人間ってほら、短命じゃない?
まぁ、偶に長生きするのもいるけどね。それでもたかだか100年でしょう?
儚いわね。私が言える事じゃ無いのかも知れないけれど。
__あら、ごめんなさい。自律人形が貴方を邪魔してたみたい。
取材と言う体裁だものね。ほら、お菓子でもあげるからあっちで待ってて。
失礼したわ。で、あいつの人柄について、だったかしら?
ええそうね。
少なくとも良いとは言えないわね。罪の意識が欠落してるわ。
まぁ、周知の事実ね。三途の川も長そうだし。
でも、根は悪くなさそうだったわ。割と一人でいる時の方がいい子だったりしたかもね。
盗みの被害?私はあまりなかったわね。貸すようなものないから。
しょっちゅう本を盗(か)りに行ってたんでしょう?そりゃあ館の魔女も怒るわけね。
あ、そういえばお茶を出してなかったわ。いいえ、遠慮する必要はないのよ。
記者とはいえ客人だから。それ相応の扱いを受ける権利があるの。
………
そういって、彼女は人形に紅茶を淹れさせた。
当然彼女の意思で動かしている人形には、彼女の性格も反映されてるのであろう。
実に丁寧な淹れ方である。
安心したような落ち着いたようなそんな溜息を吐く。
まるで秋先の空へと溶け込むように風が流れる。
今こうして人形の淹れた芳しい紅茶を頂き、彼女の話を聞いているのはただの遊びや世間話の類ではない。
大分前__あるいはつい最近__私達の時間と空間の中に強く存在していた人物のことについて取材をしている。
できることなら、ここには取材ではなく、私用でまったり閑を取りたいくらいだった。
瘴気溢れる森にしては空気が澄んでいる。
秋の、厭になってしまいそうなほどの高い冴えた空が見える。
………
それで?仲はどうだったか?
良くも悪くもないと思うわ。宴会とかには呼んでもらったりはしたけどね。
あの人間三昧、割と顔は広いのよねえ。いやまあ妖怪退治しているんだったら当たり前だろうけど。
うん、今となっては昔、ね。懐かしいわ。
そんなところかしら。
え?他に、ねぇ……。むぅ……。
………
そういうと彼女は黙って紅茶を飲んだ。
話が途切れる。私は、執拗に回答を求めることはいい結果を産み出さないだろうと踏んで、
ただ、時間の流れるままに身を任せていた。
そういえば私自身にも当該人物との交友があった。
それ自体は天狗の歴史、思い出からすれば非常に短期間な、一過性の、何でも無い音速の出来事だと言える。
しかし、あの人間たちに限ってはそうではない。
確かに見た目は人間だ。異変を解決(したということに)し、人間よりも妖怪たちとの友好度の方が高く、宴会と五斗米が満ち足りていればそれで生きていける単純な人間だ。
なのに、なのに何故、いつも未来に生きてきた私の精神に未だその影を落としているのか。
と、逡巡の間に、彼女がひっそりと不敵な笑みを浮かべたような気がしたので、慌てて手帳を開く。
………
貴女は信じないでしょうけどね。ここだけの話ってやつよ。
永夜異変、あったでしょう?そんな昔じゃないわよ。天狗ったら気が早いのねえ。
そんな何百年じゃないわよ。まあ、正確に数えたら三ケタになるのかもしれないけれど。
あれ、知り合いがやったのよ。知ってた?
夜を止めたのも、欠けて歪だった月も、消えた人間の里も、お地蔵さんに傘かぶせて廻ったのもね。
別に酔狂でも冗談でもいいわ。取り上げるかはあなた次第よ。
知りたくなったらいつでもいいわよ。
……ま、今となっては証人がどれくらい憶えているか知らないけど。
ブレインのなさそうな奴らだし。
……もう終わりかしら。なんだかんだ言って話すこと少なかったわね。ごめんなさいね。
今度はネタでも溜めておくわ。
………
彼女は取材に好意的で実に有り難い。他の妖怪達も見習ってほしいものだ。
……しかし、当人のありのままの人物像は取材だけでは文に起こせそうにない。
むしろそれがありのままなのかもしれない。
最後の信憑性に欠けるネタはともかく、この調子では非常識な他の妖怪達との取材が思いやられる。
___
「それでは、取材ご協力ありがとうございました。また機会があればお尋ねします」
「いえいえ、礼にも及ばないわ」
すると鴉天狗が思い出したように人形遣いに話した。
「あ、そういえば、先日、あの家で彼女に貸していたものを回収しに来たのですが、あなた宛ての本みたいなものがありましたよ」
そういって天狗が懐から魔導書の様なものを取り出す。
その表紙に、流れるように書かれた人形遣いの名前があった。
「あら、こんなの貸した覚えはないわよ」
「そうなんですか。何も書いてなかったので不審に思ったのですが……。もし譲って頂けるのであればメモ帳にでも使おうかと思ってまして」
恥ずかしそうに天狗が笑う。
「別に構わないわよ。でも、とりあえず確認だけさせてくれる?」
いいですよ、と快諾すると、まるで人形のような手で魔導書様の本を手に取った。
彼女が本を開けた瞬間、彼女の顔は驚きと幽かな、しかし嬉しそうな微笑で固まった。
「?どうされました」
「え?……あ、あぁ、ちょっと吃驚してね」
本には明らかに文字が浮かんでいた。
「あ、あれ?何で文字が……」
「あと、ここの見返しも」
そう言って彼女が指したところには先ほどまでには無かった文があった。
『東の魔女から 都会派の魔女へ。 大魔法使いの魂 脱出大成功!』
「彼女の魔法か何かでしょうか……」
呆気にとられる天狗に、人形遣いはいたずらな笑みを浮かべてこういった。
「借りるぜ」
それは確かに、音速の日々の中に刻まれた、懐かしい彼女の口癖だった。
まぁ、偶に長生きするのもいるけどね。それでもたかだか100年でしょう?
儚いわね。私が言える事じゃ無いのかも知れないけれど。
__あら、ごめんなさい。自律人形が貴方を邪魔してたみたい。
取材と言う体裁だものね。ほら、お菓子でもあげるからあっちで待ってて。
失礼したわ。で、あいつの人柄について、だったかしら?
ええそうね。
少なくとも良いとは言えないわね。罪の意識が欠落してるわ。
まぁ、周知の事実ね。三途の川も長そうだし。
でも、根は悪くなさそうだったわ。割と一人でいる時の方がいい子だったりしたかもね。
盗みの被害?私はあまりなかったわね。貸すようなものないから。
しょっちゅう本を盗(か)りに行ってたんでしょう?そりゃあ館の魔女も怒るわけね。
あ、そういえばお茶を出してなかったわ。いいえ、遠慮する必要はないのよ。
記者とはいえ客人だから。それ相応の扱いを受ける権利があるの。
………
そういって、彼女は人形に紅茶を淹れさせた。
当然彼女の意思で動かしている人形には、彼女の性格も反映されてるのであろう。
実に丁寧な淹れ方である。
安心したような落ち着いたようなそんな溜息を吐く。
まるで秋先の空へと溶け込むように風が流れる。
今こうして人形の淹れた芳しい紅茶を頂き、彼女の話を聞いているのはただの遊びや世間話の類ではない。
大分前__あるいはつい最近__私達の時間と空間の中に強く存在していた人物のことについて取材をしている。
できることなら、ここには取材ではなく、私用でまったり閑を取りたいくらいだった。
瘴気溢れる森にしては空気が澄んでいる。
秋の、厭になってしまいそうなほどの高い冴えた空が見える。
………
それで?仲はどうだったか?
良くも悪くもないと思うわ。宴会とかには呼んでもらったりはしたけどね。
あの人間三昧、割と顔は広いのよねえ。いやまあ妖怪退治しているんだったら当たり前だろうけど。
うん、今となっては昔、ね。懐かしいわ。
そんなところかしら。
え?他に、ねぇ……。むぅ……。
………
そういうと彼女は黙って紅茶を飲んだ。
話が途切れる。私は、執拗に回答を求めることはいい結果を産み出さないだろうと踏んで、
ただ、時間の流れるままに身を任せていた。
そういえば私自身にも当該人物との交友があった。
それ自体は天狗の歴史、思い出からすれば非常に短期間な、一過性の、何でも無い音速の出来事だと言える。
しかし、あの人間たちに限ってはそうではない。
確かに見た目は人間だ。異変を解決(したということに)し、人間よりも妖怪たちとの友好度の方が高く、宴会と五斗米が満ち足りていればそれで生きていける単純な人間だ。
なのに、なのに何故、いつも未来に生きてきた私の精神に未だその影を落としているのか。
と、逡巡の間に、彼女がひっそりと不敵な笑みを浮かべたような気がしたので、慌てて手帳を開く。
………
貴女は信じないでしょうけどね。ここだけの話ってやつよ。
永夜異変、あったでしょう?そんな昔じゃないわよ。天狗ったら気が早いのねえ。
そんな何百年じゃないわよ。まあ、正確に数えたら三ケタになるのかもしれないけれど。
あれ、知り合いがやったのよ。知ってた?
夜を止めたのも、欠けて歪だった月も、消えた人間の里も、お地蔵さんに傘かぶせて廻ったのもね。
別に酔狂でも冗談でもいいわ。取り上げるかはあなた次第よ。
知りたくなったらいつでもいいわよ。
……ま、今となっては証人がどれくらい憶えているか知らないけど。
ブレインのなさそうな奴らだし。
……もう終わりかしら。なんだかんだ言って話すこと少なかったわね。ごめんなさいね。
今度はネタでも溜めておくわ。
………
彼女は取材に好意的で実に有り難い。他の妖怪達も見習ってほしいものだ。
……しかし、当人のありのままの人物像は取材だけでは文に起こせそうにない。
むしろそれがありのままなのかもしれない。
最後の信憑性に欠けるネタはともかく、この調子では非常識な他の妖怪達との取材が思いやられる。
___
「それでは、取材ご協力ありがとうございました。また機会があればお尋ねします」
「いえいえ、礼にも及ばないわ」
すると鴉天狗が思い出したように人形遣いに話した。
「あ、そういえば、先日、あの家で彼女に貸していたものを回収しに来たのですが、あなた宛ての本みたいなものがありましたよ」
そういって天狗が懐から魔導書の様なものを取り出す。
その表紙に、流れるように書かれた人形遣いの名前があった。
「あら、こんなの貸した覚えはないわよ」
「そうなんですか。何も書いてなかったので不審に思ったのですが……。もし譲って頂けるのであればメモ帳にでも使おうかと思ってまして」
恥ずかしそうに天狗が笑う。
「別に構わないわよ。でも、とりあえず確認だけさせてくれる?」
いいですよ、と快諾すると、まるで人形のような手で魔導書様の本を手に取った。
彼女が本を開けた瞬間、彼女の顔は驚きと幽かな、しかし嬉しそうな微笑で固まった。
「?どうされました」
「え?……あ、あぁ、ちょっと吃驚してね」
本には明らかに文字が浮かんでいた。
「あ、あれ?何で文字が……」
「あと、ここの見返しも」
そう言って彼女が指したところには先ほどまでには無かった文があった。
『東の魔女から 都会派の魔女へ。 大魔法使いの魂 脱出大成功!』
「彼女の魔法か何かでしょうか……」
呆気にとられる天狗に、人形遣いはいたずらな笑みを浮かべてこういった。
「借りるぜ」
それは確かに、音速の日々の中に刻まれた、懐かしい彼女の口癖だった。
ですがやはりあのネタは嫌いです。
それに元ネタに対して、魔理沙の魔法を受け取ったのは不老長寿の妖怪達。
比べて考えてみるとなんだか面白いです。
でもせっかく「簡単に死なない」んだから、魔理沙らしくどかんと派手に、と思ってしまったりして難しい。
言葉の端々から読み解けるぐらい分かりやすく良かったです。
死からの脱出、ということでしょうか?
大方そんな感じです。
西の魔女が死んだ、を読めば多分幸せになれます。
寿命ネタは水っぽい作品が多い中、さっぱりとしていて素敵な作品でした。
彼女たちならば妖怪の記憶の中にも鮮明に残ることでしょう