注意、このお話は東方projectの二次創作です。
オリ設定が存在します。
とある場所に綿の如く広げられている白く細い繊維の集まった絨毯がある。
見上げる程に屹立した場所は広大な綿畑から採取し積み上げられたものを思い起こさせ
見た目通りに柔らかなその場所は、とある妖怪の格好の休憩場所になっている。
空は雲が多く、数えればキリが無い。
だが、彼女達が休んでいる場所は雲の上である。
当然の事ながら横になり上を見上げれば圧倒される程の晴天の青空を拝む事が出来る。
今日の為に拵えた日本酒の入った瓢箪を腰に二つ下げながら二人は穏やかな表情を浮かべていた。
本来は寒い筈の上空に幻想の為か春の陽気を思わせる暖かな微風が顔を撫でる。
普段は厳つい表情の時代親父は柔和な態度で微睡に身を任せ、
真面目で通っている少女は自身の特徴ともいえる頭巾を被ったままゆったりと寝転んで眠っていた。
と少女は体を支配する気怠い感覚から頭を覚醒させる。
「ご、ごめんなさい。 あまりに気持ちが良くて眠ってしまったわ」
頭巾を被っている少女は自身を支配していた眠気と言う快楽から逃れ傍にいた厳つい顔の時代親父に謝罪をした。
謝られた彼は少女の言葉なぞ何処吹く風。
暖かな微風は彼の雲の身体と一体になり、快楽にも似たものを止め処なく送り続けていた。
「う・ん・ざ・ん」
少女の言葉に雲山は目を覚ます。
厳つい顔と皺の寄った眉間。 見た目から近寄りがたい彼が見た通りに慌てふためいていた。
「すまなかった一輪。 ですって? はぁ、私と寝食を共にしている貴方に怒る訳がないでしょう。
折角の休みに昔を懐かしんで酒を呑もうと言ったのは貴方です。
私が謝っても、貴方が謝る事は道理に合っていません」
一輪と言われた少女が半ば説教染みた言い訳をしようと、
頑固頭な時代親父、雲山がその事に”うん”と言う筈もなく、
場にはお互いがお互いの為に謝り合うという傍から見れば滑稽な光景が広がっている。
結局はいつもの通り一輪がその機転の利く頭で”はいはい”と流した。
余談であるがこの二名、性別は違えど兄弟よりも深い信頼があり親子よりも深い絆がある。
その為、一輪は彼の頑固な所と剛腕に感心し、雲山は彼女の座った肝と冷静な判断に惹かれている。
その様は戦国時代の義兄弟達を彷彿させた。
「はい、雲山」
一輪が腰の瓢箪を手に取り、懐に忍ばせていた杯を雲山に渡す。
片手で差し出された瓢箪を何ら気にする事無く杯で受け、彼にとって小さい器に並々と酒が注がれていく。
「ありがとう? 何を言っているの?」
その言葉は彼の心に響いた。 彼は浮かぶ涙を隠す様に主君とも呼べる少女の酒を一気に呷る。
杯に酒はなく、頬が若干赤く染まった彼は彼女から瓢箪を受け取ると返礼をした。
「ありがとう、雲山」
言葉は無くとも心は繋がっている。 彼女達二人を見ればその言が偽りで無いと理解出来よう。
返礼を受け取った一輪はちびりちびりと酒を啜っていく。
それは慕う者への罪悪感か、それとも慕う者の信仰する宗教の戒律の為か、彼女の性格が悪い意味で作用していた。
悩む心、頭とは裏腹に苦難の続いた時代の名残に抵抗できる筈もなく、彼女も杯を空にする。
一つ空ければ罪悪感は薄れ、彼が上機嫌で雷を呼ぶ頃には彼女の頬も朱に染まり、次に酒が注がれる事を楽しみにしていた。
二人だけの宴会が楽しさを増す中、突然と関係の無い場所から声が掛けられた。
「見たよ、聞いたよ、匂ったよ」
二人が声の場所も見ようとも姿は見えず、ただ霧の様な靄がかかっているだけであった。
別段慌てる事もなく、周りを見回すが誰もおらず状況は変わらない。
と二人の眼前で靄が萃まり少女の姿を形作っていく。
一輪は冷静に、雲山は拳を握り警戒をしていた。
「やぁやぁ、初めましてだね。 まぁ私はあんた達の事は知っているんだけどね」
頭に双角を持ち角や後髪にはリボンが巻かれ、両腕には分銅がぶら下げられている。
見た目が幼い少女がその場に現れると、宙でうつ伏せになり寝転がって二人を見下ろした。
「私は伊吹萃香、鬼だ」
「その鬼の萃香さんが私達に何の用ですか?」
一輪は目線よりやや高い位置に居る萃香に目的を聞く。
すると、くくくと楽しそうな含み笑いが聞こえる。
彼女が疑問に思う中、目の前の鬼は宙でゆっくりと立ち上がり目的を述べた。
「大体の奴は最初に同じ様な質問をするんだな。 そうだね、楽しそうな声と盃、今日はその腰の物を頂きに来たんだ」
「貴女の腰には立派な瓢箪がぶら下げられているのに、こんなちっぽけな物が欲しいのですか?」
「大きいとか小さいとかはさしたる問題じゃない。 私が呑みたいと言っているのだ、鬼は欲しい物があれば躊躇はしない」
会話から目的を理解する。 鬼ともあろう者が盗人の真似事をしようと言うのだ。
理由は述べたから、と言う事で萃香は一歩を踏み出す。
それに先に反応したのは雲山であった。 顔を烈火の如く真っ赤に染め巨大な雲の拳を萃香に向ける。
「ふ~ん、見越し入道風情が私に何をしようと言うの?」
「俺の大切な恩人に手を向けるのならば容赦はせん。 と雲山は申しております」
「はっ! 面白い! 何が出来るか見せてみなよ」
同じ雲に降り立った萃香の前に立ちはだかる雲山。
彼は両拳を握り顔の横に掲げるとグングンと大きくなっていった。
萃香は大きくなっていく姿をそのまま見上げていく。
その姿は止まる事を知らず彼女の前方を完全に塞ぎ影で覆ってしまった。
「見越し入道、見越したぞ!」
萃香が放った言葉に巨大化が止まる。
その様子にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、次の一手を待った。
「俺の恩人を侮辱する真似は許さん。 と雲山は申しております」
「どうした? 見越したぞ? お前はその前に私の首を刈るのではないのか?」
尚も嫌らしい笑みを浮かべたまま、見上げる為に顎が突き出されている。
白樺の様な白く傷一つない首はさらけ出されたままであった。
スカッ……。
しっかりと把握できる程に実体化した真空波が彼女の喉をぱっくりと切り裂く。
その為に一瞬にして彼女の動きも毒づいた言葉も嫌らしい笑みも止まる。
だが、見下ろし勝利を確信している雲山に対してギョロリと目が上を向いた。
「恐ろしい、恐ろしいと噂されていた見越し入道もこの程度か……
人間如きに飼われここまで力を落としているとは残念でならないよ」
「雲山は貴女より強い……」
「これが幻想の中の現実だ。 相手の土俵で戦おうとも私に勝つ事はおろか傷をつける事さえ出来ない」
切り裂かれた喉からは霞が出ており、損傷はおろか怪我の素振りさえ無い。
彼が巨大化した時と同じ姿勢をとると、萃香は叫んだ。
「鬼神、ミッシングパープルパワー!」
雲山と同じ大きさになった彼女は体ごと腕を突き出し組みかかった。
今まで大きさと剛腕で圧倒していた彼にとって自分よりも大きな者と出会う事は初めてであった。
皮肉にも自分と同じ戦法で圧倒された彼は雲の様に散っていく。
残った小さな顔の雲は普段から想像も出来ない程弱気な顔で一輪の後方に逃げていった。
巨大化した萃香も霧状になり、うねりながら一輪の腰目がけて進んでいく。
パシ……。
霧は彼女の腰からまだ口を付けていない瓢箪を抜き取った。
一輪の後方、少し小高い雲に霧が萃まり再び彼女の身体を形作っていく。
最初に現れた時と寸分変わらない鬼は座りながら戦利品の瓢箪を口に付け楽しそうに酒を呷り始めた。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁ。 いやぁ、良い所までいったのに残念だったねぇ。
最初から渡してくれれば痛い目を見なくて済んだのに」
一輪は雲山が負けた現実を見たく無いのか振り向けずにいた。
その様子に勝利を確信する萃香。 酒によって笑い上戸になっている彼女は上機嫌で高らかに笑い、更に酒を呷る。
その様子に一輪の半開きだった口が吊り上る。
「……ねぇ、萃香さん。 お酒は美味しいですか?」
「へぇ、殊勝だねぇ。 何ならもう一つ貰ってあげようか?」
「鬼殺しはご存知で?」
「これがそうだって言うのか? ホラを吹くのはよせよ、こんな美味しい酒がそんな三等品と同じ訳がないだろう」
「思いは言葉に言葉は現実に、その事実だけで貴女は大好きな酒に負けるのです」
……ぎゅるぉぉぉぉ。
突然、萃香の腹部から内部をかき乱す音が響く、その音からは明らかな異常が聞き取れた。
次いで腹痛の症状があらわれ、痛々しい表情で腹部を押さえた。
「ふぐっ。 負けてない、私は負けてないぞ。 勝負はお預けだ」
「あら、ではそういう事にしておきましょう。 貴女が普通に酒を呑みたいなら争う理由もありませんしね」
あまりの腹痛であったのだろう。
彼女は霧状に姿を変える事も出来ず雲から飛び降り、下の地面に降り立つと一直線にある場所へ走り去って行った。
「えっ? この酒が本当に鬼殺しか? さあ、どうだったかしら?」
萃香の投げた瓢箪を回収し腰に再び下げながら、一輪は雲山の疑問をはぐらかす。
と、下から傲慢さが見え隠れする声が掛けられた。
「萃香が走り去ったから何かと思えば、中々面白そうな奴が居るわね。
そこは私の庭よ、勝手に入った罰として暇潰しに付き合いなさい」
「総領娘様、その様な事ばかりしていては比那名居の名に泥が付きます」
「うるさいわね。 小鬼を倒したこいつを倒せば、私の名声はグンと上がるわ。
お父様だってきっと認めて下さるに違いない」
「あやややや、これは面白い事が起きていますね。 少し失礼しますよ」
そこに何処からか鴉天狗まで現れ、場は収拾が着きにくい状況となってしまった。
唯一羽衣を纏っている少女だけ常識を持ち合わせている様だが、何の意味もなしていない。
まだ、日は一番高くまで登っていないが帰りが遅くなるのだろうなと一輪は考える。
脳裏には彼女が慕う者の説教をする姿と心配して涙を浮かべる姿が思い浮かぶ。
「姐さんにも困ったものだ……」
そう呟くと天人の少女の言う暇潰しに付き合う為、雲から飛び降りた。
空は澄み渡るほど青く、気ままに流れる雲はその場から流れていった。
とある少女の休日は休む事を許してはくれないようである。
オリ設定が存在します。
とある場所に綿の如く広げられている白く細い繊維の集まった絨毯がある。
見上げる程に屹立した場所は広大な綿畑から採取し積み上げられたものを思い起こさせ
見た目通りに柔らかなその場所は、とある妖怪の格好の休憩場所になっている。
空は雲が多く、数えればキリが無い。
だが、彼女達が休んでいる場所は雲の上である。
当然の事ながら横になり上を見上げれば圧倒される程の晴天の青空を拝む事が出来る。
今日の為に拵えた日本酒の入った瓢箪を腰に二つ下げながら二人は穏やかな表情を浮かべていた。
本来は寒い筈の上空に幻想の為か春の陽気を思わせる暖かな微風が顔を撫でる。
普段は厳つい表情の時代親父は柔和な態度で微睡に身を任せ、
真面目で通っている少女は自身の特徴ともいえる頭巾を被ったままゆったりと寝転んで眠っていた。
と少女は体を支配する気怠い感覚から頭を覚醒させる。
「ご、ごめんなさい。 あまりに気持ちが良くて眠ってしまったわ」
頭巾を被っている少女は自身を支配していた眠気と言う快楽から逃れ傍にいた厳つい顔の時代親父に謝罪をした。
謝られた彼は少女の言葉なぞ何処吹く風。
暖かな微風は彼の雲の身体と一体になり、快楽にも似たものを止め処なく送り続けていた。
「う・ん・ざ・ん」
少女の言葉に雲山は目を覚ます。
厳つい顔と皺の寄った眉間。 見た目から近寄りがたい彼が見た通りに慌てふためいていた。
「すまなかった一輪。 ですって? はぁ、私と寝食を共にしている貴方に怒る訳がないでしょう。
折角の休みに昔を懐かしんで酒を呑もうと言ったのは貴方です。
私が謝っても、貴方が謝る事は道理に合っていません」
一輪と言われた少女が半ば説教染みた言い訳をしようと、
頑固頭な時代親父、雲山がその事に”うん”と言う筈もなく、
場にはお互いがお互いの為に謝り合うという傍から見れば滑稽な光景が広がっている。
結局はいつもの通り一輪がその機転の利く頭で”はいはい”と流した。
余談であるがこの二名、性別は違えど兄弟よりも深い信頼があり親子よりも深い絆がある。
その為、一輪は彼の頑固な所と剛腕に感心し、雲山は彼女の座った肝と冷静な判断に惹かれている。
その様は戦国時代の義兄弟達を彷彿させた。
「はい、雲山」
一輪が腰の瓢箪を手に取り、懐に忍ばせていた杯を雲山に渡す。
片手で差し出された瓢箪を何ら気にする事無く杯で受け、彼にとって小さい器に並々と酒が注がれていく。
「ありがとう? 何を言っているの?」
その言葉は彼の心に響いた。 彼は浮かぶ涙を隠す様に主君とも呼べる少女の酒を一気に呷る。
杯に酒はなく、頬が若干赤く染まった彼は彼女から瓢箪を受け取ると返礼をした。
「ありがとう、雲山」
言葉は無くとも心は繋がっている。 彼女達二人を見ればその言が偽りで無いと理解出来よう。
返礼を受け取った一輪はちびりちびりと酒を啜っていく。
それは慕う者への罪悪感か、それとも慕う者の信仰する宗教の戒律の為か、彼女の性格が悪い意味で作用していた。
悩む心、頭とは裏腹に苦難の続いた時代の名残に抵抗できる筈もなく、彼女も杯を空にする。
一つ空ければ罪悪感は薄れ、彼が上機嫌で雷を呼ぶ頃には彼女の頬も朱に染まり、次に酒が注がれる事を楽しみにしていた。
二人だけの宴会が楽しさを増す中、突然と関係の無い場所から声が掛けられた。
「見たよ、聞いたよ、匂ったよ」
二人が声の場所も見ようとも姿は見えず、ただ霧の様な靄がかかっているだけであった。
別段慌てる事もなく、周りを見回すが誰もおらず状況は変わらない。
と二人の眼前で靄が萃まり少女の姿を形作っていく。
一輪は冷静に、雲山は拳を握り警戒をしていた。
「やぁやぁ、初めましてだね。 まぁ私はあんた達の事は知っているんだけどね」
頭に双角を持ち角や後髪にはリボンが巻かれ、両腕には分銅がぶら下げられている。
見た目が幼い少女がその場に現れると、宙でうつ伏せになり寝転がって二人を見下ろした。
「私は伊吹萃香、鬼だ」
「その鬼の萃香さんが私達に何の用ですか?」
一輪は目線よりやや高い位置に居る萃香に目的を聞く。
すると、くくくと楽しそうな含み笑いが聞こえる。
彼女が疑問に思う中、目の前の鬼は宙でゆっくりと立ち上がり目的を述べた。
「大体の奴は最初に同じ様な質問をするんだな。 そうだね、楽しそうな声と盃、今日はその腰の物を頂きに来たんだ」
「貴女の腰には立派な瓢箪がぶら下げられているのに、こんなちっぽけな物が欲しいのですか?」
「大きいとか小さいとかはさしたる問題じゃない。 私が呑みたいと言っているのだ、鬼は欲しい物があれば躊躇はしない」
会話から目的を理解する。 鬼ともあろう者が盗人の真似事をしようと言うのだ。
理由は述べたから、と言う事で萃香は一歩を踏み出す。
それに先に反応したのは雲山であった。 顔を烈火の如く真っ赤に染め巨大な雲の拳を萃香に向ける。
「ふ~ん、見越し入道風情が私に何をしようと言うの?」
「俺の大切な恩人に手を向けるのならば容赦はせん。 と雲山は申しております」
「はっ! 面白い! 何が出来るか見せてみなよ」
同じ雲に降り立った萃香の前に立ちはだかる雲山。
彼は両拳を握り顔の横に掲げるとグングンと大きくなっていった。
萃香は大きくなっていく姿をそのまま見上げていく。
その姿は止まる事を知らず彼女の前方を完全に塞ぎ影で覆ってしまった。
「見越し入道、見越したぞ!」
萃香が放った言葉に巨大化が止まる。
その様子にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、次の一手を待った。
「俺の恩人を侮辱する真似は許さん。 と雲山は申しております」
「どうした? 見越したぞ? お前はその前に私の首を刈るのではないのか?」
尚も嫌らしい笑みを浮かべたまま、見上げる為に顎が突き出されている。
白樺の様な白く傷一つない首はさらけ出されたままであった。
スカッ……。
しっかりと把握できる程に実体化した真空波が彼女の喉をぱっくりと切り裂く。
その為に一瞬にして彼女の動きも毒づいた言葉も嫌らしい笑みも止まる。
だが、見下ろし勝利を確信している雲山に対してギョロリと目が上を向いた。
「恐ろしい、恐ろしいと噂されていた見越し入道もこの程度か……
人間如きに飼われここまで力を落としているとは残念でならないよ」
「雲山は貴女より強い……」
「これが幻想の中の現実だ。 相手の土俵で戦おうとも私に勝つ事はおろか傷をつける事さえ出来ない」
切り裂かれた喉からは霞が出ており、損傷はおろか怪我の素振りさえ無い。
彼が巨大化した時と同じ姿勢をとると、萃香は叫んだ。
「鬼神、ミッシングパープルパワー!」
雲山と同じ大きさになった彼女は体ごと腕を突き出し組みかかった。
今まで大きさと剛腕で圧倒していた彼にとって自分よりも大きな者と出会う事は初めてであった。
皮肉にも自分と同じ戦法で圧倒された彼は雲の様に散っていく。
残った小さな顔の雲は普段から想像も出来ない程弱気な顔で一輪の後方に逃げていった。
巨大化した萃香も霧状になり、うねりながら一輪の腰目がけて進んでいく。
パシ……。
霧は彼女の腰からまだ口を付けていない瓢箪を抜き取った。
一輪の後方、少し小高い雲に霧が萃まり再び彼女の身体を形作っていく。
最初に現れた時と寸分変わらない鬼は座りながら戦利品の瓢箪を口に付け楽しそうに酒を呷り始めた。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはぁ。 いやぁ、良い所までいったのに残念だったねぇ。
最初から渡してくれれば痛い目を見なくて済んだのに」
一輪は雲山が負けた現実を見たく無いのか振り向けずにいた。
その様子に勝利を確信する萃香。 酒によって笑い上戸になっている彼女は上機嫌で高らかに笑い、更に酒を呷る。
その様子に一輪の半開きだった口が吊り上る。
「……ねぇ、萃香さん。 お酒は美味しいですか?」
「へぇ、殊勝だねぇ。 何ならもう一つ貰ってあげようか?」
「鬼殺しはご存知で?」
「これがそうだって言うのか? ホラを吹くのはよせよ、こんな美味しい酒がそんな三等品と同じ訳がないだろう」
「思いは言葉に言葉は現実に、その事実だけで貴女は大好きな酒に負けるのです」
……ぎゅるぉぉぉぉ。
突然、萃香の腹部から内部をかき乱す音が響く、その音からは明らかな異常が聞き取れた。
次いで腹痛の症状があらわれ、痛々しい表情で腹部を押さえた。
「ふぐっ。 負けてない、私は負けてないぞ。 勝負はお預けだ」
「あら、ではそういう事にしておきましょう。 貴女が普通に酒を呑みたいなら争う理由もありませんしね」
あまりの腹痛であったのだろう。
彼女は霧状に姿を変える事も出来ず雲から飛び降り、下の地面に降り立つと一直線にある場所へ走り去って行った。
「えっ? この酒が本当に鬼殺しか? さあ、どうだったかしら?」
萃香の投げた瓢箪を回収し腰に再び下げながら、一輪は雲山の疑問をはぐらかす。
と、下から傲慢さが見え隠れする声が掛けられた。
「萃香が走り去ったから何かと思えば、中々面白そうな奴が居るわね。
そこは私の庭よ、勝手に入った罰として暇潰しに付き合いなさい」
「総領娘様、その様な事ばかりしていては比那名居の名に泥が付きます」
「うるさいわね。 小鬼を倒したこいつを倒せば、私の名声はグンと上がるわ。
お父様だってきっと認めて下さるに違いない」
「あやややや、これは面白い事が起きていますね。 少し失礼しますよ」
そこに何処からか鴉天狗まで現れ、場は収拾が着きにくい状況となってしまった。
唯一羽衣を纏っている少女だけ常識を持ち合わせている様だが、何の意味もなしていない。
まだ、日は一番高くまで登っていないが帰りが遅くなるのだろうなと一輪は考える。
脳裏には彼女が慕う者の説教をする姿と心配して涙を浮かべる姿が思い浮かぶ。
「姐さんにも困ったものだ……」
そう呟くと天人の少女の言う暇潰しに付き合う為、雲から飛び降りた。
空は澄み渡るほど青く、気ままに流れる雲はその場から流れていった。
とある少女の休日は休む事を許してはくれないようである。
この一輪さんが天子と絡んだら、どんな会話をするのか気になる…
人物がイキイキと動くのがいい
タイトルで某プリキュアの変身台詞を思い出しました。
このSSの続きが気になりますね。