妖夢にとって、幽々子を起こすことは日課となっていた。
「幽々子さま、一体どうなされたのですか!」
しかしこの日、寝起きの幽々子を見て、妖夢は驚きを隠せなかった。
着崩れた着物から『こんにちは!!』している幽々子の"あれ"。
妖夢の視線は、"あれ"に釘付けとなってしまう。
別に『こんにちは!!』しているだけなら、妖夢も驚きはしなかっただろう。
だが、"あれ"はいつも見ているものとは全く違うものへと変貌していたのだ。
「ん~、どうしたのよ妖夢」
「ど、どうしたもこうしたも!!」
幽々子の声で我に返った妖夢は、それが夢であることを願い、
"ぐわし"
と、おもむろに幽々子の胸を掴んで、感触を確かめる。
むにむにと、妖夢の手に伝わってくるその感触は確かに幽々子のものだった。
「よ、妖夢?!」
幽々子が驚くのも当然だ。
突然胸を掴まれ、揉みしだかれて驚かない人はいない。
「幽々子さま……」
「あ、だめよ妖夢」
幽々子の制する言葉を無視し、妖夢は幽々子の胸の感触を確かめ続ける。
「よ、妖夢ったら……」
そして、一人で盛り上がっている幽々子を置いて、妖夢は存分に胸の感触を確かめた後叫んだ。
「胸が小さくなっています!!」
妖夢の言うとおり、幽々子のあれほど豊満に張っていた胸は、今や見る影もなく小さくなっていたのである。
「……」
「ゆ、幽々子様?」
「妖夢」
「は、はい」
しかし、自分のことはどうでもいいように、幽々子は妖夢の胸を指差す。
幽々子に指差された妖夢は、自分の胸を見て、先ほどとは比べられないほどの声量で叫んだ。
「な、なんじゃこりゃー!!」
妖夢の胸は、幽々子とは逆に大きくなっていた。
守谷神社でも、同じようなことが起きていた。
「す、諏訪子!」
「神奈子、そんなにあわててどうしたのさ」
「む、胸が……」
「胸がどうしたって?」
「わ、私の胸が小さ……?!」
自分の胸が小さくなっていたことに驚いた神奈子は、諏訪子にそのことを話に来たのだが、話している途中、諏訪子の胸を見て言葉を失った。
「どうしたの?」
「えーーーーー?!」
「うわっ! 神奈子いきなりどうしたのよ!」
やはり予想外のことが起きると、神でも驚くのだろうか。
存在をあまり主張していなかった諏訪子の小ぶりな胸は、たゆんたゆんとまではいかないまでも、
"見て! もっと見てぇ!!"
というように、胸は大きくなりその存在を主張していた。
「そ、その胸、いったいどうしたの?」
神奈子は聞くが、
「ん、別にいつもどおり変わってないけど?」
しれ、とそういい切る諏訪子の笑顔は、神奈子に意も知れぬ恐怖感を与えた。
「あ、いや、ごめん、私の勘違いだったようだ」
「そう、それならいいんだけど」
「ああ、すまなかったな」
これ以上諏訪子に胸の話をすることは危険と判断し、それならと、比較的安全であろう早苗に聞くことにする。
「諏訪子、早苗どこにいるかな?」
「ん、多分この時間だと外の掃除してるんじゃないかな」
「そうか、ありがとう」
神奈子はそれだけ聞くと、『本当になんだったの?』と不思議そうな顔をした諏訪子をその場に残し、早苗を探すべく境内へと急いだ。
諏訪子の言っていたとおり、早苗は境内の掃除を熱心にしているところだった。
そんな早苗に近づき、神奈子は声をかける。
「さ、早苗聞いて……く、れ?」
「神奈子様、なんでしょうか?」
だが、自分の胸のことを聞くため、早苗のところにきたというのに、振り返った早苗の胸を見て神奈子は言葉を詰まらせた。
「あ、いや、早苗なんか胸が……」
見た目はほとんど変わっていない。
変わっていないのだが、どう見ても早苗の胸は小さくなっていた。
「ああ、なんか気づいたら小さくなってましたね」
「え、気づいてたの?」
「はい、まあ胸が小さくなったからといって困ることもありませんから」
「確かにそうだが、少しは気にしないか早苗」
「この幻想郷では、常識に囚われてはいけないと学びましたので」
常識なんて投げ捨ててしまえ。
誰かがそんなことを言っていたような気がするが、今はそんなことはどうでもよかった。
胸が小さくなっていたり、大きくなっていたりすることは、常識云々以前の問題だからだ。
多分。
きっと。
そうに違いない。
神である自分が思っているんだ。
間違いない!
そう気を取り直し、神奈子はもう一度早苗を諭すことにする。
「でも早苗、少しくらいは気にしたほうが、女の子らしいというか、なんというか」
「神奈子様は、気にしすぎだとおもいますよ」
しかし、神奈子の言葉を早苗は大したことではないように、華麗に無視しながら境内の掃除を続ける。
「いや、しかしだな」
「神奈子様、しつこいようですが、気にしすぎです」
「でもなぁ、やはり気にするべきだと思うんだよ、私は」
「それでなくても早苗はそういうのに疎いからさ」
「だから……ん?」
「……」
「早苗?」
「……」
神奈子が何度も声をかけていると、突然早苗の口が閉ざされる。
「さ、早苗ちゃ~ん?」
無言で掃除を続けるその様は、先ほどの諏訪子と同じような雰囲気を醸しだしていた。
突然の豹変に戸惑った神奈子は、表情を確かめるべく早苗の顔を覗き見る。
覗き見たのだが、顔に浮かべている表情があまりにも衝撃的で、神奈子の体を一瞬にしてそのままの姿勢で固まらせてしまった。
神奈子が衝撃を受けるほどの表情、それは笑顔だった。
普通笑顔を作るときは、楽しいことや、嬉しいことがあれば作る表情だ。
なのに、その笑顔には微塵も楽しさや嬉しさという感情などなく、むしろその逆の感情である、悲しさや、怒りという負の感情が渦巻いていた。
覗くべきではなかった。
見てはいけないものだった。
「神奈子様」
「は、はい」
顔を覗き込んでいたまま固まっていた神奈子に、早苗が語りかける。
「神奈子様は少し気にしすぎです。胸が小さくなったからといってどうだというんですか。あれですか、予想以上に小さくなってしまった自分の胸があまりにも可愛そうだったんですか。誰かに話を聞いて欲しかったんですか。それとも自分の胸が小さくなったことより、諏訪子様の胸が大きくなったことのほうがショックなんですか。私に一体何を求めているんですか。胸ですか。胸を元に戻したいんですか。胸を元に戻して、自分の胸はこんなに大きいんだと自慢したいんですか。分かりました。大きくしてさしあげますよ」
神奈子はこのとき初めて気づいた。
早苗だって女の子なんだ。
なんだかんだ言っても、ちょっとした胸の成長具合に一喜一憂する年。
胸が小さくなって、なんとも思っていないわけがなかった。
常識に囚われてはいけないのですよ、と言いながら心の奥では血の涙を流していたに違いない。
そっとしておくべきだったのだ。
だが、時既に遅し。
神奈子は開いてはいけない扉を開けるどころか、力任せに御柱でぶち壊すようなまねをしてしまっていたのである。
早苗は満面の笑みを浮かべながら、神奈子を見てにこりと微笑む。
その笑みを見て、神奈子の背筋にぞくりと悪寒が走った。
「おお神よ、なぜ私を見放した!」
「神は神奈子様じゃないですか」
「ねえ早苗」
「お祈りは済みましたか?」
「ゆ、許して!」
最後の懇願。
もう神だのなんだの言っている場合ではなかった。
「だめです」
だが、早苗は無情な一言を残し、手をわきわきさせながら神奈子に迫り、
「あ、だめ」
「ふふふ、覚悟してくださいね」
「い、いやぁ!!」
悲痛な叫び声だけが妖怪の山に響き渡った。
ここまで来ると、もうある程度予想はついただろう。
この現象は幻想郷全土に広がる、原因不明の現象だったのだ。
そう、異変である。
そして、永遠亭でもやはりというか同じことは起きていた。
「え、永琳!」
「どうしました?」
「……」
「輝夜」
「……」
「輝夜!」
「え、な、何?」
輝夜は永琳の名前を呼んだあと、あいた口を閉めるのも忘れ、むにゅんむにゅんと永琳の胸を触っていた。
「何? じゃないでしょ」
そんな輝夜を見て、永琳は『この程度のくらいで』というような呆れた表情を浮かべる。
「だ、だって!」
永琳の表情をみて、大よそ言いたいことを悟った輝夜は、涙目を浮かべながら何かを言おうとするが、言葉はでなかった。
「輝夜、遠慮せずに言ってください」
「永琳の胸が、胸が小さく、うわぁぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁあああ!!」
「ちょ、輝夜落ち着いて!」
泣き叫びながら、輝夜は両手で胸を掴み上下左右に振る。
それはもう激しく。
「か、輝夜、や、やめなさい!」
されている永琳はたまったものではない。
必死で輝夜の手を離そうとするが、がっちりロックされていて外れなかった。
「あの大きな永琳OPPAIに顔を埋めるのが好きだったのに!! 枕にすると嗜好の時が過ごせたのに!! こんな中途半端な大きさのOPPAIなんて永琳じゃない!!」
「ちょ、胸が本体みたいにいわないでくれませんか」
「だって、だってぇ!」
「だってじゃありません!」
「えーりん! えーーーーーりん!!」
「そ、そんなに押し付けないで」
永琳の胸には、すでに感覚という感覚が消えうせていた。
それほど輝夜のOPPAI攻撃が強かったのだろうか。
いくら永琳が何と言おうとも、輝夜は手を離さず、いつしか永琳は胸から輝夜の手を外すことを諦めていた。
こうなっては、気の済むまでやらせるしかないと知っていたからだ。
「とにかく、原因を突き止めなければ」
永琳はそう決めると、自室へ戻るため、手を外せない輝夜を股下から引きずるようにして歩き出した。
どうしてそうなった?
向き合い、胸を掴んでいる状態で歩き出せば、当然そうなる。
歩き難かったが、永琳は進んだ。
輝夜は相変わらず、
「えーりん! えーーーーりん!!」
と名前を叫んでいた。
永琳の胸を上下左右に振りながら。
地底では、さとりとこいしが。
「ねえお姉ちゃん」
「なんですか、こいし?」
むにゅんむにゅん。
「んー、やっぱりおかしくない?」
「そんなことはないでしょ」
もにゅもにゅ、ぷるん。
「そうかなぁ」
「そうよ」
ぷるる~ん。
「お姉ちゃん」
「何?」
「何か、気持ちよくな「はい、ストップ」」
「あら、お燐、やっと突っ込んでくれたのね」
「さ、さとり様~」
さとりの言葉に、お燐はがっくりとうな垂れる。
どうやら、さとりはお燐が突っ込むのを待っていたようだ。
そのさとりとこいしが、何をしていたかというと、二人は向き合う形で立ち、お互いの胸を交互にもみ合っていたのである。
「でも、なかなか突っ込んでくれないから、私まで気持ちよくな「はい、ストップね!」」
「ふふ、お燐には洒落が通じないのね」
「洒落で済まさないでくださいよ!」
「まあまあ落ちつきなよ」
声を荒げるお燐を、こいしがなだめる。
「ちょっと、お空も何かいって! って何してんの?!」
「うにゅ?」
予想を遥かに上回るやりとりに、お燐はお空に助けを求めるが、お空には何のことか分かっていないようだった。
それどころか、お空はさとりとこいしを見ていたからなのか、自分の胸をむにゅむにゅと触っていたのだ。
だが、自分のを触っても何も得ることはなかったのか、声をかけたお燐の胸を凝視しはじめる。
「え、お、お空?!」
お空の視線に危険を感じ、お燐は逃げようと後ずさったが、一歩お空のほうが早かった。
にゅーん。
お空の左手が、お燐の胸を掴む。
にゅんにゅん。
「ちょ、ちょっとやめてお空!」
「ん~、お燐も触ってよ」
お空はそんなことを言いながら、左手を器用に動かしながら、右手が邪魔にならないようにして、お燐の体に自分の体を押し付ける。
「ふふ、楽しそうね」
「さとり様!」
「私達も入れてもらおうかしら」
様子を見ていたさとりが、にこにこと笑いながら手を伸ばす。
「え、ちょ」
「ふふ、大丈夫よ」
「何がですか?!」
不気味な笑顔を向けながら、さとりがお燐に近づく。
お燐は、そのあまりにも不気味な笑顔を見て逃げようとするが、足がまったく動かなかった。
いくらお空に体を押し付けられているからといって、一歩も動けないのはおかしい。
「お燐、大丈夫。お姉ちゃんはやさしいから」
突然耳元に吐息がかかり、背筋にぞくりと悪寒が走る。
「こいし様、何時のまに!」
「私の能力忘れたの?」
「あ……」
前門の虎、後門の狼とはまさにこのことをいうのだろうか。
しかも、虎は二匹だ。
お燐には、もはやなすすべはなかった。
「にゃぁぁぁぁぁ!!」
そして、お燐の叫び声が地霊殿に木霊したあと、さとり、こいし、お燐、お空が、無言で相互に胸を揉みあっている姿が確認されたという。
紅魔館では、家族会議、もとい主従会議が行われようとしていた。
「これは由々しき事態よ!」
ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がりレミリアが言い放つ。
それが会議の開始の合図となった。
「確かに、由々しき事態ね」
賛同するように立ち上がるパチュリー。
「由々しき事態ですね!」
「由々しき事態~♪」
それに続くように、美鈴とフランが賛同し立ち上がる。
そんな中、賛同しないものが一人。
会議が行われることになった経緯の中心人物。
レミリアの従者、十六夜咲夜は賛同することなく、澄ました顔をしながら席についたままだ。
「咲夜! なぜこの由々しき事態に澄ました顔ができるの?!」
「お嬢様、言わせていただきますが、こんなこと大したことではないですよ」
「馬鹿な!」
咲夜の言葉に、レミリアはギリリと唇を噛む。
その表情からは、もはや主の威厳など損なわれ、ただの苛立ちのみを残していた。
「馬鹿も何も、特に問題はないですよね?」
「問題ない……だと?!」
「はい」
澄ましたままの表情は崩れることなく、咲夜はひょうひょうと言いきる。
「問題ありありだろう!! こんな小さなフォルムの体にこの大きさの胸。まったく釣り合わないし似合わない!」
「お嬢様自分で言っていて、何か悲しくなりませんか?」
「くっ…!」
「か、悲しいわけなどない。貧乳はステータスだ! 希少価値なんだぞ!」
どこかで聞いたような台詞。
そういえば、貧乳が希少価値なら、巨乳は資産価値だとも聞いたことがあるが、実際どうなんだろうと、咲夜は考える。
「ですがお嬢様、私だってこれでも少しは大きくな」
「ふふん、咲夜こそほんとは、自分だけあまり変化がないから悲しいんでしょ!」
ビキ。
「ん、何?」
咲夜の言葉を遮って放たれたレミリアの言葉に、突然回りの空気が凍りつく。
「お嬢様……」
「な、何よ! 皆もそうおもってるはずよ!」
「皆ってだれですか?」
「そりゃもちろん……」
レミリアがそう言いながら、周りを見回したが、そこにはパチュリーやフラン、美鈴の姿は既になかった。
まるでマジックのように、そこから消え去り、残されていたのはレミリアと咲夜だけだった。
「え、え?」
「さあ、お嬢様」
「ちょ、ちょっと待って咲夜」
「待ちません」
咲夜がそう言った瞬間、時が止まった。
自分だけの世界。
その世界を咲夜は歩く。
カツカツと、音を鳴らしながら歩く。
時が止まった中で音など鳴るわけもないのだが、気分は大事だ。
数歩動いたところで、咲夜はレミリアの正面へと辿り着く。
そしてレミリアの正面にたった咲夜が両腕を伸ばし、あるものに触れた瞬間時が再び動き出した。
「え、あれ?」
レミリアがうろたえるのも当然だろう。
先ほどまで咲夜が視線の中にいたはずなのに、今の視界は黒に近かったから。
「お嬢様」
「へ?」
なぜ視界がそんな風になっているのかに気づいたときには、手遅れだった。
「夢の国へランデヴー!!」
「ちょ、意味が分からない!!」
その後、主と従者がどうなったのかを知るものはいない。
誰しも、わが身の命は惜しいのだ。
知っていても、それが語られることはないだろう。
命蓮寺では、聖が星の部屋へときていた。
「ひ、聖?!」
聖は、星の顔を見るなり、突然ほろほろと涙を流し始める。
そんな聖を見て、星はどうしていいか分からず、おろおろとするしかなかった。
「星……」
「聖、どうしたんですか……」
スンスンと鼻をすすり、涙目のまま星の顔を見る。
ドキン。
その顔をみたとたん、星は自分の胸が高鳴るの感じた。
「落ち着いてください」
星はそう言いながら、やさしく、やさしく、聖を抱きしめ……、
「あれ、聖胸小さくなった?」
「?!」
星の言葉に、聖は突然顔を上げ、
「うわぁぁぁぁぁあん!!」
子供のように大きな声を出し、先ほどとは比べられないほどの声量で泣き出す。
「え、何?!」
「星のばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ぁぁぁぁぁああああああ!!」
そして、ドップラー効果よろしく、聖はものすごい勢いでナズーリンの前を走り抜けていった。
「え? え? なんで?」
「さすがご主人、その天然さは罪だね」
そんな様子を見ていたナズーリンは、小さくつぶやきその場を後にした。
「で、こんなに一杯集まったわけね」
縁側でのんびりお茶を啜る霊夢。
その縁側の前には多種多様の人妖が集まっていた。
「霊夢! これは異変よ。なぜ動かないの?!」
レミリアが
「そ、そうです。あなたが動かないというなら私が!」
妖夢が
「永琳のOPPAIを助けてあげて!」
輝夜が
「私の胸をなんとかしてくれ!」
「霊夢さん、これは異変ですよ……なぜ動かないのですか!」
神奈子と早苗が
「お姉さん、なんとかしておくれ!」
お燐が
「なんかよく分からないが、なんとかしてくれないか」
星が
理由はそれぞれ違うが、訴えることはみんな一緒だった。
それは、霊夢に異変解決をさせようとすること。
だが、霊夢はお茶をすすりながら、
「そんなこと言われてもね」
言いながら、後ろのほうへ視線を送る。
「もちろん、このままで言いに決まってるよ!」
諏訪子が
「はい、これは異変ではありません」
咲夜が
「そうよね。異変なんて起こっていないじゃない」
諏訪子と咲夜の言葉を受け取り、霊夢はレミリア達のほうへ向き直りそう言う。
数は少なく、どう考えても霊夢側が劣勢だったが、数など関係なかった。
博麗の巫女である霊夢が動かないとなると、どうすることもできないのだから。
いや、もちろん動くこと事態は可能だろうが、霊夢が異変ではないと言い切ったということは、もし動いてそれを異変だと言って霊夢に動かれては面倒になる。
「ちょっと咲夜、なぜあなたがそっちにいるの!」
「諏訪子、お前一体どういうつもりだ!」
関係者から声が上がる。
「お嬢様! 私は自分のことよりなにより、今のお嬢様を堪能したいのです!」
「うそつけぇ!!」
「諏訪子なぜなんだ!」
「神奈子、これはね異変でもなんでもないんだよ、言葉を借りるなら、まさに"運命"とだけいっておくよ」
「……」
霊夢は何も言わず、咲夜と諏訪子を見守っていた。
霊夢には自信があったのだ。
咲夜と諏訪子が、簡単にあちら側へはいかないであろうことに。
何せ自分ですら、これは異変ではないと言い切りたいほどなのだから。
胸が、少し大きくなっただけで、ここまで自分のために動けるとは思っていなかった。
そして胸が大きくなったことに感謝した。
犯人なんて分かりきっていたが、動くつもりは毛頭なかったのだ。
「ごめん、早苗……」
「諏訪子さま分かってくれたんですか!」
「すいません、お嬢様……」
「さすが咲夜ね、懸命な判断だわ」
「うぇ?!」
だが、咲夜と諏訪子の口から出た言葉が予想外で、自分の世界に浸っていた霊夢の口から、なんともいえない声が漏れる。
「ちょ、え? えぇ?!」
「ごめんね霊夢、やっぱり早苗には嫌な思いさせたくないんだよ」
「私が信じるものはお嬢様以外にありえません」
霊夢には何がおきたのか分からなかった。
咲夜と諏訪子を動かしたものとは一体なんなのだ。
「早苗、これからは毎日一緒の布団で寝てね!」
「お嬢様、ちゃんとドロワーズくださいよ、もちろん脱ぎたてたのやつ!」
「お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙」
霊夢の口から、嘆きの声が溢れ出す。
「じゃあ、異変解決よろしくね」
口々にそう言ったあと、多種多様の人妖は散り散りとなった。
後に残されたのは霊夢だけ。
あれだけ騒がしかった神社が、一瞬にして静寂に包まれる。
「……」
なぜか分からないが、霊夢の目じりには涙が溜まっていた。
そして、
「うわぁぁぁぁん!! 紫のあほぉ!!!!!」
そう叫びながら、霊夢はマヨヒガへと飛び立った。
おわれ。
なんかこういう異変おこすのは一人ぐらいしかいないからオチがわかっちゃうんだな
『にゅんにゅん』とか効果音がもう…もうね……
このネタは難しいな。
オチが読めちゃうのはしょうがない。こういうネタの場合、過程が大事だと愚考。