Coolier - 新生・東方創想話

幻想恋愛理論 ~ Fantasy Love Story

2010/09/26 16:48:19
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1.Wait just a minutes
時を永く感じる魔法

静かな部屋の中。
私は一人、窓の外を眺めたり、両手をくっつけたり離したり……
このわずらわしい時間が早く過ぎ去るのを待っていた。

でもなんて言うのかな……ちょっと、変なの……。
時が過ぎ去るのを待ち望んでいるのに、心のどこかでは『その時』がまだ来ないで欲しいと願ってる……。
ものすごく、安易で判りやすい言葉を用いれば『期待と不安』って言うのかなぁ。
だけど、私の中にある感情は、そんな簡単な言葉では言い表せないの。

窓の外を眺めるのは、時が過ぎ去るのを待つため。
でも、両手をくっつけたりするのは、その後に来る不安を紛らすため。

時が速く過ぎ去れば良いのに……だけど、まだその時は来ないで欲しい……。
まだ……私には心の準備が出来て居ないから……。
私には……まだ……。

「やぁ。お待たせ、メリー。待った?」
「5分17秒の遅刻」
「今日ばっかりは勘弁して欲しいな。あの教授の講義、無駄に長くなるんだ」

5分17秒……。
そうか、あの時間はたったそれだけでしかなかったんだ。
でも、私にはとてもそう感じられなかった。
あの、5分17秒は永遠のように永く感じられた……。


誰も居ない静かな部室で、私は一人色々な事を考えていた。
とても、たった5分17秒でアレだけの量を試行錯誤していたなんて、今でも信じられないけど……。

「メリー、今日の目的地なんだけどね……」

私の相棒、宇佐見蓮子は楽しそうに一枚の写真を見せてきた。

ああ、ここに居るのはいつも通りの蓮子だ。
あの笑顔も、しぐさも、表情も……。
何もかもが、いつも通りだった。


「ねぇ、メリー。聞いてるの?」
「えっ?う、うん、もちろん聞いてるわよ」
「それは良かった。てっきり、もう夢と現の境界を失っちゃったのかと思ったよ」

どうして、蓮子はこんなにも楽しそうなのだろうか……。
私には、それが理解できなかった。
だって……。

「だからさ、秘封倶楽部の『最後の活動』にはもってこいの場所だと思わない?」
「……そうね」


2.夢と現の境界線
Border of Dream

寒い冬も、もうすぐ終わりを告げる。
冬が終われば春が来る。
春が来る頃には、私達は大学を卒業してしまう……。

卒業したら、私は京都のとある企業で働く事になっている。
でも蓮子は、卒業と同時に東京へ帰る。
蓮子は東京で、物理学者として働くのだ。


元々、蓮子が物理学者を目指していたのは、彼女の母親に影響されたからだった。
蓮子のお母さんも物理学者で、その筋では名の通った人だ。

蓮子がわざわざ京都の大学に通っているのは、東京よりこちらの方がより本格的に物理の勉強が出来るからだ。
そして蓮子は、母親の下で研究を手伝う日々を夢見て、京都で必死に勉強していた。


憧れだった母の下で働ける……蓮子は、これ以上ないぐらい嬉しそうだった。
でも、正直私はそんな友人の幸福を素直に喜んであげる事はできなかった……。

蓮子が東京へ帰る……。
それはつまり、蓮子と別れなければならないと言う事だ。


そりゃぁ、今の時代、卯酉新幹線を使えば東京と京都なんて53分で行けてしまう。
それに、私は蓮子の実家だって知ってる。
もう二度と会えないわけじゃない……わけじゃないけれど……。
でも、気軽に会う事は出来ない。
そもそも、私だってこっちの方で忙しくなる事もある。
お互いに都合が合う保障なんて、何処にもない……。
次にいつ会えるのか?そもそも、次に会う機会が存在するのか?
それすらも、判らない……。

そもそも、ネットが発達した現代なら、どんなに遠く離れた相手とだって会話はできる。
顔を見ることだって……。


でも……それでも、蓮子と一緒に学校へ行くことも、二人でカフェでケーキを食べながら、他愛の無い話をすることも……
結界の切れ目を探しに行くことも……もう、無い……。

それが辛かった。
蓮子が側に居るのが当たり前だって、ずっと思ってた。
でも、それは当たり前じゃなかったんだって……今更気付かされた……。
何もかも、気が付くのが遅すぎた。


蓮子とチャットで、無味乾燥な文字の羅列をやり取りすることも、
電話で、信号化された偽の音波を浴びせられることも、私には耐えられない。

だってそこに、蓮子は居ない。
そもそも、その向こう側に居る蓮子だって、本物かどうかわからない……。
私は蓮子を感じる事ができない。


3.おてんば恋娘
Fleeting Feeling

「メリー、さっきからどうしたの?なんだか、ずっと上の空じゃない」
「そ、そう……?」
「まさか、本当にこっちの世界が夢になり始めてるんじゃ……」

夢……確かに、今の現実が夢だったならどんなに嬉しかったことか……っ!
蓮子と別れる事が夢だったならば、もっともっと蓮子と一緒に居られたのに……。

「体調が悪いなら、続きは明日にしようか?」

そう言うと、蓮子は写真を鞄に仕舞って帰り支度を始めた。

「行かないでっ!」

気が付いた時、私はそう叫んでいた。
さすがの相棒も、私の突然の一言にしばらく硬直してしまった。

「メリー……?」
「……何処にも、行かないで蓮子……私を一人にしないで……」

泣いてしまった……相棒の前で……。
私は、最大の我侭を吐き捨てて、泣いた……。

判ってる。東京に帰って、お母さんの下で働くのが蓮子の夢だったって事……。
私がそれを邪魔しちゃいけないんだってことも、判ってる……。
本当に蓮子の事が好きなら、私は……。

………………?
蓮子の事が……好き……?

そんなハズが無い!
だって、私も蓮子も女の子なのに……。


4.幻想恋愛理論
Fantasy Love Story

私には恋愛なんて、感情は判らない。
いや、それは私だけじゃなく蓮子も同じ。

私達だけじゃない、今の日本に住む殆どの女性が、恋愛なんて知らない。
なぜなら、今の日本に男性は殆ど居ないからだ。


動物の性を決定するのに用いられる、性染色体。
色々種類はあるが、人間にはXとYの二種類が存在し、この組み合わせで性が決まる。
X━Xで女性、X━Yで男性となる。

この、男性だけに存在するY染色体。
これは長い年月を通じ、劣化している。
いずれY染色体は消滅し、この世から男性は消えるだろうと言われている。

実際問題、その影響は既に出始めている。
年々、男性の出生率は減少しているのだ。


資本主義の最終ステップ、『人口調整』に貢献したのは、何も経済による格差社会だけではない。
男性人口の減少も、少子化の原因の一つだった。

そしてもう一つ。
人口調整段階で選ばれた人間のみが、日本で生き残れた理由。
これも、格差社会がもたらした影響ではあるが、やはりそれだけではない。

資本主義による少子化の影響は、余りにも大きすぎた。
このままでは、人口調整どころか、日本から人間が居なくなってしまうほどの勢いであったという。
そこで政府は、国で巨大な精子バンクをつくり、
優秀で且、精子が劣化されていない『選ばれた男性』の精子を集めた。


Y染色体の劣化の原因の一つに、一夫一妻制の問題があった。
チンパンジーの場合、メスは同時に複数のオスと交わる。
その結果、精子同士の競争が生じて、より強い遺伝子だけが生き残る。
そうすると、生殖力の強いオスを残し続けることになり、結果として種全体の存続に貢献される。

しかし、一夫一妻制を取る日本では、精子が劣化した男性でも子孫を残せる。
それが、一つの大きな問題となっていた。

だが、国が作り上げた巨大な精子バンクのお陰で、その問題は回避された。
結果として、人口減少によるデメリットを上手く回避し、選ばれた人間による勤勉で精神的に豊かな国民性を取り戻すことに、日本は成功した。

しかし、そのせいで日本から失われたものがある。
それが、恋愛だった……。


5.アンノウンX
Unfound Adventure

人は恋をしなくなった。
人は誰かに惹かれる事は無くなった。
恋愛なんて、前時代のカビの生えた小説にしか無い絵空事。

今の女性は一定の年齢になったら、精子バンクへ行き、自分の卵子に人工授精をさせ、子を授かる。
もちろん、子を授かるかどうかは任意だ。
子供を産むという感覚は、今では車の免許を取りに行くようなものだ。
もっとも、車なんて前時代的な乗り物、乗っている人の方が珍しいのだけれど……。

精子をもらうには、ちょっとした試験があって、それに合格すると精子がもらえる。
試験の内容は、子供を産むための準備やら、子供を育てる時の諸注意など。
試験は全て筆記で行われ、これで落ちる人は滅多に居ない。

今では、精子も石油と一緒だ。
数には限りがあり、年々それは消費される一方である。
検定料も、毎年少しずつ値段が上がっている。

かく言う私達も、もう人工授精が認められる年齢になっている。
いつか蓮子と二人で試験を受けて、同じ病院で出産しようって約束してた……。
でも、その約束もとうとう果たされる事はないみたい。


試験を受け、人工授精をし、機械的に子供を産む。
そのせいか、最近は子供に対する愛情の欠如もたびたび問題視されている。
子供を創る事が、もはや一種のステータスと化している。
結果として、子供達に対する愛情は消えた。
そして子供達も、そんな親達から離れていく傾向にある。

まだ、私達の代は恵まれている方だ。
もっと言うならば、大学に通えている子は家庭も安定している。
そうでなければ、親が学費を払ってくれないからだ。
最近はそういう子供が増えたので、国が奨学金を出すケースも年々増えてきた。
そして、人口も減少の一途を辿っている。

人は人をどういう風に見ているのだろうか?
リアルとヴァーチャルに違いのなくなった今、人間もロボットも同じなのかもしれない。
今の時代じゃ、人間と見分けの付かないロボットなんて五万と居る。
もはや誰が人間で、誰がロボットなのかもわからない……。
もしかしたら、私自身ロボットなのかもしれない。

技術の発展と共に、人は愛を失った。
それと同時に、命を重んじることも無くなった。
人々の心が機械化されていく。
ロボットはやっぱり、恋なんてしないのかな……。


6.幽雅に咲かせ、墨染の桜
Border of Life

精子バンクに貯蔵された精子には限りがある。
そこで政府は、次なる生殖手段を研究している。

ちょっと話はズレるけど、植物もほとんどが有性生殖で増える。

そんな中、人間が手を加えたことで、生まれた植物が存在する。
そういったものは種をつけなかったり、種が採れて栽培しても、同じ物が出来るかどうか保証できない。
そのために、接木することでその種を繁栄させている。

その接木で増える、代表的な種がある。
それが、「そめいよしの」だ。
そめいよしのはクローン桜と呼ばれ、どのそめいのしのも同じ遺伝子を持っているという。

そめいよしのは本来自然界に存在しないはずの桜。
その桜が、今では日本を代表する桜とも呼ばれるようになってしまった。
どことなく、皮肉を感じるわよね……。

全く同じ遺伝子を持つ、クローン桜。
全国に存在する無数のそめいよしのは、全て同じ木である。
そして、何代にも渡って同じ遺伝子のそめいよしのは、生き続けてきた。
何度死のうとも、永遠に生き続ける桜……いえ、あるいはもう死んでいるのかもしれない。
言うならば、桜の幽霊って所かしらね。


7.もう一人の人類
Cloned Human

新たな生殖手段を探していた政府は、この接木に注目した。
枝一本あれば、それと同じ種のものが作れる。
いわゆるクローン技術だ。

生物の設計図と呼ばれるDNA。
それを再現することで、当人と同じ人間が創れるという。
これは人類の接木であり、人間を無性生殖で増やす手段である。

まぁ、そもそもクローンって言葉自体、本来は挿し木を指す言葉なんだけどね。

しかし、クローン人間を作るにあたり、一つ大きな問題があった。
それは、クローン人間のテロメアが短くなる事だ。

私も生物学は専門じゃないから詳しくは判らないけど、とりあえずテロメアは染色体に含まれる要素で、
これの長さが、寿命に関連すると言われているわ。

人の体では、毎日細胞が死んでいき、また新たな細胞が生まれる。
所謂、細胞分裂って奴ね。
人の体は一日もあれば、別物になっていると言われてるらしいわ。

それで新しい細胞が生まれる時、てんでやたらめったらな場所に生まれてしまったら元の形が崩れてしまう。
でも、実際人は全身の細胞が生まれ変わっても、急激に見た目が変わることは無い。
つまり、分裂した細胞は、何かの設計図通りに決められた場所に配置されていることになる。
その設計図の一端を担うのが、テロメアである。

しかし、このテロメアは細胞分裂のたびに短くなる。
老化原因の諸説の一つに、プログラム説と言うものがある。
これは、それぞれの細胞が細胞分裂を行える回数に限界があるとする説で、
この回数の限界を定義しているのが、テロメアだと言われている。
生き物によって、寿命や老化の速度が違うのは、このテロメアの長さが関係しているらしいわ。

ちなみに、短くなったテロメアを伸ばす事が出来る、テロメラーゼという酵素がある。
もしテロメラーゼの活性をコントロールできたなら、不老不死も夢じゃないと言うわ。
仮に、月の都へ行く事ができれば、そんなものは必要ないって言うのにね。


8.六十年目の東方裁判
Fate of Sixty Years

人類を一つの生き物としてみた場合、個人を細胞に例えられるって蓮子が言っていた。
人は子を産み、そして死んでゆく……。
その過程は細胞分裂に例えられる。

細胞にはアポトーシスと呼ばれる、死の現象がある。
プログラム細胞死とも呼ばれ、決まった時期の決まった場所で細胞は自殺する。
実は人間にもコレと同じ出来事がある。

それは、六十年に一度訪れるという「生まれ変わり」の年の事だ。
六十年とは、干支が一巡する年であり、所謂還暦の事である。
が、実はそれは人間が当てずっぽうで付けたもの。

六十年とは、自然の状態を全て言い表す数字なの。
日、月、星の三精。
春、夏、秋、冬の四季。
木、水、火、土、金の五行。
三精、四季、五行をかけると三×四×五=六十となる。

つまり、六十とは自然のものを全て表す組み合わせの数。
自然は六十年で一度生まれ変わる。
そして、その過程で人は死ぬ。
地震、噴火、津波、戦争……原因は様々だけど。


人類が一つの生き物であるならば、それには必ず寿命がある。
生物の寿命を司るのは、テロメアだった。
そして、人類にも又テロメアが存在する。
それこそが、Y染色体だ。

細胞分裂に値する、出生。
それを繰り返すごとに、Y染色体は短くなっていっている。

Y染色体の劣化は、人類の寿命なのだ。
しかし、人は死ぬことを嫌がる。
人類は生き延びようとした。

だからこそ、結果として巨大な精子バンクが生まれ、人類は延命を試みた。
その結果、子を作るということは機械的な作業になり、人々から恋愛感情は消えうせた。

政府がやっている事は、人類の延命であり、不老不死化ではない。
人類は今、脳死状態にあると言って良い。

人々の生活にはヴァーチャルが浸透し、私達の目の前から本物は消え去った。
そして、私達は恋をもしなくなった。

一体何のために、私達は生かされているのだろう?
ただ、作られた世界を見て、機械的に子供を作り、そして死んでゆく……。
この一連のプログラムされた動作に、私達は組み込まれている。
生きる理由なんて、無い。
あるのは、生かされている理由だけだ……。


9.恋色マスタースパーク
Prohibition Love

一つ不思議に思うことがある。
なぜ、昔の人には恋愛と言う感情があったのだろうか?

生物とは本来、固体を維持し、種を増やし繁栄するために行動する。
それらは生存本能として、ありとあらゆる生物に課せられた使命だ。
最も、人間に本能なんて無いって言うのが一般論だけれど……。

でも、人間だってお腹が空けば何かを食べる。
それは、固体を維持するためだ。
そして人間は、誰かを好きになる。
それは、生存本能である種の繁栄を実現させるためだ。

しかし、種を繁栄させるためだけならば、わざわざ恋に落ちる必要は無い。
どんなにみだらな目的でも、子を作ることは出来る。
種を存続させることが出来る。

現に今は、子供を作るのに何の感情もいらない。
それなら、やっぱり恋愛なんて不必要な代物じゃないのかしら……?


そもそも、女の子が女の子を好きになるって言うのは、やっぱり異常なのかな?
だって、それは人間の本能に抗うことになるんだもの……。

蓮子を好きになってしまったのは、やっぱり私がおかしいから……?
私が普通の人間で無い事は、前々から判っていることだった……。
境界の裂け目が見えるし、夢の世界のものを持ってきちゃったりもするし……。
普通の人間じゃない……だからやっぱり、異常なんだよね……。
蓮子を愛しちゃうなんて……。

そもそも、恋愛なんてどんなものなのか判らないのにね。
これが、恋だってことも私には判らない……。
でも、蓮子が居なくなっちゃうって思うと、すごく寂しくて。
もう、どうにかなってしまいそうなの……。

それが恋なのかどうかなんて、判らない。
ううん、判らなくて良い。
私はずっとずっと、蓮子の側に居たいっ!
私の心の中にある感情は、ただそれだけ。

この感情だけはヴァーチャルじゃない。
確かな本物(リアル)……。


10.綺麗な嘘
Beautiful Lie

「メリー……」

蓮子は静かに私の名を呼んだ。
そして、静かに私を抱きしめてくれた。

「ごめんね、メリー……」
「どうして謝るのよ……?どう考えたって、悪いのは私なのに……」
「……判らない。とにかく、今は謝らせて……」

蓮子の私を抱く腕が、段々と強くなるのを感じた。

今、私は間違いなく本物の蓮子を感じている……。
この温もりも、匂いも……何もかもが、本物の蓮子だ。

合成じゃない、偽りじゃない……正真正銘の蓮子……。

いつまでも、この時が続けば良いのに。
いつまでも、いつまでも……ずっと……永遠に……。

少しして、蓮子は私を解放した。
その時の蓮子は、さっきまでと違って少し寂しそうだった。

そんな蓮子の表情を見て、私は罪悪感を感じた。
さっきまで蓮子は、本当に嬉しそうな顔をしていたのに……。
私のせいで、蓮子はこんな顔になってしまった。

「蓮子……」
「ん?なんだい、メリー?」

私は、頑張って満面の笑みを浮かべた。
もちろん、本物ではない……偽りの笑みだ。
それでも、それを悟られないように必死に顔を歪め、そして言い放った……。

「東京へ行っても、頑張ってね!」


11.虚無主義者の恋
Interest Nihilist

大学を卒業し、数ヶ月。
蓮子が京都を去ってから、もうそんなにも月日が経っていた……。
時の流れと言うのは、早いものだ。
蓮子と一緒に居たのは、つい昨日のような気さえするのに……。


ある日私は、仕事の関係で京都駅に向かっていた。
その時、通りすがりの人とぶつかってしまった。

私は必死になって謝ったけど、どうにもぶつかった相手が悪かったらしい……。
相手は色々な難癖をつけてきた。

私は、法学の方はあまり詳しくないけど、相手が言ってるのが単なるいちゃもんだって言うのは分かる。

どう考えても頭の良い相手ではなかった。
つまるところ、その気になれば暴力に訴えるタイプの相手だ。

力勝負になれば、私は確実に負ける。
とはいえ、相手はこっちの話を聞く耳すら持たない。
このままでは、説得することすら不可能だ。


そして、ついに相手は拳を振り上げた。
私はとっさに眼をつぶる。
もう、ここまでだ……。


「その手をどけろ!」

その時、どこからか聞き慣れた声がした。

「私のメリーに、手を出すな!」

声の主は、私に暴力を振るおうとしていた相手に襲い掛かった。
ちょっとした乱闘になったが、最終的には声の主が勝利し、相手は逃げ去っていった。

「怪我無かった?メリー」

見間違えるはずが無い……。
目の前に居るのは、蓮子だ。
大学で、ずっと一緒にサークル活動を続けてきた相棒……。
そして数ヶ月前、東京へと帰って行ったはずの相棒……。

「蓮子……来るの遅いっ!10分と……43秒の遅刻……っ!」

何をもってして、10分43秒なのかはよく判らなかった。
でもとにかく、出任せにそう言ってしまった。

「ごめんごめん。ヒーローってのは、遅れてやってくるものだからさ」
「うぅ……蓮子のバカぁ……っ!本当に……本当に、怖かったんだからぁ……っ!」

みっともないぐらい大泣きして、蓮子にもたれかかった。
蓮子は、そんな私を優しく抱いてくれた。
あの時と、同じように……。

「でも、どうして……?東京に帰ったんじゃなかったの……?」
「あぁ。母さんの話は蹴ったよ」
「蹴った!?どうして!?お母さんの助手になるのが、貴方の夢じゃ……」

私は蓮子の言葉に驚きが隠せなかった。
まぁ、そこのところは言うまでもないと思うけど……。

「言ったでしょ?物理学はもうとっくの昔に終焉を迎えている。
 これ以上調べたって、面白いことなんか何も無いんだよ。
 それよりも、今の私に興味があるのは、メリー……君だけだよ」
「蓮子……」

その蓮子の言葉は、今まで聞いたどんな言葉よりも重く、そして嬉しかった。

「蓮子……私、最近変なの……」
「メリーが変なのは、今に始まったことじゃないさ」
「そうじゃなくて……っ!」

ちょっぴりムキになって、そう言ってしまった。
変ねぇ……今まで、蓮子の言葉にムキになる事なんて一度だって無かったのに……。

「蓮子の事を思うと、変な気持ちになるの……それが何なのか、私には判らない……。
 でも、とにかく蓮子の事を考えずには居られないのよ……」
「奇遇だね。実は私も変なんだ。メリーの事を考えると、夜も眠れなくなる。
 それなのに、メリーの事を考えるのを止められないんだ……。
 だから決めたんだ。この不可解な現象を、研究してみようって」
「それで、私に会いに来たの……?」
「そうだよ」

確信はもてない。
それでも、今なら何となく判る……。
きっと、これが恋なんだろうって。

昔の人たちは、恋について色々な事を調べてきた。
でも、結局恋がどんなものなのか、最後まで解明できなかった。
そして、恋は解明できないまま、この世から消え去ってしまったのだ。

蓮子は言った。
地上にはもう不思議が殆ど無い、と。

そんな虚無主義の蓮子にも、まだ判らない事が地上に一つだけあった。
それが、恋だ。

誰かが誰かの事を好きになる……。
今まで私達は、恋ってそういう単純なものだと思っていた。
だけど、自分達がそれを経験し、初めて判った。
恋って、そんな簡単に割り切れるものじゃないんだって……。

何故人は恋をしたのか?
何故私は蓮子を好きになったのか?
何故蓮子は私を好きになったのか?

判らないことばっかりよ。
こんな謎、私一人で解けるわけが無いわ。

「蓮子。二人で一緒に、恋の謎を解きましょう」
「うん。メリーと一緒でなければ、この謎は解明できないからね」

判らない事ばかり……。
それでも、一つだけ判っていることがある。

それは……私は、蓮子が大好きだって事!
どうもはじめまして、ビアードです。創想話の方では初投稿となります。
とりあえず、マイブームな秘封倶楽部書きました。一応ハッピーエンド……のはず……。

実はこちらに投稿する前にも、別の掲示板サイトにて秘封倶楽部の別の話を書いていました。
ただ、その当時は創想話の事を知らず……なので、こちらにもそれを載せたかったのですが、それが出来なくなってしまいました。
内容は、秘封倶楽部の音楽CDの続編出たら、きっとこんな感じかなぁ?っていう二次創作です。
ここに載せたやつよりも、もっとまとも(?)な話です。
もし、興味がありましたらArcadiaという掲示板のチラシの裏にて『ビアード』と検索してみてください。


それで今回のお話は、恋愛の消失した世界で真実の恋を知る二人の物語……でしたよね?(汗)
まぁ、一度背徳百合なるものが書きたかっただけです。
そもそも、背徳百合なのかな……これ……。

それにしても、未来の世界には、殆ど男性が居ないと……。どことなく、幻想郷を彷彿とさせますね。
まぁ、もちろんあまり出てこないだけで、幻想郷にも男は居ますが……。
でも、少なくとも戦闘能力を持った男は出てきませんよね。雲山ぐらいかな?

何でも合成で出来る時代。
その頃には、どれだけ男性が減っているのでしょうか……。
でも、子供を作ることも、恋をすることも出来るでしょう。合成で。

まぁ、実際問題、そんなすぐに男性が消えるわけでは無いでしょうが、
何らかの加減で、消滅が早まる可能性はいかようにでもあるそうです。

将来的には、二次元嫁ならぬ、二次元婿が出来るのでしょうか。

さてさて、あとがきも長くなってしまいました!
最後に、ここまで読んでくださってありがとうございます!
また、ご縁がありましたら、よろしくお願いします。
ビアード
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コメント



0.400簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
世界観が魅力的で面白かったです。

が、興味深い設定が『解説』に終始しているために物語として昇華し切れてないような気がするのと、
終盤、二人の再会がちょっとご都合主義だったかなーという気がしたのでこの点数で。
とはいえ、次回作にも期待しています。
10.70名前が無い程度の能力削除
否定部分は上コメに同意
ただ恋愛というものが幻想の向こう側に消えてしまった世界で、2人がそれを探しに行くという発想はとても素敵だった
かつて失われた幻想をいつまでも追い続ける秘封倶楽部ならきっと答えを見つけられる筈
11.70名前が無い程度の能力削除
主題はとても良かったように思います。
でも、筆者側の技量が想像に追いついていないかなとも思いました。
逆に言えば、磨けば光る何かがあるという事ですし、次回作、次々回作に期待させていただきます。