Coolier - 新生・東方創想話

Chicken and egg question

2008/11/18 20:26:07
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「はーい、全員注目」
「といっても三人しか居ませんけど」
「そこ、突っ込まない。大事な話があるんだから」
「あーうー、早く終わらせてよね観たいアニメあるから」
「あーはいはい、すぐに終わらせるわ」
 
「幻想郷に移住が決まったから」
 
「いやいやさらっと言っちゃったよ!」
「まだ――まだ観たいアニメがあるのに!」
「いやあんたの理由はどうよ!?」
 
「だいたい・・・・・・それについてはまだ考えるんじゃなかったんですか?」
「んー、まぁ事は一刻を争う事態になってきたみたいだし」
「うー、確かにそうかもしれないけど」
「だいじょーぶだって」
 
「私を信じて、どーんとついてきなさい!」
 
 そして時は流れ――
 
 
 
 
 
 
 
 早苗の様子が、最近おかしい。
 
 
 
 星と月が輝く夜。
「いやぁ、壮観壮観。これだけの人数が集まるってのはやっぱ気持ちいいね」
「人が集まるってのは良いねぇ・・・・・・こんだけ集まれば良い酒も集まる・・・・・・・」
「八坂様、それではただのアルちゅ・・・・・・いえ、失礼しました」
 博麗神社の境内で行われる――というよりもう行われている宴会は、行われる場所は小さいながらも集まった面々の騒ぎ具合のせいか、かなり大規模にも見える。
 酔っ払って上空で弾幕をぶちまけている中華風娘によるところが大きいかもしれない。最近では開幕早々のこの弾幕が宴会の名物となっている。ちなみにこの名物、見かねたメイド長がナイフを投げた時点で終了となる。
 まだまだ遠いのにもう見えてきた宴会をはるか上空から眺めながら、守矢神社の三人はめいめいの感想を漏らしていた。
 ちなみに始めから洩矢諏訪子、八坂神奈子、東風谷早苗の順番である。
 彼女たちは全員、酒瓶の入った袋を持っている。
「早苗ぇ、あんたは酒についての意識が間違ってる! 古来より酒というものは、神様に人間が捧げてきたもの、感謝や願いその他さまざまなものがこもったありがた~いものなのだ。何が言いたいかというと早く行きましょ、お酒がなくなる」
「八坂様、それは一月から十二月まで酒が飲める方のお言葉と似てますよ、あともうお酒呑んでます?」
 神とそれに仕える巫女の会話とは思えないが、宴会である、無礼講である。外の世界とは違って本当の意味での無礼講である。
 だから酔っ払ったふりをするメイド長が主人をお姫様抱っこしても問題ないし、狐が(何故か)寝ている主人を尻尾でくすぐっても問題ない。神に軽口を叩く巫女など幻想郷ではなんら問題なし。
 神も巫女も妖精も閻魔も、楽しく騒ぐ、それが幻想郷での宴会の醍醐味。
「・・・・・・・」
 だというのに、神奈子の表情は少し暗い。酒を楽しみにしている様子ですら、空元気にしか見えない辺りが特に酷い。
 もちろん、そんな微妙な表情の差異など普段の彼女を知っている者以外に分かるはずもない。それほど細かなものだから。
「八坂様・・・・・・どうされたんですか?」
 だからこそ、真っ先に気づいたのが早苗というのは必然である。
「ん・・・・・・あ、いやね――ちょっと飲みすぎたのかもねぇ」
「そうですか・・・・・・」
 あははー、といった風に笑いながらの台詞に、どこか呆れた風に――だが腑に落ちない様子で早苗が答えた。
 かといって、自らが使える神の言葉を信じないわけにもいかず、早苗は「宴会の前にお酒呑むってどうよ」と疑問を打ち消した。
「・・・・・・」
 そんな二人の様子を見て、心の中で溜め息を吐く諏訪子。
 これから楽しい宴会だというのに、気分を害されたから。
 大切な存在である二人が悩んでいる様子など、酒の肴にもなりはしない。
(難儀だねぇ)
 いろいろな意味が込められたその考えを口には出さず。
 諏訪子は一人、思案していた。
 
 
 
 
 
 三人の前に最初に現れたのは、博麗霊夢だった。
「久しぶりね・・・・・・また乗っ取りかしら?」
「巫女が酔っ払った隙に乗っ取り・・・・・・なんて無粋な真似はしないよ」
「どうだか」
 別に恨み辛みや遺恨が残っているわけではない、酒の席に入る前の軽い冗談である。
 だいたいがそれを言い出せば、幻想郷を霧で覆おうとした吸血鬼も冬を長引かせた亡霊も月を偽者に替えた月人だってここには居るのだ。
 昔は昔、今は今。楽しむことにかけて幻想郷住人の右に出る者は居ない。
「そういえば、何か持ってきた?」
「ああ、忘れるところだった」
 宴会というのにも種類があるが、ここ博麗神社で行われるそれは大半が酒や料理を参加者がそれぞれ持ち寄るものが多い。ある程度は贅沢が出来る生活を送っているとはいえ紅魔館や白玉楼、マヨヒガのような物資を霊夢個人で集められるわけも無い。
 そこはそれぞれがしっかりと認識している。
 神奈子たち三人も同様だった。
 三者三様に差し出した袋に入った瓶を見て、霊夢の顔が綻ぶ。
「三名様ご案内~」
 先ほどの冗談すら忘れているかのように霊夢は三人を案内した。その様子に三人が顔を見合わせて笑う。
 霊夢は決して卑しいわけではない、現金なだけである。普段は人間を超越しておきながらこんな時は人間らしい。
 超越した様を知っているからこそ、この差異が面白いのである。
 
 
「よぉ、遅かったねぇ」
「宴会ごとで鬼に適おうなんて、無茶すぎるからねぇ」
「確かにそうだよね」
 守矢神社主催の宴会でも――それどころかその他の宴会ですらも――顔馴染みとなっている伊吹萃香に挨拶をしておく、といっても軽いものだが。
 神奈子と諏訪子の返答に満足したのか、瓢箪を持ったままふらふらと萃香はどこかへと行ってしまう。危なっかしい足取りだが普段の彼女がこれなので問題は無い。
「おうおうおう、博麗大宴会へようこそ~、歓迎するぜぇ」
「うわ、臭・・・・・・」
 萃香と入れ違いになる形で現れた黒白の少女、霧雨魔理沙は早苗が言うまでもな“臭かった”。アルコールの混じった独特の呼気というものは慣れない人間からすれば毒ガスに近い。
 二柱にとっては上等の香に近いが。
「酷い言い様だなぁ・・・・・・宴会は酔っ払ってこその宴会だぜ。ほらほら早苗も、駆けつけ三拝の三乗!」
「いえ・・・・・・遠慮しておきます」
「そう言うなって、ほらほら巫女を一名ご案内~」
「ちょ、袖引っ張らないで・・・・・・助けてください八坂様~守矢さまあぁぁぁぁ」
 ドップラー効果を残して早苗が連れ去られていく様を二柱は“暖かい眼”で見送った。こういった交流を止める理由はどこにもない。
 デメリットといえばせいぜい二日酔いぐらいだから。
「早苗も楽しそうだね」
「ああ・・・・・・そうだね」
 同意を求めた諏訪子の言葉に返ってきたのは確かに同意。だがそれは諏訪子が予測していた――というより望んでいた――返答とは違っていた。
 いつもの神奈子らしくない、どこか間の空いた返答。
「・・・・・・神奈子、どうしたの?」
 まどろっこしいことは嫌いな神奈子の性格に倣って、諏訪子は率直に聞くことにした。これ以上、下手に引き伸ばしても何ら徳は無い。
 だというのに、
「――別に、なんでもないよ」
 そんな諏訪子の思惑など知ったことではないという風に神奈子は答えると、そのまま自分も宴会の席へと加わった。諏訪子が声をかける暇も与えず、なみなみと注がれた酒に口をつけ始める。
 いや、むしろ触れられたくないからか。
「・・・・・・ばーか」
 だからその背中に、聞こえるか聞こえないか程度の声量で諏訪子はそう言った。
 
 
 幻想郷の宴会は、騒ぐことこそが目的である。
 飲んで歌って踊って脱いで襲って弾幕。
 やりすぎれば針か玉、もしくはいつの間にかスキマに吸い込まれるが、それも一興。
 妖精も人も妖怪も関係なく、彼女たちは騒ぎ続ける。
 
 そんな中で、諏訪子は自制しながら酒を呑んでいた。
 二日酔いが怖いとか、そんな話ではない。むしろ二日酔いどんとこい。
 神奈子と早苗の様子が、気になっているからだ。
 そして見れば見るほど、彼女の酒を呑むペースが落ちていく。
 
 神奈子はちらちらと早苗を見やり、杯を煽っている。
 早苗は時折、神奈子に向き直るが、すぐに目を逸らす神奈子に複雑な表情をしている。
 楽しい楽しい宴会だというのに、心はちっとも楽しくない。
 だから諏訪子は、腰を上げた。
 
 
「ちょっと神奈子、呑みすぎだよあんた」
「ん~、酒は呑んで呑まれるもんだよ!」
「いや力説しなくても・・・・・・まぁいいや、ちょっとこっち来て」
 もはや神ではなく傍迷惑なただの酔っ払いとかした自らの友に内心で溜め息を吐きながら、諏訪子はなんとか神奈子を連れ出すことに成功した。
 といっても、喧騒からほんの少し遠のいた石灯篭の辺りでしかないが。
「なんだいなんだい、こんな暗くて人気のないところへ連れ込んで――まさか諏訪子、」
「なに考えてるか知らないけど暗くもないし人気もある!」
 酔うとエロくなるのは何上戸というのだろうか。
 確かに宴会の中心部より暗くて静かだとはいえ、それは比較対象が比較対象だからこそ。この場所に静けさなんてものは存在しない。
 唯一、人目を凌げるから選んだのだ。
「ねぇ、神奈子」
「・・・・・・なに?」
 そう、
「早苗のことで、悩んでるの?」
 ここなら早苗に見られない。
 
 
 その質問に、神奈子は僅かに逡巡した。
 未だに持っていた空の杯を所在なさげに弄りながら、小さな溜め息をつく。
「最近さ・・・・・・早苗の様子、おかしいよね」
 そして出た言葉は、諏訪子の予想通りのもの。
「確かに――そうだけど」
「いつもあの娘は笑顔・・・・・・だけど、ふとした時にあんな顔をするの」
「それは普通のことじゃ――」
「でも・・・・・・最近は、その笑顔も陰ってきた」
 ぐっと、言葉に詰まる諏訪子。
 人間なら何かに悩むことは珍しくない――いや、当たり前である。それが何でもないことならすぐに笑顔が戻ってくるだけのこと。
 そしてそうでないなら、その悩みは根が深い。
「あの娘が悩んでるのに・・・・・・私には何もできない。神様なんて崇め奉られたところで、所詮その程度の力よ」
「神奈子・・・・・・それはただの驕りだよ」
 神は万能ではない。
 たとえ強大な力を持っていようと、それは人間に信仰されるからこそ。
 神と人は共存関係にあるのが望ましい。人は神を信じ、神は人を手助けする。
 そう、それは“手助け”程度のものでしかない。
「私たちでも、早苗の悩みをあっさり解決することなんてできないよ。それは神奈子も分かってるでしょ?」
「そう・・・・・・そうだな、だけど――その悩みの原因が、私にあるなら?」
 二度目、またしても諏訪子は言葉に詰まった。
 それは考えなかったわけではない。たとえ現人神であろうと、結局は人間である。
 住み慣れた――自分の世界を捨てて新たな世界へと移住する、それがどれほどの負担をもたらすかなど、神にも計りようがない。
 
 元々からして・・・・・・この幻想郷に早苗が来るメリットは、大きなものではなかった。
 外の世界は、早苗のような能力者にとって優しいものではない。異物を排し、自らを護る。そんな世界だ。
 それでも、早苗はその世界の人間だ。自らの生まれた場所、土地――産んでくれた、親。巫女である以前に、彼女は一人の人間だった。それなのに、彼女はその世界を自らの意思で捨てた。
 決して、神奈子は強制したわけではない。それだけは自信を持って言える。
 だが――早苗の意思を尊重しきれたかどうか。そればかりは、たとえ神様であろうと断言することはできない。人の意思というのはそれほど複雑なのだ。
「私は――何をやってるんだろうな」
 神奈子のその言葉と――手にした杯を見つめ諏訪子を見ようとしないその視線と――
 
 
「私を信じて、どーんとついてきなさい!」
 
 
 はるか昔に目の前の彼女が言った言葉に抱いた感情とが、
「この――意気地なし!」
 諏訪子にその言葉を吐かせた。
 神奈子もまさかそんなことを言われるとは露ほどにも思っていなかったのか、杯から顔を上げて諏訪子を見つめる。
 見開かれたその眼が映すのは、今にも泣き出しそうな諏訪子の顔。
「私が――私たちがなんでこっちに来たか、分かってるの!?」
 
 
 新世界への旅立ちは、不安を生み出す。
 このまま踏みとどまったところで状況は好転しないことぐらい分かっているが、だからといって無条件に踏み出せるわけがない。
 その感情を打ち消したのは、
 豪胆な性格の彼女。
 
 
「そ、それは――」
 突然の感情の吐露に、その矛先を向けられた神奈子が戸惑うのが分かる。
 でも、諏訪子にはもう止められない。
「私だって不安だった・・・・・・本当に、本当にここは夢のような世界だったから――本当にそんな世界があるのか不安だった、私たちが受け入れられるのか不安だった・・・・・・だけど、今はここに来て良かったと思ってる、
 
 こう思えるのは、神奈子のお陰なんだよ!」
 
 
 
「・・・・・・諏訪子」
 酔いも吹っ飛ぶその告白に、見開かれた眼はなかなか細められない。
 いつの間にか、杯も地に転がっていた。
 目の前で、涙目になっている諏訪子にどう声をかけようか悩んでいると――
「はぁ、はぁ・・・・・・魔理沙ぁ!」
「っ!?」
 諏訪子が急に魔理沙を呼んだ。
 何の予兆も無かったのにすぐに魔理沙が現れる。
「おう、どうした呑んでるか~? あれ、お前泣いて――」
「そんなことはどうでもいいから、この馬鹿蛇連れてって度数高いの呑ませてあげて!」
 そしてとんでもないことを諏訪子は口走っていた。
 「へ?」と声を挙げる暇もなく、
「りょーかい!」
 酔っ払っても(元)幻想郷最速の名は衰えず。
 手を引かれて連れ去られていく神奈子は、いつの間にか泣き止んでいる諏訪子の顔を見て取った。
「すわこおおぉぉぉぉぉぉ・・・・・・」
 そして自ら、巫女が味わったのと同じ現象を体験することになる。
 
「・・・・・・ばか」
 連れ去られていく友人にそう言葉を投げ掛けてから、
 諏訪子は“もう一人の当事者”を呼ぶことにした。
 
 
「も、洩矢様・・・・・・酷いですよ、助けてくださいよ」
「ああごめんごめん、楽しそうだったからつい」
 自らの仕える神より先にドップラーを体験していた早苗の言葉を軽く受け流し、すぐに本題に入ることにする。
 もうこれ以上、こんなことに煩わされたくはない。
 単刀直入。
「早苗、あんた何悩んでるの?」
「あ、それがですね――」
 その言葉に表情には出なかったが諏訪子は動揺する。
 根が深い悩みだと思っていたら、まるで「夕食はどうしようか」なんて悩みでも話し始めるのかと言いたいほどに早苗の口調があっさりとしていたからだ。
 そして、諏訪子はさらに動揺する。
 
「最近、神奈子様の様子がおかしかったもので、何かあったのかなぁ・・・・・」
 
 
 卵が先か鶏が先か。
 早苗が悩んでいるのを神奈子が見て悩んだのが先か、
 神奈子が悩んでいるのを見て早苗が悩んだのが先か。
 
 
「・・・・・・まりさぁっ!」
「おいおいなんだぜまたなんだぜ」
「連行おねがい」
「あいあいまむ!」
「へ、ちょ、洩矢様あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
 
 
「馬鹿ップルが・・・・・・」
 諏訪子の呟きは、喧騒にかき消される。
 
 
 
 ようやく諏訪子は思い至る。
 卵と鶏を見て悩んでいた自分が一番馬鹿だと。
 見上げた空に浮かぶ星々が、そんな彼女を笑っているようだった。
「ああ、もう・・・・・・」
 溜め息をついて諏訪子は宴会の席へと足を戻した。
 
 それでも、彼女の顔は微笑んでいた。
 それは彼女が失いかけたモノ。
 ようやく取り戻せたもの。
「ま、いっか」
 
 
 幻想郷は全てを受け入れる、それは残酷なことかもしれない。
 それでも、ここに来たことは正しかったと、諏訪子は確信している。
 例えこれから何があろうと――三人一緒なら、どうってことはないのだから。

 
 
 
 
 
相手が不安そうにしている、それを感じ取って自分に非があるのかと不安がる。
でも相手は実は、そんな風に不安そうにしていた自分を見て非があるのかと不安がっていて――
説明しづらいですが良くある馬鹿ップルシチュエーション。
 
今回かなり短めだなぁ・・・・・・まぁいいか。
あとジャンルがはっきりしていない(一応シリアスのつもりですが)。
ちなみにタイトルの意味は・・・・・・もう言わずもがなですが『卵が先か鶏が先か』。
 
次回は古明地姉妹で行こうとおもいます。
RYO
[email protected]
http://book.geocities.jp/kanadesimono/ryoseisakuzyo-iriguti.html
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