ある日、竹林に筍狩りに行くと、大きな兎が罠に掛かって宙ずりにされていた。
別に、助けてやらない義理もないので助けて下ろしてやると、『きっといいことがあるわ』と言って、感謝の言葉も無しに兎は去って行った。
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それは、空気の渇いた快晴の蒸し暑い日の出来事こと。
全く偶然、私が団子屋の前を通り掛かった時の出来事であった。
一陣の風が吹いた。
「あ」
「え?」
二人分の間抜けな声が響く。
世界の――時の流れが緩やかになる。
刹那が一刻に感じられるほどに……
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嗚呼、なんと美しい光景だろうか。
その光景に私は目を奪われる。
里を駆け抜けるかのように、風が頬を撫でると、私の目の前には夢のような光景が広がっていた。
そう、それはまさに楽園(パラダイス)と呼ぶに相応しい。
呆然と立ち尽くす私の対面で向き合うようにに佇むように、あの紅い館のメイドが立っていた。
おそらく、彼女は主の命令でそこの団子屋に茶菓子でも買いに来たのであろう。
昼間だというのに、珍しく周りには誰もいない。
団子屋の店主も、中に引っ込んだままだ。
その空間には、私と彼女しかいない。
斜陽に煌めく暖かい陽射しが私達を包み込み、彼女の白い肌が更に際立って見える。
煌めく銀髪。
ほんのりと赤らんだ頬。
薄い、桜色の唇。
胸元のリボンが、風に揺らぐ。
血の気が薄い、上質の絹のような美しい肌。
あらわとなった透き通るようなその肌に、ぴっちりと寄り添うような黒いニーソックス。
そして、なによりも私の目を捉え、離れることを許さなかったのはそのさらに奥。
秘密の園。
下着。
肌着。
ショーツ。
所謂パンティと言う布切れがである。
彼女のスカートは、風を受けてひらひらと翻り、その奥をあらわにしていた。
ここで忘れてほしくないのは、これは飽くまで不可抗力で見てしまったもので、故意ではないということだ。
私は悪くない。
そう、私は悪くないのだ。
最高のポジショニング。
私も男だ。
ガン見である。
嗚呼、今正に我が人生の絶頂期。
我が人生に一片の悔い無し。
そりゃもうパンチラの神様に敬礼。
グッジョブ、マイゴッド。
むしろ、グッジョブ、ラビット。
「白」
私はぼそりと声を漏らした。
私は特に視力がいいというわけではないのだが、今この時に限り、私の瞳は千里眼と化している。
私の言葉に、彼女の身体がびくりと硬直した。
下着の中央にはリボンがあしらってあり、その周りには綺麗な刺繍が施されている。
どうやら花のようだが、生憎私は花に詳しいわけではないなんの花なのかまではわからない。
きっと百合とか菊とかそんなところだろう。
白い肌に、より白いその下着が映える。
嗚呼、もしも私が天狗の記者であったのならば、迷う事なくシャッターをきり続けていたことだろう。
このような美しい光景が、しかし、数瞬の後には失われてしまうなど、私には悔しくて仕方がない。
何もすることの出来ない自分の不甲斐なさに、私は自身に怒りを覚える。
いや、何もできないわけではない。
見る。
そして、それを網膜に――脳髄に刻み込む。
そうだ、この瞬間、この世界は私と彼女の世界となった。
私は記憶媒体と化した―――
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『咲夜の世界』
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刹那、楽園は地獄と化した――かと思ったが、どうやらまだ私は楽園にいるようだ。
「動くな」
動けません、動きません。
彼女はその細くすらっと伸びた美しい脚で、私の頭を――
正確には、地にひざまずいた私の側頭部をブーツの底を擦りつけるようにしながら踏み付け、私の鼻先に冷たい凶器をぴたりと突き付けた。
ブーツの底は恐ろしく固いのはご存知だろうか。
勿論、動きたくてもこの体制では動けないし、私はわざわざ自分の余命を削ぐ程マゾではない。
もし、万が一今の状況に興奮を覚えているとしたら、それはけっして私に嗜虐癖があるとかそんな変態的な理由ではなく、先程からあるものがちらちらと視界に入り込んでいるからだ。
まぁ、結局、スカートの中の事なのだが。
あ、はなぢが――
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欲望に忠実なんでしょうかねぇ…。
短かったですけど、面白かったですよ。
しかし咲夜さんの秘密の園は私のもn(ソウルスカルプチュア