「……ふむ。こんな感じかしら?」
姿見の前でポーズを取る事二度三度。
日頃着ていない服なので着丈やら肩幅やらが心配だったものの、あっけなくその服は少女の体躯を受け入れていた。
姿見に映るのは、フランドール・スカーレット――の服を着たレミリア・スカーレットの姿だ。
白のナイトキャップに赤い洋服。手にした杖は奇妙に歪んだ時計の針の如く。
背中から生えた羽が蝙蝠の羽で、髪の毛の色が薄水色をしている点を除けばフランにそっくりと言えるだろう。
「お似合いですよ。お嬢様」
「あら、そう。咲夜がそう言うならきっと似合っているのでしょうね」
「後は……そうですねぇ。お靴を妹様の物に履き替えれば、より完璧かと」
「参考にするわ」
レミリアがフランのコスプレ――もとい変装をしているのには理由がある。
近頃、フランと親しいお付き合いをしてくれていると言う二人の妖怪・古明地こいしと封獣ぬえの素性を調べる為だ。
姉として。そしてスカーレット家の当主として。
妹が妙な妖怪……ありていに言うのなら"悪い友達"から妙な影響を受けていないかと言うのは、どうしても気になってしまう事。
風の噂によれば、件の二人はさとり妖怪とか言う地底の嫌われ者と、正体不明の妙な妖怪だと言うではないか。
その二人が由緒正しい吸血鬼の一族がお付き合いをするに相応しい相手なのか、それとも否か――その点に対し、レミリアは前々から疑問を感じていたのだ。
三人は今夜、旧地獄の地霊殿でパーティーを開く。
そこでレミリアは考えた。これはチャンスだと。
そこからの彼女の判断と行動は迅速な物。従者の咲夜に命じてフランの紅茶に睡眠薬を仕込ませ、妹を当分目覚めない眠りの中へと落とした。
後は、時を止めさせて衣服を剥ぎ取れば良い。もちろんドロワーズも。それらの衣服はフランになりきるにどうしても必要なのだ。決してレミリアの趣味ではない。
「……ふふっ。こうして見ると、本当にフランになったみたいね」
愛らしいポーズを取りながらレミリアはついつい考えてしまう。
ああ、それにしてもどうしてこうもフランの服と言うのは愛らしいのだろうか――鏡の中の自分に対して妙な気持ちを抱いてしまいそうだ。
愛する妹のぬくもりやら臭いがほんのり染み付いたこの衣服に包まれていると、ついついうっとりとした気分になっていて――……
「お嬢様。鼻血が流れていますよ」
「……んぁっと……危ない危ない」
「吸血鬼が失血で倒れては冗談にもなりませんからね」
「面目ないわ。気を付けないと」
「その他にも色々と気を付けて下さいね? 今のお嬢様はお嬢様ではなく、妹様なのですから」
「無論。演じ切って見せるとも」
咲夜の手によって鼻にティッシュを詰められながら、カリスマ溢れる当主はこの後の計画を頭の中で復習する。
地霊殿に侵入。パーティーに潜入。古明地こいしと封獣ぬえの素性を探る。地霊殿より離脱。フランに言い訳をする。
その際の問題となるのは、さとり妖怪の姉の古明地さとり。
彼女に嘘は通じない。常に"私はフランドール・スカーレット"と念じる心構えでないと見破られてしまうだろう。
それ故に、レミリアは真剣である。身も心もフランドールを演じるのだ。フランに自分を重ねてなりきるとでも言うべきだろうか? フランドールに扮し、フランドールとして過ごす。
ちなみに、真剣な当主に対し"それってコスプレじゃないんですか?"と軽々しく口にしてしまった門番は湖に投げ込まれ、未だに浮かんでいない。それ故に紅魔館の住人は誰もレミリアに突っ込みをしないのだ。
「……よし。それじゃあ、早速行くわ」
「御武運をお祈りしておりますわ。夜明け迄の時間は……凡そ八時間。どうか、それまでには御帰還を」
頭を下げて一礼をする咲夜を背に、レミリアは窓枠を蹴り、夜の空へと飛び上がった。
大気を一蹴りすれば、その肉体は夜の闇を縫い付ける一本の赤い矢となって夜空を駆ける。
「さあて……行くぞ。地霊殿!」
月は鮮やかな真紅をした満月だ。吸血鬼の出陣には丁度良い。
レミリア・スカーレット――もとい、フランドール・スカーレットが行動を起こすには、実に相応しい夜だ。
◇ ◆ ◇
「お待ちしておりましたー! って……うにゅっ? フランドール様、ですよねー?」
「そうだけど、それが何か?」
「むむぅ……いめちぇんしたんですか? 何か変わった気が……?」
「気のせいでしょう。あるいは、貴女の記憶違いか目の錯覚」
「うーん。そうなのかなぁー? 髪の毛の色が……うにゅぅ?」
「それじゃあ、こいし……ちゃんのお部屋に行かせて貰うわね」
「ああ。はーい。お気を付けてー。こいし様ならパーティーホールにおられますよー」
地霊殿の玄関口で迎えてくれた地獄鴉を軽くあしらいながら、レミリアは地霊殿の奥へと足を進める。
彼女にとって地底世界とやらに来るのは初めての経験だが、空に太陽が無いと言うのは中々に魅力的に感じられていた。
先程の地獄鴉は太陽の化身だと聞くが、吸血鬼のレミリアが至近距離で話をしても特に影響は無かった。恐らくは、能力を制御しているのだろう。
むしろ、変装を感付かれた方がレミリアの肝を冷やさせたくらいだ。
「えっと、パーティーホール……ああ、ここね」
件のパーティーホールとやらはすぐに見つかった。
見る者を圧倒する重厚な扉は、流石地底の名所とでも言うべきだろうか。
一度――二度と深呼吸。呼吸を整え、レミリアは頭の中を今までで一番クリアにする。
私はレミリアではなくて、フランドール。狂気の吸血鬼。
私の名前はフランドール・スカーレット。
瞑想を終えた後、そこに居たのは少しばかり幼い瞳をした吸血鬼。
当主としてではなく、当主の妹としての吸血鬼――即ち、フランドールの瞳。
イメージトレーニングは完璧だ。
後は、目の前の扉を開け放つだけ。
声は元気良く、可愛らしく。
脳内に画いた愛おしい妹の仕草そのままに、扉を開く。
「こいしちゃーん! 来たよー!」
「あ、あら! フランちゃん……ようこそ、です……じゃなくって、ようこそだよ!」
其処に居たのは、一人のさとり妖怪。
萌黄色と緑の洋服に、可愛らしい帽子。少しばかり癖の付いたショートヘアは薄い紫色。
胸元には第三の瞳。その瞼はくっきりと開かれ、巨大な瞳がぎょろりと周囲を見渡している。
「えっ……えへへっ、フランちゃんに会えて嬉しいなあ♪」
何処と無く無理をしていそうな、引きつった笑顔のまま、"古明地こいし"は"フランドール・スカーレット"の手を取り、そして手の甲にキスをした。
「も、もうっ! こいしちゃんったら……めっ!」
地底の妖怪ったら大胆ねぇ――そんな事を考えながら、"フランドール・スカーレット"もまた"古明地こいし"の手にキスをする。
実に愛らしい、少女達の時間だ。
パーティーホールには猫や烏もおらず、少女の時間を邪魔する不届き者は存在しない。
けれども、もしもこの場に第三者――例えば博麗霊夢が居たならば、きっとその人物はこう突っ込んだだろう。
ア ン タ 達 、 こ い し と フ ラ ン じ ゃ な く っ て 、 さ と り と レ ミ リ ア じ ゃ ね ぇ か ! !
◇ ◆ ◇
(ど、どうしましょう……? バレて、いないですよね……?)
古明地こいし――もとい、古明地さとりもまた、妹の交友関係に胸騒ぎを感じる心配性のお姉ちゃんの一人だった。
地底に隔離され、忌み嫌われたさとり妖怪の妹である。
誰かに酷い事をされていないかが心配で心配で、夜も眠れず昼寝をする羽目になるのは一度や二度ではない。
そんな最中、彼女の耳に飛び込んだのはホームパーティーをすると言う報せ。
そこから先は迅速だった。睡眠薬。衣装剥ぎ取り。鼻血を流しながら作戦会議。今に至る。
結果、さとりはこいしとしてこの場に臨んでいたのだ。
心を見抜く第三の瞳で妹のお友達の本性を暴くつもりだったのだ。
彼女に計算違いがあるとすればたった一つ。
相手もまた、自分と同じく妹の変装をし、パーティーに潜り込んでいた事だろう。
「えへへっ、こいしちゃんにお呼ばれしたんだから来るのは当然だよ!」
「そ、そうよね……じゃなくって、そうだよね! うんうん! フランちゃんはお友達だもん!」
何処と無く、ぎこちない表情で語り掛けているのはさとりだ。
日頃からペットか妹を相手にしかコミュニケーションをしていない彼女の事。初対面の相手はどうしても苦手意識を抱いてしまう。
「……? こいしちゃん、調子でも悪いの?」
「べ、べちゅにっ、そんな事無いもん!」
「噛んでる。噛んでるよこいしちゃん」
そして、レミリアがそんなさとりの違和感に感付くのは早かった。
齢五百の吸血鬼である。人と運命を見るのには慣れている。
レミリアはじっとさとりの瞳を覗き込みながら、しばし考える。
(……どうしたのかしら? 何か、変ね? こいしちゃんって、こんな子なのかしら? 挙動不審?)
その思考はさとりの頭にも届いてしまい、結果、
「ちがっ、違うの! あの子は優しい子で――じゃなくて私、ちょっとだけ疲れていたからぼーっとしていただけなの!」
「あ、あらそう? 疲れているならパーティーなんかするよりもお休みした方が」
「らっ……駄目ぇー! 今日はチャンスで折角準備もしたんだからぁ!」
(いや、確かに私も準備とかはしたけどさぁ! アンタ絶対おかしいわよ!)
妙な会話が形成されてしまうのだ。
必死にこいしを演じようとするも空回りをしてしまうさとりと、見事にフランを演じきっているレミリア。
二人に何故この様な差が生じたかと言えば、日頃から「うー!」だの「たーべちゃーうぞー!」だのを叫んで遊んでいたからだろう。
カメラに撮られるのも苦手なさとりは、どうしてもシャイになってしまい、その様な吹っ切れたごっこ遊びが出来なかったのだ。
こっそり隠れて妹の服の臭いだのをクンクンと嗅ぐ事は出来たと言うのに。(尤も、レミリアは服どころか妹のドロワの臭いもしっかりと嗅いでいたのだが)
(う、うう……やっぱり、私もこいしに倣って殺戮だの何だのをした方が良かったのかしら……?)
「おーい。そう言えばぬえちゃんだけどさぁ」
「……! ぬ、ぬえちゃんね! もうすぐ来ると思うわ!」
「あら、そうなの?」(ふむふむ。もうすぐ三人揃うのか)
「え、ええ! 三人揃ったら一緒に遊びましょうね! 地底のワインやお菓子をいーっぱい用意したから!」
「ふふっ、それは楽しみね」(お酒かぁ……これは期待出来そう)
「う、うん! 楽しもうね!」(よ、良かったぁ……ごまかせた……吸血鬼だけに鬼と性質が似ていて、お酒が好きなのかもね)
二人の会話がぎこちなく進む最中、再びパーティーホールの扉が開かれる。
訪れたのは、三人目の招待客。封獣ぬえ――ではなくて、
「おっまったせぇー♪ えへへっ、到着だよぉー♪」
紫のメッシュがかかった波打つロングヘア。
ピチピチのミニスカートから覗くのは、すらりとした脚線美。
無理にサイズが合わない服を着たのだろうか? 胸元のボタンは弾けそうで、既に服の隙間からは豊満な乳房を覆う下着のレースが見え隠れしている。
背中にはダンボールで作られた羽。手に持つのは槍ではなく、巻物。
命蓮寺の尼僧・聖白蓮――with 封獣ぬえの衣服、である。
「なっ……!?」
「……!? で、でかい……?! 色々と!!」
「うぃっ! 封獣ぬえちゃん、遅れちゃったけど到着でーっす!」
ノリノリの白蓮は、無理にポーズを決めながら偽名を名乗る。
ぶちん。前かがみになった事でボタンが圧迫されたのだろう。
弾け飛んだボタンが壁にめり込み、少し送れて下着に包まれたバストが飛び出してしまった。
「ふぁん!? や、やーん!? もうっ、サイズの合わない服って嫌だわぁー♪」
なのに、どうしてだろうか。
白蓮が喜んでいるのは、どうしてなのだろうか。
……恐らくは、彼女も着たかったのだろう。封獣ぬえが身に纏う、ミニスカートやらリボンやらが愛らしいその衣服を。
「あ、ああ、ぬえちゃんね! うん!」(何て事なの……!? こいしがお付き合いをしている妖怪が、こんなエロエロ豊満ばでぃーの妖怪だったなんて!)
「あ、あははっ! ぬえちゃん、こんばんわ!」(クッ……これが、封獣ぬえ……?! 何と言う、際どい格好! 正体不明は偽りで、エロの妖怪か!)
「こんばんわぁー! えへへっ、こいしちゃんとフランちゃんに会えて嬉しいなぁ♪」(ふふふっ、我ながら完璧なご挨拶ですっ! 南無三っ!)
白蓮もまたぬえになり切っていたが為、さとりの読心能力を見事に回避成功。
かくして、今宵もEX三人娘のパーティーは開かれるのだ。
フランのフリをしたレミリア。こいしのフリをしたさとり。ぬえのフリをした白蓮。
全員が入れ替わっているせいで、誰もこの状況の異常さに気付けない。
そんな、異様な状態のままで。
◇ ◆ ◇
「そ、それじゃあまずは乾杯をしましょう」
「あっ! それじゃあ私はお菓子を開けるね!」
壊れかけのゼンマイ時計の様な、ぎくしゃくとした動きでワインを注ぐのはさとりだ。
同じくぎこちない動きでお菓子を開封したのはレミリア。
そして、その両者の視線はちらちらと白蓮の胸元へ注がれている。
やはり、どうしても気になってしまうのだろう。大きさとか、成長具合とかが。
両者とも白蓮が妹の友達だと思い込んでいるだけに尚の事。
(……くぅぅっ……こいしのお友達のくせに、どうしてあんなに大きなおっぱいを……!!)
(おのれぇぇぇ……!! エロい肉体を見せびらかしやがって!!)
恨めしそうに己の胸元を見下ろすさとりとレミリア。
その瞳には、嫉妬の炎がパルパルパルパルと燃え上がる音を立たせていた。
対する白蓮はと言えば、
「あっ、私はミルクが良いなぁー。それと、クッキーも!」
ノリノリである。全く気にしていない。
仏の如き広すぎる心でこの状況を楽しんでいるのだ。
ノーテンキとも言えるだろうが。
((そのバカでかい乳に、ミルクだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!! さらにデカくするつもりかお前はぁぁぁぁ!!!!!))
パルパルパルパル。
慎ましき乳を持つ二人の姉は、ただ嫉妬の炎を燃やすばかりである。
声には出さずとも、瞳は激憤している。
「は、はははっ、はい。クッキー」
ぷるぷると、震えた指でクッキーを差し出すレミリア。
「ミルクね……じゃなくって、だね。温めたのがあるから、どうぞ……だよ!」
引きつった口元でカップに注いだミルクを差し出すさとり。
両者とも、今にも白蓮に喰い付かんばかりの形相をしている。
「わーい! ありがとう!」
そんな二人に応じるのは、満面の笑顔でそれらを受け取る白蓮だ。
異常な空間だった。
青筋をこめかみに刻んだ二人の少女が、満面の笑みの少女――とは思えない、豊満な女性にお菓子とミルクを差し出しているのだ。
さとりとレミリアが発する妬みの殺意が白蓮のほのぼの時空によって捻じ曲げられ、パーティーホールに空間の断層を生み出そうとしている。
それくらい、異常な空間だった。
「えへへっ。お寺の生活ではこう言う贅沢品はご法度だから、すっごく美味しいね!」
「あ、そっか……ぬえ……ちゃんって、お寺で住んでるんだよね」(そう言えばそうだったわね。こいしの言うとおりだわ。厳しいお家なのかも)
「へぇー。ぬえちゃんって日頃は質素な生活なんだ」(……ふむ。成程……その服も仕立て直すお金が無くて着古したのを着ているから……って所かしら)
「うん。基本的に仏門では精進料理だからね」
満面の笑顔のまま、白蓮はワインとホットミルクを楽しむ。
一方のさとりとレミリアは、知られざる(と言うよりも知らなかっただけだが)白蓮の私生活に触れたせいだろう。
その厳しい家庭環境やら質素な生活に幾許かの同情の気持ちを抱いてしまい、ついつい嫉妬よりも慰めの気持ちが先行してしまったらしい。
嫉妬の炎は何処へやら。何時しか二人は白蓮に対し、雨の中拾った捨て猫の様な感情を抱いていたのだ。
「……よしよし。いっぱい食べなさい……じゃなくって、食べてね。ぬえちゃん」
「うんうん! 紅魔館から持って来たお土産もあるし、ぬえちゃんのお口に合うと良いなぁって思うよ」
「わーい! 二人ともありがとう!」
もっきゅもっきゅもっきゅ。
白蓮の頬に詰め込まれるお菓子やらジュースやら何やらのせいで、その姿はまるでハムスターの様だ。
そして、そんな白蓮に餌付け――もとい、お菓子の提供をしている二人はほんわかとした気持ちになってしまっていて、
「はぁ……ぬえちゃん……可愛いなぁ……」「うふふふっ……本当……ペットにしたいくらい、だわ……」
とろんと、寝ぼけた様な瞳でうっとりと白蓮を見つめるのだ。
吸血鬼とさとり妖怪。生まれつき、吸血行為や心を抉る能力を持った生き物である。相手を従えたい性癖でもあったのだろう。
「むぅー?」
そんな中、天然ポワポワの白蓮は二人の視線を飄々と受け流し、お菓子を食べている。
結果、何だかんだで平和な流れのまま時間が流れるパーティー会場なのだった。
◇ ◆ ◇
お菓子やお酒も底を尽いたとなれば、時間を稼ぐにはやはりお喋りだろう。
このパーティーには"妹の友達の調査"の名目で潜り込んだレミリアとさとりである。二人がお話をしようと、と持ちかけるのは当然の流れだった。
尤も、この場に居るのは二人の妹の友人ではなく、その名を偽る偽者なのだが。
「家族のお話?」
「うん! えっとね、ぬえちゃんのお世話になっている命蓮寺ってどんな所なのかなぁって、気になって」
「うーん……あんまり面白くないと思うんだけど」
「そんな事ないよ! ぬえちゃんのお話なら、何だって聞きたいもん!」
「あっ、それは私も気になりま――じゃなくて、気になる!」
「そう? こいしちゃんもそこまで言うのなら……」
そして、白蓮は己の寺について語り始める。
その瞳は優しく相手を惹きつける物。要するに説法モードだった。
「えっとね、私のお世話になっている命蓮寺は妖怪が中心のお寺なの。
毘沙門天様代理の寅丸さんと、部下のナズーリン。星蓮船船長のムラサちゃんに、番人の一輪と雲山……そして、尼僧の聖……白蓮」
「大所帯なのねぇ。紅魔館と同じくらいかしら」
「うん。多分同じくらいだと思うなあ。
それでね、んー……そうだな。それじゃあ、私から見た白蓮の事とか、お喋りしようか」
それは、あくまでも"ぬえから見た"白蓮の姿。
けれども、それを語るのは他ならぬ白蓮自身。
「……聖はね、きっと……私がフランちゃんとこいしちゃんとお友達になれた事を、喜んでいると思うなあ」
それが、白蓮の言葉。
「……ふぅん? それってつまり、どう言う意味?」
「うんうん。私も気になるなぁー」
「文字通り、そのままだよ。聖がもしもこの場に居たら、きっと"何時もウチのぬえがお世話になっていますね。今後とも仲良くしてあげて下さい"って言う気がしたの」
「なぁんだ。それってつまり、ぬえちゃんの勝手な思い込みじゃない」
「むぅー。でもでもっ! きっと聖ならそう言うもん!」
腕をぶんぶんと振り回しながら、白蓮はそう語る。
その表情は少しばかり意地を張っていて、さとりとレミリアの意地悪な笑みに反抗している様だ。
「あははっ、怒らせちゃったらごめんごめん」
「同じく。気分を悪くさせちゃったらごめんね。そこは謝る」
白蓮の膨らんだ頬を指先で突きながら、二人の姉は軽く謝罪をした。
そして、
「でもまあ……うん。確かにそうだね。私のお姉様……レミリアお姉様もきっと、同じ気分だと思うわ
こんなに優しくて、個性的で、仲の良いお友達と一緒なのだから……このお友達は大切にしなさいって、きっと言うはずだわ」
「うーん……私のお姉ちゃんも同じかなあ。
心を読むまでもなく、良いお友達だから一生大切にしなさい! もしお友達に悪い事をしたら、灼熱地獄に放り込むわよ! なんて言われそう」
二人もまた、白蓮と同じく言葉を続ける。
語るのは本人ではなく、語る上での立場その保護者や姉として。
けれども、その言葉に偽りは無く。
皆、自分の妹や居候がこの輪の中で遊べる事を、喜んでいた。
皆、自分の大切な妹や居候に、素晴らしい友達が出来た事に喜びを感じていたのだ。
ただ、それは本物のフランドール・スカーレットや古明地こいし、封獣ぬえを相手にしたのではなく、その保護者を相手にして感じた感情。
それ故に三者三様。いずれ、きちんと自分の口から相手に言わねばならないな――その様な事を、ふと考えながら。
「……まあ、うん。お姉様達の事はどうだって良いわ! それよりほら、ゲームゲーム! 次は何をして遊ぶ?」
「あ、ああ、うん! それじゃあダーツでも――」
頭を切り替えるべく、レミリアが立ち上がって次の遊びを提案する。
追って立ち上がったのはさとりだ。遊ぶ道具に詳しいのはやはり地霊殿の住人である彼女なのだから。
だが、そこでトラブルが起こる。
やはり着慣れない服を着ていたせいなのだろう。立ち上がろうとした瞬間、さとりがスカートの裾を踏んでしまい、その結果、
「――ひゃぁぁっ!?」
「わっ!? うぁぁっ!?」
「きゃー!!」
ずるぺったんと転んださとりは、レミリアと白蓮の身体に覆いかぶさる形になってしまう。
重ねて不運な事に、さとりの第三の瞳のケーブルが都合良く、否、悪く絡み合い、ちょっとした緊縛状態になってしまった。
「わっぷ!? こ、こいひ、ちゃん! 絡まってる! 絡まってるってばぁ!」
「むやぁ!? ひょ、ひょいてぇ!?」
「……んぁっ……ちょ、ちょっと……ムネの、谷間にっ……」
「「でぇぇいい! ぬえちゃんはこんな時でもムネの自慢かぁぁぁ!!!」」
「ち、違うもん! なんかムネにフランちゃんの羽がっ……ひゃわぁっ!」
ぐいぐいとケーブルを引っ張って解こうと試みるものの、無理に引っ張ればさとりが痛がるのでそれも中々出来ない。
むしろ、身をよじるせいでより一層複雑にケーブルと四肢が絡み合い、どんどん深く絡まってしまう。
「わ……わわわっ!? ぬ、ぬえちゃんスカート! スカート捲れてる!」
「ふぇ――や、やぁぁぁ!!! ちょ、ちょっとストップぅ! 動いちゃ駄目ぇぇ!!」
「む、無理ですっ、じゃなくて無理だよぉ!! なんかほら、ぬえちゃんのムネとか、なんかぐいぐい押してくるからこっちも動くに動けなくって」
「わわわわわー!? ただでさえミニスカで際どいのに尚の事ー!?」
雁字搦めに結ばれた三人。
お互いの肌がぴっとりと触れ合っていて、ちょっとしたドキドキの展開なのかもしれない。
けれども、実際にはお互いの身体が拘束されていてうかつに動けないと言う状況なのだ。もはやどうすれば良いのか、と三人が思ったその瞬間、
「――あらあらあら、"フラン"ったら、いけない子だわァ?」
「――うふふふっ……ねぇ、"こいし"? 何をしているのかしらぁ?」
「……もごもご……まっひゃくもふ! ぬえっひゃら……!!」
不意に、パーティーホールに声が響いた。
それは、無邪気な声。
けれども、明らかに殺意の込められた声だ。
「……!?」
「今の声って……まさか」
「あ、あら? バレちゃいましたかねぇー……?」
そして、床の上で雁字搦めになっている三人の前に、声の主が現れる。
フランドール・スカーレット、古明地こいし、封獣ぬえ――その三人が、それぞれレミリアとさとりと白蓮の服に身を包んでいたのだ。
ちなみにだが、ぬえはサイズが二段階くらい大きな服を被っているせいで手足はダボダボ。顔も服に埋め込まれた様な状態である。そのせいか声がくぐもっていて、何を喋っているのかサッパリ分からない。
もはやその姿は、正体不明「怪獣ジャミラ」とでも形容するべきだろうか。
何にせよ、彼女達は怒っていた。
滅茶苦茶怒っていた。
顔が中途半端にしか見えないぬえはともかくとして、フランとこいしは明らかに怒っていた。
それも、姉の服を身に纏い、姉としてである。
自分の服を勝手に着た挙句、友達を値踏みする様な目的でパーティーに潜入されたのだ。怒らない理由は無い。
「うふふぅ。いけないわねぇ、私の妹の"フラン"ったら……」
「そうそう。"レミリア"さんったら、悪戯好きな妹を持つとお互いに苦労しますわねぇ……ねぇ、"こいし"?」
「もぐもひゅ! ぬへっひゃりゃ、いけなひほ!」
そして、三人の"保護者ズ"はにやにやと笑みを浮かべたままで、じりじりと床の上で絡み合う"妹ズ+居候"へと迫る。
「ま、待ってフラ――ええい! "レミリアお姉様"! これはちょっとした誤解で!」
「そ、そうよ"お姉ちゃん"! これはその……えっと……私の無意識が誤作動で!」
必死に弁明をするレミリアとさとり。
もはや姉の立場も金繰りすてて、妹から姉への弁明であった。
だが、
「うふふふふっ。あのねぇ、"フラン"? 別に私はなぁんにも怒ってはいないのよぉ?
ただ、絡まっているのを何とかしてあげたいだけ。姉として、手を貸してあげたいのよ」
「そうそう。"お姉ちゃん"は"こいし"の事がだぁい好きだから、手助けをしてあげたいだけなのよー?」
「もふもぐっ! まっひゃふもふ! ひひりふぁかわらふぁいにゃ!」
"保護者ズ"はそんなのを聞き入れない。
それどころか、大切な妹達のピンチを救う為だ、と言う事にして懐からスペルカードを取り出しているのだ。
「待って! 待っててばぁ!」
「や、やぁぁぁ!?!?! ストップ、ストップよ"お姉ちゃん"!」
「あ、あははっ……あの、えっと……"聖"? これはちょっとしたコスプレでして……」
心を込めた最後の弁明。
だが、
「こぉんなに月が綺麗な夜だったし、コンテニュー出来ないくらい助けてあげようかしらァッ!」
「ふふっ、ふふふふふっ……眠りを覚ます無意識の記憶に震えるが良い!」
「まほひょにひゃんひゃらかんひゃらであひ、すっふぉいひょーひょーれありゅ! いひゃ、なふふぁん!」
同時に放たれた"保護者ズ"のスペルカードによって、壁の染みと化したのであった。
何にせよ絡まっていた状況からは回復したのだ。その点では救われたのかもしれない。
かくしてレミリア達、過保護過ぎる保護者の陰謀は打ち砕かれた。
あまりにも、大きなダメージを伴いながら。
◇ ◆ ◇
「もうっ! お姉様ったら妙な事を考えるんだから……!」
「う、うぅー……ごめんってばぁー……ふーらーんー!」
翌日の紅魔館。
未だにご機嫌ナナメの妹を前に、カリスマ欠乏気味の当主がそこに居た。
「しかもこいしちゃんのお姉様と、ぬえちゃんの保護者さんまで同じ事を考えて……はぁ……皆同じレベルなのかしら……
全くもう。皆カリスマ不足だわ」
「うぅー……これでも竹林でカリスマを集める壷とかは買っているのにー」
「それ、絶対詐欺よお姉様」
がぁんとショックを受ける姉を放置したまま、フランは廊下を進む。
昨夜のパーティーにて、自分達の名を偽って参加した面々は皆"自分の妹や居候に、こんなに素晴らしい友達が出来て良かった"と口にしたらしい。
けれども、それは偽りの相手で思った事だ。
発した側も身分を偽ったならば、発させた側も身分を偽っていた。
ならば――それならば、
「……はぁ。次は私達三人に保護者も加えて、ちょっとばかり大きなパーティーを企画しようかしら」
ならば、次はしっかりと"ありのままの自分達"を見てもらって、その上で同じ言葉を口にさせたい。
そう、フランは考えていた。
一度口にさせた言葉だ。
二度目を導くのは簡単なはず。
出来ない事ではない。
ありのまま、そのまま。
日頃の自分達の姿を見せればきっと、あの姉達も心の底から、身分を偽らずにその言葉を口にするだろう。
不思議と、フランには確信があった。友達と姉に対する信頼から生じる、確固たる確信が。
ふと窓の外を見上げれば、少しばかり欠けた満月が幻想郷を照らしている。
きっと、あの二人もこの月を見上げながら……あるいは地底世界からこの月を夢想しながら、同じ事を考えているのだろう。
次はきっと、ありのままの自分達の姿で友情を認めさせよう、と。
「……やれやれね」
「ふーらーんー! ほら見てよこの御札! モリヤ印のカリスマ御札で、信仰に応じてカリスマが」
「それも多分詐欺」
「がぁん……」
御札を持ったまま、砂になって崩れ落ちた姉。
そんな姉を放置しながら次のパーティーの予定を立てるフランであった。
次の招待状は、全部で五通作らないといけないなぁ――なんて事を考えながら。
なんて恐ろしいものを考えるんだ作者よ……。
やっぱり怪獣も幻想入りするのだろうか
内容としては、やや物たりなさがありました。せっかく結成した偽物三人娘かなのですからもうちょいイベントがほしかったなあと
ぬえの代役はムラサだと信じていたのにー!
そんな作者様の心意気が伝わってくるお話ですねぇ。
設定は強引ですが、この発想とノリは大好きです。
特に白蓮様の勇者っぷりには頭が下がりますよ。まったく、無茶しやがって……
主に、聖さんの無茶n
代役はムラサの方が合うかもしれないけど
聖様でなければ、このインパクトは出ないと思うw
あっけなくその服は少女の体躯身体を受け入れていた。→体躯身体の部分がミス? 重複による表現ならスルーして下さい
満面の笑顔のまま、白蓮はワインとクッキーを楽しむ。→ワインではなくミルクでは?
以上です
でも一つだけ、ぬえ、お願いだからちゃんと食い終わってから話してくれ……
>次のパーティー
フランが招待主で①さとり②こいし③白蓮④ぬえ⑤レミリアを招待する
あと一通の招待状は誰宛だろう
とっても面白かったです!
しかしずっと見たいと思ってた保護者会がまさかこんな形で見ることになろうとはww
さとりんの能力でもバレないとは一体どれだけなり切ってるんだww
ぬえの体型であのミニだというのに一体股下何センチになってるというのだ……
それにどう考えても胸のボタン閉められたことが既に奇跡に近いww
今日ほど絵を描くことの出来ない自分を恨めしいと思ったことはない。
誰か!ひじりんの絵を描いてください!!マジお願いします!
以心伝心とはこの事か!誰かイラストを(ry
大変笑わせて頂きましたw
普通に保護者同士の面談すりゃ、カリスマも面子も保てたろうに…w
でも、可愛い妹たちを思えば余裕無くすのも已むなしですねw
話の流れ的に5人目は俺だな
パッツンパッツンのひじりんにパッツンパッツンされたいよう
あとレミリアは誰か止めろよw
三人とも考えてることが同じとかww
誰か! 誰か絵師はおらぬか!ww
3人のなりきりに終始笑いっぱなしでしたww
おねえちゃん達かわいすぎでしょう……