「文、助けて!私のツインテが見たことのないグロテスクなものに!」
そう叫び飛び込んできたはたての頭には、立派なタコの足が2本くっ付いていた。
びちびち。
「え、なにこれ、え」
この射命丸、天狗として生きて約千年。
ありとあらゆる怪事に出くわした私だったが、かつてここまで奇妙な出来事に遭遇したことがあるだろうかいやない。
その証拠に私の右手はカメラをつかんで離さない。
ぱしゃー。
「ちょ、なに撮ってんのよ!」
「むしろ撮らずにいられますか!」
「無理ね!私も今朝撮ったから!」
同意いただけたようで何より。
「で、なんでそんな面白気持ち悪いことになってるんですか」
「こっちが知りたいわよ。朝起きたらすでにこんなんだったし。重いしジメッとしてるしいろんなとこに張り付くしでもうサイアク」
「タコですからね」
「そのタコってなんなのよ。私、知らないんだけど」
タコ。蛸。
八腕目に該当する生物の一般的な呼び名。
上から胴体、頭、足という奇妙な体の構成となっており、頭部分から足が生えているため、イカとともに頭足類とも呼ばれる。
足は八本存在しそこにはびっしりと吸盤がついており、これを用いて移動や壁への張り付き、食物の捕獲などを行う。
「詳しい解説どうも。写真探したけどけっこうグロいのね」
どうも。そして写真調べるんなら最初からそうしてくれませんかはたてさん。
「で、結局どうすれば治るのよ、これ」
「さあ・・・」
「さあ、じゃなくてさ」
「いや、実際わかりません。私犯人じゃないですし。竹林の薬屋も黙って首を横に振るレベルでしょうね」
「手遅れ!?」
ある意味手遅れね。
「ただ、まあ。治る可能性がないわけでもないですが」
「本当!?教えてください私頑張りますからどんなきついこともやり遂げますから私に明日をください射命丸先生!」
「誰が先生か」
ええいくっつくなうっとうしいあんた私より胸あんだよ自慢してんのか私の十分の一しか生きてないってのに理不尽じゃありませんかああこれが胸囲の格差社会ってやつですかいいことばですね無意味ですがてか密着したせいでタコ足が私にからみついて気持ち悪いちょちょ力入ってる頭かち割られるあこれヤバイ冗談抜きでヤバイちょちょちょちょちょああああああもう!
「うがあああああああああああ!」
「アゴ!?」
密着状態からのアッパー。
クリーンヒットで昏倒、試合続行不可能である。
「落ち着きましたか?」
「うん落ち着いた。ありがと、文」
本当でしょうか。あなたの頭の両側についてるタコさんは未だにびちびちと活きがいいんですが。
「ほんと、どうなってるんでしょうか、それ」
「だから私にもわかんないんだってば。感覚ないし私の意思じゃないし、そもそも私の自慢のキューティクルツインテがなんでこんなグロテスクテンタクルに!」
「だからって私にキレないでください」
キレられても見捨てるしかないので。
てかさっきから話題それすぎですね、真面目に相談する気あるんでしょうかこの新米さんは。
「で、さっき話した可能性ですが」
「は、はい」
私の言葉に思わず正座するはたて。よい心がけです、教えを乞うからには誠意を見せて頂かねば。
「まずそのタコを切り落としましょう」
「いやそれ割と最終手段じゃない!?」
すぐさま触手ツインテを抱きかかえ壁際四隅まで後ずさり。
その反応は予想外ですよ、はたてさん。
「なにあんた!?それが本当に仮にも人の頭にくっついてる物をどうにかするときに出す提案なの!?
ほら生ものなのよ!?動いてるのよ!?ビチビチなのよ!?切り落としたら何が起こるか分かったもんじゃないわよ!?」
「起こるも何も、そいつ切り落とせば大方決着はつくでしょう」
「つくけど!つくかもしれないけど!血みどろの未来も見えるのよ!」
ふむ、確かに付け根の部分がリボンで隠れててどうなってるのかわからないけど、万が一肉々しさと動物性繊維が融合していたら血みどろの結末もさもありなんですね。
もし本当にそうなってるのを見たら正気度減りそうなんで絶対に確認しませんけど。
「ですが、それ以外に方法はないとも思うのですよ。はたてもどうすればいいか分からないから私のもとに来たのでしょう?」
「うぅ、そうだけどさ。例えばほら、アンタの知り合いを紹介するとか」
「それ間接的に私のこと全く信用してませんよね」
なんで私に相談しておきながら他の人に頼るとか出てくるんですか。
「で、でもさ!アンタ竹林の薬屋ともパイプ持ってたじゃない?ちょっと口きいてくれないかなー、なんて・・・」
「それでOK出すと思ってるなら怒りますよ、ほんと」
「冗談ですすいません真面目に考えます」
まあ永琳さんに任せたら、それこそ問答無用で切り落としにかかると思いますけどね。
あの人こういうことには興味津々ですし、勢いで解剖とかやっちゃいそうです。
で、それっきり黙りっぱなしですが何か思い浮かびませんかはたてさん。
こっちとしてはそろそろ活きのいいツインテ見守るのも飽きてきましたし面倒くさいんでさっさと切り落としてしまいたいんですがね。
荒ぶるタコ足への威嚇代わりに護身用の短刀でも砥いでおきましょうか。魚包丁を取りに台所に行くことすら面倒くさい。
あ、それシャリン、シャリン。シャリン、シャリン、と。
「・・・アノ、アヤサン?」
「ああ、気にしないでいいですよ。こっちはこっちで準備しているだけなので、どうぞゆっくり考えてください」
「無理に決まってるでしょ!?そんな『今すぐ決めないと斬る』みたいなことされてて無視できるのは大天狗様ぐらいのものよ!」
わからんでもない。
はたての言う大天狗様にも心当たりはある。あの人は単に骨董の刃物が大好きっていうのもあるのですがね。
いつ部屋をお訪ねしても、基本刃物の手入れしてますから、あの人にとっちゃ日常と化してるだけですって。
訪ねるたびに試し切りの相談されて背筋の凍る思いしますけど、真っ当かつ真っ直ぐな良いお方ですよ。
きっと。
ですが、そうですねえ。私、恥ずかしながら我慢強い方ではないので、これ以上長引かれるとそろそろストレスたまってきちゃうかもしれませんねぇ。
ぐるんぐるん回ってるオクトパスを牽制するのも飽きましたし。
というか、どんどんアクロバティックになるタコさんをこれ以上放っておくと、さすがに私の部屋に被害が出かねないのですが。
特にわたしなんて頭締め砕かれかけましたし、保身のためにもさっさと決着をつけたいですね・・・
「ねぇ?はたてさん」
「何が『ねぇ?』なの!?
ああもう分かったわよ!確かに他に方法なんて思いつかないし、腹ぁくくってやるわよ!一思いにやっちゃいなさい文!」
「ご決断頂けたようで何より」
いやいや、ここまで来るのに長かった。最後はなかなか男らしかったですよ、あなたは女ですがね。
「一応フォローしておきますが、いくら正体不明のタコ足だと言っても、元はおそらくあなたの髪なのですから切り落としても命に別状はないと思いますよ」
「・・・できれば最初に言ってほしかったなぁ、それ」
「言う前にドン引きと拒否のコンボ決めたじゃないですか」
「うん、そうだったごめん。でもいきなりぶった切るなんて言われて警戒しない奴もいないと思うの」
仰る通りで。
「さて、そろそろ心の準備はいいですか?」
「も、もうちょい待って」
緊張するのか、正座した状態で吸って吐いての深呼吸を繰り返すはたて。
そんな彼女を今か今かと短刀片手に待っている私。
傍から見たら介錯の現場と勘違いされそうですね、今更ながらここが自宅でよかったです。
「・・・よし、いいわ」
「では、いきます。くれぐれも頭は動かさないように」
「了解、丁寧に頼むわ」
眼を閉じ、来るであろう未来に耐える準備を終えたことを確認して、私はタコ足ツインテの片方を手に取る。
掴まれたタコ足は命の危険でも感じ取ったのか、私の手から逃れようと今までで一番力強く暴れまわる。
だが、天狗の力を舐めないでもらいたいものですね、いくら暴れようとも私がつかんだ場所はびくともしません。
おかげで付け根の部分は丸わかり、これなら切り落とすのも非常にたやすい。
まあ先端の方は自由なので、さっきから腕にからみついたり顔にあたったりしてますが。
気持ち悪い上に鬱陶しいのでさっさと終わらせてしまいましょう。
「あ、それ」
はたての頭にくっついたタコ足を、頭側の髪の毛の部分からリボンごと落とす。
間髪入れずに残った側のタコも引っ掴み、面倒なことになる前に切り落としてしまう。
後に残ったのはチャームポイントのツインテールを失ったはたてと、そのツインテが変化したと思われる、我が家の床で跳ね回る二本の元気なタコ足さん。
「終わりましたよ、はたて。どこか変なところはありますか?」
「・・・ん、大丈夫。ありがと、文」
「それはよかった」
いやほんと、安心しました。なにしろはたての頭と結合している可能性だって無きにしも非ずだったんですから。
いくらネタに飢えているからと言っても、そんな血なまぐさくなるようなネタはさすがに勘弁願いたいものです。
「あーあ、わたしのトレードマークが・・・」
「いいじゃないですか、ベリーショートもかわいいですよ。活発な感じがします」
「フォローどうも。はぁ、伸びるまではイメチェンと割り切ってしまおうっと」
それがいいです。というかあなたはイメージだけじゃなくて実際に外に出てきなさい。
そんなんだからいざというときに私に頼るしか方法がなくなるんですよ、まったく。
それにしても元気ですね、このタコ。
本体から切り落としたというのにまだまだビチビチと暴れたりないようですよ。
私の部屋を荒らしてくれて、どうしてくれよう。
・・・海産物なんていつ以来でしょうかね。
「はたて、このタコ足、頂いてもいいですか?」
「んー?私はもういらないからいいけど、どうすんの?まさかあんたがつけんの?」
「まさか。久しぶりの海の幸なので料理してみようかと思いまして」
「えっ」
私の言葉に凍りつくはたて、そのまま後ずさりで恐怖の部屋の隅。
「食べるの?それを?自分でいうのもなんだけど、私の頭にくっついてた得体のしれないものなのよ?」
「それはその通りですが。ですがこいつには厄介ごと持ち込んだ元凶として責任を取ってもらいたいですし、本当にタコなら味も保障できますし。
なによりタコと言えばタコ焼き、無性に食べたくて仕方なくなってしまったので」
言いつつも目線はタコの足。
心なしかわたしを恐れているような気さえします。ほんと、どこで関知してるんでしょう。リボンの裏?
「・・・はあ、いいわ。私も疲れたし、どうでも好きにして」
「どうも。ではちゃちゃっと作ってきます」
それでは飼い主?の許可ももらいましたのでさっさと行きましょう。
もしおいしければ万々歳、万が一美味しくなくても問題ないのです。
その時は主もろとも記事にさせて頂きますからね、ふふ。
「あ、おいしい」
「ほんとですね、そこらのお祭りで良く売っていそうな味です。
はたての頭についていたものでしたから、もっと陰湿な味をイメージしていたのですが」
「どういう意味だこら」
言葉通りの意味ですよはたてさん。
それにしても本当に意外。タコ焼きの材料なんて都合よくそろっているはずもなかったので、タネで包み焼いてたれをかけただけの、ほとんど素焼きに近いものなのですが。
やはり久しぶりに食べたということも作用しているのでしょうか。こうなってくるといよいよ海の幸が恋しくなりますね、今となっては叶わぬ夢ですが。
それとも紫さんに持ちかけてみましょうか。海産物というだけで幻想郷では話題性がありますし、うまくいけば私のおなかと文花帖が同時に満たされるやもしれません。
むむむ、一考の価値ありですね。
「・・・でもこれ、私の頭にくっついてたのよね・・・」
せっかくのおいしいおやつなのに、そういう気落ちすること言わないでくれますか。
別に共食いというわけでもないでしょうに。
・・・え、ないですよね?
「ま、とにかくありがと。一応感謝してるわ」
「あやや、そう思うならもう少ししっかりしてほしいですね。主に外に出てコネをつくるとか」
「ん、考えとく」
あらら、傷心のようで。茶化したつもりなのですが乗ってこないとは、張り合いのない。
まあ、本人が反省しているようなので、黙っておきますか。
これ以上の追撃はお互いにとっても得はないですし、この6個入り400円レベルのタコ焼きとともに飲み込んでしまいましょう。
うん、美味い。
次の日。
「なんかまた生えてきたああああああああああああ!!」
再びタコの触手を生やしたはたてに泣きつかれた。
どおしよどおしよとマジ泣きするはたてをよそに、私はふと思い出した。
そういえば、タコの足の再生力は吸血鬼にも劣らなかったっけなあ、と。
以降、切っては生え、切っては生えを繰り返すはたてのタコツインテだったが、はたてが限界寸前になり自分でタコ足を切り落としてからは不思議なことに二度と生えることはなかった。
ちなみに、それまでタコ料理が定期的に食卓へ上ったのは言うまでもないことである。
そう叫び飛び込んできたはたての頭には、立派なタコの足が2本くっ付いていた。
びちびち。
「え、なにこれ、え」
この射命丸、天狗として生きて約千年。
ありとあらゆる怪事に出くわした私だったが、かつてここまで奇妙な出来事に遭遇したことがあるだろうかいやない。
その証拠に私の右手はカメラをつかんで離さない。
ぱしゃー。
「ちょ、なに撮ってんのよ!」
「むしろ撮らずにいられますか!」
「無理ね!私も今朝撮ったから!」
同意いただけたようで何より。
「で、なんでそんな面白気持ち悪いことになってるんですか」
「こっちが知りたいわよ。朝起きたらすでにこんなんだったし。重いしジメッとしてるしいろんなとこに張り付くしでもうサイアク」
「タコですからね」
「そのタコってなんなのよ。私、知らないんだけど」
タコ。蛸。
八腕目に該当する生物の一般的な呼び名。
上から胴体、頭、足という奇妙な体の構成となっており、頭部分から足が生えているため、イカとともに頭足類とも呼ばれる。
足は八本存在しそこにはびっしりと吸盤がついており、これを用いて移動や壁への張り付き、食物の捕獲などを行う。
「詳しい解説どうも。写真探したけどけっこうグロいのね」
どうも。そして写真調べるんなら最初からそうしてくれませんかはたてさん。
「で、結局どうすれば治るのよ、これ」
「さあ・・・」
「さあ、じゃなくてさ」
「いや、実際わかりません。私犯人じゃないですし。竹林の薬屋も黙って首を横に振るレベルでしょうね」
「手遅れ!?」
ある意味手遅れね。
「ただ、まあ。治る可能性がないわけでもないですが」
「本当!?教えてください私頑張りますからどんなきついこともやり遂げますから私に明日をください射命丸先生!」
「誰が先生か」
ええいくっつくなうっとうしいあんた私より胸あんだよ自慢してんのか私の十分の一しか生きてないってのに理不尽じゃありませんかああこれが胸囲の格差社会ってやつですかいいことばですね無意味ですがてか密着したせいでタコ足が私にからみついて気持ち悪いちょちょ力入ってる頭かち割られるあこれヤバイ冗談抜きでヤバイちょちょちょちょちょああああああもう!
「うがあああああああああああ!」
「アゴ!?」
密着状態からのアッパー。
クリーンヒットで昏倒、試合続行不可能である。
「落ち着きましたか?」
「うん落ち着いた。ありがと、文」
本当でしょうか。あなたの頭の両側についてるタコさんは未だにびちびちと活きがいいんですが。
「ほんと、どうなってるんでしょうか、それ」
「だから私にもわかんないんだってば。感覚ないし私の意思じゃないし、そもそも私の自慢のキューティクルツインテがなんでこんなグロテスクテンタクルに!」
「だからって私にキレないでください」
キレられても見捨てるしかないので。
てかさっきから話題それすぎですね、真面目に相談する気あるんでしょうかこの新米さんは。
「で、さっき話した可能性ですが」
「は、はい」
私の言葉に思わず正座するはたて。よい心がけです、教えを乞うからには誠意を見せて頂かねば。
「まずそのタコを切り落としましょう」
「いやそれ割と最終手段じゃない!?」
すぐさま触手ツインテを抱きかかえ壁際四隅まで後ずさり。
その反応は予想外ですよ、はたてさん。
「なにあんた!?それが本当に仮にも人の頭にくっついてる物をどうにかするときに出す提案なの!?
ほら生ものなのよ!?動いてるのよ!?ビチビチなのよ!?切り落としたら何が起こるか分かったもんじゃないわよ!?」
「起こるも何も、そいつ切り落とせば大方決着はつくでしょう」
「つくけど!つくかもしれないけど!血みどろの未来も見えるのよ!」
ふむ、確かに付け根の部分がリボンで隠れててどうなってるのかわからないけど、万が一肉々しさと動物性繊維が融合していたら血みどろの結末もさもありなんですね。
もし本当にそうなってるのを見たら正気度減りそうなんで絶対に確認しませんけど。
「ですが、それ以外に方法はないとも思うのですよ。はたてもどうすればいいか分からないから私のもとに来たのでしょう?」
「うぅ、そうだけどさ。例えばほら、アンタの知り合いを紹介するとか」
「それ間接的に私のこと全く信用してませんよね」
なんで私に相談しておきながら他の人に頼るとか出てくるんですか。
「で、でもさ!アンタ竹林の薬屋ともパイプ持ってたじゃない?ちょっと口きいてくれないかなー、なんて・・・」
「それでOK出すと思ってるなら怒りますよ、ほんと」
「冗談ですすいません真面目に考えます」
まあ永琳さんに任せたら、それこそ問答無用で切り落としにかかると思いますけどね。
あの人こういうことには興味津々ですし、勢いで解剖とかやっちゃいそうです。
で、それっきり黙りっぱなしですが何か思い浮かびませんかはたてさん。
こっちとしてはそろそろ活きのいいツインテ見守るのも飽きてきましたし面倒くさいんでさっさと切り落としてしまいたいんですがね。
荒ぶるタコ足への威嚇代わりに護身用の短刀でも砥いでおきましょうか。魚包丁を取りに台所に行くことすら面倒くさい。
あ、それシャリン、シャリン。シャリン、シャリン、と。
「・・・アノ、アヤサン?」
「ああ、気にしないでいいですよ。こっちはこっちで準備しているだけなので、どうぞゆっくり考えてください」
「無理に決まってるでしょ!?そんな『今すぐ決めないと斬る』みたいなことされてて無視できるのは大天狗様ぐらいのものよ!」
わからんでもない。
はたての言う大天狗様にも心当たりはある。あの人は単に骨董の刃物が大好きっていうのもあるのですがね。
いつ部屋をお訪ねしても、基本刃物の手入れしてますから、あの人にとっちゃ日常と化してるだけですって。
訪ねるたびに試し切りの相談されて背筋の凍る思いしますけど、真っ当かつ真っ直ぐな良いお方ですよ。
きっと。
ですが、そうですねえ。私、恥ずかしながら我慢強い方ではないので、これ以上長引かれるとそろそろストレスたまってきちゃうかもしれませんねぇ。
ぐるんぐるん回ってるオクトパスを牽制するのも飽きましたし。
というか、どんどんアクロバティックになるタコさんをこれ以上放っておくと、さすがに私の部屋に被害が出かねないのですが。
特にわたしなんて頭締め砕かれかけましたし、保身のためにもさっさと決着をつけたいですね・・・
「ねぇ?はたてさん」
「何が『ねぇ?』なの!?
ああもう分かったわよ!確かに他に方法なんて思いつかないし、腹ぁくくってやるわよ!一思いにやっちゃいなさい文!」
「ご決断頂けたようで何より」
いやいや、ここまで来るのに長かった。最後はなかなか男らしかったですよ、あなたは女ですがね。
「一応フォローしておきますが、いくら正体不明のタコ足だと言っても、元はおそらくあなたの髪なのですから切り落としても命に別状はないと思いますよ」
「・・・できれば最初に言ってほしかったなぁ、それ」
「言う前にドン引きと拒否のコンボ決めたじゃないですか」
「うん、そうだったごめん。でもいきなりぶった切るなんて言われて警戒しない奴もいないと思うの」
仰る通りで。
「さて、そろそろ心の準備はいいですか?」
「も、もうちょい待って」
緊張するのか、正座した状態で吸って吐いての深呼吸を繰り返すはたて。
そんな彼女を今か今かと短刀片手に待っている私。
傍から見たら介錯の現場と勘違いされそうですね、今更ながらここが自宅でよかったです。
「・・・よし、いいわ」
「では、いきます。くれぐれも頭は動かさないように」
「了解、丁寧に頼むわ」
眼を閉じ、来るであろう未来に耐える準備を終えたことを確認して、私はタコ足ツインテの片方を手に取る。
掴まれたタコ足は命の危険でも感じ取ったのか、私の手から逃れようと今までで一番力強く暴れまわる。
だが、天狗の力を舐めないでもらいたいものですね、いくら暴れようとも私がつかんだ場所はびくともしません。
おかげで付け根の部分は丸わかり、これなら切り落とすのも非常にたやすい。
まあ先端の方は自由なので、さっきから腕にからみついたり顔にあたったりしてますが。
気持ち悪い上に鬱陶しいのでさっさと終わらせてしまいましょう。
「あ、それ」
はたての頭にくっついたタコ足を、頭側の髪の毛の部分からリボンごと落とす。
間髪入れずに残った側のタコも引っ掴み、面倒なことになる前に切り落としてしまう。
後に残ったのはチャームポイントのツインテールを失ったはたてと、そのツインテが変化したと思われる、我が家の床で跳ね回る二本の元気なタコ足さん。
「終わりましたよ、はたて。どこか変なところはありますか?」
「・・・ん、大丈夫。ありがと、文」
「それはよかった」
いやほんと、安心しました。なにしろはたての頭と結合している可能性だって無きにしも非ずだったんですから。
いくらネタに飢えているからと言っても、そんな血なまぐさくなるようなネタはさすがに勘弁願いたいものです。
「あーあ、わたしのトレードマークが・・・」
「いいじゃないですか、ベリーショートもかわいいですよ。活発な感じがします」
「フォローどうも。はぁ、伸びるまではイメチェンと割り切ってしまおうっと」
それがいいです。というかあなたはイメージだけじゃなくて実際に外に出てきなさい。
そんなんだからいざというときに私に頼るしか方法がなくなるんですよ、まったく。
それにしても元気ですね、このタコ。
本体から切り落としたというのにまだまだビチビチと暴れたりないようですよ。
私の部屋を荒らしてくれて、どうしてくれよう。
・・・海産物なんていつ以来でしょうかね。
「はたて、このタコ足、頂いてもいいですか?」
「んー?私はもういらないからいいけど、どうすんの?まさかあんたがつけんの?」
「まさか。久しぶりの海の幸なので料理してみようかと思いまして」
「えっ」
私の言葉に凍りつくはたて、そのまま後ずさりで恐怖の部屋の隅。
「食べるの?それを?自分でいうのもなんだけど、私の頭にくっついてた得体のしれないものなのよ?」
「それはその通りですが。ですがこいつには厄介ごと持ち込んだ元凶として責任を取ってもらいたいですし、本当にタコなら味も保障できますし。
なによりタコと言えばタコ焼き、無性に食べたくて仕方なくなってしまったので」
言いつつも目線はタコの足。
心なしかわたしを恐れているような気さえします。ほんと、どこで関知してるんでしょう。リボンの裏?
「・・・はあ、いいわ。私も疲れたし、どうでも好きにして」
「どうも。ではちゃちゃっと作ってきます」
それでは飼い主?の許可ももらいましたのでさっさと行きましょう。
もしおいしければ万々歳、万が一美味しくなくても問題ないのです。
その時は主もろとも記事にさせて頂きますからね、ふふ。
「あ、おいしい」
「ほんとですね、そこらのお祭りで良く売っていそうな味です。
はたての頭についていたものでしたから、もっと陰湿な味をイメージしていたのですが」
「どういう意味だこら」
言葉通りの意味ですよはたてさん。
それにしても本当に意外。タコ焼きの材料なんて都合よくそろっているはずもなかったので、タネで包み焼いてたれをかけただけの、ほとんど素焼きに近いものなのですが。
やはり久しぶりに食べたということも作用しているのでしょうか。こうなってくるといよいよ海の幸が恋しくなりますね、今となっては叶わぬ夢ですが。
それとも紫さんに持ちかけてみましょうか。海産物というだけで幻想郷では話題性がありますし、うまくいけば私のおなかと文花帖が同時に満たされるやもしれません。
むむむ、一考の価値ありですね。
「・・・でもこれ、私の頭にくっついてたのよね・・・」
せっかくのおいしいおやつなのに、そういう気落ちすること言わないでくれますか。
別に共食いというわけでもないでしょうに。
・・・え、ないですよね?
「ま、とにかくありがと。一応感謝してるわ」
「あやや、そう思うならもう少ししっかりしてほしいですね。主に外に出てコネをつくるとか」
「ん、考えとく」
あらら、傷心のようで。茶化したつもりなのですが乗ってこないとは、張り合いのない。
まあ、本人が反省しているようなので、黙っておきますか。
これ以上の追撃はお互いにとっても得はないですし、この6個入り400円レベルのタコ焼きとともに飲み込んでしまいましょう。
うん、美味い。
次の日。
「なんかまた生えてきたああああああああああああ!!」
再びタコの触手を生やしたはたてに泣きつかれた。
どおしよどおしよとマジ泣きするはたてをよそに、私はふと思い出した。
そういえば、タコの足の再生力は吸血鬼にも劣らなかったっけなあ、と。
以降、切っては生え、切っては生えを繰り返すはたてのタコツインテだったが、はたてが限界寸前になり自分でタコ足を切り落としてからは不思議なことに二度と生えることはなかった。
ちなみに、それまでタコ料理が定期的に食卓へ上ったのは言うまでもないことである。
安心してお茶を飲んでいた俺は1行目でスクリーンにお茶をぶちまけた
これは危険なSSだ、訴訟も辞さない
ベリーショートなはたてもありだな。
けど読めば読むほどはたてちゃんツインテールがおいしそうに感じる。不思議!
さもなくば、サイドテールの子が6人か。永琳の髪の毛がタコ足になったら身動き取れないね。
最後には暴れるタコさんに同情の気持ちが湧きましたw
あと、“・・・”より“……”の方が見易くなって良いですよー
そして1行目のインパクトがやばすぎさんww
えっ
みんなげそれいむげそれいむ言ってるが、海老天九尾藍様(仕様)を思い出したのは俺だけか・・・
某同人絵師の方のそれに空目してしまい
シュールすぎる絵面が浮かんできました
おおキモいキモい
もっとこの作品の雰囲気に浸っていたかったです!
千円出しても買いましょう!
ギャグにややキレがないのが残念でした。
いつもなら感謝のコメ返しと行きたいのですが、僕自身の心情があとがきの一行目の通りなので、今回は僕の頭がついていける範囲で答えさせていただきます。
>これは危険なSSだ、訴訟も辞さない
訴訟先は僕ではなく全世界のタコにお願いします。
>げそれいむ
言われて僕も思い出しました。
あっちはまったり対応してますが、こっちはパニックのままことを運んでます。中途半端なドリフです。
>評価に困る
僕も完成したときに「なにこれ」と思いました。狙いどおりでしたが。
>他の子もタコ足になってる
冒涜的ですね、そんな幻想郷は焼き払いましょう。
>勢い、テンポがいい
ありがとうございます。今回は特に意識しました。
加速させるばかりで収束させる気はさらさらありませんでしたが。
>たこやきおいしそう
>ツインテールおいしそう
えっ
>ギャグにキレがない
脳内で加速させてばかりだったので手綱が取れませんでした。
次に書くときは考えて書いてみたいですね。
では最後に読んでくださった皆様、評価や感想、批評をくださった皆様、重ねてお礼を。
次回もよろしければおつきあいください。