Coolier - 新生・東方創想話

人間の里に偉大な芸術家が誕生しました! 前編

2012/03/16 00:04:10
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 ~注意点~

・姫様可愛いよ姫様。その一点に尽きるお話です。
・気の向くままに書き続けていたら驚きの長さになったので、前後編に分けました。合計240kb越えってどう言う事なの……。
・『***』の改行で人称と場面が切り替わるザッピング形式を採用しております。努力はしましたが、読み辛かったら作者の力量不足を罵って下さい。
・俺設定注意。でも基本骨子は原作準拠だと言い張ります。
・作者の学が薄いため、途中に出てくる芸術に関するアレコレは適当です。雰囲気だけでどうぞ。
・『たぶんこんな奴はいてもおかしくないだろう』と言う想像に基づくモブキャラが何人かいます。気になる方はご注意を。
・某PCゲームネタは(タイトルも含めて)フレーバーです。徳川輝夜のデレタイムは大好きですがっ。
・作者はフロム脳 (足りない設定の隙間を想像で補ってニヤニヤする症候群)です。ご注意を。
・レミリア編は執筆中です。

 以上の事が赦せる方はどうぞお付き合いください。


 ***


 【Case.1】
 ~ 八意永琳の目撃証言 ~


「……輝夜。一体何をしているの?」
「あ、永琳。おはよう」
「おはよう。でも『あ、永琳』じゃないわよ。何をしているの?」
「何って、盆栽のお手入れだけど?」
「……随分と斬新なお手入れね」

 永遠亭の朝は遅い。
 住人の過半数を占めるウサギ達は夜行性だし、永琳自身も弟子の冷仙も、どちらかと言うと夜型の生活をしている。
 夜は研究や勉強が捗ると言うのも大きな理由だが、診察や行商は昼過ぎから始める事が多いため、それに合わせて睡眠時間を調整した結果でもある。

 『研究にも一段落着いたし、湯浴みでもして寝るか』などと考えながら縁側を歩いていた永琳がふと庭に目をやると、、
 両手を翼のように大きく広げて、盆栽をジッと見つめている輝夜を発見した。
 手に小さな鋏を持っているため辛うじて盆栽の手入れと言う言葉も理解できるが、
 永琳の目には『盆栽を相手に荒ぶるグリコのポーズで威嚇の練習をしている』ようにしか見えなかった。

「私の中の感性がね。囁くのよ。
 この盆栽に対して『中々の強敵! 方々油断めされるな!』ってね。私はその声に従っているだけよ」
「囁きにしては、随分と力強い声ね。で、どれくらいその格好でいたの?」
「朝起きてからだから、一時間少々かしら。『荒ぶるグリコのポーズ』と言うらしいわ」

 ああ、本当に荒ぶるグリコのポーズだったのか。
 そんな心底どうでもいい確認をしつつ、軽い目眩を覚えた永琳は着替えとタオルを抱え直して風呂場へと急ぐ事にした。

「何でもいいけど、ほどほどにね。あなたは姫なのだから、奇行に走らないように」
「はーい」

 結局輝夜は、永琳がゆったりとした長風呂から上がり、仮眠前に本を読み、
 一眠りして仕事をし、診療所を閉めて、晩ご飯の時間になるまでずっとそうしていたのであった。
 盆栽は、一切変わっていなかった。


***


 【Case.2】
 ~ 鈴仙・優曇華院・イナバの目撃証言 ~


「あのー、姫様?」
「なぁに?」
「えっと……何をされているのですか?」
「何って、見ての通りよ。竹槍に刺されて、内臓をはみ出させているのよ」
「止めて下さい。生々しいです」

 言われてみればその通り、どう見てもゲリラトラップに引っかかって往生寸前のようにしか見えない状態だ。
 詳しく描写するとR18Gとなってしまうため避けるが、とりあえず両手が物理的に外れてしまい身動きが取れないらしい。

「それは妹紅さんが?」
「いえ、私が自爆したのよ」
「……はあ」
「ほら、最近妹紅との殺し合いがマンネリ化してきちゃっててね。
 だから小さいイナバを見習って、妹紅用に罠を作ろうと思ったんだけど……」
「……ほぇ」
「罠の完成度を調べるには、誰かが罠にかからないとダメじゃない?
 でも妹紅以外の誰かがかかっても可哀想だし、上手く行ってたら死んじゃうし」
「……だから、ご自身で?」
「そうよ。どう?」
「いや、そんなドヤ顔をされましても。死にかけているみたいですし、結果は上々なのでは?」
「そうね。……あ、意識が遠のいて来たわ。
 リザレクした後は妹紅の所へ遊びに行く予定だから、帰りは遅いって永琳に伝えておいてね」
「はい、分かりました」
「それじゃあ、少しだけ、おや、す、み、なさ……」

 血を失い過ぎた輝夜は、針串刺しの刑に処されたまま息を引き取った。
 冷仙はため息を一つつくと、背に背負っていた薬箱を降ろして輝夜の救出に取りかかった。

「そんな、『遅くなるって伝えておいてね』と言われましても、このまま放置なんてできるわけがないでしょう。まったくもー、姫様は……」

 グチグチと不満を口にしつつ、地面に風呂敷を敷いて穴だらけの輝夜を横たえる鈴仙。
 風呂敷が血に塗れてしまうのは不愉快ではあるが、どうせ後で輝夜が着ている服も洗濯して繕わないといけないのだ。
 今更一つ二つ洗い物が増えたところで、変わりはしないだろう。

「……うん、まあ、遺体の見張りまではしなくていいか。それでは姫様、また後ほど」

 早くもリザレクを始めている輝夜をその場に残し、とっとと里へと向かう冷仙であった。


 ***


 【Case.3】
 ~ 因幡てゐの体験談 ~

「イナバ~? 小さいイナバ~?」
「はいはい。お呼びかな?」
「あ、いたいた。ちょっとこっちにいらっしゃい」
「……まさか」
「そのまさかよ。ほら、捕まえた!」
「うわぁ!?」

 ある日、因幡てゐが永遠亭の中で(珍しく)真面目に仕事をしていると、
 縁側でのんびりとお茶を飲んでいた輝夜に呼び止められた。
 何じゃらほい? とそちらに寄って行くと、普段が嘘のように素早く輝夜が動き、てゐを拘束。
 膝の上に乗せられてしまった。

 これは輝夜の悪癖で、暇になった時に誰彼構わず近くにいる誰かを捕まえて、一日中離さないのである。
 体格の差からか、てゐは膝の上に乗せられて後ろから抱き締められる事が多かった。

「あのー、姫様。私はですね、お師匠様に言われてお使いに行く所だったんですけど……」
「いいじゃない。変わりの誰かに行かせれば。何なら、私が行って来ましょうか?」
「いやいや、姫様をパシリにさせたら私がお師匠様にお仕置きされてしまいますよ」
「いいから、いいから。あー、それにしても、地上のウサギって何でこんなにモフモフなのかしら……」
「あのー、姫様……?」
「モフモフ、モフモフ、モフモ……zzz」
(「寝たー!?」)

 てゐと言う名の抱き枕が心地良かったのか、単に日向ぼっこが気持ちよかったのか。
 輝夜はてゐを抱き抱えたまま、コテンと寝てしまった。
 小一時間ほどして、たまたまその場所を通りがかった永琳は、てゐの困り顔を見て即座に状況を理解した。

「あら、てゐ。捕まっちゃったの?」
「お師匠。はい、捕まっちゃいました……」
「……まあ、仕方ないか。お使いはまだ?」
「出る所を捕まりました。買い物袋もここに」
「うーん……。まあ、明日にしましょう。あなたはそのままお昼寝してていいわよ」
「……私にも、予定はあったんだけどなぁ……」

 結局、てゐが解放されたのはその日の夜になってからだった。


 ***


 【Case.4】
 ~ 藤原妹紅の場合 ~

「輝夜! 覚悟しろ! 頭ねじ切っておもちゃにしてやる!」
「妹紅! あなたこそ! ゲーム終了、直ぐに死ね!」

 いつも通りなので描写・表現共に割愛。


 ***


 【Chapter.1 前日~初日】

『If you speak the truth, have a foot in the stirrup.
 本当の事を言う前に、馬に片足かけておけ - トルコの諺』


 輝夜がそんな毎日を送っていたある日の事。
 とある夕食の席で、鈴仙から永琳へと提案が持ち上げられた。

「あの、お師匠様。一つよろしいでしょうか?」
「何かしら、優曇華」
「その……姫様に、働いて頂く事はできないでしょうか?」
「まあ、いいんじゃ……何ですって?」
「だから、姫様に働いて頂こうと思うのですが、どうでしょう?」
「いや、どう、と、言われても……」

 輝夜の日常生活は、先ほど描写した感じの通りである。
 日がな一日永遠亭の中にいてよく分からない事をし、稀にフラフラと居なくなったかと思えば、
 妹紅と一緒だったり一緒じゃなかったり、帰りが遅かったり早かったりとのんべんだらりと過ごしている。
 当事者の輝夜はと言うと、突然の提言にきょとんとしていた。

「……確かに穀潰し状態ではあるものの、別に輝夜に働いて貰わなくても、ちゃんとやって行けるくらいの稼ぎや蓄えはあるわよ?」
「それは知っています。ただ、少し前に兎達が話しているのを聞きまして……」
「何て言っていたの?」
「てゐ。お願いしていいかしら?」
「ん。うちの兎達の間でね。『姫様って、外の世界ではニートって言うらしいよ』って噂がね、流れてたんだよ。
 私はそれを『高等遊民』とか『ディレッタント』って言うんだよって訂正したんだけど、今度は『セレブニート』って言葉が出て来て……」
「ああ、はいはい。確かにそれなら聞いた事があるわね」

 それは永遠亭の中で流れている噂であり、永琳も耳にした事のあるものだった。
 永琳は一切気にしていなかったのだが、兎達にとってはそうでは無かったようだ。

「正直、兎は忙しい種族だからさ。トップが働いてないと示しが付かないのは確かなんだよね。
 ほら、私だってやる時はやるでしょう? お師匠だって、姫様が世間様一般でニート扱いされてるのを良しとするの?」
「んー……まぁまぁ、言いたい事も分かるけどね」
「だから私達兎一同としては、ちょっと、そこら辺をこう、改善してくれるとなぁ……何て考えています。
 如何でしょうか、姫様、お師匠様」

 ぺこりと頭を下げるてゐと鈴仙、そして横で並んでご飯を食べている大人の兎達。
 頭を下げていないのは、話が良く分かっていない子兎くらいのものだ。

 思わぬ団結を見せて深々と頭を下げる兎達を前にして、さしもの永琳も顎に手を当てて考え込んでしまった。
 元々、永遠亭は輝夜を月からの追っ手から隠す目的で作られた、一種の『隠れ里』である。
 つまりは輝夜のために存在しているのであって、その輝夜を働かせるのは本末転倒な気がしたのだ。

 そんな事を考える永琳に対して、当事者の輝夜の返答は至って簡単なものであった。

「私は構わないわよ」
「……輝夜?」
「要するに、仕事をすればいいんでしょう? 私なら平気よ永琳。……あ、でも盆栽のお世話とかはどうしましょう?
 ああ、それにお稽古の時間もちゃんと取れるかしら?」
「それくらい、合間の時間を見てできますって。むしろ姫様は盆栽の世話に時間をかけ過ぎです」
「そうかしら? ……そうかもしれないわね。地上人はそうやって生きているのだものね」

『お稽古』とは、輝夜が日課としている様々な教養の練習時間である。
 詩歌や茶道と言ったような基本的な日本芸能は全部抑えてあるのだが、
 時々何を勘違いしたのか、倉庫からギターやマリンバなどを出して来ては熱心に演奏している姿が目撃されている。
 日課と言っても、集中して一時間~二時間、興が乗りすぎた時に三時間程度の練習をするだけで、
 特別に何かを極めようとするものではない。

「そんな大袈裟な。そもそも、姫様の中での『仕事』はどんなイメージなのですか」
「私の? ……こう、グッと来て、ガァーっとやって、クマーな感じの……」

 大袈裟な身振りを交えて何かを伝えようとする輝夜だが、それを理解できる者は一人としていない。
 もちろん永琳にも分からない。宇宙人同士でも分からないものは分からないのだ。
 伝わっていない事が分かったのか分かっていないのか、輝夜は気にせず言葉を続けた。

「まあ、それはいいとしてよ。私は別に働いてもいいわよ。可愛い因幡達にそんな事を言われたら、ねぇ」
「……輝夜、本気なの?」
「もちろん本気よ! それに、永琳だって噂は気にしていたんでしょう?」
「確かに、これだけ言われれば気にもなるけど……」
「じゃあ、いいじゃない。月からの追っ手ももう来ないんでしょう?」
「うーん……まあ、それなら明日からでも輝夜にも働いてもらう事にしましょう。それじゃあまずは……」
「そうと決まればこうしては居られないわ! 早く準備をしないとね! ご馳走様~」
「シフト表を見直して……え?」

 輝夜はさりげなくお箸とお茶碗を置き、膝の上に乗っていた子兎達を横に退けると、
 勢い良く立ち上がってからグッと小さな拳を握って気合のほどを見せ付けた。
 そのガッツポーズを思わず二度見をした永琳を放置して、
 そのままご馳走様もそこそこに部屋から出て行こうとするが、そこで漸く永琳のツッコミが追いついた。
 
「輝夜? 準備なんて要らないわよ?」
「何を言っているのよ永琳。必要な物は大量にあるでしょう? それとも、そこから揃えるのまでやるの?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ああ、何から始めたらいいのかしら。履歴書とかを書く文化は里には無いから、基本的には身一つあればいいわよね。
 それなら住む所を決めないといけないし……うん、まずはそれからね!」
「……待った、待ちなさい輝夜。仕事って、どんな事を想定しているの?」
「何って、人里に赴いて何らかの職業に就こうかと……そう言う事じゃないの? ねぇ、小さい因幡?」
「あ、えっと、その……」

 水を向けられたてゐは、咄嗟の返しに窮してしまった。
 それは他の兎達や永琳もそうで、その場に居る全員が想定していた『仕事』とは、
 精々が永琳の助手か診療所の受付程度のもので、そこまで本格的なそれは想定していなかったのだ。

「その、姫様。別に何もそこまで話を飛躍させなくてもいいんですよ? お師匠の手伝いとか、受付とか……」
「あら、それは『仕事』ではないわ。ただの家業のお手伝いよ。だって、日々の糧を得るのが仕事でしょう?
 今まで私が居なくても回っていた所にムリヤリ突っ込んでも、稼ぎが増えるわけでもなし。無意味だわ」
「……そう言われれば、確かにそうかもしれないけど……」
「永遠亭の中に仕事が無いなら、外に求める。何か間違っている?」
「いや、でもね輝夜! 私達はそこまでを貴女に求めては……」
「それに!」

 慌てて間違いを是正しようとした永琳の鼻先に指を突き付け、輝夜は更に続けた。

「さっきから言うに事欠いて、人の事をやれ『要らない子』だの『穀潰し』だの『使うに使えぬ無敵のニート』だのと!
 その挙句に『そこまでは望んでいない』ですって?」
「い、いや、そこまで言っては……」
「黙らっしゃい! 忌憚のない意見はいいのだけど、結構傷付いたのよ? 今も何を言いかけて?」
「む、むぐっ……! いや、あれは単なる言葉の綾で……」
「何でもいいわ。そこまで言われたら、私にだってプライドがあるの。
 きっちり外で稼いで来て、目に物を見せてあげるから覚悟しておきなさい!」
『姫様、どこか行くのー?』
『どこか行くのー?』

 そんな輝夜に声をかけたのは、つい今しがたまで輝夜の膝の上に居た子兎達だった。
 改めて座り直した輝夜は、その子兎達を抱き上げて頬ずりをした。

「そうよ、おチビちゃん。明日から私はお出かけしてくるから、ちゃんと皆の言うことを聞いていい子にしているのよ。
 てゐ、私が居ない間はこの子達の事をよろしくね!」
「ゑ? ……まあ、兎の面倒を見るのは群れ長である私の役目だけど、改めて言われなくても今更……」
『お土産買って来てねー』
『お土産ー、お土産ー』
「はいはい、分かったわよ。それじゃあ永琳、そういう事だからよろしくね」
「あ、はい……」

 遊びに行くのと勘違いしているのではなかろうか。
 ふとそう思ってしまった永琳だったが、何となく否と言い出しづらくなってしまったため、
 思わず頷いて了承してしまったのであった。


 ***


「それじゃあみんな、行って来まーす!」

 翌日の朝。
 いつものゆったりとした動きはどこへやら、永琳達が驚くほどの速さで荷物を整えた輝夜は、
 大きな風呂敷を背負って永遠亭の門の前に立ってた。
 風呂敷包みの中身は不明だが、古典的に横差しされた傘だの飛び出た衣服だのが垣間見えて、
 事情を知らない者から見れば永遠亭を追い出されて夜逃げするような様相でもあった。朝だけど。

 しかし輝夜本人は全くそれを気にしておらず、終始ニコニコと笑顔のままで。
 元気に挨拶をした輝夜は、何が入っているのか良く分からない荷物と一緒に竹林の彼方へと消えて行った。

「はーい、行ってらっしゃーい。……本当に行っちゃいましたね、お師匠様」
「本音がポロリと出たのがまずかったわね……」
「やっぱりアレ、本音だったんですか……」
「まあ、あれよ。月とのいざこざの心配も無くなったわけだし、永遠亭も役目を変えて行くべき時なのかな、とは思っていたのよ。
 だからある意味丁度いい機会だわ。永遠亭は輝夜無しでも回るから、輝夜にはゆっくりと自分を探して来て貰いましょう」
「分かりました。まあ、姫様無しでも何が変わるわけでも無いですしね。……おや?」

 輝夜が消えて行った竹林をぼんやりと眺めていた鈴仙が、そこからやってくる人影を発見した。
 長い白髪を赤いお札で結び、白のワイシャツにもんぺを合わせたそのいでたちは、藤原妹紅その人だった
 その横には何人かの人間を伴っており、患者を連れてきたのだと分かる。
 妹紅は門の前に永遠亭の一同が会している事に驚いたようだが、何かに納得したように患者を鈴仙に渡して、永琳に話しかけた。

「おはよう先生。朝一で悪いけど、患者を連れてきたよ」
「いつもご苦労様。こちらも悪いけど、姫様なら……」
「ああ、そこで会ったよ。別に戦いに来たわけじゃないからそれは別にいい。
 それより、何があったんだ? 引きこもりのあいつが家出か?」
「うーん、まあ、売り言葉に買い言葉って感じかしらね。心配だけど心配はしてないわ」
「ふーん? 事情を聞いてもいいのかな?」
「まあ、貴女には話しておいた方がいいかしらね。実は昨日の夜の話なのだけど……」

 ~薬師説明中~

「と言うわけで、里で働くと言って出て行ってしまったのよ。だからしばらく姫様との決闘は無しでお願いね」
「ん、ああ、それは構わないけど……輝夜が働きにねぇ」
「ま、大丈夫でしょう。仮に働き口が無くても、この世界なら飢える事は無いだろうし、そもそも死なないし。
 輝夜を傷物にできる誰かなんて、それこそ世界中を探してもそうそう見つかるものでもないからね」
「いや、そういう事じゃなくてだな。んー……まあ、いいか。これが岡目八目ってやつなんだろうしな」
「ん?」
「何でもないさ。それじゃ、私はこれで失礼するよ」
「ええ、ご苦労様。またよろしくね」
「ほいほい。それじゃ~」

 意味深な言葉を残した妹紅だったが、特に何かを言うわけでもなくあっさりと踵を返した。
 それに疑問を感じないでもない永琳だったが、背後から自分を呼ぶ弟子の声が聞こえたためその疑問を放棄した。
 別に大した事でも無いだろう。

「あいつが働きにって事は、やっぱりアレかな。それなら私も便乗させて貰おうっと」

 妹紅の呟きは、誰の耳にも届く事無く竹林の中へとにかき消えていった。


 ***


「と言う訳で、相談に乗って欲しいんだけど」
「相談、と言われてもなぁ」

 一方。
 永遠亭を出発した輝夜は、人里に住む知り合いの上白沢慧音の家を訪ねていた。
 人里の守護者をしており、顔も広い彼女に詳しい話を聞こうと言う算段である。
 しかし、話を聞いた慧音は渋い顔をして考えこんでしまうのであった。

「別に一から十まで面倒を見て貰う気は無いわよ。
 しばらく下宿できる場所を紹介してくれるくらいでいいのよ。どこか、いい場所は無いかしら?」
「まぁ、そう言う場所の心当たりは幾らかあるが……職を探すと言われてもなぁ。
 失礼だが、輝夜殿にそのような心得があるとは思えなくてな」
「そんな事は無いわよ。私だって、永琳無しで働く事くらいできるわよ!」
「そこで永琳殿が引き合いに出される辺りに、激しい不安を感じるんだが……」
「……そう言うものかしら?」
「そう言うものなのだ。うーむ……」
「おーっす、お邪魔するぞ慧音ー……って、おや」
「あら」
「むっ!」

 輝夜と慧音が簡単な押し問答をしている所に入ってきたのは、慧音の親友である藤原妹紅だった。
 肩に背負った籠に食べ頃の竹の子を満載している所を見ると、どうやらそれのお裾分けに来たらしい。

 そしてこの藤原妹紅は、輝夜とは事ある毎に殺し合いをする仲でもあった。
 最初はキョトンとしていた2人だったが、状況を認識するや否や素早く三間ほど(約・5.4m)の距離を開けてスペルカードを取り出した。
 場のボルテージが一気に加熱して行き、両者共に不適な笑みを浮かべて血気を煽る。慧音は素早く湯飲みを持ち上げた。
 が。

「……まあ、ここは慧音ん家だからな。竹の子持ってきたけど、輝夜も食うか?」
「ん、そうね。有り難く頂くわ。いらっしゃい妹紅」
「2人とも、お約束なのは分かるが大概にしてくれないか。一々反応するのが面倒臭いんだが」
「「 ごめんなさーい 」」

 持ち上げた湯のみを傾けて茶を啜り、呆れたような声で2人を嗜める慧音。
 仇敵同士ではあるのだが、週3の割合いで頻繁に拳を交えて命を奪いあっている間柄なため、
 場外乱闘をしてまで暴れる無駄な欲求不満も無く、仮にあったとしても分別の付かない子供でもない。
 そのため、オフの2人は大体こんな感じだった。

「全く、話の腰がバッキバキに折れてしまったじゃないか。こう言う時はまた変な連鎖が……」
「ごめん下さいな~ ワーハクタクはいる~?」
「慧音いるか~? ちょっくら相談事に来たぜ~」
「ほら、案の定だ。今度のお客さんは誰かなっと……」

 慧音が湯飲みを置き、話を再開させようかとした所で再び来客があった。
 誰かと思った三人が入り口に目を向けると、そこにはやや珍しい二人組の姿があった。

「ん? 輝夜も居るのか。何か珍しい面子だなぁ?」

 二人組の片方は、霧雨魔理沙。魔法の森を根城にする人間の魔法使いだ。
 トレードマークの箒を玄関に立てかけながら(勝手に)入り込もうとしていた。

「どーおー? ワーハクタクは居たー?」

 もう片方は、レミリア・スカーレット。紅魔館に住まう(自称)串刺し公の末裔である。
 こちらは玄関口の前で日傘を差したまま中に入ろうとはせず、魔理沙の腰の横から中を覗き込んでいた。

「……あれ、あなたは紅魔館の?」
「そういうお前は、永遠亭の?」
「今日は千客万来だなぁ。妹紅、お茶を頼む」
「あいよー。ついでに筍に仕込みを入れて来るー」
「さて。……レミリア嬢。その大荷物は何だ? まさか……家出か?」
「え? ……何で分かったのワーハクタク? あなた、エスパーか何か!?」
「いやいや、今のお前を見れば誰でもそう思うと思うぜ。輝夜の方も家出か?」
「何で分かったのよ。……まさかあなた、魔法使い……!」
「まさかじゃなくて魔法使いだよ! そのボケはワザとらしいわ!」
「突っ込みもできるなんて……まるで言葉の魔術師ね!」
「私はエルフじゃねぇ!」

 魔理沙は手ぶらだったが、レミリアの方はかなり大きなリュックサックを背中に担いでいた。
 成人男性が登山用に使うと思しきそれ自体は、輝夜の荷物と比べれば大したものではないのかもしれないが、
 それを小柄なレミリアが担いでいるのだから、対比の問題でかなりの大荷物に見えた。

「けーね~ お湯が沸いたよ~ 湯呑みどこ~?」
「ああ、すまない。来客用のはこっちの押入れに入っているんだ。お湯だけ持ってきてくれ~
 ……とにかく、こんな所でグダグダ話していても仕方ない。詳しい話を聞こうじゃないか」
「それはいいんだけど、ワーハクタク。中に入ってもいいのかしら?」
「ん? ……ああ、そう言えばレミリア嬢は吸血鬼だったな。どうぞ、中にお入り下さい」
「ありがとう」

 吸血鬼は、招かれない限り他人の家に勝手に入る事はできない。
 そのことを思い出した慧音の一言、つまり家主である慧音に招かれた事で、ようやくレミリアも敷居を跨ぐ事ができた。
 そこにお湯を持った妹紅が戻って来て、全員がお茶を飲んでホッと一息をつくと、やっと会話が再開された。

「さて。輝夜殿の話は少し聞いたのだが、レミリア殿はどうしたのだ?」
「咲夜やフランドール達と見解の相違を起こして、我が侭を通すために家出してきたのよ。
 あいつらがゴメンナサイって言って頭を下げてくるまで、絶対に帰ってやらないつもりよ!」
「……それはそれは、何ともコメントに困る事を……。紅魔館はそれで大丈夫なのか?」
「平気よ、平気。当主が居なくなった程度の事で何とかなるような柔な組織構造はしてないわよ」
「永遠亭だってそうよ。私が居ても居なくても、大して変わる事があるわけでもなし。何の問題も無いわよ」
「……お?」
「……おお?」

 呆れたような顔で考え事をしていた慧音を尻目に、輝夜とレミリアは何かを閃いたように互いの顔を見合わせた。
 しばし流れる微妙な間の後。先に動いたのは輝夜からだった!

「グッと来て!」

 輝夜が力を貯めるように腰を落とし!

「ガァーっとやって!」

 レミリアが何かを掻き分けるように大きく両手を広げ!

「「クマーな感じの!」」

 両者同時に両手と右脚を振り上げた!

 無駄に完璧に息の合ったタイミングで、二人の謎モーションがガチッと噛み合った!
 荒ぶる鷹だかグリコだかのポーズのまま見詰め合っていた二人だったが、
 やがて背筋をちゃんと伸ばした普通の姿勢に戻ると、がっちりと固い握手を交わした。

「やるわね、地上の妖怪!」
「やるじゃない、月の罪人!」
「……誰か、投げる匙をくれ。私にはもう何が何だから分からん」
「右に同じく……だぜ」
「この馬鹿と波長の合う馬鹿が居たんだなぁ……」

 その一部始終を眺めていた慧音は思考を放棄し、魔理沙は座布団を枕に横になり、妹紅はしみじみと頷いた。

「あー、二人とも……話が纏まったのなら、悪いが出て行ってくれないか? 私もそこまで暇じゃないんだが」
「ああ、ごめんなさいね慧音。あなたに聞きたい事はあるのよ」
「そうだった。むしろここからが本題だ。ワーハクタク、お前の助けを借りたい」
「んー……まあ、聞こうか」
「その前に、この空気を立て直さないとな。そろそろ仕込みも終わってるはずだし、筍の刺身でも作ってこようか」

 九割方聞く気が失せていた慧音だったが、それでも一割の義理を掘り返して輝夜の話に耳を傾ける。
 魔理沙は不貞寝のフリのつもりが本当に眠ってしまったらしく、健やかな寝息が聞こえ始めていた。
 そんな、ポッキリと折れて修復不可能かに見えた話の腰をお茶と筍料理で立て直して、ようやく話が先に進んだ。

「で……どこまで話を戻すかな」
「最初まで戻っていいんじゃない?」
「私と魔理沙は黙ってるから、そっちで話を進めて頂戴。魔理沙は寝魔理沙になってるけど」
「...zzz」
「すまんな。えー……こんな場所でどうしたんだ輝夜? しかもそんな大荷物まで持ってさ」
「本当に最初まで戻ったわね。そうなのよ妹紅。永琳から話は聞いてる?」
「聞いたよ。永遠亭の中で穀潰し扱いされたから見返すんだって?」
「大体合ってるわ。とにかく私は本気で働きに出ようと思っているから、まずは住む所が必要だと思ってね。
 どこかの竹林ホームレスみたいな生活じゃあ、碌に仕事探しすらできないわ!」
「その竹林ホームレスが誰かは知らないが、私にだって家くらいあるぞ。知ってるだろうに」
「まあ、それはさておいて。一応身寄りが無い扱いになるから、慧音に紹介状なんか書いてもらえないかなって思ったの。
 でも慧音が思ったよりも心配性で……」
「あっはっはっはっは! 慧音の心配性は性分だからね、仕方ないよ! なあ慧音!」
「妹紅が大雑把過ぎるんだよ。仮にも人を斡旋するんだ、変な事があっても困るだろう」
「慧音の気持ちは分かるけど、私は大丈夫だと思うよ?」

 慧音の肩をポムポムと叩いて、輝夜の援護をするような口を利く妹紅。
 そんな妹紅の思わぬ反応に、残る両者が同時に不審げな顔をしたのは偶然ではないだろう。

「私の肩を持ってくれるの? どういう風の吹き回し?」
「茶化すなよ。嫌いな相手だからと言って、評価を不当に低く見積もるような下種な真似はしたくないだけさ」
「もこたん……!」
「もこたん言うな。と言うわけで慧音、心配は要らないと思うよ」
「分かった。そう言う事なら紹介状くらいは書こうじゃないか。少し待っていてくれ」


 ~教師執筆中~


「よし、書けたぞ。これを持って長屋通りに行ってくれ。小さな食堂があるからそこを訪ねるといい」
「ありがとう早速行ってみるわ。レミリアもじゃあね!」
「おう。幸運を祈っているよ」

 大荷物を背負い直した輝夜は、そのまま玄関を出て表通りへと向かって歩いて行った。
 それを見送った妹紅も腰を上げて一つ伸びをすると、手荷物を片付け始めた。

「私も帰るよ。輝夜はやる気みたいだし、少し忙しくなりそうだ。今のうちに準備をしておかないと」
「待て妹紅。私から聞きたい事がある」
「ん?」
「輝夜殿も言っていたが、本当にどう言う風の吹き回しだ?
 妹紅の事だから、輝夜殿が働くと聞いた瞬間に大爆笑して呼吸困難を起こすくらいの反応は予想していたのだが」
「……そこまでオーバーリアクションをする気は無いけど、言いたい事は分かるよ。
 まー、なんだ。良くも悪くも長い付き合いだから、分かる事も多いんだよ。あれは心配ない」
「そう断言する論拠は?」
「だって慧音、輝夜はああ見えて私の数倍、慧音の数十倍は生きてる『大先輩』だよ。
 慧音が心配性なのは知ってるけど、そんな相手まで心配をするのは神経の無駄だと思わないかい?」
「あぁ……そう言えばそうだったか。確かに不要だな。輝夜殿にも失礼したか」
「横にいる永琳が規格外中の規格外だから目立たないだけで、あれも十分に規格外の化け物さ。心配無い。
 まぁ、隠れ住んでいた時期が長いからブランクはあるだろうけどね」
「ふふ。それは、その化け物の宿敵をしている自分も十分に規格外だぞと主張したいのかな?」
「引けは取らないと思う気持ちはあるよ。それよりも心配なのは……」
「なのは?」
「いや、まあ、平気だろう。私が気に留めておけばいいさ。そうだろ、吸血鬼さん?」
「そうね。私の見た限りでは、貴女が見ていれば万事丸く収まる……と出ているわ。美味しいポジションにいるみたいよ?」
「これは恐悦至極。それじゃ、そっちも頑張れよ!」

 出て行く妹紅を見送った慧音は、姿勢を正してレミリアへと向き直る。
 どうやらレミリアはかなりの上機嫌らしく、縁側の日陰で羽をパタパタとさせながらうーうーと鼻歌を歌っていた。

「さて、お待たせした。お話を伺おうか」
「ありがとう……その前に。寝魔理沙、いいかげん起きなさいっ」
「ふもっふ!?」


 ***


 慧音の家を辞した私は、目的地に向かう前に繁華街へと向かう事にした。
 繁華街とは、人里の中心を分割するように貫く一本の大きな通りの通称で、
 周辺の田畑からとれた農作物や、金属加工品、民芸品、酒、嗜好品、日用雑貨に至るまで、
 ありとあらゆるものがこの通りで売買されている市場通りだ。
 ここに人里の全てが集まっていると言っても過言は無い。

 その繁華街の中心にある大きな広場へと足を踏み入れた私は、人ごみを通るには少々邪魔になる大荷物を背中から降ろし、
 屋台やお店の合間にある壁際へと寄って一息をつき、そのまま行き交う人達に目を向けた。

 空きっ腹を抱えて広場を歩く職人達を待ち構えるのは、広場のアチコチに設置された屋台の匂いだ。
 屋台では熟練の料理人達が職人達の腹を満たしてやろうと手ぐすね引いて待ち構えていて、客を奪い合う静かな闘争と、確かな活気がそこに見えた。
 もちろん、広場に居るのは彼らだけではない。道端で買い物を終えたらしい奥様方が談笑をしているのも見える。
 こちらは屋台には目もくれず、知り合い同士で集まっての雑談に精を出していて、楽しそうな笑い声が広場の喧騒に華を添えていた。

 そんな大人達の合間を、子供達は元気に走り回っている。
 寺子屋の帰りと見える小さな手提げ鞄を持った子供達が、広場の奥、紙芝居や曲芸をやっている方へと駆けて行く。
 握りしめた小さな拳の中には、家の手伝いをする事で貯めたお小遣いが入っているのだろう。
 絶対に無くさないようにと、幼い顔に大人顔負けの真剣な表情を浮かべて駆けて行く。

 それを見送っていると、近くの店……こちらは広場に面して店を構える大きな店舗だ……から別の子供が飛び出して来た。
 まだ10にも満たないような子だったが、手には端書き(メモ)と思しき紙を持っているため、使いっ走りに出された丁稚奉公の子だと分かる。
 キリッと前を向いたその姿勢からは子供らしい直向きさが感じ取れて、ただ見ているだけのこちらまで襟を正されるようだった。

 その子供が駆けて行く先を目で追うと、茶屋の店先で将棋を差している老人二人が目についた。
 二人の後ろには幾人かの観客が勝負を眺めていて、中には店主と思しき男性の姿もあった。
 妻らしい女性に耳を引っ張られて厨房に戻って行き、お客さんたちに笑われている。

 ここには、月の都のような清浄さは無い。
 穢れに満ちて薄汚れた、雑多で、野蛮な文化が根付いている。そんな場所だ。
 大きいイナバ辺りはあまりこの雰囲気が好きではないみたいだし、永琳もあまり良い顔はしない。
 でも、私にとってはとっても懐かしい、昔を思い出させてくれる大切な場所なのだ。

 そのかつてのように、もう一度ここに混ざれるだろうか。
 不安が脳裏をよぎるが、今更永遠亭には帰れない。帰る気も無い。
 胸を張って永琳と再開できるように、私も頑張らないと!

 気持ちを新たにした私は、荷物を担ぎ上げて広場に背を向けて歩き出した。
 まずは、拠点を確保しないとね。


 ***


「……何か、いつもと違うわね」
「そうですか?」
「うーん。何とも言えない感じなのだけど……」

 輝夜が出て行った翌日の朝。
 いつも通り朝ご飯の席を囲んだ永琳は、軽い違和感を感じていた。
 輝夜がいない事の違和感はもちろんあるが、それとは別に、朝ご飯の内容に軽い違和感を感じるのだ。

 その日のご飯は、前日の残りである旬の竹の子をふんだんに使った竹の子ご飯と、筍たっぷりのお味噌汁で、
 竹が豊富に取れる永遠亭では標準的なメニューだ。
 そのお味噌汁に入った竹の子をお箸で摘み上げて、永琳は小首を傾げた。

「料理の味付けを変えたのかしら? 何となく味が違う気がするわ」
「え? 変わってますか? いつも通りの美味しい筍だと思うんですけど」
「何がどう、と具体的には言えないのだけど……」

 言って竹の子をパクリと口に放り込み、モグモグと咀嚼して味をしっかり確認する。
 ……やはり、いつもと味が違う。
 僅かな差だが、薬師として舌に自信を持っている永琳にはそれがハッキリと分かった。

「ま、別にいいわね。不味くなったわけじゃないし。優曇華、お代わり頂戴」
「はーい。きっと、いつもと違う環境だから味が変わって感じるんですよ」
「なるほど、それは一理あるわね」

 食卓を見回してみるが、てゐもウサギ達も、特に気にした様子は無く、普通に食事をしている。
 優曇華に至っては、いつもより少し早めにお代わりをするくらいだ。

(「私の気にし過ぎかしらね……。輝夜が居なくなって、気が散っているのかもしれないわ」)

「そうですよ。気にし過ぎです」
「……あなたは、いつからさとり妖怪の仲間になったのかしら?」
「お師匠様は顔に出るので分かり易いんですよ。今、『気のせいかな?』って考えていましたよね?」
「そ、そんなに分かり易いかしら? ……ところで優曇華。姫様がいないうちに、どんな事をしましょうか?」

 食事をする手を止めて、少し首肯する鈴仙。

「臭いのきつい実験……ですかね。ほら、いつもは姫様に遠慮して止めてるじゃないですか」
「そうね。硫黄も火薬も芳香剤も、精製したはいいけど死蔵してばっかりだし。
 これを機会に派手に使うのも悪くないもしれないわね」
「いや、火薬は私も勘弁して欲しいんですけど……」
「となると、他に姫様の嫌がる……うん、モルモットを使った生物実験も視野に入るわね。
 後はそうそう、毒薬も作っておかないと。使う目的は無いけど、作れるものは作りたいし」
「……まあ、毒薬は血清の材料でもありますしね」
「そうだったわね。他にも……あら、随分と忙しくなるわね」

 何だかウキウキして来た。
 そう考えた永琳は、粛々と食事を終わらせて食器を持って立ち上がった。
 鈴仙が慌ててそれに続き、ウサギ達も食事を終わりの方向へとシフトさせ、食事が終了の雰囲気になる。
 その様子を見て、てゐは不安げな声を上げた。

「……ねぇ、鈴仙ちゃん」
「ん? 何かしら?」
「今日は、いつもより食事の時間が短いね。早食いは体に悪いんだよ?」
「そうかもね。でもまあ、そんなに大した事じゃないんじゃない?
 食事なんかに使う時間は、短い方が効率的だしね」
「うーん。そうなのかなぁ……」
「そうなのそうなの。てゐは変な所に気を回しすぎだって!」


 ***


 【Chapter.2 三日目】

『You should hammer your iron when it is glowing hot.
 鉄は熱いうちに打て - プブリウス』


 輝夜が家を訪ねて来てから、一週間と少々が経過したある日。
 授業も終わり、小腹が空いたためお昼ご飯の準備をしていた慧音は、自身の痛恨のミスを見つけて額をペチリと叩いた。

「ありゃ、しまったな。お米を切らしていたか……」

 お櫃を空けて、むーんと唸る慧音。
 つい今さっきまでは小腹が空いた程度の気分だったが、
 食べ物が無いと分かった途端に、無性に腹が減っているような気分になってしまう。

「むーん。仕方ない、外食でもするか。そうと決まれば、うん。あの店に行こうかな」

 行き着けの店を幾つか脳裏に描き、その中でも今の気分に合うものをピックアップする。
 この食に軽い贅沢ができる瞬間が、慧音は堪らなく好きだった。

「昔の人里には、そもそも食堂なんて無かったからな。外の世界の影響も、たまには良いものだ。
 衣食住の充実は、人間にとって何よりの贅沢と言うものだしな。
 途中で妹紅や阿求でも見つけたら、誘ってみよう」

 そんな事を考えつつ軽く髪に櫛を通して、私服に着替えた慧音は財布を片手に繁華街へと足を向けた。
 繁華街の中央……を少し外れた所にある、長屋通りの小さな食堂。そこが慧音のお気に入りの店だった。

 理由は色々あるが、まずご飯の量が多い。
 半獣半人である慧音は、その体力を維持するために人が思うよりもずっと食べる。
 その栄養が全部胸に行っているのではないか、と思うほどよく食べる。
 大食いと言う訳ではないのだが、普通の成人男性と比べてみても全く遜色ない程度にはたっぷりと食べる。

 次に、味も良い。
 もちろん高級料亭で出される一品物の料理とは比べるべくもないのだが、
 確かな腕の料理人が、確かな道具を使って調理する料理は庶民の味方だ。
 幻想郷ではそれなりに貴重な塩をたっぷりと振りかけて、
 生姜と少量の大蒜で炒めた豚肉の生姜焼きなどは、一度食べればやみつきになると言うものだ。

 しかし、最も重要なのは店主の人当たりが良い事だろう。
 『まるでドワーフのような』と形容される恰幅良く小柄な名物女将は、
 常にはちきれんばかりの笑顔と溌剌とした声で景気良く対応してくれる、この店になくてはならない存在だ。
 それに対して、『まるでエルフのような』と表現される痩身長躯の旦那も侮る事はできない。
 無愛想だが職人気質の人で、客の様子を見て料理の添え物を軽く変えてくれる、さりげない心配りを見せてくれる人物でもある。

 店の裏手にある長屋の大家もしており、近隣の住人からはよく慕われていた。
 輝夜に紹介した家も、その老夫婦が管理している一角にあった筈だ。

「さぁて、今日はやっているか……な? あれ?」

 通い慣れた道を進み、いつもと同じ道を辿った先に見えた光景は、
 慧音の知るその店の様子ではなかった。
 ありたいていに言えば、小さな行列ができる程度に混雑していた。

「……なんなんだ、この人の数は。誰かが幻想郷版のルルブでも発行したか?」

 『繁華街から少し外れた』と形容するだけあって、この店はそこまで人を惹き付ける外観をしているわけでは無い。
 こう言っては何だが、極々一般的な大衆食堂の域を超えるものではないのだ。
 味と量は完璧に慧音好みなのだが、それだって別に個人の趣味の域を超えないだろう。それと同じだ。
 それなのに、この混み様。どうしたものか、と考えていると、女将が慧音を見つけて手を振った。

「慧音先生じゃないですか! どうしたんですか、そんな所で突っ立って!」
「やあ女将さん。随分と盛況みたいじゃないか。昼飯を食べに来たのだが、どうやら満席のようだな」
「そうなんですよ、申し訳ない。やっぱり若くて可愛い子がいると、男共が釣られるものなんですねぇ」
「おや、新しい女中でも雇ったんですか?」
「ええ、ほらあの子ですよ」

 言われて奥の方を見てみると、見慣れない女中が一人、客の合い間を縫うようにして料理を運んでいた。
 長い黒髪を後ろで束ねた和服の似合う美人で、男達の差し出す手を軽くいなして回っている。
 楽しそうにクルクルと働き続けるその人物に、慧音は見覚えがあった。

「輝夜殿!?」
「うちで働きたいって言うから雇ったんですけど、これがまあいい子でねぇ。
 評判を聞きつけて、里の若い馬鹿達が集まってきちゃいましたよ」
「ああ、それで……」

 性格はさておき。輝夜が自他共に認める美人である事に疑問の余地は無い。
 その美しいと言うのは容姿の問題だけではなく、それは立ち居振る舞いだったり、
 滲み出る気品だったり、時折見せる無防備な笑顔だったりと、異性だけではなく同性すら虜にする魅力に溢れている。
 そんな、普段はあまり姿を見る事のできない高嶺の花の姫様が女中として働いているのだ。
 伊達と酔狂を好む里の男達の目に止まるのも無理はない……のかもしれない。
 客寄せパンダと言えばそうなのだが、本人が嬉しそうなので問題ないだろう。

「相席なら直ぐに案内できますけど、どうします?」
「それで構わないよ。頼もうかな。注文はいつもので」
「はいはい、生姜焼き定食ね。……実はね、もうそろそろ材料が無くなりそうなんだけど、
 慧音先生が来るかもしれないって気がして、先生の分だけ残してあるんよ。特別だよ?」
「おお、それは有り難い! それは是非とも味わって食べねばな」
「ごゆっくりどうぞ。輝夜ちゃん、お客さんをご案内して差し上げて~」
「はーい……いらっしゃい先生。席に案内しますわ」
「頼む」
「一名様ご案内~。予約席にご招待~」
「予約席? ……ああ」

 案内されるまま奥に進むと、そこには食事をしている妹紅の姿があった。
 彼女と慧音以外の客は全て男性客なため、相席を遠慮してもらっていたのだろう。予約席と言うのも頷ける。
 メニューは慧音と同じく豚肉の生姜焼き。それを見て、妹紅にこの店を勧めていた事があるのを思い出していた。

「妹紅。慧音が来たから相席にするけどいいわね?」
「もちろん。わざわざありがとうね」
「いいえ。それじゃあごゆっくりどうぞ」

 慧音を席に案内した後、優雅に一礼してまた忙しそうに店内を歩き回り始める輝夜。

「やあ慧音、奇遇だね」
「ここは私のお気に入りの店だからな。しかし……」
「輝夜の事かい?」
「うん、まあな。妹紅は心配無いと言っていたが、まさかあそこまでとは」
「先入観はいけないよ慧音。輝夜は私の終生のライバルなんだ、あれくらいの器量じゃないと困るってものさ」
「そう言うものなのか?」
「そう言うものなの。……ところで、永遠亭にはなんであんなに沢山の兎がいて、永琳に仕えているんだと思う?」
「え? ……いや、考えた事も無かったな」
「ほほぅ。じゃあ、これはいつもは宿題を出す側の慧音先生への宿題にしちゃおうか。
 それが分かれば、慧音の疑問を晴らすヒントになるはずだからさ」
「ヒント……?」
「そう、ヒント。難しい話じゃないよ。調べれば分かるし」
「話し中に悪いけど、お邪魔するわよ」

 慧音が振り返ると、料理をお盆に載せた輝夜が後ろに立っていた。
 間近で見てみると、なるほど。割烹着姿が驚くほどよく似合っていた。

 立ち居振る舞いが堂に入っているのもそうだが、結い紐で髪を一つに纏める技法や、
 緩みが出ないようにキッチリと締められたたすきの巻き方などは、一朝一夕で身に付くものではない。

 お盆に載せたコップに細波一つ立てない淑やかな歩き方もポイントが高く、
 男性の目から見れば、後ろで一つに纏められた(ポニーテールと言うらしい)黒髪の隙間から覗く白く滑らかなうなじや、
 頬の線辺りは垂涎の的なのではないだろうか?
 とにかく、つい先日雇われたばかりとは思えない堂の入りっぷりだった。

「生姜焼き定食をお持ちしました。ご注文は以上でよろしいですか?」
「ああ。ありがとう」
「いえいえ。ところで、私もお昼休憩なんだけど相席いいかしら?」
「もちろん。丁度お前の話をしていたんだよ」
「私の? 何を話していたの?」
「慧音の知らない輝夜に関してな。慧音はお前のそう言う姿を見た事が無いんだよ」
「あー。どうかしら、似合う?」

 賄いらしいおにぎりを食べる手を止めて立ち上がると、
 着物の裾を軽く摘み、スカートのようにひらひらと左右に振る輝夜。
 動くたびに後ろで纏められた髪がサラサラと音を立ててなびき、慧音の目を楽しませてくれた。

「よく似合っているな。まるであの十六夜咲夜がメイド服を着こなすように、割烹着姿がよく似合う。正直に言って、見違えたよ」
「あのメイド長と比べられるなんて、私も捨てたものじゃないわね。でも、私ってそんなに不器用に見えるの?」
「不器用には見えないが……うーん、何と言うかな。イメージに無いんだろうな、そう言う雑事をする姿が」
「心外だわ。私だって一人前のレディですから、これくらいの嗜みは当たり前よ。……でも、そのイメージが良くないのかもしれないわね」
「?」

 急に眉をひそめて微妙な顔をする輝夜と、疑問符を浮かべる慧音。
 ついでにまぐまぐとご飯を頬張る妹紅。

「そうね。じゃあ慧音、来月になったらまたここに来てくれないかしら?」
「別に構わないが、どうしたんだ?」
「来月辺りから別のお仕事も始めようかと思っててね。この女中さんのお仕事はお昼過ぎで終わっちゃうから、その後に。
 ……むしろそっちが本命なんだけど、今は準備中だから」
「ほう? それはまたなんで?」
「永琳を見返すためには、この身一つで生計を立てないとね。
 そのための計画の一端なんだけど、それを見て貰っちゃおうかなって」
「そう言う事なら、喜んで。私で良ければ試金石になろう」
「ありがとう。それまでに、妹紅の宿題も終わらせないとね」
「……何だ、聞こえていたのか。人の悪い」
「壁に耳蟻、障子にメアリーよ」
「そのネタ、年齢がばれる上に分かる人が少ないと思うぞ」

 『うるさいわよ』『ばーか』と適当な罵り合いをする輝夜と妹紅。

「……ご馳走様。それじゃあ、私は仕事に戻るわね!」
「おう。私もお前さんの計画に乗って儲けるつもりだから、こけるなよ?」
「誰に言っているのよばかもこ。じゃあね~」

 輝夜が再び仕事に戻った辺りで、妹紅も丁度食べ終わっていた。
 軽く手を合わせてご馳走様と挨拶をした妹紅は、口元を拭いて立ち上がった。

「じゃあ慧音、私も行くよ。宿題頑張ってな」
「よく分からんが、妹紅は楽しそうだな」
「楽しいさ。何せ、全部を俯瞰できる立ち位置にいるんだからね。異変の首謀者になったような気分さ!」


 ***


 姫様がいなくなってから早くも三日が経過したが、永遠亭は変わる事なく運営を続けていた。
 変わった事と言えば、当たり前と言えば当たり前だが、家の中を歩いていても、姫様に会わなくなった事くらいだろうか。

 盆栽の前で変な事をしている姿を見かけ無くなったのは、良い事なのか悪い事なのか分からない。
 しかし、お師匠様に用事を申し付けられている時に捕まったり、妹紅とのイザコザが消えたのは悪く無い事だ、と私は考えていた。
 もちろん姫様がを邪魔者だと言う気は全く無い。全く無いのだが、そう考えてしまうのは仕方の無い事だと思うのだ。

『トントン』
「ん? 何かしら?」

 そんな事を考えながら部屋で勉強をしていると、誰かが扉をノックした。
 時刻は深夜の2時を少し回ったくらいで、お師匠様もそろそろ就寝している頃だ。
 一体誰だろう。そう思って扉を開けると、そこには誰も居なかった。
 イタズラか、と判断して扉を閉めようとすると、足元から声がした。

『鈴仙様~』
『鈴仙様~』
「ん? ああ、何だ。おチビちゃん達だったのね。どうしたの?」
『一緒に寝てもいいですかー?』
『ですかー?』

 足元にいたのは、子供のウサギ達だった。
 てゐの部下の中でも、人型に変異できない幼生体の……平たく言えば、まだまだ赤ちゃんな子達だ。
 兎達の数はとても多いが、この子達は姫様にとても懐いていたので私の印象に強く残っていた。

「一緒に寝るって、てゐ達はどうしたの? お母さんは?」
『いないー』
『僕達は眠いから寝るのー』
「そっかー。もうおねむなのねー……うーん、困ったなぁ」

 こんな事を言われた事の無い私は、少し戸惑ってしまった。
 別に一緒に寝てもいいのだけど、今やっている勉強はお師匠様からの宿題で、期日が迫っている大事なソレでもある。
 折角一人の時間なのだから、集中して片付けてしまいたいと言うのが本音だ。
 それはそれとして、最近はちょっと夢見が悪いのであまり眠りたくないと言う個人的な事情もあったりする。

「うーん……ごめんね。一緒に寝るわけにはいかないわ。また今度ね」
『鈴仙様、忙しいの~?』
「それもそうなんだけど、最近ちょっと夢見が悪くてね。胡蝶蘭も切らしてるし、ごめんね?」
『じゃあ帰る~。行こう~』
『鈴仙様じゃあね~』
「あっ……もう、せっかちな子達ね」

 寝室に送り届けるくらいはするつもりだったのだが、せっかちな子ウサギ達はさっさと行ってしまった。
 その背中が廊下の向こうに消えるのを見送り、再び部屋に戻ろうと踵を返したところで、妙な事に気が付いた。

「……あれ?」

 スンスンと鼻を利かせてみると、どこからともなく良い匂いが漂ってきているのが分かった。
 部屋の中にいる時は分からなかったが、外に出て見ると何となく匂う。
 まるでご飯を炊いて、お味噌汁を作っているような空きっ腹に響く良い匂いだ。
 匂いに導かれるようにフラフラとその出所を探してみると、案の定台所へと辿りついた。

「あれ? お師匠、こんな所で何をされているのですか?」
「あら優曇華。遅くまでご苦労様」

 厨房に立っていたのは、もう寝ている筈のお師匠様だった。
 時刻は先述の通り夜の2時を少々回ったくらい。永遠亭基準ではまだ夜半と言った所だが、それにしても料理をする時間ではない。
 寝入りの早い調理担当の兎達は全員夢の中にいる筈で、予定外の時間に火を入れられた竈はどこか不機嫌そうに薪を弾けさせている。

「どうしたんですか?」
「お夜食を作っているのよ。あなたこそどうしたの? 徹夜で勉強?」
「はい。ただ何となくいい匂いがしたので、覗いてみたんです」
「もう少ししたらできるけど、食べる?」
「はい、頂きます! 嬉しいな~。お師匠様の手料理なんて、初めて食べますよ!」
「そう……だったかしら?」
「そうですよ。何となくですけど、お師匠様は厨房に立たないイメージですね」
「そんな事は無いわよ。私だって……」
「? どうしたんですか?」
「うーん……。確かに、ここしばらく厨房に立って料理なんてした事は無かったような気がするわ。
 永遠亭ができてからは兎達がいたし、その前は放浪していたから厨房には立っていないし。……月での生活以来?」
「……ちょっとちょっとお師匠様。その料理は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、月の頭脳を舐めないで頂戴。例え何千年料理をしてなくても、腕が衰えたりはしないわよ。ただ……」
「ただ?」
「……ちょっと作りすぎちゃったのは確かね。お夜食にしてはやたらと多いけど、大丈夫かしら?」
「はい、大丈夫です! お皿を出してきますね」
「ああ、そうね。よろしく」
「はーい」

 お師匠様が作った料理はとてもシンプルなもので、塩で握ったおにぎりと、刻んだ葱とお豆腐の味噌汁、辛めに味のついた沢庵の三点だけだ。
 しかしお師匠様の言う通り、量は半端ではなく多い。とりあえずで炊いたのかおにぎりは5合分はあり、味噌汁も鍋一杯に並々とある。
 それでも、私には堪らないご馳走に見えた。

「うわぁ、さすがお師匠様。とても美味しそうです! 涎が止まりませんよ~」
「はしたないわよ優曇華。それじゃあ、頂きます」
「頂きます!」

 行儀良く手を合わせてから、おにぎりを頬張る。美味しい!
 お師匠様の手で握られたおにぎりは適度な硬さがあって、手に持っても崩れず、それでいて噛み付くとふわりと解ける絶妙の力加減で握られていた。
 やや薄味のお味噌汁は辛口の沢庵を丁度良く相殺してくれて、ご飯が止まる事が無い。
 おにぎりを頬張って、沢庵を齧り、お味噌汁を一口。そしてまたおにぎりを頬張りと、いつまでもループが続いてしまう。

 しかし、満足気にご飯を食べているのは私だけで、向かいに座るお師匠様はおにぎりに数口手をつけただけで、すぐに食べるのを止めてしまった。
 それはお味噌汁と沢庵も同様で、軽く味見をしたお師匠様は食事そっちのけで考えこんでしまっていた。

「お師匠様、食べないんですか?」
「食べるわよ。ただ、何と言うか……思っていた味にならなくてね。その原因を分析中なのよ」
「思っていた味ですか。どう違うんです?」
「これはいつもの朝食の再現なのだけれどね。何と言うか、こう……もっと美味しいのよ。いつものは。
 悔しいけど、料理に関しては調理担当の兎達の方が上手なのかもしれないわ」
「そう言うものですか。私はその『いつもの朝食』が分からないので、何とも判断がつきませんけど」
「いつだったかしらね。輝夜からも、『永琳は料理が下手ね!』って言われてしまった事があるのよ。
 それ以来、厨房には殆ど立たなくなったんだけど……ん?」
「でも、これで下手って言われたら、私なんて産業廃棄物かベトベトンしか作れ……ん?」

 何かに気が付いたのか、お師匠様は食事の手を止めて小首をかしげた。

「……どんなシチュエーションで言われたんだったかしら。随分昔の事のように思えるけど……」
「お師匠様が忘れるくらい昔って事は、私が産まれる前かもしれませんね」
「下手したらそうかもね。厨房を兎達に任せた記憶はあるから、月から降りてきた後だとは思うんだけど……うーん」
「お師匠様?」
「ん? あ、ああ、何でもないわ。そうね、『いつもの味』が分からないなら、今度当番の子に作ってもらいましょうか」
「サンプルが無いなら手に入れないといけませんしね。作り方も一緒に教えてもらったらどうですか?」
「まあ、それはもう少し試行錯誤したらね。料理は薬学や錬金術にも通じているから、あなたも精進なさい」
「はーい。でもこれ美味しいですね~」
「そう言って貰えて嬉しいわ。……あ、そうだわ優曇華。あなた、次の行商はいつだったかしら?」
「少し前に行ったばかりなので、10日ほど後ですね。一緒に置き薬の確認にも行く予定です」
「そう。それなら、その時に姫様の様子を見てきてくれないかしら?」
「姫様のですか? 構いませんけど、姫様は今どこに?」
「向こうから連絡が無いから、分からないのよ。だから、それも含めて見てきて頂戴。
 見つからなかったらそれはそれでいいから」
「分かりました。善処します」
「お願いね。上手い事やってくれれば、多少のドジは大目に見てあげる」
「ちょ、酷いですよお師匠様! そんなにほいほいとドジを踏むと思っているのですか!?」
「冗談よ、冗談。でもあなたはうっかりミスが多い子だから、たまには点数を稼いで来なさい」
「きっついなぁ……」

 ポリポリと頭をかきながら、うなだれるように耳をしょんぼりとさせて失意を表現する。
 そんな私の様子を楽しそうに眺めていたお師匠様だったけれど、手に持っていたおにぎりを食べ終えてお茶をすすった。

「ご馳走様でした。美味しかったです」
「はい、お粗末さまでした。お皿は私が片付けておくから、あなたは部屋に戻ってお勉強の続きをなさい」
「お言葉に甘えさせて頂きます。お休みなさい」
「お休みなさい」


 *** 


 【Chapter.3 二週間目】

『The wisest men follow their own direction.
 君子わが道を行く - エウリピデス』


 姫様が働きに出てから、二週間……くらい? が経過した。
 何故疑問系となっているのかと言えば、私にとってそれは大して重要な事ではなかったからである。

「そろそろ、姫様が働きに出られて二週間くらいかな? あんまり実感が湧かないのよね」

 テクテクと里へと続く道を歩きながら、一人呟く。

「お師匠様からは、姫様の様子を探ってくるように言われたけど……まあ、心配するだけ無駄だと思うのよね、私は。
 お師匠様が過保護過ぎるのよ。うんうん」

 言葉と一緒に首を縦に振る私。実際、永遠亭の中で輝夜を心配している者は全くいない。
 ……一つ弁解をしておくと、これは永遠亭のみんなが薄情と言うわけでは無く、逆に信頼しているからだ。

「だって姫様ったら、私達が束になっても叶わないくらい強いんですもの。
 殺しても死なないし、都合の良い復活をするし、精神攻撃も全く効かないし、
 単純な腕力も馬鹿ぢ……百人力だし。心配するだけ無駄ってものよ。
 お師匠様だって、姫様が帰って来る前に実験を片付けたいから様子を探ろうとしているだけなんだわ」 

 良い信頼なのかは知らない。
 そんな些事よりも、私の悩みは他の所にあった。

「ああでも、姫様の動向が探れれば少しは点数が稼げるかなぁ。
 あの時は冗談にしてたけど、最近はミスしてばっかりだし、割と洒落にならなくなってるわ……」

 耳をしんなりとさせながら、ガックリと肩を落とす。
 姫様がいなくなって以来、お師匠様は枷が外れたように様々な実験(この場合は『趣味』と同義語)に打ち込んでいた。
 もちろん、枷が外れたと言っても人体実験やバイオハザードをやらかすような無謀をする人ではない。
 ないのだが、それでもお師匠様から言い付けられる調合や実験手伝いの内容が、高度な技術を要求されるものになったのは確かだ。
 そして、私はその悉くであまり良くない結果を出してしまっていた。

「全部が全部って訳じゃ無いのよ。全体の……三割くらい? じゃない?
 沸騰した水の温度管理を少し失敗したり、試験管を洗うのが遅かったり、
 指示された素材を間違えたり……些細なミスしかしてないのよ、うん。
 座学は上手く行ってるし、まだリカバリーはできる筈よ!
 ……はぁ。一人で何を弁解してるんだろう」

 一度はグッと拳を握って気合を入れる動作をしたものの、再び肩を落としてしまう。やはり独り言は寂しい。
 深いため息も一緒に漏れだし、歩調も『テクテク』から『トボトボ』と言った感じになる。
 実は、薬の行商に出たのも怒るお師匠様から逃げるためだったりする。
 本来の予定では、行商に出るのは明日なのだ。

「何とか、お師匠様のお役に立ちたいなぁ……。
 せめて、迷惑はかけたくないなぁ……」

 歩く足を止めて、ボンヤリと空を仰ぐ。

「……じゃないと、また……」

 昼間の空には、太陽しか見えない。

「……おっと、弱気になっちゃダメだよね。姫様にこんな姿を見られたら子供扱いされちゃうわ。
 姫様にかかれば、私だっててゐだってオチビちゃん達だって、みんなみんなぜーんぶ『イナバ』扱いなんだから」

そんな事を言いながら、頭をポリポリとかいた私は、再び人里へと歩を進めた。

「んー、時刻は間もなく3時くらい? 中途半端な時間に着いちゃったかな?
 お得意様を回る前に、ご飯を食べたい……あっ!」

 無事に里へと到着した私だったが、その足が繁華街に差し掛かろうかと言う辺りで奇声を上げてしまう。
 ぽむぽむと懐を叩き、ブレザーの内ポケットやスカートの小物入れを漁るが、目的の物が見つからない。

「しまった、お財布が無いわ。昼食どうしよう……」

 今日は昼前までお師匠様のお手伝いをしていたのだが、
 そこから逃げ出すように行商に出てしまったため、昼食を取り損ねてしまっていたのだ。
 そこで人里で昼食をと考えていたのだが、慌てて出て来たため財布を忘れて来てしまったらしい。
 手元にあるお金と言えば、薬箱に備え付けられている行商の釣り銭だけだ。

「……いや、これに手を出すわけにはいかないわ。私にだってプライドがあるもの。
 ……でもお腹空いたなぁ……」

 背中に背負っている薬箱を意識しながら悩んでいたためか、私は背後から近付く影に気が付く事ができなかった。
 影は音も無くの私の背後に忍び寄ると、私の胸とお腹の中間辺りに手を回して抱きついて来た。

「イーナバっ!」
「わひゃあ! だ、誰ですか!?」
「私よ。輝夜よ。もう私の声を忘れたの?」
「ひ、姫様!?」

 振り返ると、ドッキリが成功してご満悦らしい姫様がそこにいた。
 私は驚きで変な鼓動を奏でている心臓に落ち着くように心で命じながら、深呼吸をして何とか体勢を整えた。

「こんなところで何をしているの? 今日は行商の日じゃないわよね?」
「あ、はい。ちょっと色々ありまして……」
「どうせ、また永琳の手伝いに失敗して出て来たんでしょ?」
「……!」
「『何で分かった!?』って顔をしてもダメよ。あなたは分かり易すぎるんだから」
「うー……」

 抱きつかれた状態で姫様に頭を軽く撫でられてしまい、恥ずかしさから無意識のうちにスカートを握りしめてしまう。
 人通りの多い繁華街の入り口辺りでこんな風にじゃれあっていて、耳目を集めてしまう恥ずかしさももちろんあったが、
 やはり姫様に子ども扱いされているような気がして、それが悔しかった。

「あれ、姫様。その格好は?」
「ああ、これ? 似合ってるかしら? 妹紅や慧音には評判が良かったんだけどー」

 その格好とは、見慣れない割烹着姿だ。
 割烹着の下に着ている服も、普段のワンピースと和服を合わせたようなそれでは無く、一般的な木綿の着物だ。
 特徴的な長い黒髪も頭巾と髪紐で一つに纏められており、とても地味な格好だった。

 今回は姫様から話しかけて来てくれたが、別の場所ですれ違っていたら分からなかったかもしれない。
 少なくとも、普段の姫様の格好に慣れ切っていた私には難しかっただろう。
 何となく、里で生活している間も普段の着物を着ているような印象があったのだ。

「私は、ここの食堂で働いているのよ。ちょうどお昼のピークが過ぎたから、買い出しついでに休憩に出るところだったんだけど……」
「?」
「……うん。ちょっとこっちに来なさいイナバ」
「え? あ、はい」

 姫様に手を引かれて、姫様が働いていると言っていた食堂の中に招き入れられる。
 中に入ってみると、なるほど。
 確かに食事をしている人はもう殆どおらず、店内は落ち着きを見せていた。
 それでも姫様の意図が分からず、私がきょとんとしていると、同じく割烹着を着た恰幅の良い中年女性がやって来た。
 どうやら、ここの女将さんらしい。

「おんや、どうしたんだい輝夜ちゃん?」
「女将さーん。まかないの残りはまだあるかしら? この子にご飯を食べてさせてさせてあげたいんだけど」
「もちろん。ね、あんた」
「ん」

 女将さんが厨房の方を振り返ると、こちらは痩身の中年男性がコクリと頷いて店の奥を指し示すところだった。
 そちらを見てみると、小さなテーブル席が一つ空いている。

「イナバはこっちに座ってね」
「……え?」
「見たところ兎の妖怪さんみたいだけど、やっぱりニンジンが好きなのかい?」
「あ、はい、大好物ですけど……」
「だそうだ、あんた」
「ん」

 私を置いてけぼりにして、トントン拍子で話を進める輝夜。
 少しあっけに取られているうちに、いつの間にか私の前にはホカホカと湯気を立てる野菜炒めが置かれていた。
 脇には冷たい井戸水と、軽く塩茹でされたニンジンのスティックが添えられていて、空きっ腹を容赦なく刺激してくる。

「はい、お待ちどう様! まかないの残りで悪いけど、たくさんあるからたーんとお食べよ!」
「ありがと、女将さん。私のわがままを聞いてくれて」
「ふふふ。輝夜ちゃんの頼みじゃ断れないわよ。じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
「私も買い出しに行ってくるから、食べ終わったら……」
「あ、あのー……」

 硬直からの再起動がようやく終わった私は、恐る恐る手を上げた。

「えっと、私は今殆どお金を持っていなくてですね。
 こんなちゃんとしたご飯を頂いても、代金を払えないんですけど……」
「知ってるわよ。どうせお薬のお釣りくらいしかもっていないでしょう」
「それに、これはまかないの残りだしねぇ。お代はいらないよ?」
「でも、他のお客さんに悪いですし……」
「じゃあ、これは私からのおごりって事で。
 まだ初日給は出てないけど、出たら誰か呼んでご飯をご馳走する予定だったし」
「そんな、恐れ多い!」
「気にしない、気にしない」
「気にしますよ! それに、どうして私がお財布を持っていないって分かったんですか?」
「経験と観察と冷静な判断よ。じゃ、私は買い出しに戻るから、ちゃんとよく噛んで食べるのよ~」
「あ、待って……」
「待ってと言われて待つ奴がいますか。それじゃ、改めてお買い物に行ってきますね」
「はいはい。お願いね~」

 ヒラヒラと手を振って出て行く姫様と、見送る女将さん、そして反応ができない私。
 姫様が出て行ってからもしばらくはボンヤリとしていた私だったが、鼻をくすぐる良い匂いで我に返って、野菜炒めに手をつけた。

「……お残しするのも悪いか。いただきます!」

 空きっ腹に美味しいものを入れると、もう止まらない。
 最初は遠慮してチマチマと食べていたのだが、次第に食べる手がスピードアップし夢中で野菜炒めを食べて行く。
 この料理、美味しい!

「姫様、いい所で働いているなぁ……あ」

 そう言えば、これは『姫様の様子を探る』と言うお師匠様のミッションをクリアする良い機会なのではないだろうか。
 私は店の中を見回し、女将さんの手が空いているのを確認して声をかけた。

「あのー、すみません」
「なんだい? お代わりかい?」
「いえ、そうでは無くて。さっきのひ……えっと、輝夜さんについてなのですけど、少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「はいはい。私に答えられる事なら何でもね」
「ありがとうございます。まずは……輝夜さんはいつ頃からここに?」
「二週間くらいかね? 慧音ちゃんから部屋を貸してくれるよう頼まれてね。
 あ、私達は裏手にある長屋の大家もしてるんだよ。
 それでね。輝夜ちゃんは礼儀正しい良い子だったし、別にいいよと招き入れたら、仕事を探してるって言うじゃないか。
 家事が得意だって言うから任せてみたら、これが本当に上手でねぇ。
 他のお仕事が見つかるまで、お店を手伝ってもらう事にしたんだよ。お陰様で大助かりさ」
「家事が得意……?」

 ぐうたらゴロゴロする姿が印象的なため、すぐには家事をする輝夜の姿が思い浮かばない鈴仙であった。

「見た目に寄らず力持ちだし、器量もいいしねぇ。どうも良い所のお嬢さんだったんじゃないかと思ってたんだけど、あんたを見るにそうみたいだね」
「力持ちってレベルじゃないんですけどね。米俵くらいなら一人で数個まとめて運ぶし……まあ、それはさておいてですね。
 輝夜さんはいつまで働かれるおつもりなのでしょうね?」
「何でも、もう半月くらいしたら何か始めるらしいよ。
 それまではうちで働いてくれるらしいけど、そこから先は分かんないねぇ」
「……元気でやっているんですね」
「それは間違い無いね。私達には勿体ないくらいのいい子だよ。……こんなもんでいいかい?」
「はい、ありがとうございました」
「事情は知らないけど、輝夜ちゃんもなにか大変みたいだしねぇ。ご家族さんによろしくね」
「分かりました。それとご馳走様でした」
「お粗末様でした。お皿下げちゃうよ?」
「お願いします。……さて、私もお仕事しに行かないと。輝夜さんにはよろしいお伝え下さい」
「はいよ。また来てね!」

 お腹も一杯になった私は、食堂を出て一つ伸びをするとお得意様の家に向けて歩き始めた。
 先ほどまではキリキリと胃が痛みそうなほどのストレスを感じていたのだが、やはりご飯を食べると違う。
 少しだけリフレッシュができたような気がして、姫様に感謝をしながら気合を入れなおした。

「よし、行こう! 姫様に笑われたくないものね!」


***


「……あれ? おチビちゃん達、こんなところで何をしてるの?」
『あ、てゐ様だ~』
『てゐ様だ~ こんばんは~』

 とある三日月の夜。てゐが夜の見回りから帰ってくると、子供の兎達が二匹ほど縁側でボンヤリとしていた。
 時刻はお月様が天頂を通り越した夜半過ぎで、てゐのような大人の妖怪ならともかく子供達は寝ている時間だ。
 しかし、そこに集まっていた子供達は眠い目を擦りながらもまだ寝ないで起きているようだった。

「ダメじゃないの、ちゃんと部屋に戻って寝ないと」
『お部屋、ヤダー』
『お部屋、寒いー』
「寒い? それなら、他の子達と一緒に寝たらどうなんだい? 母屋の方に友達がいるでしょ」
『ヤダー。お布団借りるだけじゃ暖かくないのー』
『お母さんと一緒がいいけど、いないー』
「じゃあお父さんは……ああ、そう言えばお前達はそうだったね」

 この子兎兄弟は、両親の居ない子達だった。
 彼らの両親は勇敢な戦士で、父親は他の兎達と比べても体が一回り大きく、人の姿を取って刀を手に取れば、
 野良妖怪や妖獣程度では太刀打ちできないほどの技量を持っていた。
 母親は妖術に長け、そんな夫を影から支え続ける良妻だった。

 しかし、それも既に昔の話。竹林を荒らし回る頭の逝かれた巨大な妖獣(後に永琳がデスクローと命名)に戦いを挑み、刺し違えて二人とも命を落としたのだ。
 永遠亭の先代戦闘部隊の長でもあった夫婦の事は、今でも半ば英雄のように語られている。
 残念な話ではあるが、よくある話でもある。

 確か、調理の長をしている子がこの子達の世話をしている筈なのだが、
 その彼女は餅つきの準備でてんやわんやの大忙しだろう。

「姫様がよろしくって言っていたのはこう言う事か。うーん、どうしたものか」
『てゐ様、寝ないの~?』
『の~?』
「うーん、困ったなぁ。これから餅つきの監督をしないといけないんだよねぇ。今日は夜更かしして、一緒に遊ぶ?」
『ヤダー、眠いー』
『眠いのー』
「うむむむむ……」

 てゐがどうしたものかと考えていると、子兎達はヒソヒソと何かを話し合って踵を返した。

『てゐ様、僕達寝るね~』
『お休みなさい~』
「大丈夫なの? 困ったら私の部屋においでよ?」
『てゐ様、お酒臭いからヤダー』
『ヤダー』
「……そんなに臭うかなぁ」

 まあ、見回りの途中にちょろまかしたお酒を飲んだのは確かなのだけれども。
 息をハーッと手に吹きかけて確認するが、自分ではよく分からない。
 そんな事をしているうちに、子兎達の姿は見えなくなってしまっていた。

「うーん……まあ、強い子達だし、大丈夫だとは思うんだけど、『軽い異常あり』って所かな。
 鈴仙ちゃんもストレスが溜まって来てるみたいだし、お師匠様は相変わらずだし。これからどうなる事やら……」


***


 【Chapter.4 一ヶ月目】

『All the world's a stage, And all the men and women merely players.
 They have their exits and their entrances; And one man in his time plays many parts.
 この世は舞台、人はみな役者。それぞれに登場し、いくつもの役をこなして去ってゆく。
  - シェイクスピア『お気に召すまま』第二幕第七場より』


 輝夜が里に住み始めてから、一ヶ月が経過したある日。
 寺子屋での授業を終えて、子供達と一緒にお昼休みをマッタリと過ごしていた慧音の元に、一人の来客があった。
 来客は控えめに表の扉を叩いた後、裏手にいてもよく聞こえるよく通る音量で、誰何の声を挙げた。

「もしもし。上白沢慧音様はいらっしゃいますでしょうか?」
「お客様かな。私に何かご用でしょうか?」
「少々、お聞きしたい事があって訪ねて参った次第でございます。少しだけお時間をよろしいでしょうか?」

 玄関先にいたのは、奇妙な風体の女性だった。

 声の様子からするとまだ年若い女性のようなのだが、
 大きな市笠と、その端から垂れ下がる薄絹のひたたれで顔を隠しているため、はっきりとは分からない。
 下から笠の中を覗き込めば分かるのだろうが、流石にそれは下品と言うものだろう。
 そのような行いが憚られるような気にさせるほど、その女性には気品が溢れていた。

 正面から相対して見えるのは、薄く紅を引かれた綺麗な唇と、スラリと伸びた鼻元くらいのものだった。
 身長は慧音よりも低いようなのだが、ぴんと伸びた姿勢のお陰でそれを感じさせないでいる。

 衣服もまた凝っていて、白地に赤と青の精緻な染色が施された見目鮮やかな着物を身に纏っていた。
 足元は真っ白な足袋と漆塗りと思しき黒い下駄で彩られており、布越しだと言うのに悩ましげな『色』を感じさせている。
 体に纏っている香は白檀 (はくだん)だろうか? 慧音にはあまり馴染みの無い香りだが、辛うじて知ってはいた。

 里の人間ではないだろう。となると、外来人辺りかと推測が立つ。
 と言うのも、幻想郷ではラピスラズリやインディゴの生産が活発ではないだけに、青の染料を使った服は高級品の扱いを受けるからだ。
 妖怪や妖精などは服と一緒に産まれるようなのも居るため当てにはならないが、人間ならほぼ確実だ。
 かく言う慧音の着ている服も元は外の世界の品を作り直したもので、来客の予定がないオフの日などは普通の着物を着ている事も多い。

 予想の斜め上を行く人物の来訪に少し思考が停止した慧音だったが、気を取り直してペコリと一礼した。

「いらっしゃいませ。若輩者の身ではありますが、助けになれる事がありましたら何なりとどうぞ」
「ありがとうございます。お初にお目にかかります。私はお竹と申します。
 藤原妹紅様のご紹介により、こちらにお話を聞きに伺いました」
「妹紅から。ひょっとして、外来人……と言って分かりますか?」
「はい。一通りの知識は持ち合わせております」
「そうですか。分かりました、お話をお伺いしましょう。
 お茶を淹れて参りますのでどうぞお掛けになってお待ち下さい」
「ありがとうございます」

 客間も兼ねた縁側にお竹を通し、お湯を沸かせるために中座した慧音は、
 ヤカンに水を入れて火にかけながら一人呟いた。 

「あれはどのような人だろうか。見たところ、芸者か何かのようだが」

『お竹』と名乗った……これも芸名か何かだろう……女性は、柔らかな雰囲気の中にも、
 ある種の浮き世離れした色を持ち合わせる不可思議な人物であった。
 長く人と人の歴史を見てきた慧音をしても、掴み所を見つける事ができない。

 これは意外な難物かもしれない。さて、どう対応したものか。
 そう考えていると、縁側から耳に心地良い三味線の音が聞こえてきた。
 曲は即興のようだが、それはまるで手毬やお手玉をする時に口ずさむ童歌のような緩やかな旋律で、
 聞いているだけで優しい気分になれるような演奏だった。

 どうやら、表で遊んでいた子供達の目に止まったらしく、誰かが演奏をせがんだのだろう思われた。
 その証拠に、聞こえてくる子供達の声は嬉しそうに弾んでいた。

『すごーい!』
『他にはないの? もっともっとー!』

 その曲はほんの数十秒で終わってしまったが、それを聞いていた子供達には大盛況だったらしく、
 しきりにアンコールをねだる声が聞こえてくるのであった。
 それに答えて、今度は静かに響く子守唄のような旋律。お次は簡単な物語を加えた引き語り。
 楽器を変えて笛の音を響かせて。手拍子で童歌を歌ったり。
 どれにもこれにも安心できる熟練の腕が感じられて、慧音も時間を忘れて彼女の奏でる音に聞き入っていた。

『お姉ちゃん、もっと聞かせて!』
『お話も聞かせて!』
『はいはい、いいですよ。でも慧音先生とのお話が終わったらね?』
『はーい!』
『授業もちゃんと受けるのよ?』
『……はーい』
『ピー!』

 最後のはヤカンの音である。
 それで我に返った慧音は、2人分のお茶を持って縁側へと戻った。

「お竹さん、どうぞ」
「ありがとうございます」
「見事な演奏でしたが、芸者か何かをされていたのですか?」
「いいえ。私は講談師にございます」
「ほう!」

 講談師とは、今風に言ってしまえばストリート・パフォーマーの一種になる。
 古くは江戸時代に発達した大道芸の一つである『辻講釈』に始まり、
 様々な物語を、独自の注釈や解釈を交えながら語るのが大まかな特徴となっている。
 人里において特に人気があるのは定番の戦記物や恋物語等だが、
 最近は妖怪達の武勇伝や異変に関するアレコレなどもネタとして取り上げられ、多様化の様相を見せている。

 外の世界ではテレビの発達と共に衰退したらしいが、
 その最盛期である明治時代頃に外と隔離された幻想郷では根強い人気を誇っており、
 かく言う慧音も、様々な講談の内容を記した講談本をいくつか所持していて、
 中には何度も読み返しているお気に入りの娯楽書もあり、贔屓の講談師もいる。
 それくらいにはメジャーな職種なのだ。

 その、講談の本場である外の世界からやって来た講談師。
 慧音ではなくても興味をそそられると言うものだ。

「先ほどから失礼して、この顔を隠す笠を取りませんのも、その一環にございます。
 こうしていますと、口元と唇、首筋が強調されますでしょう?」
「なるほど、確かに」
「自然とそちらに目が行き、聞き手様に興味を持って頂けると言うものです。
 こちらの方が、よりお客様方の興味を惹けると言うものにございますよ?」

 赤い唇が釣り上がり、にこりと笑みの形になる。
 それは同性の慧音をも魅力する蠱惑的な笑みで、慧音は不意に胸がキュンと締め付けられるような感覚を味わった。
 先ほど子供達の相手をしていた時は感じられなかった、匂い立つほどの『女』の香りがする。そんな笑みだった。
 それでいて、決して下品ではない『華』も感じさせてくれている。
 吸い込まれそうな感覚を覚えて、慧音は慌てて視線を逸らし、宙を見上げた。

「……確かに効果的ですね。里の者でそこまでの演出をしている者はおりますまい」
「顔を隠す事で、お客様は私に理想を投影するんです。
 『垣間見』とは、このように使うのですよ。……ふぅ、美味しいお茶ですこと」
「お、お口に合ったようで何よりです。それで、本日はどのようなご用件で?」
「約束通り、手前を見せに参りましたわ。これならどうでしょうか?」
「はぁ、約束ですか。失礼ですけれど、お竹さんとは初対面だと思うのですが……」
「戯言です、お気になされないで下さいませ。
 ところで、私はこの人里に留まって腕試しをしとうございますが、それには許可が必要との事。
 本日ここに参りましたのは、妹紅様からご紹介を頂いたからにございます。
 どうか、御一筆をお願いできませんか?」
「ああ、確かに大道芸をするには許可が必要ですね。
 腕前に問題は無いように思えますし、妹紅の紹介とあって断れませんな。
 私の方から紹介状を書いて差し上げましょう」
「ありがとうございます。早ければ明日の昼過ぎから早速活動を始めようと思いますので、よろしければ聞きにいらして下さいね」
「ええ、分かりました。お伺いしましょう」
「その時は、是非とも子供達もご一緒にどうぞ。
 ……そう言う訳だから皆さん、予定は変更です。私の始めての公演に招待致しますので、今日は勘弁して下さいね?」
『はーい!』

 ペコリと一礼をしたお竹は、元気に声を挙げる子供達に明日の約束をして帰って行った。
 慧音がそれを玄関まで見送っていると、通りの向こうから見慣れた紅白姿 (の巫女では無い方) が歩いてくるのが見えた。
 お竹と妹紅はチラリと視線を交わしたかと思うと、慧音の方を指差して一言二言何か話し、そのまま別れていった。
 そのまま待っていると、予想通り妹紅の目的地は寺子屋だったらしく、ホクホク笑顔で寺子屋に入って来た。
 よく見ると、背中には大量の竹を背負っており、採取の帰りと見える。

「やあ妹紅、こんにちは」
「やあ慧音、こんにちは。輝夜の変装が分からなかったんだって?」
「そうなのだ。全く分からな……にゃにゅ?」
「ありゃ、振りじゃなくて本当に分からなかったのか。さっきの『お竹さん』は『蓬莱山輝夜』だよ」
「なん……だと……?」

 慌てて視線をお竹が去っていった方向に向けるが、その姿は認める事ができなかった。
 そこまで速く歩いていた様子は無いのだが、一体どこに消えたのだろうか。

「さっきの、お竹さん、あれ、妹紅の紹介、いや、あれ、その……あう?」

 脳内の様々な場所がショートし、意味の分からない言葉を垂れ流す慧音を、妹紅はニマニマとした笑みを浮かべて観察した。

「ふふーん。慧音の混乱する所なんて滅多に見れないから、これだけでも名前を貸した甲斐があったかな」
「も、妹紅! おちょくるのは止めてくれ! それで、輝夜殿はどうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも無いさ。慧音だって、輝夜が里の子供達相手に物語を聞かせたりしてるのは知っているだろう?」
「……あ」

 確かに。輝夜が時折里に出てきては子供達に遊びを教えたり、赤ん坊の世話をしたり、
 物語を語ったりと、まるで近所のおばあちゃんの如き活動をしている事は知っていた。
 一般的にはあまり知られていないが、一部の主婦や子供達の間では人気のある人物なのだ。
 阿求には『語り口調が古臭い』とバッサリ切られていたが、それは改善されたのだろう。

「それが、活動範囲をちょーっと広くしただけさ。
 派手になったのは、それに合わせた結果だよ。
 最初は何でもインパクトが無いとやって行けないからな」
「なるほど……」
「予告しようか。輝夜は、一月以内に里で一番の語り手として名を馳せるだろうよ。
 あいつが本気を出したら、その程度はお茶の子さいさいさ」
「そこまで断言するとは、凄い信頼だな」
「信頼じゃなくて、あいつの実績だよ。そして、私はそれに乗っかろうって寸法さ。慧音も手伝ってくれよ」
「何をする気だ?」
「楽しいお工作さ。よーっすガキ共元気か~! 妹紅お姉さんが遊びに来たぞ~!」
『わーい! 妹紅姉ちゃんだー!』
「今日は面白いお土産を持ってきたから、これを使って遊びましょう。みんな寄っておいで~!」
『はーい!』

 慧音が少し呆然としている隙に、妹紅はあっと言う間に子供達を懐柔してしまった。

「あ、こら! まだ授業も終わって無いのに、子供達を焚き付けないでくれ!」
「いいから、いいから。あ、ささくれを指に刺さないように気をつけるんだよ」

 妹紅は背に背負っていた竹を降ろして、寺子屋にいた子供達に配り始めた。
 喜んでそれを受け取る子供達と、何やら工作の手順の指導を始めてしまった妹紅を眺めながら、慧音は午後の授業を泣く泣く諦めた。

「どうでもいいが妹紅。普段と随分キャラクターが違うな」
「無口で無愛想な私も、陽気な私も、そうじゃないのも、全部私さ。TPOによって使い分けるのが年長者の知恵だよ。覚えておきな、けーね」


 ***


 翌日。約束通り『お竹』の講談を見に行くべく、慧音は子供達を連れて寺子屋を出発した。
 あれからまた連絡が入った所によると、彼女が講談をする場所として選んだのは例の食堂の前の通りらしい。
 慧音は子供達がどこかにチョロチョロ行かないか監視の目を光らせる一方で、横を歩くもう一人の同行者に声をかけた。

「確かにあそこなら、人通りの多さも道の広さも適当だろう。
 店で働いていたのも便宜を図ってもらうためだったのかな?」

 同行者とは、当然のように妹紅だ。
 彼女は何やら大きな風呂敷包みを大儀そうに……実際重い……担いでいたが、それに注意を取られながらも何とか慧音の疑問に応じた。

「いや、それは単なる成り行きだろうさ。
 偶々、働いていた先の目の前が良い立地だったから、客を集めて恩返しをしつつ……って感じだろう。
 あの辺りを根城にしている講談師もそんなにいないし」
「まあ、普通は繁華街通りや広場に行くからな。あの一本はずれた道は競合相手も少ないだろう。
 ……しかし、どのような話が聞けるのだろうな。実は、凄く楽しみなんだ」
「ああ。慧音は文学とか時代劇とか好きだもんね」
「うむ。特に、講談の王道は歴史解釈や戦記語り、神道講釈だからな。
 輝夜殿なら、生の経験が聞けるかもしれん」

 子供達と同じように、ウキウキと楽しそうな顔を見せる慧音だったが、妹紅はそれに賛同はしなかった。

「んー……残念だけど、そう言う方面の真面目で安牌な話は出ないと思うよ」
「……おや、そうなのか。やはり女性講談師ともなると、別ジャンルに向かうものなのかな?」
「いや、別の女流講談師もしないような題材を話す筈だよ。それを見込んで、私はこれを作ってきたわけだし」

 風呂敷をポンポンと叩く妹紅。

「昨日、子供達と一緒に作っていた何かだな。それは何なんだ?」
「竹製の湯呑みさ。食堂の主人には間借りの許可を貰ってるから、後は酒かジュースを入れて売るだけさ。
 子供達にはサービスで甘酒でも入れてやるかな」
「ふぅん、竹のな。……そう言えば、輝夜殿の芸名も『お竹』だな。と言うことは……」
「そう。今日の出し物は、『竹取物語』さ。十中八九間違い無い」
「『竹取物語』か……。まあ、子供達は喜んでくれるんじゃないかな」

 目に見える表情には出さないが、妹紅から見ればあからさまなほどにがっくりと肩を落とす慧音。
 竹取物語など、それこそ慧音が子供の頃から何度も見聞きしている……言ってしまえば、もう聞き飽きた話だ。
 自分で子供達に聞かせてやった事もあるし、写本をした事すらある。
 別に嫌いではないのだが、特別に好きなジャンルの話でも無いため、慧音のがっかりはそこに由来していた。

「……? どうしたんだい、慧音?」
「輝夜殿には申し訳ないが、子供の頃から何度も何度も聞いてきた話だからな。あまり新鮮味が感じられないんだ」
「慧音、それは短慮と言うものだよ。あいつが誰かを少し考えてみな」
「誰って、蓬莱山輝夜……あっ! 本人か!」
「そうそう。昔の物語を本人から直接聞けるんだから、これはとても貴重なものだよ。
 歴史学者の慧音先生としては、そこんところどうかな?」
「もちろん、喉から手が出るほどに欲しい情報だ。
 口伝だけでも極めて貴重な資料だと言うのに、それを本人から直接聞けるだって?
 ……ちょっと興奮して来たな。妹紅のそれも輝夜殿に合わせて作ったのかな?」
「異論は認めるけど、物語のキーワードは『竹』だからね。この器を見れば、今日の語りが思い出されると言うわけさ。
 軽く術もかけてあるから、大切に使えば100年は保つよ。普通の人間なら一生の思い出になるだろうさ」
「ほう……」

 例えるならば、映画館で売られているグッズにあたるだろうか。
 現代においては一般的な商法だが、幻想郷においてはそうではない。
 しかも、慧音が見たところ実用品としても優秀な品物であるし、これほどストレートに物語の軸に近い商品もそうそう無いだろう。

 この竹の器を片手に、例えばお団子をつまみに月見酒など飲んでみればどうだろうか。、
 間違いなく、鼻を優しくくすぐる竹の香りが『竹取物語』の事を思い出させてくれるだろう。

「……妹紅、後で一品譲って貰ってもいいかな? 私も欲しくなった」
「作ってあげるよ。いやぁ、楽しみ楽しみ」

 そんな風に話しているうちに、2人と子供達は目的地の食堂へと到着した。
 食堂の店先を見てみると、そこに備え付けられている長椅子に座って三味線を調律しているお竹の姿があった。
 人垣こそ無いものの、その目立つ容姿と華やかな雰囲気は道行く人の目を強く引き、
 中には一度通り過ぎようとした所で踵を返し、食堂の中で一服を始める男性の姿もあった。

 それでもしばらくは我関せずと調律を続けていた彼女だったが、
 慧音達一向が近くに寄ると市笠の向こう側に軽やかな笑みが浮かんだ。

「こんにちは……お竹さん」
「こんにちは、慧音先生。昨日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、とんでもありません。お約束通り、子供達を連れて参りましたよ。ほらみんな、挨拶なさい」
『こんにちは!』
「はい、元気が良くて大変よろしいですよ。今日は楽しんで行って下さいね。妹紅さんも、こんにちは」
「こんにちは。……こんな物を作って来たんですが、どうでしょうね? お気に召しますか?」

 風呂敷を広げて、中身を取り出す妹紅。
 中から出てきたのは、道中で話していた通り竹で作られた湯呑みの数々だった。

 そのうちの一つを取り上げて、しげしげと眺めるお竹。
 軽く指先で叩いたり、匂いを嗅いだりと何かを確認していたが、やがて満足したように一つ頷くと、
 横に置いてあった水差しの中身を器に注ぎ、くいっと傾けた。

 健康的な白い喉が白日に晒される。
 器の縁にほんのりと紅の赤が残る。
 ほぅと色艶のある溜息が漏れ出る。

 その一連の動作一つで、店内から様子を伺っていた男性客の視線に熱が注ぎ込まれるのが分かった。

「結構な腕前でいらっしゃいますね。これは子供達と一緒に作られましたね?」
「ええ」
「楽しそうな思いが器を通して伝わってくるようです。一つ、頂いても?」
「もちろんです」

『ありがとう』と一言断ってから、水差しと竹の器、そして楽器を手に表へと出るお竹。
 そこには既に重ねて置かれた茣蓙が用意されており、舞台が整っていた。

「まずはここから始めましょう。皆々様、お暇な方はどうぞ近くに寄ってお聞き下さい」
「慧音は私の横」
「あっ」

『ジャジャン』

 三味線を軽く鳴らすお竹。
 取り立てて珍しい楽器の音では無いし、テンポも特に取っていない。
 だと言うのに、何故だろうか。心に響く。

 道行く人の足は止まり、彼女から目が離せなくなった。
 食堂の中でゆっくりと見物をしようとしていた怠惰な輩も、思わず席を離れて茣蓙の前に吸い寄せられて行く。
 チラホラと人だかりができて行く中、一番素直に反応を示し、一番いい席を取ったのは子供達だった。

『ジャジャジャン』

 更にもう一度鳴らされると、これはどうした事だろうか。
 心惹かれて、居ても立ってもいられない。
 我慢ならなくなった通行人達が次々に踵を返し、お竹の回りへと集まり始めると、人集りはあっと言う間に人垣へとなった。
 それを確認し、お竹はゆっくりと口上を開始した。

「本日お集まりの皆様……」

 その様子をこの場でただ一人冷静に眺めている妹紅は、
 飲み物を用意しながら心底楽しそうに笑っていた。


***


「本日お集まりの皆様、始めまして。私(わたくし)の名前は『お竹』と申します。
 今日、この時よりここ人里にて活動を始めました、新人の講談師にございます。
 どうぞ、お見知り置きのほどをよろしくお願い致します」

「さて。本日語りまするわ、この国に古来より伝わります最も古い物語の一つ。『竹取物語』にございます。
 ……あら、そちらのお客様。既に聞いた事がある、と言った風情の顔をされていますね。期待にそぐいませんでしたでしょうか?
 他の方々も、期待されていましたのは勇ましい軍記や、心に染み入るような恋話だったのでしょうか?
 あるいは、命名決闘法に纏わる様々な英雄譚がお好みで?」

「それならばご心配はご無用です。お客様方は、『本物の』竹取物語を見聞きされていないから、そのような懸想をされてしまうだけなのです。
 それとも、外の世界の幻想が流れ着く最果てのこの地でも、物語の本質は失われてしまったのでしょうか?
 もちろん、そのような悲しい事は断じてございますまい。
 この物語の真実は、確かに皆様方の中に息づいております。
 しかし、あまりにも時が流れすぎてしまったせいで、少しだけ忘れられているだけなのです」

「遥かな時の流れに耐え続ける、変わらぬ物語。その源流をお聞かせ致しましょう。
 『竹取物語』、お聞き下さい」

 三味線を手に取り、音頭を取るお竹。

「『今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに 使ひけり。名をば、さぬきの造となむいひける。
 その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。怪しがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。』
 ……これは皆様ご存知、竹取物語の序文にございますね。
 しかし、私はここから始まる物語の前に、一つだけ語らねばならない話があると存じております。
 ……皆様は、この竹の中から現れた姫が、どこから来たのかはご存知でしょうか?」

 聴衆の一人が『かぐや姫は月に帰ったのだから、月の都だろう』と答え、周りの者も異論は無いと首を縦に振る。

「然りにございます。では、その月の都とはいかなる所なのでしょうか?
 西洋の聖なる書物に言う天の御国でしょうか? 天人の住まう天上界の比喩でしょうか?
 それとも天とは名ばかりで地獄のような場所でしょうか? はたまた、永劫輪廻の向こう側でしょうか?
 ……いいえ、どれも違います。かぐや姫が追放された月の楽園とは……」

 立ち上がり、太陽とは逆の方角を指差すお竹。
 その先には、弱い光を放つ昼間の月があった。

「穢れを厭い、死を否定し、人でありながら人を否定した、清き不死者の都にございます。
 なよ竹のかぐや姫は、月に建立された都において大罪を犯し、地上へと流刑されていたのでございます。
 では、その大罪とは何か。何故地上に流されたのか。彼女の罪は赦されたのか。伝説の姫君は如何にして翁の下に至ったのか。
 それをこれからお話し致しましょう」

 再び座り直し、聴衆に向けて挑発的な態度で三味線の撥を取る。

「お客様方は、本当に運の良い方々です。歴史の向こう側に忘れ去られてしまった、物語の裏側を垣間見る事ができるのですから。
 どうぞ最後まで、ごゆるりと」

 市笠の向こうに見える紅い唇が、まるで三日月のようにキリリと引き絞られた。


 ***


「……あなた達が作っていたのでは、無いですって?」
「はい。永琳様のお食事は、我々では作っておりませんよ」

 輝夜が居なくなってから数えて、ちょうど一ヶ月目のある日。
 自身の舌と腕にかけて、普段食べている食事の味を再現しようと意気込んでいた永琳だったが、
 どうにもこうにも行き詰ってしまい、ヒントを求めて朝の調理場に足を運んでいた。

 そして起き出して来た調理担当の兎に話を聞いてみたところ、兎達からは予想だにしなかった答えが返ってきた。
 永琳が毎日食べていたご飯は、彼女達が作ったものでは無かったらしい。

「……え? いや、おかしいじゃない。それなら私が毎日食べていた朝ご飯は一体何だったの?」
「? あれは輝夜様がお作りになられていたものですよ」
「………………………………何ですって?」
「ほら、あちらに大きめの竈がございますでしょう。
 あれは輝夜様の専用の竈でして、そこでいつも料理をされていました」

 兎が指差した方を見てみると、確かに少し離れた所に古びた竈が一つ備え付けられていた。
 大きな竈と兎は言ったが、それは体格差から来る認識の違いだろう。
 兎は人間の子供くらいの背しか無いため、永琳に丁度良いサイズの竈は大きく見えるのだ。
 そう、よくよく見てみれば、この竈は兎達にはいかにも大き過ぎるではないか。

 しかし、そんな所に納得している場合ではない。

「輝夜が料理を?」
「はい。輝夜様は料理が大変お上手でして、私達の中でもは輝夜様にかなう者はおりません。
 みんな輝夜様から料理のいろはを教わったのです。
 ……あ、この場合は『さしすせそ』ですかね?」
「それはどちらでも構わないけど……輝夜が料理を教えた? それはいつ頃から?」
「さあ、分かりません。少なくとも私は輝夜様から手解きを授かりましたし、私の母もそうだと言っております。
 母の母もそうですし、その母も恐らくそうだと思います」
「そんなに昔から……何で、姫様は教えてくれなかったのかしら」
「さあ、私には分かりかねます。輝夜様が厨房に立たれるお姿を幼少の頃からずっと見ておりましたので、当たり前のものだと思っておりました」
「当たり前のもの……」
「はい。……我々の腕では永琳様に満足して頂けないかもしれませんが、精一杯やりますので楽しみにしていて下さいね」
「ええ。ありがとう」
「はい!」

 ヒントとなる何かが無いのならば、これ以上厨房に居座って兎達の邪魔をするのも悪い。
 そう考えた永琳は、話を聞かせてくれた兎に礼を言って厨房を後にした。

「当たり前のもの、当たり前のもの……。何かしら、私は大切な事を忘れている気がするわ」

 何かを忘れている気がするのだが、思い出す事ができない。
 それからもずっと考え続けて、昼の診察が終わり、自由な研究のお時間になってもその疑問は消える事が無かった。

「そう言えば、輝夜から料理のダメだしをされたのはいつの話だったかしら。それも思い出せてないわね。
 100年前? 1000年前? それとももっと昔の話?
 たぶん、月の使者を全て排除して、一緒に放浪を始めた頃の話だと思うんだけど……うーん……」
「お師匠様、どうされたんですか?」

 唸り続けていたら、弟子にまで心配されてしまった。
 それに気が付いて軽く苦笑を漏らした永琳は、『なんでもない』と適当に鈴仙をあしらうと、研究を続けるをべく頭を切り替えた。
 確か、鈴仙には薬剤の調合を任せていた筈だが……。

「あ、待ちなさい優曇華!」
「ひぇっ!?」

『ガシャン!』

 いきなり大声を出されて驚いた鈴仙は、手に持っていたビーカーを取り落としてしまった。
 すると当然のように中に入っていた液体が周囲に飛び散り、異臭を放ち始めた。
 中に入っていたのは、鈴蘭の毒だった。

「何をしているの! 鈴蘭の毒は熱に弱いから、廃熱機能の高いビーカーを使えって言ってあったわよね!」
「そ、そうでしたっけ……? す、すみません!」
「いいから、中和剤と戸締り確認! 私やあなたは平気だけど、子供の兎に毒が回ったら一大事だわ!」
「は、はい!」

 幸いにも、研究室の隔離はキチンと行っていたためバイオハザードが起きる事は無かった。
 しかし、貴重な材料が無駄になってしまった事に変わりは無く、永琳は深くため息をついた。

「はぁ……。またメディスンに毒を注文しないといけないわね……」
「すみません、すみません、私の不注意でした!」
「最近変よ優曇華! ケアレスミスが多すぎるし、気もそぞろじゃない。一体どうしたの?」
「返す言葉もございません……」
「調子の悪い時があるのは仕方ないけど、それならちゃんと自己管理をしなさい。
 注意力散漫の状態じゃあ学習も捗らないわよ!
 それとも、半人前の分際でお勉強よりも大事な事ができたのかしら?」
「……いいえ、ありません」
「輝夜が居ないって時に限ってもう……。とにかく今回は不問にするから……」
「……そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
「ん?」
「何もそこまで言わなくてもいいじゃないですか!」

 突然激昂して、大声を上げる鈴仙。
 手に持っていた薬匙を地面に叩きつけてへし折り、柳眉を逆立ててギロリと永琳を睨む。
 それにカチンと来た永琳が目に力を篭め返すと、即座に一触即発の空気が生まれた。

「師匠に向かって、その目は何かしら?」
「確かにちょっと調子は悪いのかもしれませんけど、私は私のできる範囲で精一杯やっているつもりです!
 それでご不満でしたら、そもそも私に手伝いを申し付けないで下さい!」
「ふざけた事を言っているんじゃないわよ! あなた、自分の立場が分かってて言っているんでしょうね?」
「分かっていますよ! でも、私はお師匠様の弟子であって、奴隷じゃないんです! 」
「人が下手に出ていれば付け上がって……! ハッキリ言いましょうか。今のあなたは邪魔なのよ!
 ミスは多いし、調合は間違えるし、行商の売り上げも芳しくないじゃない!
 それなら、奴隷の方がいくらかマシだわ。弾幕ごっこの盾にして使い潰してあげましょうか?」
「はっ! 上等ですよ。やれるものならやってみてください! ただし、背中には気をつけて下さいね!」
「生意気な! ……ふぅ。もういいわ、出て行きなさい!」
「言われなくても! 失礼します!」

 研究所の扉を蹴り開けて、ドカドカと肩をいからせて出て行く鈴仙。
 それを見送った永琳も、苛立ち紛れに床を強く踏みしめた。

「ああもう! 本当にどうしたのよ!」


 ***


「本当にどうしたんだろうねぇ……」

『深夜過ぎ、姫様のお部屋から変な音がする』

 その知らせを受けたてゐは、早速原因を探るべく輝夜の寝室へと足を運んでいた。
 時刻は丑三つ時、午前2時くらい。一般的な兎達がそろそろ就寝しようかなと考え始める頃だ。

「もこたん辺りが忍び込んでるのか、姫様がこっそり戻ってきてるのか……いや、どっちも無いな。
 じゃあ物盗り……にしちゃあ何度も報告されてるのは変な話だしね。一体何が……」
『てゐ様~?』
『てゐ様だ~。どうしたの~?』
「おや、おチビちゃん達?」

 テクテクと歩いていたてゐの前に現れたのは、例の子兎兄弟だった。
 二人とももうおねむの様子で、小さな小さな枕を抱えてフラフラと歩いていた。

「最近ね、姫様の部屋で変な音がするって聞いて調べてるんだよ。何か知らないかな?」
『知らない~』
『僕達も行くところ~』
「そっかぁ、知らないかぁ……ん?」
『僕達はもう寝るんだけど、てゐ様は~?』
『寝る~?』
「寝ないよ~。ところで、こんな時間に姫様の部屋に何の用なんだい?」
『寝るの~』
『みんなで寝るの~』
「みんな? あ、ちょっと!」

 子兎達はてゐに挨拶をすると、そのまま輝夜の部屋の襖を開けて、その中へと入って行った。
 その思わぬ行動に慌てたてゐがその後を追って中に入ると、
 そこには今入った子兎の他にも、何匹かの子兎や大人の兎が入り込んでいた。
 合わせて十匹くらいいるだろうか? 誰も彼も、部屋の中心に敷かれている布団に入り込んでぬくぬくと温まっていた。

 それはそれでとても微笑ましい光景なのだが、主の寝室に勝手に入って良いわけではない。
 とりあえず布団を引っぺがしたてゐは、中にいた一番年嵩の兎に声をかけた。

「あれ、桔梗じゃん。ここで何をしてるんだい?」
「あ、てゐ様。みんなで集まって姫様のお布団で寝ているんですよ」

 桔梗と呼ばれた兎は、子兎兄弟の世話をしている調理担当の兎だ。
 まだまだ年若い子だけれど料理の腕は確かで、てゐも信頼を置いている子だった。

「それは見れば分かるけど……何で?」
『ここ、姫様の匂いがするの~』
『ここ、寒くないの~』
「……寒くない?」
「みんな、姫様が居なくて寂しいんです。
 一向に帰ってくる様子がありませんし、音沙汰もありませんし……。
 特にこの子達は、ご両親を亡くされた時の事を思い出して不安に思っているみたいで」

 枕に乗っかって、心の底から安心したような顔を見せている子兎兄弟の頭を撫でながら、
 桔梗はてゐから布団を取り返すと、それを丁寧に元に戻した。

「実は、私も不安なのです。このまま姫様が戻らなかったらどうしようかと。
 永琳様は素晴らしいお方ですし、鈴仙様も信頼できる方ですけど、
 今はどうもカリカリしてらっしゃるようですし。
 こう言う時は、姫様のお顔を拝見したくなります」
「……まあ、それは分かるよ。姫様はいつも姫様だからね」
「ああ、姫様。今はどちらにいらっしゃるのでしょうか。
 姫様にお会いしたいです。姫様、お元気で……ぐすっ」
『グスッ……』
『ふぇっ……』
「あっ、しまっ……!」

 不味い! そう思ったてゐだったが、時既に遅し。
 最初に桔梗が涙ぐみ始めると、それに感化された他の兎達も鼻を啜り、
 子兎兄弟が泣き声を上げ始めたらもう止まらなかった。
 まるで火が着いたように次々に泣き声が上がり、そこにいた全員が涙を流して座り込んでしまった。

「……泣きたいのはこっちだよ……。この状況、どうしよう」

 すすり泣く部下達に囲まれながら、てゐは途方に暮れてしまった。


 ***


 【Chapter.5 二ヶ月目】

『The only thing worse than being talked about is not being talked about.
 人に噂されるより悪いことが一つだけある。噂にすらならないことだ - オスカー・ワイルド』


(文々。新聞・号外号より抜粋)

『期待の新人現る!』

『幻想郷における娯楽と聞いて、読者諸氏は何を思い浮かべるだろうか?
 弾幕ごっこ(*1)、歌舞伎、演劇、紙芝居辺りが一般的で、最近は人形劇なども市民権を得つつあるように見える。
 しかし、庶民に最も近い娯楽はと問えば、答えは一つ。講談師の語る講談だ。
 我々天狗の社会においても……(妖怪の山の自慢が入るので中略)』

『その厳しい講談の世界に、一人の大型新人が現れた!
 彼女の名前は『お竹』。そう、珍しい(*2)女性の講談師だ。
 彼女は外の世界で経験を積んだ熟練の講談師であり、講談以外にも歌謡や演劇にも造詣が深い。
 三味線や笛などの基本的な楽器の他にも、ハープやギター、カスタネットなどの幻想郷では珍しい楽器を演奏し、芸に幅を持たせている。
 どこでそのような技術を習得したのか、何故それほど沢山の楽器を扱えるのかと聞いてみたが、
 「継続は力なりですよ。あなたも1000年以上続ければこれくらいはできます」と謎めいた言葉が返ってきた。
 人間の歴史とは、積み重ねと言う事だろうか?(*3)』

『彼女の神秘的な魅力を語りたいところではあるが、本記者にそれはできない。
 何故なら、『筆舌に尽くしがたい』からだ!(*4)』

『彼女は毎日決まった場所で公演を開いているため、この意味を知りたければ己の目で確かめるのが良いだろう。
 その際には女房に見つからないように、あるいは旦那の心を奪われないよう、くれぐれもご注意を』

(*1)見物も参加も同じ楽しみ方である。
(*2)講談師は体力勝負なため男性が多い
(*3) 人間は妖怪よりも寿命が短いが、後のために知識を残す事に長けている
(*4)上手い事言ったつもりらしい

(抜粋ここまで。注釈は稗田阿求による)


「……本当に妹紅の言った通りになったな」
「だろう?」

 『蓬莱山輝夜』が『謎の講談師・お竹』として活動を開始してから、早くも一月が過ぎていた。
 妹紅の見立て通り、一介の辻説法師として始めたはずの輝夜はあれよあれよと言う間に名前が売れ始め、
 今では請われて舞台公演に向かうほどの人気者になっていた。
 今はまだ里から出てはいないが、そのうち各種有力妖怪等に招待される日も来るだろう。

「素顔を誰も知らない、ミステリアスな美人講談師か。確かに売れそうな感じではあるが、未だに正体がばれていないのも不思議なものだな」
「ああ、あれは平安貴族の嗜みだよ」
「……本当に?」
「本当本当。私達の時代じゃあ、女性が家族以外の男性に顔を見せるのが好まれなかったのは知ってるでしょう?
 だから、自然と顔を隠す……言い換えれば、正体を隠す技術が発達したんだよ」
「ほうほう」
「変装術と同じさ。立ち居振る舞いに限らず、纏う雰囲気や普段の表情まで意識して変えてしまえば、
 ちょっと顔を見られる程度では正体がばれなくなるんだよ。
 あいつの場合は霊質やオーラまで変えてるから、親しい人間でも慣れてないと分からないんじゃないかなぁ。
 むしろ、親しい間柄の相手の方がより分からなくなると思うけどね」
「なるほど……」
「詳しくは、民明書房発刊の『平安の貴族と砂漠の暗殺者、その類似点』を読めば分かるよ。詳しく書いてある」
「そうか、それは中々に興味深い……って、民明書房と言う事は全部嘘か! 真面目に聞いてしまったじゃないか!」
「ありゃ、知ってたか。でも、毎日顔を合わせるような知り合いでも、髪を切っただけでパッと見分からなくなるだろう? 同じ事だよ」
「……まあ、そこは納得できなくはないな。うん」
「霊質変えてるのはマジだしね。……で、慧音はここで何を?」

 二人が話しているのは、件の食堂の中である。
 既に寺子屋は終わり夕方が近付いて来ようかと言う時間だが、晩御飯にはまだ早い。

「お竹殿の話が新聞に載ったと聞いたので、阿求に借りて来た所だ。妹紅にも見せようかと思ってな」
「お、それは有り難い。どれどれ……。阿求の注釈付きか、筆豆だねぇ」
「最後の注釈など、ドヤァ顔で記事を書く文屋とそれにドヤァ顔で注釈を付ける阿求の両方の顔が浮かぶようだな」
「はは、違いない! 解説も地味に的が外れているね」
「それで、妹紅は何を?」
「ん? ああ、そうだった。私は昼過ぎから夜店が閉じるまでの間だけ、この店の一角を借りて出店を出してるのさ」
「出店? あの竹の器か?」
「そうそう。お陰様で売れ行きも好調でさ。売り上げはお店と折半って約束なんだけど、もっと私の取り分を少なくしても良かったかな? ってくらい儲けてるよ」

 軽快に笑う妹紅の手元には、確かに数ヶ月、下手をすれば数年は遊んで暮らせる程度のお金が貯まっていた。
 それは同時にお竹の公演が大成功を収めている事の証拠でもあり、デビュー前からアレコレ手を回していた妹紅はかなり美味しい位置に居た。

「それはこっちの台詞だよ、妹紅ちゃん」
「おっと、女将か。こんにちは」
「こんにちは。そろそろこんばんはかねぇ。……あ、慧音先生からも言ってやって下さいよ。
 妹紅ちゃんったら、物凄く売り上げを伸ばしているのに頑なに折半を崩そうとしてくれないんですよ。
 私達は場所を貸すだけだから、お金なんていらないって言ってるのに」
「いいじゃないか女将さん。場所代ってのはそう言うものなんだからさ」
「……二人とも、もう少し欲を出したらどうだ?」
「これくらいでいいんだよ。どうせあいつのお裾分けみたいなものなんだから」

 申し訳無さそうに妹紅を示す女将と、楽しそうにのんべんだらりとする妹紅と、それに呆れる慧音。
 その三人の目線が集まる先には、今日もまた店前の道に茣蓙を敷き、演劇を上演しているお竹の姿があった。

 押しも押されもしない人気講談師になったにも関わらず、彼女はずっとこの店の前を拠点として芸能活動を続けているのだ。
 たまにフラフラと流し語りをしに出かけたり、酒場に歌を歌いに行ったりはするが、ホームはここだ。
 今日の上演は『竹取物語』の第三幕にあたる五人の貴人によるアプローチの場面で、
 『仏の御石の鉢』を手にした石作皇子が姫の下へと参じたところだった。


「『深い海を越え、野盗の巣窟を抜け出し、森に潜むアヤカシと剣を交え続ける事、幾星霜。
 辛く苦しい旅ではありましたが、私にとっては姫のお声を聞けぬ事こそが何よりの苦痛でありました』
 ……石作皇子はそう言うと、傷だらけの腕に大切そうに抱かれた『鉢』を取り出します」

「彼の差し出した鉢は、真に見事なものでありました。
 造詣もさることながら、金剛石(ダイヤモンド)もかくやと言わんばかりに七色に光を放つその姿は、
 正しく御仏が纏うとされている後光そのもの。
 この世の真理を照らす眩い光と言われれば、なるほどと納得してしまうほどの美しさでした。
 しかし、それを見た姫は軽く眉を顰めて悲しげ顔を致しました」

「『今一度、今一度と心に思う度、我が心は奮い立ちました。
 その震える心の結晶が、この鉢にございます。どうぞお納め下さい、姫よ!』
 あくまでも実直に、石作皇子は頭を下げます。しかし、悲しいかな。その鉢は偽物でありました。
 姫は悲しげな表情を一層深くさせると、その事を石作皇子に伝えました」

「当然、彼は叫びます。『何とこれが偽物であると! 幾ら姫と言えど、そのような物言いは我慢なりませぬ! 如何なる理由があり申されるか!』
 詰め寄る彼を余所に、姫は鉢をそっと脇に寄せると、翁に『台所にある竈の灰を持って来て下さい』と頼みました。
 ご存知の方もおられましょうが、竈の灰には 火の神であらせられます竈の御神の有り難い力が宿ります。
 魔を退けるその力を、姫も知っていたのです」

「ハラリハラハラと。姫が竈の灰を鉢にかけますれば、これはどうした事でしょう。
 あれほど美しく輝いていた鉢の後光がみるみるうちに萎み行き、遂には光を失い、
 終にはただの小汚い普通の茶器に成り下がるではありませんか!
 あまりの事に茫然としていた石作皇子でしたが、ふとある事に気が付きます。
 その瞬間、はっしと剣を掴みそのまま抜刀! 茶器を一刀両断に致しました!」

 半身を起こして力強く足を踏み鳴らし、手にした扇を剣に見立てて振り下ろすお竹。
 その迫力は聴衆の度肝を抜き、まるで本物の石作皇子の怒りを目の当たりにしたかのように錯覚させた。

「……そこにいたのは、人を化かして遊ぶを好む小さな物の怪でした。
 『貴様か、貴様が、貴様のせいで!』
 一撃のもとに魍魎を切り捨てた石作る皇子でしたが、怒りのあまり声にもなりませぬ。彼は、化かされたのです」

「彼は……石作皇子は」

 その語りを聞いていた妹紅が、ポツリと呟いた。

「あの時代の人間にしては珍しく、気骨のある武人肌の人間だった。
 治安が悪くて山賊が横行して、妖怪が跳梁跋扈する、風土病が蔓延る当時の『都の外』を旅するくらいにはね。
 あれからも精進と研鑽を重ねて、帝から霊杖を授かるほどに長生きして、大往生したらしいけど……」
「妹紅……?」
「でも、それだけの精力がありながらも、生涯妻は取らなかったらしい。
 史実でどう語られているかは知らないけど、私はそう聞いたよ」
「知り合いだったのか」
「ああ。色んな事に拘らない豪放快活な人でさ。私に剣術をこっそり教えてくれたのも彼なんだ。
 信じられるか? 当時の私は車持皇子の数居る妾のうちの一人の娘で、
 世間的にはいないものとして扱われている忌み子だったんだその私に、だよ?」
「それは……随分とイメージと違うな。
 失礼を承知で言うなら、私の中の石作皇子は好色で卑怯者の、どうしようもないダメ役人だったが」
「まあ、好色だったのは否めないけど、少なくとも卑怯者では無かった。
 たぶん、そっちの方が物語として面白くなるから後に改変されたんだろうね。
 その物語の変遷を否定する気は無いけど……悲しくはあるかな」
「……すまない」
「いや、いいって。それよりも、せめて幻想郷の中でだけでも、そのイメージが払拭されれば嬉しいんだけどね。
 ……懐かしいな、あのおじちゃんはあっちで元気にしているのかな。もう会えないけど、そうだといいな」

 そう語る妹紅の表情はいつに無く柔らかく、遠く過ぎ去った思い出を反芻しながら思い出している様子がありありと伺えた。
 しばらくはその横顔に見とれていた慧音だったが、ふともう一つの用事を思い出して気を取り直した。

「妹紅。一応だが、宿題の答えを見つけて来たぞ」
「お、聞こうじゃないか。永遠亭の兎達は、なんで永琳達に仕えているのか?」
「結論から言うと、『教育』だろうな。
 永遠亭の兎と言えば、非常に高度な訓練をされた集団だ。
 雑用をこなす小さな兎ですら人に化ける技術を持っているし、餅をついたり弾幕ごっこの脇を飾ったりと、集団行動もお手のものだ。
 それに、確か永遠亭には戦士階級の兎達も居たはずだな。
 弾幕ごっこの際は出て来ないが、有事の際には彼らが仲間を守るのだろう」
「私は何度かやりあった事があるけど、あいつらは強いよ。
 兎生来の臆病さを、訓練と理性で克服したタフガイ達だ」
「しかし、幻想郷の全ての兎がそんなに強いわけじゃない。
 少なくとも、兎肉が頻繁に市場に並ぶ程度にはな。
 永遠亭の兎が特別なんだ。それが分かる」
「うん。続けて続けて」
「余所の兎と、永遠亭の兎を分ける差は何か。それはやはり、永琳殿だろう。
 兎達は……この場合は、その契約を取り付けたと思しきてゐと、その一族がかな?
 とにかく、永琳から智恵授かる代わりに忠誠を誓っているんだ。これでどうだ?」
「ご明察。永琳は智恵を授ける事には慣れてるからね。輝夜に教育を施したのも永琳の筈だし。
 ……まあ、輝夜は青より出でて赤色になったような変な例だけど」
「そうだな。それで分かったよ。永遠亭における、輝夜殿の役割がな」
「慧音は賢いなぁ。頭を撫でてあげよう。いい子いい子」
「いらん。それで妹紅、答え合わせはしないのか?」
「しないよ。直に目で見えるようになる筈だからね。その時は、ちょっと付き合ってよ。
 私一人じゃ何だから、慧音も一緒に派手にやろうよ」
「? 何の事かは分からんが……まあ、事前に言ってくれればな」
「よし。……それじゃ、私はそろそろお仕事を再開するかな」
「行ってらっしゃい」

 妹紅が『さて』と気合いを入れて立ち上がり、竹の器にお酒を注ぎ始める。
 劇の方に目をやってみれば、今日の演目が終了して一段落をしているところだった。

「そろそろ、また売り歩いてくるかな。慧音は荷物の見張りを頼むよ」
「ああ、分かった」
「ありがとう。……ああ、慧音」
「ん?」
「今、私に見とれてたろ。惚れるなよ?」
「な、何を……!」
「冗談さ。じゃ、行ってくるよ」

 妹紅を見送り、もう一度お竹の方へと目を戻す慧音。
 市笠に隠れて見えないが、その表情は妹紅と同じようにとても柔らかいように見えた。


 ***


「鈴仙ちゃん♪ 遊びましょ♪」

 その日、てゐは暇だった。
 永琳は実験室に籠もって出てこないし、急患も無し。
 おまけに良い天気で風もそよそよと気持ちが良く、絶好の遊び日和だったのだ。

 自分が暇と言う事は、鈴仙も暇である公算が非常に高い。
 それは竹林へ入ってくる侵入者(徒歩で永遠亭を目指す患者含む)がいない事を知っているからでもあるし、
 長年の経験に基づく勘でもあった。

 それならば、こんな日は鈴仙と遊ぶに限る。
 そう思って出掛ける直前の鈴仙に話しかけたのだが、
 返ってきたのは重い溜め息と冷たい視線だった。

「……遊ぶなら一人にしなさい。私は忙しいのよ」
「……おや?」

 背中に行李を背負っている所を見ると、これから行商に向かう所なのだろう。
 これは残念、少しタイミングが悪かったかもしれない。

 しかし、それにしてもだ。
 鈴仙の態度と雰囲気は暗く冷たく、とてもではないがこれから営業をしに行くようには見えない。
 これでは、売れるものも売れないだろう。

 何か嫌な事でもあったのだろうか。それなら、気を紛らわせてあげないと。
 極々自然にそう考えたてゐは、鈴仙のすげない態度に怯む事無く構って構ってとまとわりついた。

「ねーねー、そんな事言わないで遊ぼうよー
 こんな良い天気の日に遊ばないなんて、人生の無駄だよ~」
「人生を無駄にしたくないから働くのよ。いいから邪魔しないで」
「そんな事言っちゃって。そんな怖い顔してたら、可愛いお顔が台無しだよ? 笑顔笑顔~」
「放っておいてって言ってるでしょう! いいから遊ぶなら……!?」

 かかった!
 まとわりついていた鈴仙の身長がやや小さくなり、てゐと同じくらいの所に落ちてくる。

 鈴仙は、てゐが予め仕掛けられていた落とし穴に落ちたのだ。
 まとわりついたのも、全てはこの落とし穴に誘導するためだ。
 しかし、鈴仙ん策にはめたてゐの内に、軽い違和感が生じた。

(「……あれ? ひょっとして鈴仙ちゃん、素で引っかかった?」)

 不可思議である。
 元・軍人なせいか、生来の臆病さのせいか、あるいは両方か。
 鈴仙は、この手の罠に関する嗅覚が異常なほどに鋭いのだ。
 いくら誘導されたからと言って、易々と落とし穴に落ちるような鈴仙ではない。

 普段はこちらの思惑を汲んだ上でわざと引っ掛かってくれて、
 『こらー! 何をするのよー!』と追いかけっこが始まるのだ。
 それがいつものパターンだった。

 ……まあ、素で引っかかる事が無いわけでは無いのだが、
 やはり訓練のお陰か、即座に靴や服が汚れないように浮く程度の反射神経は持ち合わせている。

 しかし、今の鈴仙はそのどちらでも無いらしい。
 これは本格的に様子が変だ。

「鈴仙ちゃん、だい……」

 大丈夫? と続けようとしたてゐの頬を、ナニカが擦過する。
 そのナニカは頬の皮を削ぎ取り、髪を数本消し飛ばし、背後にあった岩に亀裂を生じさせて消滅した。
 己の頬に流れる一筋の血を感じて、てゐは笑顔のまま硬直してしまった。

「……最悪。靴が泥だらけだわ。商品は無事かしら……」

 ブツブツと呟きながら行李を置いた鈴仙は、てゐの胸元を鷲掴みにして体を引き寄せると、
 そのこめかみに人差し指を力任せにねじ込みながら目を合わせた。
 事態が飲み込めずに混乱するてゐの視界いっぱいに、ドロンと濁った赤い瞳が突きつけられる。
 その中にあるのは、狂気と殺意だ。

「ひっ……!」
「あのね、てゐ。あなたは遊んでいられるかもしれないけど、私は働かないといけないの」
「ご、ごめん……」
「最近の私は、ちょぉぉぉっとミスが重なっててね。お師匠様に迷惑はかけるし、薬は売れないしで、どうにも最悪ってわけ。
 そんな状態だから、てゐと遊んであげる余裕なんてまっっっったく無いのよ。
 最近は特に夢見も悪いし、ご飯も美味しく食べられないのよ。お分かり?」
「ご、ごめんなさい……」

 言葉に力は篭められて、こめかみに突きつけられた人差し指がまた一段と深くねじ込まれる。

 人差し指と親指が直角になるようにピンと立てたその形は、弾幕の発射口として彼女が好んで使用するスタイルだ。
 普段は無害な弾幕しか打たないが、彼女がその気になれば岩をも砕く『殺す気』の弾丸を発射する事ができるのを、てゐは知っている。
 そう、丁度さっき、自分を掠めて飛んで行ったナニカ……銃弾を飛ばしたように、だ。

 これ以上鈴仙の機嫌を損ねたら、本当に殺されるかもしれない。
 本能的にそう判断したてゐの背中に嫌な汗が滲む。

「遊ぶなとは言わないけど、せめて邪魔をしないでくれないかしら?」
「ごめんなさい、許して……」
「……今回だけだからね。ったく、商品に傷がついてないといいんだけど……」

 その場に崩れ落ちるてゐを無視して、行李の中身を改める鈴仙。
 幸いにも……てゐにとって幸いな事にも……行李の中身は無事だったらしく、
 鈴仙はそれを担ぎ直しててゐに一瞥をくれた。

「じゃあね」
「鈴仙ちゃん、どうしちゃったの……?」

 何か、良くない事が起こっている。
 そう確信したてゐだったがしかし、今は震える体を押さえつけるだけで精一杯だった。
作中に出てくる『奴隷』とは、グリマリに書かれている弾幕ごっこ等に使用され使い魔(固定砲台)の事です。
決して本来の意味での奴隷ではないので、ご注意下さい。

突然家を出た輝夜と、その輝夜が居ない生活に全く戸惑いを覚えずに通常営業の永遠亭。
しかし、少しずつ少しずつ歯車が狂い始めて……と言ったシナリオにございます。
永遠亭における輝夜の存在価値とは。輝夜の思惑とは。偉大な芸術家は定住するのか。
はてさて。
LOS-V
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コメント



0.1240簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
いまいち謎な展開でした。丁寧に追うとわかるような気もしつつやはり謎が残るような。無理やりなエピグラムも謎めいています。ギリシャローマでなぜに英語?文章が全体にいい感じなんですがやはり違和感が払拭しきれません。鈴仙が苛立ってるのは輝夜がいないからなんですよね?作品の狙いとしてそうだと思うだけで、作中からは今ひとつ読み取れないというか。後編を見ないとなんとも言えませんが、もう少し読者の視点を気にしてもらえると入り込みやすい気がします。
9.無評価コチドリ削除
後編を読まないことには点をつけられない、俺の中ではそう感じられるお話なので今回はフリーレスにて失礼します。
ただ期待値はとてつもなく高いです。カリカリ永琳とイライラ鈴仙をはじめとした永遠亭はどう動くのか?
レミ様は絡んでくるのか、或いは別個のお話が創られるのか? などと興味は尽きません。

それにしてもいいなぁ、失って初めてわかるその有り難味って感じの輝夜さんは。こういう人に私はなりたい。
姫様の纏う雰囲気、彼女を中心にして流れる時間などが、如何に永遠亭に必要なのかがとても伝わってきます。
あと永琳さんの描写がかなり新鮮。超然とした人ってのが俺の勝手なイメージだったので。

穀潰しでありカリスマでもある。
トランキライザー輝夜の更なる活躍が見られるはずの後編、襟を正してお待ちしております。
13.無評価名前が無い程度の能力削除
匿名にて既に点数を入れているためフリーレスで失礼しますが

鈴仙や永琳がピリピリしてる→それは輝夜がいないからだ。
これは分かる。でも、弱い。読者を納得させるまでいかず不快感のほうが強い。
後編にこの辺りのことを詳しく書いてあるなら前後編合わせて投稿なされた方が良かったのではないでしょうか?
ともかく貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ、と言いたくならないような後編であることを願います。
14.100名前が無い程度の能力削除
輝夜が働いている姿を想像するだけでかわゆくて良い。
後編もお待ちしております。
15.無評価名前が無い程度の能力削除
後編の期待が否応無く高まります。
此処から綺麗に纏めるのは難しいと思いますが。
16.100白銀狼削除
後編が楽しみです。
支援の意味で百点を。
18.無評価LOS-V削除
後編を投稿したいのですが、どうも文章の一部が規約に引っかかっている? らしく、投稿できません。調整中なので少しだけお待ちを (´・ω・`)
22.100名前が無い程度の能力削除
順風満帆な輝夜と、不穏な永遠亭
続きが気になる
23.80名前が無い程度の能力削除
無事完結されたようなので読みにきました。
ここから中篇、後編とどのように展開していくのかワクワクが止まりません。

ただ、フロム脳を自称する以上は、キャラの呼称にもう少し気を配って貰いたかったものです。
25.90名前が無い程度の能力削除
まず点数だけ
28.90名前が無い程度の能力削除
誤字は気になるが内容はしっかり
31.90名前が無い程度の能力削除
後半期待です