「チルノちゃん、世界はね、幻想郷を超えて広がっているんだよ」
弾幕ごっこで遊び終えて談笑していた時、大ちゃんこと名も無き大妖精はチルノにそう言った。
「ホント? 大ちゃんは物知りね」
チルノは足をぶらぶらさせながら、興味深げに大妖精の顔をのぞきこむ。
「ううん、紅魔館のメイド長さんが教えてくれたの、なんでもそのメイド長さんは外の世界から来たんだって」
「外の世界って、どうなっているの?」
「そこまでは聞いてなかったから分かんない、でも、この幻想郷みたいな場所も他にあるのかもよ」
チルノはそれまで、自分にとっての世界と言えば、湖と、三月精と知り合った森、たまに遊びに行く人里程度しかなかった。
外にはどんな風景が広がっているんだろう。
チルノはなんだかわくわくしてきた。
うん、とうなずいて、大妖精に切り出してみる。
「ねえ大ちゃん、外の世界ってやつをのぞいてみない?」
「無理だよ、私たち幻想の住人は外の世界じゃ生きられないらしいよ」
「でもちょっと見てみるだけだよ、あたい、行ってみる」
「ちょっ、チルノちゃん」
「だ~い丈夫だって、あたい最強だもん」
チルノは好奇心を抑えきれず、幻想郷の果てを目指して飛び始める。
大妖精は止めようとしたが、彼女は気にしなかった。
しょうがないから、大妖精もついて行く。
「大ちゃんも来てくれるの」
「こうなったら付き合うよ、でも、たぶん無理だと思うよ」
「そんな事行ってみなけりゃ分からないでしょ」
チルノはひたすら直進して飛ぶ。
大妖精はそんな彼女に少し呆れると同時に、そのひたむきさが少しうらやましく感じるのだった。
◆
しかし、一時間ほど全速で飛んでいると、急に目に見えない柔らかい壁にぶつかってしまう。
「きゃっ」
「ぶっ、何よこれ」
怪我はしなかったが、なにか大きな手でゆっくりと受け止められているような感じがする。
二人の心に、誰かの声が響いた。
(ここから先は危ないよ、戻りなさい)
見えない壁の向こうは、見た目には何も変わらない山野と青空が広がっている。
「くぬ~外へ出させろって」
「チルノちゃん、湖に戻ろうよ」
チルノは必死になって突破しようとするが、その見えない手によってチルノは徐々にスピードを抑えられ、ついに止まり、やんわりと押し返されてしまう。
(だからここから出ちゃいけないって)
「ほら、謎の人(?)も言ってるよ」
「だって、外の世界を見たいんだもん、ちょっとでいいから出して。あたいは最強だから大丈夫」
(キミも大切なここの住人、ボクには守る義務があるんだ)
チルノは手から巨大なつららを発生させ、それを中世の騎士の突撃のように前に向け、見えない壁に思いっきり突っ込んだ。
しかし、さっきより強い力で押し返されてしまい、大妖精が彼女を受け止める。
「チルノちゃん!」
(アホ! 危険だっていってんだろ!)
声の主が怒った。
「ほら、湖に帰ろうよ、やっぱ無理だよ」
大妖精が怖がっている。
でもチルノは怯まない。
「いいからあたいを外に出せ、読者に嫌われるぞ、このオリキャラ!」
(お、オリキャラ? 失敬な、私は龍神と賢者たちの作りし幻想の守り手、博麗大結界の意志そのものであるぞ)
「うーむ、悪いけど、あたいは外の世界を覗いてみたいだけ。危なかったらすぐ戻るからさ」
今度は両手を合わせて懇願するチルノ。
(しゃーないな、ヤバイと思ったらすぐ戻って来るんだよ)
とうとう声の主が根負けして、不可視の壁を一時的に消した。
そんな簡単でいいのか、博麗大結界。
チルノは喜び勇んで結界の外に向け、翼をはためかせる。
「行こう、大ちゃん」
そして、大妖精に手を差しだした。
少し迷っていたが、意を決して彼女の手を取る。
妖精特有の好奇心が大妖精の中でも目覚め、
もし何かがあっても、友達であるチルノちゃんと一緒なら、
という気持ちが不安を吹き飛ばした。
二人は幻想郷の外へ躍り出た。
◆
「何だか、空気が汚いな」
チルノは山中を飛びながら、何か面白そうなものが無いかと首を回す。
急に低いうなり声のような音が聞こえて空を見上げると、黒く見える巨大な鳥が悠然と飛んでいるではないか。
慌てて地面に降り、茂みに隠れて息をひそめるが、巨鳥は細長い白い雲を残して東から西へ去っていった。
「行っちゃったみたい。チルノちゃん、あの大きな鳥何だったんだろう」
「あたい達に攻撃してくる様子も無いし、気がつかなかったのかな」
見つかったらとても勝てそうにない、二人は地面に降りて歩くことにした。
石のようなもので舗装された道路沿いに飛んでいると、車輪のついた動く箱が行き交っていた。中に人が乗っていて、これで移動しているらしい。
傍らに、幻想郷でも見かける田畑があって、人間が農作業していたが、ここにも似たような道具が土を耕している。
「チルノちゃん、これって何なんだろうね」
「機械ってやつだね、河童が同じようなものを動かしているのをあたい見たもん。人間は力が弱いから、きっとこういうのに乗ってないとさっきの怪鳥に食べられちゃうんじゃないかな」
「チルノちゃん、意外と物知りだね」
「あたい、知識だってかなりあるんだから」
チルノが胸を張る、大妖精は思った、やっぱり一緒に来て良かったと。
自分ひとりなら、とてもこんな冒険はできなかっただろう。
みんなは彼女の事をおバカおバカと言うし、ぶっちゃけ自分も正直そう思えるところもあるのだが、でもこの積極的な所がうらやましい。
だんだん目に入る景色に人工物が占める割合が大きくなってくる。
それと同時に空気が生暖かく、淀んでいるように思えてくる。
「ぶーっ、それにしても空気が汚いわね、外の人間達はこんな所で平気なのかしら」
「チルノちゃん、外を歩く人間って、幻想郷より大きいんだね、それに木や花ずっと大きく見えるし」
大妖精が不思議な事を言った。
チルノがあたりを見回すと、先程とは変わって、巨人のような背丈の人間が多く歩いている。草木も大きくなっているようだ。
チルノは感づいた。これはみんなが大きいんじゃない……
「あたい達が小さくなってきてる」
「ええっ?」
「それに、大ちゃんもあたいも、体の向こうが透けて見えるよ」
大妖精は慌てて自分の手の平を見た。向こうが透けて見える。
「きっと幻想の力やらなんやらが希薄になってきてるんだ。そう言えば、さっきから誰もあたい達に注目してなかったし、姿が見えないのかも」
「早く戻ろう!」
チルノは大妖精の手を取り、急いできた道を引き返そうとするが、急速に体が透けていく。
二人は焦る。体の力も抜けていくようだ。
石、つまりアスファルトの道路をひたすら走る、動く箱、自動車を避けながら。
自動車に乗っている人間は二人の姿が見えないらしい。二人のために止まってくれる気配はない。
力尽き、二人はとうとう道路の中央に座り込んでしまう。
「チルノちゃん、間に合いそうにないよ」
「大ちゃん、あたいがバカだった。巻き込んで、ホント、ごめんね」
「ううん、私は……自分の意志でついてきたから、チルノちゃんが……謝る事ないよ」
二人は這いずるように体を動かし、中央分離帯の小さな草地に倒れ込んだ。
消えるならせめて、少しでも自然が残っている場所で、と考えたのだ。
二人は互いの手を握り、目を閉じた。
かすかな草の匂いが、少しだけ心と体を楽にしてくれた。
◆
目が覚めると、チルノは自分がまだチルノである事を認識した。
柔らかい土と草が心地よい。
一瞬幻想郷に戻ってきたのかと錯覚し、すぐに倒れる前の状態を思い出した。
「大ちゃんは?」
大妖精も目をぱちぱちさせ、辺りを見回している。
「チルノちゃん、私達、助かったのかな」
「とりあえず、消滅は免れたみたい」
「気がついた? 良かったわ」
目の前に見知らぬ妖精がいた。背中に羽があって、人の形をしているので、妖精とみてよさそうだ。彼女が助けてくれたのだろう。遠巻きに数人の妖精達が不安げにこちらを見つめていた。
動く箱や人間がさらに大きく見える。体がさらに縮んでしまったものの、体の調子はすっかり良くなっていた。
ひとまず命拾いしたという事実を噛みしめてから、チルノは妖精に尋ねる。
「あんたが助けてくれたの?」
「ううん、ここで寝かしてあげただけ」
「あたいはチルノ、こっちは大ちゃん、貴方の名は?」
「私は名も無き小妖精」
「じゃあ、小ちゃんと呼ぶわね」
「……まあいいわ、中央分離帯の園へようこそ、ここは科学万能の世にわずかに残った幻想世界の生き残りが集う場所よ」
石で区切られた細長い領域に、草木が生えていた。
幅はかなり狭く、チルノ達がひと走りしただけで両端に達してしまえる。
その外は、巨大な動く箱がビュンビュン走っている。
まるで灰色の湖に浮かぶ小島のようだ。
「みんな、こんな空気が汚い所でよく生きていられるわね」
「これでもずっと綺麗になった方よ、昔はもっとひどかったんだから」
その小妖精は仲間を呼んだ、数人の妖精が集まってきて。お互いに自己紹介した。
二人はすぐに彼女たちと仲良くなれた。
「ねえ、ああいう動く箱って何なのかな?」大妖精の質問に小妖精が答える。
「あれは動く箱じゃなくて、自動車って言うの。人間達はあれに乗って移動するの」
「ここの人間達は、あたいらの姿が見えないの?」今度はチルノが質問する。
「見えないはず、ずいぶん幻想を信じられる人が減ったからね。でもたまに自動車に乗った子供たちとは目が合うわ、多分、まだ幻想を見る力をもっているのかも」
不意に自動車が妖精達の目の前で止まった。ハンドルを握っている人物が窓を開け、こちらを見つめている。大妖精は恥ずかしがって目を反らし、チルノはお~いと手を振った。
10代後半らしき金髪の女性は、少し驚いた後、笑顔で手を振ってくれた。
その後、隣の人物に注意され、彼女はまた前方に注意を向ける。
チルノ達は知らなかったが、その女性は今、免許と無免許の境界線上に位置している、すなわち仮免での路上教習中であった。
「ハーンさん、今どこを見ていたんです?」
「すいません、分離帯に綺麗な花が咲いていたのでつい」
「もうすぐ高速教習ですから集中して下さいよ」
「失礼しました、よ~し」
その車はブオン、とひときわ大きいエンジン音を鳴らした。
排気ガスが妖精達の顔にかかる。
チルノと大妖精は咳きこんだが。小妖精達は動じない。
「蓮子を助手席に乗っけてドライブするぜヒャッハー」
猛烈に加速しつつ後輪を滑らせながら交差点を曲がっていった。
タイヤ痕がくっきり見える。
「まあおおむね平和な場所よ。たまに来るああいうのと、『あの子達』を除いてね」
「あの子達って誰」
「そのうち分かるわ」
◆
それから二人は、しばらくの間、この小さな幻想郷の飛び地で過ごした。
ある日の晩、捨てられた空き缶に背中をもたせかけ、二人と小妖精は満月の空を眺めていた。
月明かりに大きな立札のシルエットが浮かぶ。
そこには『ゴミ捨て厳禁』と書かれてあった。
あまり役に立っていないようである。
他の妖精達も木の枝や紙パックに腰掛け、あるいは寝そべって月光浴を満喫している。
妖精達は住んでいる場所の事を教え合った。
「その世界は巫女と言う人が守護しているの? どんな仕事」
「異変が起きれば解決して、それ以外はのんびり過ごしているわ」
「その人間は私達が見えるの?」
「そうよ、幻想の力が強いんだよ、わわっ、またあの怪鳥が来た!」
チルノは木陰に隠れようとするが、小妖精は笑って説明する。
「あれは飛行機と言ってね、自動車と同じ機械の一種、人や物を載せて運ぶ道具。別に害はないわ」
「へえ~河童が見たら驚……うわっ」
談笑しているうちに、弾幕らしきものが飛んできた。それはチルノの足元ではじけ、生えていた草を焦がす。続いて言い争う声が聞こえてきた。
二体の妖怪が喧嘩をしている。どちらも人間型をしているが、一人は蝶の羽が背中に生え、もう一人は鳥の羽が生えている。自然から湧いた妖精とは違う、何かの生き物から妖怪化した者たちだ。
「あっ、あの二人またやってるよ。危ない!」
飛んでくる弾幕に、妖精達はあわてて逃げたり隠れたりする。
「なあんだ、弾幕ごっこか」
しかしチルノと大妖精は比較的冷静に弾幕合戦を見守っていた。
「ねえ小ちゃん、あいつらって何なの、おっと」
流れ弾をひょいとかわすチルノに小妖精は驚き、空き缶の陰から尋ねた。
「あなた達、あれが怖くないの?」
「幻想郷じゃ日常茶飯事だぜ」 親指を立てて得意げなチルノ。
「う~ん霊夢さんの弾幕よりは緩いかな、弾の密度もそれほどじゃないし」
大妖精も落ち着いて流れ弾を避ける。小妖精はただ感嘆するのみ。
「……すごい世界なのね、あなた達のいた所って」
「それで、あいつらは何なの・」
「蝶の羽の子はシジミ、アスファルトの道路を無謀にも横断しようして、たまたまここへたどり着いた芋虫が妖怪化した子なの。もう一人はここに巣を作る雀の妖怪のアサリ。二人はこの分離帯の両端に住んでいて、時々ああやって喧嘩するの。もともと喰う者と喰われるものだから仲が悪いのよ」
夜が付かない雀妖怪のアサリは勝ち誇って言った。
「今日こそ、この園の天下は私の者、下等な無脊椎動物は引っ込んでな」
「ああいう差別的発言は良くないよ」 大妖精が苦い顔をする。
「虫より耐久力があるんだから、こんな狭い所を出て、どこか別の場所へ行ってよ」
シジミも負けじと言い返す。
「嫌よ、めんどくさいし」
「そんな理由でここの虫達を襲うな」
小妖精が不安げに中央分離帯の外を見回していた。
「もし流れ弾が外の人間に当たって、ここが知られたら、この場所に居られなくなるかも。
そうしたらまた似たような場所を探すか、そのまま消滅するしかなくなるわ。だから、何とか共存してほしいと思ってるんだけど」
「それなら、あたいに任せて」
「どうするの?」
「まあ見てなって、大ちゃんも協力して」
「うん、この空間に住む姉妹たちのためだからね」
二人は軽い足取りで弾幕戦の場所に向かう。
「さあ、軽く揉むよ」
◆
チルノはあっと言う間に二人の弾幕を凍りつかせ、地に落としてしまった。
争いを止めるのにはそれで十分だった。
ほとんど唯一の喧嘩道具だったのだから。
呆気にとられている二人にチルノは呼び掛ける。
「こんな喧嘩してて、外の人間に怪しまれれば、ここにいる奴ら全員が迷惑すんのよ。どうして喧嘩するのかこっちに来て話してみな」
二人の妖怪は、素直に地上に降りてチルノの元へ来た。
大妖精が柔らかい口調で尋ねる。
「私達は通りすがりの妖精です、どうして喧嘩してたの?」
「だって、シジミが餌とるの邪魔するんだもん」アサリが視線を反らして答えた。
「アサリが虫を食べるのは仕方ないけど、餌場ならどこだってあるでしょ、幻想の力で仲間が生まれるかもしれないから、ここの虫達は食べないでって言ってるのに」
「アスファルトを超えてここまで来た虫だから、気合いが入っていて美味しそうだと思ったのよ」
「そんな理由で? やめてよ、別の所で探してよ」
「あの、アサリさん、別にこの空間の虫じゃなきゃ生きられないわけじゃないんでしょ、ここで一番強い妖怪さんなら、弱い者を思いやらないと」大妖精が諭す。
「そうよ、強い奴には強い奴なりの義務があるのよ。大ちゃんを守るこのあたいみたいに」チルノが胸を張って言う。やがてアサリはしぶしぶながらも応じた。
「わかった、そこまで言うんならそうする、でも、寝泊まりするのはここでいいよね」
「ありがとうアサリ、ここで餌を取らないんなら歓迎するわ」とシジミ。
「それからさ、二人に提案があるんだけど」チルノが続けた。
「何?」
「どうしても喧嘩したくなったら、ルールを決めてやればいいのさ、お互いどんな攻撃をどれだけ出すか宣言して、威力よりも技の美しさを競うの。スペルカードルールって言うんだけど……」
二人は幻想郷で発達した、争いごとを平和的に解決する決闘法を教えた。
二人は割と聞き入れてくれたようだった。
「……それで、勝っても相手を殺しちゃダメ、勝った側は負けた側の再戦に積極的に応じる事。分かる?」
「……要するに、人間のスポーツ的にやれって言う事?」
「そうよ、まあ、細かいルールはそっちに合わせて変えてもいいけどね」
小妖精が手を挙げてアイデアを出した。
「ねえ、皆にどっちの技が綺麗だったか判定してもらうのはどう?」
「小ちゃんそれいいね、よし採用」チルノが手を叩いた。
これから二人は幾分手を加えたスペルカードルールで戦う事になるだろう。
その後、二人の妖怪は平和的かつ他者を巻き込まない(巻き込むと皆の評価が下がるので)決闘で競い合い、しだいに打ち解けるようになった。
チルノと大妖精は、スペルカードルールが他の場所で通用した事を誇らしく思うのだった。
◆
ここでの生活にすっかり慣れた頃、ある朝、突然妙な臭いが鼻をついた。
チルノと大妖精は目が覚めると同時に吐き気に襲われた。
「チルノちゃあああん」
「何なのこれ、うぷっ」
「除草剤散布の日ね、年に一度はあるの」
例によって小妖精達は平然としている。
妖精達は多少困った顔をしているものの、この事をあらかじめ予期していたようにも見える。
見上げると、背中にタンクを背負った人間達が薬液をまいていた。
もちろん姿は彼らには見えない。
ちなみに二匹の妖怪は何処かへ避難しているようだ。
良く分からないが、『自然そのもの』をベースとしている妖精より、一個体の生き物が変化した妖怪の方が、こういったものへの耐性が弱いのかも知れなかった。
「さすがにこれはキツイよ」さすがのチルノも滅入っている。
やがて散布が終わり、人間達は去って行ったが、除草剤のせいで妖精達はさらに縮んでしまう。
もともと人間の手乗りサイズに縮小していた妖精の、さらに手乗りサイズにまで。
世の中がさらに超巨大に見える。
戻ってきた妖怪二人の話によると、毎年の恒例行事らしく、そのうち元に戻るとの事。
半日後、チルノと大妖精はまだ気分が悪かったが、小妖精達はあっけらかんとしていた。
「耐性すげえ」
「タフだねみんな」
弾幕には強かったチルノと大妖精も、ただただ驚くばかり。
「妖精さん、お困りのようですね」
空間を引き裂き、縮んだ妖精達と同じ背丈の女性が現れた。
西洋風のドレス、装飾の派手な日傘、大きさが人間大なら、あの教習車の少女の血縁と言っても通用しそうな、ととのった風貌の女性。
彼女は幻想郷の賢者、名を八雲……
「あっ、似非西洋貴族っぽいおばさんだ」チルノが指差して叫んだ。
「収拾が付かなくなった時に便利な、デウス=エクス=マキナな人だ」大妖精も身も蓋も無い事を言った。
「助けてあげようと思ったのに……その正直さ、さすがは妖精ね……」
隙間を操る女性妖怪、八雲紫はがっくりと肩を落とす。
「ゆかりん、泣いちゃう」
小妖精達が集まって来る、第三の来訪者に興味しんしんである。
「ねえ、お姉さんも幻想郷ってとこから来たの?」
「この子たちのお母さん?」
「何で泣いてるの?」
妖精に囲まれてしゃがんで泣いていた紫は、泣き終わると立ちあがり、中央分離帯の緑地と、うす曇りの空を見上げた。
「奇跡ね、こんな科学文明の真っただ中で。こんな愛らしい幻想が息づいていたなんて!ねえあなた達、幻想郷に来てみる気はないかしら?」
小妖精達はしばらく話しあう。
「ありがとうございます、でも、私達はここが気に入ってます。排気ガスにだって除草剤にだって耐えられるんです。今はこんな縮んでいますけど、春になって草花が伸びてくればまた元の大きさに戻りますよ」
「たくましい子たち。でも心配だから、ここを定期巡回するわ」
「あの、おば……いや、紫さん、どうしてここがわかったんですか」大妖精が尋ねた。
「おばさんでいいわ、事実だものね。それで、あなた方の事は、あの博麗大結界が教えてくれました」
「ああ、あの喋る結界ね」
「さあ、幻想郷に帰るけど、どうしますか」 紫は二人に聞いた。
「楽しかったけど、そろそろ幻想郷に帰らせて下さい、ね、チルノちゃん」
「そうね、たまに、この空間の事を聞かせてくれる?」
「もちろんですよ、チルノ。あなたが命がけで見つけてくれた同胞達ですもの」
「えへへ、毛ガニの豊漁ってやつね」
「チルノちゃん、それを言うならケガの功名だよ」
そして、チルノと大妖精は小妖精達に別れを告げ、幻想郷の飛地、中央分離帯の園を後にした。
◆
「本当だ、元の大きさに戻ってる!」
新たな緑が芽吹く頃、二人は八雲紫の作った空間の隙間から、そっと外界を覗かせてもらう機会を得た。
例の中央分離帯では、小妖精達はすっかり元の大きさに戻り、楽しそうに飛んでいる。
二人の妖怪も一緒だ。
チルノ達が呼びかけると皆寄ってきて、いろいろと互いの近況を伝え合った。
視点を変えると、あの金髪の少女が乗る自動車が、助手席に黒髪の少女を乗せて爆走していくのが見える。
「みんな、元気そうで良かったね」
アスファルトのオアシスは、科学文明のなかで揉まれながらも、図太くその命脈を保ち続けている。
探せばまだまだ幻想は見つかりそうですね
それはそうと、普段と違う視点がとても新鮮でした。
続編・同テーマss希望!
軽快なテイストだけど、難しいテーマがうまく編みこまれてますね。
こんな風に身近に転がってるのかもしれないね
もうつまらんBBAネタはいいよ。せっかく話が良い流れだったのに
ぶちこわし。咲夜のPADネタくらい古くてセンスないなあ。
メリーもなんか絡みが中途半端だし。
前作が大好きだったので、同じテーマの作品を読めてとても嬉しいです