「う……うーん……」
とある夏の夜のこと、寅丸星は眠っていたのだが、どうにもむしむしとした暑さに耐えかね、身をよじっていた。
「んー……ん……?」
ふと、体感温度がすぅっと下がる。その変化に、逆に目の覚めた星はゆっくりと目を開ける。
そこで見たのは。
「あ……」
「……村紗?」
今まさに布団に潜り込もうとしている舟幽霊、村紗水蜜の姿だった。
「村紗、一体何を」
「ち、違うんです!」
星がいぶかしんで問いかけると、村紗はぶんぶんと首を振った。
「私はただ夜這いに来ただけで! 決して寝苦しいだろうから涼んでもらおうとしにきたわけでは!」
「いや逆じゃないんですか!?」
星がツッコむと、村紗は真剣な顔になって言った。
「いえ、私は誓ってあなたに嘘だけはつきませんよ。星」
どごすと威勢のいい打撃音が夜の命蓮寺に響き渡った。
『みなみつ!』
村紗水蜜は、その昔聖白蓮が連れて来た舟幽霊であった。
「初めまして。私の名前は水蜜。水のようにとめどなく溢れ出る蜜と書いて、水蜜です」
「明らかに途中いらないですよね」
初対面の自己紹介は、千年たった今も忘れない。
「ふしだらな者ですが、よろしくお願いいたします」
「ほんとだよ!」
(そしていつの間にか懐かれて今にまで至る、と)
だが元々はそんなに絡んでくる方ではなかったと星は思う。
最近になって妙に活発になってきた。
(やっぱりなんというか……寺の住人として少し改めさせなければ……)
などと決意を固めながら、日課の写経を進めていく星。
そんな折に、
「こんにちは、星」
と当の村紗の声が聞こえた。
「何ですか?」
スーッと静かに障子を開けて入ってきて、ぺたりと正座する。
「今日はナズーリンはいないのですね」
「魔理沙さんと一緒にトレハンに行ってますよ」
星の答えを聞き、村紗はぽんと得心したように手を打つ。
「だから星は一人寂しく筆を使って寂しさを紛らわせているんですね」
「変な言い回しせんでください!」
星はくるりと体を回しながら、傍らにあった巻物で村紗の頭をはたく。村紗は衝撃にぴくっと体を震わせたあと、潤んだ目で伏し目がちに星を見上げた。
「星……そんな太くて硬いもので、私を……」
「あーあーあー! いけません! いけませんよ! 寺に身を置くものとして、それ以前に一人の少女として! そんな含みのある言い回しをしては!」
「その……つまり……」
「わかってくれましたか?」
「その太くて硬いものを、口に含めばいいのですね?」
「そんなこと一言も言ってないよ!」
「でも私の言い分も聞いてください、星」
「なんですか?」
村紗の言葉に、星は続きを促した。
「実際、むしろ尼寺ならなおさら同s」
「そんな話聞きたくないですよ!」
「こってり搾られました……」
星の説教をたっぷり聞いて、しゅんとした村紗が呟く。
「星に全部搾り取られました……」
「全然反省してないですね!?」
「わー」
虎の眼光に睨まれ、村紗は慌てて立ち上がって逃げようとするも、長いこと正座をしたままだったので、幽霊のくせに足が痺れてバランスを崩した。
「っと、大丈夫ですか?」
「あ、星……」
慌てて星は村紗の体を抱きとめ、支える。
「星ー、いるかしら?」
そこにやってきたのは入道使いの雲居一輪。
「何やってるの?」
小首をかしげて部屋の状況を問うた一輪に、村紗が答える。
「実をいうと、少々やりすぎて足腰がたたなくなりまして」
「えっ」
「正座! やりすぎたのは正座ですよ!」
「もう、星があんなに激しくするから……」
「なにそれこわい」
「説教! 激しくしたのは説教ですからー!」
*
「最近、一輪が怪しむような目でこちらを見てきます」
「それは大変ですね」
「いやあなたのせいですよ村紗」
すました顔をする水兵さんな幽霊に、星は苦い顔をして言った。
「みなみつ、です」
「はい?」
しかし、想定外の言い返しを受け、星は面食らったように聞き返す。
「私の名前は水蜜です。まるで湧き水のようにしとどに流れいずる蜜と書いて、水蜜です」
「悪化しとるー!」
初めて会ったときのことを髣髴とさせる名前の紹介に愕然となる星だが、反面、何か水蜜は嬉しそうであった。
「初めて会ったときのこと……覚えていて、くれたんですね」
「いやそりゃ忘れられませんよって」
「嬉しい……」
「う……」
不覚にも、自分をまっすぐに見つめる水蜜の幸せそうな表情に、星はくらりときてしまう。
「不安でした。私の下の名前呼んでくれないから、忘れられちゃったんじゃないかって」
「そりゃあんな自己紹介されたら呼びづらいですよ……」
星のツッコミが聞こえてか聞こえずか、水蜜は嬉しそうに手を合わせる。
「ですから、これからちゃんと私の名前を呼んでくださいね?」
「わ、わかりましたよ。えー――水蜜」
水蜜は、その響きを味わい、噛み締めるように目を閉じる。
「いや、そんなに感じ入られても……」
「星が名前を呼んでくれました」
「はぁ」
「その瑞々しい唇を震わせて、水蜜と、水蜜と! あのまるで湧き水のようにs」
べしりと水蜜の脳天に星のチョップが突き刺さった。
「……何をするのですか」
「自分の名前で遊んではいけません!」
「私はいつだって真剣ですよ」
「なお悪いわ!」
*
「星、見てください」
「今日はどうしたんですか、水蜜」
とある日、廊下で呼び止められた星が振り向くと、そこにいた水蜜の姿を見て驚いた。
「いめちぇんです」
上半身は特に変わっていなかったのだが、下がいつものキュロットではなく、黒のプリーツスカートだったのだ。
「今の外の世界ではこのスタイルをセーラー服と称し、女学生の制服としているらしいのです」
「へえ、そうなのですか。可愛らしいものですね」
「欲情しましたか?」
「しませんよ」
星のすげない返答を聞いて、水蜜はしょぼんとなる。
「このスタイルは永遠のジャスティスでありロマンだと本には書いてあったのですが。お堅いあの子もイチコロ☆」
「お堅くて悪かったですね。煩悩滅するべしですよ。いやらしい目で見るからいやらしく見えるのです。逆もまた真なり」
星の言葉に、水蜜はううむと唸る。
「そうですか……わかりました」
「本当にわかったんですか?」
「はい。まずは星をいやらしくするところから始めろということですよね」
「全然違うよ!」
「まずは星がお風呂から上がるときに服を摩り替えてみたり、寝ているときに枕元でムフフな本を朗読してみたり……?」
「たすけてひじりん」
「聖は言いました。いいぞ、もっとやれ、と」
「神が均した土地に建った寺なのに、神も仏もないとはこれいかに」
*
「星の肌は綺麗ですね」
「なんですか藪から棒に」
井戸から水を汲んでいた星の持っていた桶を奪い去りながら、水蜜は星の腕をしげしげと見つめた。
「私は海の女です」
「はぁ」
「潮風に毎日さらされて、私はもう限界です」
「幽霊なんだから関係ないんじゃ……。それにもう海とかありませんよね」
「それはそれで、海の女にはつらいのです」
「水蜜が何をいいたいのか私にはよくわかりません」
水関係は私の仕事といわんばかりに水汲みをする水蜜を困惑の視線で射る。
「つまり、星の肌は白くて綺麗なのです」
「はぁ、ありがとうございます」
「荒縄の跡とか綺麗につきそうですよね」
「待てや」
流されることなく的確に差し込まれた星のツッコミに、水蜜は慌てて言い繕う。
「いえ、安心してください星。私はどちらかというと鎖の方が好きです」
「何をどう安心すればいいんですか!?」
「そーれ水難事故」
今までの会話はフェイクといわんばかりに、水蜜は溜めた水を一気に星へとぶっ掛けた。
「あらら星ったら……こんなにぐしょ濡れになってしまって……」
今日も命蓮寺に景気のいい打撃音が響き渡った。
*
「星、星、外の世界のれしーとというものを拾いました」
「何々……タベモノ ¥500、タベモノ ¥500、タベモノ ¥980、ノミモノ ¥550、ノミモノ ¥550、クダモノ ¥290、クダモノ ¥290……何がなんだかわからない……」
「クダモノってカタカナで書くとケダモノみたいですよね」
「いや……あ、確かに」
「この果物!」
「罵ってるんですかそれは」
「たまに降りてくる天人さんには使えそうな気がします」
桃の香りを撒き散らす天候少女をはたと思い浮かべた。
使えるような使えないような……。
「星はケダモノですよね?」
「いやその……確かに私は虎の妖怪ですが、仏道に帰依している私を捕まえてケダモノと言われるのは少し心外ですね」
「私、たまにはハメを外してみるのも重要だと思うんです」
「あなたはもう少し羽目をしっかりと入れたほうがいいと思うのですが……」
「しっかりとハメて入れるだなんて……やっぱり星はケダモノです」
「あなたが捻じ曲げているだけでしょうに!」
「うー、星のケダモノ! 290円!」
「え、それはクダモノじゃ……どこへ行くのですか水蜜! ちょ、待っ……!」
捨て台詞を残して脱兎の如く逃げ出そうとした水蜜だったが、ふと通りかかった雲居一輪に激突して止まってしまった。
「わぷ」
「わっと、村紗じゃない。一体どうしたの?」
「星は290円の女だったのです」
「えっ」
「わけのわからんこと言わんでください!」
「あーれー」
星渾身のショルダータックルが水蜜を彼方へと吹き飛ばした。
悪を滅し、荒い息をつく星に、一輪が心配げに声をかける。
「あの……星?」
「いや一輪、話せば長くなるのですが……」
「自分は、大事にね?」
「だから違うんですって!」
*
ふと、星が中庭を通りかかると、水蜜が木材をやすりで削っていた。
「何をしているのですか、水蜜」
星は気になって尋ねてみた。
「あ、星。これは新しい柄杓を作っているのです」
「柄杓って自分で作ってたんですか?」
「地底に封じられていたときにやたら暇だったので開眼した趣味です。意外と奥が深いですよ」
柄の部分であろうそれを、既に出来ていた器の部分にはめ込んで、柄杓が完成する。
「見事なものですね」
星は素直に褒めたが、水蜜は難しい顔をして、首を振った。
「私の求める柄杓はまだまだ遠いのです」
「そんな理想があるのですか?」
「星を柄杓にできれば最高なのですが……」
「どういうことよ」
星のツッコミと同時に放たれた問いに、水蜜は考え込む。
「だからその、水を溜めるのですよ。ほら、あれの要領で。その……そう! ワカメz」
「そぉぉぉぉい!」
*
「星のおっぱいをもぐもぐしたいです」
「こりゃまたどストレートな」
「ロマンではありませんか?」
「私に言われても……」
星のあっさりめな反応に、水蜜は口を尖らせる。
「もう少しうろたえてくれるかと思ったのですが……あわよくばもぐもぐさせてくれるかと……」
「さすがに連日あなたに付き合っていては慣れもしますよ」
「そうですか……」
星の言葉を聞き、ふむ、と水蜜は唸る。
「星もだいぶ私に開発されてきたんですね」
「開発とか言わんでください!」
「そうそう、それですそれです」
「この……!」
満足気な水蜜に、星はこぶしを振るわせる。
「わくわく」
「……我慢します」
期待するような水蜜の目に、星はぐっと抑えてこぶしを引っ込めた。
「残念……最近クセになってきていたのですが」
「……」
「気づかないうちに私も星に開発されていたのですね」
「だから開発とか言うなーー!」
「ところで星」
「……はい?」
不意に受け流されて話題を変えられ、反射的に聞き返してしまう。
「おっぱいはまだですか」
「いつまで待っても出てきやしませんよ!」
結局、今日も威勢のいい打撃音が響き渡った。
「あれ、村紗? どうしたのよそのコブ……というかなんか嬉しそうね」
一輪が庭を歩いていると、上機嫌な水蜜とばったり会った。
そのわけを問うと、水蜜は笑顔で答えた。
「はい。私はすっかり星に開発されてしまったようです」
「えっ」
*
「うらめしやー」
「……水蜜?」
廊下の角を曲がろうとしたところ、急に水蜜が出てきて驚かしてきた。
「驚いてはくれませんか」
「どうしたのですか」
とりあえず、星はわけを尋ねてみることにした。
「私も一応幽霊なのですが、なんだかそんなイメージが薄いような気がしていたので、たまには幽霊っぽいことをやってみようかなと思ったのです」
「それでうらめしや、ですか」
「はい。近くをうろついていた唐傘お化けさんがやっていたので」
「……」
「……」
なんとなく、会話が途切れる。
ふと、沈黙に負けたか水蜜が呟いた。
「……びはいんどふーどしょっぷ」
「はい?」
「びはいんどふーどしょっぷ」
「……?」
「……うらめしや」
「……」
「……」
「枕元に立った美しき女の幽霊。彼女は金縛りで動けない僕のズボンに手を伸ばす。動けないというのに僕の下半身は」
「下ネタに逃げるな」
*
星がふと水蜜の部屋の前を通りかかると、水蜜が部屋の中で机に向かっているのが見えた。
「あら、珍しいですね」
「あれ、星? 私を襲いに来たのですか? さぁ、どうぞどうぞ、駆けつけ三発といいまして」
「いえいえ結構でございます。何か書いているのが見えたもので、何をしているのかなと」
見てみると、紙を広げて筆で何事か長い文章を書きつけているのがみてとれる。
なかなか文字もさまになっていて、少し意外だった。
「星が独り筆で戯れてばかりなので、私も対抗して筆で戯れてみようかと」
「……で、一体何を書いているのですか?」
「小説を少々。題名は『セーラー服と撃沈アンカー』です」
「ヒットするか訴えられるかの二択ですね」
「語呂的な問題で『セーラー服とケツアンカー』に改題するべきか否か迷っています」
「二択が一択になりますね」
「ちょうど星がアンカーに目覚める場面をどうしようかと悩んでいたところでしたので、是非このアンカーをお尻に」
「イヤですよ! そもそもなんで私が登場人物に入ってるんですか!」
星のツッコミに、水蜜は考え込む。
「そういえば……全然世界観に合わないのにいつの間にか、馴染むようにそこにいました。そこにいるのが必然であるかのように」
「その必然をぶち壊したい」
「星」
「なんですか」
ふと、水蜜が真っ直ぐな瞳を向ける。
「百歩譲って柄杓スパンキングプレイというのは……」
今日も打撃音は元気です。
*
「ご主人ご主人」
「ん……」
ある夏の日、星が自室で伸びをしていると、彼女の部下のナズーリンが部屋にやってきた。
「どうしましょう。私の部屋を訪ねてきたのが水蜜でないというだけでこんなに感動できるだなんて……」
「だ、大丈夫かいご主人」
両手で顔を覆う虎柄の毘沙門天の様子に、さしものナズーリンも若干うろたえる。
「いえ……大したことではないのです。それで、何かあったのですか?」
「ああ、どうも今夜、妖怪の山で守矢神社主催の夏祭りが催されるらしくてね」
「ほうほう」
そういえばそんな季節か、と星は唸る。
連日こもってばかりだったので、少し気晴らしをしたい気分でもあった。
「私は魔理沙と一緒に行く約束があるのだけれど、ご主人も来るかい?」
「いえ、お邪魔でしょう。他の方を探しますよ」
ナズーリンと一緒に行けるならそれが一番よかった気もするが、友達と一緒のところに上司が乗り込んでも微妙な空気になるだけだろう。
なんだったら一人でも十分だった。
「フフ、遠慮しなくてもいいのにね。まぁ、そうおっしゃるならお言葉に甘えて」
「楽しんでらっしゃい」
ぴゅーと恐らく魔理沙の元へ飛んでいったナズーリンを見送りながら、星はふぅと息をつく。
聖が復活するまでの永き間、星とナズーリンとは一緒にひっそり暮らしていた。しかし彼女は今はトレハンネズミ仲間の魔理沙を見つけて、しょっちゅう一緒に出かけている。
少し寂しいが、ナズーリンが幸せそうなら、それでよかった。
(思えば……ナズーリンが魔理沙さんと親しくなった頃ですか)
「ほうほう、夏祭りですか。ほうほう」
「うわびっくりした」
村紗水蜜がやたらと絡んでくるようになったのは。
「星、一緒に夏祭りに行きましょう」
「うーん、結局こうなる運命ですか……まぁいいでしょう。あなたには監視も必要でしょうし」
「そんな……星と一緒にお祭りに行ける上に、お祭りの間中ずっと星に舐めるように見つめられるだなんて……考えただけで私……」
「やっぱりアンカー縛り付けて置いていきましょうか」
「あぁん……そんな放置プレイなんて……」
「まぁ、なんだかんだで連れて行くことになりました」
「えへへ」
水蜜は顔をにやけさせながら、星の腕にひっついている。
ちなみに二人とも浴衣。
星は水色の、花模様の入った浴衣。水蜜はアンカーをあしらった模様のついた白地の浴衣だ。
「虎柄ではないのですね」
「そこまで目立つ気はありませんよ」
ただでさえ水蜜のせいで目立ちそうなもんだというのに。
「あ、りんご飴ですよ。食べますか水蜜?」
「そんな……あんな大きいの、口に入りません……」
「いやそりゃ入んないですよ……」
今日は基本的に妖怪向けのお祭り。
山頂付近の広場が、主に出店が揃っている場所だ。
「あ、チョコバナナ……」
「そんな……あんな黒くて長い」
「ごめんなさい、今のは流石にネタフリにしか思えないチョイスでした」
「舐めていただくチョコバナナもオツなものです」
「そうかなぁ……」
ヒュー……ドン
「お、花火ですか。山からよく見えるような場所取りは大変だったでしょうね」
「ろまんちっくですね、星」
「ええ、まあ……」
「夜空に咲く大輪……その下でも、祭りの熱気に誘われた花が咲きに咲き乱れ」
「もうちょっとろまんちっくな気分でいましょうよ……」
「ときに、そこにちょうど良さそうな森が見えるのですg」
瞬間、鈍い打撃音が響き渡った。
「今回は周りに配慮して、音、抑え目です」
「その分衝撃が内部に響いて……あうう」
「懲りたら自重なさい。ほら、花火もいいところですから。どこか適当なところに座りましょう」
ヒュー……ドドン
二人座って、花火を見る。
「ねえ、水蜜」
「はい?」
口を開いたのは、星だった。
「あなたもしかして、私が寂しそうに見えたから絡んできてるんですか?」
ドン、と花火が響く。
ふと思った。変なのは前から変だったけど、ナズーリンが魔理沙と仲良くなってから、ナズーリンがあまり自分といなくなってから、水蜜がたくさん話しかけてくる。
だからもしかして。そう思った。
「違います」
しかし、即座に帰ってくるのは否定の言葉。
「そう、ですか」
「私は……私のことしか考えてない、ダメな女ですから」
「水蜜?」
目を合わせない水蜜を、星は心配げに覗き込んだ。
「あなたの傍にナズーリンがあまりいなくなったから、気兼ねなく声がかけられると思った。ただ、それだけの話です」
「……遠慮してたんですか?」
「嘘は言いませんよ」
彼方の花火を、じとっと見つめながら、憮然として水蜜は言う。
「星が毘沙門天のところに修行に出されて、私は寂しかったのです。そこから帰ってきたと思ったら、いつの間にか星の隣にナズーリンがいたのです」
それは懺悔のようでもあった。
いつか吐き出してしまいたい。水底の闇のような感情。
「そんなわけでナズーリンが離れたここぞとばかりに求愛行動をですね」
「もうちょっとまともな愛情表現は出来なかったんですか」
「直球ストレートが一番確実かと思いまして」
「ストレートすぎるんですよ!」
ツッコんで、そして目が合っているのに気づいて、なんだか赤くなる。
それはそうだ。告白されたも同然の状態なのだから。
「……なぜ、私なのですか? 私のどこがよかったのですか?」
などと、困らせるだけの質問をしてしまう。
「体ですね」
「うおい」
困るどころか堂々と予想外の答えを返してきた。
「ですから嘘は言いませんよ? 初めて会ったときに惹かれた第一印象がそれでした。ですから思わず自己紹介とともに求愛行動を」
「あれ思わずやってたんだ!」
あの初対面のときの舞台裏が今明かされる。
実際大して裏もなかったが。
「でも、もちろん今はそれだけじゃありません。お寺に来たばっかりのこんな私に、お姉さんのように色々と世話を焼いてくれた、優しい優しい虎の妖怪」
ドン、とまた花火が上がり、二人の顔を赤く照らす。
「私は、あなたそのものが大好きになっていました。封印されている間、星のいない寂しさが痛いほど教えてくれたのです」
その光の中、にこりと水蜜は微笑んだ。
「だから、私は幸せです。こうして、あなたの隣にいられて」
「――!」
花火の色が焼き付けられてしまったように、星の顔からは赤みが引かなかった。
「ほんとにもう……どストレートなんですから」
でも、その顔からは、自然に笑みがこぼれてしまう。
「だ、だからその――やらないk」
「ちぇい!」
しかし無情の水平チョップが水蜜の額を強襲する。
「だーめですよ。まだまだ好感度が足りません」
「むー、しっかりイベント入ったと思ったのですが」
額をさすりながら、水蜜はむくっと身を起こす。
「それはまあ、私は堅い女ですから」
星は笑って言った。
「もっともっと、その気にさせてくれませんとね?」
すこしぽかんとした後、水蜜は笑顔で答えた。
「……はい!」
――思えば、この日常が、もうすっかり楽しくなっていたのかもしれない。
願わくば、この馬鹿馬鹿しくも愛しい日々が、永遠に続きますように。
『みなみつ!』――fin
それはそうと、ひじりんの発言はマジなのか……?
とっても素晴らしかったです!!!
いいぞもっとやれ
水星(星水)もっと増えれば良いのに!
水蜜かわいいよ水蜜w
マリナズも上手くやってるようでなにより
こういう「礼儀正しい変態」というのもなかなか面白かったですw
この馬鹿馬鹿しい日々はずっと続いて欲しいですね。
ナズ辺りなら冷たい視線&放置プレイで変態に対処しそう。
これはうまいwww
ていうかこの水兵さんもう駄目だww
言葉の弄び方が、小気味良かったです。
直接的な行動より妄想の世界に重きを置くそのスタンスも良し。
あの星に突っ込み役をさせる言動が更に良し。
やるね、水蜜さん。幸せになってね!
それはともかくお堅い人と開放的な人の組み合わせはいいものだ
いいですね変態
変態はいい……
全体通して面白く読めました。
原作風の口調の村沙もいいですね。一輪と書き分けしづらいですけど。
その辺で意外と違和感なく読めました。
こういう肩の力を抜く感じのボケとツッコミは実に良いですね。
とても、とても良きSSを有難う御座います。
水星、そういうのもあるのか。
チョイ役だけど、一輪さんも良かった。