Coolier - 新生・東方創想話

掌の幸せ

2009/12/25 23:21:16
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ある日、博麗の巫女は、風呂掃除をしながらふとこんなことを思いました。
― 一人暮らしってことは、毎日一番風呂入り放題ってことよね? ―
一番風呂。声に出すと何と魅力的な響きだろう。他のところみたいに何人かで住んでたら、中々味わえないものだし。
その日、霊夢は少しだけ優越感を持ってお風呂に入りました。

ある日、山の風祝は、幻想郷を飛び回りながらふとこんなことを思いました。
― もう私、多分外の世界に戻ることはないよね……でも、『故郷を捨てた女』って何だか格好良くない!? ―
うん。やっぱり格好良いわよね。何だか演歌っぽい気もするけれど。
風祝は、自らのポジティブレベルを一つ上げました。

ある日、山の神様二人は、風祝の入浴を覗きながら、こんなことを話し合いました。
― 「早苗もすっかり成長したわね……。出るとこ出てるし」「ああ、昔はあんなにぺったんこだったのにね」 ―
「見て!腰なんかもあんなにくびれて」
「うわ、本当!」
二人とも優しい顔をしていましたが、成長を慈しむ親というよりは、どこぞのエロ親父でした。

ある日、氷精はふとこんなことを思いました。
― あたいったら最強ね! ―

チルノは、特にいつもと変わりありませんでした。

ある日、人里を散歩していた萃香と勇儀は、こんな声を聞きました。
― 毎日酒飲んで、遊んで暮らせたら楽しいだろうなあ ―
おうおう、やってみなやってみな!本当にそれは楽しいぞ!
二人は顔を見合わせると、にいっと笑いあいました。

ある日、八雲紫の式の式は、炬燵で丸くなりながら、こんなことを思いました。
― 冬は寒くて嫌だけど、炬燵でぬくぬく過ごせるのは良いなあ ―
夏に『くーらー』の前で涼んでるのも、たまらないんだけどね。
橙は、それぞれの季節にそれぞれの良さがあることを知りました。

年の瀬のある日、仕事一筋の閻魔は、勤務中にこんな声を聞きました。
― 外の世界じゃ『フキョウ』とやらで、仕事したくても出来ないやつが山ほどいるんだとさ ―
「こんな年末まで仕事が詰まってるのも嫌だろうけどよ、働けないってのも、それはそれで辛いよなあ」
映姫はその言葉を聞いて、その人達の分まで仕事に努めようと思いました。

ある日、図書館の司書はふとこんなことを思いました。
― 普段は特別気にしないけど、パチュリー様って、もう結構な長寿だよね? ―
「私たちよりはるかに短い時間しか生きてないくせに」
「お嬢様たちは、もう長寿すぎて当たるものがないんです」
紅魔館では、パチュリーの百寿のパーティーが催されました。

ある日、従者が用事で出かけてしまったため、一人でお昼を作った亡霊嬢は思いました。
― 普通に食べられるものが黙ってても出てくるって、何て素晴らしいの ―
「うわーん!妖夢早く帰ってきてー!」
幽々子様はとびきり味の分かる方でしたが、それと料理の腕前は決して比例しませんでした。

ある日、誰も来ない自宅にて、人形遣いは思いました。
― 一人でこうやって静かに過ごすのも良いけど、やっぱりちょっと寂しいわね…… ―
「よう!今日も来てやったぜ!」
「はいはい。別に頼んでもないけど、ありがとね」
いつものようにやってきた普通の魔法使いを見て『やっぱり一人の方がいいかも』なんて思いつつ、アリスは苦笑しました。

ある日、何をしても死なない少女は、ふとこんなことを思いました。
― 死なないってのも、悪いことばかりじゃないかもね。おかげで、こうやってこいつに出会えたわけだし ―
「おーい、妹紅。そろそろ行くぞ」
「あ、待ってよ、慧音!」
遠ざかる彼女の姿を決して見失うまいとして、妹紅は慧音の背中を追いかけました。

ある日、不意に気が向いて、数ヶ月ぶりに運動をした永遠亭の姫様は思いました。
― 動いた後のご飯って、こんな美味しかったっけ!? ―
やっぱり空腹は最高のスパイス。運動した後のご飯は格別です。
輝夜は6杯おかわりして、お腹を壊しました。

12月24日、誰も通らない橋を見て、橋姫は思いました。
― クリスマスだからって、皆浮かれて地上で遊んでるのね。妬ましい…… ―
「おーい、パルスィ!私たちも遊びに行こうよ!」
「しょうがないわね!付き合ってあげるわ!」
ヤマメやキスメに誘われたパルスィは、満面の笑顔でそう言いました。



ある日、幻想郷のこんな様子を見守っていた大妖怪は思いました。
― 大きな幸せなんてそうそうあるものじゃないけど、小さな幸せは、案外身の回りに落ちているものなのよね ―
本当に小さな、それはもう掌ほどの大きさしかないような幸せ。
だけど、その掌の幸せが、皆を笑顔にしているのも事実です。

大きな幸せは、たしかに誰だって欲しいものです。
でも、小さな幸せをどうやって見つけて、守っていくのか。本当はそちらの方が大事なんだろうなと、彼女は感じました。

「紫様、どうかなさったんですか?」
そのとき、居間でスキマを見続けている紫を見て、藍が話しかけてきました。
紫は、いつものように胡散臭い笑みを浮かべながら答えます。
「別に~?ただ、私も掌の幸せを大事にしなきゃなー、なんて思って」
「はあ……」
彼女の言葉に、藍は分かったような分からないような顔をします。
そんな彼女の様子を見て、紫は言いました。
「貴女も身の回りの幸せを大事にしなきゃダメよ?」
「どういうことですか?」
「例えばだけど、橙がグレたら貴女はどうするつもり?」
紫がそう言うと、藍はいつになくあたふたとした様子を見せます。
「ちぇ、橙に限ってそんなことあるわけないじゃないですか!変なことを言わないでください!」
そんな、珍しく慌てる式を見て、紫は意地の悪い笑みを浮かべました。
「あら、そんなの分からないわよ。毎日ちゃんと構ってあげてる?きつく叱りすぎたりしてない?きちんと褒めることも大切よ?」
「う、うぐ……」
反論も出来ずに俯く藍を見て、紫はさも愉快そうに笑いました。
「ふふ、冗談よ。私も橙がグレるなんて思ってないわ」
「きつい冗談はやめてくださいよ……」
紫がそう言うと、藍は主と対照的に、ゲッソリとした表情を浮かべました。

「だけど、そうねえ……私も、ちゃんと構ってあげなきゃ、嫌われちゃうかしら?」
「……博麗の巫女のことですか?」
紫の言葉に、藍が答えます。すると、紫はこくんと一つ頷きました。
「あんなに面白い子はそうそういないもの。嫌われたりなんかしたら損だわ」
「はあ。そうですか」
「ええ。本当、あの子といると楽しくて……うん。今からちょっと行ってこようかしら」
「今からですか?」
その言葉を聞いて、藍はちょっと驚きます。だって、既に夜はかなり更けているのですから。
「まあ、大丈夫でしょ。折角だし、晩酌のお付き合いでもしてくるわ」
そう言うと、紫はスキマから姿を消しました。今頃は、もう霊夢の元にいることでしょう。
藍の予想通り鬱陶しがられているか、それとも案外歓迎されているのか、それは彼女には分かりません。

「こんな時間に行って、却って嫌われなきゃいいんだけどな」
そう独り言を呟いて、藍は苦笑を浮かべました。
そして、紫の言葉の意味を考えます。
(掌の幸せか……私にとって、それはどんなものだ?)

藍がそうやってうんうんと考えていると、不意に、その背中に飛び掛かるものがありました。
「藍しゃま!」
「うわあ!」
驚いた藍が後ろを見ると、そこには自らの式の姿がありました。
「橙!どうしたんだ、こんなところで」
そう声をかけると、橙はにっこりと笑って言いました。
「えへへ、藍しゃまに会いたくなって、来ちゃいました」
その言葉を聞いて、藍は驚きました。
普段、橙は紫たちと違うところに暮らしています。
そんな彼女が、わざわざ自分に会うためだけにこんなところまで来たと言うのです。
藍は、その言葉に感動を覚えました。
(ああ、そうか……そういうことなんだ)
藍はどうやら、紫の言葉の意味を理解したようです。そして、笑顔で式に言いました。
「くう、私は嬉しいぞ!橙!」
「そうですか?私も、藍しゃまが喜んでくれると嬉しいです!」
「よし、今夜は紫様もいないことだし、二人でゆっくり過ごそう!」
「わーい!」
二人は共に、嬉しそうな表情を浮かべながら寝室へと向かっていきました。

―――――――――――――

「もう、いきなり来ないでっていつも言ってるのに」
「ふふ、それでもきちんと私の分のお酒を出してくれる霊夢が好きよ♪」
「べ、別に、本当は一人で飲むの寂しかったとかそんなんじゃ……」

「今度覗いたらおゆはん抜きですからね!」
「うう、許しておくれよう、さなえぇ」
「あーうー、ごめんよう。魔が差しただけなんだよぅ」

「あたいったら最強ね!」

「やっぱり酒はいいねえ」
「それと、自由ね。はあ、本当こんな楽しい暮らしもないね」

「四季様!もう今年も終わりですよ!こんなときまで働くことないじゃないですか!」
「何を言うんですか小町!仕事があるだけありがたいとは思わないのですか!」
「いくらなんでもやりすぎですって!」

「パチュリー様、パーティーどうでした?」
「……楽しかった。次のお祝いはいつかしら?」
「えーと、108歳の茶寿ですね」
「うー!パチェばっかりずるいわよ!」

「幽々子様。ただいま戻りました」
「ああ妖夢!おかえりなさい!ごはん!」
「……その前に、台所の惨状について伺ってもよろしいですか?」

「アリスもたまには外に出たほうがいいんじゃないか?」
「いいのよ。たまに貴女みたいな変わり者が来てくれれば、それで十分」
「……変わり者は余計だぜ」

(私も大概現金だな。たった一つの出会いで、死なないのもいいかもなんて思えるなんて)
「どうした妹紅、にやにやして」
「いや、慧音といると楽しいなって。それより、今日はどこ行く?」

「うー、苦しい……」
「まったく、調子に乗って食べ過ぎるからですよ」
「そんなこと言ったって、美味しかったんだからしょうがないじゃない……」

「地上の人間共は本当楽しそうね!妬ましい!」
「そういうパルスィが一番楽しそうだよ~」
「う、うっさい!」

―――――――――――――

気が付けば、幻想郷にも、新しい年が迫りつつあります。
変わるものも、変わらないものも、色々とあります。それは当たり前のことですが。
しかし、彼女達が身の回りにある『掌の幸せ』を守り続ける限り、このまま愉快で暢気な生活はずっと続いていくのでしょう。

それこそ、私たちにとっての『幻想』のような生活が。
クリスマスは何もありませんでしたが特に気にしません。ワレモノ中尉です。
前回コメント下さった方、ありがとうございました。そして妖夢には、前回に引き続き悪いことした。マジごめん。

今回は「でっかい幸せが1つあるより、ちっちゃい幸せが10ある方が結果的には良いんじゃないの?」みたいなテーマです。
ちゃんと働けるとか、ご飯が美味しいとかって、当たり前に感じてしまうかもしれないけど、本当はとても幸せなことですよね。
自分も、そういうことを大事にしたいものです。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。それでは。

※12月27日 追記
26さんの意見をタグに反映させて頂きました。ありがとうございます。
ワレモノ中尉
http://yonnkoma.blog50.fc2.com/
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コメント



0.2120点簡易評価
3.100点名前が無い程度の能力 削除
>今度覗いたらおゆはん抜きですからね!
で萌え死んだ
5.90点名前が無い程度の能力 削除
ええ、分かりますとも、分かりますとも。
大きな幸せは、日々の小さな幸せの上にあるように思えてなりません。
9.100点奇声を発する程度の能力 削除
このお話を読めたことが幸せです!!!あと、読んでる途中で涙が出そうになりました。

小さな幸せ探し…今からでも遅くないよね?
14.100点名前が無い程度の能力 削除
今こうやってこのお話を読めてる自分も幸せなんだなと痛感。
25.100点名前が無い程度の能力 削除
ジャストミーッウ!!
26.100点名前が無い程度の能力 削除
タグに「小さな変化、小さな幸せ」を推奨
29.100点橙華(仮) 削除
身近な幸せは中々気付けない。でもふとしたきっかけで、それに気付けたのなら。
それもまた一つの幸せ。
自分もそんな幸せを大切にしていきたいと思いました。
32.100点名前が無い程度の能力 削除
ああ、いいわ。
やべ、これまじでいい
33.90点ずわいがに 削除
幸せボックスだな
35.80点名前が無い程度の能力 削除
輝夜がお腹壊してる……ww
38.100点名前が無い程度の能力 削除
不思議だ、暖房がいらないほど体が内側から温かく……
42.90点名前が無い程度の能力 削除
皆、日常の一コマを抜き出しただけなのにキャラが立ってるのは、やっぱり幸せな一瞬の魅力でしょうか。

ただ、藍と橙が消えていった寝室で何が起きたのかがとても気になる不思議っ。