此処は彼岸、あたいは死神。
今日は三途をもう五往復もした。十分だろう。
広がる一面の紅を背に倒れこむ。
視界の端に移る赤色が澄んだ秋空を一段と彩る。
至福の時、一人だけの休憩時間。
今日もあのお方は来るだろう。
そんな事を思いながら、
秋風に誘われるように意識はフェードアウトしていく。
ああ、早く来ないものか。
――――――――――――――――――――
毎度毎度の事だがいい加減にしてほしい。
今日、裁判に来た魂は五つばかり。
もっと言えば、昨日も一週間前も一か月前も、それ以前も。
いつもの様に彼岸の紅をかき分けていくとなまけもの。
もとい、死神が寝ていた。
無性に苛々、毎日毎日、そろそろ嫌がらせの域ですよ?小町。
「小町ぃっ!」
「きゃんっ!」
額に向けて卒塔婆をフルスイング。鬱憤……ではなくてこれも部下を想っての事。
爽快、そうか……いえ、これも愛のムチ。
「小町、あなたという人は……」
いつもの様にお得意の説法。念仏で無いのだから馬の耳にも届く筈ですが。
「はいはい、わかりましたって」
「はい、は一度で結構です」
小町の二つ返事。今日限りの更生。
そして、人懐っこい笑顔。
ああ…もう、可愛いんですから……。
思わず私も笑みぐらいは返してしまいます。
そして、嫌々ながらも三途の川へと戻ってゆく部下を見送る。
何日こんなやり取りを続けるのだろうか?
悪い気はしないが無性に疲れる。
「全く……やる時はやるのだから。もう少し頑張って欲しいものです……」
何度呟いた事か、ため息をひとつ漏らしては私も持ち場へと戻っていく。
願わくば沢山の魂が来ることを祈って。
――――――――――――――――――――
「あたた……本当に容赦がないお方だ」
所変わって船の上。
クビになっていないのが不思議なくらいだが、赤くなった額をさすりながら一言。
それでもいつもの事でかなり耐性は付いたほうだ。
初めて叩かれた時は目から星が出た、いや、本当に。
それにしても……
四季様は可愛いお方だ。
最後に見せる、困った様な笑顔。
怒られたという事実を忘れそうになる。
あんなに小さいお方にあんな笑顔を見せられたら、頑張るしかないでしょうに。
誰にでも説法といて、それで何事も解決できると思っている。
閻魔であることに誇りを持った、持ちすぎた甘いお方。
責任を持った、役割を理解しすぎたあたいの上司。
その小さな両手で全ての不条理をなくそうとする、全てに救いを与えんとする。
そんな、放っておけない困ったお方。
四季様のそんな可愛いところが好きだ。
そんな四季様だからあたいは死神なんだ。
いつも側で守ってあげたい。面倒なことは沢山あるけども。
四季様が好きなんだろう。どの意味で、なんてわからないけども。
「おっと、また四季様に怒られる。
こぶだけは作りたくないからね。さ、乗った、乗った」
新しい魂が来た、あんまりのんびりはしていられない様だ。
ふわふわとした魂が船に乗るとあたいはゆっくりと船を漕ぎ始めた。
―――――――――――――――――――
「お疲れ様、小町。
最初からこれくらい働いてくれれば私から言う事は無いのですよ?」
いつもの様に説法の後からは魂が大量に。
なだれ込むような勢い……は言いすぎですが、
それでも小町は頑張ってくれているようです。
上司として当然の様に労いの言葉を投げかけると
「あたいはいつも言ってるじゃないですか、やる時はやるって。
ただ、あんまり気を入れすぎると疲れるんですよ、死者相手の仕事ですし」
いつもの言葉。言い訳なのか本気なのか白黒付かない言葉。
そして笑顔。怒る気になれない、ずるいです。
でも今日こそは言いましょう。せっかく許可も下りたのですから。
「小町、明日から巡業の旅に出ますよ。
あなたにはもっと気を引き締めて貰わなければ」
「え、四季様と旅行ですか?はずかし――きゃん!」
今日二度目の卒塔婆フルスイング。こぶでも作っておきなさい。
「明日は十時には出発しますから、遅れないように」
これでもかと笑顔を作ってやる、ああスッキ……いえ、反省なさい。
頭を押さえている死神を尻目に私は帰路へと付いた。
――――――――――――――――――――
「小町、明日から巡業の旅に出ますよ。
あなたにはもっと気を引き締めて貰わなければ」
四季様の言葉がまだ耳に残っている。
頭の痛みのせいかもしれないが衝撃的だった。
だって、四季様と二人旅、これが旅行以外の何なのだ。
上から叩かれたはずなのに、あたいの心は飛びまわっていた。
ひょっとして目覚めてしまったのだろうかと我ながら心配になってきた。
それにしても最後の笑顔。
……可愛らしいです、四季様。
――――――――――――――――――――
「四季様~、お待たせしてすみません」
「遅いですよ、小町。時間は守りなさいと言っているでしょう?」
朝一から四季様からの注意を受けてしまった。
あたいの期待と同様に膨らんでしまった荷物に足をとられ、出発時刻に遅れてしまったからだ。
何とも情けない。
「全く……小町、昨晩はよく眠れましたか?」
少し不機嫌そうなもののいつもの四季様ではあるようだ。
「えっ、ええ…まあ」
いきなりの質問にびっくりして、反射的にウソをついてしまった。
昨晩はなんだか寝付けなかったのだ。
決して妄想に必死で眠れなかった訳では無い。決して。
「そうですか、それならば良かった。旅先では何があるか分かりませんからね。
体調が良いに越した事はありませんよ?」
ふう……何も心配はいらなかったようだ。と言うか何であたいは焦ったんだろう?
落ち着きを取り戻すと、一つ気になった事を尋ねてみた。
「で、四季様。何処を回ってみるつもりです?」
「ずいぶん意欲的ですね、小町。博麗神社から地底まで、幻想郷を隅から隅まで。
と、言ったところですね。各々に言っておきたい事も山ほどありますしね。」
つまり、説教しに行くんですか?四季様。
途端に心配になってきた……、余計なトラブルが起こらないと良いですけど。
「さて、日の落ちないうちに行ける所まで行きましょう。
……そうですね……無名の丘あたりからが良いでしょうか。」
あの人形のテリトリーか…苦手なんだよなぁ。
あたいはため息ひとつ。何だか面倒なことが起きそうだ。
と、言っても放っておけない。しっかりしてるのに危なっかしいお方だから。
ふと、見れば四季様の姿は数秒前より小さく見える。
「四季様~、待ってくださいってば~っ!」
あたいはだんだん遠くなる姿を走って追いかける。
こうして、閻魔と死神は無名の丘を目指すこととなった。
―――――――――――――――――――
所変わって鈴蘭畑。
陰鬱な空気にあたいは息が詰まりそうになる。やっぱり合わない。
「四季様~……早く次に行ってしまいましょうよ?」
「小町、もう少し張り切ってみませんか?
折角の巡業です、何かを得る機会になると思いますが?」
裁判長に聞く耳は期待できない……か。当り前だろうけど。
まあ、さっさと終わらせて四季様と一杯洒落込みますか。
「あはは……それはまた別の機会に……って、
四季様、居ましたよ、あの人形でしたよね?」
鈴蘭の花弁がわしゃわしゃと音を立てて舞い上がる。
あっちもあたい達に気付いたみたいだ、こちらにゆっくりと歩いてくる。
さっそく出てきたが、ま……大丈夫だろう。
歩いて来た人形は一定の距離をとって、四季様の前に立ち止まった。
「来ましたか、メディスン・メランコリー。
最近人里に訪れては人間を襲っているとか、いったい何故です?」
四季様、凛とした視線を送り、人形を問い詰める。
って……え?人間を?
嫌な予感しかしないが、四季様、慎重に――
「だって、人間達が私たち人形を支配しているんだもん。
みんなを助けるのに少しスーさんの力を借りただけよ。」
おいおい……そんな言い方は――
「人形解放ですか……、それにしてもやり方が野蛮だ。
そう、貴女は世界を知らなすぎる。無知故の粛清は暴力と変わらない。」
四季様、落ち着きましょうよ……相手は――
「偉そうなこと言わないで。このままじゃ皆が可哀そうだもん!」
「方法を変えなさいと言っているだけです、このままでは暴漢と大差ありません。
まず、世界の仕組みを知りなさい。」
「勝手なこと言わないで!やっぱりヒトなんて……
みんな嫌い、みんな嫌い、みんな嫌いっ!」
突如巻き上がる紫の粉塵、毒々しく禍々しい空気。
ほら、言わんこっちゃない。
咄嗟にあたいは四季様を突き飛ばす。あたいは見る見るうちに紫に覆われた。
「あ……っ―――」
体に沢山の針が刺さるような痛み。
人形は……?……逃げたのか……。
四肢の感覚が無くなっていく、それに何だか寒い。
もう立っていられない、立ち上がれない。
「――まちっ……小町っ…!」
四季様、泣いてるんですか?
閻魔でしょうに……もっと冷静に……。
まぁ、良いか。少し冷たいけど……。
やっぱり可愛いお方だ。
すみません……四季様。
少しだけ……少しだけ……眠らせて……。
今日は三途をもう五往復もした。十分だろう。
広がる一面の紅を背に倒れこむ。
視界の端に移る赤色が澄んだ秋空を一段と彩る。
至福の時、一人だけの休憩時間。
今日もあのお方は来るだろう。
そんな事を思いながら、
秋風に誘われるように意識はフェードアウトしていく。
ああ、早く来ないものか。
――――――――――――――――――――
毎度毎度の事だがいい加減にしてほしい。
今日、裁判に来た魂は五つばかり。
もっと言えば、昨日も一週間前も一か月前も、それ以前も。
いつもの様に彼岸の紅をかき分けていくとなまけもの。
もとい、死神が寝ていた。
無性に苛々、毎日毎日、そろそろ嫌がらせの域ですよ?小町。
「小町ぃっ!」
「きゃんっ!」
額に向けて卒塔婆をフルスイング。鬱憤……ではなくてこれも部下を想っての事。
爽快、そうか……いえ、これも愛のムチ。
「小町、あなたという人は……」
いつもの様にお得意の説法。念仏で無いのだから馬の耳にも届く筈ですが。
「はいはい、わかりましたって」
「はい、は一度で結構です」
小町の二つ返事。今日限りの更生。
そして、人懐っこい笑顔。
ああ…もう、可愛いんですから……。
思わず私も笑みぐらいは返してしまいます。
そして、嫌々ながらも三途の川へと戻ってゆく部下を見送る。
何日こんなやり取りを続けるのだろうか?
悪い気はしないが無性に疲れる。
「全く……やる時はやるのだから。もう少し頑張って欲しいものです……」
何度呟いた事か、ため息をひとつ漏らしては私も持ち場へと戻っていく。
願わくば沢山の魂が来ることを祈って。
――――――――――――――――――――
「あたた……本当に容赦がないお方だ」
所変わって船の上。
クビになっていないのが不思議なくらいだが、赤くなった額をさすりながら一言。
それでもいつもの事でかなり耐性は付いたほうだ。
初めて叩かれた時は目から星が出た、いや、本当に。
それにしても……
四季様は可愛いお方だ。
最後に見せる、困った様な笑顔。
怒られたという事実を忘れそうになる。
あんなに小さいお方にあんな笑顔を見せられたら、頑張るしかないでしょうに。
誰にでも説法といて、それで何事も解決できると思っている。
閻魔であることに誇りを持った、持ちすぎた甘いお方。
責任を持った、役割を理解しすぎたあたいの上司。
その小さな両手で全ての不条理をなくそうとする、全てに救いを与えんとする。
そんな、放っておけない困ったお方。
四季様のそんな可愛いところが好きだ。
そんな四季様だからあたいは死神なんだ。
いつも側で守ってあげたい。面倒なことは沢山あるけども。
四季様が好きなんだろう。どの意味で、なんてわからないけども。
「おっと、また四季様に怒られる。
こぶだけは作りたくないからね。さ、乗った、乗った」
新しい魂が来た、あんまりのんびりはしていられない様だ。
ふわふわとした魂が船に乗るとあたいはゆっくりと船を漕ぎ始めた。
―――――――――――――――――――
「お疲れ様、小町。
最初からこれくらい働いてくれれば私から言う事は無いのですよ?」
いつもの様に説法の後からは魂が大量に。
なだれ込むような勢い……は言いすぎですが、
それでも小町は頑張ってくれているようです。
上司として当然の様に労いの言葉を投げかけると
「あたいはいつも言ってるじゃないですか、やる時はやるって。
ただ、あんまり気を入れすぎると疲れるんですよ、死者相手の仕事ですし」
いつもの言葉。言い訳なのか本気なのか白黒付かない言葉。
そして笑顔。怒る気になれない、ずるいです。
でも今日こそは言いましょう。せっかく許可も下りたのですから。
「小町、明日から巡業の旅に出ますよ。
あなたにはもっと気を引き締めて貰わなければ」
「え、四季様と旅行ですか?はずかし――きゃん!」
今日二度目の卒塔婆フルスイング。こぶでも作っておきなさい。
「明日は十時には出発しますから、遅れないように」
これでもかと笑顔を作ってやる、ああスッキ……いえ、反省なさい。
頭を押さえている死神を尻目に私は帰路へと付いた。
――――――――――――――――――――
「小町、明日から巡業の旅に出ますよ。
あなたにはもっと気を引き締めて貰わなければ」
四季様の言葉がまだ耳に残っている。
頭の痛みのせいかもしれないが衝撃的だった。
だって、四季様と二人旅、これが旅行以外の何なのだ。
上から叩かれたはずなのに、あたいの心は飛びまわっていた。
ひょっとして目覚めてしまったのだろうかと我ながら心配になってきた。
それにしても最後の笑顔。
……可愛らしいです、四季様。
――――――――――――――――――――
「四季様~、お待たせしてすみません」
「遅いですよ、小町。時間は守りなさいと言っているでしょう?」
朝一から四季様からの注意を受けてしまった。
あたいの期待と同様に膨らんでしまった荷物に足をとられ、出発時刻に遅れてしまったからだ。
何とも情けない。
「全く……小町、昨晩はよく眠れましたか?」
少し不機嫌そうなもののいつもの四季様ではあるようだ。
「えっ、ええ…まあ」
いきなりの質問にびっくりして、反射的にウソをついてしまった。
昨晩はなんだか寝付けなかったのだ。
決して妄想に必死で眠れなかった訳では無い。決して。
「そうですか、それならば良かった。旅先では何があるか分かりませんからね。
体調が良いに越した事はありませんよ?」
ふう……何も心配はいらなかったようだ。と言うか何であたいは焦ったんだろう?
落ち着きを取り戻すと、一つ気になった事を尋ねてみた。
「で、四季様。何処を回ってみるつもりです?」
「ずいぶん意欲的ですね、小町。博麗神社から地底まで、幻想郷を隅から隅まで。
と、言ったところですね。各々に言っておきたい事も山ほどありますしね。」
つまり、説教しに行くんですか?四季様。
途端に心配になってきた……、余計なトラブルが起こらないと良いですけど。
「さて、日の落ちないうちに行ける所まで行きましょう。
……そうですね……無名の丘あたりからが良いでしょうか。」
あの人形のテリトリーか…苦手なんだよなぁ。
あたいはため息ひとつ。何だか面倒なことが起きそうだ。
と、言っても放っておけない。しっかりしてるのに危なっかしいお方だから。
ふと、見れば四季様の姿は数秒前より小さく見える。
「四季様~、待ってくださいってば~っ!」
あたいはだんだん遠くなる姿を走って追いかける。
こうして、閻魔と死神は無名の丘を目指すこととなった。
―――――――――――――――――――
所変わって鈴蘭畑。
陰鬱な空気にあたいは息が詰まりそうになる。やっぱり合わない。
「四季様~……早く次に行ってしまいましょうよ?」
「小町、もう少し張り切ってみませんか?
折角の巡業です、何かを得る機会になると思いますが?」
裁判長に聞く耳は期待できない……か。当り前だろうけど。
まあ、さっさと終わらせて四季様と一杯洒落込みますか。
「あはは……それはまた別の機会に……って、
四季様、居ましたよ、あの人形でしたよね?」
鈴蘭の花弁がわしゃわしゃと音を立てて舞い上がる。
あっちもあたい達に気付いたみたいだ、こちらにゆっくりと歩いてくる。
さっそく出てきたが、ま……大丈夫だろう。
歩いて来た人形は一定の距離をとって、四季様の前に立ち止まった。
「来ましたか、メディスン・メランコリー。
最近人里に訪れては人間を襲っているとか、いったい何故です?」
四季様、凛とした視線を送り、人形を問い詰める。
って……え?人間を?
嫌な予感しかしないが、四季様、慎重に――
「だって、人間達が私たち人形を支配しているんだもん。
みんなを助けるのに少しスーさんの力を借りただけよ。」
おいおい……そんな言い方は――
「人形解放ですか……、それにしてもやり方が野蛮だ。
そう、貴女は世界を知らなすぎる。無知故の粛清は暴力と変わらない。」
四季様、落ち着きましょうよ……相手は――
「偉そうなこと言わないで。このままじゃ皆が可哀そうだもん!」
「方法を変えなさいと言っているだけです、このままでは暴漢と大差ありません。
まず、世界の仕組みを知りなさい。」
「勝手なこと言わないで!やっぱりヒトなんて……
みんな嫌い、みんな嫌い、みんな嫌いっ!」
突如巻き上がる紫の粉塵、毒々しく禍々しい空気。
ほら、言わんこっちゃない。
咄嗟にあたいは四季様を突き飛ばす。あたいは見る見るうちに紫に覆われた。
「あ……っ―――」
体に沢山の針が刺さるような痛み。
人形は……?……逃げたのか……。
四肢の感覚が無くなっていく、それに何だか寒い。
もう立っていられない、立ち上がれない。
「――まちっ……小町っ…!」
四季様、泣いてるんですか?
閻魔でしょうに……もっと冷静に……。
まぁ、良いか。少し冷たいけど……。
やっぱり可愛いお方だ。
すみません……四季様。
少しだけ……少しだけ……眠らせて……。
続きに期待
えーき様が可愛いのはもはや太陽が光輝くくらい当たり前なのです。宇宙の神秘かつ真理なのです。
タイトルに(前編)て書いてあるやんorz
勘違いすんませんしたぁぁ!!