「ふーむ『このはしわたるべからず』か、あまりにもベタでボケるのも気が乗らないぜ」
立て看板を無視してスタスタと中央を渡り始めた霧雨魔理沙であった。
蝉時雨。川のせせらぎ。天狗の山は青々とそびえ立ち、夏を満喫するには一等一番のスポットである。ところがそんな暢気は、魔理沙が橋の中ほどまでに来たあたりで急転直下を迎えた。
「のわっ」
ちょっと頼りないかな、と思いつつ渡っていた木造の床板(しょうばん)の底が抜けて魔理沙はスボリとはまってしまったのだ。落下を免れたのは、生命の危機を感じた際に発揮される本能的な超反射だろうか、両手がなんとか伸びて身体を支えたのだった。
空を飛ぶのに道具を必要とする魔理沙である。下半身が宙ぶらりんのまま這い上がることもできずにいた。木片が落下してゆく様子を眺めて息を飲んだ。たいしたことないと思っていた高さであったものの、いざ落ちるかもしれないとなると鳥肌が立つほど高く思える。
「こらー話が違うぞー!誰か助けろ私をー!」
『助けろ私をー』『けろ私をー』『ろ私をー』と山彦が響いた。たかが人間一人の緊急事態に大自然は動じず、自然現象を淡々とこなすのみである。かくも山は残酷なのだ。
だがしかし、ここは天狗の山で眼下の川は河童の棲家である。運だけは人間に味方するものであり、山彦と同じ勢いでドドドドドと走ってきたのは、盟友、河城にとりであった。
「にとり、にとり、はふっ、にとり、助けて、」
血眼のにとりはドドドドドと土埃を巻き上げ川岸から斜面を駆け上がり橋を揺らして、情けない姿の魔理沙の身体を大根のごとく引っこ抜いた。だが、『ありがとよ、にとり』の言葉を言わせるよりも前に魔理沙の身体を床板に放り捨て、レンチで引っ叩いたのだった。にとりの眼は血走っていた。
「な、なんで!?」
「修繕中だろうか、しゅうぜんちゅう!わざわざ立て看板まで拵えてやったのに渡るんじゃねぇ!この馬鹿野郎が!」
ズキズキする頭に正論と罵言を浴びせられた魔理沙は、何も言葉を返すことができなかった。いや、それよりなんだこの、にとりの形相は。ドカタの本性が出たのだろうか。命拾いしたはずなのに震えが止まらなかった。
「いや、すまなかった盟友よ」
「あいたたたた」
コブのできた頭は氷嚢で冷やし、魔理沙は生足に突き刺さった木片はにとりに一本一本抜いてもらっている最中である。しかし、いくら魔理沙の行為がアホだからといっても、いきなり金属工具で頭を叩く暴挙はいかがなものか。まるで足立区民のようである。そこは帽子がクッションになったから良かったものの、一歩間違えれば大量出血や頭蓋骨陥没などの憂き目に遭うところだった。
「本当にすまない。私は作業のことになるとカッとなってしまうんだ。だから魔理沙のことも正直言って認識できていなかった」
「……まあ、私も私で落ち度があるから責められないぜ」
とは言ったものの、平静を取り戻したにとりの顔を見ても安心できないものがある。『カッとなってしまう』などと言ったが、魔理沙としてはどうしても受け入れがたい言葉であった。よく、『ついついカッとなる』と自分を語る者がいるが、それは時として自己制御の利かなくなる暴走トラックと同等のものでしかないので、そんな自白をしないでほしい。悪くすると『すぐにカッとなっちまうんだよなあ』などと何故だか嬉しそうに言う者すらおり、これはもはやメンタリティを含めて殺人鬼と同等のものでしかない。こういう輩がいるから世の中には味わわなくてもよい苦しみと悲しみが起きるではないだろうか。魔理沙はゾッとし、にとりとの付き合いを考え直したくなった。
「ときに盟友よ、どうして渡ってはいけない橋を渡った?」
「うーん、言うのも愚かしいが、一休さんと誤解したんだ」
「ふうん……」
何故だか違和感のある返事であった。
にとりの脳内回路はまだ繋がっていないのだろうかと魔理沙は訝しんだ。
「……橋を壊したのは申し訳ないが、できれば漢字で書いてほしかったぜ」
「漢字で書くとどう違うんだ?」
「いや、だから平仮名の『はし』だと漢字で『橋』と『端』で二通りの意味が生まれるから」
「そんなもん橋の前に置かれてるんだから『橋』に決まってるじゃないか。ふざけているのか盟友よ?」
あれれおかしいな?意思疎通が図れてないぞ?ひょっとしてにとりの思考回路はまだ復活していないのか?などと魔理沙が思ったのも無理はない。事実としてにとりは本当に不思議がっていたし、実際、本当に意思疎通ができていなかったからである。
「だから、その、一休さんだよ」
「それ誰だ?」
「ひゃあ」
あまりに純粋なにとりの瞳を見て、魔理沙の喉奥から悲鳴が漏れた。
「お前まさか一休さんを知らないのか?」
「……人付き合いが苦手で」
「ひゃあ」
ちなみにこの悲鳴は、自分の常識が万人の常識でなかったショックゆえである。にとりの無知をバカにしているしているわけではないと断っておこう。だが、にとりはそんな魔理沙のリアクションを見て、なんだかえらく落ち込んだような顔をしているではないか。
「まあまあ、時折そういうのってあるよな。漫画家の祖父だって『郵便受け』を『郵便桶』とずっと思い込んでいたらしいし」
「なあ盟友よ。これから私が話すのはとっても恥ずかしいことだ。恥を晒すことを笑わないでくれ」
「はい」
「私は今まで工具が友達だった。思い込むと一辺倒なところがあるから機械いじりに没頭して常識っていうやつをイマイチ知らずにここまできた。もちろん少なからずそのことに後悔もある。さっきみたいに他人からナチュラルに馬鹿にされてしまうたびに、『ああ勉強しておけばよかった』と思うんだ」
「はあ」
「今、馬鹿にしたろ」
「めんどくせぇなコイツ(してないぜ)」
「だけど『馬鹿にされないために勉強する』っていうのがとんでもなくみっともないことに思えて、結局先延ばし先延ばしで避けてきた。それに、馬鹿にされないために、というなら自分の技術をとことん高めたほうが良いに決まっていると思ていた。これにはもちろん世の常識人への反発もある」
共感できない打ち明け話というのはどうしてこんなにダルいのだろう、魔理沙の本心はそれだった。
それを口に出すと邪悪な人間と思われるので言わないが、ダルいものはやっぱりダルいのである。サイゼリアで受ける恋愛相談と同じくらいダルいのである。
「単刀直入に言おう盟友よ。私はやっぱり勉強したいんだ」
「……まあ別にいいんじゃないか」
「そうなのか?」
「私だってパチュリーやアリスの奴には魔法のことについて無知だ無知だって言われてくやしかったぜ。だからあえて難しい本とか読んで勉強したこともある。でも、そのおかげでずいぶんと魔法の理論については詳しくなったつもりだし、何より楽しいと思えるようになったんだな。動機はともあれ意義はあったよ」
「そうか、そういってくれるか盟友よ!」
なんだろうこれは。ついさっきまでダルいと思っていたのだが、たしかに自分自身にもそういう部分はあったのだ。そして、口に出すとたしかに『恥ずかしい』という気になってきた。幼年期にちょっと背伸びをしてしまった経験をするのと、結局は同じなのである。だとすると、たしかに嗤うのは酷な話ではないか。魔理沙はそう思い至るようになったのだった。
「なるほど、恥ずかしいものだなあ、これって」
「そうだろ盟友。私の決意を汲んでくれ」
「で、私は何をすればいいんだ?」
「どうやって勉強すればいいのか教えて欲しいんだ」
「うーむ」
ちょこんと座ったにとりは、先程の狂気のドカタのような風情など消え去っており、キラキラと期待に満ちた可愛らしく従順な顔をしているではないか。それでも、『勉強の仕方を勉強したい』などという循環参照じみた問いに答えるのは至難である。
「文に教わるなんてどうだ?あいつなら知識もありそうだし、」
「絶対嫌だ」
「そうだな私も嫌だ」
「山の者に教わるのは基本的にダメだよう。私のメンツに関わるんだよう」
「……じゃあ慧音の寺小屋なんてどうだ?」
「あまり接点が無いなあ……」
「よし行こう」
これはどんどん要求が増えてゆくパターンだと察した魔理沙はにとりの腕を引っ張り連れてゆくことにした。
夏を満喫するのは今日でなくても構わないのだから。気怠い季節はまだまだ続くのだ。
「ところで盟友よ」
「なんだ?」
「メイユウってなんだ?」
「ひゃあ」
そしてやってきたのだ、人里近い地域に構える慧音先生の寺小屋へ。
どうやら夏期講習真っ最中であるようで、特有の近寄りがたいオーラが放たれていることを魔理沙は感じた。いったい何なのだろう。あの人を跳ね返すような独特の雰囲気は。『生徒募集中』と張り紙がされているものの、何故だか歓迎される気がしない。これは講師という存在に何がしかのトラウマが呼び覚まされるせいなのだろうか、魔理沙もにとりも思わず周辺をうろうろしてしまった。
……であるから石灰水は二酸化炭素に……つまり……ここでの反応は還元だと分かり……酸化鉄は鉄へと……金属光沢・展性延性・電気を流すなどの特徴……
中から漏れてくる声を聞いて、衝動的に首元を引っ掻いたり髪の毛を毟ったりするなど自傷行為に走った者はトラウマ該当者である。『なつかしいなー』と素直に言える者はここまでは健全な発育をしてきたようなので、ひねくれたのはこの時期以降と分かるのだ。そういうふうにできている。
「盟友よ、引き返そう。ここは人生における魔窟だ」
「私がお前の立場だったら同じことを言うぜ。だが、今回は私は当事者じゃないから言う。行こう。どうやら熱血授業が待っているようだ」
「ひとでなし!」
……塩化コバルト紙は水に反応してピンク色……
「初めに言っておく。すべての塾講師は人格破綻者だ。金を貰った上に生徒や親から『ありがとうございます』だなんて言われるんだからな。普通の商売だとそれが逆だ。金を貰ったほうが『ありがとうございます』と言うものだぜ。そこの部分がひっくり返ると感覚が歪んでゆく。まあ、それは塾講師に限ったことではないが、その中でも塾講師だけは選りすぐりの破綻者が集まるようにできている。なぜなら塾講師は、子供を相手にふんぞり返り、気の赴くまま説教を繰り返し、気に入らなければ詰ったりするのだから。ヤクザでももう少しマシな商売を考えるぜ。だから人間の社会へ出て行ったら電車の広告やチラシやパンフレットなどを見てみるといい。そこに並んだ顔写真は社会不適合者のキチガイ見本市になっている」
「どうした盟友よ」
「よく分からんが涙が止まらない」
……だから一度で覚えろって言ったろうが……お前が全体の足を引っ張ってるんだ……お前が……
うろうろしているのは魔理沙たちばかりではなかった。
藤原妹紅と鉢合わせた時には互いが互いを浮浪者だと思い『ひゃあ』と悲鳴を上げたのだった。
「なんだ魔理沙か。ここで何やってるんだ?」
「ちょっと寺小屋に入りたい、いや、まずは体験かな、体験をしたい奴がいてな。ほら、初対面だから挨拶しとけよ」
「……何を言ってるんだお前は?」
「あれっ!?」
気付けば、にとりはステルス機能を発動させて背景と一体化しており見えなくなっていた。これは、人間が好きなのに人見知りなどという根本的な顛倒を起こしているにとりの精神的迷走回路の事情のせいだろうか。一人芝居の恰好となってしまった魔理沙は、にとりのことを知らない妹紅にどう説明して良いのか考えあぐねた。
「よく分からないが、魔理沙、授業を体験するのがお前じゃないなら、まずは見学でもしたらどうだ?」
「……ああ、とりあえずそうさせてもらうぜ」
にとりは、透明になったのか、逃亡したのか、透明になった上で逃亡したのか、もはや魔理沙には判別がつかない。とにかく遠路はるばる来た以上はにとりの代わりに見学でもしといてやろうかと思ったのだった。
「ちなみに誤解しているようだが、私はここの関係者じゃないぞ魔理沙」
「そうなのか?」
「私は慧音の授業をしている姿を見たいって言ったんだがな、あいつが嫌がるから外で聞いてるんだ」
「どうしてまた」
「私は薄々分かってきたような気もするよ。魔理沙もひょっとしたら追い出されるかもしれないぞ」
……この質問に答えられないってのは……お前が聞いてないことがバレるんだよ……白い沈殿物の物質名は……
謎を孕んだ発言と、タバコの煙を残して妹紅は去って行った。
ひとりぼっちになると急に寂しくなる。日が陰ってきた。聞こえるのは蝉時雨と、慧音ではなく一講師の怒号の声ばかり。魔理沙は木製の扉に手をかけた。その感触から、昼間、あの橋で踏み抜いた木片の痛みがなぜだか蘇ってきた。それを口実に引き返すこともできたのに、脅迫的に『そこへ向かわねばならない』ような気分になるのはなぜだろう。
魔理沙の指に鉛筆の感触が蘇ってきた。鉛筆を使うときはいつだって苦しい思いをしていた気がする。幻想郷では、魔理沙はほとんど自分の過去を語ることはない。いくら親しい霊夢にだってそれをわざわざ語ることはしないのだ。あえて隠しているという自覚もおそらく無いだろう。隠し通さねばならない過去と思っているわけでもない。しかし、事実として魔理沙は父親に勘当されている。
それと、このことは果たして無関係だろうか?
あとちょっと力を込めれば開く扉が今日は動かない。ひょっとしたら本当に建付けが悪いのかもしれない。勉強ができなくて怒られた子供ような、頼りない小さな影が背後に伸びている。魔理沙は意味も無く追い詰められてゆくのを感じて、途方に暮れたのであった。しいいと蝉のなきけり。
……なんで情熱が伝わらないんだお前には……
……『ありがとうございます』だろうが……
……心が無いのかお前には……
……お前のために……
「探したぞにとり!」
「ぎゃあっ」
「慌てて透明になったって無駄だぜ!」
ステルス機能は弾幕によって破られ、たいした理由も無き弾幕戦争が繰り広げられた。昨日と同じ炎天下、くんずほぐれつの熱戦は続いたものの魔理沙の執念が勝り、とうとうにとりは力なく川底へ沈んだのであった。
「がぼがぼっ、河童はエラ呼吸じゃないんだ!」
「はぁ、はぁ、せっかく人里まで出向いたのに逃げちゃって、まったく、」
「仕方ないじゃないか盟友よ。なんだあの寺小屋の入りにくさは。あの心理的なバリヤーこそステルスだ。科学を超えてるよ」
にとりにはナイショにしていたが、逃げたのは魔理沙も同じだった。どうしても中に入れず『ひゃあ』と悲鳴を上げてそのまま帰路を飛び抜けた次第である。
慧音は人間の姿もハクタクの姿も妹紅にさらけ出しているだろう。それは間違いのないことだ。しかし、生徒の前に立ち指導する授業中の姿だけはどうしても見せたくないらしい。その理由が今の魔理沙にはよく分かる。
「何がステルスだ。ったく、どいつもこいつもキチガイじみてるぜ」
紆余曲折はあろうとも魔理沙は成長した。世の中は綺麗なものばかりじゃないということも知っている。
その事実に気付いたときにはえらくショックを受けた魔理沙であったが、やがて認めざるを得ないんだと理解した。慧音も長年寺小屋で授業をしているのだ。そのうちに平衡感覚が狂ってきてしまって、その結果としてあのバリヤーじみた空間を生み出したのだろう。なんの世界でもそうだが、ずっと同じことを繰り返しているうちに正常と異常の区別がつかなくなり精神的異形ともいえる進化を遂げてしまう人間がいる。特に人の上に立っているとそうなることが多い。ましてや立場的に弱い子供を相手にしていると尚更のことだろう。かくして塾講師と呼ばれる連中は異形となるのだ。幻想郷は妖怪ばかりだが、外の世界にも妖怪じみた者があちらこちらに蠢いている。
それでも、どこか負い目があったのだろう。慧音が妹紅を拒んだ理由はそこである。そして、それを伝えられる慧音は、正常な感覚とグロテスクな言動との間で葛藤していることだろう。仮に「私様の授業を見給え、自慢の授業だぞ、うははは」などと体育会系の笑いをしながら妹紅を招いていたら、妹紅はその晩にでも寺小屋を焼き払っていたかもしれない。
そんなことをぼんやりと思った魔理沙であった。
「で、お前の勉強計画はどうするんだ」
「しらないやい」
「とりあえずあの看板は書き直せ。私の真似をするアホが出てくるんだから。絶対出てくるんだから」
「……『橋』の漢字にイマイチ自信が持てない」
「ああ、だから平仮名だったのか。あの桔梗屋も実は漢字が書けなかったってオチがあっても良かったかもな。アハハ」
「私の知らないネタで笑うな。何が面白いんだそれは。みんなが笑う場面で一人だけ置いてけぼりを喰って焦って、そんで一応の作り笑いを浮かべる悲しさを教えてやろうか」
「そんなもん知ったことか!……あっ、ちょっと分かる」
「だろう!?盟友よ!?」
「それとこれとは無関係だ。お前はこの夏、漢字ドリルからやるんだよ」
「気が向いたらやる」
「それはやらないパターンだな」
「何故わかる」
「私もそういう人間だからよく分かる」
みんなができる当たり前のことすらできなかったとき、どうしても傷付いてしまうからな。そんなことも言おうかなと思ったが、魔理沙は口に出さずにおいた。それでもやらなきゃいけない場面はいずれやってくることを知っているからだ。それは魔理沙も同じである。その時が訪れるのがおっかなくって仕方がないから言えなかったのだ。
今日も今日とて蝉時雨。いつだったか、失われた夏が自分にはあると魔理沙は思った。夏を満喫しようと思い立ち天狗の山をうろついていたのは、心のどこかでその日のことが過ったからではないか。気付けば身体は水に濡れており、炎天下の太陽が心地よかった。
しいいと蝉のなきけり。
立て看板を無視してスタスタと中央を渡り始めた霧雨魔理沙であった。
蝉時雨。川のせせらぎ。天狗の山は青々とそびえ立ち、夏を満喫するには一等一番のスポットである。ところがそんな暢気は、魔理沙が橋の中ほどまでに来たあたりで急転直下を迎えた。
「のわっ」
ちょっと頼りないかな、と思いつつ渡っていた木造の床板(しょうばん)の底が抜けて魔理沙はスボリとはまってしまったのだ。落下を免れたのは、生命の危機を感じた際に発揮される本能的な超反射だろうか、両手がなんとか伸びて身体を支えたのだった。
空を飛ぶのに道具を必要とする魔理沙である。下半身が宙ぶらりんのまま這い上がることもできずにいた。木片が落下してゆく様子を眺めて息を飲んだ。たいしたことないと思っていた高さであったものの、いざ落ちるかもしれないとなると鳥肌が立つほど高く思える。
「こらー話が違うぞー!誰か助けろ私をー!」
『助けろ私をー』『けろ私をー』『ろ私をー』と山彦が響いた。たかが人間一人の緊急事態に大自然は動じず、自然現象を淡々とこなすのみである。かくも山は残酷なのだ。
だがしかし、ここは天狗の山で眼下の川は河童の棲家である。運だけは人間に味方するものであり、山彦と同じ勢いでドドドドドと走ってきたのは、盟友、河城にとりであった。
「にとり、にとり、はふっ、にとり、助けて、」
血眼のにとりはドドドドドと土埃を巻き上げ川岸から斜面を駆け上がり橋を揺らして、情けない姿の魔理沙の身体を大根のごとく引っこ抜いた。だが、『ありがとよ、にとり』の言葉を言わせるよりも前に魔理沙の身体を床板に放り捨て、レンチで引っ叩いたのだった。にとりの眼は血走っていた。
「な、なんで!?」
「修繕中だろうか、しゅうぜんちゅう!わざわざ立て看板まで拵えてやったのに渡るんじゃねぇ!この馬鹿野郎が!」
ズキズキする頭に正論と罵言を浴びせられた魔理沙は、何も言葉を返すことができなかった。いや、それよりなんだこの、にとりの形相は。ドカタの本性が出たのだろうか。命拾いしたはずなのに震えが止まらなかった。
「いや、すまなかった盟友よ」
「あいたたたた」
コブのできた頭は氷嚢で冷やし、魔理沙は生足に突き刺さった木片はにとりに一本一本抜いてもらっている最中である。しかし、いくら魔理沙の行為がアホだからといっても、いきなり金属工具で頭を叩く暴挙はいかがなものか。まるで足立区民のようである。そこは帽子がクッションになったから良かったものの、一歩間違えれば大量出血や頭蓋骨陥没などの憂き目に遭うところだった。
「本当にすまない。私は作業のことになるとカッとなってしまうんだ。だから魔理沙のことも正直言って認識できていなかった」
「……まあ、私も私で落ち度があるから責められないぜ」
とは言ったものの、平静を取り戻したにとりの顔を見ても安心できないものがある。『カッとなってしまう』などと言ったが、魔理沙としてはどうしても受け入れがたい言葉であった。よく、『ついついカッとなる』と自分を語る者がいるが、それは時として自己制御の利かなくなる暴走トラックと同等のものでしかないので、そんな自白をしないでほしい。悪くすると『すぐにカッとなっちまうんだよなあ』などと何故だか嬉しそうに言う者すらおり、これはもはやメンタリティを含めて殺人鬼と同等のものでしかない。こういう輩がいるから世の中には味わわなくてもよい苦しみと悲しみが起きるではないだろうか。魔理沙はゾッとし、にとりとの付き合いを考え直したくなった。
「ときに盟友よ、どうして渡ってはいけない橋を渡った?」
「うーん、言うのも愚かしいが、一休さんと誤解したんだ」
「ふうん……」
何故だか違和感のある返事であった。
にとりの脳内回路はまだ繋がっていないのだろうかと魔理沙は訝しんだ。
「……橋を壊したのは申し訳ないが、できれば漢字で書いてほしかったぜ」
「漢字で書くとどう違うんだ?」
「いや、だから平仮名の『はし』だと漢字で『橋』と『端』で二通りの意味が生まれるから」
「そんなもん橋の前に置かれてるんだから『橋』に決まってるじゃないか。ふざけているのか盟友よ?」
あれれおかしいな?意思疎通が図れてないぞ?ひょっとしてにとりの思考回路はまだ復活していないのか?などと魔理沙が思ったのも無理はない。事実としてにとりは本当に不思議がっていたし、実際、本当に意思疎通ができていなかったからである。
「だから、その、一休さんだよ」
「それ誰だ?」
「ひゃあ」
あまりに純粋なにとりの瞳を見て、魔理沙の喉奥から悲鳴が漏れた。
「お前まさか一休さんを知らないのか?」
「……人付き合いが苦手で」
「ひゃあ」
ちなみにこの悲鳴は、自分の常識が万人の常識でなかったショックゆえである。にとりの無知をバカにしているしているわけではないと断っておこう。だが、にとりはそんな魔理沙のリアクションを見て、なんだかえらく落ち込んだような顔をしているではないか。
「まあまあ、時折そういうのってあるよな。漫画家の祖父だって『郵便受け』を『郵便桶』とずっと思い込んでいたらしいし」
「なあ盟友よ。これから私が話すのはとっても恥ずかしいことだ。恥を晒すことを笑わないでくれ」
「はい」
「私は今まで工具が友達だった。思い込むと一辺倒なところがあるから機械いじりに没頭して常識っていうやつをイマイチ知らずにここまできた。もちろん少なからずそのことに後悔もある。さっきみたいに他人からナチュラルに馬鹿にされてしまうたびに、『ああ勉強しておけばよかった』と思うんだ」
「はあ」
「今、馬鹿にしたろ」
「めんどくせぇなコイツ(してないぜ)」
「だけど『馬鹿にされないために勉強する』っていうのがとんでもなくみっともないことに思えて、結局先延ばし先延ばしで避けてきた。それに、馬鹿にされないために、というなら自分の技術をとことん高めたほうが良いに決まっていると思ていた。これにはもちろん世の常識人への反発もある」
共感できない打ち明け話というのはどうしてこんなにダルいのだろう、魔理沙の本心はそれだった。
それを口に出すと邪悪な人間と思われるので言わないが、ダルいものはやっぱりダルいのである。サイゼリアで受ける恋愛相談と同じくらいダルいのである。
「単刀直入に言おう盟友よ。私はやっぱり勉強したいんだ」
「……まあ別にいいんじゃないか」
「そうなのか?」
「私だってパチュリーやアリスの奴には魔法のことについて無知だ無知だって言われてくやしかったぜ。だからあえて難しい本とか読んで勉強したこともある。でも、そのおかげでずいぶんと魔法の理論については詳しくなったつもりだし、何より楽しいと思えるようになったんだな。動機はともあれ意義はあったよ」
「そうか、そういってくれるか盟友よ!」
なんだろうこれは。ついさっきまでダルいと思っていたのだが、たしかに自分自身にもそういう部分はあったのだ。そして、口に出すとたしかに『恥ずかしい』という気になってきた。幼年期にちょっと背伸びをしてしまった経験をするのと、結局は同じなのである。だとすると、たしかに嗤うのは酷な話ではないか。魔理沙はそう思い至るようになったのだった。
「なるほど、恥ずかしいものだなあ、これって」
「そうだろ盟友。私の決意を汲んでくれ」
「で、私は何をすればいいんだ?」
「どうやって勉強すればいいのか教えて欲しいんだ」
「うーむ」
ちょこんと座ったにとりは、先程の狂気のドカタのような風情など消え去っており、キラキラと期待に満ちた可愛らしく従順な顔をしているではないか。それでも、『勉強の仕方を勉強したい』などという循環参照じみた問いに答えるのは至難である。
「文に教わるなんてどうだ?あいつなら知識もありそうだし、」
「絶対嫌だ」
「そうだな私も嫌だ」
「山の者に教わるのは基本的にダメだよう。私のメンツに関わるんだよう」
「……じゃあ慧音の寺小屋なんてどうだ?」
「あまり接点が無いなあ……」
「よし行こう」
これはどんどん要求が増えてゆくパターンだと察した魔理沙はにとりの腕を引っ張り連れてゆくことにした。
夏を満喫するのは今日でなくても構わないのだから。気怠い季節はまだまだ続くのだ。
「ところで盟友よ」
「なんだ?」
「メイユウってなんだ?」
「ひゃあ」
そしてやってきたのだ、人里近い地域に構える慧音先生の寺小屋へ。
どうやら夏期講習真っ最中であるようで、特有の近寄りがたいオーラが放たれていることを魔理沙は感じた。いったい何なのだろう。あの人を跳ね返すような独特の雰囲気は。『生徒募集中』と張り紙がされているものの、何故だか歓迎される気がしない。これは講師という存在に何がしかのトラウマが呼び覚まされるせいなのだろうか、魔理沙もにとりも思わず周辺をうろうろしてしまった。
……であるから石灰水は二酸化炭素に……つまり……ここでの反応は還元だと分かり……酸化鉄は鉄へと……金属光沢・展性延性・電気を流すなどの特徴……
中から漏れてくる声を聞いて、衝動的に首元を引っ掻いたり髪の毛を毟ったりするなど自傷行為に走った者はトラウマ該当者である。『なつかしいなー』と素直に言える者はここまでは健全な発育をしてきたようなので、ひねくれたのはこの時期以降と分かるのだ。そういうふうにできている。
「盟友よ、引き返そう。ここは人生における魔窟だ」
「私がお前の立場だったら同じことを言うぜ。だが、今回は私は当事者じゃないから言う。行こう。どうやら熱血授業が待っているようだ」
「ひとでなし!」
……塩化コバルト紙は水に反応してピンク色……
「初めに言っておく。すべての塾講師は人格破綻者だ。金を貰った上に生徒や親から『ありがとうございます』だなんて言われるんだからな。普通の商売だとそれが逆だ。金を貰ったほうが『ありがとうございます』と言うものだぜ。そこの部分がひっくり返ると感覚が歪んでゆく。まあ、それは塾講師に限ったことではないが、その中でも塾講師だけは選りすぐりの破綻者が集まるようにできている。なぜなら塾講師は、子供を相手にふんぞり返り、気の赴くまま説教を繰り返し、気に入らなければ詰ったりするのだから。ヤクザでももう少しマシな商売を考えるぜ。だから人間の社会へ出て行ったら電車の広告やチラシやパンフレットなどを見てみるといい。そこに並んだ顔写真は社会不適合者のキチガイ見本市になっている」
「どうした盟友よ」
「よく分からんが涙が止まらない」
……だから一度で覚えろって言ったろうが……お前が全体の足を引っ張ってるんだ……お前が……
うろうろしているのは魔理沙たちばかりではなかった。
藤原妹紅と鉢合わせた時には互いが互いを浮浪者だと思い『ひゃあ』と悲鳴を上げたのだった。
「なんだ魔理沙か。ここで何やってるんだ?」
「ちょっと寺小屋に入りたい、いや、まずは体験かな、体験をしたい奴がいてな。ほら、初対面だから挨拶しとけよ」
「……何を言ってるんだお前は?」
「あれっ!?」
気付けば、にとりはステルス機能を発動させて背景と一体化しており見えなくなっていた。これは、人間が好きなのに人見知りなどという根本的な顛倒を起こしているにとりの精神的迷走回路の事情のせいだろうか。一人芝居の恰好となってしまった魔理沙は、にとりのことを知らない妹紅にどう説明して良いのか考えあぐねた。
「よく分からないが、魔理沙、授業を体験するのがお前じゃないなら、まずは見学でもしたらどうだ?」
「……ああ、とりあえずそうさせてもらうぜ」
にとりは、透明になったのか、逃亡したのか、透明になった上で逃亡したのか、もはや魔理沙には判別がつかない。とにかく遠路はるばる来た以上はにとりの代わりに見学でもしといてやろうかと思ったのだった。
「ちなみに誤解しているようだが、私はここの関係者じゃないぞ魔理沙」
「そうなのか?」
「私は慧音の授業をしている姿を見たいって言ったんだがな、あいつが嫌がるから外で聞いてるんだ」
「どうしてまた」
「私は薄々分かってきたような気もするよ。魔理沙もひょっとしたら追い出されるかもしれないぞ」
……この質問に答えられないってのは……お前が聞いてないことがバレるんだよ……白い沈殿物の物質名は……
謎を孕んだ発言と、タバコの煙を残して妹紅は去って行った。
ひとりぼっちになると急に寂しくなる。日が陰ってきた。聞こえるのは蝉時雨と、慧音ではなく一講師の怒号の声ばかり。魔理沙は木製の扉に手をかけた。その感触から、昼間、あの橋で踏み抜いた木片の痛みがなぜだか蘇ってきた。それを口実に引き返すこともできたのに、脅迫的に『そこへ向かわねばならない』ような気分になるのはなぜだろう。
魔理沙の指に鉛筆の感触が蘇ってきた。鉛筆を使うときはいつだって苦しい思いをしていた気がする。幻想郷では、魔理沙はほとんど自分の過去を語ることはない。いくら親しい霊夢にだってそれをわざわざ語ることはしないのだ。あえて隠しているという自覚もおそらく無いだろう。隠し通さねばならない過去と思っているわけでもない。しかし、事実として魔理沙は父親に勘当されている。
それと、このことは果たして無関係だろうか?
あとちょっと力を込めれば開く扉が今日は動かない。ひょっとしたら本当に建付けが悪いのかもしれない。勉強ができなくて怒られた子供ような、頼りない小さな影が背後に伸びている。魔理沙は意味も無く追い詰められてゆくのを感じて、途方に暮れたのであった。しいいと蝉のなきけり。
……なんで情熱が伝わらないんだお前には……
……『ありがとうございます』だろうが……
……心が無いのかお前には……
……お前のために……
「探したぞにとり!」
「ぎゃあっ」
「慌てて透明になったって無駄だぜ!」
ステルス機能は弾幕によって破られ、たいした理由も無き弾幕戦争が繰り広げられた。昨日と同じ炎天下、くんずほぐれつの熱戦は続いたものの魔理沙の執念が勝り、とうとうにとりは力なく川底へ沈んだのであった。
「がぼがぼっ、河童はエラ呼吸じゃないんだ!」
「はぁ、はぁ、せっかく人里まで出向いたのに逃げちゃって、まったく、」
「仕方ないじゃないか盟友よ。なんだあの寺小屋の入りにくさは。あの心理的なバリヤーこそステルスだ。科学を超えてるよ」
にとりにはナイショにしていたが、逃げたのは魔理沙も同じだった。どうしても中に入れず『ひゃあ』と悲鳴を上げてそのまま帰路を飛び抜けた次第である。
慧音は人間の姿もハクタクの姿も妹紅にさらけ出しているだろう。それは間違いのないことだ。しかし、生徒の前に立ち指導する授業中の姿だけはどうしても見せたくないらしい。その理由が今の魔理沙にはよく分かる。
「何がステルスだ。ったく、どいつもこいつもキチガイじみてるぜ」
紆余曲折はあろうとも魔理沙は成長した。世の中は綺麗なものばかりじゃないということも知っている。
その事実に気付いたときにはえらくショックを受けた魔理沙であったが、やがて認めざるを得ないんだと理解した。慧音も長年寺小屋で授業をしているのだ。そのうちに平衡感覚が狂ってきてしまって、その結果としてあのバリヤーじみた空間を生み出したのだろう。なんの世界でもそうだが、ずっと同じことを繰り返しているうちに正常と異常の区別がつかなくなり精神的異形ともいえる進化を遂げてしまう人間がいる。特に人の上に立っているとそうなることが多い。ましてや立場的に弱い子供を相手にしていると尚更のことだろう。かくして塾講師と呼ばれる連中は異形となるのだ。幻想郷は妖怪ばかりだが、外の世界にも妖怪じみた者があちらこちらに蠢いている。
それでも、どこか負い目があったのだろう。慧音が妹紅を拒んだ理由はそこである。そして、それを伝えられる慧音は、正常な感覚とグロテスクな言動との間で葛藤していることだろう。仮に「私様の授業を見給え、自慢の授業だぞ、うははは」などと体育会系の笑いをしながら妹紅を招いていたら、妹紅はその晩にでも寺小屋を焼き払っていたかもしれない。
そんなことをぼんやりと思った魔理沙であった。
「で、お前の勉強計画はどうするんだ」
「しらないやい」
「とりあえずあの看板は書き直せ。私の真似をするアホが出てくるんだから。絶対出てくるんだから」
「……『橋』の漢字にイマイチ自信が持てない」
「ああ、だから平仮名だったのか。あの桔梗屋も実は漢字が書けなかったってオチがあっても良かったかもな。アハハ」
「私の知らないネタで笑うな。何が面白いんだそれは。みんなが笑う場面で一人だけ置いてけぼりを喰って焦って、そんで一応の作り笑いを浮かべる悲しさを教えてやろうか」
「そんなもん知ったことか!……あっ、ちょっと分かる」
「だろう!?盟友よ!?」
「それとこれとは無関係だ。お前はこの夏、漢字ドリルからやるんだよ」
「気が向いたらやる」
「それはやらないパターンだな」
「何故わかる」
「私もそういう人間だからよく分かる」
みんなができる当たり前のことすらできなかったとき、どうしても傷付いてしまうからな。そんなことも言おうかなと思ったが、魔理沙は口に出さずにおいた。それでもやらなきゃいけない場面はいずれやってくることを知っているからだ。それは魔理沙も同じである。その時が訪れるのがおっかなくって仕方がないから言えなかったのだ。
今日も今日とて蝉時雨。いつだったか、失われた夏が自分にはあると魔理沙は思った。夏を満喫しようと思い立ち天狗の山をうろついていたのは、心のどこかでその日のことが過ったからではないか。気付けば身体は水に濡れており、炎天下の太陽が心地よかった。
しいいと蝉のなきけり。
無用な争いを避けるために素直に土工と書けばいいのでは。
>足立区民
無用な争いを避けるために素直に西成区民と書けばいいのでは。
>塾講師
思春期の子供がどれだけ悪魔じみてるか知らないからそんなことが言えるんだ奴らに隙を見せれば最後だ羞恥を感じる脳の部位が麻痺しているに違いないんだこっちが破綻者ならあっちは破壊者だあんたはそのことをようく知らなきゃいけない是が非でも知らなきゃいけないどうだうちで働かないか
とても面白かったです。
「ひゃあ」がなかなかツボでした
ひゃう!
あと、魔理沙って別に道具無くても飛べるんじゃありませんでしたっけ?
評価に値しない。
でも楽しく読ませていただきました。「ひゃあ」がツボに入りましたね。
なんて愉快な文章なんだろうと思いました。
にとりが良い感じで人間臭くてとても良いキャラです
ろくでもない奴が先生になるのかと思ったら、先生になるとろくでもなくなるというのが正解のようで、そのことに自覚的かそうでないかが、傍目に見て好感を持てるか否かに関わっているようで。
慧音が単純な悪に描かれていなかったことにそのあたりの配慮を感じつつ、やはり社会の、あるいは心の闇を描くと、その巧さが際立つなあと感じながら読ませていただきました。
仕事となればなお一層そうである
罪穢れに敏感であるということは繊細という意味では賢く、軽薄という意味では愚かだ
しかし一流になるとはそれに距離をつめ一体化することであり罪穢れと一体化することでもある
罪穢れを受け入れないということはそれと一体化することを拒むということ
そういう意味で軽薄であると同時に罪穢れが見えてしまうという意味で繊細で客観的と言えるかも
繊細で軽薄であることに情熱を持つ態度はある種若々しく清々しくて嫌いじゃないわ
どうやらその直観は正しかったようです。
適度に散りばめられたギャグでオプティカルカモフラージュしていますが、
物語全体のテーマは人間の本質の一部に迫るものであり、
それが一貫して語られており青春の涙を思い出しましたと言っておけば
万事OKだと寺子屋の先生が言っていた気がします。
この一節が凄いと思います。