Coolier - 新生・東方創想話

とある現実<こちら>の観光ツアー?

2009/05/28 02:31:40
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-Welcome to this crazy time!


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「さて」
がやがやとしたトーキョー・メガ・シティの雑踏の只中で、神様が二人、巨大なビルの狭間に紛れ込むようにして立っていた。
「また戻ってきたわけね、麗しのこちら側へ」
立ち並ぶ高層ビル群は、そのほぼ七割が《ザイバツ》と呼ばれる情報テクノロジー産業複合体の物だ。
ザイバツは広大なネットの実権を、アメリカの超巨大企業連合体《ニューロマンサー》とほぼ二分していて、その富はこの国-もしかしたら、あらゆる国の-の単年度予算よりも大きいと言われている。
また、彼らが抱えるニンジャ部隊-普段はスーツを着た普通のサラリーマンとして活動している-は、一切の遺伝子操作が為されていないにも関わらず、小規模戦闘ならば-特に、一対一に限れば確実に-米国が抱えるブーステッド・マン部隊を超えて、世界最強だと言われている。
「…あれ?ねえ、こっち側ってこんな世界だっけ?」
「前からこんな世界だったじゃない。ううん、よく覚えてないけどきっとそう」
まだ幻想殺しの術式が完成していない所為か、未だこちら側では幻想でしかない彼女達二人の姿は、周囲の目に止まる事はほとんどない。
一人だけ、スーツを身に纏ったサムライが、彼女達の発する異様な気配に気付いたらしく、彼女たちの方をじっと見つめていたが、しばらくすると再び歩き始めた。
日本の総人口の約7%はサムライだ。しかし彼らは日頃の研鑽の賜物を、ニンジャと同様にその身にスーツを纏うことで隠し、その牙は必要と判断された時しか剥かれる事はない。
一説によれば、カタナを持ったサムライ一人を殺害するのには、銃火器を持ったブーステッド・マンが二十人かそれ以上必要だとも言われている。《ニューロマンサー》がこの国に手を出さない理由がここにある、と《ザイバツ》の軍事部門統括AI《ビシャモン》は分析している。
「そ、そうだったかなぁ…こんなのだったかな…言われてみればそんな気も…」
異様な気配に飲み込まれつつも、二人の神様は歩き始める。早苗が居ないとなると、下界に降りた時に何をすればいいのか分からない。
ビルの壁に嵌め込まれた巨大なモニタが、ザイバツが新たに着手し始めたセンダイ・シティのアーコロジー計画について喧伝している。続くのは最上層の分譲の宣伝だ。
「しかし相変わらず信仰心の欠片もないわね、この世界は」
「あ、あそこにまだ神社が残ってるわよ」
日本から幻想が失われて久しいとは言っても、彼らはこの古き良き習慣にはまだ敬意を抱いているらしく、これが早朝ならば、カンヌシと呼ばれる管理者が掃除をしているのを見る事が出来ただろう。
「…麓の巫女の所よりは丁寧に掃除されてるわね、よく出来ましたと」
少しだけゴリヤク-祝福の事だ-を分けて、二人は雑踏の中を進む。
「とりあえずご飯食べたいなぁ…でもそう言えばお金がないか」
「…さっきの神社から頂いて来るとか?」
神社にはサイセン箱と呼ばれるチップを入れる箱があり、日本人は噴水にコインを入れるようにして、神様にチップを渡してゴリヤクを受け取るのだ。
「まあ、神様だからしばらく飲まず食わずでもいいよね、うん」
と、諏訪子はとても本気な神奈子を宥めて、当ても無く再び放浪を始める。
再びザイバツのコマーシャル映像が、巨大ビルの中腹部に流れていた。トーキョー・メガ・シティの中心部ならば、一分も歩けば必ずこのような巨大モニタを目にする事が出来る。
「しかし本当に煩い街ねぇ…あの子の術式が完成したら皆こっちに来る筈だけど、この有様をどうすればいいのやら」
「あ、でもアレは面白そう!ねえ神奈子、あの映画見たい!」
画面いっぱいにハリウッドで製作された《ハイペリオン》と言うSF映画のタイトルが映し出されている。
けれど、こちら側の映画はサイバースペースにジャック・インした後で、生体認証を経てクレジットを払い、電脳の中で楽しむと言う方法しか無い。少なくとも、最新の映画は。
なので、神様には見れないのだ。
それ以前に、神様二人にはその方法とか見方とかそれ自体が理解出来ずに、早苗が「しばらくしないと見れませんよ」と-数時間にわたる必死な説明を経て-言った言葉を信じて、諦めていた。
…今までは、諦めていた。だがしかし、とてもヒマな今ならば。
「あの時もっと早苗の説明を聞いておくべきだったわね…」
「大丈夫、やれば出来るよきっと!と言うわけでそこなニンジャさん、ちょっとお聞きしたいのですが」
突然姿を現した二人に、哀れなそのニンジャは5mほども一気に後方へ後ずさり、ナイフ-より正確に言えば、カタナと同じやり方で作った、恐るべき切れ味を誇る《コヅカ》だ-を取り出した。
「あの映画はどうすれば見れるのか教えなさい」
ニンジャは、気圧されていた。ただの変な格好をした女にしか見えないのに、その女が発する威圧感は、シグルイ-半狂乱と必死とが合わさった状態だ-になったサムライよりも恐ろしい。
懇切丁寧に、ニンジャは説明を始めたが、結局五分ほどで神様二人は映画を諦めた。現れた時と同様に、突然姿が消えた二人を目の前に、ニンジャは出家して禅の道へと向かおうと決めた。
「…早苗が居ないと本当に何も出来ないわねこの街は」
街が悪いのではなく神様二人が場違いなだけだったが、二人の中では街よりも神様の方が偉いので、神様が楽しめないのは街の方が悪いのだった。
「うーん…それじゃあ京都にでも行ってみる?」
少なくともキョート・シティならばトーキョー・メガ・シティよりはマシだろう、と二人は思う。あそこには神社仏閣がまだ残っていて、ザイバツも文化・景観保護の為に高層ビルは建てずに、平屋建ての古風なオフィスを建てている。
見た目だけは、古風な平屋建てだ。実際は地下に-大きさならば日本でオーサカに次いで二番目、世界でも四番目の-アーコロジーが丸々収まっており、平屋建ての家屋は大抵は地下への入り口に過ぎない。
「確かに落ち着くけどねぇ…地下にさえいかなければ」
「そうね。…地下にさえいかなければ」
キョート・シティの地下は、トーキョー・メガ・シティの地上よりも入り組んでいて、更に地下となると空を飛ぶ事も出来ないから、以前修学旅行の早苗に付いていって迷子になった時は酷い目にあった。
三日ほど彷徨った挙句、地上への入り口を見つけた後で、ようやく天井をすり抜ければよかった事に気付いたのだ。ちなみに早苗は薄情にも先に帰っていた。いや、日程上仕方ないのだが。
その時の事を思い出して二人がちょっとブルーになった所で、
「あら、こんな所で会うとは奇遇ね。あ、喉が渇いたからトマトジュースお代わり。早くなさい豚ども」
「あ、私はケーキが食べたいな、そこの豚さん」
きゅうけつきたちが あらわれた!
「了解致しました、お嬢様」
しかも何故か人間の男を十人ほど奴隷にしていた。
「高圧的な幼女はぁはぁ…」
「罵ってください!もっと罵ってください!!」
「十二歳から上は年増ですよねー」
「ないわー…九歳から上はアウトだろ常識的に考えて…」
とても危ない人たちだった。
「な、何よこれは…何と言う厚き信仰心…!」
神様二人は自ら姿を現そうとしないと一般人には見えないのに対し、レミリアとフランドールは普通に見えているらしい。
幻想の幼女への信仰心-もしくは吸血鬼への、かも知れない-が高まりすぎた日本ならではの現象であった。ちなみに付き従っているメイド隊も、メイドへの信仰心のお陰で目立っている。
『あのー…私の事見えてます?』
そう声をかけられた気がして神様二人がそちらへ目を凝らすと、門番が何とかかろうじて微かにギリギリで見える。神様二人ですらこれだから、現実の住人にはまるで見えていないだろう。
勝ち負けの問題ではないが、勝ったと神様二人は思った。レミリアやフランドールには完敗だった。
「まさか咬まなくても奴隷に出来るとは思わなかったわ。さっき食べたランチも美味しかったし。こちらはとても過ごし易いですわね」
「そ、そうね、ランチも美味しいしとても過ごし易いですわね」
まさか神様が吸血鬼風情よりも影が薄いなどと、そんな事を悟られてしまったら神様の威厳が色々と大変な事になってしまう。なので咄嗟に神奈子は言い繕った。
「あ、あの映画が見たいわ。そこの豚、なんとかなさい」
「了解致しました、お嬢様。私どもはお嬢様方専用の卑しい豚でございます」
「それでは、御機嫌よう、お二方」
『あの…見えてますよね?見えてるって言ってくださいお願いしますー!』
色々とダメダメな集団が去って行った。諏訪子は「ごはん…えいが…けーき…じゅーす…」と哀しげに呟いた。
「我慢よ、我慢するのよ諏訪子…泣いちゃ駄目…もうしばらくの辛抱よきっと…」
神奈子も諏訪子もしばらく上を向いて歩いた。涙がこぼれないようにである。見上げたトーキョー・メガ・シティの空は、空きチャンネルに合わせたテレビの色をしていた。


******


慧音はキョート・シティの広大な地下空間に紛れ込み、何故自分がこんな場所に居るのかを見失っていた。
こちら側の歴史にアクセスしたが、全く理解出来ない。あちら側と進歩のスピードが違いすぎて何が何だか分からないのだ。
《蒸気王》までは或る老人の歴史を通して知っていたが、《鋼鉄技師》の技術辺りから訳が分からなくなり、シャンハイ・シティの《青雲幇》の躍進とそれに伴うサイバネティクス技術の進歩、だが一人の生身の男-カタナを携えたチャイニーズ・マーシャル・アーツの使い手だ-によって《青雲幇》が滅ぼされ、続いて《ニューロマンサー》の前身である《T・Aカンパニー》と《ザイバツ》が台頭する、その後に始まったチューリングとAIの戦いについてはもう完全についていけなくなっていた。
現在は《T・Aカンパニー》は《ニューロマンサー》へと姿を変え、《ザイバツ》と合わせて世界の富の七割を握っている。残りの三割の内二割は、軍産複合体であり、世界で唯一完全な無政府資本主義社会を成功させている《ACカンパニー》、通称《モエかん》が握っており、これからこの企業は《ザイバツ》と提携を強めて更に成長すると見られている。
この二つの会社が、未だ手が付けられていないニンジャやサムライのDNAマップに介入する事で、人為的にタツジン-日本にもほんの一握りしかいない、素手でブーステッド・マン500人に匹敵する戦士だ-を作り出そうとしている、とは目下の噂である。
余りのアレな《現実》を目の前にして、慧音は湧き上がる頭痛をなんとか抑え込み、とりあえず自分が今居る場所についてだけ、検索する。
アーコロジー・キョート。その名前が帰ってくる。キョートとは京都の事だろう。となると、知っている建築物の一つや二つは見当たりそうな物だが…
アーコロジーとは何だろう、歴史から検索すると、どうやら割とポピュラーな建造物であるらしく、日本に幾つも点在している事が分かった。
ようは大きな建築物の中に人が住んでいるだけなのだ。ただ、とてつもなく大きいだけで。
その大きさに目を回しそうになりながら、慧音は此処が地下である事も何とか理解し、地上に出ようとする。地上には歴史的建造物は未だ残っているらしく、ならば是非とも目に収めておきたい。
ふと、歴史から彼女が知っている神様二人の履歴が浮かび上がってきた。三日かけて、この地下から脱出したらしい。
三日。
………。
同じ道をたどれば、少なくともそれよりは早く脱出できるだろうと、そう慧音は思って、神様二人が利用したのと全く同じ出口を探し歩き始めた。
広大なアーコロジーの中を、すぐ傍に幾らでもある出口に気付かずに、ただ一つしかないその出口を目指して。


******


パチュリーは小規模大図書館<ミクロ・メガ・バンク>の、無線アクセスポイントで、備え付けられたオノ・センダイ製のPCを開き、情報を検索、サイバースペースへのジャック・インを始めた。
そこはパチュリーにとって夢のような空間だった。
ザイバツとニューロマンサーが結託して作り上げたネットワークは、《ペイ・フォワード》の精神を体現した形だ。
誰かが情報を欲した時、その要求は他の誰かに伝わり、その誰かが持っていないならば更に他の誰かに伝わり、これが繰り返される。
そうしてその情報に辿り着いた時、その情報はまた他の誰かに伝わり、他の誰かを介して、欲していた人物の元へと伝わってくる。
もちろん、欲していた人物も、そのネットワークの中に加わり、他の誰かの手助けをする。それが光の速さで行われる。
無限とも思える情報量が、一瞬の内に飛び交うのだ。
パチュリーは情報をPC任せにせずに、自分の能力で処理する。本来ならばどのようなPCにも必ず存在するプロテクト、侵入対抗電子機器<ICE>によって、欲していたのとは違う情報は除外され、常に別の領域で処理される筈だが、パチュリーはそれをしない。
その行為は、クラッキングとも呼ばれている。たった今通り抜けたその言葉を、パチュリーはいたく気に入った。
凄まじい勢いで、パチュリーが新たな知識を蓄えていく。
こちら側もそう悪くはない、とちょっとした息抜きにハイペリオンを-クラッキングによって無料で-見ながら、パチュリーはそう思った。


******


「な、な、な、」
「なまにく?」
「誰ですかそれ。ってそれよりなんですかこれー!」
トーキョー・メガ・シティの灰色の空に、二人の天狗が浮いていた。
「いや、あそこの《てれび》に写ってたんですよ、なまにく」
「だから誰なのよそれは。と言うかスクープです、スクープです、スクープだらけですっ!」
ザイバツの高層ビル群を見た途端、歓喜の悲鳴を上げて、鴉天狗がカメラを取り出そうとしたが。
「…あ」
そう言えば、カメラは河童に預けてきたのだった。
「スクープが…スクープがぁぁ…」
追い討ちをかけるように、写真もなくしている事に気づいた文は、高層ビルの屋上に座り込んで、いじけ始めた。
「うう…あの写真をなくすなんて…」
「………」
どうやらカメラで撮れない事よりも、子供との写真の方が大事らしい。とても意外だった。
「それにしても…」
嫌な空だ、とザイバツのビルの屋上で椛は思う。灰色に燻る汚れた空。酷い臭いで満たされた空。こんな空は飛びたくない。
だから神様二人は幻想郷に来たのだろうか。
「まあ、それはそれとして」
文は早くも立ち直り、現在の状況をメモし始めた。写真は持ってこれなかったのに手帖が無事なのはどういう事なのだろう。
「こっち側がこんなに変な世界だったとはね。これがあの老人が話したがらなかった理由ですか」
「私はもう鼻が痛くなってきました…幻想郷の空が懐かしいです」
「そんな事はどうでもいいから早速調査開始よ、椛!」
嬉しそうに鴉天狗が駆けて行く。
「…皆と合流しなくていいんでしょうか…?」
と、椛は疑問を声に出しつつ、それに付き従った。


******


彗星の如く現れた謎の美女が、大食いの世界タイトルを保持していたコバヤシ・シロタを打ち負かしたと、大会運営スタッフがそう理解するのには時間がかかった。
大食い界のサムライとも言われた元タイトルホルダーの日本人の胃袋は、巨漢の白人-ブーステッドされた、かも知れない-のそれを二つか三つ合わせた様な容量を持っていた。だと言うのに、その女はコバヤシ・シロタをノックアウトしたあとも素知らぬ顔で食べ続けている。
誰もが凍り付いていた。誰もが恐怖し、畏怖していた。
早くも世界一のタイトルを手にしてしまった西行寺幽々子は、しかしまだまだ食べ続ける。
とりあえず、ご飯がいつもこんなに食べられるなら、こちら側もそれほど悪くはないと、そう思いつつ。


******


「…ごはん…じゅーす…」
ビルの中腹に、美味しそうに大量の食物を摂取する西行寺幽々子の姿が映っていた。大食いの世界大会で優勝したと報じられている。
二人は飲まず食わずで、二日も放浪している。
「泣いちゃ駄目…泣いちゃ駄目よ…」
だが涙はもう上を向いても効果がないほどにダダ漏れだった。あれから吸血鬼にも何度か出会ったが、会う度に奴隷の数が増えていき、最後に会った時は御輿に担がれて王侯貴族のような暮らしぶりをしていた。
パチュリー・ノーレッジも、卓越した-魔術交じりの-クラッキングによって、多額のクレジットを-勿論違法に-手に入れており、神様二人が見た時はゆったりとくつろぎながら食事をしつつ映画鑑賞を楽しんでいた。
天狗はそれほど良い暮らしぶりはしていないが、上手く吸血鬼や引きこもりにタカる事で、食事にも娯楽にも不自由はしていないと、神様二人の惨状を知った上でわざとらしく話した。
「早苗…どうしてるのかしら…」
「うう…早苗がこんなに大事な存在だったなんて…下界って世知辛い…!」
温和な巫女の大事さを二人はよく思い知った。まさかこんな訳の分からない世界の荒波から二人を守っていてくれたなどと思いもしなかったのだ。
「えいが…けーき…」
一昨日からほとんどそれしか言わなくなった諏訪子の呟きが、灰色の空へと飲み込まれていった。


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アーコロジー・オーサカの最下層付近は、半ばスラム化していて、とても犯罪率が高い。
そして正義感が強い妖夢がそのような悪を見逃す筈もなく、何だかよく分からない内に人助けに追われまくり、当て所も無く治安向上に貢献していたら、ようやく同じようにこちらに流れてきていた天狗と出会い、
「幽々子様が…世界一にっ…!?」
伝えられたのが、幽々子が大食いで世界一に輝いたと言うニュースである。ちなみに天狗は早くも独自のネットワーク-パチュリーのアドバイスによる所が大きいが-を構築し終え、こちらの世界に適応しつつある。
「って世界一の重みがよく分からないのですが…」
斬りかかって来た悪漢-日本の伝統的マフィアである《ヤクザ》だ-を適当にあしらいつつ、妖夢は天狗に幽々子の居場所を尋ねる。
「にゅうようく・めが・してぃ…?」
何処だろう。と言うか明らかに一人だけ所在が日本じゃない。新たに現れたテッポウダマ-ヤクザによって作り上げられた、正に一個のバレットのような恐るべきバーサーカーである-相手に無刀取りをかましつつ妖夢は困っていた。


******


「シンジュクには物凄く強い煎餅屋の糸使いが居るらしいですよ」
「また凄くどうでも良い事を伝えに来たのね」
こっちはお腹が空いているのに、と声に出さずに神奈子は思った。
「ごはん…けーき…じゅーす…えいが…」
横でダダ漏れだった。
「兎たちは何処かの山奥の…こっちにもまだ自然があるんですねぇ…ああ、すみません。兎たちは何処かの山奥の竹林にすぐさま永遠邸を再建して、お姫様は凄く手馴れたやり方で、寝転がりながら《いんたーねっと》を楽しんでいるそうです」
それもどうでもいい。と言うかそれはいつもと何かが違うのか。
必要なのは早苗だ。早苗が必要なのだ。
「ええと…早苗の様子なんか分かったりはしないの?その《いんたあねっと》とかで」
「さあ…そこまでは。ああ、今の所最後に倒された兎たちは、『きたないな流石幻想殺しきたない』、『あまりにもひきょうすぎるでしょう?』等と供述しており、あちら側での行動は順調のようです」
…順調。
順調だと言う事は…術式の完成まで、早苗は来ないと言う事になる。
つまり、
「…ごはん…」
が、あと三日か四日は食べられないと言う事だ。
………。
「…紫、頼んだわよ」
受け入れられない。もう我慢の限界だ。
「私のご飯の為に…!」
そう、神様の中では、幻想の保護よりも自分のご飯の方が圧倒的に大事なのだった。
「そんな事を言ってると帰す気もなくなるわね」
そして丁度その時、あちら側での事を済ませた紫が現れる。
「紫…!ご飯!」
違う。ちょっと間違えた。
「…早苗はどうしてるの?」
「…ただ今向こうに帰しますわ、皆まとめて、ね」


******


…着いた。
間違いない、此処だ。此処こそが地上への扉であり、ようやくキョート・シテ…間違えた。京都の素晴らしき歴史的建造物の数々を目にする事が出来る。
長かった。ただひたすらに長い道のりだった。ここまで来る間に少しこちらに染まりかけるくらいに。
慧音は深い感銘に包まれながら平屋建ての引き戸をガラガラと開ける。何故かこんな所だけはローテクなのだ。そしてその先には…
………。
幻想郷だった。
戻ってこれたのだ。きっと紫とかのお陰で。
………。
感謝、すべきなのに。
それは分かっているのに。
なんだろう、この、
ふつふつと、
ぐらぐらと、
ぎゃらっしゃーと、
なんだか最後は変だったが、とりあえず湧き上がる、この感情は。
「………」
満月でもないのに、にょきにょきと角が生えた。
そして、慧音は…


******


この後、ぎゃらっしゃーとか叫ぶ白沢の鎮圧に、あちらから帰ってきたばかりの幻想郷の住民全員が駆り出されたが、それはまた別のお話、いつかまた、別の機会に話すとしよう。


******


がやがや。がやがや。
『…あれ?レミリア様?フラン様?皆さん一体何処へ?』
あと、トーキョー・メガ・シティの雑踏の中に、紫に認識されなかった幻想が一人、うっかり取り残されていたり。


******
だいたいあってる(この作品の内容の方の方言でこんにちはの意味)

最後までお付き合い下さりありがとうございました。
初めましての方ははじめまして、そうでない方はにとり+で嘘屋でスティーブン・キングな自分のSSを再び手にとって下さりありがとうございます。

大体合ってるお話でした。大体合ってたと思います。
トーキョー・メガ・シティ。アーコロジー・オーサカ。アーコロジー・キョート。ニンジャ、サムライ、ヤクザ。あとザイバツとかニューロマンサーとかブーステッド・マンとかジャック・インとかモエかんとかシグルイとか鬼哭街とか。この世界の歴史と大体似てましたね。大体。
きっとこの後ジーザスメリーチェインとか朱キ日とかで日本人がほぼ絶滅して残り少ないジャパニーズはいつまで経っても出てこないあの男を捜してレッツロックですよ、半裸とか暗器とかで。あとイカリ。歴史って凄いですね。

没タイトル
東京都憂愁~トーキョー・メガ・シティ・ブルーズ~
理由:トーキョー以外も出てくるから。ぎゃふん。

とりあえず、書いてて物凄く楽しいSSでした。大体現実を描写してるだけなのに。
それでは、また機会があれば次も読んでいただけると嬉しいです。
目玉紳士
[email protected]
http://medamasinsi.blog58.fc2.com/
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コメント



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3.無評価名前が無い程度の能力削除
言いたいことは色々あるけど「だいたいあってない」とだけ言っておく
5.無評価薬漬削除
上に同じ
8.70名前が無い程度の能力削除
あえて言うが・・・
嫌いじゃないぜこういうの
11.50名前が無い程度の能力削除
どことなくディックっぽいかも。嫌いじゃないです。
13.80名前が無い程度の能力削除
ニトロ臭とかSF臭とかアメコミ臭とか大好物の色物が混じり合ってるので思わず100点入れようかと思ったが
常識的に考えてだめかもしれないので80点をつけさせていただく。
14.80名前が無い程度の能力削除
外伝とかスピンアウトとか攻略不可なキャラとか裏話の方が
分かり易く想像しやすいってのは2次創作めいていますね