことより妖夢、これ」

幽々子の取り出したのは、きれいにラッピングされた箱だった。

「え…こ、これは?」
「チョコレートよ。妖夢が外出している間に作ったのよ。食べてみて♪
 あ、ちなみに本命よ」

実は今日幽々子が妖夢にチョコレートを頼んだ主な理由は、妖夢に内緒でチョコレートを作るためだったのだ。

妖夢は、幽々子が自分に食べ物を贈ったということに対する驚きで
何が起きたのかを認識するのに時間がかかったが、やがて理解した。

 幽々子様が、私にチョコレートを贈ってくださった。それも、本命だって。

「は…はい!!」

妖夢はチョコを一口、かじった。

 甘い、甘いチョコの味。妖夢には初めてのチョコの味。
 だけど、その無節操なまでに甘いチョコの味は、愛情を示すのに最適であった。

「…美味しいです、幽々子様…」
「そう?よかった…
 あ、そうだ、妖夢、私にも頂戴?」
「え、あ、はい…」

妖夢は、手に持っていたチョコを差し出そうとした。

だが、触れたのは手ではなく唇、そして舌であった。

「んむ!?」

読んで字のごとくの、とても甘い甘い口づけ。

「…甘ぁい」
「…ゆ、ゆゆこさまぁ!?い、いったい何を…」
「あら?嫌だったかしら?」
「そんなことはないです!ただ、あの、紫様の見ている前でなんて…」
「だからこそよ。」

幽々子は妖夢を強く抱きしめた。

「…妖夢は私のものだって、きちんと紫に見せ付けておかないとね」
「ゆ、ゆゆこさまぁ…そんな、恥ずかしいですよぅ…」
「ふふ、妖夢ったら、可愛い」

幽々子は紫のほうへと向き直る。

「…とまあ紫、見ての通り、妖夢は私のものなんだからね」
「はいはいわかりましたもうしませーん(棒読み)
 …まあ、とりあえず私は霊夢でもつまみ食いしに行ってくるわ」
「いってらっしゃーい」

今紫がさりげなくとんでもないことをのたまった気がするのだが、生憎妖夢には突っ込むだけの精神の余裕はなかった。



「…ところで妖夢、頼んでおいたチョコは?」
「あ…」

幽々子からチョコを貰えた事、それとキスをしたことで、すっかり忘れてしまっていた。

「申し訳ございません、結局手に入れることはできませんでした…」

妖夢はふと、魔理沙の家に行ったときのことを思い出す。

「(…あ、そういえば…)」

リボンを取り出し、頭にくくりつけた。

「えーと…わ、私が…プレゼント…で…す…(語尾が小さくなってる」

「………」

幽々子は、しばらく沈黙していた。

「えと…やっぱり駄目ですよね…」

「……ようむぅっ!!!」

「ひゃっ!?
 あいたたた…ゆ、幽々子様!?やっぱり怒って…
 え!?違う!?えじゃあなんでそんな覆いかぶさって…
 きゃ、え、ちょっとどこ触って

(省略されました…続きを読むには「えーりん!えーりん!」と書き込んでください)
「あ…ありのまま、今、起こったことを話すぜ!
 『おれはバレンタインSSを書いてたと思ったら
  いつのまにかバレンタインから十日以上たっていた』
 な…何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をしていたのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…
 時間泥棒だとか時を操る程度の能力だとかそんなチャチなもんじゃあ、きっとねえ
 もっと恐ろしい俺の筆の遅さの片鱗を味わったぜ…」

そんなわけでようやく完成したバレンタインSSです。
美×咲やレティ×チルのあたりで詰まってしまい、遅くなってしまいました。
今回は自分の好きなカップリングで突っ走ってみました(主人公組以外)
…ってか最後のほう妖夢が覗き見するだけのSSになってますね。庭師は見た?
そんなことより、なぜうちの幻想郷は書くたびに設定がころころ変わるんでしょうか。
しかも、今回はまともなアリスを書こうと思っていたらやっぱり少し変なアリスだったし。
ちなみに、アリスの話だけまだ続きます。多分。書ければ書きます。
まあこんな趣味全開のSSですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
卯月由羽
http://park.geocities.jp/y0uy0u2003/
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コメント



0.1990簡易評価
2.90黄昏削除
えーりん!えーりん!ってね。
12.80名前が無い程度の能力削除
エロいよ!みんなエロいよ!

それはさておき、

えーりん!えーりん!
16.90名前が無い程度の能力削除
君は最高だっ!

えーりん!えーりん!
20.80名前が無い程度の能力削除
寒さに弱いレティ噴いたw
えーりん!えーりん!(これでサマソで撃墜される妖夢が読めるんですよね?)
21.90名前ガの兎削除
これは、これはっ!

えーりん!えーりん!
25.90削除
ええい、突っ込み所満載の春色幻想郷めっ!!

えーりん!えーりん!
26.70名前が無い程度の能力削除
えーりん!えーりん!

>五間釘
もはや釘じゃねぇよ、それは。
29.80名前が無い程度の能力削除
えーりん!えーりん!甘いよえーりん!
30.無評価名前が無い程度の能力削除
さぁ!みんなで一緒に
   _, ,_ ∩
  ( ゚∀゚)彡 えーりん!えーりん!
   ⊂彡
31.70名前が無い程度の能力削除
点数わすれましたorz
33.80名前が無い程度の能力削除
谷口噴いた
それはともかくえーりん!えーりん!
34.100猫の転がる頃に削除
WAWAWA忘れ物魔理沙噴いた。

えーりん!えーりん!マロいよえーりんっ!
37.90ライジングゲーム削除
随所にある東方サッカーネタが最高でした。まさか紅魔組でスカイラブ発動とは…やってくれるぜ!!

それはともかく、えーりん!えーりん!!
40.80真十郎削除
えーりん!えーりん!
東方は桃色に萌えている!

43.60名前が無い程度の能力削除
エロは地球はを救う!
えーりん!えーりん!
44.90名前が無い程度の能力削除
まともな話だったのレティチルだけじゃないか!!ww
よし、これは書き込まねばなるまい!!
えーりん!えーりん!
46.100削除
えーりん!えーりん!
ちょっと裏で続き書いてもらおうか!
48.90名前が無い程度の能力削除
内容笑える。

えーりん!えーりん!
49.80bobu削除
>その気になれば、人も殺せるかがみもち
ひよどり兄弟っすかw
50.90西行妖削除
イヤァァァァ!!
幽々子様がァァァァァァァァ!!

あとついでに
えーりん!えーりん!
52.90名前が無い程度の能力削除
幽々子のチョコに(禁則事項)が入っていると思ったんだが…

えーりん!えーりん!
64.90あおねこ削除
はい、みんなでいっせーのーで!!
えーりん!えーりん!
67.60名前が無い程度の能力削除
変態率たかー

えーりん!えーりん!
69.80名前が無い程度の能力削除
 何という変態だらけの幻想郷なんだ。
71.80非現実世界に棲む者削除
甘いのはよろしいことだが、ピーーーなことは控えようね。
それはともかくゆゆみょん最高!