狭い幻想郷にも謎がある。
そして歴史の編纂というものを、世界の謎に対する答えを見いだすこととするならば、この世界のあらゆる謎について答えを見いだすことが私の使命であると言える。
しかし謎とは人の思考の数だけ存在するもので、人の行動の数だけ無限に生み出されるものであり、おおよそ全てを捉えきれる物ではない。
我々が触れる事が出来、知り得る事が出来る歴史などは、実に微々たる物だと言うことだ。
寺小屋で子供達を相手にしていると、それが良くわかる。
子供というのは世界にとっては常に新しい観察者であり、常に新しい謎の提唱者なのだ。
上白沢先生の頭に乗ってる箱の中には何が入っているの?
なんでそんな変な箱乗せてるの?
と訊かれた事もあった。
私にとって極当たり前のワーキングビューティーファッションであっても、世界の新たな観察者から見れば、これもまた謎というわけである。自分の感性だけでは思いつかない視点だ。
彼らとの授業を通じて私自身もまた、教えられること知らされることのなんと多いことか。
上白沢先生の角が生えてくる部分って禿げてるの?
だから箱で隠してるの?
と訊かれたこともあったか。
子供とは大胆不敵である。里の獣ッ娘小町とも密かに呼ばれる私に対して些かの暴言であろう。
自らの女磨きには余念が無いつもりだが、どうしようもない身体的特徴というものもある。
上白沢先生って彼氏いるの?
最早、幻想郷の謎と言って良いのかどうかわからないが、思春期の彼らならば当然興味もあるのだろう。
ロハスな出来る女の私の色恋事であるなら、尚のこと興味津々であるのも無理はない。
大抵この手の質問が出るときは授業が中盤に差し掛かって子供たちが飽きてきたときであり、勉学にも多少のエンターテイメント要素が必要であることは、私とて心得ている。
恋バナに花を咲かせるのも子供達に社会を勉強させる上での、調味料になるというものだ。
上白沢先生って、自警団の妹紅さんと付き合ってるって、お兄ちゃんが言ってたよ?
女同士で何を馬鹿な。これだから世の中を知らない子供相手は困ってしまうというものだ。
私はただ孤独な妹紅の心の支えになろうとしてるだけだ。
なんてことない、週に七度ほど夕飯に呼んだり、背中を流し合ったり、布団が一組しかないので仕方なく床を共にしたり、毎朝お弁当を作ってあげて、行ってらっしゃい焼き鳥屋の屋台がんばってね、と妹紅を送り出したりしているうちに、この世に二つと無いであろう厚い厚い友情が芽生えたのは間違い無いが、勘違いしないでほしいものだ、けして付き合っているとかいうわけではない。
本当に別に好きとかそういうんじゃない。たまに寝顔を見ているとドキドキしてしまうが、それだけだ、ちょっとかわいいと思っているだけで、変な気持ちは一切無く、ただちょっとかわいいからもうかわいいからたまにいやらしい意味ではなく出来心的なそれが無くはないと認めるが本当についアメニティライフ的な自分にご褒美なだけでいたずらとかチュとかなんかしたことは一度たりとも無い本当にだから私が妹紅を好きだとかなんとか言うのは止めたまえ!
せんせーどうしてそんなに焦るんですか?
焦ってなど居ない。うむ。ぜんぜん恥ずかしがったり照れてなんかしてないぞ本当だ。ぜんぜん好きとかそういうんじゃないからな照れるわけがないだろう。馬鹿らしい事を言わないでほしい。
今はちょっと興奮を持て余しているだけで焦ってなどいない。
なんだねその疑わしそうな目は。教師を疑うのか諸君らは、本当だぞ。
嘘だと思うなら私の荒ぶる鼻息をとくと目に焼き付けるがいい。興奮している証拠だとも。
ほうら見たまえ諸君、教卓のプリント用紙だってホバー移動しているではないか。
でもこの前、妹紅さんのために巫女や妖怪と戦ってましたよね。やっぱり好きなんじゃないですか?
重ねて言うが、女同士で好いた好かれたなど、へそで茶が五万人分ほど沸くというもの。
君たちは漫画の読み過ぎでは無いのか。
確かに私は幻想郷という楽園の条件を満たした世界において恵まれたことにガールフレンドこそ居るが、妹紅は恋人などではなく単にかわいいあなたはかわいいというだけである。
第一、私は常に人間の味方である以上は、相手が人間の守護神である巫女であろうが、妹紅を狙うのであれば断固撃滅する。至極徹底的に、情け容赦なく、全ての悪を根絶やしにする我が双角の一撃によってだ。
せんせー、巫女を撃滅したらむしろ人類の敵じゃないんですかー?
ほう、ならば君は巫女が人類に対して常に正しい行動をしていると証明出来るのかね。いつ如何なる理由で妹紅の絹ごし豆腐のようなマシュマロのような大福の皮のようなパーフェクトな柔肌を傷つけるやもしれぬ行為が正当化されるというのかね。どこのどんな哲学や宗教が、下衆なテーゼが神様な野郎が君の正統性を保証してくれるというのだね。
チャレンジャーだな君は、挑戦しているのか、君は挑戦しているのか世界の定理に定説に、すばらしい勇気だ、勇気とはすばらしくも残酷ではないか、君のような若い命を危険に曝そうというのだからな。
いいだろう挑戦を受けるぞ私は、君が巫女は常に正しいと言い張るなら、全世界と主に私を敵に回す覚悟で数日以内にレポートをまとめ提出してみたまえ。目を血走らせ全世界と私への呪いの言葉を喚き散らしながら書き上げるがいい、そして私に突きつけたまえそれを喘ぐような地獄の呼気と共にだ。
ただし明日に提出するのは奨められない。何故なら明日は満月だ。命が惜しくないのなら別だがな。
せんせー、だったらまずは、せんせーが巫女は常に正しい訳じゃないということを証明してください。
「ふむ。もっともな理屈を宣ったつもりのようだな君は。それで私を負かしたつもりかね。
よろしい。気概は買おう。世界の定理や定説に疑問を唱える事も、勉学の王道でもある。
そうしようではないか。巫女の人類と妖怪に対する立ち位置の謎について、実は私も常々思っていた事がある。 その謎は私が幻想郷のために解明しなければならないともな。考えていた所だったのだ。
いいかね、今や神社は妖怪の集会場と化し、巫女は妖怪に取り入られてしまっているようにも見受けられる状態にある。
授業でも繰り返し教えているが、幻想郷は人間と妖怪のバランスによって成り立つ物であり、博麗の巫女は人間側のパワーバランスの中核を担う物である。
巫女が妖怪側に傾くのは、どういう事なのか言うまでもなく、最終的には幻想郷の終末へと繋がるだろう。
しかしながら恐らく巫女は妖怪から経済的な援助をも受けていると、私は仮説する。
状況証拠として、参拝客が無に等しいはずなのに、すなわち賽銭が無に等しいにかかわらず、巫女は常日頃から現金を使って里で買い物をしているではないか。明らかに不自然だ。
この仮説が事実なら、巫女の立場が妖怪側に傾いているという事を意味し、巫女は人類にとってはおろか、幻想郷とって致命的な過ちを現在進行形でおかしているという事になる。
つまり妖怪から巫女への援助が有ることを証明出来れば、巫女は常に正しいわけではないと証明できよう。
というわけで、私は明日からしばらく巫女の収入源について調査を行うことにする。よって当寺小屋授業は無期限の休校とし、再開は追って知らせる事とする」
ふふん、子供とはいつの世も無邪気なものだ。学校が休みになると喜んでいる。
「ただし、諸君、こら、静かにしたまえ。ただ学校を休みにしてしまっても、諸君も手持ち無沙汰だろう、そこで宿題を出しておくことにする。
諸君ら自らの歴史を編纂する作業、換言すれば作文となるが、今まで最も恥ずかしかった思い出、出来れば無かったことにしてしまいたい思い出を、原稿用紙三十枚以上に渡り詳細に書き記して来るように。
もちろん正直に書く者は居ないだろうが、それもまた歴史という物の性質を理解する勉強になるだろう。何が後の世に書き残され何が書き残されないのか、身をもって学ぶと言うものだ。
もし私が巫女の収入源について証明できたなら、諸君らのそれをニタニタしながら朗読するという賭けをしてみるのも、一興ではないか」
えー、なんですかそれせんせー。
じゃあ、先生が証明できなかったら、先生の一番恥ずかしい思い出を教えてくださいよー。
「うむ。良いだろう、それはもう凄まじく恥ずかしい話をしてやる。例えるならばそうだな、父兄授業参観日によりにもよって性教育授業だった当日の諸君の家族揃っての夕食時くらいに気まずく微妙な雰囲気に教室中を陥らせるような恥ずかしい話をする事を約束する。さらに言えば三日くらいは私と真っ直ぐ目を合わせるのが、かわいそうになるくらい、さらに言えば、教卓にそっと『上白沢先生、どうかがんばって生きてください、生きていればきっと良いことがありますよ』と温かいのだか投げやりなのだか良くわからなくて読むと逆に死にたい気分になってくるような手紙を思わず入れておきたくなるくらいのだ。
うむ父兄参観か、どうせならばそれも良い。学校を再開する日は父兄参観を行う事にしよう。その場で諸君らの忘れたい過去が私によって読み上げられるか、私の赤裸々な過去が披露されるのかの賭けだ。どうだ、楽しみだろう諸君」
「……という事が今日学校であってな妹紅、明日は神社に行く事になったんだ」
「ぐべえぼぼむろむーまんか」
「なあ妹紅、口の中の物を飲み込んでから喋ったらどうだ。それでは何を言っているかわからん」
うんうん、と頷く妹紅はみそ汁を口に含んで、頬いっぱいのご飯をごくりと飲み込んだ。
そんな急いで食わずとも無くならないと言うのに、相変わらずおもしろい奴だ。元は貴族の息女だと言うが、悠久の時の中で気品やしきたりは影も形も無いほど風化してしまったらしい。
もっとも我が家の六畳一間でちゃぶ台囲みだなんていう食事風景では、気品だの何だのと気取りようもあるわけがなく、極めてドメスティック然とした生活の一場面にしかなり得ないのだが。
食事中に鼻をほじるだの尻を掻くくらいは生物として然るべき行為であり私も妹紅も気にしない。足の匂いをチェックしたりしても気にしない。特に今のような夕飯時は一日の疲れと臭いが熟成され何かと狭い部屋に漂うわけであり、ついつい靴下や腋の下の臭いをおっかなびっくりチェックしたりしてしまう。臭い物ほどついつい嗅ぎたくなる心理とは不思議なもので、夏などはお互いにどちらの靴下がより臭いか等を嗅ぎ比べて笑い転げたりするものだ。
「そっかなるほどなあ、慧音に言われて今更私も気になったよ。巫女ってどうやって生活してんだろうねえ」
「だろう、これは是非とも私が追求せねばならない問題なんだ」
「妖怪相手に大道芸とかやってたりして」
「それくらいなら良いのだがな。巫女と妖怪の関係がイーブンであればまだいい。巫女が妖怪に飼われているような状況であれば是正せねばならない」
「霊夢が夜雀とか妖怪蛍とか相手にパントマイムやら腹芸とかやってたら私笑うな絶対。
でももっと笑うのはあれだよ、私らが付き合ってるとか言う話になってたんだろ子供たちの間でさ」
「ああ、子供の言うことだがな。最近はそういうのも流行っているようだから、面白がって騒いでいるだけだろう。生徒は教師をからかいたがるものなんだ。真剣に考える事など無い」
「あっはっは、ほんとだよな。あり得ないあり得ない、私らに限ってはそういうの無いよ絶対、女同士で恋愛とか気持ち悪いよなあ。異次元の話だって」
「ああまったくだ。ただ単に妹紅が週七日うちで食事して泊まっているだけで恋人などと言われては、たまったものではない。ただほんのちょっとだけ他の友人同士よりは仲が良いだけなのにな。それで妹紅、次ぎはどれが食べたい?」
「餃子がいいな」
「よしわかった、醤油はこれくらい付ければいいな、ラー油はいらないんだな」
「うん」
「よし、あーんしろ」
「あーん」
あんぐり開いた妹紅の口に餃子を入れてやる。
「美味いか妹紅?」
「当たり前だろー、慧音が作って食べさせてくれたものならなんだって美味いさ」
「うむ、餃子の皮に包んであるのは肉と野菜だけではないぞ、愛情をたっぷり包んだからな。美味くないわけがない。いや別にだな、愛情といってもそういうのではなく、私が妹紅を好きなだけであって、いや違うぞ、好きはそういう好きでなくてだな、私は妹紅に美味い餃子を食わせてやろうとがんばって作っただけであって、だからな、がんばったといっても色々そういうんじゃなくてああもういい妹紅私にも食べさせてくれ! 早く!」
「任せろ、ほら慧音、あーんしろよ」
「あーん」
「あっ!」
妹紅が箸を滑らせて餃子を落としてしまった。醤油が跳ねて、私の胸にじんわり茶色い模様を描く。
「ごめん慧音、すぐに拭ってやるぞ。あ、でも布巾が無い、畜生こうなったら舐めるしかないじゃないか!」
ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ。
「く、ちょっとくすぐったいな妹紅これは、いや勘違いしないでほしいが、くすぐったいと言うだけであって、その他のいかなる感覚も私は感じていないということをだな、一応ことわっておくが、しかし妹紅、しかししかししかししかししかししかし、しかししかしだな」
「ふぐふがはがふぐ」
「なあ妹紅、胸から顔を離して喋らないと、その、な、何を言っているのかわからないぞ」
「おし、とりあえず応急処置はこれでいいかな」と妹紅は私の胸から得意げに顔を上げた。「唾液をたっぷり染みこませて置いたから、色が定着しないで済むぞ」
濡れた唇はなんとも艶っぽい。
いや艶っぽくなんかない、そんな事はない絶対に、そうだなんてことないだろうそれくらい、妹紅の口中から分泌される体液が只単に唇に付着して、その唇が数秒前まで私の胸を這っていただけで、艶っぽいなどと性的なニュアンスは一切無く、なんら特別な事ではない、醤油を舐めていただけであって、生活上どうしても致し方ない行為だっただけで、布巾がたまたま無いからであって、そうだ致し方ないだろうこれは、布巾のせいだだろう、そうだ布巾の奴めろくでもないやつだ、だから仕方ないのだ、これは仕方ない、それにそう、まだ醤油の匂いが少し残っている気がするぞ、絶対だ、これはもっと丹念に処理して貰わねばなるまい。
「もう止めてしまうのか? ダメだ妹紅、まだ匂いが残ってるではないか、まだまだ醤油臭いぞ、もっと念入りに頼む。あと十五分くらいだ。いや勘違いするな、何も催促しているわけではなく、ただ社会人としての社会的責任をだな、道義的に全うするべきが大人としての道理ではないのかと言っているだけで、けしてそれ以外の考えなどは無いぞ! 絶対だ!」
「じゃあ脱げ慧音」
「なっ、脱げとは大胆だな。何もそこまでしろとは、いやもちろん妹紅がそうしたいというのであれば」
「そのままじゃ唾が乾いたら滲みになっちゃうだろ、漬けおきしといてやるよ」
「あ、ああ、そういう事か、そうだな頼む、しかしなんだか無性に照れるな」
「なんだよ、いつも一緒に風呂入ってるだろ、上脱ぐくらいで何で照れるんだよ」
っと私のブラウスを荒々しくも雄大かつエレガントにはぎ取る妹紅。おもむろに胸元に顔を近づけてきて、ふんふん鼻を鳴らし匂いをかぐわけで、息が地肌に、非常にこそばゆいのだが。
な、なななな何をする気だ妹紅、いけないぞそれは、なんだかよくわからないがこのままだと私は色々小脳辺縁体で司られる根元的な情動がダーウィニズムに従って進化の過程と適者生存とか種の保存とか諸々が、ああ、ダメだダメダメダメダメ妹紅妹紅もこうもこうもこうもこもこもこう!
「ああ慧音の言うとおり、やっぱまだ醤油の匂いがするな。後でちゃんと体も洗ってやるからな風呂で」
「びっくりさせるな、醤油か。肌についた醤油の匂いを嗅いでいただけという極日常のなんらイヤらしくない風景だったのだな。びっくりしてしまったではないか、次からそういう事をするときは、ちゃんと予め説明して許可を得てからやってほしい」
「ん? そうか、じゃあ後で風呂でお前の胸を肌の弱い部分だから素手で弱酸性のボディーシャンプーをたっぷり使って十五分くらいかけて念入りに洗ってもいいかな?」
「是が非にでも頼む」
「左右どちらから洗うとか、上からか下からかとかも、予め言っておいた方が良いのか?」
「いや心の準備さえ出来ればいい、詳細を知らないで置くのもまた風流というものだ。それとやはり十五分ではなく三十分くらいは洗わないと取れない気がするから、三十分だ妹紅。では頼んだぞ後で」
「おう、がんばるぞ」
「うむ、妹紅もそういう風に前もって説明してくれれば、私とてびっくりしないんだ。いきなりは良くないぞいきなりは、唐突は他人に誤解を生むからな。そうやってしっかり説明しないと、例え今のような、ただの日常生活上のなんら変哲のない至極当然の行為であっても、いらぬ動揺を周囲に与えてしまう物なんだ」
「周囲の誤解ねえ。子供たちに私らが付き合ってるとか思われてるみたいなか?」
「そういう事だな。想像力たくましい子供たちからしてみれば、さっきのような極日常の生活光景でもだな。なんら説明が無ければ、アベック同士がちちくりあっている様にも見えてしまう可能性が極僅かながらにでもある、ということだ」
「じゃあさ、子供たちに私らの生活を事細かに説明してやればいいんじゃないのか」
「うむ、妙案だな。それも考えておこう。さすが妹紅、発想が斬新だ。私はどうも頭が固くてな」
「でも考えすぎだと思うけどなあ、こんなの毎日なんだしさ」
「私もそうは思うがな。しかし妹紅、最近は里や子供達の風紀が乱れているのも確かなんだ。読み物等でも同性同士の恋愛をおもしろおかしく持て囃すような物も少なくない。嘆かわしいと思わないか。いやもちろんだな、世の中には同性にも感情を抱いてしまう人々も居るのはわかっているし、その様な恋愛があっても尊重されて然るべきとは思うわけだが、それを笑い話にしたりおちょくったりするのは、どうかと思うのだ。
まあ私たちにはまるで関係の無い事なのだがな。私は聖職者たるものとして自らが風紀保守の先兵となり堂々と胸を張って清く正しく生きていきたいものだ」
「ほーんと堅いよなあお前、曲がったことは大嫌いというか、真面目というか、なんでも良いじゃないかそんなんさ。それよりもっと餃子食わせてくれよ」
「よし、ではあーんしろ妹紅」
「あーん」
「ああ、しまった!」
なんら恣意的ではない不可抗力的不注意によって私の箸から餃子が落下してしまった。
私のせいではなく強いて言えば万有引力の法則が全ての原罪であろう。妹紅のシャツへ肌へと浸透していく醤油という液体の行動についても私の意志とはまるで無関係だ。パスカル原理のせいのはずだ確か。
どうみても単なる不幸な事故ではあるが、だがしかし聖職者たるもの自らの過失の如何に関わらず、世の見本となるべき儀を率先して世界に示さねばなるまい。
「すまん妹紅! 布巾がないので極めて遺憾の意ではあるが仕方なくお前の胸のシャツの部分の唾液の綺麗に染み抜きの三十分くらい角質細胞の一粒一粒の間から社会的責任を持って醤油の分子と原子をすべからく完璧に吸い出してやるから安心しろ!」
……と言うことがあったせいなのか、昨日はどうも上手く寝付けなかった。二度寝はしてみたがあくびが出てしまう、里を飛び立ってからもう十回くらいは大あくびをした気がする。上空の冷えた気流の中を飛んでもなかなか目が覚めない。
けしてだ。昨日の夜は意識してしまっていたという訳ではないのだが、夕食時の会話や風呂場での洗い合いを布団の中で思い出すたびに、目が冴えてしまい、十センチの距離にある妹紅の寝顔に胸が勝手に高鳴った。
愚かな私の心臓め。たかが女同士で体を洗っただけであって、互いの身体を清潔に保つためという以上の意味がある行為ではないというのに愚かな私の心臓め。何を勘違いしているのか私の体のくせに愚かな心臓めは。
おかげでこんな時間まで寝てしまったではないか。午前中には巫女に会いに行こうと思っていたというのに、さあ太陽を見てみろ我が心臓よ、もうすっかり傾いているではないか、この愚かな心臓めが。
それに見てみろ境内を、何やら煙が上がっているではないか、あれもお前のせいだぞ心臓よ、火事だ火事、ではなく巫女が落ち葉焚きをしているだけだな。
うむ、枯れ葉の舞い散るこの季節というのに参道は綺麗なものだ。常日頃から神社の維持管理に努めているのは、霊夢も感心といったところではないか。
今日は見たところ妖怪も人間も見えないな。境内には紅白がぽつんと一つだけ。珍しい。
たき火の前に降り立ってみた。
が、霊夢は殆どこちらに感心を示さない。
「あら寺小屋先生とは久々ね」などと言いつつもしゃがんだまま棒きれで火の中を何やら熱心に突いてる。
挨拶も何もあったものではないが、人外のたまり場で生活していればこんなものなのだろう。
なんとも香ばしい匂いが空気に混じっているのは、薩摩芋でもくべているからか。芋が焼ける匂いは冬の乾いた風と高い空によく似合うと思う。
「久しいな霊夢。いや何、美味そうな匂いがすると思ってな。薩摩芋か?」
「そう、今日の夕飯と明日の朝食。言っとくけどあげないからね。貴重な炭水化物なんだから」
「ほう、いささか腹の虫が残念がりそうなところだが、やはりそうか、貴重なんだな、芋が」
芋程度しか購入できないわけか。
妖怪からの支援があるといっても生かさず殺さずといったところなのか?
「あったり前じゃない。焼き芋は人類が生んだ至高の文化ね。
それで先生さんの用は何よ、まさか神社まで焼き芋食べに来たんじゃあるまいし」
「うむ、まあな」
とは言っても、こうしていざ霊夢を目の前にすると、どう聞き出すべきか迷ってしまうものだ。
妖怪に取り入られている可能性が高いとは言え、曲がりなりにもここ数年で三つの異変を解決したとされる正真正銘の英雄だ。
神社の隅々まで清掃された様子を見てもそれがわかる。人物が住む場所の有り様は人物の心持ちを現すものだ。
霊夢も博麗の巫女として、妖怪と対さなければならないという使命を自覚しているのだとは、十分に伺える。
しかし、その上でもだ。妖怪から何かしらの経済的支援を受けているとしたらそれは、貧困には屈してしまった、そういう事なのだろうか。
そうだ、私は人間という種族の弱さと儚さを良く知っている。己の行動が正しいのか誤っているのか、という以前の生活上な問題に、意志の自由が縛られてしまうのがヒトという生き物である。
博麗の巫女とは言え衣食足りてこその英雄という事か。妖怪に対する抑止力になるという使命と、妖怪から生活の糧を得なければならない現実との板挟みに、さぞや彼女なりの葛藤もあった事だろう。
「どうしたのよ慧音、黙り込んじゃって、何か言いにくいこと?」
「言いにくいといえば言いにくいが、むしろ博麗の巫女にこれを問いただす役目は、私であって然るべきかも知れない。人と妖のより健全な関係を築き幻想郷の有り様を盤石にするためにも、より正確な歴史を残すためにも」
「随分もったいぶってんじゃないの、またあれ? 里で活躍をアピールするべきだとかお説教しに来たわけ?」
「そうではなくてだな。もし困ったりしている事があるなら、相談に乗りたいというか、なんなら巫女の生活について里をもって援助するべきかも知れないなどと、考える必要もあるのではないか、これはもう巫女個人の問題ではなく人間全体、幻想郷全体の問題と捉えてなどとだな」
「はあ?」
「いや済まない。私はどうも回りくどくてかなわんな。単刀直入に言おう。見たところ参拝客が皆無な様子だが、これでは賽銭も無いだろう、いったいどうやって生活しているんだ」
「何よ、嫌み言いに来たってのわざわざ寒空を飛んで。教師ってのも案外暇なのねえ」
「嫌みではなくてだな。今や里の人間も三食米飯が食べるようになっている昨今としてだな。焼き芋が夕飯というのは侘びしすぎるのではないか、飼い犬や飼い猫でさえもっと良い物を食べている、と言いたかっただけだ」
「なるほど喧嘩売りに来たのね」
「勘違いしないでほしい。私は幻想郷を憂う一人として、巫女の凄惨極まる生活実態について、思わず涙を誘われてしまいそうな程に、憐憫と哀悼と遺憾の念を感じずに居られないだけであって、喧嘩を売っているわけではなく、哀れんでいるんだ」
「なんか……むっちゃ腹立つわねそれ。まあいいけど、どうせ貧乏だし、貧乏ですよそりゃ。
同情するなら帰りにでも賽銭入れてって頂戴よね。たっぷりと」
「うむ、もちろんだとも。それでだな、やはり妖怪たちはここに来るたびに賽銭を入れていくわけだな?」
「妖怪? 何いきなり。うん、ま、ほんとたまにだけどね。馬鹿にして葉っぱとかアイスクリームの蓋とか没スペルカードとか入れてく奴が多いけど」
「それだけで生活出来るのか?」
「出来るわけないでしょうが、アイスの蓋舐めたって腹の足しにもならないわ。貴重な糖分だけど」
「ほう、舐めるのかやはり。バニラ味か?」
「チョコレート味が好きだけど、バニラでも贅沢言わないわ。むしろ栄養になるなら何でも良い。あんたには想像出来ないかも知れないけど、この世にはドングリとか蝉を食べなきゃならないほど困窮している人がいることも忘れないで欲しいわね」
「しかしそれだけでは十代女性に必要な一日分のカロリーは摂取できなかろう、つまり霊夢はアイス蓋等も含めた賽銭や蝉やドングリに類される物ではなく、それ以外の収入で暮らしているわけか」
「当たり前じゃないの、賽銭だけで食べてけたら、みんな神社やるわよ。食っちゃ寝で遊んで暮らせるじゃない」
「うむ。まったくの正論だな。して霊夢は何をもって収入を得ているんだ?」
「私の出来る事ったって一つくらいしか無いでしょーが、体張って稼いでるに決まってるっていうかなんで台所事情をあんたに話さなきゃなんないのよ。侘びしいとか犬以下とか猫以下とか馬鹿にされてさ」
「うむ。確かにプライベートな事柄でもあるな。悪かった。だが一つだけ教えて欲しい。何をしているかはともかく、誰から収入を得ているかが知りたいのだ。やはり妖怪から収入を得ているのか?」
「まー、そうね妖怪ばっかよね」
やはりか。それでいて彼女の出来ることとは、一体なんだろう。体を張って稼いでいる?
博霊の巫女と言えば、何より人類ヒト科最強、ひいては全幻想郷スペルカード戦最強とも言われる存在であるからして、普通に考えれば妖怪から力づくで金銭を奪い取る、強盗や恐喝のような原始収奪的方法か?
いやそれでは妖怪と仲良くしているという事実が説明できないではないか。
となると逆に賄賂を受け取って、妖怪の活動を妨げないようにしているとか?
しかし、それだと今度は体を張っているという言葉に意味が無くなる。
つまり、博麗の巫女が、体を張りつつ、妖怪と仲良くしている、というのが鍵なのだが……
まさか、とは思うが、私の広大かつ深淵な知識の中で一つだけ思い当たる事象がある。
幻想郷などという世界が出来上がるずっと以前。かつてこの国中に妖怪が跋扈し人間を脅かしていた古い世の、数限りない乙女が人間から妖怪への供物として差し出されてきた歴史だ。
妖怪たちが好んだのは特に巫女に成った乙女たちだ。普通の人間よりも強い霊力を持っているからだ。
妖怪たちは巫女に宿された霊力を得るために、巫女の肉体を貪ってきた。性的な接触によって、あるいは文字通りの食事としての、いわば生け贄だ。
その対価として人間たちは、世界の主であった妖怪から生活を保証されていたのだ。
つまり、そういうことなのか?
霊夢は妖怪に取り入り媚びを売り自らの体を苦界に貶めて霊力を売り渡す事で、やっとこ生活費を得ていたというのか?
しかしそれでも芋しか食えないのか? アイスクリームの蓋が貴重な糖分なのか? ドングリはまだわかるが、蝉をどうやって食べるんだ?
何かが。間違っている。世の中は間違っている。絶対に。
霊夢の肩にそっと手を置いた。
ああこんな細い肩と綺麗な腋をした少女が何故妖怪に汚されなければならなかったのか、なんて過酷な運命が今まで科せられていたのだろうか、と思うと涙を堪えきるのは無理というものだ。ぽろぽろと零れた。
こんな前途のある若者に、アイス蓋の味についてバニラだのチョコレートだのと好みを宣まわせるような生活を強いてはいけないのだ。間違っている。絶対に。
「今まで辛かっただろうな霊夢。おかしな事を聞き出そうとして悪かった。もう何も言わなくて良い。私の考えが至らなかったのだ許して欲しい。だが大丈夫だ。今日からは私が付いて居るぞ。なんなら私の家に来い。蓋ではなくアイスクリームの本体を食わせてやる。思う存分カロリーを摂取させてやるからな」
「はあ? なんであんたの家に行かなきゃなんないのよ。泣かれて同情されるほど落ちぶれちゃいないっての。アイス本体は食べたいけどさ」
「強がることはない。お前はもう一人じゃないんだ。もう私たちは家族だぞ。今日から慧音姉さんと呼んでくれて構わない」
「たぶん親切で言ってくれてるんだろうけど他人が焼き芋楽しんでるところに嫌み言いに来たと思ったら突然泣き出して電波な事言い出す姉はほしくない普通にお断りするわ」
「ほほう、それはあれか、流行りのツンデレというものだな。ははは、霊夢もかわいいところがあるんだな」
「わけわかんないわね今日はあんた。で、結局何? 同情してくれてんのはわかったけどさ、私の商売とかなんとかさっき言ってたけど、貧乏そうでかわいそうだから、お客になってやるとかそういう事? まあお客なら歓迎するけど」
客=歓迎。
歓迎だと? そういう事を自ら言い出すのか。
な、なんて開けっぴろげな。ここまで墜ちてしまっていたのか霊夢!
いかん、いかんぞお前は!
「何を言い出すんだ。まったくそういう意味ではない。霊夢の商売……商売というとなんだか、語弊がある気はするが、そういう事には私は一切これっぽっちも興味が無いのでな」
「そうなの?」
「当たり前だろう、お、お前までそういう事をいうのか失敬な、だいたい私にはだな、妹紅が居るんだぞ!」
「ああ、なるほど、あの不死身の娘ね。あんたあの娘と友達なんだっけね、なら練習相手には事欠かないか」
妹紅と練習(*^_^*)
「れ、練習? 妹紅とそういう練習だと? な、ななな何を言う霊夢、馬鹿な、何の練習だこの変態、そんなとんでもない、そんな事するか馬鹿者、バカバカしい、けしからん、そういう意味で言ったのではない。ただだな何となく、妹紅が居るからなと言ってしまっただけであって、意味が違うぞ。いやそもそもだな、私は妹紅をそんな中途半端に考えてなど居ない。もっとも仮にそういう事態になってしまう事も長い人生の中で若い二人であることだしちょっとした間違いもあるかもしれないが、仮の話だぞ? もし仮にだ、もしそうなったら練習などではなく私は死にものぐるいで一心不乱にめくるめく花園へ向かって突進することだろう突撃一番だ練習ではなくいわば本番だいや本番とはそういう意味ではなく弁証法的なアウフヘーベンがメタフィジカルなマルキスト的価値転換で昇華行動による迸りなだけだ!」
「何焦ってんのよ一人で」
「焦ってなど居ない! 煮えたぎる情動を持て余しているだけだ! 嘘だと思うなら私の鼻息を見てみるがいい、どうだすごいだろう、ホバー移動が出来そうだぞ! 見ろ巫女よほれ見ろ少し浮いてる私は浮いて居るぞ!」
「落ち葉が散るから止めてよね。まったくもう。要するにうちの商売になんとなくは興味あるって事でしょ。里にも知れてるとは思わなかったけどねえ。ほらパンフレット上げるわよ」
霊夢が差し出してきた地味な冊子……文字の一つもない極めて安っぽく無愛想な表紙の中にいったいどんなめくるめく秘密の花園的な物が記されているというのか。
恐る恐る受け取ってみた。正直に言えば私とて好奇心というものはある。中を見てみたくもあるが。そのためのあと一歩の羞恥心が捨てきれない。
「ま、今なら二週間みっちり集中合宿コースがお勧めだけど、慧音とか日中働いてるヒトには、時間予約制のゆ
っくりのびのびコースしかないかな?」
「に、二週間合宿だと? みっちりだと? 血とか出るんじゃないのかそこまでしたら。それにのびのびとはなんだ、私はのびのびするしかないとはどういうことだ? 何を伸ばすんだ? 私のか? お前は私の何を伸ばすというのか? 私と妹紅だと役割的に私の方が伸ばすしかないという意味か? 私には角あるから突起物のもう一本や二本増えたって増設したっていいだろうと言う意味なのか? 実はお前はそういう商売だったのか? 何をだ、お前はいったい私の何を伸ばすつもりだ! つまりそれをどれくらいそれを伸ばすつもりだったんだそれを! 実用レベルにか? 実戦投入も可能なほどにのびのびになるのかそれは!」
「いちいち大声出さないでよ、うっさいわねえ。なんかテンション高いよね今日の慧音。言ってることも半分くらい意味不明だし、今夜満月だから?
まあでも、もちろん、実践して役立たせる事を前提にしてるわけだから、確実に伸びるわよ。伸びて貰うわよ。伸ばしてみせるわよ。私が指導するからにはね、実績はナンバーワンだから安心しなさいな」
「実績ナンバーワン? そ、それは凄いなではないか!」
「あーけど、一応、慧音なら言わなくても良いんだろうけど、悪用はダメよ絶対」
「悪用? 悪用とはなんだ悪用とは、言われて一瞬ドキッとしてしまったではないか、なんだか妹紅の恍惚に浸る顔がチラッとしてしまったではないか、私が伸ばしたそれを何に悪用するというんだ霊夢、言ってみろ! いや言うな! 言わなくてもいい、お前が言いたいことはわかっている、大丈夫だ、そういう時はちゃんと同意の上でするから!」
「そうそう、決闘は清く正しく美しくってね。さすが先生わかってんじゃない」
「決闘? うむ激しい表現だが詩人だな博麗霊夢よ、ある意味そうだとも弾けんばかりの肉体と肉体のファンタジックにして真剣なぶつかり合いなのだから、ある意味乙女のための乙女による決闘だとも!
いやばばばばばばばばば馬鹿を言うな馬鹿を! 私に何を言わせるかこのポエマーが! ポエミストが! 決闘などとそれで上手いこと言ったつもりかポエミストレス、お前なんかもう博麗ポエミだ!」
「よくわかんないけど……ノリノリなの慧音は? じゃコース契約しちゃう今?」
「はんっ! バカバカしい、滑稽極まるとはこの事だ、この私がそんな物の契約だと? 巫山戯るな博麗ポエミ。そんなモノに頼らずとも私は十分に妹紅と幸せに生きていく自信はある!」
「ああ、あんたも人間の生活を守るのが役目だもんね、でもだったら尚更、いざという時のために役立つんじゃないの?」
「いざだと? いざというときだと? いざという時が私たちにやってくるという事を前提に話しているのだなお前はなんと破廉恥な!」
「はあ? なんで決闘が破廉恥なのよ」
「また決闘というか! 真剣勝負というか!
その言葉を使うのかお前はそのあどけない顔でなのかお前はポエミ! おおポエミ!
おおそうだとも真剣な勝負であろうな、さぞかし熱き夜となるだろう、歴史に刻まれる一夜となるであろう、そしてその時にまさに役に立つというのだな、うむその通りに違いない真理だそれは、我々がヒューマンである以前にアニマルであるという絶対の理を前にしてはなんたる虚しさか理性とはああ理性とは! 最強を自称しつつカエルを虐め逆に食われる氷精よりも虚しい、数千年の齢を重ねながらも少女を自称する彼の女の勇気と厚かましさよりも虚しい、伝統のブン屋と称しながらもその実フリーペーパーを問答無用にばらまいて紙資源を無駄にしているだけの迷惑鳥天狗よりも虚しい! 虚無だ! ああ虚無だ! 深淵なる虚無が来る、否、来ているのではない、そこに、目の前にあるのだ! 常に! 足下に! 我々に残されているのは絶対的な虚無しかないではないかポエミよ? 理性に拘る先に何があるというのか答えてみろさあ今すぐだ三秒以内に地球が六万一千分の一回転する前に!」
「うん?」
「たわけが! うん? ではないぞ!」ポエミの襟首をひっつかみ額を合わせるがごとく顔を近づけ、「さあ契約書を出せといっているのだ私は、迅雷烈風の衝動に駆られるこの私がだ。どこだ契約書はどこだ印鑑がいるのか、いるのかそれが? 持ってきてないぞそんなもの、いらんぞこの世の真理の前に印鑑の価値など無に等しいさあ契約書を早く! 早く、早く、早く早く早く!」
「はいこれ契約書」ひらひらと藁半紙を振ってみせるポエミ。「拇印でいいわよ、ここね、ぽんとお願い、控えにもお願いね」
「よし来たぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
親指の皮を歯で噛みちぎり、二枚の藁半紙に穴を開けんが勢いで、血判を刻みつけた。
やった、私はやったぞ! 妹紅よ私はやったぞ! 二人の明るい未来計画のために!
「これでいいのだなポエミ! これで私はのびのびなのだな!」
「うん、オーケー。朱肉あったんだけど、まあいいか。それでどっちのコースにするの慧音、時間取れるなら二週間合宿の方が早くて効果的だけど、学校あるんじゃ合宿無理よね」
「何? 合宿のほうが早くて効果的なのか! ならばそうしよう、都合良く学校は休みにしてあるからな!」
「あらそうなんだ、なら合宿ね。それがお勧めよほんと、やっぱ集中してやった方が強くなれるしね」
「ほう、合宿のほうがのびのびが強くなるのか素晴らしい! ところでポエミ、契約書に書いてあるこれだが、
『博麗式スペルカード戦特訓講座Reimu`s Bullet Curtain Special Tactical Training Camp』とはなんの事なんだ?」
「ん? 何って決まってるじゃない、私のスペルカード戦教習所の名前よ」
「スペルカード戦の教習所だと?」
「そう、どこで聞いたのか知らないけど、あんたも誰かに聞いて来たんでしょ? 実力伸ばしたくて」
「ほう?」
「うん?」
「ほう」
「うん」?
「ほう、なるほどな。私はスペルカード教習所の契約を交わしたというわけだな。スペルカード戦の実力がのびのびというわけなのだな」
「うんうん、なんたって私が直接指導するんだもん。みんな強くなるわよそりゃ。もうほんと次ぎの異変とかで敵になったらどうしようとか思っちゃうくらいね。でもまあ背に腹は代えられないと言うか、腹が減っては戦は出来ないっていいうのかさ。しょうがないでしょ生活のためなんだから。それに紫も妖怪が強くなるのは幻想郷にとって良いことだとか言って賛成してたし、地下訓練所も作ってくれたし。
まあでもなに? あんたも人間の味方だからぶっちゃけ言うけど、妖怪風情が博麗の巫女様にはどうやっても勝てるようにはならないっていうかさあ。ていうかどうしたの慧音、なんでまた泣いてるの、赤? 涙赤いよなんか、血? 血の涙? なんで血の涙を流しているの? え? 何、ちょっと離してよ慧音、襟掴まないでって、服のびちゃうじゃない、痛いって、ちょっと何凄い顔しちゃって」
「騙したなポエミいイイイイイぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「ちょっとガクガク揺するの止めてよ、脳みそ揺れるし酔いそうだし、騙したって何よ、失礼ね。あんたが早く契約させろっていうからそうしたんじゃない」
「乙女の純情を踏みにじったなポエミィぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、明るい未来計画を返せポエミぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「解約するなら違約金払って貰うからね。もう私の中で、これで明日はステーキだわ! ひさびさのタンパク質を食べられるわ! とか心の献立を決めてたんだから、私にだって明るい未来計画はあんのよ。だいたい訳わかんないって、さっきまでノリノリだったじゃない」
「ノリノリだと? 私がノリノリだったというのか! 何に乗るのか私は? 私が何に乗るつもりだったと言いたい博麗ポエミ! 英語で言えばライドオンか? 夜な夜なか? 夜な夜なライド&オンと言いたいのか貴様は、ホワッツアムアイゴーイングトーゥーライドオンザッツドゥーユーウォントゥーテルミー? 答えろこの腐れ外道詐欺師が! ロシア語で考えた上でドイツ語で解答し、記述しろ広東語とパシュトゥーン語でだ、そして言いふらすがいい広島弁とテキサス訛りで全幻想郷中へと三十三秒以内に満面の笑みを持ってして! そんなに私を苦しめて楽しいかポエミ、私をおちょくって楽しいのかポエミぃいいいいいいいいいいいいいいい!」
「詐欺師って……もしかしてなんか勘違いさせちゃったりしてた? 流石にそれなら悪いし、契約も無かったことにしてもいいわよ。詐欺師とまで言われたら明日のステーキだっておいしかないわ」
「否ぁああぁぁあぁああああ! 私が何を勘違いしていたと言うのだ私は何も勘違いなどしておらんぞ私がそんな助平だと言うのか聖職者に向かってこのトンチンカンがぁあああ!」
音速をも超えんばかりの勢いで振りかざす右手はポエミの頬へ。歪ませる激しく歪ませるポエミの顔をビンタあるいは亞音速のビンタが激しく歪ませ、真芯を捉えた運動エネルギーはポエミの体をX軸及びY軸方向へと凄まじい回転を、そうまるでトルネード、Z軸へ弾き飛ぶ様はさながら発情期の雄ポメラニアンが雌マルチーズへと飛びつく姿を思わせ、地面を転がりゆく紅白色は世界の二面性の抽象とでもいうのだろう、そして参道に伏しピクピクと痙攣している姿はこの世の不条理さと無情さを体言しているとでもいうのかポエミ!
だがしかし私は傷ついた、傷ついたのだぞ!
それに、それにぜんぜん、もうほんっっっとに。
「か、勘違いしないでくれポエミ! 私はぜんぜん、勘違いなんかしてないんだからな! スペルカード戦の実力を伸ばしたかっただけなんだからな! 明日からの訓練が楽しみなんだからな! ほんとだ、ほんとだぞ、騙されたなんて少しも思ってない。ただ純情な乙女心が明るい未来計画がだな! おい聞いてるのかポエミ!」
うむ。
ピクピクしてたのが止まったな。完全に。
止まったのか、そうか私が殴ったからだな。悶絶したというわけだ。
うむ。
仕方がないな。起きた後が面倒そうだ。
「よし、では霊夢、私はそろそろ帰るぞ。妹紅が家に帰ってくる前に急いで夕飯の支度をしないとな」
返事があるわけない。流石にただの屍になっていたりはしないだろうが、この季節だ。不本意とはいえ明日から訓練なのだし、教官に風邪をひいてもらっても困る。社務所くらいには運んでやるか。いや不本意ではない、私は最初から訓練を受けるために神社に来たのではないか。うむまったくだまったくだ。私は人間を守るために霊夢に訓練を受けに来たのだ。
うむ。芋もいい具合に焼けた頃だな。貴重な食料を炭にしてやるのも悲しすぎる。一緒に運んで枕元にでも置いておいてやるとしよう。
ついでに二三日デザートを買えるくらいの賽銭も置いておいてやれば、殴られた事も忘れて喜ぶかも知れないな。たまには蓋だけではなく、本物のアイスクリームを食べるべきだ。
それとやっぱり合宿は止めておこう、冷静に考えてみれば、二週間も妹紅と離れている生活など考えられないからな。
「……という事が昨日あってだな諸君。先生も巫女の事業に全面的に賛同し、幻想郷の平和を守るため、今日から放課後に教習所に通うことになったというわけだ。本当は合宿にしようかとも思ったのだが、冷静になって考えてみると、あまり長く学校を休みにするわけにもいかないからな。ゆっくりのびのびコースを受講することにする」
「えー、じゃあ結局、巫女が正しくないと証明出来なかったんですかせんせー」
などといういつものヤジも、「こらタゴサク、先生を困らせるでねえだ! いんやあ先生すまなんだうちの馬鹿息子がやんちゃでなあ」とまあ、教室の一番後ろから外野なヤジに牽制される今日は予定通りに父兄参観日。
それぞれに正装した親たちがずらりと並んでいる様は、今でもなかなか緊張したりもする。
今でこそ学校の意義は人々に十分理解され、私も先生などと気さくに呼ばれてはいるが、開校した当初は勉学そのものに理解を示す人間は少なかった。私個人はちょっと変った人という扱いだった気がする。
最初の生徒を集めるのは大変だった。子供のいる家庭への地道な訪問PR活動や、往来で勉学に努める意義を演説したりもした。そうしてやっと最初の十人を集め、積極的に里の人々を教室に招き授業風景の見学してもらったりする事を繰り返して、やっと今の四十五人まで生徒が増えたのだ。
父兄参観日はその頃を思い出す。人々を正しい未来へ導くために、人々から理解を得るために、一語一句に細心の注意を払いながら授業を進めていた。そんな思い出をだ。
「いや構わないのだタゴサク君のお父さん。これは生徒たちと私との神聖な約束なのです。聖職者として約束を果たすのは当然の事です。これも教育の一環なのですから。
まあそういう事だタゴサク。私は今回は巫女の正統性こそ認めたが、不正義を証明することには失敗した。君の勝利を認めよう。私はどんな言い訳も弁解もしないぞ」
「オー、さすが先生だっぺ!」「素晴らしい人格者だ!」「聖職者の鏡だわ!」「いよっ獣ッ娘小町日本一!」
やんややんやと親御さん方が口々に持て囃す。
うむ。私もよくぞここまで里の人々の信頼と人気を得られたものだと、我ながら思う。
「まあまあ、親御さん方、私は自分の言ったことを証明出来なかった身、そう持て囃されても困ってしまうという物です。褒めるのならば今回の件の発案をしたタゴサク君を褒めてあげてください」
「そんな事いいからせんせー、早く恥ずかしい話をしてくださーい」
「うむ、そうだったなタゴサクよ。それが約束だ」
「先生さん、タゴサクさ言うこと聞くことねえっぺさ。先生は間違ってねえだよ。恥ずかしい話なんてすることねえっぺよ」
「いえいえ、お父さん、タゴサク君は幻想郷においての重大な問題を提起したのですから、もっと評価してあげるべきでしょう。時として親は子供を過小評価してしまうもの、しかしそれだけではかわいそうというものです。今夜は何かタゴサク君の好きな物を食べさせてあげてください」
「せんせー、早く恥ずかしい話しろよー、はーやーく、はーやーく」
「うむ。まったくお前はすぐ調子に乗るな、しょうがない奴だな。ははは。
もちろんだな。するぞ。するつもりだったんだがな、恥ずかしい話は。しかしよく考えてみたまえ諸君。
一晩じっくり考えたんだ私もな。しかし、しかしだ。ある一つの真理に行き当たってしまったのだよ。
私が恥ずかしい事などするわけがない。
人様に隠し立てしたくなるほど、無かったことにしてしまいたいほど恥ずかしいことなど、するわけがない。だって私は聖職者だぞ、清く正しいのだぞ、本当だ、絶対に、いや別に誤魔化したりしてるわけじゃない、昨日ほんとは人生で一番恥ずかしい勘違いをしていたが、それを喋りたくない故にこんな事を言っている訳じゃない本当だ信じてくれ諸君。
なんだ、どうしたタゴサク、その目はなんだ。楽しそうな、面白そうな、まるで道化師を眺めるような目はなんだね、教師のくせに約束一つ守れないのか笑いたいのかそうなのか。いやだから約束を守ろうとしたが、語るべき恥ずかしいことなど私には一つもないと言っているだけであってだな。約束を破っているわけではない!
ん、どうかしましたか親御さん方、なんで私に聞こえないように隣同士でヒソヒソ話しをして笑っているのですか。私の人格をお疑いですか、私の聖職者としての適正をお疑いなのですか、子供との約束一つ守らないで誤魔化すダメな大人だとお思いですか、タゴサク君のお父さんまでなんでそんなにやけた顔をしているんですか。
違う、これは違う、本物の私ではないのです。いや本物の私だが、微妙に違うのです。私は誤魔化してなんかいない。そう、そうだ、その証拠といったらなんですが、一度皆様に説明しておかなくてはならない事があったのです。私が清廉潔白な人物であるという事を証明したい今ここで!
今日は丁度子供たちだけではなく、親御さんもいらっしゃるわけなので都合がよろしい。
話を聞いていただきたい是非とも。
ええそれは何と言っても、私と妹紅の事です。最近子供たちの間で私と妹紅が恋人同士であるなどという風説がまことしやかに語られているのはご存じの方も多いでしょう。
確かに私と妹紅は親密な友情によって結ばれている故に、子供たちの豊かな想像力を刺激してしまうような光景を人目に曝すことも無いことはないでしょう。
しかしそのような他愛もない光景というのは、実は日常生活に根ざした極普通の理由があってなされるわけであり、なんら恋愛感情や性的なニュアンスを含む物ではないと、これを説明したい。
ええい、何から説明するべきか、そう、一番わかりやすそうな例を今思い出しました。
昨日神社から帰って妹紅と夕飯を食べている時です。
私が醤油の入ったどんぶりをお盆に乗せてちゃぶ台へと歩いていると、不幸にもバナナの皮を踏んで、転んでしまい、その結果私と妹紅が全身醤油まみれになってしまったのです。
これは単なる不幸な事故です。たまたまバナナが無性に大量に食べたくなって、床に皮を食べ散らかしていたという偶然と、醤油さしがどこを探しても何故か見つからなかったので、仕方なくどんぶりに大人二人をくまなく醤油まみれに出来る量を入れて運んでいたという偶然が重なって起こった不幸な事故なのです。
もちろん私たちは二人ですぐに風呂に入りました。当たり前ですよ。醤油を浴びたらすぐ体を洗う、常識です。
しかしここで難題が浮かび上がるのです。私たちはとても綺麗好きなのでお互いの全身を隅々まで丁寧に洗おうとしましたが、代わりばんこに手で洗っていたのでは効率がよろしくない。でしょう? 当然です。
もっと効率的に二人の体を洗う方法があるはずだ。
そこで妹紅が提案しました。彼女はとても柔軟な発想ができる女性なんです。全身にボディシャンプーを塗りたくって、お互いに抱き合うようにして洗ったら一辺に二人の体全体を洗えていいんじゃないか、と。
なんて事を言い出すのかと思いました。
妹紅、お前はなんて事を考えつくのだと。
でしょう?
快諾しましたとも私は。ええ。当たり前じゃないですか。
凄かったです。ええ、これはもう凄かった。本当です。本当に凄かった。
いやそういう意味ではない。本当です、勘違いしないでほしい。
とても効率的に体を洗えたという意味で凄いであって、なんらイヤらしい意味ではなく、事実私もその時に、これは互いの体を清潔に保つためであってドキドキしているのは私の心臓が愚かなだけだ明日もバナナを買って帰ろう醤油も補充しないとな、と一秒に一回自分に言い聞かせなければならないほどだったんですから。
あれ、どうしたんですか、サチヨさんのお母さん、どうしてサッちゃんを連れて教室から出ていくんですか、まだ話は途中です、風呂の後でですね、妹紅が布団の中で二人でするダイエット発汗運動を思いついて二人で実行するところまでは話させてください。いえそれだって何らイヤらしくなく、ただ健康のためにです。本当です。
あれ、カズヨさんのお父さん、何をご立腹してらっしゃるんですか、ミチヒラくんのお父さんもヒロフミくんも、タゴサク君のお父さん、そんなに残念そうな顔をしないでください、ああその他の皆さんもどうしたんですか、何故お子さんを一人残らず連れて教室を出ていくのですか皆さん、子供たちは笑って喜んでいるじゃありませんか。話はまだ途中です!」
……という事を昨日やらかしてしまったせいか。朝目覚めても起きる気力が無かったが、妹紅を心配させじと何気なく振る舞い、屋台がんばってねと送り出しはした。が、そこでもう精神的に限界だった。
なんて下劣な教師なんざましょ、こんな場所にうちのサチヨは任せておけないざます。そんな言葉が何度も何度も頭の中でリフレインする。
カッチ、コッチ、と枕元で時を刻む時計の針はもう九時に差し掛かっている。とっくに学校を開けなければいけない時間だが、もうどうせ誰も親から学校に行かせて貰えないだろう。
学校を開ける必要など無くなった。
儚い物だ。
自分なりの理念を持って、信念を礎に、一歩一歩、歩んできたつもりだった。積み重ねてきたつもりだった。
それがたった一度の愚かな過ちで崩れ去ってしまうのか。
私のばかやろう。
なんなら昨日の歴史を無かったことにしていまえばいいのか?
確かにそれならば、今の事態も簡単に私が望むように解決するだろうが、自らの過ちを消去してしまうというのは、なんなのだろうな。それをしてしまえば、それこそ私は自分自身を許せそうもない。
下らないと言えば下らないが、私の聖職者としての、ヒトとしての最後の自我のよりどころなのか。
今日は一日寝ていればいい。そういえば昨日からのはずの霊夢教習所をすっぽかしてしまったな、ステーキを楽しみにしていただろうに、悪いことをしてしまった。しかし私とて心のある人間なのだ。生き甲斐である学校を失った今となっては訓練どころではない。妹紅が帰ってきたらちゃんと話して霊夢にも伝言を頼もう。
とんとんとんとん。戸を叩く音がした。
「せんせー、いないのかー」
タゴサクの声だ。わざわざ訪ねてきたらしい。私を笑いにでもきたのかあいつめ。
「私なら居ないぞ、今日は一日寝るんだ。からかうつもりなら、また今度にしてくれ!」
外に向かって怒鳴っても、戸を叩く音は止まない。
なんて奴だ。いつもいつも私をこけにして、こんな時まであいつは。
布団から起きて、「なんだタゴサク、私を笑いにきたのか、それともなんだ、『上白沢先生、どうかがんばって生きてください、生きていればきっと良いことがありますよ』などという四十五人分の手紙を持ってきたんじゃあるまいな、そんな事したらさすがに死ぬぞ私は死んでやるからな」
半場やけっぱちで喚きながら戸を開けてみた。寝間着のままだが、相手は子供だ構わないだろう。
するとどうだ。
子供たちが居たじゃないか。家の前に、ずらりと、全員がだ、四十五人。
タゴサクが、ああなんて小憎たらしい笑い顔をするこいつは。へへん、とでもセリフを付けたくなるような笑顔で笑うこいつは、ああもうほんとこいつは。
「せんせー、学校いこうぜ! 俺たちあの後でみんな親説得したんだぜ、てゆーか、オヤジがもっとせんせーの話を聞きだしてきて教えてくれとか言って五月蠅いんだからよー、もっと恥ずかしい話聞かせてくれよ! それでオヤジから伝言なんだけどよ、あの場は大人として憤慨しつつ教室から出なきゃいけないっぽい空気だったから空気を読んでそうしたけど、本当はダイエット術も聞きたかった、せんせにごめんと言っておいてくれとかこっそり言ってたぜオヤジ」
「うちのお父さんもそうだった」「俺んとこのも」「けいね先生ってかわいいよなお母さんには内緒だぞとか言ってたパパが」「わたしのママも、けしからんざます、けしからんざます、とか言いながら、回りの子がみんな学校行くなら、なんとなく空気を読んで行かせてもいいような気がするから行かせるとか言ってた。所詮やたらに空気を読みたがる日本人よね、みんな揃って。でも私たちはせんせーの学校が本気で好きだから来たんですよ」
だからせんせー、学校いこうよ!
「お、ま、え、らーぁああああああああああああああ、
大好きだこの野郎共ぉおおおおおおおおおお!
よーし、行くぞ学校までみんな競争だ! ついてこいよおぉおおお!」
せんせー!
朝日に向かって全力で完
確かに笑えはするんですけど……少々おいてけぼりをくわされた感じが。
慧音と妹紅の二人が否定するウフフな日常は面白かったですよ。
ただ凄いマシンガントークだなぁ…とは思いましたけど。
後で霊夢にボコボコにしばかれるんだろうなw
こうして子供たちはより逞しい幻想人類になってゆくんですね。
最後は違う方向から笑わせられたし良かった!
すさまじいスピード感でした
壮大に笑った
先生に一生ついていきます
この幻想郷ももう駄目だw
ポエミいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
いろいろとだめすぎるww
凄い……!
えろい。
す、凄い!
恐ろしや、恐ろしや
特攻と書いて「ぶっこみ」と読むのは紳士の嗜みですよねー
「おwまwえwらwwwww」
と聞こえてきそうなw
ナァニコレェ
なんかもう、勢いで最後まで読まされました。
だが100点!