夜だった。
前に一人の男がいた。男は太刀を正眼の構えにしていた。
「なっちゃいない」
射命丸文はつぶやいた。手練れの者でもこの程度。
一歩、足を進める。男の構えが固まる。
顏を歪める。人は弱い、物の怪の私は強い。そして私のバカ弟子である牛若は強い。
足を進める。男は何かに弾かれたのに動く、私は手に持っている小太刀を構え、動く。男とすれ違う。すれ違う直後に男は崩れ倒れる。
「チッ」
舌打ちをした右腕が痛みが走る。自分の体を見る。黒装束にどす黒い血の固まりがあちこちにへばりついてる。
自分が流した血
自分が倒した者の血
背後から気配を感じた。体を反転させる。太刀を上段に構えた者がいる。反転の力を利用して相手の顔に蹴りを当てる。相手はそのまま倒れる。
息が荒かった。なぜ自分はここまで人と戦うのか?
「なぜは人は争うのですか?」
まだ鞍馬寺にいたときにまだ子供の牛若丸に聞かれた。
「アホだからさ」
私は言った。物の怪より弱い癖に強がり争う。
「力と言うものは、うまく使わないとその力に溺れ、やがて身を亡ぼすよ」
私は言う。
「しかし、その力を使えば、この人の世から争いはなくなるでは?」
牛若丸の質問に私は苦笑した。力は絶大である。自分が持ってる物の怪の力も絶大である。人の世界は嵐とかの災害になる。
しかし、それは自然であり、物の怪の力は自然であり、私も自然の一部になる。
「牛若。あんたはバカの癖に難しいこと考えるね」
そう言いながら、私は答えを考える。
「人、次第ね」
私は言う。
「人、次第ですか?」
牛若丸は言う。
「そう、その力はその宿す人の意志しだいだよ」
「えーと」
私の答えに牛若丸は微妙な顏をする。
「えーい。私にも分からないわよ。そんなメンドクサイ質問より、今は兎に角力をつけなさい」
私は牛若丸の尻を蹴りながら言う。
やがて牛若丸は力をつけ鞍馬山を降りて、人の世に出た。己の力で戦ない世にするため。
体を振り向いた。先にはかがり火あり、太刀を持った者達がいる。その奥に屋敷があり、屋敷の前で立っていた女性がいる。
その女性を睨む。女性も私を見る。
北条政子
小太刀を強く握った。倒す敵。
音がした。空気を切り裂く音。矢。数本の矢が飛んでくる。小太刀で矢を叩き落す。しかし一本の矢が肩に刺さる。
「ク......」
一瞬、目が暗くなる。そのまま膝が地面につく。
「私が、大妖怪の鞍馬天狗・射命丸文がこんな人ごときで」
人の世は源氏と平家の戦いになり、バカ弟子は源氏の将軍となり、平家との闘いに勝ち進む。
私は空からバカ弟子を見守った
しかし、その中で同じ源氏の源義仲の軍と戦い、義仲の恋仲の巴御前と一騎打ちをして討ち取った。
そこから、バカ弟子が変わった。
バカ弟子の戦は苛烈になり何かを急いでたようだった。
戦ない世の中
敵である平家を倒せばその世は来ると考えてたのだろうか?
息が荒くなる。肩に刺さった矢の痛みが伝わる。数名の足音が聞こえた。足音は私を囲むように聞こえた。
「人どもは狡猾だな」
上を見る。夜の空に月と星が見えた。この空の下で幻想郷では源頼朝が自ら攻め込んだ鎌倉軍と初代博麗の巫女の巴御前を大将にした幻想郷軍が激突してる。
幻想郷の存亡を巡る戦い
「私は」
何のために戦う・誰のために
バカ弟子と一騎打ちで討ち取れられた巴御前は魂が漂いならが幻想郷について新しい体を手に入れた。
しかし彼女は義仲や兄弟をすべて失い。生きた屍だった。
そして私とバカ弟子の娘の霊夢が来た。巴御前と霊夢の出会いは劇的だった。
すべてを奪った源氏の娘。巴御前は憎しみに満ちた。
しかし、霊夢と真剣に向き合い憎しみは消えていき、母として霊夢を育てることにした。
平和な日々だった。私もその平和な日々の輪にいた。それはバカ弟子が求めて戦い続けてきた先の答えがこの幻想郷にあった。
足音が聞こえた。一歩。私にトドメを刺そうとくる足音。
「なっちゃいない」
私は暗い空を見ながら小さく息を吐く。こんな姿で死んだらバカ弟子に、バカ弟子の子である霊夢に、
「なっちゃいない」
さらに足音が続く、自分の間合いに入る。右手の小太刀に握る。
一瞬。 立ち上がり、小太刀を振り上げる。
視界が赤くなる。血である。近づいて来た者の首から血が滝のように溢れていた。
近づいてきた者の首が宙に飛んでいた。囲んでいた数名の者達が動きが止まった。
「舐めるな、人共」
羽を広げ宙に舞う。飛んでいた首を鷲掴みにする。空から下を見る。暗くて分からないが大きな館だった。
その館に私を含め二十人の天狗たちと襲撃した。
幻想郷に攻めてきた源頼朝率いる鎌倉軍を動かしてる真の首謀者である、北条正子を暗殺するために。
暗いが篝火の光で武器を持った者達が見上げて私見ている。
分かる。この者達が私に怯えてるのに
襲撃した館に待っていたのは百人を超える武器を持った者達だった。同時に物の怪の力を封じる札がいたるところに張っており力は使えなかった。
二十人で絶望的な戦いをした。一人が倒れまた一人倒れる。
そして、
「羽を広げるが精一杯か」
右手に持ってる頭を北条正子に投げつける。
首は北条正子の横を掠める。しかし顏を微動だにせず、私を見続ける。
「舐めるな!!人共も!!我は天下の大将軍・源義経の師匠、鞍馬天狗の射命丸文だ」
羽を限りなく広げ、突撃する。矢が飛んでくる。矢を小太刀で叩き落す。
二本・三本とくる。
叩き落す。
続けてくる矢。叩き落せず体に矢が刺さる。体に刺さった矢を抜き取り、そのまま落下するように落ち、敵の頭蓋に矢を刺す。
地面に崩れ落ちる男と共に地面に降りる。周りがひき始める。
怯えてる
そう確信した。
雄叫びをあげながら、小太刀を振るった。幻想郷を壊す者を倒すために......
ーーーーーーーーーーーーーーー
「物の怪をなぜそこまで戦う?」
声がした。
「......」
返事ができなかった。
「なぜ、戦う?」
また声がする。女性の声である。
全身が鉛のように重かった。持っていた小太刀も折れてしまった。それでも一歩だけ足を進める。
それでいい
自分に言い聞かせる。
複数の篝火が激しく燃えてる。その周りにいる太刀を構えた者達の顏がはっきり見える。
そしてその奥にいる倒すべき者の顏。
その顏に向かい一歩進む。
「は!!」
気合を入れた者が一人向かってきた。
太刀を上に上げた者が視界に入る。
「うおおお」
叫んでた。渾身の握りこぶし相手の顏にぶつける。
鈍い音と共に相手が崩れる。同時に自分も地に崩れた。
立て
自分の体に命じた。しかし体は動かない。
体が限界が来ていた。
「まったく、情けない」
届かない。あと数歩で届いた。倒すべき敵が。
「なぜ、戦う?」
さっきの問いの声が足音と共に聞こえた。
「決まっている。あそこには大事な物が沢山あるからそれを守る為に戦っている」
「幻想郷という場所にか?」
「そうだ。お前たち人の住んでる世にはないものが幻想郷にはある」
自分の手が自然と地面の土を力強く握っていた。
「あるもの。私の夫の源頼朝の弟の源義経の子と巴御前の為か?」
「そうだ」
ゆっくりと自分の体を起き上げる。目の前には北条政子がいた。
「バカ弟子の牛若の師匠である私があの二人を守るのは当たり前でないか?」
「そうか、当たり前か」
北条政子は考える顏をした。その時に空から何かが舞い降りた。
「烏天狗?」
羽を生やした山伏姿の者が北条政子の横に降りて耳打ちを始めた。耳打ちをしてる最中に北条政子の顏が微かに変わる。
「そうか、ありがとう」
北条政子はに言うと羽を生やした山伏姿の者は舞い上がり空に消えた。
「物の怪よ、少し驚いてるらしいな。あの者は『風魔』といい関東に住み着いてる烏天狗。その烏天狗はお主とってはいい知らせを持ってきた」
北条政子は一息ついて、
「巴御前が源頼朝の首を取った。お主らの勝ちだ」
「勝った......」
その言葉には実感はない。
「それと同時にお主個人は悪い知らせかもしれん。その巴御前はその場で倒れた。そう、長くないと見られてる」
「......」
自分の中に何かが崩れかかる。
「......傷の手当が必要だな」
「え?」
北条政子の言葉に理解ができなかった。
「陰陽師共から物の怪の傷薬を貰え」
北条政子は大きな声を上げて支持する。
「なぜ?」
北条政子の行動が理解できないままである。
「巴御前。義経の子。そしてお主。それを見ると羨ましく思えてきた」
「羨ましい?」
数名の陰陽師たちが近寄ってきて傷にお札を貼り治療を始める。
「私には夫の頼朝には最初の子がいた。しかし平家の力を恐れてその子を殺めた」
「......」
「そして、巴御前が大切に育てた源義仲の子・義高を我が子の娘と婚約する形で人質と取り、源義仲と対立するとまた殺めた。そして今度は源義経の子の霊夢に復讐されるのを恐れて幻想郷に攻めて撃ち滅ぼそうとした」
「霊夢に復讐するのを怖いから攻めたと」
私の言葉に北条政子は頷く。
「そのために多くの人が......」
アホらしい
それが頭によぎる。そのために多くの人たちが血を流した。
「下らんと思うだろ。たかがそのために多くの者が血を流すことが」
「ああ、アホらしい」
「しかし、それがこの人の世では政事である」
「政事?」
「頼朝が幻想郷を攻めて滅ぼせば、この日ノ本は完全に統一にする。頼朝は討たれれば、北条家がこの日ノ本の政事をする」
北条政子が言ってることが理解できなかった。
「すべては政事の為にと」
「そうだ。すべてはこの日ノ本のために頼朝の個人的な感情の行動を利用する」
悪寒が走った。
「すべてはこの日ノ本だけということの道具か」
「そうだ。それが人の政事。物の怪よ、人の政事は残酷で非情だぞ」
「知ってる」
その残酷で非情な政事でバカ弟子は死んだ。
「人とは本当に愚かな生き物だ」
「そうだ。物の怪。人は物の怪より恐ろしい。政事の為なら自分の子すらも殺める」
陰陽師達の札のお陰で傷は癒え、体力は回復した。
「さあ、これからどうする、物の怪? 私の首を取るか?」
北条政子は挑発的な言葉を言う。
「お前の首などもういらない。私はこれからやることある」
「そうだな」
私は起き上がる。北条政子と私の目が合う。
「幻想郷の主に伝えろ。もう攻め込む理由はない。和議の準備を行うと」
「ああ、紫に伝える。もう幻想郷を壊す者は来ないと」
私は羽を広げる。
「物の怪よ。この戦いで夫の頼朝が討たれたのは油断だと考える。しかし母の立場で考えればこの戦いは残酷で非情な政事が巴御前が義経の子である霊夢に対する愛情に負けたと信じている」
「私も師匠の立場としてそう思う」
お互いに少しだけ口元が崩れた。
羽をはばたかせる。
戦は終わった。とにかく親友であり幻想郷を共に守った戦友の巴御前に会うために。
前に一人の男がいた。男は太刀を正眼の構えにしていた。
「なっちゃいない」
射命丸文はつぶやいた。手練れの者でもこの程度。
一歩、足を進める。男の構えが固まる。
顏を歪める。人は弱い、物の怪の私は強い。そして私のバカ弟子である牛若は強い。
足を進める。男は何かに弾かれたのに動く、私は手に持っている小太刀を構え、動く。男とすれ違う。すれ違う直後に男は崩れ倒れる。
「チッ」
舌打ちをした右腕が痛みが走る。自分の体を見る。黒装束にどす黒い血の固まりがあちこちにへばりついてる。
自分が流した血
自分が倒した者の血
背後から気配を感じた。体を反転させる。太刀を上段に構えた者がいる。反転の力を利用して相手の顔に蹴りを当てる。相手はそのまま倒れる。
息が荒かった。なぜ自分はここまで人と戦うのか?
「なぜは人は争うのですか?」
まだ鞍馬寺にいたときにまだ子供の牛若丸に聞かれた。
「アホだからさ」
私は言った。物の怪より弱い癖に強がり争う。
「力と言うものは、うまく使わないとその力に溺れ、やがて身を亡ぼすよ」
私は言う。
「しかし、その力を使えば、この人の世から争いはなくなるでは?」
牛若丸の質問に私は苦笑した。力は絶大である。自分が持ってる物の怪の力も絶大である。人の世界は嵐とかの災害になる。
しかし、それは自然であり、物の怪の力は自然であり、私も自然の一部になる。
「牛若。あんたはバカの癖に難しいこと考えるね」
そう言いながら、私は答えを考える。
「人、次第ね」
私は言う。
「人、次第ですか?」
牛若丸は言う。
「そう、その力はその宿す人の意志しだいだよ」
「えーと」
私の答えに牛若丸は微妙な顏をする。
「えーい。私にも分からないわよ。そんなメンドクサイ質問より、今は兎に角力をつけなさい」
私は牛若丸の尻を蹴りながら言う。
やがて牛若丸は力をつけ鞍馬山を降りて、人の世に出た。己の力で戦ない世にするため。
体を振り向いた。先にはかがり火あり、太刀を持った者達がいる。その奥に屋敷があり、屋敷の前で立っていた女性がいる。
その女性を睨む。女性も私を見る。
北条政子
小太刀を強く握った。倒す敵。
音がした。空気を切り裂く音。矢。数本の矢が飛んでくる。小太刀で矢を叩き落す。しかし一本の矢が肩に刺さる。
「ク......」
一瞬、目が暗くなる。そのまま膝が地面につく。
「私が、大妖怪の鞍馬天狗・射命丸文がこんな人ごときで」
人の世は源氏と平家の戦いになり、バカ弟子は源氏の将軍となり、平家との闘いに勝ち進む。
私は空からバカ弟子を見守った
しかし、その中で同じ源氏の源義仲の軍と戦い、義仲の恋仲の巴御前と一騎打ちをして討ち取った。
そこから、バカ弟子が変わった。
バカ弟子の戦は苛烈になり何かを急いでたようだった。
戦ない世の中
敵である平家を倒せばその世は来ると考えてたのだろうか?
息が荒くなる。肩に刺さった矢の痛みが伝わる。数名の足音が聞こえた。足音は私を囲むように聞こえた。
「人どもは狡猾だな」
上を見る。夜の空に月と星が見えた。この空の下で幻想郷では源頼朝が自ら攻め込んだ鎌倉軍と初代博麗の巫女の巴御前を大将にした幻想郷軍が激突してる。
幻想郷の存亡を巡る戦い
「私は」
何のために戦う・誰のために
バカ弟子と一騎打ちで討ち取れられた巴御前は魂が漂いならが幻想郷について新しい体を手に入れた。
しかし彼女は義仲や兄弟をすべて失い。生きた屍だった。
そして私とバカ弟子の娘の霊夢が来た。巴御前と霊夢の出会いは劇的だった。
すべてを奪った源氏の娘。巴御前は憎しみに満ちた。
しかし、霊夢と真剣に向き合い憎しみは消えていき、母として霊夢を育てることにした。
平和な日々だった。私もその平和な日々の輪にいた。それはバカ弟子が求めて戦い続けてきた先の答えがこの幻想郷にあった。
足音が聞こえた。一歩。私にトドメを刺そうとくる足音。
「なっちゃいない」
私は暗い空を見ながら小さく息を吐く。こんな姿で死んだらバカ弟子に、バカ弟子の子である霊夢に、
「なっちゃいない」
さらに足音が続く、自分の間合いに入る。右手の小太刀に握る。
一瞬。 立ち上がり、小太刀を振り上げる。
視界が赤くなる。血である。近づいて来た者の首から血が滝のように溢れていた。
近づいてきた者の首が宙に飛んでいた。囲んでいた数名の者達が動きが止まった。
「舐めるな、人共」
羽を広げ宙に舞う。飛んでいた首を鷲掴みにする。空から下を見る。暗くて分からないが大きな館だった。
その館に私を含め二十人の天狗たちと襲撃した。
幻想郷に攻めてきた源頼朝率いる鎌倉軍を動かしてる真の首謀者である、北条正子を暗殺するために。
暗いが篝火の光で武器を持った者達が見上げて私見ている。
分かる。この者達が私に怯えてるのに
襲撃した館に待っていたのは百人を超える武器を持った者達だった。同時に物の怪の力を封じる札がいたるところに張っており力は使えなかった。
二十人で絶望的な戦いをした。一人が倒れまた一人倒れる。
そして、
「羽を広げるが精一杯か」
右手に持ってる頭を北条正子に投げつける。
首は北条正子の横を掠める。しかし顏を微動だにせず、私を見続ける。
「舐めるな!!人共も!!我は天下の大将軍・源義経の師匠、鞍馬天狗の射命丸文だ」
羽を限りなく広げ、突撃する。矢が飛んでくる。矢を小太刀で叩き落す。
二本・三本とくる。
叩き落す。
続けてくる矢。叩き落せず体に矢が刺さる。体に刺さった矢を抜き取り、そのまま落下するように落ち、敵の頭蓋に矢を刺す。
地面に崩れ落ちる男と共に地面に降りる。周りがひき始める。
怯えてる
そう確信した。
雄叫びをあげながら、小太刀を振るった。幻想郷を壊す者を倒すために......
ーーーーーーーーーーーーーーー
「物の怪をなぜそこまで戦う?」
声がした。
「......」
返事ができなかった。
「なぜ、戦う?」
また声がする。女性の声である。
全身が鉛のように重かった。持っていた小太刀も折れてしまった。それでも一歩だけ足を進める。
それでいい
自分に言い聞かせる。
複数の篝火が激しく燃えてる。その周りにいる太刀を構えた者達の顏がはっきり見える。
そしてその奥にいる倒すべき者の顏。
その顏に向かい一歩進む。
「は!!」
気合を入れた者が一人向かってきた。
太刀を上に上げた者が視界に入る。
「うおおお」
叫んでた。渾身の握りこぶし相手の顏にぶつける。
鈍い音と共に相手が崩れる。同時に自分も地に崩れた。
立て
自分の体に命じた。しかし体は動かない。
体が限界が来ていた。
「まったく、情けない」
届かない。あと数歩で届いた。倒すべき敵が。
「なぜ、戦う?」
さっきの問いの声が足音と共に聞こえた。
「決まっている。あそこには大事な物が沢山あるからそれを守る為に戦っている」
「幻想郷という場所にか?」
「そうだ。お前たち人の住んでる世にはないものが幻想郷にはある」
自分の手が自然と地面の土を力強く握っていた。
「あるもの。私の夫の源頼朝の弟の源義経の子と巴御前の為か?」
「そうだ」
ゆっくりと自分の体を起き上げる。目の前には北条政子がいた。
「バカ弟子の牛若の師匠である私があの二人を守るのは当たり前でないか?」
「そうか、当たり前か」
北条政子は考える顏をした。その時に空から何かが舞い降りた。
「烏天狗?」
羽を生やした山伏姿の者が北条政子の横に降りて耳打ちを始めた。耳打ちをしてる最中に北条政子の顏が微かに変わる。
「そうか、ありがとう」
北条政子はに言うと羽を生やした山伏姿の者は舞い上がり空に消えた。
「物の怪よ、少し驚いてるらしいな。あの者は『風魔』といい関東に住み着いてる烏天狗。その烏天狗はお主とってはいい知らせを持ってきた」
北条政子は一息ついて、
「巴御前が源頼朝の首を取った。お主らの勝ちだ」
「勝った......」
その言葉には実感はない。
「それと同時にお主個人は悪い知らせかもしれん。その巴御前はその場で倒れた。そう、長くないと見られてる」
「......」
自分の中に何かが崩れかかる。
「......傷の手当が必要だな」
「え?」
北条政子の言葉に理解ができなかった。
「陰陽師共から物の怪の傷薬を貰え」
北条政子は大きな声を上げて支持する。
「なぜ?」
北条政子の行動が理解できないままである。
「巴御前。義経の子。そしてお主。それを見ると羨ましく思えてきた」
「羨ましい?」
数名の陰陽師たちが近寄ってきて傷にお札を貼り治療を始める。
「私には夫の頼朝には最初の子がいた。しかし平家の力を恐れてその子を殺めた」
「......」
「そして、巴御前が大切に育てた源義仲の子・義高を我が子の娘と婚約する形で人質と取り、源義仲と対立するとまた殺めた。そして今度は源義経の子の霊夢に復讐されるのを恐れて幻想郷に攻めて撃ち滅ぼそうとした」
「霊夢に復讐するのを怖いから攻めたと」
私の言葉に北条政子は頷く。
「そのために多くの人が......」
アホらしい
それが頭によぎる。そのために多くの人たちが血を流した。
「下らんと思うだろ。たかがそのために多くの者が血を流すことが」
「ああ、アホらしい」
「しかし、それがこの人の世では政事である」
「政事?」
「頼朝が幻想郷を攻めて滅ぼせば、この日ノ本は完全に統一にする。頼朝は討たれれば、北条家がこの日ノ本の政事をする」
北条政子が言ってることが理解できなかった。
「すべては政事の為にと」
「そうだ。すべてはこの日ノ本のために頼朝の個人的な感情の行動を利用する」
悪寒が走った。
「すべてはこの日ノ本だけということの道具か」
「そうだ。それが人の政事。物の怪よ、人の政事は残酷で非情だぞ」
「知ってる」
その残酷で非情な政事でバカ弟子は死んだ。
「人とは本当に愚かな生き物だ」
「そうだ。物の怪。人は物の怪より恐ろしい。政事の為なら自分の子すらも殺める」
陰陽師達の札のお陰で傷は癒え、体力は回復した。
「さあ、これからどうする、物の怪? 私の首を取るか?」
北条政子は挑発的な言葉を言う。
「お前の首などもういらない。私はこれからやることある」
「そうだな」
私は起き上がる。北条政子と私の目が合う。
「幻想郷の主に伝えろ。もう攻め込む理由はない。和議の準備を行うと」
「ああ、紫に伝える。もう幻想郷を壊す者は来ないと」
私は羽を広げる。
「物の怪よ。この戦いで夫の頼朝が討たれたのは油断だと考える。しかし母の立場で考えればこの戦いは残酷で非情な政事が巴御前が義経の子である霊夢に対する愛情に負けたと信じている」
「私も師匠の立場としてそう思う」
お互いに少しだけ口元が崩れた。
羽をはばたかせる。
戦は終わった。とにかく親友であり幻想郷を共に守った戦友の巴御前に会うために。