「料理の基本はまず配置ですね」
東風谷早苗は最近料理にはまっていた。
何故料理かというと、外出せずに身近な人に喜んでもらえるかららしい。しかし一人の知識だけでは、変化を持たせた料理を作ることができず。この前刺激を求めて塩と砂糖の分量を逆にした料理を神様二人に出してみたが。
それを口にした瞬間、泣きながら悩み事があるのかと問い掛けられた。
やはり料理の知識がない中での危険は侵すべきではない。
それを身を持って知った早苗は、新しい料理の探求のために立ち上がった。ここはやはり達人と呼ばれる先人たちの力を借りるべきと。
それで、達人の中から最初に出てきたのが、暴食亡霊と悪名高い西行寺幽々子の配下、魂魄妖夢だった。
「配置ですか?」
「はい、その次に道具ですね」
「配置に、道具……」
「何か、わからないところでも?」
「いえ、道具を理由にするのは、あまり好ましくないと聞いたこともありまして。それに妖夢さんらしくないかなと」
どちらかと言えば、妖夢は道具を技術で補う印象が強い。切れ味の悪い包丁でもその身のこなしで一級品に化かすとか。けれど実際はそうではなかったようだ。
「私のように大量の料理を作らなければいけない場合は、わずかな時間の消費が問題となりますから。動きやすい台所の配置が必須なんですよ」
そう言えば、と早苗は周囲を見渡した。
食材は水周りの近くに集めて置いてあるし、よく動かなければいけない火元とまな板の間にあるのは調味料と切った後の食材を入れる器だけ。火元の後ろの作業台には綺麗に洗われた皿が詰まれており、しっかりと料理をする流れが組み立てられていた。
そんな中でも早苗の肩幅くらいありそうな巨大鍋の存在感が物凄い。
「ですから、料理の工夫という点で得られるものは少ないと思いますよ?」
「いえいえ、こうやって綺麗にならべて、やるぞっ! っと気合を入れるのはとても大切なことだと思いますし。あ、それと次は道具でしたっけ」
「はい、道具です」
「では料理するにあたって一番大事なもので、他人にもお勧めする一押しはなんでしょう?」
そうやって問い掛けてみたものの、答えは大体予想できていた。やはり妖夢がこだわるとすれば、まず間違いなく包丁だろう。毎日綺麗に研いだり、魚と肉を切る場合には分けて使うとかきっとそんな――
「刀です」
「――へっ?」
「二本あれば尚良しです」
「――えっ?」
台所に間違いなく必要のない単語が出てきた。
刀が二本で、日本刀?
なにこれ、駄洒落?
聞き間違いではないかと、もう一度確認しても返答は『刀』。
早苗が眉を寄せて頭を押さえているのを、きょとんっとした様子で見つめていることから察するに、どうやら笑いを狙ったわけでもなさそうだ。
なので早苗はもう一度問い掛ける。
「え、えと? 調理器具、の名前を聞いたのですが?」
「ええ、ですから刀ですが? ああ、もしかして早苗さんは両刃の剣の方がお好みでしたか」
ありえない。
刀とか、両刃の剣なんて台所でどうしろというのか。
「いや、好みとかいうわけじゃなくてですよ? あの、根本的に間違っている気が。ほらもうちょっと小さなやつあるじゃないですか、家庭用の」
「もう少し小さな? ああ、細剣、レイピアとかそういう部類ですか。しかしあれは強度に問題がありますよ。鶏を両断するのがやっとですし。使い道があるとすれば、木製の長い串の代用品くらいですね」
細剣……鶏? 両断?
早苗の調理場のイメージからかけ離れた言葉が次々と並べられていく。理解の範疇を超えているというか。
もしかしたらここは調理場という名の異空間なのかもしれない。
「あの、すいません、包丁とか普通使いませんか?」
「ああ、あの軟弱な小刀ですか。駄目ですよ。小さなイノシシを一刀両断するのにも凄く苦労するじゃないですか。20匹くらいで切れ味落ちますし、ねぇ?」
「同意を求められても非常に困るんですけど……」
良い包丁の基準でそんなものは聞いたことがない。
「イノシシ20匹分の切れ味♪」
こんなキャッチフレーズがあったとしても、誰が購入意欲を駆り立てられるというのか。
やはり幻想郷は常識にとらわれてはいけない。料理ですら油断できない世界ということなのか。
早苗が混乱しているうちに、妖夢はいつも身に付けている刀とは別の。
『妖夢専用調理刀 お師匠様は勝手に使わないでくださいっ!』
と古ぼけた紙が張られた壁に、紐でぶら下げられていた二本の刀を持ってくる。
「やはり、庭木を切るのに使った刀と同じではいけませんからね。刀はいろんな場所で便利だからといって一本で済まそうなんて思ってはいけませんよ」
いつも身に付けている楼観剣と白楼剣を調理場の入り口に立て掛けると、先生口調で早苗を嗜めるが、そんな心配はいらない。
そもそも刀万能説なんて今初めて聞いたのだから。
「どうします、一通り料理の準備もご覧になります? お見苦しい動きがあるかもしれませんが」
「ええ、はい。味付け等もちょっと勉強したいので、申し訳ありませんが解説しながら料理していただくというのは?」
「そうですね、今日は比較的時間に余裕がありますから――ゆっくりとやってみましょう」
確かに味付けは気になる。火をつけるタイミングとかそういう場面も、かまどの火力調整だってこだわりがあるはずなのだから。しかし、そんな当初の興味より……
正直言って、刀を二本両手に持ったままどうやって調理するのかが気になる。
あれでは両手が埋まって野菜を運ぶことすらできないじゃないか。
「それでは、一番近くの大根から」
山積みになった材料の一番手前にある白く長い野菜。ただ近いとは言っても手が届かない位置にあり刀で手が埋まっている状況では持ってくることも困難だろう。
そう思った早苗は思わず野菜を取りに足を踏み出そうとするが。
「大丈夫です。間合いの内ですから」
気配で早苗の接近を察知した妖夢は声でその動きを制し。
同時に左手に持っていた刀の先を、向かって左側に山にして置いてある野菜の中に。大根の下へと滑り込ませてから、ぽーんっと刀の先をうまく使って跳ね上げ。綺麗な放物線を描かせながら目の前へと運び。
右手の刀で、まるでお手玉するように跳ね上げて角度を調整した直後。
「今日は煮物とお鍋が主役なので、あまり味付けの参考にはならないかもしれませんが、そうですね」
キンッという甲高い音と共に白銀が煌いて。
まな板の横にあった食材入れの一つに、綺麗に短冊切りにされた大根が、どさり、と入る。それに遅れるようにして、空中を舞っていた大根の皮が、まるで白い花のように落下しながらまな板の上で丸まった。
しかし大根の皮が落ちる間にも新たな材料が左の刀に乗せられており、またしても同じように躍らせた。今度はにんじんが、二つ。
「やはりお鍋は薄味で、だんだんと材料の味が染み出してくるのを待つような感覚でしょうか。とりあえず材料だけを先に切って、ダシを取る」
飛んできたにんじんを一つ、二つと、高さを変えて打ち上げ。
キンッキンッっと二度、目にも止まらぬ速度で刀が動く。
すると、さっきの大根と同じように今度は薄く輪切りになったにんじんがだいこんとは別の器に入っていく。綺麗に、寸分の狂いなく。
「あっ! すみません。そこにある干ししいたけをそちらの鍋に入れていただけませんか? ついうっかり忘れていまして」
「あ、はいわかりま――って、おかしいでしょうっ!?」
ぽちゃぽちゃと、と皿に用意してあったしいたけを鍋の中に落とし込んだ後、早苗は妖夢をびしっと指差す。
「何で平然と曲芸みたいなことしてるんですか!」
「曲芸? はて、そんなことしましたっけ?」
どうやら、当人は自覚がないらしい。
早苗から指摘を受けながら、さらに顔を早苗の方に向けたままだというのに野菜を細断する速度が一向に落ちない。
放り投げては斬り。
放り投げては斬り。
キャベツの千切りをよそ見しながら作る感覚で、山のような具材を空中で調理していく。まな板はもう単なる具材の皮置き場と化していた。
「やってますよ、ほら、今も! くるくるって! シュパパパッて!」
「ああ、さすが早苗さん、ばれてしまいましたか」
やっとその異常さに気が付いたのか。
舌をぺろっと出して微笑みながら照れ隠しという主の前では決して見せない表情を作る。
「やはり人が見ていると、邪念と言いますか。いいところを見せたくなってしますね。先ほどのニンジンも今のタマネギも無駄な捻りを加えてしまいました」
……いつ捻った?
違う。全然違う。
早苗が言いたかったのはそういうことじゃない。
捻りとかそういうのじゃなくて、根本的に何かが違う。だって野菜が斬られていく過程がまったく目視不可能な領域なのだから。
「ところで、早苗さんは空中派ですか?」
「まな板派です」
「なるほど、それはかなりお出来になると見た。しかも先ほどの口ぶりですとあの使い勝手の悪い包丁で調理しているご様子……これは一度私がご教授たまわらねば……」
ノリで答えてみたが、うんうんっと唸る彼女の反応からして絶対何かと誤解していること間違いなし。早めに意思疎通をはかっておかなければ危険な気がする。
間違っても、包丁でイノシシや野生動物を倒せる流派ではないのだから。
いや、しかしイノシシはものの例えに違いな――
『もぉぉ~~っ』
――なんか聞こえたっ!?
今のお腹に響く重低音の鳴き声は、聞き覚えがある。
早苗がよく知っている生き物のモノだ。
ぎぎぎっと鳴き声がした方へと、壊れたブリキ人形のように硬い動きで顔を向けるが、そこには勝手口しかない。
勝手口しかないのだが……
閉め忘れたのだろうか。
少しだけ開いた扉の隙間から、何か大きなシルエットの動物がじっと早苗たちの様子を伺っていた。
しかもなんだか悲しそうな目をして。
「あの、えと…… 妖夢、さん? なんか居ますよ?」
離れた位置からその、うるうるした瞳を指差して問い掛ければ、ちょうど山のような野菜を切り終えた妖夢が手を布巾で拭いながら、スタスタと歩いてくる。そして早苗の指の先を見つめて、小さく『ぁっ』と声を漏らした。
「それですか。すいません、すっかり失念しておりました。今日は鍋と煮物の他に焼き物を作ろうと思いまして」
「それで、牛?」
「ええ、新鮮でしょう?」
早苗の中で、嫌なパズルが組み上がる。
先ほどの台詞、そして、両断とかいう不吉な単語が合わさった結果。
もしかして、この牛って……
「ええ、材料ですが、何か?」
やっぱり……
どおりで、悲しそうというか、何かを諦めたような目をしているわけである。逃げ出したり暴れようとしないのは、本能的に妖夢の実力を察して逃げるのが無駄だと悟ってしまったのかもしれない。
「どうせなら、作業をご覧になりま――」
「す、すいませんっ! よぉーむさんっ! 名残惜しいのですが、実はもう別なところに行かなくてはっええ、本当は見たかったんですけどねっああ、残念だなぁっっ!!」
――無理、絶対無理っ!
続く言葉を大声で止めさせ、慌てて身支度を整える。
正直、そんな作業を見せられたら一ヶ月は精神的苦痛に苛まれるに違いない。その光景が頭から離れず肉を見ただけで吐き気を催すようになるかもしれない。
「あ、そうでしたか。申し訳ありません、無理に勧めてしまって」
「いえいえ、お構いなく。ではっ! 失礼します!」
一刻も早くここから逃げよう。
一礼してから電光石火で回れ右をするが――
「あ、早苗さん。どうぞ、これを」
素早く間合いを詰め、回り込んだ妖夢が何かを早苗の前に突き出す。
黒光りする鞘に収められた刀、早苗の居た世界では日本刀と呼ばれていたものである。
「包丁では中々料理も難しいでしょう。ちょうど一本買い換えたところなので差し上げます」
「……いえ、しかし」
こんなとき、はっきり『ノー』と言えればどれだけ楽だろうか。
日本人気質も若干はあるが、やはり山の神様をある程度信仰してもらうにはこういった近所(?)付き合いもかなり大切なわけで。
「騙されたと思って一度使ってみてください。切れ味と使い勝手の良さは包丁の比ではありませんから」
「……はぃ、わかりました。そこまでおっしゃるなら、いただきます」
こうして、料理について話を聞きにきたというのに。
体現不可能な動きを見せ付けられ、日本刀を手に入れるという。なんと的外れな。一応若干ながら知識も仕入れることができたが、余計な部分が多すぎる。
「料理の道は険しいですが、お互い精進しましょう!」
妖夢背中に妙な重さの鉄を背負うこととなった早苗と一緒に玄関まで戻ると、一礼してその後姿を見送った。そんな忠義の塊のような少女の視線を受けながら、早苗はふと考えてしまう。
もしかしたら、弾幕勝負なんかで戦った場合より。
台所の剣術の方がすぐれているのではないか、と。
けれど、それを伝えるのはいくらなんでもお節介過ぎるかと思い、その事実を心の奥底に仕舞い込んで、次なる場所へと向かったのだった。
◇ ◇ ◇
さて、問題です。
あなたのおウチに、女性がやってきました。
とても美しい、それでいてまだ少女のあどけなさも持ち合わせている、という魅力的な女性です。
そんな女性が、親しげに挨拶を交わしながら入り口のドアに繋がる門を通ろうとしています。さて、あなたはこの女性に対してどんな行動を取るべきでしょうか。
ヒント:その女性の背中には日本刀が見えます。
「……その格好なら、追い返そうとした美鈴の判断が正しいと思うわ」
「はははははっ……、確かにそうですよね。美鈴さんがいきなり襲い掛かってきたときはどうしようかと思いましたけど。変ですよね、この格好」
明らかに不審者である。
巫女服に刀、微妙に合っているように見えるが、初見なら刺客以外の何者でもない。早苗が昔いた世界でこんな服装をして歩き回ろうものなら、即刻お巡りさんに確保されてしまう。どうやら幻想郷という世界だからと言って、油断しすぎたようだ。
「すべてを受け入れられるわけじゃありませんものね」
「少なくとも、この館は受け入れないわね。ええ」
「うぅ、同じ人間同士仲良くしましょうよ」
「人の家の門番を打ちのめしといて言う台詞かしら?」
「恨みっこなしのスペルカードバトルですから、問題はないと思いますよ?」
「問題あるわよ、勝敗じゃなく面子の問題。昼寝していて簡単に通られました。と、あっさり負けて通過されました、じゃ重みが違うの。目的が料理の勉強のためでなければ追い返しているところよ」
見た目が同い年くらいで、人間という共通点があるからか。それとも無理やり入ってきたからお客ではないと判断したか。メイド長のときの固い口調ではなく、友人と会話をするように崩した言葉遣いで対応していた。
「最近は天気が悪いせいでお嬢様がイライラしているんだもの。弾幕勝負で門番を突破した客人がいると知れば、『私が出るっ!』と言うに違いないし。そうしたらまた壁や床に多大な損害が出る。だからそんな損害を抑えるために好意で私が調理場へと案内しているわけ。感謝してもらいたいものね」
「あれ、天気が悪いって、今日は凄く良い洗濯日和……」
「だから天気が悪いのよ」
「あ、なるほど吸血鬼ですもんね」
冬であろうと夏であろうと、日が高い昼の時間に晴れていれば悪い天気に違いない。昼過ぎにもぞもぞと布団から這い出したとき、告げられた天気が快晴なら気分は悪いだろう。吸血鬼は日光を嫌うから。
それならいっそのこと夜まで寝ていて欲しい、と妖精メイドたちが陰口を叩いているらしい。けれど、たまに神社に行きたがって早起きするものだから余計に不満が広がる。
「外に出るのではなく、呼び寄せられればいいのだけれど」
しかし、普段はのほほんとしている霊夢の性格上、束縛したり命令することは非常に困難であるし。紅魔館からのお誘いとなると最近は無条件で警戒するため、招待状を受け取らせることすら難しい。だから霊夢を相手にするよりも、血縁であるフランドールの能力や性格の改善、教育等をしてはどうかと提案するが。中々首を縦に振ってくれないという。
そんな咲夜の愚痴を苦笑しながら聞き、角を曲がれば、正面に比較的大きな扉が見えてくる。どうやらそこが調理場らしい。赤い、豪勢な扉を引いて中を覗けば……
「わぁ……凄ぃ……」
思わず、つぶやいてしまっていた。
廊下のタイルも鏡のようにピカピカだったけれど、ここはもうそれ以上。金属製の作業大なんて化粧ができるくらいはっきりと早苗の顔を映し出しているし、調理場独特の生臭さもない。それと部屋を暖かく照らすランプの光のせいだろうか、暖かく照らされる食器や調理器具にすら高貴さを感じるような、美しい空間に仕上がっていた。
「これを、お一人で?」
「ええ、料理をするにはまず清潔が第一。基本中の基本でしょう?」
「こんな綺麗なキッチンを見たのは初めてかもしれませんよ!」
「私は日本刀を持って入ってくる巫女を見たのが初めてだけど」
「も、もう、それはいいじゃないですかっ!」
やはり早苗の背中で妙な存在感を放つ日本刀が、西洋風なキッチンの雰囲気を台無しにしている。これだけ見事に整頓されているなら収納方法なども細かく聞いてみたいところだが、咲夜はそろそろレミリアの食事の準備をしないといけないそうで、時間があまり取れないという。作った後も食事中は側にいないといけないらしい。
余裕がないのであれば仕方ない。ここは涙を呑んで料理だけを教わるしか。
「えぇっと、料理をするときに気を付けることや、味付けとか?」
「そうですね。咲夜さんはどちらかと言えばお菓子を作るイメージが強いですから、そちらを教えていただこうかと」
「それは否定しないわ。だってお嬢様は甘い方がお好みだから」
そう言いつつ、両開きの食器棚から鉄製のボール、お玉などを取り出し着々と準備を進めていく。『慣れない内は絶対に目分量に頼ってはいけない』等、お菓子作りの定石を早苗に解説するのを忘れることなく。一つの作業中に別の作業を簡単にやってのけるこの万能さが、咲夜の凄さ。
「少し風味付けをするなら、そうね。レモンや柑橘系の果物の果汁を使うわね。味を邪魔しない程度に」
無駄のない動きでお菓子用の調理器具、食器を並べ終えて。
同時に早苗への解説も終える。
「何か他に聞きたいことはある?」
「んー、そうですね。お菓子作りに大切なことは大体メモに取りましたから。それ以外で、何かあれば」
「そうね、例えば――これなんてどう?」
言いながら、咲夜はメイド服の中から一枚の紙を取りだした。そこには可愛らしい赤を中心としたトッピングが施されたプリンが描かれており、その横にはコウモリ型のチョコレートが添えられていた。
「こうやって、先にデザインを考えて、それに近づけるの」
「おぉっ、これは楽しそうですねっ! 料理の外見を考える、ですか」
「そうね、お菓子は分量や調理法さえ間違えなければ、いろいろ遊びの部分があるから。その中の遊び方の一つが外見というところね。青い色づけにして実はイチゴ味というのも面白いわよ」
「それは楽しそうですね。あれ? なにか変、でも美味しい! っという二度の感動も味わえますし」
料理は舌と目で楽しむ。
そんな格言もあった気がするが、これなら食べる人が外見で楽しめるだけでなく、作り手も目標に向かって作業をすることができるので、一石二鳥。いや、美味しいと喜ぶ顔を見ることができるなら一石三鳥。早苗は嬉々とした顔でメモ帳を開き、一瞬だけ咲夜から視線を外す。
「そうですか、では、次は作り方を見学――」
「え? もう出来たけど?」
「ぇっ? ぇぇぇええええええええっ!?」
そして、その一瞬で料理が完成していた。
見せてもらった絵の土台部分、少し赤味を帯びたツヤツヤのプリンが。
3分間クッキングどころじゃない。
1秒クッキングってどういうことだろう?
「う、嘘でしょうっ! いくら時を止められるからと言ってっ!」
「ええ、冗談よ。ちょっと驚かせようかと思って。朝作ったモノをパチュリー様特製の『冷える箱』に保管しておいて、それを持ってきただけ。いくら私でも止まった時間の中で火を起こしたりは難しいから」
「そ、そうだったんですか、もう、驚かせないでくださいよっ!」
外の世界で言う冷蔵庫と同じようなもの。ただし動力は不明。
おそらく魔力とか自然界の力とかそういうものだろう。しかしそんなことより早苗には気になることがあり。
「あれ? もしかしてもう今日は料理なし、ですか?」
「ええ、あとはこの瓶のソースを掛けて盛り付けるだけ」
「言葉での説明だけじゃなくて、できれば調理の過程も見たかったなぁって」
早苗が、純粋な興味本位で尋ねると。
咲夜はあからさまに目を細めて、不信な視線をぶつける。
「……正気?」
「ぇっ? 正気、とは?」
プリンの調理に何か問題でもあるのだろうか。
十六夜家秘伝、門外不出のプリンの素の混ぜ方とか。
頭の中でいろいろな思考を繰り返すが、咲夜がどうして訝しげな表情をしているのかがわからない。
「お嬢様の種族は、何?」
「そんなことはわかりますよ。吸血――っぁぁあっ!?」
冷静に考えてみよう。
吸血鬼は名前のとおり、血を啜る種族。
特に好むのが、人間の血。
処女の血を好むもの、若い男の血を好むもの。
個体によっては好みは様々であるが、人間の血肉を糧とする妖怪に違いない。そんな彼女たちの食事にどんなものが含まれているか、それはもう想像に難しくない。
「……見たい?」
「全力でお断りします……」
妖夢のところで体験しそうになった牛なんて比べ物にならない。
そんなものを見せられれば、もう一生記憶に残りつづけるだろう。
「そう、賢明ね。じゃあそろそろお戻りなさい。早く戻らないと痺れを切らしたお嬢様が館の中を歩き回るから」
「は、はい、失礼します……」
若干、調理の様子を思い浮かべてしまった早苗は、青い顔をしてフラフラと調理場から退散する。
その姿が完全に消えてから、咲夜は、ふぅっと小さく息を吐き。
「まあ、材料はコレなのだけれど」
過去に起こった吸血鬼が起こした騒動の結果、スキマ妖怪の八雲紫から定期的に支給される『輸血パック』と書かれた袋。それを専用の保管庫から取り出して、ゆっくりと紅茶のカップに注いだのだった。
◇ ◇ ◇
続きまして、第2問です。
あなたのお屋敷に、女性がやってきました。
とても美しい、それでいてまだ少女のあどけなさも持ち合わせている、という魅力的な女性です。
そんな女性が、親しげに挨拶を交わしながら玄関から入ってきました。
あなたの可愛がっている猫を抱えて、その子に呼びかけても返事がありません。
胸は上下しているので、眠っているのでしょうか?
それとも気絶しているのでしょうか。
女性曰く、奇跡的な事故が起きて気を失ったから連れて来たとのこと。
他意はないと主張しています。
さて、あなたはこの女性の言うことを信じるべきでしょうか。
ヒント:その女性の背中には相変わらず日本刀が――
「そうですよね……、やっぱり不審者ですよね……、いたたっ」
「あ、あはははっ、すまない。そちらが橙に何かして得がないと知りながらもつい、ね。気絶したあの子を見て気が動転してしまった。いやはや恥ずかしい限りだよ」
早苗が紅魔館から出た後、霧の湖の近くを通った時。
チルノと橙が遊んでいる姿を目撃し、話し掛けてみたところ。
『いまからマヨヒガに戻る』
とのこと。早苗も料理のことで是非話を聞きたい人がマヨヒガにいたので、これ幸いと橙と一緒に行動することにした。その道すがらに世間話をしていると、段々と日が傾いてきて夜空が茜色に染まっていく。二人でそれを眺めつつ、マヨヒガに通じる森へと入ろうとしたとき。
余所見をしていたのが災いしたのか。
ガッと橙の足が木の根に引っかかって。盛大に頭を地面に打ち付けてしまったのだ。それで一時的に気を失ってしまった橙を抱えて、マヨヒガの玄関を潜ったら――
「……さて、どこから撃ち抜いて欲しいかな?」
橙に危害を加えたと思ったのか。
殺気を膨れ上がらせた藍から、弾幕バトルの洗礼を受けたというわけである。紅魔館では美鈴をなんとかいなした早苗だったが、相手が最強の妖獣である。
肉食獣が群れで草食動物を追い詰めるような、計算しつくされた弾幕の包囲が襲い掛かり。その中で避け易い場所を探して逃げていると、段々と、逃げる方向が制限されていき。
藍がわざと誘導していると気が付いた頃はもう手遅れ。
美しいほどの手際で追い詰められて、あっさり敗北してしまったというわけだ。
意識を取り戻した橙が止めなかったら、打ち身だけで済んでいたかどうか……
「うぅ~~~っ」
そんな藍を非難するかのように、橙がコタツの中から頭だけ出してぷくっと頬を膨れさせている。おそらく、連れてこようとしたお客さんに怪我させてしまったのが気に食わないのだろう。自分に否があるとあるとわかっている藍は、早苗の傷の手当てをすることでなんとか橙の主である威厳を取り戻そうとしていた。
「まあまあ、橙さん。私もいつもと違う面妖な格好をしていましたから。屋敷を守る藍さんが過剰な反応をしてもしょうがないですよ」
打ち身とは言っても尻餅を付いただけ、そのときに右手が少しすれて血が出たものの大げさな傷ではない。舐めておけば治るという程度の。だから大げさな治療はまったくいらないはず。けれど橙のご機嫌を取るために藍に頼まれた早苗は、右手だけでなく額や足首など必要以外のところにも包帯を巻きつけられることとなってしまう。
このまま橙の機嫌が戻らなければ、もしかしたらミイラ人間にされてしまうのではないかという。空想が思い浮かんだところで、やっと橙がコタツから出てきて藍の尻尾を触り始めた。
「橙、許してくれるのかい?」
「……今回だけですから、次に私のお客さんに怪我させたら怒りますからね
「ああ、約束するよ。指きりげんまん」
「はい、ゆーびきーりげんまんっ」
小指を合わせて、約束したらもう笑う。さっきまでのふてくされていた態度はどこにいってしまったのやら。
「あ、こら、やめないか橙。お客様の前で尻尾に抱きつくなんて」
「んふぅ~♪」
「いいじゃないですか。それくらい、私は気にしませんし」
「そう言ってくれると助かるよ。橙の遊び相手はこの辺りにいる山猫か私くらいしかいないからね。紫様がいるときは、叱られたりするからこんなに甘えてきたりしないんだが」
そう言いながら、引き離そうとしないところを見ると。
藍もこの状況を善しとしているのだろう。後ろ手で橙とじゃれ付きながら、頬をわずかに染めている。しかし、その場にいる早苗が居心地悪そうに膝を畳に擦っているのを見て、軽く頭を下げた。
「ああ、すまない。いつものように遊んでしまったよ。橙が連れて来たとはいえ、あなたは立派な八雲家の客人。その客人に怪我をさせてしまったのだから少しばかりそのお返しがしたい。何か私にできることはないかな?」
これは早苗にとって願ってもないことだった。最初から藍に要求することがあってこの場所にいるのだから。それはもちろん、他の場所でも尋ねてきたこと。
「あの、よろしければ料理のことを少し教えていただきたいな、と」
「料理? それだけでいいのかい?」
「ええ、それだけで十分です。ちょっとした味の変化とか、楽しみ方とか。何でもいいので教えていただければ」
「なんでも、か。そうだね。それならひとまず」
一騒動の間にすっかり暗くなってしまった中で、藍は部屋の中に狐火を灯し、コタツを指差す。その指示に従うまま、早苗は藍の真正面に来るように座る。
その視界の中では、相変わらず橙にじゃれ付かれている藍が落ち着いた表情で微笑んでいた。
「人間で言う料理で一番大切なのは、やはりココ。気持ちの問題だろうね」
「気持ちですか。こう言ってはなんですが、それは一般論では? 一生懸命作っても美味しくならないときだって」
「なるほど、一生懸命、か。ふふふっ」
「そうです。いくらやってもできない人だって――、って、なんで楽しそうに?」
真剣に話をしていたと思ったらいきなり口元を隠して笑い出す。そんな藍の変化に早苗が目をぱちぱちさせていると、口元に笑みを残し。すっと瞳を妖しく輝かせる。
「それはね、本当に一生懸命と言えるのかな?」
「えっ?」
九尾を大きく、ゆっくりと揺らし。早苗を試すように見つめるその瞳は何を考えているのかわからない。ただ見つめ続けているとどこか引き込まれてしまいそう、妙な感覚に捕らわれてしまう。
「相手の味の好みは、好きな食べ物は、嫌いな食べ物は? 食材は厳選したか、料理の手順に落ち度はないか、道具は揃っているか。そんなことをすべてやり尽くしていないのに、できることはやったと勘違いしてはいないかい? 一度だけ料理の作り方を聞いて、見よう見真似で調理だけをして味見もせず、不味い料理を出す。それは本当に相手を真剣に想っての行動と言えるかな?」
「……手厳しいのですね」
「ふふふ、九尾の中では常識だよ。料理というのは身近にありながら、相手に擬似的に想いを伝えられる方法だからね。初対面でも自分に対して美味しい料理を出してくれる人には好感が持てるだろう? 殺したいほど憎い相手にだって、にこやかに微笑みながら料理を差し出せば、こちらが好意をもっていると錯覚させることすらできる。そうやって相手を陥落させていくのが楽しくてね。昔はいろいろやったものだよ」
「よくわかりませんけど。私は藍様のお料理大好きですよ?」
「うんうん、橙はいい子だ」
こんな圧倒的な雰囲気の飲まれず、自分を保つとは……橙、恐ろしい子。藍の会話を聞き入ってしまった早苗の背中は、言い知れない威圧感のせいでぐっしょりと濡れてしまっていると言うのに。
「まあ、料理すら武器にしろというのが私たちの教えだからね。そこまで徹底しなくてもいいと思う。しかし相手のことを想い、料理をすることは決して古ぼけた幻想ではなく一番必要なことだよ。あなたは子供の頃に誰かに料理を作ってあげたいと思ったことはない? その人はとても大事な人のはずで、だから美味しくないものができたときは、悔しくて泣いたりした」
「……藍さんも泣いたりしたんですか?」
「星の数ほどね」
「泣いた数だけ、女性は魅力的になって、腕の中で相手を泣かせられるようになるんですよね!」
「そうだね、賢いぞ、橙。でも紫様の言葉をそのまま使ってはいけないよ。危ないからね」
八雲家の情操教育はとても進んでいるらしい。
橙の行く末がかなり不安である。
「とにかく、食べて貰う誰かを思って作ることが大切ということを忘れずに料理に取り組めということですね」
「うん、そういうことだね。なんなら台所で調理の様子でも見ていくかい」
「え、はいっ喜んで!」
「私もお手伝いしますっ!」
藍という母性に包まれた八雲家はとても暖かく。
家主の八雲紫がいなくても、仲が良い家族として輝いて見える。
台所でも好奇心からか刃物を持とうとする橙を優しくたしなめ、ゆっくりとお手本を見せながら野菜を刻んでいく。
とんっとんっ
ゆっくりとした温かみのある音が空間に響き。
とんっ……とんっ……
たどたどしい音がその後に続く。
一つ、一欠片、材料を切るたびに自慢気に尻尾を立てる橙の頭を、ふさふさの尻尾の一本で撫でてやりながら藍は竈に火をくべる。
そんな様子を見ながら、早苗は思い出していた。
最初に料理を作らせてほしいといったときのことを。
父親の誕生日に、母と一緒に、一つの小さなケーキを少しずつ作っていったあの瞬間が思い起こされる。しかしそれはわずかな時間で、すぐさま別な映像に変わる。今神社で一緒に暮らす、二人の神様の笑顔が心の中で溢れて来る。
血も違う、種族も異なるのに。
それが平然と共存し、まるで本当の親子のように錯覚すらしてしまう。
ああ、想いというのはなんと素晴らしいものか。
早苗は熱くなる胸を抑えて、ずっとその光景を見守ったのだった。
◇ ◇ ◇
思い返せば、確かに藍さんの言うとおり。
料理というのは誰かのために作るというのが、基本で、一番大切なのかもしれません。
妖夢さんが配置や道具に拘れるのは、幽々子さんに少しでも早く、満足できる量の料理を届けたいという想いがあってのことだし。
咲夜さんはレミリアさんが少しでも楽しめるように、可愛いお菓子作りを試している。
自分のために作ろうとするときは、どうしても手を抜いてしまいますしね。
では、私も皆さんの助言を元に、料理というものを今一度見つめ直したいと思います。
◇ ◇ ◇
次の日――
諏訪子は日が昇るよりも早く、早苗の部屋を目指していた。
目的は一枚の書置きを残すこと。
『今日は私が朝ご飯を作るよ 諏訪子より』
昨日、珍しく遅くに帰ってきたことを知っていたから、少しでも長く寝ていてもらいたい。そう思って音を立てないように廊下を浮遊して進み。部屋の前までやってきたら、ほふく前進に切り替える。
そして音を立てないように、すぅっと戸を横にずらして、そのわずかな隙間から部屋の中を確認しつつ紙を――
「……あれ?」
早苗がいない。
もしかしたら、厠かとも思ったがそれはありえない。何せ、すれ違いを避けるためにわざわざ厠から早苗の部屋へと向かったのだから。途中で出会っても言い訳ができるように。布団はしっかりと畳まれているし、寝間着も同様。
となれば、すでに目覚めてどこかにいった。ということか。
しかし外出するときにいつも持っていくお札が机の上に出しっぱなしだから、神社か社務所のどこかにはいるはず。
「……お邪魔しまぁ~す」
いないなら、入ってしまおう、土着神。
無駄に五七五を心の中で詠みながら、忍び足で敷居をまたぎ畳の上に足を滑らせる。
とりあえずここまできたので、置手紙だけは残して台所に行こう。そう思って机の上を眺めたら、奇妙な絵が視界に飛び込んでくる。
何か輪のような円のような、ものが二つ。
紙の上に描かれていた。
これだけでは何がなんだかわからないが、その絵の上部に丁寧に書いてある文字がその物体が何であるかを示していた。
<来週のおやつはこれで決まり!!>
『注連縄ドーナツ』
八坂様の注連縄みたいに作る。
咲夜さんと作り方を相談しよう。
『鉄の輪ドーナツ』
諏訪子様の鉄の輪に似せて作る。
でも、普通のドーナツでしかない気がしてきた。薄くしてクッキーにする案も考えてみよう。
目標:
美味しいって、笑ってもらえることが一番。
なので、美味しく作るのが目標! って、あれ……
なんか変だけど……、ま、いいか。
みんなで一緒にお菓子を食べて、仲良く暮らすぞ! おー!
「……まったく、あの馬鹿」
諏訪子は、その書きかけの絵をそっと手で撫でてつぶやいた。
触れているのは、単純な絵。幼い子供でも一筆でかけるような簡単なもの。
それなのに――
少しだけ、歪んで見えるのは何故だろう。
開いた入り口から差し込む月明かりのせいだろうか。
「まだ子供っぽいところもあるのにね……肝心なところが大人びてきちゃって」
そんなドーナツの絵の横には、いくつもの早苗特製料理案が散らばっている。
『諏訪子様帽子茶碗蒸、ひっくり返しても崩れない硬さにすると、美味しくないかもしれないから却下』すでに構想内で失敗しているものも数々見られた。それがすべて二人の神様の何かに関連しているのだから、よくもこんなに考えたものと、感心してしまうほど。
幻想郷に来て寂しい思いをさせたかと、早苗を心配したことがある。
けれどいつも早苗は笑って、二人がいるから平気ですよ、と屈託のない笑みを向けてくれる。諏訪子にとってそれは救いだったが、不安でもあった。
笑顔の下では、泣いているんじゃないか。
親しい友人たちと引き離されたことで恨んでいるんじゃないか。
でも、そんな黒い感情を抱いていたことが馬鹿馬鹿しくなるほど。
机の上には、希望が描かれていた。
「……あ~ぁ、線が曲がって見えるや」
ぶかぶかの服の袖で、顔を拭い。
ぱんぱんっと頬を叩いて気合を入れてから、諏訪子は部屋を後にする。
行き先は、台所。
あれだけ案を出した後で、早苗がじっとしているはずがない。どれか作れそうなものを探して試そうとするはず。だから様子をこっそり覗いてやろうと台所の裏手の方へと回り込む。料理に集中しているなら多少物音を立てても気づかれないだろうと、木製の裏口扉をわずかに動かし――
「――諏訪子様っ!」
中からいきなり名前を呼ばれて、諏訪子は全身をびくりっと跳ねさせた。
ほとんど音も立てていないし。まだ姿を確認できる状態でもない。
物音だけで誰かを判別できるなんて、ありえないというのに。どうしようか迷っているうちに、また中から早苗の声が響いてきた。
「はぁぁっ! 八坂様!」
今度は、神奈子の名を呼んだ。
しかも掛け声つきで。
事態が掴めず、しばらく覗くこともせずにじっと待機していると。
「うりゃっ! 諏訪子様!」
名前が戻った。
ということは、交互に二人の名前を呼びながら何かをしているだけ。
気づかれたわけではなさそうだ。
諏訪子は、ほっと胸を撫で下ろすと、わずかにずらした扉の隙間から中を覗き込む。
部屋にあった絵のことと、妙な掛け声の相乗効果で、何をしているのか気になって気になってしょうがなかったから。
そうやって興味本位で覗く視界の中に、ランプのぼんやりとした明かりに照らされた早苗が映り込んだ。
真剣な表情でまな板に向き合い。
深呼吸を繰り返す。
その肩が三回大きく揺れ動いた、そのとき。
早苗はまな板の上にあったきゅうりを、左手に掴むと。
いきなり天井近くまで、それを放り投げた。
――なっ!?
料理にはまったく必要のない動き。
諏訪子が心の中で驚愕しているのを他所に、早苗の動きは止まらない。
くるくる、と。
投げられた勢いで回転するきゅうり。
それを見上げながら、右手にもっていた『ソレ』を両手に持ち直し、正眼に構える。
ランプの明かりに照らされる、日本刀を。
「はぁぁぁぁっ!!」
きゅうりが自由落下を始めた瞬間。
裂帛の気合を込めて日本刀を振りかぶりっ
「八坂様っ!!」
神奈子のなお呼ぶと同時に、一閃。
するときゅうりは見事なほどに、縦に分かれ落下しようとするが――
早苗はそれを許さない。
「諏訪子様っ!!」
半ば刀に振り回される形になりながらも強引に刀の向きを変えて、横に凪いだ。
重心は崩れ、振り抜く速度も初撃に遥かに劣る。
しかし刀は正確にきゅうりを捉え、十文字に切り裂いた。
ぽたっ……ぽたぽたぽたっ
不恰好ではありながらも、きゅうりたちは綺麗にまな板の上に転がり。
無残に四分割された姿を晒していた。
「ふふふ、はははっ! やりましたよっ! やりましたあああああああぁぁぁっ!
諏訪子様っ! 八坂様っ! ふふ、あはははははっ!!」
その光景を見て、まるで狂ったように笑う。
そんな早苗を見ていた諏訪子は引きつった笑みを浮かべながら、くるりっと回れ右して。
「か、かなこぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!
さ、早苗がぐれたぁぁぁあああああああっ!!」
号泣しながらもう一人の神様の下へと駆け出したのだった。
その日の、早苗の日記――
料理は、大切な人への想い。が大事。
そんなことを考えながら家路について、さっそく咲夜さんの真似をしてお菓子や料理のアイディアを出しみました。面白いくらい出てくるのですが、再現可能かどうかがわからず。できそうなものから自分で試してみようと台所に行きました。
そのついでに妖夢さんの日本刀を使った料理方法も実践してみようかと思い。野菜を放り投げて振るを繰り返してみますが、そうそううまくいきません。何かが足りないのかなと考えて、大切なことを忘れていたのを思い出しました。
そうです。『想い』です!
八坂様の諏訪子様の笑顔を思い出して、集中したら、もしかしたら。
そう思って実践してみたら、初めて当たりました!
やはり想いの力は偉大です!
寝不足のせいで興奮した思考の中、練習を繰り返していると。
何故か八坂様と諏訪子様が急に台所に入ってきて。
必死に私に抱きついてきました。
「もういいから、もう絶対負担かけるようなことしないから元の早苗に戻ってっ!」
なんて不思議なことをおっしゃって。
やはり、幻想郷は常識にとらわれてはいけないのでしょうか。
いえ、もしかしたら、霊夢さんに相談した方がいいかもしれませんね。
何かの異変の前触れかもしれませんので。
あ、そうそう。
その後、お二人がその日本刀と料理方法を誰から聞いたのかと尋ねられたので、妖夢さんと答えたら。
「ちょっと出掛けてくる」
と、何故か真剣な面持ちでお出掛けしてしまいました。
きっと、日本刀のお礼をしに白玉楼へいったのでしょう。
さすが八坂様と諏訪子様、礼節を忘れない。立派な神様。
そんなお二人と一緒に、いつまでも暮らしていければいいな。
ほのぼのとした雰囲気とか、早苗が刀を振るって二柱の名前を叫びながら料理してる姿や早苗の日記など面白いお話でした。
脱字の報告
>料理の基本はまず配置ですね」
「 が抜けてますよ。
>思い返せば、確かに藍さん言うとおり。
『藍さんの』かと。
「さて問題です」など、非常に楽しい内容でした。
>このまま橙の期限が
→このまま橙の機嫌が
いや、ヒントのくだりとか笑いましたけどねw
よーむはしょくりょうりゅうつうのことをだれよりもしっているようですね
とおもったら、きっちり締めてきましたね。
妖夢逃げてタグは、中盤あたりですっかり忘れていましたが、ラストでなるほど、と納得。
ほかの方も書いてますが、ヒントのくだりは面白かったです。
あとは、狂ったように笑う早苗さんのところ。
でもやっぱりヒントのくだりが一番好きかな、とくに一回目のところ、ちょっとツボってしまった。
レイピアは華奢に見えて、きちんと鍛えたものならカボチャを貫通する威力があるらしいですよ
諏訪子さんなら帽子に似せたプリンを土台にして目をサクランボに
うわ、こわっ
神2「え、ナニソレ怖い、、、」
因幡「「「何か寒気が」」」
とかなりそうだ
>29
・・・それって結局、串の使い方だよね
・・・・・・ウン。
よし、いっちょ幻想になってみるか。
いい感じに常識を振り切るのでした。
ハッピーエン……ド……?
なお→名を
点数入れ忘れ
注連縄ドーナツ…それはもうポン○リングでh(