Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷にカカオがあったなら

2011/02/14 20:16:13
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前書き
「ヴァレンタイン」というこ洒落た書き方より「バレンタイン」が好きな諸兄、パンより米が好きな諸兄に捧ぐ。





――幻想郷にカカオがあったなら






 東風谷早苗は、困っていた。
「さなえーっ! これはないんじゃないのーっ!?」
「……………」
 日頃は頼もしい守矢神社の二柱――守矢諏訪子は畳の上でジタバタと暴れ、もう一柱の八坂神奈子は、珍しく正座したかと思ったら、下を向いて畳に「の」の字を書いているのだ。これで困らない人がいたら、喜んで風祝の仕事を引き継ぐところだ。熨斗紙つけて譲渡しよう。なんなら、元凶もリボンを巻いてお譲りしよう。お値段据え置き、送料無料で。
 騒ぎの原因は、わかりきっている。諏訪子がジタバタ振り回す手に握って畳に突き刺しているもの、神奈子が畳に「の」の字を書く筆代わりにしているものだ。さんざ痛めつけられた畳は、博麗神社の畳より酷い有様となっている。
「あの、お二人とも……その畳は秋に代えたばかりなんですから」
「なにさ、私たちより畳の方が心配なわけ!?」
「いえ、そんなわけは――」
「あーあー、そうだよねー。でなきゃ、こんなもの渡さないよねー。だよねだよねー!」
「諏訪子さま、話を聞い――」
「うるさいうるさいうるさーい! 早苗がこんな子に育っちゃったのも、全部神奈子の躾が悪かったからだーっ!」
「なにっ!? 今なんと言ったっ」
諏訪子の言葉に、畳の目を無残に切り刻んでいた神奈子は顔を上げ、キッとにらみ付けた。
「だってそうじゃない。『お二人にプレゼントですよー』って渡されたのがこれなんだよ!? ニコニコ笑顔でこんなの差し出すなんざぁ、神奈子、あんたの躾の賜じゃないの?」
「なっ……! 冗談じゃないよっ。早苗がこんな陰湿な事を笑顔でするのは、あんたの血筋の証なんじゃあないかね」
「なにをーっ!?」
「やるかーっ!!」
 二人の神様は、痛めつける相手を畳から互いへと切り替え、手に持ったもので攻撃を始めた。
神奈子は、身長差とニュートンを味方に付けた、上からの打撃を。諏訪子は、持って生まれた驚異的なジャンプ力を活かし、 H-Ⅱロケットのロケット噴射顔負けの、下からの打撃を。どうでもいいが、文字通り「人間離れ」した膂力でもって扱われているというのに、その凶器も丈夫なものである。
「お二人とも、やめて下さい!」
 我が身の危険を顧みず、早苗は今まさに互いを仕留め合わんとする二柱の間に割って入ろうとした。しかし、人間の動作なぞ、神が渾身の力でふるう腕や足の速さに敵うわけがない。早苗の伸ばした手が二柱の肩に触れるよりも先に、両者の手に持ったものはぶつかり合った。
これが少しでも衝突面がずれていれば、どちらかの手にある方が負けて粉砕され、腕も切断されていただろう。しかし、見事にそれは攻撃を受け止め、己が身に走る衝撃を神々の腕へ逃した。

「ぐえっ!?」
「ふぐぅっ!」

 どちらの口から漏れたうめきだったのか――そんな事は分からない。エネルギーの反発をもろに受けた二柱は、目が追いつけないほどの速さで跳ね飛ばされた。そして、激突で生じた衝撃波は、早苗を室内から庭へと吹き飛ばした。
それは、早苗ならではの奇跡だったのかもしれない。

爆音。

 畳も床板も衝撃を受け止めきれず、諏訪子は地面へと叩きつけられ、深い穴を掘った。運悪く、大黒柱の根本を粉砕しながら。
神奈子も、幸運とは言えなかった。天井へと噴き飛ばされた際に、大黒柱と組まれた梁を背中でへし折ったのだ。

轟音。

 庭の玉砂利へと跳ね飛ばされた早苗は、起き上がろうとしたものの、不規則に揺れ動く地面に転んでしまった。
ようやく顔を上げてみると――朝な夕なに見慣れた神社は、縦横の支えを粉砕され、粉々に瓦解している最中だった。



「………あぁっ、神社が……」
 早苗は、崩壊を続ける神社を見つめて微動だにしない。そんな風祝を心配する二柱も、今は姿が見えない。今頃は地中深くにある第三帝国の残党が作ったという地下施設を粉砕していたり、やっと自己復元を始めたオゾン層に大穴を開けている頃だろう。
「あやややや、こりゃまた派手にやらかしましたねー」
 異変に気づき、山からやって来た烏天狗が、早苗の脇に降り立った。遅れて到着した白狼天狗は、言葉もない。
「あのー、早苗さん? ご無事ですか」
「……えぇ、なんとか」
存分に感嘆した文が、早苗を助け起こす。よろめきつつ立ち上がったものの、鳥居が本殿と住まいの崩壊に揺さぶられ、スリーテンポ遅れて倒れたのを目の当たりにしてしまい、再びへたりこんでしまった。
「早苗さん、大丈夫ですか。どうしたというのですか?」
流石に不安になったのか、文が早苗の顔を覗き込む。反応がないので、目の前で手を振っている。
「……神社が……」
「お気の毒ですが、神社は完全に倒壊しちゃいましたね。これは、この前にあった博麗神社の倒壊級の異変ですよ」

 異変――その言葉に誘われたわけではないだろうが、紅白と白黒の飛行物体も倒壊した神社へとやってきた。
「なによ、陽が暮れたってのに騒がしいわね」
「おー、こりゃ見事にぺしゃんこだな。私の家まで、揺れが伝わってきたぜ」
そう言う魔理沙のトレードマークたる帽子は、先っちょがくすぶっている。
「魔理沙さん、その帽子、燃えていませんか?」
「お? 薬品火災だから、なかなか消えないな」
文の指摘に、魔理沙が帽子を取って確認すると、帽子の先から煙が立ち昇っていた。
「実験の失敗ですか」
「いや、守矢神社が潰れた振動でな、我が家の中も大雪崩が起きてな」
帽子を撮影しようとする文を、その帽子でもって追い払いながら魔理沙は言った。そういえば、体のあちこちに擦り傷をこさえている。
「おい早苗、神奈子と諏訪子は?」
「――あ、そういえばお二人は!?」
魔理沙の問いで、やっと早苗が我に返った。しかし、互いにありったけの神威をぶつけ合い、大事な風祝を吹き飛ばし、神社を倒壊させた主犯達の姿は見えない。
「諏訪子さま、神奈子さまあっ!? 皆さん、手伝って下さい! お二人はたぶん、あの下敷きに!」
転びそうになりつつ、早苗は倒壊した神社へと駆け寄り、素手で瓦礫をのけようとはじめた。それを、文と魔理沙が慌てて止める。
「おい、待てって。落ち着けよ」
「早苗さん、落ち着いて下さい。今、山から援軍を呼んできますから――」
 二人が止めようとしても、取り乱した早苗は、瓦礫に挑みかかるのをやめようとしない。そんな松の廊下のような風景を横目に眺めつつ、霊夢は椛の肩を叩いた。
「ちょっと。ずーっと惚けたように空を見上げてるけど、なんかあったの?」
開いた口が塞がらないといった様子で空を見上げていた椛が、目線を動かすことなく、のろのろと空の一点を指さした。
「あの空の光っているのが見えるでしょう?」
「……ええ、何か光っているわね。星の爆発かしら」
「空に浮かぶ、何か銀色に光る筒や柱の塊に、八坂様が衝突したんですよ」
建設が終わる前に耐用年数を迎えつつあった宇宙ステーションのどてっ腹に、神奈子が衝突した瞬間だった。

「ふーん。ねえ早苗、何があったの?」
 知識がないために、空でどんな大惨事が起きたか理解していない霊夢が、ようやっと落ち着きを取り戻した早苗に訊いた。
「はい。諏訪子さまと神奈子さまに、ヴァレンタインの贈り物を差し上げたんですよ」
「あー、『ばれんたいん」って、外の世界の習慣だっけ。それで、なんで神社が潰れるのよ」
「外の世界では、ヴァレンタインデーにチョコレートを贈り合うんですよ。でも、幻想郷だと違うでしょう? それで、小悪魔さんに教わった通りに、鰹節を差し上げたんです」
「「「「……は?」」」」
早苗の言葉に、その場の一同が声を揃えた。
「いえ、ですから小悪魔さんに教わった通りに、鰹節を差し上げたんですってば。そうしたら、お二人も幻想郷の習慣をご存じなかったようで、大変にショックを受けられて――」
「ちょ、ちょっと待てよ。鰹節なんて贈らないぜ?」
「えっ!?」
魔理沙の言葉に、今度は早苗が驚きの声を上げた。
「あー……小悪魔の奴、早苗をからかったんだな。あいつ、いたずらが好きだからなぁ」
がしがしと頭を搔きながら、魔理沙がぼやいた。
「それじゃなんですか、神社の二柱は、鰹節にキレて神社を倒壊させた――と」
文は文で、このアホらしい特ダネをせっせとメモしていた。
「あの……じゃあ、幻想郷ではヴァレンタインデーに何を贈るんですか?」
驚く早苗に、霊夢、魔理沙、文、椛の答えが重なった。
「ばっかねぇ。決まっているじゃない。バレンタインデーに贈るのは――












「「「「『おかかお握り』よ」だぜ」ですよ」です」
 なお今回の騒動は、幻想郷から外の世界への干渉が大き過ぎたとして、紫と慧音の協力により、「なかった事」にされたそうです。めでたしめでたし。



 久しぶりにお邪魔致しました、PALでゴザイマス。
なんとなーく、「カカオとおかかって似ているよなー」とか思った挙げ句が、こんな事になってしまいました。
幻想郷には、色々と外の世界の風習が歪んで伝わるんでしょう。

 そんなワタクシは、どなたからもチョコもココアもおかかお握りも頂けませんでした。
いいもん、明日になればお高いギフトチョコがワゴンセールになるから……。



 お読み下さり、ありがとうございました。
それでは、またいつかどこかで( ̄▽ ̄)ノ。
PAL-BLAC[k]
http://adumakudari.net
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コメント



0.230簡易評価
9.30名前が無い程度の能力削除
勢いはあるけど力の入れ方が間違っているというか滑ってる感が否めない。
タグがどうにも鬱陶しく感じられるなあ・・・
次回作に期待。
11.40名前が無い程度の能力削除
オチが…。大山鳴動して鼠一匹って感じでした。
それは別にしてもこの作品内での幻想郷の世界観が理解できませんでした。
14.80名前が無い程度の能力削除
流石はギネスに乗っちゃう硬度の食品www
しかし魔理沙の家、近すぎるでしょう。