Coolier - 新生・東方創想話

春と幸せと桜の妖怪

2010/06/09 22:47:38
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僕の店の裏の桜の木が満開になった。

霊夢やら魔理沙が僕の店の裏でドンチャン騒ぎしている。

僕は気にせず本を読んだ。 だが

魔理沙が急に店に入って来て、無理やり花見に参加させられた

吸血鬼のお嬢様がパラソルを使ってのんびりしている

兎が赤い顔をして酒を飲んでいる

霊夢は、泥酔で暴れている妖怪を暴力で制圧していたりした

それを見て笑っている酔っ払い

女だらけの騒ぎの中に男一人

なんだか僕だけ浮いているみたいで嫌だった。

だが、桜の木という物は僕の心を和ませた。

ああ、もう春になったのだ。

周りがものすごくうるさいが、僕は桜が散る姿に集中していた

そうだ、思い出そう。

僕が子供の頃の思い出を

僕の大切なお友達の、永遠に忘れられない思い出を



















僕はまだ小さかった。

もう今年で40歳になるはずなのに、まだ外見は6歳にも満たないような子供の姿だった

母親が妖怪という事で、周りからは気味わるがれていた

好きで母親が妖怪の所に生まれてきたのではないのに

僕は、次第に人間を恨むようになっていた

不思議と母親には恨みは無かった。

母親は、僕が言うには親ばかで、僕を溺愛していたのだ。

姿はまだ7歳にも満たないような姿だが、

これでも人間より長生きしている。

僕と母親と見るには、親子というより姉弟みたいな物だったらしい。

僕は、妖怪みたいにそんなに強い力は無かった。

だから、周りの子供からはいつもいじめられていた。

周りの大人は、僕の母上が怖くて近寄りもしなかった。

母上は、人間が大好きで

ある人間の男に一目ぼれして僕が生まれた

人間が好きなはずなのに、


母上は妖怪でも人間の味方をしているため、皆から虐められる事は無かったが

僕はこんな母でも妖怪なため、虐められているのだ。

こんな不公平な事ってあるのだろうか。

今日も、人間の子供から虐めを受けて一日が終わっていた。

傷だらけの体から帰ろうとすると、誰かがついてきているような気がした

どうせいじめっ子だ。また虐められるんだ

と思いながら家に帰った。

母上には、自分の傷を友達と遊んでいてなったと嘘を言っている

真実を言ったら、母上は人間を殺すかもしれないからだ。

僕は人間が憎くなりつつもあるが、

母上も人間を憎くなっては本当に壊れてしまう。

だから僕は我慢をした。








新しい日の朝、

人間の子供達は寺子屋に通う

僕はもう30年前に寺子屋を卒業しているため

母親の手伝いをしている。

だが、ほとんどやる事がないので

外で遊ぶ事が多い

友達と遊ぶ事が多いと嘘をついてからはなおさらだ。

僕は憂鬱になった

とぼとぼと町を歩いていった。

歩いて言ったら、いつのまにか森の入口に来ていた。

僕は、妖怪には襲われないので森の中に入っても大丈夫だった。

ただ、迷子だけが不安だったが、

やる事もないので森の中に入っていった。

森の中には、鹿や狼や鬼が歩いているが、

僕に襲いかかって来る気配はない。

いつも通りの森の中。

この杉の木だらけの中に、一つだけ

一つだけ違う種類の木があった。

ほとんど楕円形の石の右を通れば、

森の中の湖に囲まれた、一本の木

大きな桜の木が生えているのだ。

今日から桜が満開になるそうだ。

だが、結局は一週間で無くなってしまうのだが、

僕は、この湖が好きだった。

この湖には、鹿やリスや、桜があるからだ。

この場所で一人で湖に足を付けて本を読んだり、鹿に近づいたりしていた

だが、大概の鹿は僕から逃げていく為、寂しさは増すばかりだった。




もう大分時間が経った

もうそろそろ家に帰らないと母上に心配をかけてしまう。

僕は、森から抜ける為に草履を履き、森を抜けようとした。

だが、行こうとすると誰かに手を引っ張られた

振り向くと、そこには綺麗な少女が居た。

肌はその湖のように透き通っていて、髪色は青く風のようだった。

だが、今はそんな少女に構っている暇は無かった。

僕は、少女に離してとお願いすると

少女は笑顔で僕を引っ張り、この湖から離れていった。

少女の足は速かった。僕の足ではとても追いつけないくらい。

だから、ほとんど引きずられている状態だった。所々体に木の枝や土が当たって痛い

森を抜けると、少女は足を止めた

少女は笑顔で、僕の方を見ると

『それじゃぁ、何して遊ぶ?』

と言った。

もう遊ぶ時間じゃない。

僕は、少女にそう言うと

少女は

『嫌嫌!!』

と言って僕の手を再び握って引っ張っていった。

僕は今からどこに行くのだろうか。

もう家に帰りたかったが、少女は手を離そうとしない。

引っ張られる途中、僕を虐めていたグループに出会った

虐めグループは、その少女を見て固まっていた

いや、惚れぼれしていた。

だが、少女はそんな事気にせずに

『行こっ!』

と僕に言ってまた僕を引っ張った。

虐めのグループは、僕を見て苦々しそうな顔をしていた

どうしてお前なんかに、のような顔をしていた。

僕は明日が怖かったが、今はこの少女が怖かった。

いきなり僕を引っ張り、いきなり僕と遊ぼうと言ってきたのだ。

少女が足を止めると、そこは草原だった。

町のはずれにある、僕もそこでよく本を読む、お気に入りの場所の一つだった。

そこでようやく僕は休憩ができる。

少女が僕の手を離してくれたので、僕は椅子にピッタリの石に座りこんだ。

少女は、僕の隣に座り自己紹介をしてきた。

『あなたの名前は?』

まずはお前から自己紹介をしてほしかったが、

僕は、本名を彼女に伝えた。

『ふーん………。それじゃああなたのあだ名は≪白≫ね!!』

どこからそうなるのか全く分からなかったが、少女の目は生き生きしていた。

僕は、その目が苦手で向こうの方を見ていたが、少女は両手で僕の顔を無理やり自分の方向に持って行った

『私の名前はね!スプルって言うの!!よろしくね!』

少女は笑顔で自己紹介をした

変な名前、僕は心の中でそうつぶやいた

もう空が真っ赤に染まってきたので、僕は彼女にさようならの挨拶をして家に帰った。

ゆっくり歩いたらまた捕まりそうなので走って家に帰ることにした。

正直に言うと、僕はあの彼女が苦手だった。

家に帰ると、母上は笑顔で僕の帰りを迎えてくれた。




僕は、今日の少女が一体なんなのか考えると、

考えれば考えるほど、一つの答えしか見つからなかった

『異常者』

僕はそうつぶやいて、部屋の明かりを消した













翌日、目が覚めて母上の手伝いをしようとしたが、

今日も仕事が無いらしく外に行くことにした。

家の目の前には、待っていたかのようにスプルが立っていた

僕は驚いて転んでしまった。

僕の体が地に着く前に、少女は僕の手を握った。

また連れ回されるのだろうか

恐怖がこみ上げていくうちに、少女は笑顔になった

そして、彼女の足に力が入ると、

また引きずられが始まった

だが、幸い彼女の長い髪も一緒に掴んでいたらしく、

途中で彼女は髪の毛を離す為、僕の手を離した

その隙に僕は全力で彼女から逃げだした

一体何がしたいのだろうか。だが、捕まったら終わりなような気がしてたまらなかった



なんとか逃げ切っただろう。後ろには彼女は居なかった

どこを見渡しても居なかった。

だが、厄介な奴は居た

『おい、チビジジイ』

それは僕を虐めているグループだった

『お前、昨日女の子とイチャイチャしてたみたいだなぁ?』

していない。僕は被害者だ

彼がそう言うと、皆は舌打ちをしていた。

『あんな可愛い人、一体どこに居たんだってんだ』

『お前なんかもったいねえよ。』

『妖怪が調子乗るんじゃねーぞ』

周りが、僕に言葉で攻撃していた。

僕は、彼らに寺小屋はいいのか聞いてみた。だが、

『一日ぐらいさぼってもいいだろ?』

彼らは軽く返した

僕を一日がかりで虐めに来る。そう感じた

『なぁ、その女、俺たちに紹介してくれよ。そうすれば勘弁してやるよ』

と言ってきた。

これは好都合だった。

スプルとこのグループと仲良くなれば

僕を虐める奴は居なくなるかもしれないからだ。

僕は承諾しようとした時、スプルは来た

『あっ来たぞ!来たぞ!』

スプルはこっちに近づいてきた。

その同時に、いじめっ子のグループは少女に告白をしていた

だが、スプルは虐めっ子のグループなんかどうでもいいと押しのけていた

そして少女は僕の手を握り、僕を引きずって連れていこうとしていた。

だが、いじめっ子のグループは僕の手を掴み、スプルを逃がすまいとしていた

『おい!この女を捕まえろ!!』

いじめっ子のグループがそう言うと、皆スプルに一気に駆けよってきた。

だが、スプルは関係のなさそうに回し蹴りや、正面突きや、かかと落としなどをいじめっ子のグループにくらわした

いじめっ子のグループが全滅すると、スプルは僕を再び引きずってどこかへ連れて行こうとしていた

少し、いじめっ子のグループが可哀想に見えた














連れていかれた先は、あの桜が咲いている森の中の湖だった。

スプルは、子供らしくはしゃいで湖に足を入れて走っていた。

僕と手をつないだままなので、当然僕も足が濡れた。

スプルが転んだ。

そのはずみで僕も転びそうになったが、つないでいた手がすっぽ抜けた為、転ばずに済むと思ってたが、

結局、反動で僕も転んでびしょ濡れになってしまった。

水が飛ぶ音が止んだ後、湖の入口から足音がした。

湖の入口の方を見ると、そこには少年が二人いた。

一人は見た事があった。

あの虐めグループの頭と言われていた奴だった。

この人自体は虐めをしないので、僕にとっては悪い人ではないイメージだった。

実際に、彼は喧嘩が強いだけで虐めッ子の頭にいるだけで、本当はそんなに悪くない人だと言う事を僕は知っている

もう一人は、銀髪の少年だった。

真面目そうで、何も喋らない人の一人だが、現に寺子屋の中で一番頭が良いことから

虐めッ子の頭と友人になっている。

僕は、そんな人達がどうしてこんな所にいるのか分からなかったが、

スプルがあのグループを吹っ飛ばしたことから、嫌な予感がした

そう思っていると、虐めっ子の頭が僕の所近づいてきた。

僕は少し悲鳴を上げて彼から離れると、彼は本を出してきた

『これ、俺の下がぶん取った本だってな。』

その本には見覚えがあった。

そうだ。この本は虐めっ子に盗られたまだ未読の本だった。

一体これをどうする気なのだろうか。

そう思っている矢先、虐めッ子の頭は僕にその本を返した

『悪い事したな。返すよ』

彼は確かにそう言った。

虐めッ子のグループの頭が、こんな僕なんかに謝ってきたのだ。

『あのさ、』

虐めッ子のグループの頭は、少し気恥ずかしそうに僕に何かを言った

『お前、俺と仲良くならねえか?』

グループの頭は、僕に交友を要求してきた。

僕は、まだ何も言っていない時に

さらに、グループの頭は話を続けた

『まぁ、俺の部下にはちゃんと説教しとくから大丈夫だ。それより自己紹介をしよう。』

虐めッ子の頭は、ほとんど僕の話なんか聞かずに話を続けた。

まぁ僕は何も喋ってはいないのだが

『俺の名前は霧雨五右衛門。前々からお前の事を目につけてたんだぜ。半妖って面白そうだしな』

霧雨は、笑顔でそう言った。

さらに霧雨は、もう一人の少年の紹介もした。

『こいつの名前は十六夜 夜一。声は小さいからこいつの声は耳を傾けて聞いてくれ。』

霧雨は、楽しそうに僕に話をしていた。

僕にも友達ができた。

そう思えた瞬間だった。

だが、スプルはあまり面白くなさそうだった。

スプルは急に服を脱ぎだし、すぐに肌色になった。

そうなったあと、僕にしがみついてきて、僕の服も脱がそうとしていた。

霧雨と十六夜は顔を真っ赤にして僕たちから目をそらした。

そこは助けてくれないのか。

僕は少し悲しくなり、いつの間にか僕も肌色になっていた。


スプルは、服を木の枝に適当にかけ、僕の手をつないで湖で泳いだ。

正直、僕は泳ぐのは苦手で深い所には行きたくなかった。

だが、スプルはそんなことも気にせず僕を引っ張って泳いでいた、

だが、引っ張り方が雑なので僕はすぐに溺れそうになった。

その時は、スプルは僕に抱きついてきて、抱きついたまま泳ぐことになった。

霧雨と十六夜は相変わらず向こうを向いたままだが、

一緒に泳がないのか言いたかったが、

入ってくれそうに無かったので言うのを止めた。

2時間ほど湖に入ってから、僕はやっと水から上がれた

水から上がったばかりなので、ものすごく寒かったが、霧雨は布を出してくれた。

僕はその布で体をふく事にした。

スプルは、僕が体を拭いている時に、その布に入ってきたりした。

おかげでまた水が僕の体に付着したが、少量なのでそのまま服を着ることにした。

完全に乾いたとは言えないが、着るには十分だった。

気づくともう空は真っ赤だった。

僕たちはそれぞれ家に帰る為に、全員で別れの挨拶をした

スプルは、寂しそうに皆の方を向いて手を振った

霧雨は振り向くと、今度は僕の方を向いて話しかけてきた

『なぁ、あいつの家ってどこなんだ?』

そういえば、

どうして彼女はこの森から抜けようとしないのだろうか。

この森の中に家があるのだろうか。

それか妖怪か、



だがそんな事はどうでもいいと思い、家に帰ることにした。










次の日、家の外に出るとまたスプルが居た。

その隣には霧雨も居た

寺子屋は?と霧雨に聞いてみたら

『今日は休みだからな』

と言った。

その後、スプルはまた僕の手を握って走りだした。

だが、何か違和感があった。

彼女の握力が、弱くなっているような気がした







また、森の湖の中に入っていった。

桜の木が少し緑が出始めてきている。

そうか。もうすぐ桜の花は散るんだ

そう思うと、少しさびしくなった。

スプルは、いつもと変わらぬ笑顔で僕と霧雨と追いかけっこをした。

スプルの足は恐ろしいほど速く、僕も霧雨も追いつけなかった。

だが、やっぱり違和感があった。



しばらくすると、十六夜も湖に来た

十六夜は、食べ物を持ってきていた。

『太陽が真上に昇った時に食べよう』

と十六夜は言うと、昼飯を楽しみに僕たちは遊んだ。

スプルが両手に水を含むと、水鉄砲のように僕に狙ってきた

僕の服はまた濡れてしまった。

だが、霧雨が仕返しのように桶を持ってきて、彼女に水をぶちまけた

スプルは、ひどく興奮して両手で水をかいて僕たちに水をかけようとしていた

十六夜は本を読んでいる

どんな本を読んでいるかは僕は気になったが、霧雨は全く気にしない様にスプルと対決していた









やがてまた夕方になった。

今日は、人生で一番楽しい日だと心の奥底から思った。

霧雨と十六夜は、門限を守る為に僕に別れを告げて家に帰っていった。

だが、スプルは帰らない。

一体なぜ彼女は帰らないのか、疑問に思った

彼女は桜の木を見ていた。

緑の混じった桜の木をじっと

一体どうしたのだろうか。

だが、僕もその桜の木をみて寂しく思っていた

この湖の真ん中の桜の木は僕も大好きだったのだ。

僕は、湖の真ん中にある桜の木に向かって小さな島を渡って桜の木がある島に向かった。

僕は、スプルに話しかけた。

寂しくなるね。

スプルの顔を見て話していないが、僕はスプルに話しているのだ。

スプルの笑顔は消えていた。

スプルは悲しそうに桜の木の根を見るように俯いた

そして、スプルは僕に話しかけてきた。

『ねぇ白、』

僕は、彼女の言葉に反応して彼女の顔を見た

『もし、この桜の木が白くなくなって、春じゃ無くなって、そうなったら悲しい?』

僕は、ありのままの答えを出した。

そんな事悲しいに決まってる。

でも、また来年桜が咲くのだ。

昔は、それはとても長い年月だと思っていたが、

友達が出来た今は、時間が早く感じていた為、

耐えることはできそうだと思った。

『私が消えたら』

彼女はまた、何かを口走った。

だが、それが何を意味するのか分からなかった。

彼女が消えたら

確かそう言った気がした。

僕は、その言葉を聞いた時、心の中が痛くなった気がした。

彼女が居なくなったら

最初は、一体なんなんだ。迷惑だと思っていた。

だが今は、……………。

3日しか経っていないが、大切な友達だった。

僕は、彼女が居なくなりそうな気がして

思わず彼女の手を自分から掴んでしまった。

その時彼女は、僕の顔を見た。

彼女の顔は、だんだん赤みが増してきた

肌色で無くなった瞬間、僕に抱きついた

最初、一体なにがあったのか分からなかった。

だが、彼女は僕を離そうとしなかった。

だが、もうそろそろ帰らないと母上に怒られてしまうので、離して貰うように説得して、ようやく家に帰った。

今日の彼女は何か変だった

そう思ってならなかった
















翌日、家の前には十六夜が居た。

彼が僕の家の前に来る事は珍しかったので、

僕はどうしたの?と質問をしてみた。

十文字は、僕の方を見て手紙を出した

『これ』

その手紙を開いてみると、それは恋文と言う物だった。

僕は思わずビックリしてしまった、

一体どういう事なの!?と十六夜に聞いてい見たら

『霧雨くんの友達が、その手紙をスプルに渡して欲しいって……………』

十六夜はそう言うと、僕は心底ホッとした。

僕には平和な事態だったからだ。

これをスプルに渡せばいいのか。

それくらいは全然大丈夫だったのだが、

今日は違和感を感じた。

そうだ。スプルが居ない。

僕は不振に思い、森の中の湖に向かった。

だが、居なかった。

言った事のない森の湖の奥にも行ってみた

だが居なかった。

一体どこに行ったのだろうか。

僕は草の根も分けて探した









だが、結局居なかった。

もうこの町や森の中を隅々まで見渡しただろう。

僕は、溜息をつきながらとぼとぼ歩いた

だが、一つだけ行ってない場所があった、

そういえば、どうして彼女はあの場所に行ったのだろうか。

僕は、あの場所に向かった。








僕は草原にたどり着いた。

僕のお気に入りの場所なのだが、町からは大体離れている為、滅多に行く事はない。

ここまで来るのに30分はかかったのだが、

結局、ここにも居なかった。

僕はもう、探す気力を失った。

僕はもうやってられんと椅子にピッタリな石を探し、そこに座りこんだ。



僕は、そこでずっと座りこんだ

一体どこに行ったんだろう。

溜息をつきながら、僕は手に頭を置いた。

顔をあげると、向こうの林に違和感があった。

なんだあれは?

そこまで歩くと、そこには一本の桜の木があった。

大きな大きな桜の木、立派な桜の木がそこに立っていた。

僕は、その桜の木に圧倒されてしまった。

その桜の木を見渡してみようと、木の裏側に回ってみた。

そこには大きな穴が開いていた。

その穴の中に、青い者が居た


スプル

僕がそう言うと、木の穴の中にいたスプルはこっちを見た

僕は、スプルが入っている木の穴の中に一緒に入ると、スプルは笑顔になった。

だが、すぐに悲しい顔に戻ってしまった。

僕は、渡さなきゃいけないものを彼女に渡した。

スプルは、僕が渡した手紙を広げると、顔を真っ赤にして僕の方を見た。

だが、手紙の送り主を見ると彼女は落ち込んで手紙をバラバラにした。

その後、彼女は塞ぎこんでしまった。

僕は、何か悪いことした?と聞いてみると、彼女は言った

『白、私の事、好き?』

僕は、その質問もありのまま答えた

彼女は僕にとっては親友だ。ずっと友達でいたい。

そう言うと、彼女はため息をついてまた俯いてしまった。

僕が何をしたの?と彼女に問いてみたのだが、

『………………』

何も言わなかった。だが、

『………………………ぁ』

声を出そうとした瞬間、物音にかき消された

目をあげると、そこには大人の人がいた

『スプル』

大人の人は、スプルの名前を呼んでいた。

スプルは、その大人から離れようとしていた。

だが、大人の人は何のためらいも無しに言った

『もういいだろう。もう大丈夫だ。彼にはもう春が来た』

何を言っているのか分からなかった。

だが、スプルは大人を拒絶するかのように手を払っていた

『もう帰れるんだ。もうこんな所にいる事は不要だろう?』

『嫌!!帰りたくない!!』

スプルは、泣き顔になって大人に反発していた。

だが大人は、意外そうにスプルの反応を見ていた

『どうしたんだ?いつもはすんなり帰ったじゃないか。どうしてそんな急に』

大人の人がそう言うと、スプルは怒ったように言った

『まだここに居たい!!』

スプルはそう言って僕の服にしがみついてきた

『駄目だよ、人に春を送るのが君の仕事だろう?その子にはもう春が来た。もう帰るんだ。』

大人はこんな対処はした事無いように少し焦っており、一生懸命になっていた。

だが、そんな努力は報われずスプルは帰りたがらなかった。

『この世にはまだ可哀想な子供がいる。そんな子供に春を送るのが君の役目だろう?』

大人がそう言うと、スプルは少し黙りこんだ。

だが、反論の言葉が出るのにはさほど時間がかからなかった。

『帰りたくないよ…………』

さすがに大人は呆れたのか、態度も少し変わって来ていた

『それじゃあどうして帰りたくないのかな?』

そう言った後、スプルは僕の顔を見た。

スプルの口が僕の口と重なった。

口で呼吸ができない。

大人の人は、その光景を見て驚いていたが、

スプルは何も言わずにずっと僕を押し倒した。

スプルの顔は真っ赤だった。

しばらくして、スプルはようやく口から離れてくれた。

口で呼吸ができるようになったのだ。

だが、スプルは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな顔をしながら俯いていた

大人は、その光景を見て冷静に答えた

『………………。その少年が原因ですか。』

大人はそう言うと、スプルは急に大人の方を見た

『やめて!!白に何もしないで!!』

だが、大人はそんな言葉も耳にかさず

手を僕たちに伸ばしてきた




大人の人の手は、スプルの頭の上に置かれた。

その瞬間、スプルは頭から崩れ落ちた

一体どうしたの?僕はそう聞くと

大人の人は少し悲しそうに答えた

『すみませんね。』

大人の人はそう言うと、今度は恐ろしい言葉を付けてきた

『この子とは、もう絶交してください。』

絶交

そんな事できるはずがない!

大人の人は、僕に淡々と話をしてきた

『この子の役目は皆さんの人生に春を送ることです。もうあなたは春が来てしまいましたでしょう。』

彼は、僕の目を見て話してきた

『でもね、逆にこの子にも春が来てしまった。春を送る側が春を貰う事は禁じられている事なんです』

春が来た。

僕には確かに春が来ていた。

スプルと霧雨と十六夜などの友達ができたのだ。

だが、彼女の春って一体何なのだろうか。

『だから、あなたに関する記憶は全て抹消させてもらったわ。』

その言葉を聞いた時、一瞬耳を疑った

消されている?

『ええ。もうこの子とあなたは、赤の他人です』

その言葉は、まるで友達越しに絶交を伝えられている気分だった

僕は、胸がずきずき痛み、そして泣いた

『あなたはもうこの子が居なくても大丈夫でしょう?』

居なくなっても大丈夫

昨日のスプルの言葉を思い出してみた

『私が消えたら』

彼女は、僕に確認をしていたのだ

私が居なくなったらどうなるか。



僕もできればずっと一緒に居たかった

ずっと一緒に遊んで居たかった。

でも、





もう彼女には僕に関する記憶が消されてしまっている

……………………………

僕は何も言えなかった。

『ごめんね。』

彼は謝っていた。

『もう会えないけど』

その言葉は、僕の心の傷をさらに深めた

スプルが居たから友達が出来た

スプルが居たから人間が好きになれた

スプルが居たから楽しくなれた

なれた

なれたのに








気づけば、目の前には誰も居なかった。












町に戻ると、もう寺子屋は終わっている時間だった。

十六夜は、僕に手紙の返事はどうだったか聞いてきたが、

僕は何も答えられなかった。

ごめんね。

と言うだけで僕は通り過ぎていった



目の前には、霧雨が居た。

『どうしたんだ?そんな暗い顔をして』

霧雨がそう言うと、僕は無理に笑顔を出した

『そうだ。なら大丈夫だな。んじゃあ遊びに行こうぜ!』

霧雨は、いつもと変わらぬ笑顔で僕を遊びに誘っていた。

だが、スプルの事を言うべきか、言わないべきか迷ってしまった。

『あっ。そういえばスプルよぉ。』

霧雨がスプルの名前を呼んで、心の奥からビクっとした。

霧雨は、ポケットから何かを探すと、乱暴にポケットに入っていた物を取り出した

『これ、スプルがお前に渡してくれって』

それは、手紙だった。

僕は、霧雨からその手紙をもらうと

その手紙を広げて、スプルが書いた文字を一つ一つ読んだ



≪スプルより

私はたくさんの人に幸せを運んできました。

私は、人に春を送る事を仕事とする妖怪です。

たくさんの人を幸せにしなくちゃいけないので、私はいつも別れを体験しています。

だから、別れなんて慣れているはずなのに、私はあなたと離れたくなくなりました。

白、あなたの笑顔とあなたの心は綺麗で、私はあなたが欲しくなりました。

皆に春を送らなきゃいけないのに

皆に幸せを送らなきゃいけないのに

私も幸せが欲しくなってしまいました。

次第に、私の幸せも形になって分かるようになってきました。

ずっと、ずっと手をつないで居たかった。

ずっと、ずっと一緒に居たかった。

そして、

あなたのお嫁さんになりたかったです。              大好きな白へ≫


『良かったな白。スプルお前に気があったんだな。幸せになりな。それで、スプルはどこだ?』







僕は、とっさに森の中で走っていた。

森の中の湖まで辿りつくように走っていた。

湖にたどり着いた。

湖の真ん中にあった木は

全てが緑色に染まっていた

























あれから20年の月日が経った

霧雨と十六夜はもう結婚していて、子供も生まれている。

僕の友達は皆、十分大人になっているのだが、

僕だけあの時の6歳から8歳になったくらいであった。

霧雨からは

『白豆』

とからかわれていた。

十六夜も、僕を子供のように接しており、あの頃のように同い年のように接する事は一切無くなってしまった。

それでも、僕たちの関係は続いていた。




いつも桜の木を見るたびに思い出す。

短かったけど楽しかった彼女と過ごした記憶が。

彼女は今どうしてるだろうか。

僕は、桜が咲くと、今でもあの湖の真ん中の桜を見に来ている

毎年、その桜は綺麗だった。

だが、そこに行っても 彼女には会っていない

桜が満開の季節には、

ただ、桜の木を見て過ごす日がほとんどだった。

もう十分に思いだしたときは、その湖から出て森から抜けていった。

その森から出ていく途中、懐かしい足音が聞こえた

走り回っては無理やり誰かを連れていくあの足音を

僕は思わず足音がする方向に目を向けた。

そこには青い髪、湖のように透き通った肌をした彼女が居た

彼女は、僕の顔を見た。

20年ぶりに彼女の目が合った

彼女の顔は、あの日と一切変わらなかった。

僕を引っ張り連れ回していたあの顔と同じだった

彼女は、僕の顔を見た後、立ち止まっていた。

後ろで引っ張られた女の子が息を上げながら膝に手をあてて俯いていた

彼女は、僕の顔をマジマジと見ていた。

彼女の表情は、なにか見た事のあるような気がするというような顔だった。

『どうしたの?』

と女の子が彼女に問うと、

『いやなんでもない。行こ!』

と言って、彼女は僕を通り過ぎて走っていった。

いつの間にか足音も聞こえなくなった。

そして日にちが経ち、森の湖の桜はまた緑色に染まっていた。




この日以来、僕は彼女に会っていない
香霖堂の発売がまた先延ばしになった事でムシャクシャして作りました。すみません。
次に霖之助に春が来る時は、香霖堂が発売されてからですね。


その時に、霖之助とスプルが再び出会う事を信じて。
ND
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コメント



0.1140簡易評価
11.90名前が無い程度の能力削除
大丈夫…今年中には出るんだ…大丈夫…
12.100名前が無い程度の能力削除
マジで発売してほしいですね。マジで
21.100名前が無い程度の能力削除
スプルの元ネタが調べてもわかりませんでした。春よ来い
22.100名前が無い程度の能力削除
↑Springじゃない?
あれ?ルはどこに…?
それ以前に春はどこだ?
23.無評価ND削除
スプルの元ネタは、おっしゃる通りSpringです。
でも『スプリ』だとまんまなので  リ  を  ル  に変えました。
もう一つの理由は兄に『スプリ』の語順を変えられて『プスリ』にされた時、結構ショックを覚えたので
リ  を  ル  に変えさせて貰ったのです。