Coolier - 新生・東方創想話

火焔猫燐の事件簿 前編

2010/08/23 06:47:33
最終更新
サイズ
8.6KB
ページ数
1
閲覧数
805
評価数
0/9
POINT
410
Rate
8.70

分類タグ

あたいは地霊殿の中でも涼しい場所で昼寝を楽しんでいた。
この暑い中、他の奴らにはちょいと味わえない涼しさを誰にも教える事なくのんびり。
と思ってたら、他の火焔猫が次から次へとやって来る。
ああ、猫ってのはどうしてこう涼しいところとか暖かいところとかに敏感なのかね、あたいだけのパラダイスが。

そんな事を考えていると、どこかからこいし様の声が響いた。
「お姉ちゃんの、馬鹿ぁ!!」

ああ、またか。
他の奴らはいつもの事だから放っとけと言わんばかりに気にせずごろごろしてる。
あたいはと言えば、お節介焼きな性分が出たのだろう、昼寝を打ち切ってさとり様を探す事にした。



声のした方へ行く途中で、こいし様が涙目になって不機嫌そうにドスドスと横をすれ違って行った。
多分あっちから来たって事は、さとり様の部屋から出て来たんだろう。
さとり様の部屋にノックして入ると、さとり様は居た。

「さとり様」
呼んでも気付く気配が無い。
近づいてみると下を向いて何かぶつぶつ言ってる。
「・・・ですよ、こいし。私はあなたの役に・・・」
やっぱりさとり様がこいし様の機嫌を損ねるような事をしたのか。



さとり様はこいし様を気に掛けて大切に思ってるし、こいし様だってさとり様を慕っている。
いるんだけど、いつもさとり様がこいし様の機嫌を悪くしてしまっている。無意識に。
本当はさとり様は無意識も操れるんじゃないだろうかってくらいに何度も。
無意識じゃないのなら、わざとやってるんじゃないかってくらいに何度も。



「さーとーりーさま!」
「ひゃぁ!び、びっくりさせないで下さい、お燐」
耳元で呼んで、ようやくこっちに気が付いた。
「さっき呼んだのに気付かなかったじゃないですか」
「ああ、すみません、少し考え事をしていたものですから」

「またこいし様を怒らせたんですね」
「う、またとは何ですか、またとは」
「だって、つい一ヶ月前もこいし様を怒らせて、こうやって落ち込んでたじゃないですか」
「あ、あれはこいしが悪いんです!」

一ヶ月前、こいし様が取っておいたお菓子をさとり様が食べてしまった。
さとり様は後で返すつもりだったと謝って、ちゃんと買って来て返した。
けど、こいし様にとっては食べたい時に無かった事が気に入らないと、その事を言っていたら今度はさとり様の方が切れて大喧嘩。
つい数日前にようやく仲直りしたと思ったら。



「で、今度は何が原因なんですか」
「こいしが読んでいたこの本なのですが」
さとり様は一冊の本を取り出してあたいに見せた。

「あ、これ最近流行ってる推理小説じゃないですか」
最近地上との交流が出て来た事で、地上のものが色々と入って来てる。
その中でも地底でも流行を呼んでいるのが、この『博麗霊夢の事件簿』シリーズで、巫女さんがあらゆる事件を解決するお話だ。

誰彼構わず妖怪を殴ってって、殴る妖怪が居なくなる頃にはそりゃ解決するだろう。

「ええ、私は以前読んでいたので、こいしに犯人を」
「教えたんですか」
「はい」
「何でまた」
「良いですか、情報と言うものは多いほど良いのです。無論、多過ぎては無駄な情報を削る事が出来ずに逆に良くない。だから」
「最も重要な情報である犯人をこいし様に教えた、と」
「その通りです」
さとり様は得意げに解説した。

「さとり様、そんな事されて喜ぶのはさとり様くらいです、殆どの奴は逆に怒ります」
「え?」
「大体ですね、推理小説ってものは犯人を推理するのが面白いんですよ」
「犯人を知っていればもっと楽しめるではないですか、私だけが知っている情報があるから、にやりと出来ますよ」
「いや、だからですね、そんな楽しみ方をするのはさとり様くらいなもので」

駄目だ、首を傾げて何で?って顔をしてる。
正攻法じゃ、きっと何言っても暖簾に腕押しだ。

「えーとですね、例えば子供が何か自分たちのルールで遊んでいるとするじゃないですか」
「はい」
「そこに誰か大人が来て、もっと良いルールが有るって無理矢理ルールを自分の都合の良いように変えてしまったらどう思いますか」
「多少の親切心はあるにしても、大人げ無いですね」
「その大人げ無い事をこいし様にしたんですってば」
「え、あ」

ようやく気付いた。
例えそれが正しいとしても、自分達のルールでやってる趣味の部分まで変えられたらたまったもんじゃない。



さとり様は頭を抱えて悶えている。
正しいと思ってやった事が、とんでもなく場違いだった事が分かって恥ずかしくて堪らない瞬間って感じなんだろう。

「じゃあ、分かって貰えたところで早くこいし様に謝って来て下さい」
「駄目、恥ずかしくて顔を合わせられない」

いつの間にか近くにあった枕を抱きかかえて顔を押し付けていた。
少しだけ見える顔は真っ赤。今相当恥ずかしいんだろうなぁ。

「でも、そうするとこいし様は暫く怒りっぱなしですよ」
「それも有るから困るんですよね」
あーもう、と枕に顔を付けたまま左右に首を振っている。

「うーん、それじゃこう言うのはどうですか?」
「あら、ふむ、なるほど、そうですね、それで行きましょうか」



・・・



あたいはこいし様の部屋に行って声を掛ける。
「こいし様」
「あの馬鹿お姉ちゃんの事なら聞かないわよ、今度こそもう、一生口を聞いてあげないんだから」

そっぽを向いたまま、こいし様はいつもの口癖で一生口を聞かないと言っていた。
毎回よく飽きないなぁ。このパターン。

「いえ、さとり様の事じゃないんですけどね、最近暑いじゃないですか」
「そうね、私の心もヒートアップしてるわ」
「まぁまぁ、さとり様の話はまた今度という事で。それで、地霊殿の中にあたいたちの涼んでる場所があるんで、一緒にどうかなと思って」
「涼しい場所?」
「ええ、ついでに水浴びでも、と」
手を広げて水を飛ばす仕草をして見せる。

「んー、良いわね。この暑さだし、濡れても良い格好なら尚更涼しそうだし」
「はい、それじゃ30分後にまたここに来ますから、準備だけ済ませといて下さい」
「分かったわ」

こいし様の部屋を一旦出て、あたいはまたさとり様の部屋へ向かった。



・・・



「うーん涼しいわ。さすが猫ね、地霊殿の中にこんなところがあるなんて」
こいし様はラフな格好で水浴びを楽しんでいる。
「何でも、この暑さは旧灼熱地獄の熱せられた空気の対流に頼ってる部分が大きいんで、触れてない場所や対流より下にある場所ってのはあんまり暖かくならないらしいんですよ」
「へー、じゃあまだこう言う涼しいところが一杯あるのね」
「はい、でもここはあたいたちの見つけた中では一番涼しいですね」

あたいもいつも着てる服は脱いで水に濡れても良いような格好になっていた。
元々ここで涼んでた猫は、水が嫌いな奴は遠くに離れて、そうでも無い奴は水に濡れて遊んでいる。
水の中で火を出して遊んでる奴もいる。火焔猫の火は陰の気だから、水に濡れても消えない。

「うわあ、綺麗」
「怨霊みたいに熱くもならないんで触っても大丈夫ですよ」
「へー、どれどれ。本当だ」
こいし様は濡れ火焔猫の火に触ってみて熱くない事に感心していた。



よし、こいし様もだいぶ落ち着いて来たしそろそろ良いかな。
「そう言えばさとり様と喧嘩してたみたいですけど、どうしたんですか」
知らない振りをして聞いてみる。

「そう、聞いてよ!お姉ちゃんてばひどいの。地上の本で推理小説ってあるじゃない、推理小説。あれに私はまって、最近は夜寝る前には必ず読むようにしてるの。もう読み終わったのは20冊は越えたんじゃないかしら。
最近読んだ中じゃ『名探偵モーミジ』なんて狼なのに犬呼ばわりされる探偵天狗のお話が一押しかしらね。で、そのモーミジって探偵がかっこいいの。他の天狗が誰一人犯人に気付かない中で、的確に犯人を言い当てて。ああ、モーミジの話は良いのよ別に。
そうじゃなくて、最近はお姉ちゃんも凝りだしたみたいで色々とお互いに読んでない本を交換して読んだりしてたのよ。でもお姉ちゃんの本って推理小説なのに赤字で線引いたり勝手に注釈入れてたりするから結局自分で買いに行っちゃうのよね。
そんな中でお姉ちゃんと私両方で買った本があったのよ、それが『博麗霊夢の事件簿』って言うんだけどお姉ちゃんてばさっさと読み終わってて、私がまだ読んでないよって言ったら犯人をばらすのよ。しかもいかにも自分は親切でやりましたみたいな顔で。
ちょっと待ってよ、お姉ちゃんは何で推理小説の犯人を得意そうにばらすの?それってクイズ番組で問題出す司会者が答えも一緒に出してるようなもんじゃない。あーもう今思い出しても頭に来るわ、あんまり頭に来たからその本お姉ちゃんの顔面にぶつけてからスリッパも一緒に顔に蹴り飛ばしてやったわ。そしたらふご、ですってふご。良い気味よ全く。
お姉ちゃんてば何でも私の真似するくせに全然分かってないんだから。大体この間だってね」

「す、ストップですこいし様、そんなに一気に言われても何が何だか分かりませんよ」
無意識のなせる業だろうか、これだけ長いセリフを一気にまくし立てても全く噛んでいない。

「え、ああ、ごめんごめん。お姉ちゃんがあんまりにも分からず屋でどうしようも無かったからついね」
「えーと、大体まとめるとさとり様が推理小説の犯人を言ってしまったと言う事ですか」
「そう、あんまりじゃない?」
「確かにひどいですけど、さとり様ならやりそうですよね」

「ね、お姉ちゃんって相手の考えてる事先に言っちゃうでしょ。相手に合わせて待つって事考えられないのかしら、何でも自分基準で考えちゃって。大体お姉ちゃんってば推理小説の読み方がおかしいの、最初に犯人が誰か調べてから読むって言うのよ。もうそれ聞いただけで」

「あの、こいし様、また長くなりそうですから」
「ああ、ごめんね」
「大体の事は分かりました。あたいからもさとり様にはきつく言っときますよ」
「本当?」
「ええ。他人の領域を土足で踏み荒らして行くような事は絶対に許せませんから」
「お願いね、私今お姉ちゃんの顔も見たくないの」

水浴びを終えてからこいし様が自室に戻ったのを確認して、あたいはまたさとり様の部屋に向かった。



・・・



翌日、あたいが朝食を取っていると、地霊殿の中から悲鳴が聞こえて来た。
食べるのを止めて急いで声のした方へ駆けつけると、地霊殿に来ていた水橋パルスィが廊下で腰を抜かしている。
目の前にある部屋の中を指差しているので、中を見ると血まみれで倒れているさとり様が居た。



-続く-
こいしの長文は飛ばしても構いません。
犯人誰なんですかね。
猫額
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.410簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
後編にも期待。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
続編待ち。点は後編で
9.無評価名前が無い程度の能力削除
はぐれ刑事の誠さん的なキャラのお燐を期待してマッテマース
10.無評価猫額削除
書き上げた中編が納得の行くものでは無かったんで、結末から練り直してマス。
他人のものを読むって面白くもあり怖くもあり、落ち込んだり感心させられたり。
そんなわけで、すみませんが次回まで時間が掛かりそうだったので先にこちらで返信を。

4. >首を長くして待っていて頂けると有り難いです。

8. >ははは、怖いなぁと思いつつも書き上げたい気持ちはあるんで、評価を受けられる程度にはまとめたいです。

9. >多分、残念ながらそっちの方向には行けそうに有りませんが、お燐の活躍をご期待下さい。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
後編楽しみにしてます。