*********************
*********************
空を見上げる。
幻想の空はどこまでも、果てしなく澄んでいた。
…これで良かったのだろうか?
この問いに答えるものは何処にもいない。
或いは彼女なら答えてくれたのだろうか?
…考えていても仕方が無いか。
踵を返しその場を立ち去る。
風が吹き空はいつまでも、いつまでもその色を湛えたままだった。
*********************
*********************
~ 幻想の空 ~
******* プロローグ *******
八雲紫はただ1人そこにいた。
俯いているため、その表情を確認することは出来ない。
周りにはひび割れ涸れた大地。
生物の影は見渡す限りに存在しない。
聞こえるのは、乾いた砂が大地を撫でる音のみである。
そこには何も、無い。
誰もいない世界。全てが終わった世界。
人の営みの痕跡も、妖の宴会の喧騒もまるで幻想であったかのように…
ただ、虚無の上に大地だけが引かれているかのようだ。
紫はため息をつき、そして…
*********************
*********************
私の名前は博麗霊夢、神社の巫女をやっている。
そして今、石畳の上に仰向けで転がっている。
理由は…
「…ははっ。つ、ついにやったぜ!あの霊夢に勝ったんだ!」
そう、弾幕ごっこで負けたからだ。
因みにうるさく騒ぎ立てているのは知り合いの霧雨魔理沙。
初めて会って私に負けてからほぼ毎日のように勝負を仕掛けてきた。
結果は私の全勝。
でも彼女は懲りずにやってきた。
…もう一体何回戦ったことだろう。
一瞬の油断、でも避けられないことは無かった。
でも避けなかった。
理由は自分でも分からない。
戦うたびに強くなるアイツに敬意を払ったのか、いつまでも勝てないアイツに同情したからなのか。
…とにかくワザと負けたというのは事実だった。
そんな私の心を知ったら魔理沙はなんて思うだろう。
「よっし!今日は宴会だぜ。魅魔さまに報告しなくちゃ。準備は霊夢がやれよな!それじゃっ」
勝手に騒いで勝手に飛んで行ってしまった。
私はのろのろと立ち上がり、そして…
*********************
*********************
「どうせ、夜ご飯も食べてく心算なんでしょ?材料が足りないからちょっと人里へ行ってくるわ。
大人しく待ってなさい。あと人形には触らないでよ。」
「私が大人しくなかったことなんてあったか?安心してゆっくりまったりのんびり行ってくるといいぜ。」
ここは魔法の森の人形遣いの家。
いつもの様に上がりこんだ白黒魔法使いといつもの様なやり取りをする七色魔法使い。
アリスは訝しげな顔をしながらも、買い物の準備をして早々に出かけてしまった。
そこですっかり暇になってしまった魔理沙は、家捜しでもしてやろうかと思ったが一つ案を思いつく。
そうだ、日頃の感謝と実験を兼ねて夜飯を作ってやろう。ちょうどいいキノコが手に入ったんだ、と。
台所で準備を始めた魔理沙は、カラフルなキノコをひょいひょいと鍋の中に放り込んでいく。
鍋はぐつぐつに煮立ち、色も匂いもアレな感じに仕上がっていく。
だが、突如鍋が火を噴き天井まで駆け上る。
ありゃ、配合を間違えたか?と慌てて魔理沙はコールドインフェルノを投下。鍋爆裂。
気付くと台所はゴウゴウと燃え盛る火の海となっていた。
このままではマズイと、表の井戸まで水を汲みに行った魔理沙だったが、家の中からボンッボボンと数回の爆発が起こる。
人形の火薬か何かに引火したのかもしれない。
あっというまに七色の人形遣いの家は紅一色の巨大な火の塊と化してしまった。
「くっそ!こうなりゃ火を消す方法は一つだぜ。マスタースッパーク!!」
こうして炎は跡形も無く消え去った。…アリスの家と共に。
魔理沙はどこかスッキリしたような顔で…
*********************
*********************
最近の幽々子様はどこか物憂げな表情だった。
いつものほほんとしたお人であるが、時折その様な表情を垣間見せるようになったのだ。
それも、倉庫から古い書物を見つけてから。
どうかしたのか聞いても何でもないの一点張り。
そうは見えないが、彼女は私に負けず劣らずの頑固者なのだ。
きっと何を言ったところで話してはくれないのだろう。
散歩に出かけては、あの西行妖を眺めて何かを考えているようである。
それのせいでお仕事の方が疎かになりがちになっている。
…おおよそ、幽々子様のお考えは分かっている。
そして、何がしたいのかも想像がつく。
…ダメなのです。
おそらく私は命令されればその為に動くでしょう。
貴女の願いを達成させるため、どのような障害があろうとも完遂するでしょう。
しかし、その結果きっと幽々子様は…
私は只の刀。
主を止めることも、嗜めることも出来ない。
だから、私は去るのです。
不出来な弟子と二振りの刀を残し、何も知らない振りをして。
切れば分かる。
だが、分かったところで何も成すことの出来なかった私はただ…
*********************
*********************
十六夜咲夜が死んだ。
結局彼女も人の子だったということか。
ほっとけばいつまでも生きそうな顔をしていたが、呆気ないほどポックリ逝ってしまった。
葬式はとても盛大に行われ、この広い紅魔館がパンクするのではないかと思うくらいだ。
みんな泣いていたし勿論私も泣いた…多分。
多分、と言うのもその当時私の友人であるレミリア・スカーレットの落ち込みようが酷くて目も当てられなかったからだ。
彼女は立派に喪主を勤め上げ、誇り高き涙を零した。
運命を垣間見たのだろうか。
あらゆる手段で延命しようとしたが、当の本人がそれを拒絶した。
…あれから一年。
咲夜の墓の前に私とレミィはいた。
「…彼女の事、恨んでる?どんな我侭でも聞いてくれたのに、たった一つの願いは受け入れられなかった。」
「感謝こそすれ恨むなんてとんでもない。私が唯一くれてやった休暇だ。存分に休んで貰わなければな。」
…実は随分前、強引に若返りの術を咲夜に施そうとした。
勿論レミィには内緒でだ。
自分自身、咲夜が居なくなり紅魔館に起こる急激な変化を恐れたのだ。
レミィが悲しむから、と言い訳を自分にしながら。
彼女は困ったように笑い、私は一生死ぬ人間ですと言い放つ。
続けて、私の死を以ってお嬢様への最後のご奉仕が完了するのです、などと言う。
当時は全く意味が分からなかったが、今なら少しは分かる…ような気がする。
少々大人びた姿で、墓の前で暫く目を閉じていたレミィは…
*********************
*********************
竹林の奥深く、そこで人と兎が対峙していた。
「姫様のこと、ぎゃふんと言わせたくない?」
そう提案したのは幸せ兎因幡てゐであった。
相対していた人間、藤原妹紅は胡散臭そうに見つめる。
「ペットのお前が何でそんな事を?明らかに罠にしか見えないんだけど。」
「いやいや、近頃の姫様の我侭っぷりは皆腹に据えかねていてね~、実はお師匠様の提案なのよ。」
そういってニコニコ笑うてゐを妹紅は信じることは出来ない。
この兎は人を騙す事が生きがいのような奴なのだ。
「それは、そっちで勝手にやっておくれ。アイツはあたしの手で屠る。」
「そうだね~、でも見たいと思わない?姫様の悔しがる顔…」
妹紅はピタリと動きを止める。
たしかに何度と無く戦い、苦悶の表情なら何度も見てきた。
だが、悔しがる顔を見たことは無い。
思えば一番見たかった表情かもしれないのに…
「永琳の提案ってのは嘘なんだろう?話を聞いてあげる。本当のことを話せ。」
「む…確かに私の独断だけど、ぎゃふんと言わせたいのは本当。姫様ったら私のキャロットジュースを二回も間違えて
飲んだから…」
その程度で謀反を起こされるとは憐れな奴だと思ったが妹紅は案を聞くことにする。
内容は至って簡単、単純な嫌がらせ。
ご飯を目の前で引っくり返したり、お気に入りの服や盆栽を台無しにしたり、トイレの鍵を壊したり。
ただ、全てそれを妹紅が行うと言うことだ。
やり方が気に入らない妹紅であったが、悔しがる顔が見れるという説得に応じて渋々実行に移すのだった。
ご飯の時に襲撃しておかずを駄目にしては逃げ帰り、お風呂やトイレに入っているときに辺りを火の海にしては逃げ帰り、
極め付けに趣味の時間に盆栽を目の前で足蹴にしてやった。
これでどうだ、輝夜を見てやると悔しがるどころか大粒の涙をぽろぽろと流し始めたのだ。
「う…ぐ…ひっく…ふひぃ~ん、もごうのばがぁ~あうぅ~…ふっく…ふひぃ~ん…」
これは何と言うかどうと言うか、妹紅は輝夜を悔しがらせたかったわけであって泣かせたかった訳ではない。
なんとまあ、涙に鼻水に涎に美人が台無しである。
ひぃひぃ泣く輝夜を前に言い訳を考えようとして、止めた。
ちょっと可愛いと思ったのも秘密だ。
小さくゴメン、と謝るとそのまま永遠亭を駆け出す。
門を出てから妹紅は少し後悔しつつ…
*********************
*********************
暗き森の中、相対する人間と妖怪。
いや、正確には半獣と妖怪のようだ。
「この時間、そしてこの時分、妖怪の領域に何の用だい?今のキミは襲われたって文句は言えない。」
そう宣言するのは、小さき賢将ナズーリンである。
対する半獣、上白沢慧音は息を切らせ慌てている様子で答える。
「すまない。勝手に縄張りに入ったことは謝る。だが、急いでいるんだ。里を飛び出し、この森に入った人間がいる。
危険な目に遭うに前に保護したい。」
慧音は目に見えて慌てているようで、話す時間も惜しいといった感じだ。
ナズーリンは眉をひそめ少し間をおいてからこう切り出した。
「…手伝ってあげよう。探しものなら、私の得意分野だよ。…勘違いしないでくれ、人間やキミみたいな中途半端者に
縄張りをウロウロされたくないだけだ。」
そう言って、腕を高く掲げ指を鳴らす。
突如、辺りに夥しい数の気配と視線が慧音達の周りに集まる。
「……これは、ネズミか。」
「そう、私の賢い部下たちだ。この子達に探させれば瞬く間に見つけ出してくれる筈さ。…行けっ。」
ナズーリンの合図と共に一斉に駆け出すネズミ達。
こうして手持ち無沙汰になったナズーリン達は切り株に腰を落ち着かせる。
慧音は落ち着いていないようだったが。
「何故こんな時間に里の人間が森へ?」
ナズーリンが当然の質問を放つが慧音は俯いたまま何も話そうとしない。
が、暫くしてポツリと人間の身の上を話し始めた。
「両親を早くに亡くしてな、生活に苦労していて周りからも随分酷い目に遭わされてきたんだ…私の力不足もあり…
気付いたときには…」
「ふ~ん…里を飛び出していたという訳か。」
興味無さそうに頷くナズーリン。と、彼女の特徴的な耳がピクリと動く。
「ん?どうやら見つかったようだよ…」
「本当か!?場所は何処だ!」
「落ち着いて。もうすぐ此処まで来るから。」
少し待っていると、ネズミ達が戻ってくる…が。
「…どういうことだ?」
ネズミ達が持ってきたのは靴や衣服の切れ端のみだった。
部下から事情を聞いたナズーリンが、少し考えてから口を開く。
「…どうやら、知能の低い妖怪に襲われたらしい。見つけたときにはもう…。」
ぎり、と隣から歯を食いしばる音が聞こえる。見ると慧音が拳を震わせて立ち尽くしている。
「…残念な結果だったが、キミに用はもう無いだろう。遺品は後で部下に里の前まで届けさせる。早々に立ち去るがいい。」
「ぐっ…!…そうだな、世話を掛けた。名も知らぬ鼠の王よ。だがもしお前が人を襲うのを見かけたら遠慮なく退治させてもらう。」
「肝に銘じておこう。」
こうして、慧音は肩を落としながら立ち去った。
暫くそれを眺めていたナズーリンだったがポツリと独り言を漏らす。
「首吊り自殺か…相も変わらず人間は愚かなものだな。」
そしてすぐに部下達に命ずる。
「遺体は丁重に葬れ。後の事は私から白蓮様にお願いしておく。」
ナズーリンは半獣の憎悪の念の篭った視線を思い出し…
*********************
*********************
「早苗、あんた何やってるの?」
私は神奈子、守矢神社の神をしている。
そして目の前でクルクル踊っているのは風祝にして現人神の東風谷早苗である。
「あっ神奈子様、これは今新たに信仰を得るための踊りを開発中なのです!」
踊りってのは神楽のことか?でもそれにしてはアグレッシブ過ぎやしないだろうか。
そんな腕や腰や頭を振るような舞見たことも無い。
あれだ、昔のクスリをやった祈祷師みたいな動きだ。
ああ、スカートが今にも捲りあがりそうで目も当てられない。
「完成したら神奈子様にもお見せしますので楽しみにしていてくださいね☆」
あんな汗が煌く笑顔で言われたら頷くしかない。
その場を後にし、私は溜息をつく。
…早苗は変わった。
優等生で生真面目だったあの子は、外の世界でもさぞかし居心地の悪い思いをして来たのだろう。
いつも笑顔でいたけれど、気を遣った作られた笑顔だった。
あんな弾ける様な笑顔を見るようになったのはここ最近のことだ。
でもアレはどうなんだろう…
遠くに見える早苗は、今度は頭を使ってぶるんぶるんと回り始めた。
何処の世界の人間だ。あれでへりこぷたーのように空でも飛ぶ心算だろうか?
奇跡の業か逆さになってもスカートは捲くれてない。
取りあえず以前ぷろもーしょんがどうとか言っていた鴉天狗は血祭りに上げてやろう。鴉狩神事だ。
早苗を見かけた諏訪子が動揺した様子でオロオロと近づいていく。
あっ…蹴っ飛ばされた。
………う~ん…
*********************
*********************
「悪いが…僕は君の気持ちに応えることは、出来ない。」
「…!」
「見ての通り半人半妖の身だ。勿論君は気にしないと言うだろう。だが周りの者はどうだろうか?
人間とは人と繋がりを持って生きるもの。逆に妖怪は自分の思い通りに生きるもの。
長くいれば居るほど君が辛い思いをする事になる。」
「…………」
「誰よりも大切に思っているからこそ幸せになってもらいたいんだ。いつまでも傍で君を見守っていたいなんてのは僕のエゴだ。
…もう此処には来ない方がいい。いつかずっと先、また僕が自分の店を持ったら、笑顔を見せに来ておくれ。」
「………っ!」
「………ふう…」
*********************
*********************
今日、私達は封じられる。
仄暗い地の底へと。
理由は分からない。偉い人が決めた、らしい。
何がいけなかったんだろう。
強い事が?怖い事が?嫌われている事が?
分からないワカラナイ。
第三の目を閉じてしまった私にはもう判らない。
理由はワカラナイ。
いっぱい襲ってきたからいっぱい殺した。
その度に酷い頭痛がした。
気付いたら第三の目は閉じていた。
頭痛はしなくなった。
だからもっといっぱい殺した。
私の第三の目が閉じたことを知ったお姉ちゃんはこの世の終わりのような顔をした。
もうお姉ちゃんが何を考えてるかわからない。
私が何をしたかったのかも分からない。
いつかはわかるのだろうか?
ただ、今は閉じられる空を見上げていた。
私の能力ならば気付かれずに逃げることも殺すことも出来た。
でも何故か、お姉ちゃんの隣にいることを選んだ。
…理由はやっぱりわからない。
私は心の中にかつての空を想い起こし、その…
*********************
*********************
此処はお彼岸、三途の川のほとりである。
渡し守の死神、小野塚小町は珍しくせっせと死者の魂を運んでいる。
どうやらつい先日閻魔様の雷が落ちた後のようだった。
「おや、お客さんいらっしゃい。この川を渡りたいんだったらなけなしのお金を払って頂戴な…ってありゃ、お客さん随分
手持ちが少ないねぇ。生前はどんな悪人だったのか…ん?そんなこと無い?まぁいいよ、時間はかかるけどこの船頭小町、
しっかり送り届けてあげるから。」
死者を送りながら小町は首を傾げる。近頃、皆やたらと手持ちが少ないのだ。
どんな悪人だろうと彼岸に送り届けることを誇りとしている小町は、時間ばかりかかって死者を送る量は少ない。
そのことについて、いつも上司からお叱りを受けていた。
死神船頭は銭の量、有無で判断をし、足りなければその場で川底に突き落とす。
万年財政難な是非曲直庁では、悪人から金を取っては直ぐに川底に突き落とすことを繰り返して金を稼ぐ死神もいると聞く。
落とされた魂は竜魚に食べられるか磨耗しきるか、とりあえず別のモノに成り果て虚無へと還る。
だがそれを良しとしない小町は、どんなに時間をかけようと死者を輪廻の環へと返す。
そうして、幾人かの死者を運び終えた小町の元にまたひとり、死者がやってくる。
「…こりゃまた随分な金持ちが来たもんだ。生前のアンタは聖人君子か生き神様かい?これなら彼岸もあっという間さね。
まぁ乗って頂戴よ。」
次に来た死者はものすごい量のお金を手にやってきた。
普通川を渡りきるのに必要な値段は五銭だといわれている。
だが、その死者はその十倍ともいえる銭を持っていたのだ。
お金を受け取りすいすいと川を渡る船だが、真ん中辺りでピタリと止まる。
「はい、到着~っと。…ん?不思議そうな顔してるね。此処がアンタの終着点さ。」
船の上の魂は落ち着かなさげにふらふら漂う。
「……アンタ、盗んだね?」
魂はピタリと動きを止める。
「…ふん、死者から金を巻き上げるような下衆は閻魔様が裁くまでも無い。あたしが裁いてやるってんだ。
判決、地獄逝きすら生ぬるい。虚無へと還れ。」
自前の大鎌で魂をひょいとすくい上げそのまま川へと投げ捨てる。
貰ったお金もちらりと見てからそのまま川へと投げ捨てる。
お金を持った死者の魂を川に投げ捨てた、お金も捨てた、死神が判決を下した、いずれも重大な規約違反である。
上司に知られれば大目玉を食うだけではすまないだろう。
おそらく僻地へ飛ばされることは間違いない。
(次はもっといい上司に恵まれたいもんだねぇ)
小町は船を降り川原に寝っ転がりながら…
*********************
******* エピローグ *******
その場を立ち去ろうとする紫の肩をがしりと掴む者がいる。
紫は驚いたように振り向くと其処には博麗霊夢がいた。
「れ、霊夢…どうしてここに…?」
恐る恐るといった感じに尋ねる紫に、霊夢はニゴリ(!?)と笑って答える。
「なぁに、アンタの式の尻尾を二、三本毟ったら喜んで案内してくれたわよ。異次元だろうが世界の果てだろうが博麗の巫女から
逃げられると思わないことね。…それよりまたアンタ人んちの饅頭食ったでしょ?」
掴まれた肩がミシミシと悲鳴を上げる。紫は顔を歪めながら慌てて答える。
「ち、ちが…違うのよ霊夢!あれはもう悪くなっていてあなたが食べたらお腹『喧しい』ヒギィっ!?」
ずんむと目潰しを食らって、悶絶する紫。
むんずと髪を掴んで引き摺っていく霊夢。
「さて、今日は宴会にしましょう。宴会と言う名の紫を愛でる会もいいわね、主に肉体言語で。
きっと皆、み~んな集まってくれるわ。ああ…今からとても楽しみね。」
「いだっ…いぎぎ、まま待って霊夢。せめてあなたと二人きり『五月蝿い』あふん!?」
パチキを食らって白い泡を吹いて痙攣する紫。
来るときに使ったスキマに紫を放り込む。
覗くと既に博麗神社にはたくさんの人妖が集まっていてすぐにでも宴会が始められそうな雰囲気だ。
紫は既にもみくちゃの波に飲まれている。
呆れるようにそれを見た霊夢は呟いた。
『…これで良いのよ。』
*********************
*********************
空を見上げる。
幻想の空はどこまでも、果てしなく澄んでいた。
…これで良かったのだろうか?
この問いに答えるものは何処にもいない。
或いは彼女なら答えてくれたのだろうか?
…考えていても仕方が無いか。
踵を返しその場を立ち去る。
風が吹き空はいつまでも、いつまでもその色を湛えたままだった。
*********************
*********************
~ 幻想の空 ~
******* プロローグ *******
八雲紫はただ1人そこにいた。
俯いているため、その表情を確認することは出来ない。
周りにはひび割れ涸れた大地。
生物の影は見渡す限りに存在しない。
聞こえるのは、乾いた砂が大地を撫でる音のみである。
そこには何も、無い。
誰もいない世界。全てが終わった世界。
人の営みの痕跡も、妖の宴会の喧騒もまるで幻想であったかのように…
ただ、虚無の上に大地だけが引かれているかのようだ。
紫はため息をつき、そして…
*********************
*********************
私の名前は博麗霊夢、神社の巫女をやっている。
そして今、石畳の上に仰向けで転がっている。
理由は…
「…ははっ。つ、ついにやったぜ!あの霊夢に勝ったんだ!」
そう、弾幕ごっこで負けたからだ。
因みにうるさく騒ぎ立てているのは知り合いの霧雨魔理沙。
初めて会って私に負けてからほぼ毎日のように勝負を仕掛けてきた。
結果は私の全勝。
でも彼女は懲りずにやってきた。
…もう一体何回戦ったことだろう。
一瞬の油断、でも避けられないことは無かった。
でも避けなかった。
理由は自分でも分からない。
戦うたびに強くなるアイツに敬意を払ったのか、いつまでも勝てないアイツに同情したからなのか。
…とにかくワザと負けたというのは事実だった。
そんな私の心を知ったら魔理沙はなんて思うだろう。
「よっし!今日は宴会だぜ。魅魔さまに報告しなくちゃ。準備は霊夢がやれよな!それじゃっ」
勝手に騒いで勝手に飛んで行ってしまった。
私はのろのろと立ち上がり、そして…
*********************
*********************
「どうせ、夜ご飯も食べてく心算なんでしょ?材料が足りないからちょっと人里へ行ってくるわ。
大人しく待ってなさい。あと人形には触らないでよ。」
「私が大人しくなかったことなんてあったか?安心してゆっくりまったりのんびり行ってくるといいぜ。」
ここは魔法の森の人形遣いの家。
いつもの様に上がりこんだ白黒魔法使いといつもの様なやり取りをする七色魔法使い。
アリスは訝しげな顔をしながらも、買い物の準備をして早々に出かけてしまった。
そこですっかり暇になってしまった魔理沙は、家捜しでもしてやろうかと思ったが一つ案を思いつく。
そうだ、日頃の感謝と実験を兼ねて夜飯を作ってやろう。ちょうどいいキノコが手に入ったんだ、と。
台所で準備を始めた魔理沙は、カラフルなキノコをひょいひょいと鍋の中に放り込んでいく。
鍋はぐつぐつに煮立ち、色も匂いもアレな感じに仕上がっていく。
だが、突如鍋が火を噴き天井まで駆け上る。
ありゃ、配合を間違えたか?と慌てて魔理沙はコールドインフェルノを投下。鍋爆裂。
気付くと台所はゴウゴウと燃え盛る火の海となっていた。
このままではマズイと、表の井戸まで水を汲みに行った魔理沙だったが、家の中からボンッボボンと数回の爆発が起こる。
人形の火薬か何かに引火したのかもしれない。
あっというまに七色の人形遣いの家は紅一色の巨大な火の塊と化してしまった。
「くっそ!こうなりゃ火を消す方法は一つだぜ。マスタースッパーク!!」
こうして炎は跡形も無く消え去った。…アリスの家と共に。
魔理沙はどこかスッキリしたような顔で…
*********************
*********************
最近の幽々子様はどこか物憂げな表情だった。
いつものほほんとしたお人であるが、時折その様な表情を垣間見せるようになったのだ。
それも、倉庫から古い書物を見つけてから。
どうかしたのか聞いても何でもないの一点張り。
そうは見えないが、彼女は私に負けず劣らずの頑固者なのだ。
きっと何を言ったところで話してはくれないのだろう。
散歩に出かけては、あの西行妖を眺めて何かを考えているようである。
それのせいでお仕事の方が疎かになりがちになっている。
…おおよそ、幽々子様のお考えは分かっている。
そして、何がしたいのかも想像がつく。
…ダメなのです。
おそらく私は命令されればその為に動くでしょう。
貴女の願いを達成させるため、どのような障害があろうとも完遂するでしょう。
しかし、その結果きっと幽々子様は…
私は只の刀。
主を止めることも、嗜めることも出来ない。
だから、私は去るのです。
不出来な弟子と二振りの刀を残し、何も知らない振りをして。
切れば分かる。
だが、分かったところで何も成すことの出来なかった私はただ…
*********************
*********************
十六夜咲夜が死んだ。
結局彼女も人の子だったということか。
ほっとけばいつまでも生きそうな顔をしていたが、呆気ないほどポックリ逝ってしまった。
葬式はとても盛大に行われ、この広い紅魔館がパンクするのではないかと思うくらいだ。
みんな泣いていたし勿論私も泣いた…多分。
多分、と言うのもその当時私の友人であるレミリア・スカーレットの落ち込みようが酷くて目も当てられなかったからだ。
彼女は立派に喪主を勤め上げ、誇り高き涙を零した。
運命を垣間見たのだろうか。
あらゆる手段で延命しようとしたが、当の本人がそれを拒絶した。
…あれから一年。
咲夜の墓の前に私とレミィはいた。
「…彼女の事、恨んでる?どんな我侭でも聞いてくれたのに、たった一つの願いは受け入れられなかった。」
「感謝こそすれ恨むなんてとんでもない。私が唯一くれてやった休暇だ。存分に休んで貰わなければな。」
…実は随分前、強引に若返りの術を咲夜に施そうとした。
勿論レミィには内緒でだ。
自分自身、咲夜が居なくなり紅魔館に起こる急激な変化を恐れたのだ。
レミィが悲しむから、と言い訳を自分にしながら。
彼女は困ったように笑い、私は一生死ぬ人間ですと言い放つ。
続けて、私の死を以ってお嬢様への最後のご奉仕が完了するのです、などと言う。
当時は全く意味が分からなかったが、今なら少しは分かる…ような気がする。
少々大人びた姿で、墓の前で暫く目を閉じていたレミィは…
*********************
*********************
竹林の奥深く、そこで人と兎が対峙していた。
「姫様のこと、ぎゃふんと言わせたくない?」
そう提案したのは幸せ兎因幡てゐであった。
相対していた人間、藤原妹紅は胡散臭そうに見つめる。
「ペットのお前が何でそんな事を?明らかに罠にしか見えないんだけど。」
「いやいや、近頃の姫様の我侭っぷりは皆腹に据えかねていてね~、実はお師匠様の提案なのよ。」
そういってニコニコ笑うてゐを妹紅は信じることは出来ない。
この兎は人を騙す事が生きがいのような奴なのだ。
「それは、そっちで勝手にやっておくれ。アイツはあたしの手で屠る。」
「そうだね~、でも見たいと思わない?姫様の悔しがる顔…」
妹紅はピタリと動きを止める。
たしかに何度と無く戦い、苦悶の表情なら何度も見てきた。
だが、悔しがる顔を見たことは無い。
思えば一番見たかった表情かもしれないのに…
「永琳の提案ってのは嘘なんだろう?話を聞いてあげる。本当のことを話せ。」
「む…確かに私の独断だけど、ぎゃふんと言わせたいのは本当。姫様ったら私のキャロットジュースを二回も間違えて
飲んだから…」
その程度で謀反を起こされるとは憐れな奴だと思ったが妹紅は案を聞くことにする。
内容は至って簡単、単純な嫌がらせ。
ご飯を目の前で引っくり返したり、お気に入りの服や盆栽を台無しにしたり、トイレの鍵を壊したり。
ただ、全てそれを妹紅が行うと言うことだ。
やり方が気に入らない妹紅であったが、悔しがる顔が見れるという説得に応じて渋々実行に移すのだった。
ご飯の時に襲撃しておかずを駄目にしては逃げ帰り、お風呂やトイレに入っているときに辺りを火の海にしては逃げ帰り、
極め付けに趣味の時間に盆栽を目の前で足蹴にしてやった。
これでどうだ、輝夜を見てやると悔しがるどころか大粒の涙をぽろぽろと流し始めたのだ。
「う…ぐ…ひっく…ふひぃ~ん、もごうのばがぁ~あうぅ~…ふっく…ふひぃ~ん…」
これは何と言うかどうと言うか、妹紅は輝夜を悔しがらせたかったわけであって泣かせたかった訳ではない。
なんとまあ、涙に鼻水に涎に美人が台無しである。
ひぃひぃ泣く輝夜を前に言い訳を考えようとして、止めた。
ちょっと可愛いと思ったのも秘密だ。
小さくゴメン、と謝るとそのまま永遠亭を駆け出す。
門を出てから妹紅は少し後悔しつつ…
*********************
*********************
暗き森の中、相対する人間と妖怪。
いや、正確には半獣と妖怪のようだ。
「この時間、そしてこの時分、妖怪の領域に何の用だい?今のキミは襲われたって文句は言えない。」
そう宣言するのは、小さき賢将ナズーリンである。
対する半獣、上白沢慧音は息を切らせ慌てている様子で答える。
「すまない。勝手に縄張りに入ったことは謝る。だが、急いでいるんだ。里を飛び出し、この森に入った人間がいる。
危険な目に遭うに前に保護したい。」
慧音は目に見えて慌てているようで、話す時間も惜しいといった感じだ。
ナズーリンは眉をひそめ少し間をおいてからこう切り出した。
「…手伝ってあげよう。探しものなら、私の得意分野だよ。…勘違いしないでくれ、人間やキミみたいな中途半端者に
縄張りをウロウロされたくないだけだ。」
そう言って、腕を高く掲げ指を鳴らす。
突如、辺りに夥しい数の気配と視線が慧音達の周りに集まる。
「……これは、ネズミか。」
「そう、私の賢い部下たちだ。この子達に探させれば瞬く間に見つけ出してくれる筈さ。…行けっ。」
ナズーリンの合図と共に一斉に駆け出すネズミ達。
こうして手持ち無沙汰になったナズーリン達は切り株に腰を落ち着かせる。
慧音は落ち着いていないようだったが。
「何故こんな時間に里の人間が森へ?」
ナズーリンが当然の質問を放つが慧音は俯いたまま何も話そうとしない。
が、暫くしてポツリと人間の身の上を話し始めた。
「両親を早くに亡くしてな、生活に苦労していて周りからも随分酷い目に遭わされてきたんだ…私の力不足もあり…
気付いたときには…」
「ふ~ん…里を飛び出していたという訳か。」
興味無さそうに頷くナズーリン。と、彼女の特徴的な耳がピクリと動く。
「ん?どうやら見つかったようだよ…」
「本当か!?場所は何処だ!」
「落ち着いて。もうすぐ此処まで来るから。」
少し待っていると、ネズミ達が戻ってくる…が。
「…どういうことだ?」
ネズミ達が持ってきたのは靴や衣服の切れ端のみだった。
部下から事情を聞いたナズーリンが、少し考えてから口を開く。
「…どうやら、知能の低い妖怪に襲われたらしい。見つけたときにはもう…。」
ぎり、と隣から歯を食いしばる音が聞こえる。見ると慧音が拳を震わせて立ち尽くしている。
「…残念な結果だったが、キミに用はもう無いだろう。遺品は後で部下に里の前まで届けさせる。早々に立ち去るがいい。」
「ぐっ…!…そうだな、世話を掛けた。名も知らぬ鼠の王よ。だがもしお前が人を襲うのを見かけたら遠慮なく退治させてもらう。」
「肝に銘じておこう。」
こうして、慧音は肩を落としながら立ち去った。
暫くそれを眺めていたナズーリンだったがポツリと独り言を漏らす。
「首吊り自殺か…相も変わらず人間は愚かなものだな。」
そしてすぐに部下達に命ずる。
「遺体は丁重に葬れ。後の事は私から白蓮様にお願いしておく。」
ナズーリンは半獣の憎悪の念の篭った視線を思い出し…
*********************
*********************
「早苗、あんた何やってるの?」
私は神奈子、守矢神社の神をしている。
そして目の前でクルクル踊っているのは風祝にして現人神の東風谷早苗である。
「あっ神奈子様、これは今新たに信仰を得るための踊りを開発中なのです!」
踊りってのは神楽のことか?でもそれにしてはアグレッシブ過ぎやしないだろうか。
そんな腕や腰や頭を振るような舞見たことも無い。
あれだ、昔のクスリをやった祈祷師みたいな動きだ。
ああ、スカートが今にも捲りあがりそうで目も当てられない。
「完成したら神奈子様にもお見せしますので楽しみにしていてくださいね☆」
あんな汗が煌く笑顔で言われたら頷くしかない。
その場を後にし、私は溜息をつく。
…早苗は変わった。
優等生で生真面目だったあの子は、外の世界でもさぞかし居心地の悪い思いをして来たのだろう。
いつも笑顔でいたけれど、気を遣った作られた笑顔だった。
あんな弾ける様な笑顔を見るようになったのはここ最近のことだ。
でもアレはどうなんだろう…
遠くに見える早苗は、今度は頭を使ってぶるんぶるんと回り始めた。
何処の世界の人間だ。あれでへりこぷたーのように空でも飛ぶ心算だろうか?
奇跡の業か逆さになってもスカートは捲くれてない。
取りあえず以前ぷろもーしょんがどうとか言っていた鴉天狗は血祭りに上げてやろう。鴉狩神事だ。
早苗を見かけた諏訪子が動揺した様子でオロオロと近づいていく。
あっ…蹴っ飛ばされた。
………う~ん…
*********************
*********************
「悪いが…僕は君の気持ちに応えることは、出来ない。」
「…!」
「見ての通り半人半妖の身だ。勿論君は気にしないと言うだろう。だが周りの者はどうだろうか?
人間とは人と繋がりを持って生きるもの。逆に妖怪は自分の思い通りに生きるもの。
長くいれば居るほど君が辛い思いをする事になる。」
「…………」
「誰よりも大切に思っているからこそ幸せになってもらいたいんだ。いつまでも傍で君を見守っていたいなんてのは僕のエゴだ。
…もう此処には来ない方がいい。いつかずっと先、また僕が自分の店を持ったら、笑顔を見せに来ておくれ。」
「………っ!」
「………ふう…」
*********************
*********************
今日、私達は封じられる。
仄暗い地の底へと。
理由は分からない。偉い人が決めた、らしい。
何がいけなかったんだろう。
強い事が?怖い事が?嫌われている事が?
分からないワカラナイ。
第三の目を閉じてしまった私にはもう判らない。
理由はワカラナイ。
いっぱい襲ってきたからいっぱい殺した。
その度に酷い頭痛がした。
気付いたら第三の目は閉じていた。
頭痛はしなくなった。
だからもっといっぱい殺した。
私の第三の目が閉じたことを知ったお姉ちゃんはこの世の終わりのような顔をした。
もうお姉ちゃんが何を考えてるかわからない。
私が何をしたかったのかも分からない。
いつかはわかるのだろうか?
ただ、今は閉じられる空を見上げていた。
私の能力ならば気付かれずに逃げることも殺すことも出来た。
でも何故か、お姉ちゃんの隣にいることを選んだ。
…理由はやっぱりわからない。
私は心の中にかつての空を想い起こし、その…
*********************
*********************
此処はお彼岸、三途の川のほとりである。
渡し守の死神、小野塚小町は珍しくせっせと死者の魂を運んでいる。
どうやらつい先日閻魔様の雷が落ちた後のようだった。
「おや、お客さんいらっしゃい。この川を渡りたいんだったらなけなしのお金を払って頂戴な…ってありゃ、お客さん随分
手持ちが少ないねぇ。生前はどんな悪人だったのか…ん?そんなこと無い?まぁいいよ、時間はかかるけどこの船頭小町、
しっかり送り届けてあげるから。」
死者を送りながら小町は首を傾げる。近頃、皆やたらと手持ちが少ないのだ。
どんな悪人だろうと彼岸に送り届けることを誇りとしている小町は、時間ばかりかかって死者を送る量は少ない。
そのことについて、いつも上司からお叱りを受けていた。
死神船頭は銭の量、有無で判断をし、足りなければその場で川底に突き落とす。
万年財政難な是非曲直庁では、悪人から金を取っては直ぐに川底に突き落とすことを繰り返して金を稼ぐ死神もいると聞く。
落とされた魂は竜魚に食べられるか磨耗しきるか、とりあえず別のモノに成り果て虚無へと還る。
だがそれを良しとしない小町は、どんなに時間をかけようと死者を輪廻の環へと返す。
そうして、幾人かの死者を運び終えた小町の元にまたひとり、死者がやってくる。
「…こりゃまた随分な金持ちが来たもんだ。生前のアンタは聖人君子か生き神様かい?これなら彼岸もあっという間さね。
まぁ乗って頂戴よ。」
次に来た死者はものすごい量のお金を手にやってきた。
普通川を渡りきるのに必要な値段は五銭だといわれている。
だが、その死者はその十倍ともいえる銭を持っていたのだ。
お金を受け取りすいすいと川を渡る船だが、真ん中辺りでピタリと止まる。
「はい、到着~っと。…ん?不思議そうな顔してるね。此処がアンタの終着点さ。」
船の上の魂は落ち着かなさげにふらふら漂う。
「……アンタ、盗んだね?」
魂はピタリと動きを止める。
「…ふん、死者から金を巻き上げるような下衆は閻魔様が裁くまでも無い。あたしが裁いてやるってんだ。
判決、地獄逝きすら生ぬるい。虚無へと還れ。」
自前の大鎌で魂をひょいとすくい上げそのまま川へと投げ捨てる。
貰ったお金もちらりと見てからそのまま川へと投げ捨てる。
お金を持った死者の魂を川に投げ捨てた、お金も捨てた、死神が判決を下した、いずれも重大な規約違反である。
上司に知られれば大目玉を食うだけではすまないだろう。
おそらく僻地へ飛ばされることは間違いない。
(次はもっといい上司に恵まれたいもんだねぇ)
小町は船を降り川原に寝っ転がりながら…
*********************
******* エピローグ *******
その場を立ち去ろうとする紫の肩をがしりと掴む者がいる。
紫は驚いたように振り向くと其処には博麗霊夢がいた。
「れ、霊夢…どうしてここに…?」
恐る恐るといった感じに尋ねる紫に、霊夢はニゴリ(!?)と笑って答える。
「なぁに、アンタの式の尻尾を二、三本毟ったら喜んで案内してくれたわよ。異次元だろうが世界の果てだろうが博麗の巫女から
逃げられると思わないことね。…それよりまたアンタ人んちの饅頭食ったでしょ?」
掴まれた肩がミシミシと悲鳴を上げる。紫は顔を歪めながら慌てて答える。
「ち、ちが…違うのよ霊夢!あれはもう悪くなっていてあなたが食べたらお腹『喧しい』ヒギィっ!?」
ずんむと目潰しを食らって、悶絶する紫。
むんずと髪を掴んで引き摺っていく霊夢。
「さて、今日は宴会にしましょう。宴会と言う名の紫を愛でる会もいいわね、主に肉体言語で。
きっと皆、み~んな集まってくれるわ。ああ…今からとても楽しみね。」
「いだっ…いぎぎ、まま待って霊夢。せめてあなたと二人きり『五月蝿い』あふん!?」
パチキを食らって白い泡を吹いて痙攣する紫。
来るときに使ったスキマに紫を放り込む。
覗くと既に博麗神社にはたくさんの人妖が集まっていてすぐにでも宴会が始められそうな雰囲気だ。
紫は既にもみくちゃの波に飲まれている。
呆れるようにそれを見た霊夢は呟いた。
『…これで良いのよ。』
*********************
分かりにくすぎます。
各話で何を伝えたかったのかも分からないです
俺はアリだと思うな。
遊び心だけでなく、単純な文章力が無ければ出来ない試みだと思った
俄かに首肯し難い人は、何度か読み返してみれば良いかも知れん
……取り敢えず魔理沙、それで良い訳ないだろう!
とりあえず輝夜はもらっていってかまいませんね!!!
なかなか上手い事を考えるものだ。
魔理沙……それはさすがにあかんよwww
冒頭って文字通り冒頭ってことね
プロローグじゃなしに
最初がアレだったから、まさかハッピーエンドになるとは思わなかった。
すごく幻想郷らしくて素敵な断章だった。
個々の話を短編としてじっくり読んでみたい気持ちに駆られるほど、一つ一つの空気が、良かったです。
とりあえず魔理沙、てめぇww
あまり
評価されないのはうまく理解出来ない者が多いからなのだろうか。
一つ一つの話に想像の余地があってとても面白い。