「真の支配者とはその名ですべてを体現するわ。我が名はレミリア・スカーレット、しかしエキゾチックなもうひとつの私の名は―――残響死滅(エコー・オブ・デス)よ!!」
ここは紅魔館のとある応接間、そこで朗々と香ばしい匂いのする名前を宣言したのは、無論ながらこの館の主である。
その名を聞いた新聞記者はキョトンと目を丸くし、瀟洒なメイドはガンッと後頭部を壁で強打し、悪魔の妹は飲んでいた紅茶を噴出した。
未だに硬直する新聞記者こと姫海棠はたて。なんでもない風を装いながら頭から噴水のごとく血を噴出すメイドこと十六夜咲夜。そして気道に入ったか噎せ返る悪魔の妹ことフランドール・スカーレット。
そのなかなかにアレな惨状に気が付いているのやらいないのやら、レミリアはクックックッとカリスマたっぷりに笑うが先ほどの台詞のせいですべて台無しだった。
「お嬢様ー、頼んでた漫画が届いてますよー?」
「ありがとう小悪魔、そこにおいておきなさい。あと、今の私は残響死滅姉様だから」
ピタリと、小悪魔が彼女の言葉の硬直する。
するとどうだろう。錆びて軋んだドアのごとく、ギギギギィなんて音が鳴りそうな仕草で、彼女はレミリアに視線を向けた。
その目はコレでもかって言うほどかっぴらき、冷や汗をだらだら流しつつ、今にも「あいたたたたたたー」とでも口走―――
「あいたたたたたたー」
訂正、戸惑うことも無く口走りやがったのである。
「小悪魔、それどういう意味かしら?」
「いやー、だってお嬢様、いくら普段からアレな私でもさすがにその名前はちょっとどうかと……」
自覚あんのかよ、とフランが心の中でひとつツッコミを入れた。
口にしないのは未だに咽ててそれどころじゃないからである。
一方、そんなダイレクトな感想を言葉にされても、レミリアはというと鼻で笑っただけで不機嫌にはならず、むしろ不敵な笑顔を浮かべるのみ。
「ふふふ、矮小な存在のあなたでは私のこの名の崇高さが理解さえ出来ないようね」
「お嬢様、やめましょう。今はいいかもしれませんけど、数年後にこのことを思い出したら悶え死にますよ。経験者が言うんですから間違いありません」
しかも経験者かよ。今度はフランだけでなく、咲夜も心の中でツッコミを入れる。
咲夜が口に出さなかったのは出血多量で意識が朦朧としてきたからである。
さてさて、そんなことよりも問題は先ほどからポカンとしてる鴉天狗の方だ。
落ち着いたフランがチラリと彼女に視線を向ければ、案の定意識がフリーズならぬザ・ワールドしてるはたての姿。
どこぞのパパラッチとは違い、多少まともそうだったから第一印象を良くしようとレミリアが意気込んだのが運のつき。
トンでもねえ方向にフルスロットルのマッハで駆け抜けていきやがった結果がコレである。フランは内心で頭を抱えて、そして天井を仰いだその時。
「か、カッコいい!!」
『え゛!!?』
まさかの新聞記者から肯定の言葉が帰ってきやがったのである。
レミリア以外の三人が信じられないといった風の声をこぼしたのも無理はあるまい。
からかっているのではないかと思って彼女に視線を向ければ、目をキラキラと輝かせてレミリアに羨望の眼差しを向けるはたての姿。
そして、皆が悟る。やばい、この新聞記者マジだと。
その言葉に、もちろんのことながらレミリアは満足そうに何度も頷き、それからクックックッと笑みを浮かべて彼女に歩み寄った。
威厳たっぷりに、堂々と振舞うその姿はまさしく夜の怪物そのもの。変なところで無駄にたっぷりなカリスマが、普段どうして出てこないのか不思議でたまらない。
「お前は見る目があるね、姫海棠はたて。いいよ、気に入った。お前からの取材なら、私は喜んで受けてやろう」
「やった!! ありがとうレミリア……いえ、残響死滅姉様!! あなたのその名、必ず幻想郷全土に広めて見せるわ!!」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!? 駄目、それだけは絶ッ対に駄目!!」
なんだかまずい方向に話が流れていこうとしたところで、さすがにフランがとめに入った。
何しろ、残響死滅姉様などという激しく香る厨二の匂いがプンプンするその名が、幻想郷全土に知れ渡る可能性があるのである。
そうなったら間違いなく、フランは家出する。多分、美鈴つれて魔理沙の家あたりに居候をはじめるに違いない。
そんな妹の切実な願いを微塵たりとも理解しちゃいねぇこの姉は、優しい笑顔で妹に語りかける。
「ふふ、初心な子ねフランは。あなたも残響死滅姉様と呼んでいいのよ?」
「断固拒否するわ!! お姉様も考え直してよ、そんなアレな名前のお姉様の名なんて呼びたくないわ!!」
「……どうしても、呼んでくれないのね」
「当たり前でしょ!!」
全力で拒絶したフランの言葉を受けて、レミリアは悲しそうな表情を見せて「そう」と小さく呟く。
事の成り行きを見守る室内は静寂に満ちて、聞こえてくるのは倒れたメイド長の虫の息のみ。
やがて、レミリアはニヒルに笑って朗々と宣言する。
「ならば、私を打ち倒しなさいフラン。私の屍を超えて、残響死滅の名を永遠に封じて見せなさい!!」
「OK、わかった」
惚れ惚れするぐらいの即答だった。
あんまりきっぱりと即答したもんだったから、言いだしっぺのレミリアが思わず「へ?」と間の抜けた声をこぼすぐらいに。
そんな彼女を見ることも無く、もくもくとアップを始めるフラン。そして小悪魔がどこからとも無くラジカセを取り出してスイッチを入れる。
流れたBGMはお馴染み「U.N.オーエンは彼女なのか?」……ではなく「明鏡○水 されどこの拳○烈火の如く」だったりする。
そしてそのBGMに合わせて、フランの持っていた歪な杖に焔が灯る。それはやがて轟々と燃え盛る業火の剣となり、この部屋はあっという間に灼熱の地獄へと移り変わった。
レミリアはその妹の姿を見て、素直に思う。
「やべぇ、勝てる気がしねぇ」
ついでに思ったことがそのまま口について出てた。
「ちょ、ちょっと待ってフラン!! そこは『そんな、お姉様を倒すことなんか出来ないわ!』っていう場面じゃないの!!?」
「心配要らないわお姉様、私のレーヴァテインでその壊滅的なネーミングセンスを叩きなおしてあげるわ。文字通りにね」
「まぁ、壊れたものは叩くと直るといいますしねぇ」
「小悪魔ぁぁぁ!! それは機械の直し方だから!? お願いだからフランをとめて!!?」
「あはは、嫌ですねぇお嬢様。私のような矮小な生き物が、妹様を止めれるはず無いじゃないですかぁもぉ~♪」
「うわぁい、すっげぇ根に持ってるあの子!!?」
まさかの四面楚歌状態である。しかし、自分が言いだしっぺである以上、ここで逃げるという選択肢は選べない。
現に、先ほどのやり取りが聞こえていなかったのか、業火に包まれた室内でワクワクと希望に目を輝かせる姫海棠はたて。素直すぎる性格というのも考え物である。
彼女を映していた視線を、再び自身の妹に向ける。すると、そこには『デデデンデンデデ デデデンデンデデ デデン!』というBGMと共にレーヴァテインをフルスイングする妹の姿。
まるでバッティング練習かの如く、しかしそのスイングで肺が焼けそうな熱風が部屋中を駆け巡るデンジャラス具合。
うん、無理。絶対に無理。出来ることなら今すぐ土下座して「勘弁してください」といいたいくらいに無理。
しかし、だがしかし、悲しいけどレミリアはこの館の当主でありカリスマなのである。残響死滅姉様なのである。引くわけにはいかない矜持があった。
覚悟は―――決まった!
「行くわよフラン!! 私の屍を超えて生きなさい!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
レミリアは駆ける。自らの矜持と意地と誇りを賭けて!
視界を焼き尽くすかのような灼熱地獄の中、一条の紅い閃光が地獄の中を突き抜けて―――
結果は、惚れ惚れするぐらいの場外ホームランだった。マル。
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後日、花果子念報という見慣れない新聞が幻想郷中に配られる。
その見出しは「スカーレット姉妹改め残響死滅姉妹!?」だったとか。
その新聞が配られたその晩、妖怪の山で怒りに狂った吸血鬼の妹が大暴れしたが、それはまた別のお話である。
>後書
ぶっちゃけ、アニメの方は見てないです。
原作者もあのネタ気にいってるっぽいですww
そしてはたてが中学生すぎるwいいぞ!もっとやれ!