Coolier - 新生・東方創想話

年末恒例! 除夜の鐘108連発 in 命連寺2010

2010/12/31 23:55:19
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「除夜の鐘を幻想郷に広めましょう!」

 聖が唐突に提案した。
 年の瀬で色々と忙しい時期ではあるが、私は聖の提案に賛成だ。

「今まで幻想郷に寺院はありませんでしたから。除夜の鐘を撞くという文化もないみたいですねぇ」
「そうなのです。一年を振り返り、来年の四苦八苦を取り除く大事な儀式。――それが幻想郷にはない。……これは由々しき事態です。だから、私たちが広めねば!」

 私も出来る事なら聖の言うとおり、除夜の鐘という文化を幻想郷に広めてみたい。
 最後にあれを行ったのは、もうずっと昔のことだ。久々にあの厳かな雰囲気を味わいたいのはやまやま。
 しかし、それには色々と問題があるのだ。私は聖に指摘する。

「ただ、聖。108回もの鐘を撞く人数が集まりますかね? うちは博麗神社よりは檀家さんも多いですが、それを呼んだって足りやしません。しかも、幻想郷の人々は実利のあるものにしか集まりませんよ」
「……信心は恵みをもたらすものではありません。己の心を鍛えるものです……。といっても、そんな理屈が通じないのも事実ですね。……星、何か良い案はありませんか?」

 聖は真面目すぎる。
 まぁ、私もそれほど頭が柔らかいとは言えないが。……ナズーリンにも良く言われるし。

 だがこの時、私は珍しく、ある妙案を思いついていた。

「それでは聖、こうしましょう。やって来た人に、来年へ向けての抱負を念じてから梵鐘を撞いてもらうのです。そうすると、その祈願が叶う……。そういった触れ込みで人を集めてみては? 願望が叶う、これほど人を惹きつける宣伝文句はありません」
「それでは、まるで神道の初詣ではないですか」
「ええ、剽窃です」
「い、いけません! そんな事をしていては、命連寺の名に傷が……」
「聖、ここは幻想郷です。我ら仏徒も旧来の常識に囚われず、柔軟な対応をすべきです」

 私の説得に、聖はしばらく頭を悩ませていた。
 しかし、最近は寺への客よりも遊覧船への客の方が多いのも事実。それに頭を悩ませる聖は、背に腹は代えられぬと、私に作戦の実行を許可した。

「星、その新しいタイプの除夜の鐘。幻想郷の人や妖怪に、報せに行ってくれますか?」
「お任せください。噂を広めるのには、役に立つ部下がいますから」

 そう言うと私は、寺の仲間たちと一緒に寒空の中を飛び立っていった。




    ◇    ◇    ◇




 大晦日。まもなく新年を迎えようとしている時。
 命連寺の境内には大勢の人間や妖怪が集まっていた。

「……まさか、これほど集まるとは」
「久しぶりに皆で協力して何かをやろうって話だからね。私たちも張り切っちゃった」

 ムラサが手を後ろに組みながらニッコリと笑った。

 24日に催した遊覧船ツアーでの宣伝も大きかったのだろう。
 まぁ、あのツアー。一緒に乗り込んだ聖が、何故か張り切って読経するので客は参っていたようだが。

「さて、そろそろ始めましょうか」
「そうですね。それでは聖。最初は貴方から……」
「いいえ。私は後にします。最初の一撞きは、発案者である貴方がやってください。星」

 聖に背中を押され、梵鐘の前に立たされる。
 あれほどザワザワとして、何とお酒まで飲んで騒いでいた皆がシンと静まり返る。
 その、まるで法界のような静けさに、私は心の臓が引き締まる思いをした。

 どうやら私がやるしかないようだ。
 目の前に垂れ下がる撞木の縄を軽く握り、咳払いを一つする。

「……それでは、ただいまより命連寺。除夜の鐘を……」

 と、私が厳かに始まりの挨拶をしようとした時。

 何故か一輪が私の前に躍り出た。
 その手には、マイク。スピーカーは、雲山。

「さぁー! みなさん! ただいまよりぃ~年・末・恒・例! 命連寺主催! 除夜の鐘108連発を始めたいと思いまーす!!」

 そのハイトーンボイスに、境内のオーディエンスは湧いた。

「恒例じゃねーぞー!」「初めてじゃねーかー!」という酔っ払いの叫びを聞きながら、一輪は続ける。

「さぁ、今年はダメダメだった貴方も、ハッピーだった貴方も、そんなものは除夜の鐘の音色と一緒にぶっ飛ばしてぇ! 来年への抱負を叫びましょー!!」

 私は口をあんぐりと開け、撞木の縄を握ったままで固まっていた。
 見れば聖や仲間たちは満面の笑みだ。

「それでは今夜のオープニング梵鐘を鳴らしてくれるのはぁ、この人だ! とぉらまるぅぅぅうぅううう、しょぉぉおおおおお!」

 境内が、爆発した様な歓声と熱気に包まれた。
 名前をコールされた私は自分の顔が熱くなるのを感じながら、一輪へと抗議の視線を送る。

「どどどど、どういうことですか一輪!」
「ほらほら、早く! 年を越す前に107回撞かなきゃいけないんだから」

 一輪にひそひそと急かされ、私は咳払いを一つする。
 仕方がない。本来はこのように盛り上がる儀式ではないはずだが、最初の鐘撞きは私がやらねばならないようだ。

 そして、合唱。

「ら、来年も……。聖と命連寺の仲間が、健やかでありますように……」

――ゴォォオーーーン………

 1発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。




    ◇    ◇    ◇




「来年は雲山よりも目立てますように……。あと来年の除夜の鐘も盛り上がりますように……」

――ゴォォオーーーン………

 2発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「……来年は一輪のMC(マイク・パフォーマンス)技術が、もっと皆に知ってもらえますように……だって。ありがとう、雲山!」

――ゴォォオーーーン………

 3発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年も観覧船で皆が楽しんでくれますように~。私も船長としての職は失いたくないからねっ」

――ゴォォオーーーン………

 4発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「やった! 寺の連中以外で一番乗りだぜ! ……え? 来年のお願い? ……え~、じゃあ、来年も一番乗りになれますように……っと」

――ゴォォオーーーン………

 5発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あ、咲夜さん! 場所取りとか駄目みたいです。一度列から外れたら並び直しとかで……ええ、はい、すいません。じゃあ、お先に……。……来年も、紅魔館が恐ろしく、平和でありますように」

――ゴォォオーーーン………

 6発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年こそ……が完成しますように。……う、重いわね、この撞木……」

――ゴォォオーーーン………

 7発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あれ~、二人とも何処にいったのかしら? まっ、いっか。来年も私たちのコンサートが大盛況でありますように~!」

――ゴォォオーーーン………

 8発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年も依然変りなく、あたいが最強でありますように」

――ゴォォオーーーン………

 9発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「」

――ゴォォオーーーン………

 10発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「えっ!? あっ、何なに!? チルノちゃん、今2回鳴らさなかった!? え~、っと。と、とりあえず……。来年も楽しい悪戯が出来ますように……」

――ゴォォオーーーン………

 11発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふ、ふはははは! やったわ! 文の奴に勝ったわ! 来年もこの調子であいつに勝ちまくれますようにー!」

――ゴォォオーーーン………

 12発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふぃ~。呑んだのんだ……。まさか、ここには閻魔様もこないでしょうねぇ……。来年もお仕事頑張れますようにっと」

――ゴォォオーーーン………

 13発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年こそは人形解放よ! え? 人形供養!? や、やめてよ!!」

――ゴォォオーーーン………

 14発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「……来年は、死神が、まともに仕事を、しますように……。小町ぃぃぃぃいい!!! あなた、この大事な時に何をしているのですか!」

――ゴォォオーーーン………

 15発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年は永遠亭のみんなが、病気も怪我もなく、幸せで暮らせますように」

――ゴォォオーーーン………

 16発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年は……って、いったあああああああ!? なんで、なんで鐘の前にトラバサミが……!? うぅ、来年はお師匠様に少しは認めてもらえますように、あいたたた……」

――ゴォォオーーーン………

 17発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年も、今までと変わらず……。いえ、少しは変わった年になって欲しいわね。まぁ、当面は死なない人間で遊びますか」

――ゴォォオーーーン………

 18発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「姫様が来年も健やかでいますように。あとウドンゲが少しは成長しますように」

――ゴォォオーーーン………

 19発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あ、一歩遅かったみたいですねぇ。いや、ちょっとは狙っていたんですけどね。永遠亭のみなさんが集団で並ぶものですから……。え? いや総領娘様には関係のない話です。来年も沢山の地震警報を出せますようにっと」

――ゴォォオーーーン………

 20発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年は私もすっごい異変を起こせますように。いや、解決する方をやるのも楽しいかも知れないわねぇ。そっちに備えてファンネルの精度を上げておこうかしら」

――ゴォォオーーーン………

 21発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あれ、さっき鐘を撞いてたのは姉さんかな? ひどいよ、置いて行くなんてさぁ。……とりあえず、来年は私たちの幻想郷ツアーをやりたいなぁ。このお寺でもやっちゃおうかしら」

――ゴォォオーーーン………

 22発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「いやぁ、絶好調だわ。今なら本当に黒幕になれるかも。寒気をお寺から避けてあげて感謝されるし、ちょっといい気分ねぇ。来年は冷夏でありますように~」

――ゴォォオーーーン………

 23発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「随分と長い間、休業していたけど、来年からは仕事を再開するわよ。手始めにタレコミのあった窃盗犯について捜査を開始しようかしら。うーん、なんとなくだけど5番目に鐘を撞いた奴が怪しいわね。ちょっと話を聞こうかしら」

――ゴォォオーーーン………

 24発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あれぇ、幽香様がいないんだけどぉ。それに大きな鎌もってる人とキャラ被りなんて聞いてないわよ。なんかあっちの鎌は説教されてるし、私まで恥ずかしいわ。……しかたないじゃない、しかたないじゃない。……来年は幽香様が戻って来ますように」

――ゴォォオーーーン………

 25発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「なんか去年は期待はずれだったし、今年も駄目だったし。どうもチャンスが巡ってこないね。まぁ魔理沙の奴が活躍するのを、陰から観察するのも楽しいけどね」

――ゴォォオーーーン………

 26発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。




    ◇    ◇    ◇




「さぁさぁ! あと半分を切ったよー! まだまだ、盛り上がっていこぉー!」
「おぉぉおお!!」

 どんなテンションだ。
 と思いつつも、私は自分が笑顔になっている事に気づいた。

 こうして、また皆で年を越せる日が来るとは……。
 私は改めて、その奇跡に感謝する。




    ◇    ◇    ◇




「後半のスタートで、まさかの私! どうだ、驚いたか~!! …………。来年こそは、人間を驚かせますように……」

――ゴォォオーーーン………

 55発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「……来年は、この大晦日が終わろうとしている時にまで、御主人が宝塔を無くすような事態に陥らない事を祈るよ……」

――ゴォォオーーーン………

 56発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「お、あたいらの出番ですよ。変装してまで来た甲斐がありました。来年は良い死体になりそうな人間が、たっくさん死にますように」

――ゴォォオーーーン………

 57発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「さとり様~。私の制御棒で撞いちゃいけないんですかね? あ、いけない。分かりました。そ~れ」

――ゴォォオーーーン………

 58発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「こら、お忍びで来てるんですから名前を呼ぶのじゃありません。……あの子もいなくなるし……能力を悪用して、割り込みなんかしてなきゃいいけど……。ふぅ、来年はペットと妹が少しは落ち着きを持ちますように」

――ゴォォオーーーン………

 59発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年も悪戯が大成功しますように! あ、ねぇねぇルナ。鐘の音を消したら皆ビックリするんじゃないかしら? いくわよ、せーっの!」

――………

 60発目の深い音色は、響かなかった。

「ちょ、スター、ヤバい。お坊さんたちがこっち睨んでる。こ、こうなったら、さっさと鐘を撞いて姿を消すわよ! えー、来年こそは妖精が幻想郷を支配出来ますようにっ」

――ゴォォオーーーン………

 61発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「私は悪くない。私は言われてやっただけよ。私に罪はない。……あ、もう二人が消えてる! ら、来年は良いコーヒー豆が手に入りますようにっ!」

――ゴォォオーーーン………

 62発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「むむむ。前の3人は中々やるわねぇ。よし、私も正体不明の種で梵鐘を……。あだだだだ! 分かったわよ星、悪戯しないって! 来年からは、また正体不明になってぇ、みんながビビリますように~」

――ゴォォオーーーン………

 63発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「うーん、去年は色々と惜しかった気がするのよねぇ。今年も相変わらずだったし……。来年こそは私のキックが活躍する場所があればなぁ」

――ゴォォオーーーン………

 64発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「いやぁ。久々に地上に出たら、面白そうな事をやってるじゃないかい。こりゃ、私も参加しなきゃ。来年は地底と地上の皆で、一緒にお祭りが出来るようになるといいねぇ。……そういやキスメちゃんを見ないね? 水橋も迷子になってるし、参ったまいった」

――ゴォォオーーーン………

 65発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「魔理沙の奴、私を置いてすっ飛んでいっちゃうんだもんなぁ。やれやれ、困ったもんだよ。……来年は、常温核融合が成功しますように~。おっ、七色の魔法使い! 何を祈ったんだい? え、教えてくれてもいいじゃん」

――ゴォォオーーーン………

 66発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「幽々子様、これ、鐘撞いた瞬間に半霊が成仏したりしないですよね? 本当ですね? ……来年は心の迷いも断てるような剣を磨けるように、精進します」

――ゴォォオーーーン………

 67発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「そうねぇ。来年は、もう一回だけ西行妖を咲かせるのにチャレンジしようかしら? まぁ、とにかく面白い年になれば良いわね。あとは干支にちなんで兎鍋がブームにならないかしら」

――ゴォォオーーーン………

 68発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「幽々子、悪いことは言わないから、桜咲かすのはやめておきなさい。え~っと。来年は、ほどほどに異変が起きますように。それはそうと霊夢みなかった? いないのよねぇ」

――ゴォォオーーーン………

 69発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「え? 先にいいんですか? ありがとうございます。それじゃあ、来年こそは私が猫の頂点に立てますように……。そういえばさっき、猫っぽいのがいたわね……。藍様、ちょっと勝負しにいってきます!」

――ゴォォオーーーン………

 70発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「気をつけてな。あぁ、後ろの方々、急に空間を切り開いて割り込みして、すみませんね。来年は3人とも変りなく過ごせますように。あと油揚げが最近、値上げしてるので安くなりますように」

――ゴォォオーーーン………

 71発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「くっ、神様である私たちの前に割り込むとは、いい度胸ね。でも寛大な心で許してあげるわ……! 来年の秋も豊かな祈りをもたらせますように」

――ゴォォオーーーン………

 72発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「神様が祈るっていうのも、おかしな話ねぇ。来年の秋も彩り美しく、優雅な紅葉でありますように」

――ゴォォオーーーン………

 73発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「大晦日ですよ~」

――ゴォォオーーーン………

 74発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あ~、やっと順番が来たわね。レミィが門番に任せて、あっちでお酒を飲んでいたせいよ。……来年も私の知識で紅魔館を支えられますように。あと本がいくらかでも返ってきますように」

――ゴォォオーーーン………

 75発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「なに、パチェ!? 私が悪いっていうの!? 一番最初に列を飛び出したのはフランドールよ、そこからなし崩し的に魔理沙と呑んでただけじゃない。というわけで、来年はこいつが大人しくなりますように」

――ゴォォオーーーン………

 76発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あらあら、お姉さまったら青筋立ててみっともないですわ。レディらしく厳かに異文化へ触れなくては。……来年こそは、お姉さまがくたばりますように」

――ゴォォオーーーン………

 77発目の深い音色と弾幕の爆音が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年じゃなくて、今。お二人の喧嘩が止まりますように……。それでは失礼」

――ゴォォオーーーン………

 78発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「え、っと。あの~。魔法使いの人が、盗んでいった本。早く返して欲しいですね。年末の大掃除が捗らなかったので……」

――ゴォォオーーーン………

 79発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「もぅす~こし、す~る~と~、はーつひーの~で~。おしょうがつには~屋台きて~、や~つめ鰻を食べましょお~、は~や~くぅ来~い来ーい、獲物~ども~」

――ゴォォオーーーン………

 80発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「しばらく見ないうちに、仲間が増えたのねぇ。しかも楽団ですって? 私も入れてもらおうかしら。ん~、来年はまた色々な人と戦いたいなぁ」

――ゴォォオーーーン………

 81発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふむ。心なしか周りが女性ばかりだな。なんだか浮いている気がする。来年は、そうだな。なんだか今年は達成感があったし、今まで通りの年でいいや」

――ゴォォオーーーン………

 82発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年は新しいリボンが欲しいな~。でも、これ取れないんだよね」

――ゴォォオーーーン………

 83発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「アリスちゃん見なかった? おかしいわねぇ、もう鐘は撞いてしまったのかしら。見逃したわ。あ、聖ちゃん! 久しぶり~。遊びに来ちゃった~! え、来年? アリスちゃんに頑張って欲しいわね」

――ゴォォオーーーン………

 84発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「神綺様、目立ちすぎです……。あくまでも私たちはお忍びなんですから……。それにしても、あそこで暴れてる連中……、他人のように思えないですね。来年? 私もこっちに留学しようかしら。メイドの需要はあるみたいだし」

――ゴォォオーーーン………

 85発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「前に並んでいた連中……。どこからやって来た? ……ふぅ、間欠泉の怨霊といい、近頃は居てはいけないものが巷に溢れすぎですね。来年は私も仙人としての役割を果たさなければならないようです」

――ゴォォオーーーン………

 86発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「うぃ~。呑んでるかぁ? 呑んでるよぉ。うぅ、ふらふらする。流石に呑み過ぎたかねぇ。目の前に昔の仲間が見える……。こりゃ呑み過ぎだぁ。来年も呑めますようにぃ」

――ゴォォオーーーン………

 87発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「やれやれ、鬼の癖になんて体たらくだい。まぁ、今年の酒は今年のうちに呑み干すっていう目標を達成したのは流石だけどさ。……っと、あまり目立ってもマズイね。来年も、どんちゃん騒ぎ出来ますようにっと。さぁて、あそこの連中を見習って、私も強そうなのと喧嘩しようかねぇ」

――ゴォォオーーーン………

 88発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「うぐ……。これは、ものすごい厄……じゃなくて酒の臭いだわ……。私、駄目なのよ……。ら、来年も人間たちから厄が沢山集まりますように」

――ゴォォオーーーン………

 89発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふぅ、こんな夜中まで起きているのは久しぶりですね。しかし、この一大事は是非、この目に見て幻想郷縁起にまとめなければ。願い事、そうですねぇ。……来年は……来年も、生きていられますように」

――ゴォォオーーーン………

 90発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「お姉様……。何故に私が、地上まで来て鐘を撞かなければならないのですか……。来年? そうですね、未来永劫、月の都の永遠なる栄華を願います」

――ゴォォオーーーン………

 91発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「地上の視察といったじゃない。それに八意様を一目見たいと言ったのは貴方じゃなくて? え、願い? うーん、そうねぇ。来年はレイセンが依姫に懐きますように」

――ゴォォオーーーン………

 92発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふぅ。なんだか疼くわねぇ。今宵は懐かしい香りがする。久々に妖怪いじめでもしようかしら? ふふふ。来年は向日葵が咲くように、暖かな夏になって欲しいわね」

――ゴォォオーーーン………

 93発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「……なんで、この世界にはメイドが多いのかしら。キャラ被ってるじゃない。まぁ、私のは姉さんの趣味だけどさぁ。……来年はマトモな格好になりたいなぁ」

――ゴォォオーーーン………

 94発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「知った顔にも会ったし、良い暇つぶしになったわね? 夢月。あの二人にもリベンジ出来れば嬉しいんだけど……人が多すぎて見つけられないわ」

――ゴォォオーーーン………

 95発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あぁ、二人に置いて行かれてしまった……。もう鐘は撞いたのかな……? ……来年も私たちのユニゾンが、幻想郷を楽しませることが出来るように……」

――ゴォォオーーーン………

 96発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「来年も妖怪の山が、天狗の天下でありますように。……あと、にとりに勝ち越したいな。将棋」

――ゴォォオーーーン………

 97発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「うーん、と。来年は地上に出て、もっと人間を食べられるようになりたいなぁ」

――ゴォォオーーーン………

 98発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あー、もう。なんで私が99番目なのよ。縁起でもないわねぇ。それもこれも、迷子になった釣瓶落としなんか探してたせいじゃないの。あいつを99番目にしてやれば良かったわ。来年は皆、私よりも不幸になれば良い。あー、楽しそうに宴会なんかしちゃって」

――ゴォォオーーーン………

 99発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「えぇ!? ちょっとメリー? どういう事? 気付いたら私たち、除夜の鐘に参列してるわよ?? とりあえず、鳴らしましょうか」

――ゴォォオーーーン………

 100発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「記念すべき100発目らしいわよ、おめでとう。大晦日まで活動していた甲斐があったわね。ところで、ここはどこなのかしら? 来年の抱負? 卒論を頑張るわ」

――ゴォォオーーーン………

 101発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふぅむ。前の二人の女の子、鐘を撞くと同時にどこかへ消え去っていったわね。魔法使いの僧侶がいると聞いて飛んできたのだけれど、やはりこの世界は素晴らしいわ。来年はもう一度くらい、この世界で活躍したいわね」

――ゴォォオーーーン………

 102発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「あのさ、前の二人も大概だけど、私たちだって別の世界から来たんだぜ。あんまり長居するとマズい事になる気が……。まぁ、来年もよろしくな」

――ゴォォオーーーン………

 103発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「なんだか妙な連中の前に並んでしまいましたね。……さて、来年の願いですか。妹紅はどうしますか? え、自分で決めろって? それもそうですね。私は人間の里の安寧を願いましょうか」

――ゴォォオーーーン………

 104発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「そうだなぁ、私も里の平和でも願おうかしら。同じ所に住んでいる連中は、死んでも死なないんでね。後は慧音が健康でいてくれれば文句ないわ」

――ゴォォオーーーン………

 105発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「ふっふっふ。常識に囚われず神社の風祝なのに除夜の鐘を撞きに来ましたよ! 来年も私が活躍できるように願いたいですね。あと、みなさん! 初詣は是非、妖怪の山にある守矢神社にお越し下さ~い!」

――ゴォォオーーーン………

 106発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「やれやれ。早ければ良いというものじゃないのよねぇ。おっと、私は【文々。新聞】の文責である射命丸文です。私は幻想郷初の除夜の鐘イベントを取材しに来たんですよ。列に並んでちゃ、良い取材は出来ませんからねぇ。あぁ、そんな事も分からない素人記者が紛れ込んでいたようですが。私ですか? 私はもう取材が終わったので、せっかくだから鐘を撞かせてもらいたくてですね……。それでは早速。……来年は、私の新聞も購読者数上位を狙いますよー!」

――ゴォォオーーーン………

 107発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。

「さて、いよいよ今年も終わりです。本日は除夜の鐘を撞きに、大勢の方に集まって頂き感謝しております。最後の一撞きは、この聖白蓮が務めさせていただきます。それでは。――この幻想郷に住む全ての人間と妖怪、ありとあらゆる生き物が、来年も幸せでありますように」

――ゴォォオーーーン………

 108発目の深い音色が、夜の空へと吸い込まれていった。




    ◇    ◇    ◇




「明けましてぇぇぇ、おめでとぉおおおおおおおう!」

 歓声は自然に沸き起こった。

 私たちは普段、静かに年越しをするものだから、その狂乱ぶりには少したじろいでしまう。
 そんな私に向かって、聖が笑顔で言う。

「さ、私たちも祝いましょう。新しい年の始まりを」

 だから私は笑い、そして駆けた。
 一輪の握っていたマイクを奪い取ると、酒瓶と猪口の舞う境内に向けて叫ぶ。

「はっぴーにゅーいやーです! 今年はうさぎ年ですよぉ!」
「いぇえええいい!」「う・さ・ぎ! う・さ・ぎ!」「朝まで呑むぞぉぉぉ!」

 私が叫ぶと、なぜか竹林の兎たちが胴上げされ始めた。
 その中でも、因幡てゐは笑顔で、鈴仙イナバは泣きっ面で空高く舞い上がっているのが目立つ。

 去年も除夜の鐘を撞いていたなら、寅である私が胴上げされていたのだろうか?
 そう考えると、兎たちが少し羨ましくもあった。

「おい寅や。呑め、のめ」

 続いて、いつの間にか近寄ってきた白黒の魔法使いが、赤い顔で私に般若湯を渡してきた。
 私はそれに口をつける。懐かしい味が喉を焼くように通っていった。

「どうだ、美味いだろう?」

 酒精を含んだ息を大きく吐き、私はもう一回マイクに向かって叫ぶ。

「さぁ! 朝まで騒ぎましょう!」

 私の一声で、命連寺は更に盛り上がった気がした。

 これでいいんだろうか? 流石に寺として、どうなんだろう。

 聖は笑っている。ナズーリンは呆れていた。
 ムラサは麦酒を片手に歓談している。一輪と雲山は返ってきたマイクで叫び始める。

 じゃあ、これでいいじゃないか。

 こうして、新しい年は騒がしくも楽しく始まったのである。




    ◇    ◇    ◇




「……おかしい」

 二柱の神は呟いた。

「誰も初詣に来ない」

 同時刻、異なる場所で、巫女も呟いた。
明けましておめでとうございます。

一発ネタです。もう誰かがやったんじゃないかと思いますが、ネタ被りは恐れずにいきました。

それでは、今年もよろしくお願いします。
yunta
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明けましておめでとう御座います!!
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あけましておめでとうございます。
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あけましておめでとうございます。
早苗さん……w
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神社勢w
19.100名前が無い程度の能力削除
あけましておめでとー!
ルナチャ乙www
20.100名前が無い程度の能力削除
阿求さんマジ切ねえ
22.100幻想削除
遅ればせながら、おけましておめでとうございます。