―図書館
全てはパチュリーの何気ない一言から始まった。
図書館で司書として真面目に働く小悪魔をみて何となく思った事だった。
「貴女ってなんだか悪魔っぽくないわよね?」
その言葉に本を本棚に戻す作業をしていた小悪魔はピタっと動きを止めた。
パチュリーとしては本当に何となく思った事だった。
実際小悪魔は悪魔なのに悪魔らしくはない。
契約に縛られているとはいえ、彼女は愚痴も漏らさずに良く働き、礼儀正しく、笑顔を絶やさず
侵入者である魔理沙にさえ笑顔でお茶を出す事を忘れない程である。
文献などで見る悪魔から比べると天と地ほどの差がある。
そんな彼女を見て思った事を口にしただけだったのだが
しかし小悪魔は主のその言葉に激しく反論した。
「そんな事ありませんよ!確かにそんなに上等な悪魔じゃないですけど
私だって、立派な悪魔なんですからね!」
恐らく『悪魔っぽくない』とは、彼女なりに気にしている事なのだろう。
滅多に怒る事のない小悪魔は不機嫌そうだった。
普段はどんな事があっても怒る事なんて無いのに、こんな事で怒る小悪魔のその姿を見て
パチュリーは『ふむ、』と短く言葉を発した。
なんだか普段怒らない小悪魔のプリプリと怒る姿が可愛かったので少しからかって見たくなった。
「そうなの?じゃあ、貴女の悪魔らしい所が見てみたいわ」
そこでパチュリーは本から視線を外し、上目遣いに挑発的に言ってみた。
「いいですよ、それでは私の悪魔らしい所を見せて差し上げますからね、後悔してももう遅いですよ?
私が本気になれば、レミリアお嬢様だって悲鳴を上げて泣き叫ぶ程なんですからね!!」
そう言って小悪魔は持っていた本をその場に置くと図書館を後にした。
その姿を見て『やれやれ、単純だな』と思いながらパチュリーは本に視線を戻した。
とりあえず、彼女が一体何をするのかは今読んでいる本の内容の次くらいに興味があった。
――
一番最初に訪れたのはレミリアだった。
「ね、ねぇパチェ?」
彼女は何だかソワソワと落ち着きが無く、何か不安そうな感じだった。
「……どうしたのレミィ?」
「あのね、貴女の使い魔の小悪魔の事なんだけど……」
「小悪魔が、どうかしたの?」
どうやら小悪魔は上手い事やった様だ。
小悪魔が何をしたのかは解らない、しかしレミリアがこんなに不安そうにしている事なんて珍しい。
さて、一体どんな事をやったのだろう?
パチュリーは本を閉じて、レミリアの話を聞く体勢をとる。
「うん、さっきね小悪魔が突然私の後ろから大声で『わっ!!』ってやってきたのよあんまりも突然だったから
ビックリしてね、それで『どうかしたの?』って小悪魔に聞いたのよ、何かあったのかと思ってね?
そしたら、小悪魔がいきなり顔を真っ赤してどっかに走っていっちゃったのよ私何か悪い事したのかしら?
……って、パチェ聞いてるの?」
本を顔に押し付ける様にして震えるパチュリーにレミリアは声を投げかけるが
パチュリーはただ笑いを堪える事で精一杯だった。
驚かせようとして、結果ノーリアクションで返された彼女の姿を想像したら笑えた。
――
次に訪れたのは咲夜だった。
彼女はトレイにお茶とプリンを乗せて現れた。
どうやらお茶の時間になった様だ。
「パチュリー様お茶の時間ですわ」
「あら、今日は小悪魔じゃなくて咲夜なのね?」
いつも図書館にお茶を持ってくるのは小悪魔の仕事なのだが、その小悪魔が今はいないのだから
違う者がお茶を持ってくるのは当たり前だ。
それを理解したうえでパチュリーは咲夜に『今日は小悪魔じゃなにのね?』と言ったのだ。
何故なら咲夜もまたレミリア同様に困った様な顔をしていたからだ。
さて、今度は何をやらかしたのだろう?
お茶を運ぶだけならそこらのメイド妖精にでもやらせればいいのに、レミリアに付きっきりな彼女が
わざわざ図書館に来たのだ。
もしかしたら今度こそ悪魔らしい事をやったのかもしれない。
「はい、実は小悪魔の様子がおかしかったので……」
「おかしい、って何かあったの?」
パチュリーは本を閉じて、咲夜の話を聞く体勢をとる。
「はい、先程お茶の時間になったので給湯室にいったのですが、そこで小悪魔が何故か紅茶の茶葉を全て
乾燥ヒジキと入れ替えようとしていまして……、何故そんな事をしているのか解らなかったので『何をしてるの?』
と聞いたら『ひぃ!?すいませーん!!』と叫びながらどこかに走っていってしまったんです。
あまりにも突然の出来事で、つい時を止める事も忘れてそのまま彼女を見送ってしまったもので……
それで、急遽私が図書館の方にお茶をお運びしたのですが……、小悪魔は何をしたかったのでしょうか?」
「さぁ?新しい儀式でも思いついたんじゃない?」
「……はぁ、儀式ですか?」
咲夜は何ともいえない溜息をついた。
そんな咲夜を横目にパチュリーは紅茶の中身を確認する。
中身はいい香りのダージリンだった。
とりあえず、ヒジキではなかった。
――
三番目に訪れたのは美鈴だった。
珍しく彼女は半泣きでドタドタと走りながら図書館を訪れた。
「パチュリー様!聞いてください、こあちゃんが酷い事したんですよ!!」
「どうしたのよ?そんな大声じゃなくても聞こえるわよ」
パチュリーは美鈴が泣く姿を始めて見た。
過酷な仕事である門番を務める美鈴を泣かせるとは、今度こそ悪魔らしい事でもやったのだろうか?
さて、どんな事をしたのだろうか?
パチュリーは笑みを顔には出さない様に注意しながら美鈴に視線を向ける。
「こあちゃんが……」
美鈴はプルプル震えながら言葉を一度切った。
思い出してさらに怒りが募ったのか拳を握り締めていた。
その姿にパチュリーの好奇心はさらに高まる。
レミリアや咲夜にやった事は子供の悪戯程度のものだが、今回は凄い事をやったに違いない。
パチュリーは気持ち身を乗り出して美鈴の次の台詞を待った。
そして
「こあちゃんが私のオヤツのプリンを食べちゃったんです!!」
「は?」
美鈴のその言葉に思わず間抜けな声を出してしまった。
美鈴は今何と言った?
小悪魔が美鈴のプリンを食べた?
え?それだけ?
「何があったの?まさかプリンを食べられただけって事はないでしょ?」
美鈴が泣くほどなのだからソレだけだとは思えない。
パチュリーは本を閉じて、改めて美鈴の話を聞く体勢をとる。
「プリンを食べられただけって、私があのプリンをどれ程楽しみにしていたと思っているのですか?
今日のオヤツで出たプリン、アレを冷蔵庫で冷やしてお仕事が終ったら食べようって楽しみにしていたんですよ!
それなのに、こあちゃんったら、食べちゃったんです。しかも『ごめんなさーい!』って言いながら
どっかにいっちゃったし、楽しみにしてたのにー!!」
騒ぐ門番にやれやれと思う。
くだらねぇ……
人の物を勝手に食べてそれを(きっと)悪魔らしい好意だと思っている悪魔もプリンを食べられたくらいで
こんなに怒っているこの門番も両方とも随分子供っぽいと思いながら
「あー、もう!図書館では静かにしなさい、ほら私のプリン挙げるから」
「え?いいんですか?あ、しかも私のプリンよりも高級そうだ」
ヤッターと声を上げる美鈴
普段門番をしている時はスキの無い張り詰めた空気を漂わせているのに
一歩門を離れるとこんなになるギャップがすごい。
「これは、こあちゃんに感謝しなくちゃいけませんね」
「いいから、早く門に戻りなさい咲夜にまた怒られるわよ?」
ニコニコと笑う門番、もうすでに小悪魔の事を許した様だ。
その様子を見て単純だなと思いながらパチュリーは本に視線を戻した。
美鈴に小悪魔が何をしたのか、期待した自分が馬鹿らしく思えてしょうがなかった。
――
最後に図書館を訪れたのはフランだった。
彼女は封筒を持参してきた。
「ねぇパチュリー、コレ小悪魔が貴女にだって」
フランは手に持っていた封筒をパチュリーに渡した。
「あら妹様、小悪魔が貴女にコレを渡したの?」
「うん、パチュリーに渡してほしいって言ってたよ」
どうやら、小悪魔もフランには流石に何もしなかった様だ。
まぁ手を出した所でレミリア、咲夜、美鈴にした事とあまり変わらないだろう。
どれもこれも子供の悪戯と同等であった。
まぁ、所詮小悪魔だししょうがない。
向き不向きがあるのだ、結局彼女は『悪魔らしくない』と言う事だろう。
「ねぇ、パチュリーソレ何読んでたの?」
「ああ、ミステリー小説よ、事件のトリックとか、犯人は誰だろうとか
色々考えさせられて面白いのよ?」
「ふーん?」
フランの疑問に答えながら渡された封筒を開けて、パチュリーは封筒の中身を確認する。
そして
「小悪魔ーーー!!」
突然大声で叫びどこかに飛んでいった。
――
今まで聞いた事のないパチュリーの叫び声に驚いたフランは見た。
封筒の中身を、白い紙に書かれていた、たった一言の文字を
『犯人はヤス』
オチは定番ネタでしたが、非常に楽しく読めました
お前なんか人間じゃねえ!
全部油断させるための布石かwww
それだけはやってはいけない事だぞ、とけーねが言ってた
…しかしあのゲームって、幻想入りすると書物になるんだ…すげぇ!
さすが小悪魔、最後の最後に恐ろしい……まさに悪魔の所業を成し遂げおったわ。
楽しみにしているプリンを食べられたら泣くなぁ。
定番と言えば定番なネタとオチではあるが、
オチに思わず吹いてしまったので100点を進呈。
パッチェさん、
お悔やみ申し上げますw
よし、
俺もプリン食って寝ようかな、
アレェ?プリンネェヨ?
まるでジョーク集の様に理路整然とした流れの中で行われた小悪魔の可愛い悪戯に微笑ましさを感じました。
そして最後に行われた、余りにも惨い所業……いや、悪魔を敵に回すとどうなるか、改めて思い知らされた気がします。
キャラの特徴が出ていて、とても良いと思います。
いゃ~。小悪魔
やらしい子ですね~。
なんともこぁは恐ろしい子ですねw